書評:家庭菜園に取り憑かれたITマネージャの”The $64 Tomato”

また食べ物の本ですが、今度は家庭菜園に取り憑かれたITマネージャの話。本人が書いた実話です。タイトルは、ある日、どれくらい家庭菜園のトマトにコストがかかっているか計算したら、一つ64ドル(6500円くらい)もかかっていることがわかった、というところから取られている。

とにかくものすごい凝り性。そもそも料理が大好きで、おいしいモノが食べたいばっかりにはじめた家庭菜園なのだが、いつのまにか常軌を逸した情熱をかけてしまい、ついに体を壊すまでの一連のエピソードが書かれている。この人、プログラマあがりのITマネージャみたいなんですが、文章も上手だし、話のまとめ方もそつなく、読みモノとしても中々よろしいです。

場所は、ニューヨークへの通勤圏ではありつつ、誰からも忘れられたような小さな町。そこで、築90年の廃屋を見つけ、それを直して家族4人で住むことにしたのが全ての騒動の発端。この家の廃屋ぶりはすごくて、窓はない、キッチンはない、暖房(も冷房も)ない、水も来ていないというすごいもの。住み始めたら下水もなかった、というオマケ付き。(下水のパイプは近くの石垣の裏で終わっていたのでした。)多分この家の修繕だけで一冊の本になると思うのだが、その話は殆どありません。

で、敷地も広大。家庭菜園に当てた分だけで長さ75フィートということで、25メートルプールサイズ。殆ど「兼業農家」と化す筆者。

そして、家庭菜園の設計を依頼するためにランドスケープデザイナーの女性と会って、その人の爪が土で汚れているのを見て殆ど性的に興奮する、という変人振りを発揮しつつ、野菜作りにいそしむ。

鹿が野菜を食い荒らすから、と家庭菜園の周りを電流が流れるワイヤで囲んだり。しかも6000ボルト。木のお医者さん(という職業の人)を感電させてもめげない。

ところが、納屋の床下に住み着いたグランドホッグ(リスのようなもの)がワイヤをものともせずに大事な大事なトマトを食い荒らす。

「どうして入れるのか」

と観察していると、グランドホッグが感電して「びくっ」となりながらワイヤを潜り抜けているのを目撃。グランドホッグ君は、

「感電して痛いけど、別に死んだりしない」

ということを理解してしまったのであった。

さらにはこのワイヤ、一定間隔で電流をパルス的に流すようにできている。で、グランドホッグは、やがてこれすら学習するに至る。じっとワイヤの前で待ち構え、タイミングを計って電流の来ていない瞬間に潜り抜けるように。

「敵ながら天晴れ」と思いつつ、しかしトマトを守るため、あれやこれやの方法でわなを仕掛け、ついに捕らえて遠いところに捨てに行くところまで戦いは続くのだった。

別のエピソードにはこんなのも。仕事先で部下が

「システムがおかしくなった。変になったところのコードをどう見ても問題がわからない」

と言ってきたときに

「そういう時は、おかしくなる前に加えた変更を考えてみろ。思いがけないところから問題が派生していることもあるから」

みたいなことを告げたところで、はっと自分の家庭菜園の

「トウモロコシ立ち枯れ問題」

の原因を思いつく。システム同様「一見関係なさそうな別の変更が思いがけない問題を生み出しているのでは」というのがそれ。思いついたらもう、いても立ってもいられず会社を早退して家に帰り、トウモロコシの下を掘り返す。トウモロコシが一本ずつ立ち枯れていくが、その原因がどうしてもわからなかったのだが、

「そういえば、離れたところに最近バラを植えた」

と思い立ち、そこから何かの害虫が土中侵出してきているのでは、と思ったんですね。実際掘ってみたらその通りだった、という。

ソフトウェアエンジニアの人って、こういう懲り方する人多いですね。

ちなみにこの人、奥さんとの結婚に至ったエピソードも中々いい味を出している。プロポーズしようと彼が家で夕食を作り(未来の)奥さんを呼ぶのだが、いろいろ事情があって奥さんは「お別れディナー」だと信じ込み、彼に「話は後にして、まず食べましょう」と提案。彼は「あれはきっと、オレの作った食事を食べる最後の機会を逃したくたかったに違いない」と推測するのであった。(それくらい料理が上手い)。

これ以外にも面白い話が一杯あるので、ガーデニングに興味のある人で凝り性な人の話を聞くのが好きな人は是非どうぞ。

書評:家庭菜園に取り憑かれたITマネージャの”The $64 Tomato”」への1件のフィードバック

  1. おー、なるほど、Over the Hedgeという子供向け動物アニメで、動物(このときはグラウンドホグじゃなくてリスだったような・・・)がザップされる危険をすりぬけていく場面がありますが、本当のことだったのですね・・・

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