(25.12.29) 浜矩子氏の「円安の幻想」と安倍内閣の金融政策
(ちはら台走友会のお礼参りRUN 平山薬師)
浜矩子氏と言えば私が最も好きな経済学者の一人で、その文章は経済学者とは思われないほど諧謔に富み文学的だ。
その浜矩子氏がPHPビジネス親書で「円安幻想 ドルにふりまわされないために」という本を最近出版した。
私はさっそく買い込んで読んでみたが、基本的スタンスはアベノミクス批判でその経済政策は豊かな経済力を持っている日本にはふさわしくないというものだった。
このスタンスは私と同じで大いに共感するところがある。
注)なおNHKが一年前に行ったアベノミクス批判の番組があって、それをブログ記事にしてある。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/241225-nhk-82f9.html
私は安倍首相の外交政策は非常に高く評価しており、特に中国を封じ込めるためのアセアン外交などは目を見張るほどの手際の良さで思わず「イヨー、大統領、いや、首相!!」と声をかけたくなるぐらいだが、アベノミクスという経済政策は単なる通貨膨張策に過ぎない。
この通貨膨張策はアメリカやEUや中国がリーマンショック後大々的に採用していたのだが、日本では日本銀行の白川前総裁がこの通貨膨張策に反対していたため、安倍政権が誕生するまでは採用できなかった。
安倍首相は白川氏の首を切り、通貨膨張論者の黒田氏を採用して物価が毎年2%上昇するまで通貨を供給することにした。
もっとも通貨を供給するとしても一定の手続きが必要で、ロシアのエリツィンがしたように印刷した紙幣をそのままばらまくわけにはいかない。
日本では国債を金融機関に購入させその国債をさらに日銀が購入することで市中に円資金をばらまいている。
途中に金融機関を挟んでいるが、実質的に日銀が国債を購入していると思えばいい。
こうして円の価値を低めることで円安は1ドル80円前後から今は105円まで上昇した(価値は減価した)。25%程度円安に持ち込んだのだから輸入物価は高騰して物価も1%前後の上昇を始めている。
株価は1万6000円台と6年ぶりの高水準になり、有効求人倍率は1.0近くになり、製造業者の顔はホクホク顔だ。
注)ただし貿易収支は赤字が続いている。輸出産業が息を吹き返すのには時間がいるが、一方原油等の輸入代金はすぐに跳ね返ってくる。
また日本の株式市場はヘッジファンドのカモになっていて、上昇と下降が実に激しい。その辺の事情は以下参照。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2013/05/post-a55f.html
だがしかしこれで暮らしが楽になったかというと全く違う。私のような年金生活者は特にそうで、スーパーに行ってもコンビニでも物価が10円単位で上昇しているのには閉口している。
コンビニのチキンは私の好物の一つなのだが、従来は120円相当だったのがいつのまにか150円前後になってしまった。
おかげでチキンを食べるのをあきらめて、他の安価な食材にしているのだが本当に不満だ。
デフレとインフレのどちらがいいかは立場によって全く異なる。デフレは物の価格が傾向的に下がるのだから生産者にとって地獄、消費者にとって極楽で私のような完全年金生活者はデフレで実に優雅な生活を享受させてもらってきた。
毎年給与が上昇するサラリーマンのような立場だったが、今この歯車が逆転し始めた。
浜矩子氏はこのような通貨膨張策をドーピング経済と名付けているが言いえて妙だ。
日本やEUやアメリカのような先進国経済は本質的に成長が止まる。それはあたりまえで電化製品も衣類も家もその他公的インフラも十分すぎるくらい整っているのだから、せいぜい代替品を購入するだけで新たに物を追加する意欲がわかない。
こうなるとどこの経済も停滞するから無理に成長させるにはドーピングしかない。紙幣を印刷して市中に放出すれば、不用品の価格が上昇する。
不用品の最たるものは株式で次が投資用不動産と相場が決まっているのでこの二つがドーピング経済の効果で上昇する。
株式や不動産を持っている人は自分が金持ちになったと思って、これもまた不要な物、たとえばゴルフの会員権や絵画等を購入し始めるからGDPは確かに増大する。
しかしこの状態で膨らむのは本来不要なものばかりで生活必需品は従来のままだが価格が高くなっているから一般生活者の生活は苦しくなるのだ。
こうしてドーピング経済では紙幣を手に入れられる立場の人の生活は向上し、そうでない人の生活は低下するので、中産階級がいなくなり富の偏在化が進む。
アメリカでも中国でもヨーロッパでもそうなっており、今日本が急速にそうなりつつある。
だから浜矩子氏は言う。「大多数の人が貧困化する経済成長をなぜ望むのですか」。
前にも記載したが資本主義体制はこの無駄の生産を続けない限り体制がもたない。本来はそうした体制が21世紀社会には不適で、有るを足りて満足する社会に変換しなければならないのだが、先進国の為政者はほとんどが成長論者だ。
そして通貨膨張はやりすぎて必然的にリーマンショックのようなパニックを引き起こすが、その傷をいやすために再び通貨膨張策をとる。
何とも不合理極まりないが、こうした不合理に挑戦していたのは日本では白川前日銀総裁だけだったのが実に懐かしい。
21世紀のどこかで人々はこの通貨膨張策の愚を悟るはずだが、そうなるとGDPの時代が終わるから資本主義体制が終焉することにもなる。
注)資本主義体制が終了すると新しい中世が始まるが、それは以下のような世界になる。
http://yamazakijirounew.cocolog-nifty.com/blog/2011/07/post-4a0a.html
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