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森保ジャパンより心配なサッカーメディアの表現 遠藤航を「クローザー」と呼んでいいのか

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

連載第22回
杉山茂樹の「看過できない」

 昨年、日本のサッカー界で一番がっかりしたのは、森保式3バックを"超攻撃的3バック"と称し、はしゃいでしまったメディアに対してだ。ウイングバックにサイドバック系の選手ではなく、三笘薫、堂安律といったウイング系を据えると、3-4-2-1がどうして超攻撃的になるのか。

 選手、監督、協会、ファン、解説者、メディア、クラブ、リーグ、審判、育成組織、代理人、スタジアム......。その国のサッカー偏差値は、サッカーを構成するさまざまな要素の平均値からなるが、それぞれは相殺し合う関係にある。最もレベルが高そうな選手たちの足を、他の要素が引っ張っている。筆者には日本のサッカーがそうした構図に映る。

 足を引っ張る存在になりたくない。サッカー偏差値を下げる側に回りたくないと考えたとき、"超攻撃的3バック"は、メディアの一員として、なおさらがっかりさせられる。森保式3バックを超攻撃的と称する報道は、世界的に見てもそうザラにない。守備的サッカーと攻撃的サッカーの攻防の図が克明に描かれた欧州サッカー史を辿れば一目瞭然。これまで何を見てきたのかと呆れる。

 攻撃的サッカーを志向する監督は、そのことを自ら積極的に宣伝するが、守備的サッカーを志向する監督は逆に隠そうとする。ハッキリと口にしない。後ろを固めるサッカーに、ある種の後ろめたさがあるからだろう。

 トータルフットボールとプレッシングサッカー。近代サッカーの発展に寄与したこのサッカー界の2大トレンドに、5人で最後尾を固めようとするサッカーは完全に逆行する。時代を前に進めてきた攻撃的サッカーと、目の前の勝利にこだわろうとした守備的サッカー。善玉対悪玉とまでは言わないが、守備的サッカーを志向する監督が胸を張って、自らのサッカーを宣伝しようとしない理由はそこにある。

 森保一監督がどちらに属するか。就任当初から口にしてきた言葉に基づけば、一目瞭然となる。攻撃的サッカーを志向する監督でないことぐらい、一発で見抜かなくてはならない。

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著者プロフィール

  • 杉山茂樹

    杉山茂樹 (すぎやましげき)

    スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。

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