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ヘンリー・ファレル/ジョージ・ワシントン大学准教授(政治学、国際関係論)
マーサ・フィネモアー/ジョージ・ワシントン大学教授(政治学、国際関係論)
■情報漏洩の本当の問題とは
(マニングやスノーデンなど)アメリカの軍や政府機関の関係者によって、できれば明るみに出したくない米政府の行動が漏洩(リーク)されていることに対して、ワシントンは怒りを抑えられずにいるようだ。
現に、そうした行動に対する強硬姿勢をとっている。3年前、当時は、ブラッドリー・マニングとして知られていたチェルシー・マニングが数十万の極秘ケーブルを、政府や企業などの機密情報を公開する内部告発サイト、ウィキリークスに提供する事件が起きると、米当局はマニングを投獄した(拷問に関する国連特別調査官は、マニングが残忍で非人道的な扱いを受けていると報告している)。事件後、米上院共和党の指導者ミッチ・マクドネルは、報道番組「ミート・ザ・プレス」で、ウィキリークスの設立者であるジュリアン・アサンジを「ハイテクテロリスト」と呼んだ。
最近も、元国家安全保障局の分析官エドワード・スノーデンが、アメリカの諜報活動に関する情報をリークすると、米政府は、他の諸国に対して、スノーデンの亡命申請を受け入れないように外交圧力をかけた。ロシアのプーチン大統領が、アメリカの要請を受け入れることを拒絶すると、オバマ大統領は、(関係が悪化していただけに)待望されていた米ロサミットさえキャンセルした。
こうした強硬な対応をみせているとはいえ、アメリカの指導者たちは、「情報漏洩がなぜ(アメリカの国家安全保障にとって)非常に大きな脅威なのか」を説明するのに苦慮している。
実際には、マニングやスノーデンがリークした情報には、情報問題の専門家が衝撃を受けるような内容は含まれていない。例えば、ロバート・ゲーツ元国防長官は、ウィキリークス問題が作り出したパニックからは距離を置く姿勢をみせ、2010年に「リークされた情報でそれほど大きな衝撃は生じていない。情報源や情報収集方法に制約は生じていない」とメディアに語っていることは、問題の本質の多くを物語っている。
たしかに、その後、スノーデンがリークした情報によって情報源や情報収集の手法が明るみに出たかもしれない。しかし、予想外のものは何も出てきていない。彼が情報をリークする前から、専門家の多くは、「アメリカは中国にサイバー攻撃をし、ヨーロッパの政府機関を盗聴し、世界のインターネット・コミュニケーションを監視している」と想定していた。もっとも衝撃的なリークである、アメリカとイギリスがオンラインのプライバシーとセキュリティを守るためのコミュニケーションソフトと暗号化システムを破っていたという事実にしても、事情通の専門家は、かねてその可能性があると考えていた。
マニングやスノーデンのような漏洩者たちが突きつけたより深刻な脅威とは、アメリカの国家安全保障を直接的に脅かすというよりも、むしろ、よりサトルな部分(つまり、理念と原則の国アメリカのイメージを失墜させたこと)にある。
彼らのリークによって、ワシントンが水面下で何もしていないかのように偽善的に振る舞い続けるのは不可能になった。リークが突きつけたリスクとは、漏洩した情報そのものではなく、アメリカがどのような思惑から水面下で何をしていたかに関する文書的な裏付けが提供されたことだ。これら水面下での活動が、米政府の公的レトリックと矛盾することも多く、この場合、同盟諸国もワシントンの水面下での行動を見過ごすことはできなくなり、アメリカの敵対国は、自国の水面下における行動を正当化できるようになる。
偽善的に(ダブルスタンダードで)振る舞えることが、アメリカの主要な戦略資源であると考えている政府高官はほとんどいない。実際、アメリカがダブルスタンダードをかくもスムーズに実践できたのは、一つには、それがレトリック上の誠実さの上に組み立てられていたからだ。ほとんどのアメリカの政治家は、この国が二つの顔を持っていることを理解していない。だが、その言動の間に大きなギャップが存在することを否定する余地が少なくなっていけば、次第に追い込まれ、これまで他に説いてきたやり方を自ら実践せざるを得なくなるだろう。
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Henry Farrell ジョージ・ワシントン大学准教授(政治学、国際関係論)。様々な国の研究者が参加する政治ブログ「Crooked Timber」の執筆者の一人。専門は、EUとヨーロッパ統合、政治とブログ、電子商取引(イーコマース)。
Martha Finnemore ジョージ・ワシントン大学教授(政治学、国際関係論)。著書にThe Purpose of Intervention: Changing Beliefs about the Use of Force(Cornell University Press, 2003)がある。
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