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Ajaxではじまるサービス活用 |
第5回:Flashを取り込んだAdobeのユニークAjax戦略
著者:ピーデー 川俣 晶 2007/4/11
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WebデザイナーのためのAjaxフレームワーク「Spry framework for Ajax」
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AdobeがFlashの技術を活かすために熱意を持っていることは間違いない。
しかし、Ajaxに冷淡ということはなく、特にAdobeを支持するデザイナー層に対するAjaxサポートは熱心で手厚い。その一例が、Ajax用のライブラリである「Spry framework for Ajax」である。
これは、いわばJavaScriptでプログラミングを行うためのライブラリである。もちろん、そのようなライブラリは何ら珍しいものではない。有名な「prototype.js」をはじめ、主要各社もそれぞれ独自のライブラリをリリースしている。それらについては、この連載で紹介してきた。また、腕に覚えのあるマニアが作成したライブラリも珍しくなく、ライブラリの種類は数え切れないほど多いといえる。
それにも関わらず、AdobeがAjax用のライブラリをリリースする理由は「デザイナーにとって使いやすいライブラリ」の1点に集約される。
多くのライブラリは、暗黙的にプログラマがプログラミングすることを前提に設計されている。しかし、デザイナーはプログラマとは異なる価値観や常識を持った存在である。そして、デザイナーもデザインの一環としてプログラムを書くことがある。
そのように考えると、デザイナーから見て使いやすいライブラリを作るというやり方は、プログラミングの主流であるプログラマに、あえて焦点を当てないことを意味する。しかし、これはデザイナーの立場から見れば歓迎されるものであり、今後デザイナーにとっての標準的なライブラリになる可能性もある。
つまり、Adobeは非主流を目指しつつ、デザイナーにとっての標準という「非主流の絶対的主流」を目指す行為といえるだろう。
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Web技術をデスクトップに持ち込む「Apollo」
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最近の大きな話題は、やはりパブリックアルファ版が公開されたばかりの「Apollo」だろう。これは、Web技術を用いてデスクトップアプリケーションを実行する環境の開発コードネームである。
しかし、Web技術を用いたデスクトップアプリケーションは何ら目新しいものではない。例えば、Mac OS Xの「Dashboard Widget」やYahoo!の「Yahoo! Widgets」、Windows Vistaの「サイドバーガジェット」なども、同じ目的によって作り出された技術であり、しかも先行している。
そのように考えると、Apolloはタイミングを失して出遅れた技術のように思われるかもしれない。だが、Apolloには、先行する他の技術にはない特徴がある。その特徴とはベースとするWeb技術に、HTMLやJavaScriptだけではなくFlashとPDFが含まれていることである。
この2つは、プラグインをインストールしなければWebブラウザで扱えないことから、通常はWebの標準技術の一部とはみなされていない。しかし、現実的な状況という観点からみれば、大多数のパソコンにはFlashとPDFを閲覧するためのプログラムがすでにインストールされている。つまり、FlashとPDFも、十分に枯れた標準のWeb技術の一部と考えることができるのだ。
そこで「数多いFlashやPDFに熟練したデザイナーや技術者といった資産を、そのままデスクトップの世界に持ち込んでいけない理由があるだろうか」と考えたとき、Apolloが切り開く可能性の大きさがみえてくる。
いうまでもなく、Webブラウザ上で稼働するWebアプリケーションと、専用のウィンドウを持つデスクトップアプリケーションを比較すれば、後者の方がより優れた使い勝手を得られる。これは、アプリケーションが必要とする機能だけを、もっとも使いやすいように配置できるからだ。
しかし、これまでFlashやPDFに熟達したデザイナーや技術者は、その世界になかなか手をだせないでいた。いかに優れたWebアプリケーションを作成したとしても、Webブラウザ上で動作する限り、どうしても超えられない壁が存在するのである。しかし、Apolloはその壁を取り去ろうとしている。
これが成功すれば、デスクトップアプリケーションの世界に新しい勢力が流入可能となり、新しい競争が起こるかもしれない。そのようなインパクトは、Apolloでのみ起こり得るものである。
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まとめ・技術よりもデザインから切り込む
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これまでみてきた、Google、Yahoo!、そしてMicrosoftは、いずれも技術から斬り込むブランドだったといえる。
Googleは「自動化」という「技術」をテコにして大きな支持を獲得したブランドであり、その一端として検索エンジンの検索候補の探索をはじめ「Google AdSense」でみられる広告と掲載場所のマッチングなど、自動化されたサービスは多く、技術力で成立したブランドとなっている。
Yahoo!は、あまり技術を誇示しない傾向にあるが、Ajaxに関しては整備された新しいライブラリを作りだすという高い技術力を示している。この技術力がAjaxに関するYahoo!の求心力となっているのではないだろうか。
Microsoftはいうまでもなく、技術の力を誇示してきたブランドである。
しかし、Adobeというブランドは、あくまで技術者ではなくデザイナーに注目し続けているようにみえる。つまり、技術力よりも、デザインを誇示することを通して、新しい世界を切り開こうとしているのではないだろうか。
それは、Ajaxに関する態度にも共通して見えるものである。このような方向性は、明らかに非主流ではあるが、間違いとはいえない。もしかしたら、Adobeはこのような違いから、他とは違う何かの「価値」を生みだし、Ajaxの世界でも再び「非主流の絶対的主流」を獲得する可能性がある。
今後、Ajaxに関わるブランドの1つとして、ぜひとも注目していきたい。
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次回予告
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この連載では、主要なブランドのAjax戦略をおおまかにみてきたが、各ブランドの取り組みの紹介については今回で一区切りとしたい。
次回は最終的なまとめとして、Ajax世界の全体を見渡し「Ajaxはどこへ行くのか?」というテーマで締めくくる。
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著者プロフィール
株式会社ピーデー 川俣 晶
株式会社ピーデー代表取締役、日本XMLユーザーグループ代表、Microsoft Most Valuable Professional(MVP)、Visual Developer - Visual Basic。マイクロソフト株式会社にてWindows 3.0の日本語化などの作業を行った後、技術解説家に。Java、Linuxなどにもいち早く着目して活用。現在はC#で開発を行い、現在の注目技術はAjaxとXMLデータベース。
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