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イスラエルのしっぺ返し戦略

The Economistの先週号と今週号の記事を読んでいて「うまいこと言うなぁ」と思ったのは、イスラエルの戦略をtit-for-tat戦略であると表現していた点だ。Tit-for-tat戦略というのは、何らかの交渉事において、「とりあえず最初は相手と協力を試み、相手に裏切られたらこちらも裏切り、相手が協力する限りはこちらも協力し続ける」という、ゲーム理論ではおなじみのしっぺ返し戦略の一種だ。単純な割に効果の高い戦略として知られている(注1)。

実のところ、これはイスラエルの「抑止力戦略」そのものだ。敵国から攻撃を受けたら、あらゆる手段を用いてでも、倍返し三倍返しで反撃する。それを学んだ敵国は「イスラエルを攻撃すると後が面倒だ」と、攻撃そのものを控えるようになる。(原則としてこれは自衛のための戦略であるという点に注意。)この観点から見れば、死者の数に著しい不均衡が生じるのは、もともとの戦略が企図したとおりであって驚くには当たらない、となる。「正義と不正義」の釣り合いを決めるのは死者の数ではなく、最初に「裏切った」側だ、というわけだ。

The Economistは、先週号の「Proportional to what? 何と釣り合ってるって?」で、以下のように書いている。『もししっぺ返し戦略の起点をハマスのロケット弾に求めるなら、イスラエルに自衛の権利があるとすべきだろう。もしこの起点をイスラエル建国当時(1948年)のパレスチナ占領、またはその時のパレスチナ人追放に求めるならば、パレスチナ人の抵抗にこそ正義があると言えるだろう。釣り合いがあろうが無かろうが、この紛争が解決するまで無辜の人々は殺され続ける。』

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今週のThe Economist: ガザ:正当なこと、そうでないこと

原題:Israel’s war in Gaza: The rights and wrongs

明けましておめでとうございます。更新が大きく遅れてごめんなさい・・・という話は、最近毎回書いているような気がするのでサブブログの方に譲ることにします。今年はもう少し頻繁に更新できるといいのですが。

さて。ガザが大変なことになっている。この件がしんどいのは、誰に聞いても現実的な解決策が出てこないという点だ。そうなると、「イスラエルの行動の何が間違っていて、どうすべきだったのか」という筋での議論は著しく困難になる。何を言っても説得力がないのだからしょうがない。で、その代わりに、これは戦争ではなく虐殺だ、人道上看過できない学校に砲撃を加えたことで国際世論を完全に敵に回した、と言った半ば情緒的な議論が増えることになる。

別にこういう意見を批判するわけではない。パレスチナの側からみればこれは確実に虐殺であり、人道上問題があるのも明白であり、当初はある程度抑え気味に報道していた欧米のマスメディアが、地上戦開始以降イスラエル非難を強めているのも筆者の見る限りでは事実なのだ(それはそれとして、イスラエル内部での意志決定プロセスに問題があるかも、と指摘したこのNYTimesの記事は結構面白い。どこまで信憑性があるのかは不明だが)。

だが、それだからこそ、そういう情緒的な議論に流れずに踏ん張ったThe Economistの以下の記事は価値があると思う。わずか1ページのまとめでここまでバランス良く書き上げるのは簡単なことではない。こういう記事こそが多く読まれるべきだと思うのだが、残念ながらこの記事の翻訳はどこにも見あたらない。そこで、以下で少し紹介してみることにしたい。普段は「今週のEconomist」と書きつつ7割は筆者の勝手な私見を垂れ流しているのだが、今回はもう少し引用多めで(そもそも、自分自身も不案内な分野なので、垂れ流すほどの私見もない)。

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