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Ajaxではじまるサービス活用 |
第5回:Flashを取り込んだAdobeのユニークAjax戦略
著者:ピーデー 川俣 晶 2007/4/11
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インターネットでも起こる非主流から絶対的主流の流れ
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同様のパターンは、インターネット上でも見られる。その典型的な例は、一連の「Flash」技術だろう。
インターネット上で閲覧可能なコンテンツを作成する主流技術はFlashではなく、当然HTMLがその座にいる。しかし、HTMLだけでは表現力が不十分なため、色やレイアウトを指定する「CSS」、プログラミングを行うための「JavaScript(ECMAScript)」、拡大してもジャギーのないベクターグラフィックを実現する「SVG」などの技術も生まれている。
これらを組み合わせれば、音や動き、対話性などを持つかなりリッチなコンテンツを作成できるだろう。しかし、関係する各種企業や団体の足並みは揃わず、このような技術が本当の意味で主流となったとはいい難い。たとえばマイクロソフトは自社のWebブラウザにSVGを実装していないし、オープンソース陣営はFirefoxがリリースされるまでは、強力かつ安定したWebブラウザを提供できていなかった。
そのような状況を背景にして、リッチなコンテンツを作成する技術として普及したのはFlashなのである。事実上、Ajaxブームがはじまるまで、インターネット上にリッチなコンテンツを幅広く公開する手段はFlashだったといっても過言ではないだろう。
つまり、非主流が絶対的主流につながったのである。
Adobeは2005年に、このFlashを提供していたMacromedia, Incを買収した。「非主流の絶対的主流」のAdobeが、同じ「非主流の絶対的主流」というパターンを持つFlashの技術を取り込んだわけである。
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Ajaxという主流・Flashという非主流
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さて、ここで重要なポイントがある。Ajaxのブームはインターネットにおけるリッチコンテンツの絶対主流からFlashを引きずりおろしてしまったのである。もちろん、Flashは依然として有力な候補であり、実際に各所で利用されているが、それでも「絶対的にほぼ唯一の技術」という立場を失ってしまった。
はたして、Adobeはそれを承知の上でMacromedia, Incを買収したのだろうか。それとも、買ってから気付いて「しまった」と思ったのだろうか。時系列で検証してみよう。
Ajaxという言葉が広がる切っ掛けになったのは、Jesse James Garrett氏の記した以下の文書である。
この文書の日付は「February 18, 2005」となっている。
一方、買収のスケジュールは以下のようなものである(WikiPediaの「マクロメディア」の項より引用)。
——2005年4月、アドビシステムズが約34億ドルでマクロメディアを買収すると発表、同年12月3日に買収を完了した。
この通り、買収はAjax誕生後に行われている。そして、Ajaxの誕生とは「すでに存在するリッチなコンテンツの特徴に名付ける」という出来事であるため、それ以前からリッチなサービスは存在していた。
つまり、明らかにAdobeはAjaxという技術がすでにある状況で、あえてFlashという技術を獲得しに行ったといえる。はたして、Adobeの考える未来像はどこにあるのだろうか。
Ajaxに領域を侵食されてもまだ膨大なニーズのあるFlashは価値ある商品だと消極的に考えたのだろうか。それとも、あくまでFlashの未来を信じ、Ajaxを撃破してFlash時代を再興しようとしているのだろうか。
実は、Adobeの選択はそのどちらでもないのだ。
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AjaxとFlashの双方の長所を活用する「Flex-Ajax Bridge」
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実は、AjaxとFlashは完全に対立するものではない。
それほど数は多くないが、今現在稼働しているインターネット上のサービスで、AjaxとFlashの双方を使っているという例も実際にある。
しかし、なぜ両者の技術を混用するのだろうか。その理由はいくつか存在する。
例えば消極的な理由として、Ajax技術者とFlash技術者が混在するチームで開発を行うケースなどが考えられる。しかし、それよりももっと積極的な理由として、技術がカバーする範囲の相違や開発環境の違いなどを意識し、その価値を見出しているケースだ。
アニメーションなどを含むユーザインターフェースを作成する場合、優れたオーサリングツールと豊富な機能を持つFlashが優位であることは間違いないだろう。しかしページ内容をプログラムによって動的に再構築するようなケースでは、Ajaxの方に優位性が認められる場合もある。
このような観点から、興味深いソフトの1つとして「Flex-Ajax Bridge(FABridge)」があげられる。これはAdobeがリリースしたソフトであり、Flashを用いたリッチなインターネットアプリケーションを開発・配置するための技術である「Adobe Flex」と、Ajaxの間に橋を架ける(両技術を混用したプログラムを作成する)ものだ。
厳密にいえば、Flash PlayerはJavaScriptと通信を行う機能を最初から備えているため、すでに橋は架かっている。しかし、その機能は必要十分ではなく、便利なものとはいいきれない。しかしFlex-Ajax Bridgeを使うことで、まったくコードを追加することなく、ActionScriptのクラスをJavaScriptで利用できるというのだ。
つまり、やむを得ない場合にのみ仕方なく橋を渡るのではなく、日常的に積極的に交流を持とうというのがFlex-Ajax Bridgeの存在意義といえるだろう。
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著者プロフィール
株式会社ピーデー 川俣 晶
株式会社ピーデー代表取締役、日本XMLユーザーグループ代表、Microsoft Most Valuable Professional(MVP)、Visual Developer - Visual Basic。マイクロソフト株式会社にてWindows 3.0の日本語化などの作業を行った後、技術解説家に。Java、Linuxなどにもいち早く着目して活用。現在はC#で開発を行い、現在の注目技術はAjaxとXMLデータベース。
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