ダークマター捕獲マニュアル

ダークマター(暗黒物質)を検出するため神岡につくられたXMASS実験が、すこしニュースで話題になっていたので、現在わかっていることと、それを捕まえる方法などについて簡単に概説してみる

銀河を満たす重たい幽霊

ダークマターは宇宙を満たす見えない物質だ。銀河の体重がそれを構成する星や星間ガスをすべて足したものよりはるかに重いことから、どうやら光学迷彩しているやつらがいるようだということで発見された。

我々の天の川銀河についていうなら、見える天体を全て足しても2000億太陽質量にしかならないが、天の川銀河は1兆太陽質量に達する。差分の8000億太陽質量はほぼすべてダークマターだ。重力力学秩序という観点からみるなら、ダークマターこそが我々の太陽系における太陽であり、星々はその巨大な重力ポテンシャルのなかを公転する惑星といえる。

ダークマター塊の大きさは見える部分の銀河の大きさを凌駕する。そして質量と重力の大部分を担っている。

幽霊の正体、私たちの世界の物質ではない何か

ダークマターは通常の物質とは根本的に異なる存在だと考えられている。宇宙の元素合成の研究は、この世界の通常物質総量に強い条件を課している一方、この世界の物質(ダークマター含む)の観測値はそれよりはるかに大きい。

それはほとんど重力のみで私たちの世界と繋がっている幽霊のような存在だ。それは世界を満たしている。よく用いられるモデルだと1リットルの空間につき1粒ぐらいダークマターがいる。部屋の中、地底、宇宙空間、それは銀河系内のあらゆるところに存在し、あらゆるものをすり抜ける。質量は原子量にして1000ぐらいで、秒速200kmぐらいで飛び回っている。これはダークマター粒子が銀河系を公転するスピードだ。

私個人は、ダークマターの正体を「ニュートラリーノじゃねーの?」と安直に考えているが、こればかりは今後の観測次第といえる。ニュートラリーノ(ニュートリノじゃないよ)の説明は省略。

幽霊を測る:ダークマター間接測定

ダークマターの量や分布を観測するにはいくつかの方法が知られている。例えば時空のゆがみによる重力レンズ効果を解析することで、銀河団や数億光年といった大きなスケールのダークマター分布を測定することができる。重力レンズ効果はMACHOの探査にも有効だ。

また、ダークマターの強大な重力に捕らえられた高温のガスを観測することで、銀河や銀河団を包むダークマターハローを観測することができる。銀河の回転曲線によっても間接的にダークマターの量を見積もることができる。

幽霊を捕まえる:ダークマター直接測定

ダークマターの直接検出のための実験は世界中で行われているが、典型的には次のような実験がある。

ダークマターは基本的に銀河系の公転速度(〜200km/s)で飛び回っている。彼らは基本的に無衝突粒子で何でもすりぬけるのだが、ダークマター候補によっては、非常に弱い相互作用をこの世界の物質と行うものがある。

で、非常に稀に原子核と衝突して弾き飛ばすことがある。傍から見ていると、何もしていないのに突然原子が秒速200kmぐらいで吹っ飛ばされる異常事態が観測される。この時の飛ばされ方を解析してやることで、ダークマター粒子の質量や反応率を測定してやることができる。

ただ、ダークマターの反応率は非常に小さいのでノイズと区別するには非常な工夫が必要になる。巨大なタンクの中で月にたった1個の原子が弾かれてすぐに周囲の原子と衝突してエネルギーを失う、そんな世界だ。

ダークマターを作る:加速器実験

おまけだけど、運がよければ今度動く加速器で生成可能といわれている。

ブラックホールが出来るよりは可能性が高い。

(参考)宇宙のエネルギー組成

お約束の図、この宇宙はダークエナジーが73%、ダークマターが23%、通常物質が4%、物質のうち星などに使われているのはわずかで、のこりのダークバリオンは銀河団を包む高温ガスや、銀河間に薄く存在していると推測されている。