フルサイズ対応ながら200-800mmの幅広いレンジをカバーするキヤノンの超望遠ズームレンズ「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」が登場し、EOS Rシリーズ以外のユーザーからも注目を集めています。“へそ曲がり”な視点で知られる落合カメラマン、描写性能の高さやエクステンダー対応などを高く評価しつつも、ズームリングの操作性が気になったことから、「状況によっては200mmまで広げて撮れる800mmの単焦点レンズ」として使うべし、との結論に至ったそうです。


“L”ではないが白い、ちょっと細い超望遠ズーム

流行りの超望遠ズームレンズ界に、いよいよ大御所のダメ押し本格参入である。キヤノン「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」は、競合レンズと明らかなる差別化が可能なテレ端の焦点距離や、短焦点側でも控えめにまとめている開放F値など、RFレンズらしいこだわりと割り切りが息づく、待望のニューモデルだ。

既存の一種エキセントリックな(←ホメてます)超望遠単焦点レンズ「RF800mm F11 IS STM」の存在を知り、なおかつ同レンズ「ならでは」の魅力をしっかり感じ取ることのできるユーザーにとって、このRF200-800mm F6.3-9 IS USMは、どこか似通ったニオイと誘因力を感じる恐れが大。いや、別に恐れるトコロじゃないのだけれど、なんかこう、“同類テイストの危うい魅力”みたいなものが備わっているように感じられる超望遠ズームレンズというのが個人的な第一印象だった。ちなみにワタクシ、RF800mm F11 IS STMは、けっこう好きです。

特にヒネりのない真っ直ぐなデザインで結果、“筒”感モロ出しの仕上がりになっている外観は、まぁ決してカッコイイというタイプではない。さらに「黒いと格好悪さが際立っちゃうので白くしておこうか」みたいな裏のやりとり(?)を勝手に想像しちゃいたくなる「白レンズ仕上げ」には、さすがに過度の妄想癖は引っ込めておきなさいという自戒の念が生じるワケなのだけど、確かに黒いよりはコチラの方が数段、印象は良いと思う。おかげで、手元でチープさを感じることもない。これは、ズームリングの操作感にも同様のことがいえる。

ズームリングが重いうえ、回転の角度が大きい

焦点距離の変更に伴って全長が変化するタイプだ。しかし、そもそもが「ちょっとズシリ」(2,050g)なレンズであることと、開放F値を頑張りすぎていない(前ダマが極端に大きくはない)レンズ構成により、ズーミングによる重心の変化をことさらに感じることはない。

それよりも、使っていて少々、気になったのは、ズームリングの回転角と重さ。
操作の重さは調整できるようになっており、また操作感そのものは非常に良いのだが、他社の同種レンズが、どちらかといえば「指1本で操作できるズームリングの軽さ」と「ワンアクションですべての焦点距離を行き来できる小さな回転角」を重視しているように見えるなか、本レンズの使いこなしには「ズームリングは重め」「大きな画角変更には多くの場合、持ち替えが必要」という独特な使い勝手に、まず慣れなければならない。とはいえ、他社同種レンズの使い勝手を知らなければ、特に気になるところではないとも思うけれど。

つまり、他社同種レンズとはキャラクターが異なるということなのだが、このサイズ感とこの価格でテレ端800mmを実現しているからこその“縛り”であるという理解を持てば、その点が不満点につながることはないハズだ。逆に、「他と同じようなもの」ではなく「ひと味違う」ことにこだわった姿勢を評価すべきであるようにも思う。

そんなこんなを考えると、本レンズは「アグレッシブに画角を替えながら連写する」とか、「いったん200mmに引いて被写体の存在を確認した後に素早く800mmで寄って撮る」といったフットワークの軽い使い方より、どちらかというと「焦点距離決め打ち」の単焦点レンズ的な使い方がしっくりくるんじゃないだろうか。その上で「必要に応じ画角の微調整ができる」と認識しておけば万全だ。

何をどう撮るかにもよるけれど、「最大200mmまで引ける800mmレンズ」だと思っておけば、利便性の爆上がりだけを真っ直ぐ享受できることは間違いない。

600mmとは明らかに違う「テレ端800mm」の余裕

今回、テレ端600mとテレ端800mmには、容易に埋めることのできない決定的な差があると再認識することにもなっている。例えば、鳥の飛翔を撮ろうという場合、400mmクラスだとトリミングのことがどうしても頭を離れないもの。600mmクラスでは、そのあたりにほんのちょっぴり余裕が出てくるのだけど、これが800mmになると、いきなり「これノートリでイケるじゃん!」的なカットが撮れる確率が劇的に向上するからだ。人物撮影やスナップ撮影以外の撮影ジャンルであれば、そのあたりの“効能”は同じように感じられるように思う。

しかも、エクステンダーRF1.4×との相性がいい。
これを併用すれば、テレ端は1,120mm! 身近に存在する自然風景(ちなみに、ここに掲載の作例は、すべて近所の公園で撮影したもの)を望遠レンズで切り撮ろうという場合、RF200-800mm F6.3-9 IS USM+RF1.4×のコンビがあれば、およそすべての事象は捉えきれるんじゃないか・・・そんなふうに思わせる、きわめて良好な使用感だった。

宿命的に存在する「レンズの暗さ」に対しては、ボディの高感度画質でフォローするという割り切りで乗り越えるがヨシ。EOS Rのフルサイズモデルであれば、どれを選んでも大きな不満にはつながらないだろう。ただし、動体に対する適応力を相応のレベルに維持したい場合は、連写速度やAFの被写体認識能力などに余裕が必要だ。その点を求めると、どうしても上位機種が欲しくなってくるというのもシビアな現実ではある。

というワケで、テレ端を他社と横並びの600mmに留めず800mmまで伸ばした英断は大正解。んまぁ、ぶっちゃけ、他社に存在する60MPオーバー機を使えば、ざっくり「600mm+トリミングで補えちゃう」領域であると言えないこともないけれど、でも、そこはホレ、「光学」にこだわる心意気が違うってぇハナシよ。そして「画角を200mmまで広げられる800mmレンズ」が備える心理的、かつ実務的な余裕は、一度実際に味わってみないと分からないと思う。機会があればゼヒ!

落合憲弘 おちあいのりひろ 「○○のテーマで原稿の依頼が来たんだよねぇ~」「今度○○社にインタビューにいくからさ……」「やっぱり自分で所有して使ってみないとダメっしょ!」などなどなど、新たなカメラやレンズを購入するための自分に対するイイワケを並べ続けて幾星霜。ふと、自分に騙されやすくなっている自分に気づくが、それも一興とばかりに今日も騙されたフリを続ける牡牛座のB型。2023年カメラグランプリ外部選考委員。 この著者の記事一覧はこちら
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