ヒューゴー賞、ネビュラ賞、ローカス賞、堂々のトリプルクラウンなのにどこが面白いのかさっぱりわからない。一応自分ではSF好きなつもりでしたが、この良さがわからないのはちょっと悔やしい。もともとユダヤ人問題への関心も知識もろくにないのだからそこを突いた作品の勘どころがつかめないのは無理ないかな、という気もしますが、我ながら言い訳くさい。現代人の心得としても、そんなような社会問題への無関心は誉められた態度じゃないんでしょうけれども。
とりあえず、ユダヤ人の宗教と文化についてある程度の理解がないとけっこう手強いしろものだ、ということは認めるしかない。あとジャンルSF的な要素は期待しちゃダメだった。だてに新潮文庫から出てないわ。 イスラエルが存在しない代わりにアラスカにユダヤ人居住区があるというだけの地味な歴史改変もので、実際にはSF分はからっきしといってもいいくらい。それでいて三大SF賞を総なめ。いったいどこがそんなに評価されているのか、賞の選評とか読んでないので推測するしかないのですが、おそらくユダヤ人のみならず民族問題というものは、海外の方では誰でも肌でわかってしまうぐらい自明かつ普遍的かつ重大なテーマであって、その扱い方がうまいので受けている、ということかと思います。 訳者あとがきの指摘にもあるように、作品の結末では「ユダヤ人は領土国家を目指すのではなく、流浪の体験から得た民族と文化を横断する力をアイデンティティーの柱とすべきだ」みたいな考え方が提示されています。ふむふむ。実際にそうすべきかどうかは僕には判断しかねる問題だし、有史以来国土を脅かされた経験がほとんどない日本人一般にとっても民族的アイデンティティについてシリアスに考える機会などあんまりないし、そういう主張をぶつけられてもとっさには「はあ、どうぞ」ぐらいの超他人事な反応しかできないかもしれません。でも多民族国家のアメリカとかでは、やっぱりこういうことは問題意識としてすごく切実なものなのでしょう。たぶん。ちっともSF気のない小説がSF三冠賞をとってしまうぐらいには。 話の基本フォーマットはハードボイルド刑事もので、僕にとってはこれは思いのほか高いハードルだったようです。無謀な捜査、銃撃戦、拉致監禁されてもすぐ救出、というダイハードまがいの展開になじめず、そもそもこの話ってそんな適当な主人公補正まるだしの活劇に全然ふさわしくないんじゃないの?などと粗探しっぽい思考に流れてしまう。読者としてそっちの素養がまるでないことがよくない風に作用したか。こういうのはある程度、読み手側の慣れの問題なのかもしれない。ミステリとして不本意な不発を食らってしまったのも、慣れの問題だったかもしれない。チェスを知らないのでいい加減に読み流してしまったむくいか、ミステリのオチ部分の意味が結局わからないままなのです。なんでツークツワンクって判明しただけで犯人特定できるの?そんな伏線あったっけ。 でもまあ、こうしてぐちゃぐちゃ言いながらも上下巻を読了できたということは、自分で思ってるほどには苦手な本じゃなかったのかな。少なくとも、どんな発想力で思いつくのかと呆れるような奇抜な比喩がぽんぽん出てくるので文章だけは終始退屈しませんでした。翻訳だとすわりがわるく感じることもあるけど、ネイティブならもっと自然に文章メチャウマだと思えたかも。 ───── 民俗学や神話に興味ある奴まったりと語り合おうず > インドでは「リンガであるシヴァ神を冒涜している」という理由でバイブ禁止 ほんまかいな。恐るべしヒンズー教のポリティカルパワー 冲方丁の人気SF小説「マルドゥック・スクランブル」の劇場アニメ化が決定 よかったよかった。今度は制作途中でコケませんように。ベルウィング婆は超かっこよく描写してもらいたいな。 [画像] ダカール・ラリー 2010 - The Big Picture 道なき道ってレベルじゃない。まさに地球がレーシングコース。走る方も見物する方も命がけのよう。 ブランドン・サンダースン、「ミストボーン」三部作の映画化に合意 これで日本での全翻訳フラグが立ったっぽい。積んでるけど読んでみようかな。どうしようかな……
by umi_urimasu
| 2010-01-07 21:16
| 本(SF・ミステリ)
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