電子書籍に向いている漫画、紙媒体に向いている漫画
ようやく。公式で「近日発売」と言っているということは、2013年末くらいには発売するかな!と思ってしまうほどに、キンドルの日本開始時期とドラクエの発売日は信用していないですぼく。さっさと始まってくれることに越したことないですけどね!
電子書籍端末としてのキンドルが発売になることと、電子書籍の販売サービスとしてのキンドルストアが開始することはイコールではありませんし、そのどちらもが日本で始まったとしても「漫画」がその中に入れるかは分からないとも思っているのですが――――
キンドルに限らず「電子書籍」が普及して、そこで普通に「電子書籍の漫画」が発売される未来が来たのなら、漫画はどう変わるんだろう―――を今日は考えます。
突然ですけど、
現在の日本の漫画ビジネスは、長編の「連載漫画」に重点が置かれています。
例えばこれから漫画家を目指すぞって若者A君がいるとします。
まず彼がするのは短編の「読みきり漫画」を描いて出版社の賞に送るとか持ち込みをすることでしょう。『バクマン』でも『G戦場ヘブンズドア』でも『アオイホノオ』でもそうしていましたよね。そして、そこで評価されたら今度は“プロとして”読みきり作品を描くことが多いです。
んでんで、そこで読者に人気が出てようやく「連載漫画」を始める―――というのが超順調なサクセスストーリーです。ここでA君が「いや、僕は読みきりばっか描いていたいんです。連載漫画は別にやりたくないです」って言っちゃことは……まぁそういう人がいないとも限りませんけど、メジャー漫画家にはなっていませんよね
つまり、現在の日本の漫画ビジネスは
「連載漫画」がメインストリームで。「読みきり漫画」は連載にたどり着くための“踏み台”だったり、もう十分にキャリアを重ねた漫画家先生が“単発の仕事”として引き受けたりするもので、「読みきり漫画」は全然メインじゃないんですよね。
※ あ、一応補足。「1話完結のストーリーを毎号掲載している」というのは連載です。
要は「定期掲載しているかどうか」という話です。
「連載漫画がメインストリーム」な理由はたくさんあって。
まず「発表される媒体が雑誌だから」。
雑誌にとって毎号買ってもらうことは大事です。目を引く特集コーナーで新規読者を増やしたとしても、買ってもらうのが1号だけではビジネスが成り立ちません。毎号載っている連載枠があることで定期購読者を維持できるのです。これは漫画以外の雑誌もそうですね。
あとは、「固定ファンを維持しやすいから」というのもありますね。
例えば、単行本の1巻から11巻までがそれぞれ10万部ずつ売れたとします。そうしたら12巻も大体10万部前後売れると予測できますよね。いきなり500部しか売れませんでした、みたいなことは起こりにくいです。多分。
ゲーム業界とかでもそうですよね。前作がこれだけ売れたから続編になる今作はこれだけ売れるだろう、だからこれくらいの予算で作ってくれ―――みたいな。
それと、これが一番言いたいことです。
「本屋さんにはスペースに限りがあるから」
例えば『ワンピース』の最新刊―――が、今どのくらい出ているのか私は知らないので仮に253巻だとします。今週253巻が出るのなら、本屋さんは252巻も251巻も250巻も置きたいものです。「あ、ワンピースの新刊出たんだ!でも、俺249巻までしか読んでないんだよなぁ」って人にまとめて買ってもらえるからです。
「読みきり漫画」をメインにしていくのは難しいという話を書きました。
「読みきり漫画」だけを集めた短編集というものも単行本として発売されていますが、そうした短編集の多くは同じ作家さんが連載している「連載漫画」の単行本と一緒に発売されたり、置かれたり、買われたりするんです。「読みきり漫画」をメインにしたくても「短編集」というのはそれだけ発売してもらうのが大変ですし、置いてもらうのが大変ですし、買ってもらうのも大変なんです。
ということで、現在の漫画ビジネスは「連載漫画」がメインストリームとなっています。
こんな記事を書いている私も、短編集を持っている作家さんって極一部ですし、「じゃあどうしてその人の短編集を買ったの?」と聞かれると「その人の連載漫画が好きだったから」と答えるしかないんです。
でも、恐らく読者としても長編の「連載漫画」よりも短編の「読みきり漫画」が好きな人もいるでしょうし、漫画家さんとしても長編の「連載漫画」よりも短編の「読みきり漫画」が得意な人がいると思うんです。紙媒体しかなかった時代には逃がしてしまっていた読者のニーズと漫画家の才能を、電子書籍では拾えるんじゃないかと期待しているのです。
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『ワンピース』最新刊(まだ67巻までしか出ていなかったのか!)のアフィリンクを貼った直後に言うことではありませんけど……
自分は長く続いている漫画って苦手なんです。
新刊が出ても前の巻までの話を全く覚えていないので、「よし!1巻から読み直そう!」とするのですが、何十巻も出ているといつまで経っても最新刊に追いつかないという。完結した漫画を全巻セットで買って一気に読むのは超楽しいんですけどね。
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こういう人って結構多いんじゃないかなーと思うんです。
連載雑誌を毎号追いかけるのは時間的に辛いし、何十巻も続いている漫画を新たに買うのも決断力がいるし、でも通勤電車の中で気軽に読める短編の「読みきり漫画」とか長編でも1~2巻くらいで完結している「連載漫画」があったら読みたい―――って需要。
そして、“描く側”にとっても大事な話です。
ほとんどの漫画家さんは漫画作品を発表するためには雑誌に連載を持って、雑誌のペースに合わせて原稿を仕上げる必要があります。なので、プロの漫画家にとって必要な最重要スキルは「毎週原稿を完成させる」とか「毎月原稿を完成させる」という商業ペースで漫画を描くスピードなんです。
今ここで「え?あの漫画家さんって毎号載っていないよね」と思った人もいるでしょうが、最初から「4週に1回休む」という契約をしている場合とか、よほど人気があるから急に原稿落としても出版社は連載打ち切れないとか、個別のケースはあるけど「あくまで原則としては」だ!新人がいきなり冨樫先生みたいなことして許されるワケないだろう!
“商業ペースで漫画を描く”ってのは、単に「面白い漫画を描ける人」では務まりません。
例えばアシスタントを雇うとしたら「人を使う能力」が必要になるし、「アシスタントが雇える場所」に住まなきゃちゃなりません。デジタル機器を使いこなせる人ならオンラインでデータだけやり取りするアシスタントさんというのも今はあるそうなんですが、「PCを使いこなす」スキルが必要になりますし……
そういうのを乗り越えてこそプロという世界でしたが、逆に考えると「そういうのを乗り越えられないけど面白い漫画は描ける人」を逃がしてきたワケです。
例えば、そういう人がちょこちょこと1年かけて全20ページの「読みきり漫画」を描いて、その超面白い1作品だけを30円で売る――――みたいなことは、紙媒体ではありえませんけど、電子書籍では出来るんです。「読みきり1作品だけ読みたい」って人にマッチングすれば、そういう人の才能が世に出る可能性があるんです。
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十年後・二十年後の未来は分かりませんけど……
少なくとも「電子書籍が日本でも普及できるか」の段階で重要なのは、「紙媒体で出来ることがそのまま電子書籍でも出来るか」ではなくて「紙媒体では出来なかったことが電子書籍では出来るか」だと思います。
例えばアメリカでキンドルが普及した理由の一つとして、「アメリカには文庫本がないから」というものがあるそうです。高価で大きくて持ち運びしにくいハードカバーの本しかなかったところに、安価で持ち運びしやすい電子書籍が登場したから「これは便利だ!」と普及した。
日本では既に「安価で持ち運びしやすい文庫本」の文化があるので、電子書籍が普及するのは難しいだろうって言われています。自分もその路線だったら「じゃあ文庫本でイイじゃん」って思われるだけだろうって思っています。
この手の新しい技術が受け入れられるかどうかは―――今までの技術(この場合は紙媒体)に不満を持っている人がどれだけいて、その不満を新しい技術が解消できるかどうかだと思います。
もちろん「紙媒体に向いている漫画」が面白くないワケではないです。
週刊少年誌なんかは「たくさんのお金をかけて描かれて」「たくさんの人に読まれて」「たくさんのお金が動いている」超豪華なエンターテイメントです。映画で例えればハリウッド映画のような巨大ビジネスモデルの世界です。世界中の人を楽しませる普遍的な面白さがある世界です。
でも、全く無名な監督が撮った自主制作映画が、響く人には「あのハリウッドの超大作よりも俺はこっちの映画の方が好きだ!」と言われる―――みたいなことが、電子書籍の漫画だったら目指せると思いますし、紙媒体では現れなかった才能が世界中に眠っていると思うのです。
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