- akinosora_
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小説で生計を立てている。『横浜駅SF』『人間たちの話』『まず牛を球とします。』など。ジャンプTOONで『ぬのさんぽ』連載中。お仕事の連絡は Gmail: yubaiscariot まで。
横浜駅は「完成しない」のではなく「絶え間ない生成と分解を続ける定常状態こそが横浜駅の完成形であり、つまり横浜駅はひとつの生命体である」と何度言ったら
2015-01-04 13:05:29西暦30XX年。度重なる工事の末にとうとう自己複製の能力を獲得した横浜駅はやがて本州を覆い尽くしていた。三浦半島でレジスタンス活動を続ける主人公は、謎の老人から託されたディスクを手に西へ向かう。 「横浜駅16777216番出口(長野~岐阜県境付近)へ行け、そこに全ての答えがある」
2015-01-04 13:16:47この時代、日本の国土の3割は横浜駅のエキナカであったが、自由に出入りが可能なのはSUICA端末インプラントを持つ1%の富裕層のみであった。病気の妹を助けるために「エキナカ」にある薬局への不正侵入(キセル)を試みた主人公であったが、自動改札と呼ばれるアンドロイド兵による排撃を受け
2015-01-04 13:33:26「じいさん、この紙は一体?」 「これはわしの曽祖父が残した『18きっぷ』だ。これがあれば自動改札兵の攻撃を受けずにエキナカを移動することが出来る。ただし有効期限は5日間だけだ。5日間で横浜駅16777216番出口に辿り着かなければならない。お前のような勇敢な若者を待っていたのだ」
2015-01-04 13:40:16【設定メモ】 ・この時代に電車は走っていない。横浜駅しか無いから ・エキナカ以外の土地は99%の貧困層が住むスラムである ・エキナカでは決済は全てSUICA端末インプラントで行われ、現金はスラムでしか流通していない ・従って18きっぷしか持たない主人公は物資の「購入」は出来ない
2015-01-04 13:55:53「おい大丈夫か兄ちゃん?」 「ああ、助かったよ。あんたは一体...」 「JR北海道から派遣されてきた者だ」 「北海道!あそこはまだ横浜駅が延長していないそうだが」 「うむ。だが青函トンネル防衛線を突破されるのもおそらく時間の問題だ。瀬戸大橋も似たような状態だと聞く」
2015-01-04 14:06:48「そうか、お前はSUICAも持たずにエキナカに来たのか...」 彼はそう言って、何やら黒い熊のような動物がプリントされたカードを取り出した。 「餞別だ、これを持ってけ。SUICAとの相互運用が効く区域は徐々に減っていると聞くがな。ここじゃチャージも出来ないが、お守り程度にはなる」
2015-01-04 14:44:25「これはKITAKAと言ってな、北海道じゃまだインプラントでない、こんな機械式の決済が通用してるんだよ」 「驚いたな、身体に埋め込めないのか。そんなものスラムで持ち歩いてたら、すぐにギャングに奪われちまうよ。北海道ってのはずいぶん平和なところなんだな」
2015-01-04 14:44:36「JR統合知性体?」 「ええ、日本の鉄道ネットワークをベースにした人工知能よ。23世紀に建設が始まったの。人間の脳が単純な神経細胞のネットワークで出来ている、って事は学校で習ったわね?」 「...いや。あいにく小学校しか行ってないんだよ。中学はぜんぶエキナカだったし」
2015-01-04 15:29:00「でもある時をきっかけに、横浜駅が自己増殖を始めたの。原因は分かっていないわ。それで鉄道ネットワークが線路沿いに全部飲み込まれて、人工知能としての機能は死んだ。残ったのは本州を覆い尽くす横浜駅だけってわけ」
2015-01-04 15:30:26「息が苦しいな...標高が上がってきたのか?」 薄汚れた壁の掲示には「横浜駅 R-158番通路」とある。かつて本州が横浜駅を覆い尽くす以前は「国道158号」と呼ばれていた道路だ。 18きっぷの電子ペーパー画面に5個目のスタンプが表示された。自動改札の攻撃が始まるまで、24時間。
2015-01-04 16:13:48そこはかつて日本アルプスと呼ばれて登山客に親しまれた山脈だが、横浜駅に覆われて幾百年、あらゆる登山道はエスカレーターと動く歩道で埋め尽くされていた。 主人公(名前決めてない)は16777216番出口の表示を見た。JR統合知性体の建設時点で「日本の人口重心」と言われていた場所だ。
2015-01-04 16:21:23中心にある大型端末にディスクを差し込むと、無人のラボにホログラムが浮かび上がる。 「あッ! ...あんたは」 そこに現れたのは、主人公(名前決めてない)に18きっぷを渡した老人の姿だった。いや、あれよりも随分若い。 「ようこそ。私はJR統合知性体のヒューマン・インターフェースだ」
2015-01-04 16:41:08「JR統合知性体は、当時のあらゆる人工知能の中で、最も生命に近いと言えるものだった。だがあるとき統合知性体は気づいた。物理建築である以上、知性体のユニットである駅の老朽化は避けられない。知性体の『老衰』が徐々に迫ってきたのだ」 「ユニットを建て直すのでは駄目なのか?」
2015-01-04 16:48:24「哲学的な問題だな。たとえば、君が死ぬ直前に、脳をそっくりトレースした義脳を用意したとしよう。当然そこには君の記憶も含まれている。だがそれは君なのか? それは不死と言えるか?」 「...」 「つまり駅ユニットの離散的な交換は不死ではない。統合知性体はそう判断したのだ」
2015-01-04 16:49:15「...その連続的交換のテストケースには、ユニット内で最も有機体に近いとされていた駅が選ばれた。それが誕生以来500年にわたって絶え間ない改築を繰り返していた、横浜駅だ。横浜駅の自己複製能とはつまり生命にとっての究極の夢、不老不死の実現だったのだよ」
2015-01-04 16:51:36「だがそれは統合知性体の過ちだった。人間にとっての不老不死、老いる事をやめ増殖を続ける細胞、それは癌にほかならない。横浜駅の不老不死化とは、癌組織が人体を喰らい尽くすように、まさに日本の鉄道網を破壊するものであったのだ」
2015-01-04 16:52:10「君に頼みたい。設計者は統合知性体に自己破壊の機能を与えなかった。脳にSUICA端末インプラントを持つ人間についても同様だ。君にしか出来ない。そのパネルから以下のコードを入力すれば、駅全体に均等にシグナルが伝達され、横浜駅はアポトーシスを起こして自己分解する。それで全てが終わる。
2015-01-04 17:28:48コード入力を終えると、ホログラムはふっと消えた。インジゲータが横浜駅アポトーシスの開始を示す。残り時間は1023日。 「すぐに駅全体がボカーン、って訳じゃないんだな...」 とはいえ、1000年にわたって改築と増殖を続けてきた横浜駅にとって、それはあまりに唐突の余命宣告であろう。
2015-01-04 17:55:40その時、18きっぷがバイブレーションを起こした。 「警告:本券の期限が切れました。お客様のSUICA端末が確認できません。5分以内にSUICA端末の提示がない場合は、自動改札による強制排除が実行されます。お客様のご理解とご了承よろしくお願い致します」
2015-01-04 17:58:59おそらく位置情報を発信しているであろう18きっぷを破り捨てて、すぐにその場から走りだした。案内板に示された最寄りの改札口まで「徒歩148分」。絶望的だ。 「キセル者ヲ発見!現場付近ノ自動改札ハタダチニ集合セヨ!」 アンドロイド兵たちの信号音が響く。
2015-01-04 18:04:18「にじみゅ~増刊号!」にてライトノベルの感想記事など、細々と書いております。