八ケ岳連峰の赤岳に登った30年前の家族写真が、居間に飾られていた。5人家族の中心に、神戸市立成徳小学校5年だった田村紗綾香(さやか)さん=当時(10)=が写っている。
阪神・淡路大震災の当時、私は淡路島に住む小学6年だった。編集局にある取材ファイルをめくりながら、1学年下の紗綾香さんのことを知りたいと思った。
昨秋から、阪神新在家駅(神戸市灘区)近くのマンションをたびたび訪ねた。毎回、父稔さん(79)と母善子さん(72)が温かいコーヒーをいれてくれた。2人はあの日からの日々を語ってくれる。ときに言葉を詰まらせ、ときにせきを切ったように。
1995年1月17日午前5時46分、新在家駅の北側にあった2階建て文化住宅は激震で崩壊する。田村さん家族は1階に住んでいた。天井が落ちて空間が見つけられない。暗闇の中、稔さんは中腰のまま隣の子ども部屋へ向かう。