99u:仕事の内容を問わず、進捗管理が成功への定石であることは間違いありません。それをしないと、「現実逃避問題」(The Ostrich Problem)に直面する確率が高まります。ここでいう現実逃避問題とは、イギリスの心理学者が提唱している現象で、目標達成までの進捗に関する情報を避けようとする傾向のことを指します。動き続けることは気持ちいいものであり、わざわざ進行方向が間違っていることを知って失望したい人なんていないのです。
■「変化は必要ないのだ」と思い込みたい
ところが、シェフィールド大学の社会心理学者、トーマス・ウェッブ氏らは、進捗のチェックがもっとも必要な人はむしろ、進捗のチェックをしたがらない人の方なのだと指摘します。例えば、あるライターの女性は、いつもスケジュールに後れを取りがちなのに、本当にそうであることを確認したがらない。あるジムに通う男性は、体重が減っていないことにうすうす感づいていながら、それを確かめようとしないなど。
なぜなら、進捗チェックを避けようとする傾向は、恐怖が原因であることが多いからです。つまり、物事がうまく行っていないのではないかという感覚が、確信に変わってしまうのが怖いのです。今の自分のやり方が心地よいと感じているなら、「変化は必要ないのだ」と自分に思い込ませてしまうことが、とても魅力的に感じられます。そして、そのための手段のひとつが、進捗管理を避けることなのです。
ジムに週2回通っているだけで、自分がとても活発で健康的だと思いこむことができるでしょう。定期的に体重や心機能のチェックをしてしまうと、そのような思い込みが崩れてしまうかもしれません。でも、それをすることで、自分のエクササイズが効果的であるかどうかがわかります。そして、やり方を改めることで、本当の健康を手に入れられるかもしれないのです。
■失敗の痛みは、もっと大きな損失よりマシ
進捗管理が目標達成に効果的であることは、多くの研究によって証明されています。進捗日記を続けている学生ほど数学の生成がいい、進捗管理をしている患者ほど効果的なエクササイズ方法を身に付けやすいなど、その証拠もたくさんあります。
慣れるまでは、残念なフィードバックを得ることは苦痛でしかないでしょう。ある研究によると、失敗によって傷つく痛みは、成功して得られる喜びの2倍にも及ぶと言われています。でも、信頼できるフィードバックによって自分がコースからどれだけ外れているかを知ることができれば、新しいトレーニング方法や新しいスケジュールの計画など、方向修正を図る機会が得られるのです。ネガティブなフィードバックによる一時的な痛みは、プロジェクトの失敗によるつらい経験の足元にも及びません。後れを取っていることを知って毎日の仕事開始時間を1時間早めることの方が、〆切に遅れて契約を飛ばされることよりもずっとマシなのです。
■悪習慣を断つには、自分を許すこと
トーマス・ウェッブ氏らによれば、現実逃避問題は、自分の悪い癖を克服するためのヒントにもなりえます。例えば、自分の信念を曲げるのが恐いのなら、完璧主義者にならないように心がけることです。失敗したっていいんです。もがいたり後戻りしたりするのは、決して悪いことではなく、進歩の一環なのです。別の戦術として、自分の進捗に関するフィードバックを同僚に頼んだり、何らかの自動フィードバックシステムに頼るのもいいでしょう。そうすることで、進捗チェックをするための自制心は不要になります。また、ウェッブ氏らの研究によれば、私たちは気分がいいときの方が進捗管理をする傾向が高いそうです。さらに、進捗に関する情報には、中立的な態度で向き合うことも重要です。
進捗管理をしてこなかった自分を許してあげてください。現実逃避は、続ければ続けるほど、そこから抜け出すことが難しくなっていきます。過去の悪しき習慣を断ち切るには、自分を許すことが必要になることもあるのです。
"The Ostrich Problem" and The Danger of Not Tracking Your Progress | 99u
Christian Jarrett(訳:堀込泰三)
Photo via Shutterstock.