コラム

米議会も見捨てた普天間移設

2010年07月23日(金)17時08分

tb_020710.jpg

引越はまだ? 本当に辺野古に移設できるのか(5月3日、普天間飛行場)
Toru Hanai-Reuters
 


 参議院選挙での敗北を受け、菅政権は米軍普天間飛行場の移設問題の決着を、11月の沖縄県知事選の後に先送りする方針を固めた。5月に発表された日米共同声明では、代替施設の工法などの決定期限は8月末とされているが、管政権は改めて辺野古湾でのV字型滑走路の建設計画について代替案を検討している模様だ。

 一方、ウォールストリート・ジャーナルが報じているように、アメリカの国内政治もまた、在日米軍再編計画の新たな障害になっている。06年に日米で合意した「再編実施のための日米ロードマップ」では普天間飛行場の移設とともに、沖縄に駐留する米海兵隊を2014年までにグアムに移すことが明記された。しかし米議会は海兵隊員8000人のとその家族を受け入れるために必要なグアムの基地建設にかかわる予算の削減案を可決した。


議員関係者らによれば、予算削減の決定には、日本の政治問題よりもグアムに海兵隊用の新施設を建設する上での問題が大きく関係している。

上院歳出委員会は、グアムの水道や電力、道路や下水道といったインフラに懸念を示し、こうした非軍事的な側面における受け入れ準備計画が不十分だとした。

下院歳出委員会の報告書も上院の指摘に同調。国防総省が「多くの懸念に対処できていないため」ため、予算削減を決定したとしている。


 2年ほど前、米政府監査院(GAO)は国防総省と米軍がグアム移設に消極的だと非難し、その原因は日本の政治ではなく、そもそも2014年までの移設完了が難しいからだと主張した。08年には、ティモシー・キーティング太平洋軍司令官が、移設計画は予算上の問題で計画通りには進まない可能性が高いと認めた。

 日米外交を研究するコーリー・ウォレスが、不安定な日本政治を嘆く米政府の偽善ぶりを指摘するのはまったくもって正しい。06年の日米合意の内容は、米軍再編に関する両国の国内政治情勢を考えれば、履行していくには困難を極めるものであり、最悪の場合、一歩も前に進めないものだった。

 再編を計画通りに進めるには、米政府はグアム住民の支持を取りつける必要があり、議会はグアムのインフラ改善のための莫大な予算を確保しなければならない。同様にして、日本政府は沖縄県民の支持を取り付け、普天間飛行場の移設費を確保し、さらには海兵隊グアム移転の経費まで負担しなければならない。

 ブッシュ政権と自民党政権は合意を急いだあまり、日米同盟に大きな「痛み」を残していった。この実現不可能と思われる合意は、米政府と日本政府の信頼関係をむしばみ、政権を奪取したばかりの民主党に致命傷を負わせた。
 
 こうした損失を考えれば、オバマ政権がいまだにブッシュ前政権の「負の遺産」に執着しているのは驚きだ。アメリカの外交政策で、ここまで超党派的な政策が他にあるだろうか。

[日本時間2010年7月23日00時16分更新]

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国「秘密警察署」、NY在住の被告が罪認める

ビジネス

LINEヤフー、越境ECのビーノス買収 1株400

ビジネス

再送ソニーG、KADOKAWAの筆頭株主に コンテ

ビジネス

次の利上げへ「もう1ノッチ」、賃上げ・米国動向を注
MAGAZINE
特集:アサド政権崩壊
特集:アサド政権崩壊
2024年12月24日号(12/17発売)

アサドの独裁国家があっけなく瓦解。新体制のシリアを世界は楽観視できるのか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 2
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 3
    遠距離から超速で標的に到達、ウクライナの新型「ヘルミサイル」ドローンの量産加速
  • 4
    「制御不能」な災、黒煙に覆われた空...ロシア石油施…
  • 5
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 6
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 7
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 8
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 9
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 10
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 1
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式多連装ロケットシステム「BM-21グラート」をHIMARSで撃破の瞬間
  • 2
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いするかで「健康改善できる可能性」の研究
  • 3
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達した...ここまで来るのに40年以上の歳月を要した
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「どんなゲームよりも熾烈」...ロシアの火炎放射器「…
  • 6
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 7
    電池交換も充電も不要に? ダイヤモンドが拓く「数千…
  • 8
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼ…
  • 9
    ウクライナ「ATACMS」攻撃を受けたロシア国内の航空…
  • 10
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story