理研外部調査委員会報告の内容整理2−STAP論文の不正認定

STAP細胞論文に関する理研外部調査委員会報告のSTAP細胞に関する解析結果の内容整理をしました。
(*を付けた文章は、私のコメント)

理研外部調査委員会報告の内容整理1−STAP細胞の正体はES細胞 の続き
http://d.hatena.ne.jp/warbler/20141230/1419934465

STAP細胞の正体がES細胞であると判明し、さらに信頼性のあるデータがほとんど無いという、悲惨な調査結果でした。

前回の調査結果と合わせて、Article論文に3件の捏造と1件の改ざんが認定されました。
杜撰なデータ管理により、オリジナルデータが確認できない事を理由として証拠不十分となり不正認定されなかった疑義が6件ありました。

2015年4月1日から適用される文部科学省『研究活動における不正行為への対応等に関するガイドライン』http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/__icsFiles/afieldfile/2014/08/26/1351568_02_1.pdf
では、第3節4−3(3)特定不正行為かどうかの認定(P17)で「特定不正行為に関する証拠が提出された場合には、被告発者の説明及びその他の証拠によって、特定不正行為であるとの疑いが覆せないときは、特定不正行為と認定される。また、被告発者が生データや実験・観察ノート、実験試料・試薬等の不存在など、本来存在するべき基本的な要素の不足により特定不正行為であるとの疑いを覆すに足る証拠を示せないときも同様とする」とされており、もしこのガイドラインに従えば不正認定は合計10件以上になりますが、まだ適用前なので4件の不正で済んでいます。

資料:理化学研究所「調査報告」平成26年12月26日 研究論文に関する調査委員会
http://www3.riken.jp/stap/j/h9document6.pdf
http://www3.riken.jp/stap/j/c13document5.pdf

まず、不正として認定された項目についてまとめます。

<論文の図表や本文等に関する疑義>
1)Article Fig.5c ←不正認定(捏造)

図表を作成した小保方氏本人に3回の聞き取り調査を実施。

(調査結果報告のスライド資料より)
Article Fig.5c Robust growth of STAP stem cells in maintenance culture. Similar results were obtained with eight independent lines. In contrast, parental STAP cells decreased in number quickly.
STAP幹細胞の堅調な成長
同様な結果が8つの独立した系統で得られた。対照的に、親STAP細胞は急速に数を減らした。

(1)STAP幹細胞とES細胞の増殖曲線の日にちのズレについて

[小保方氏の説明]
・それらの増殖実験を別個に行ったためにズレが生じた。
・使用したSTAP幹細胞はFLSで、ES細胞は記憶が無い。
・実験はES細胞を2011年の春から夏にかけて、STAP幹細胞を2012年の1月下旬から2月に培養を開始。
→実験ノートに、この実験の記述なし。
→小保方氏の出勤記録:2012年の1月下旬から2月の頃に、3日に1回の実験ができた時期は見つからない。(小保方氏がアメリカ出張をしていた時期と重なる)

(2)細胞の計測について

[小保方氏の説明]・最初は細胞数を計測して培養を開始し、コンフルエント(細胞が増殖して培養皿の中でいっぱいになり、増殖が頭打ちになる状態)になるまで培養した。
・コンフルエントになった細胞は129B6 F1ES1の細胞数を参考に10^7個と計算。
・コンフルエントになった細胞をトリプシン処理した後、再びコンフルエントになるまでにかかった日時をグラフ化した。
・コンフルエントになった細胞を1/5〜1/3に希釈して植え継ぎし、多くの場合は3日毎に植え継ぎしたが、出張などで植え継ぎできない場合は細胞の希釈倍率を変えてコンフルエントになる時間を調整した。
→細胞数の計測が重要なことは認めながら、植え継ぎ時に細胞数を正確に計測していなかった事を認める(細胞を計測せずに10^7個とした)。推定値を使うのは×。

(3)細胞増殖率測定グラフの作製
[小保方氏の説明]
・若山氏から、Yamanak&TakahashiのFig.1(下図)の様な図が欲しいと言われて作成した。

Figure 1. (D) Growth curves of ES cells, iPS cells (iPS-MEF24, clones 2-1–4), and MEFs. 3 × 105 cells were passaged every 3 days into each well of six-well plates.
Cell. 2006 Aug 25;126(4):663-76. Takahashi K, Yamanaka S.

→この経緯は若山氏も認める。
・この細胞増殖率測定グラフは若山氏にも報告を行った。
→若山氏は、この実験は終わった事は報告されたが、内容は全く知らなかったと説明。

(評価)
[小保方氏について]
・この実験は行われた記録がない。
・小保方氏の勤務記録と照合して、Article Fig.5cの様に3日毎に測定が行われたと認められない。
・小保方氏は、細胞生物学の最も基礎となる細胞増殖率測定に必要な「細胞数の計測」という手技の原理と方法は理解し、最初はそれを行っていたが、途中からはコンフルエントになった状態の細胞数を10^7とみなし、計測を怠ったものと判断。
・小保方氏は植え継ぎ時に細胞数を正確に測定せずにArticle Fig.5cを作成していたが、そうであればこの図は細胞増殖率を測定したものとして全く意味を成さない。
・細胞の希釈率を1/5と説明したり、1/8〜1/16と説明したりしている。(説明があいまい)
・小保方氏1人で細胞数を計測し、細胞増殖グラフを作成した事を本人が認めている。

→※小保方氏による研究不正(捏造)として認定
*実験ノート等の記録が無かったが、代わりに勤務記録があったのでデータの捏造として認定できた。もし、勤務記録が無ければこれも不正認定ができなかった可能性がある。

[若山氏について]
・細胞増殖率測定のグラフ作成を小保方氏に提案した研究室主催者である。
・シニア研究者として小保方氏を指導監督すると共に、共同研究者としてデータの正当性、正確性について注意を払う必要があった。
※指導監督を怠り、データの正当性、正確性について検証することなく、この様な捏造を生じさせた事の責任は過失ではあるが重大。

2)Article Fig.2c ←不正認定(捏造)


Article Fig.2c DNA methylation study by bisulphite sequencing. Filled and open circles indicate methylated and non-methlylated CpG, respectively.
Bisulfite シーケンスによるDNAメチル化調査黒丸と白丸は、それぞれメチル化と非メチル化CpGを示している

・メチル化を示すいくつかの黒丸と白丸の整列に乱れがある。(Oct4-GFP+cellsのOct4 promoter)

・Oct4のCD45+とCultured CD45+、NanogのESとCultured CD45+、NanogのCD45+とCultured CD45+が酷似している。
・オリジナルデータとの不一致がある。


(調査結果報告のスライド資料より)

・CDB若山研でのプログレスレポート(PR)で提示された資料、論文原稿の各バージョンで示された図、実験を担当したCDB若山研メンバーの実験ノート記録、GRASのコンピューターに残っていた実験データを照合。
・小保方氏に作図法やデータ処理について聞き取り調査を行った。

(1)図として提示された結果の経緯

・PR資料
→2011年9月22日:最初のデータ(非処理細胞、スフェアOct4発現細胞、ES細胞のOct4遺伝子とNanog遺伝子のプロモーター領域のメチル化)。
→2011年11月頃:同じ実験結果を提示。
これらのデータの真贋性を裏付ける実験データやノート記録は確認できない。
また、PR資料でES細胞とスフェアの結果が入れ替わるなど、データ取り扱いが杜撰。
→2012年4月12日:これまでと全く別の実験結果の図。メチル化を示す黒丸の配置に一部乱れがあり、手動で作図したと考えられる。CD45+とCultured CD45+のパターンが酷似している。
この図が、2012年4月のNature投稿原稿、Cell投稿原稿でも使われ、最終的にArticle Fig.2cとして発表される。
・STAP幹細胞
→2013年3月に投稿されたLetter原稿Fig.3として初めて提示。
→最終的に、Article Extended Data Fig.8dとして発表。Article Fig.2cと比較して、Oct4遺伝子、Nanog遺伝子ともメチル化の程度が低い。

Article Extended Data Fig.8d Methylation status of the Oct4 and Nanog promoters.
Oct4とNanogプロモーターのメチル化状態

(2)GRASに残されていた配列データ

・これらの配列データを用いてArticle Extended Data Fig.8dが作図されたと考えられる。
→データの選別(シーケンスしたDNAクローンの選別)が行われいる。
→STAP幹細胞については、異なる細胞のデータが使われている。
これらから、意図的なデータ取り扱いがあったと判断。

(3)GRASに依頼したメチル化DNA配列解析

・その他にDRASに依頼された解析データが3セットあった。
→2011年10月27日 1セット
→2011年11月17日 2セット 「oct4」「nanog」の記述
「oct4」:96クローンのシーケンスが行われ、作図に利用可能な高精度配列情報は74クローン分。Fig.2cでは、11ヵ所中メチル化部位が1ヵ所以下のクローンが18クローンあった事を示すが、シーケンス結果ではこの様なパターンは3クローンのみ。
→Fig.2cの図を作る事は不可能。


(調査結果報告のスライド資料より)

「nanog」:96クローンのシーケンスが行われ、作図に利用可能な高精度配列情報は40クローン分。Fig.2cでは、100%メチル化クローンが15クローン存在するが、シーケンス結果ではこの様なパターンは7クローンのみ。
→Fig.2cの図を作る事は不可能。

(4)小保方氏の聞き取り調査

・メチル化のデータを取りまとめる際に、仮説を支持するデータにしようと意図的なDNA配列の選択や大腸菌クローンの操作を行った事を確認。
・小保方氏から「誇れるデータではなく、責任を感じている」と説明。

(評価)
[小保方氏について]
・PR資料で図の取り違えがあっり、Article Fig.2cを裏付ける実験記録の存在が確認できない等、データ管理が杜撰。
・得られたデータの一部だけを仮説に沿って意図的に選別して提示し、データの誤解釈を誘導する危険性を生じさせた。
・手動で作図し、存在しないデータを新たに作った。

→※小保方氏による研究不正(捏造)として認定
*GRASに残されていたデータが無ければ、これも証拠不十分として不正認定されなかった可能性がある。

[若山氏について]・シニア研究者として小保方氏を指導監督すると共に、共同研究者としてデータの正当性、正確性について注意を払う必要があった。
・小保方氏が、過剰な期待に応えようとして改ざんを行った面も否定できない。
※指導監督を怠り、データの正当性、正確性について検証することなく、この様な捏造を生じさせた事の責任は過失ではあるが重大。