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(23.9.21) JR北海道社長中島尚俊氏の自殺とJR北海道の苦悩

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 18日
、JR北海道の社長だった中島尚俊氏が小樽沖の海上1km付近で水死体で発見された。
中島尚俊氏は10通の遺書を残して12日から行方不明になり、自家用車が石狩川の海岸近くで見つかっていたので警察で捜索をしていた。
発見時の検視では死後数日経過しており、遺書があったことから自殺だと警察は見ている。

 中島尚俊氏が自殺をする直接の動機は、この5月に起きた勝線トンネルでの特急列車の炎上事故で36名の負傷者を出したことにより国土交通省から業務改善命令を出されたことにあるらしい。
16日がこの業務改善命令の提出日で、それを苦に自殺を図ったものと思われる。
遺書にも「戦線(業務改善命令に対する対応のこと)を離脱することをお詫びします」と記載されていた。

 だがJR北海道が抱えていた問題はこの脱線事故にとどまらない。
そのほかに札幌中央基準監督署から時間外労働の協定違反08年以降810件の超過勤務があった)があったと是正勧告が出されており、これも中島尚俊社長の心を重くしていたはずだ。

 さらにJR北海道には赤字企業としての苦悩があった。
JR北海道の収支構造を見てみると分かるが、営業収入営業支出をまかなうことができず、常に営業利益はマイナスになっている。
このマイナスをカバーするのがさまざまな政府や鉄道運輸機構からの支援で、たとえば経営安定基金6822億円鉄道運輸機構からの無利子の借り入れ2200億円がある。

注)これは元本を使用することはできず、債券等で運用した利息収入だけがJR北海道の営業外収入となる。

 JR北海道は慢性的な赤字会社であり、国や機構の支援なしには経営がなりたたない。
このため経営合理化は必須となり、不採算路線の廃止を積極的に行ってきた。
JR分割時(87年)の21路線、3176kmが現在は14路線、2499kmになって路線もキロ数も大幅に削減されている。特に東部と北部は人口が少ないこともあってローカル線はほとんど廃線になっている。

 しかしそれでも赤字体質は払拭できない。
JR北海道がどうしても赤字から脱却できない原因は、乗客数が毎年減少していることで、これはほとんどの路線についても当てはまる。
たとえば札幌・岩見沢間はドル箱路線の一つだが、乗客数は05年の443万人から09年には411万人と約30万人も減少してしまった。

 J乗客数が減少する理由は北海道の人口そのものが減少していることと(07年569万人 → 20年553万人)と、地方の人口減が激しいことにある。
特に人口の少ない東部や北部ではJR網はなきに等しい。このため地元住民も観光客も自動車による移動に切り替えてしまった。
まるでアメリカの自動車社会と同じで自動車なしに生活できない。

 私は北海道大好き人間の一人でかつJRのファンなのだが、残念ながら北海道の地方の公的交通網の不便さには泣かされてきた。
元々路線も少ないのだが、あっても一日に数本の列車しかこない場所はいくらでもある。幹線でも特急を除けば朝に2本、夕方2本、昼間1本程度だから、小さな駅に降りようものなら4から5時間ぐらいは次の列車を待たなければならない
バスも同様で、こうした場所に住んでいる人は学生や老人を除けば公的交通網を利用することはない。

 地方からは人が居なくなり、北海道全体としても人口が減っているのだからJRの経営基盤は年を追って厳しくなっている。
合理化を進めれば当然人員整理をしなければならず、人員整理は労使問題に発展する。
労使関係はどう見ても協調的とは言えず、その結果石勝線のトンネル火災事故以外にも、信号トラブルの多発や運転手の居眠り運転、列車がドアーを開いたまま発車したり、快速列車と除雪車との衝突事故等数え上げればトラブルがいくらでも出てくる。

 国土交通省が業務改善命令を出さざる得なかったのも、JR北海道の抱えている問題が根が深く、慢性的な赤字経営を現在の経営陣で立て直すことができるかどうかを問いたかったからだ。
87年の分割民営化以降、JR東日本JR東海は日本を代表する優良企業になったが、当時から赤字路線だったJR北海道は経営改善がすすまず、かえって悪化していると言うのが実態だ。

 JR北海道社長中島尚俊氏の苦悩はさぞかし深かったのだろうと同情せざる得ない。
氏は享年64歳だから私とほぼ同じ年で同じ時代を生きたもの同士だし、周囲の評判は「真面目な人」だったと言うから、精神的に追いつめられて自殺を図ったものだと思われる。

 だがJR北海道が抱える経営問題は残されたままで、このままいけばJR北海道の経営基盤は加速度的に悪化し、将来的には基幹部分を残して赤字線は全廃するような事態になるだろう。

 かつて北海道の開拓の歴史は鉄道の歴史でもあった。森進一が歌う「北の蛍」は囚人労働による北海道の鉄道建設を扱った映画の主題歌だが、いま「北の蛍」が舞うべき場所がない。

 

 

 

 

 

 

 

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