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神奈川県清川村にある犬猫の保護シェルター『清川しっぽ村』。
私がこの清川しっぽ村を訪れてまで会いたかった猫、それは海岸猫のリンだ。
私がケージの扉を開けて近づくと、リンはおもむろに顔を上げた。
リンの視線は私の背後にいるスタッフに注がれている。
目の前にいる私より事務所のなかを動き回っているスタッフのほうが気になるようだ。
リンがこの施設に収容されてから20日ほど経っていると聞いているが、まだスタッフに馴れていないのだろうか。
リンは2010年4月に海岸に住むホームレスのテント小屋で生まれ、その後2年間は海岸猫ではめずらしい “完全室内飼い” の状態にあった。
そしてそのホームレスの人が海岸を去る際にほかの眷属ともどもテントの外へ放たれた。
その後リンは己が生きていくため、そして子供を育てるための最適な環境を求めて防砂林のなかを転々と移動することになる。
リンはここに連れてこられる直前まで2015年の春に生まれた娘のサキと防砂林で仲睦まじく暮らしていた。
そんなリンがなぜ保護シェルターであるこの施設に収容されることになったのか。
そして娘のサキはどうなったのか‥‥。
「リン、つらい目に遭ったね」と私はリンに話しかけた。
このときようやく私だと気づいたのか、リンは私の手に頭をすりつけてきた。
さらに私の指に噛みついた。
が、もちろん本気ではなくいわゆる “甘噛み” という親愛表現の一種である。
これら一連の行為は私が海岸にリンを訪ねたときにやってくれたものだ。
環境や境遇が変わってもリンは私のことを忘れていなかった。
私の胸のうちに熱いものがこみ上げてくる。
こうして保護シェルターに収容されたリンは、生まれ育った海岸へ戻ることは二度とない。
悠然と毛づくろいをしているリンを見ながら私はふと思った。「リンはそのことを理解しているのだろうか?」
そして海岸へ帰れないと悟ったときにリンはどう思うのだろう?
だが彼女が今の状況をどう認識しているのか、スタッフを見つめるリンの表情からはうかがい知ることができない。
我々ニンゲンは、外敵や危険の多い海岸よりもこの保護シェルターで生きるほうが猫にとっては幸せだ、と考える。
たとえ生まれ育った外の世界に比べて狭いところであっても、毎日食事を与えてくれるし暑さや寒さに苦しむこともなく安全に終生暮らせるんだから‥‥。
この日は偶然にもリンの世話をしていたボランティアの人たちが施設に収容されたリンの様子を見るために清川しっぽ村を訪れていた。
向かって右側のふたりの女性が大塚さん姉妹、奥にいるキャップを被った男性が当ブログに何度も登場している宮本さんだ。(共に仮名)
そして、手前のオレンジ色のジャケットの女性は県内に住む私の知り合いで、ボランティアの人たちとはこの日が初対面になる。
じつはこの女性が清川しっぽ村にやって来たのは “ある決意” をしたからである。
しかもその決意は今後のリンの運命を左右するものだった。
〈つづく〉
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