薔薇水晶と二本笹
- 100 :名無しさん:2013/07/08(月) 21:54:45 ID:BQYXhFEg0
- 真紅「暑い……」ぐてー
雛苺「暑いのー」ぐてー
翠星石「暑すぎるですぅ」ぐったり
真紅「もう耐えられないわ。禁を破ってクーラーをつけましょう!」
雛苺「うにゅにゅ、それは無理なのよ真紅。クーラーのリモコンはジュンとのりに隠されちゃったし
クーラー本体にもチャイルドロックが掛けられちゃってるのよ」
翠星石「チビ人間かボス猿が学校から帰ってくるまで我慢するしかないです」
真紅「うぬぬぬ! こんな暑い室内に少女を放置だなんて虐待よ! 許せない!
訴えてやる! 訴えて勝ってやるのだわだわ!」
翠星石「と言うですか、クーラーが封印されちゃったのも、真紅が平日チビ人間達がいない時に
無駄に冷房をガンガンきかせまくって鍋焼きうどん食ってたりしてたのが、ばれたからですよ」 - 101 :名無しさん:2013/07/08(月) 21:58:42 ID:BQYXhFEg0
- 真紅「なんで私が主犯みたいに言うのよ。翠星石も雛苺も
寒風の中で食べる鍋焼きうどんは至高にして究極! とか言ってたじゃない」
雛苺「うみゅぅ……」
真紅「……ジュンが帰ってくる前には冷房の温度設定も28度に戻して
鍋焼きうどんの痕跡も隠したのに、どうしてばれちゃったのかしら」
翠星石「クーラーの方は先月の電気代見てのりが目を回していたです」
雛苺「うどんは真紅がくしゃみした拍子に鼻からニュルって出たのをジュンに見られたのよ」
真紅「そう言えばそうだった」
翠星石「そんなこんなでお家にドールしかいない時はクーラー使っちゃいけないことになってしまったんです」
真紅「やってられないわね」
雛苺「ヒナ、頭がボーっとしてきたの。ヒナがダメになっちゃったら、ヒナのローザミスティカ、真紅にあげるのよね」
真紅「ああ、雛苺!? そんな? 貴女どうして……っ!?」
翠星石「まあ、ドールですから暑さぐらいで死にはしないですよ。
チビ人間もそこのところは分かってて、クーラー禁止にしたですからね」
真紅「死ななければいいってもんじゃないのだわ! こうなったら残る策はただ一つ……!!」
雛苺「何か作戦があるのよ?」 - 102 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:00:09 ID:BQYXhFEg0
- §数時間後・桜田家玄関
のり「ただいまー」ガチャッ
ジュン「ただいまー」
のり「お買い物手伝ってくれて助かったわジュン君。
下校途中で出くわすことなんて、あまりないことだったから。今日はちょっとたくさん買いすぎちゃったかも」
ジュン「荷物持ちがいるからって、余計なものまで買うなよな」
のり「え~? ジュン君だって通販で色々買ってるじゃない?」
ジュン「僕は要らないのはクーリングオフしてるっつーの」 - 103 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:01:36 ID:BQYXhFEg0
- のり「それはそうと……静かね」
ジュン「うん? そう言われれば。真紅たち寝ているのかな? 下手に動き回っても暑いだけだし……」
のり「クーラー禁止にしたのは厳しすぎたかしら」
ジュン「そんなことないって。地球に優しくない真似しまくってた馬鹿どもが悪い」
のり「そう。それじゃ、ジュン君、台所まで買ってきた食材を運んでくれる?」
ジュン「分かった」 - 104 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:03:48 ID:BQYXhFEg0
- §桜田家・台所
のり「ああっ!?」
ジュン「ど、どうした!? ゴキブリでも出たか?」
のり「ち、違う! ほら、ジュン君見て! 台所のテーブルの上に……冷蔵庫の中身が全部並べられている!」
ジュン「なっ!? あいつらの仕業か!? 何てことを! 暑さに耐えかねて呪いのデーボみたいに冷蔵庫に入りやがったか!?」
のり「あああ……、お肉とか痛んじゃってるかも、これ」
ジュン「おい、コラ! お前ら!!」ガチャッ
翠星石「ひぃっ!?」
雛苺「みょわわっ!」
ジュン「馬鹿か! いくら暑いからって、冷蔵庫の中に入るなんて!
どうすんだよ! お前らが外に出した食材、この暑さでダメになるじゃないか!」
翠星石「晩御飯にすればいいじゃねーですか」
雛苺「ヒナ達は、ちょっと痛んだ食材ぐらいじゃ、お腹壊さないの」
翠星石「それに真紅もよく『肉は腐りかけが一番うまい』と言ってるです」
ジュン「ええい、悪びれもせず、ずべこべと……て、ん?
真紅がいないな。三馬鹿なかよく一緒に冷蔵庫に入ってたんじゃないのか?」
雛苺「し、真紅なら下なの」
ジュン「下? 冷凍庫の方か!! あいつめ!」ガラッ - 105 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:19:23 ID:BQYXhFEg0
-
/| ̄冷凍庫を上から覗いた図 ̄|
/:::::::|| ̄/  ̄ ̄ ̄/  ̄ ̄ ̄ ̄/|
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|:::::::::::|| 、_//  ̄`ヽ} / | カキーン
|:::::::::::|| /》@ i(从_从) / |
|:::::::::::|| / ||ヽ|| ^ω^./ |
|:::::::::::||/ || .〈iミ'介/〉|| /|
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ - 106 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:21:45 ID:BQYXhFEg0
- ジュン「ひゃあああああああああああっ!?」
のり「ちょっ!? ジュン君どうしたの? 素っ頓狂な声出して……て!?
きゃああああああああああああああああ! 真紅ちゃんが……!?」
ジュン「な、なんで冷凍庫の中身がまるまる真紅の氷漬けになってるんだよ!!?」
氷真紅「……」カキーン
翠星石「おお、思いのほか見事に凍っているですね」
雛苺「フレイザードに凍らされたレオナ姫みたいなのよ」
ジュン「一体、何が目的なんだ真紅はッ!?」
翠星石「どうせチビ人間が帰ってきたら、冷凍庫から出されるに決まっているですから
その後も出来るだけ冷たさを維持できるようにと真紅は自らを氷漬けにしたのですぅ」
雛苺「ヒナ達は無茶だからやめた方がいいって言ったのよ」
翠星石「しかし、真紅は困難をやり遂げたです。流石です」 - 107 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:23:38 ID:BQYXhFEg0
- /| ̄冷凍庫を上から覗いた図 ̄|
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翠星石「ふ、満足そうな顔して凍ってやがるですぅ……」
ジュン「感心してないで、真紅を冷凍庫の氷の中から掘り出すのを手伝え。
がっちり壁と氷でくっついてて、このままじゃ取り出せん」
のり「ああっ!? よく見たら、外に出された食材の中に冷凍食品まである! しかも全部がほとんど解凍状態に!?」
ジュン「……やってくれたなお前ら」
翠星石「あわわわわ……」
雛苺「うゆゆゆゆゆ……」 - 108 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:25:18 ID:BQYXhFEg0
- §小一時間後・桜田ジュンの部屋
翠星石「いやー、怒られた怒られたですぅ」
温真紅「今月入って、一番怒られたわ」ホカホカ
雛苺「真紅、ほかほかしているのよね」
温真紅「せっかく、凍っていたのに無理やり熱湯をかけられたからね」
翠星石「新しい桜田家お約束条項として『冷蔵庫の中に入らない』まで制定されちまったです」
雛苺「ヒナ達の自由がことごとく奪われていくのよ」
温真紅「……もう我慢ならないわ! こんな不自由と言う名の鎖で私達を縛り付ける家なんて! 出て行きましょう!!」
翠星石「なんと!? 家出ですか?」 - 109 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:31:07 ID:BQYXhFEg0
- 雛苺「ここを出てどこへ行くのよ!?」
温真紅「薔薇屋敷よ。あそこ全部屋冷房完備だし設定温度もうちの28度より2度も低い26度なのよ」
翠星石「なるほど。薔薇乙女にとって、この世に残された最後のパラダイスですね!」
雛苺「うぃ! わくわくしてきたのー!!」
翠星石「しかし薔薇屋敷にはSGGK(スーパー・グレート・ガーデン・キーパー)こと
蒼星石がいるですよ? 奴がいる限り、翠星石達は好き勝手できんです」
雛苺「うぃ……。涼しいのはいいけれど、それ以外は蒼星石の定めた
きっちりとした生活リズムに従わなくちゃいけなくなるのよね」
温真紅「確かに。蒼星石のルールは桜田家お約束条項の比じゃあない」
翠星石「まさに薔薇獄。刑務所みたいな生活になっちまうですよ……」
温真紅「でも問題ないわ。蒼星石は意外と耐久力がないことが判明している。
まあ、所詮はマスターも高齢者だし。翠星石のべアハッグで一撃よ」
翠星石「蒼星石、今はチビ人間をもマスターにしたハイブリッド状態ですよ」
温真紅「え、マジで!?」
翠星石「ほら、巻かなかった世界でどたばたして帰ってきた後も、なぁなぁでチビ人間と契約したままですぅ」
温真紅「どさくさまぎれで私のジュンと契約していたとは……!」
雛苺「真紅が忘れていただけなのよ」
温真紅「こいつはめちゃ許せないのだわ! これら諸々の問題を解決するためにも
薔薇屋敷に向かう! 蒼星石と全面対決よ!」
翠星石「おー!」
雛苺「おー!」 - 110 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:32:19 ID:BQYXhFEg0
- §桜田家・玄関の外側
真紅「Aッchiiッ!?」むわーん
翠星石「ぐっ!? もう夕方だというのに、この熱気!?」
雛苺「た、たまらないのー! ジュンのお家に戻ろうよ~!」
真紅「くっ! 遺憾ながら作戦は中止! この熱気の中を歩いて薔薇屋敷へ行くより、28度設定でもジュンの家の方がマシだわ」
翠星石「てっしゅー! てっしゅーですぅ!」 - 111 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:36:49 ID:BQYXhFEg0
- §桜田ジュンの部屋
翠星石「やれやれですぅ。まさか一歩チビ人間の家から出ただけで作戦を断念とは」
雛苺「暑さには勝てないからしょうがないのよね」
真紅「とは言え、やはりジュンの部屋の中じゃ涼しさが物足りない」
翠星石「ぬるいんですよねぇ」
雛苺「ジュンはぬるま湯人生だからしょうがないの」
ジュン「……うるさいな。何と言われようが冷房の温度は下げないからな」
真紅「……では翠星石に雛苺、こういうのはどう?」
雛苺「どーゆーの?」
真紅「怖い話だとかをして、納涼するのよ」
翠星石「うーん、それはグッドアイデアだと思うですが、また百物語(※)でもやらかす気ですか?
あれクソ長くて、ぶっちゃけ翠星石半分ぐらいは寝てたですよ」
ジュン(……? それって結局、僕の夢落ちじゃなかったのか?)
※薔薇乙女百物語参照 - 112 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:38:17 ID:BQYXhFEg0
- 真紅「何もそこまで大がかりなことをするわけじゃあない。ちょっと背筋がぞくっとするような軽い小話をする程度よ」
翠星石「ほうほう」
真紅「例えば、巻かなかったジュンの世界に結局私達が現れずに、あのままビッグジュンがダメ大学生もとい
大学中退して最終学歴中卒未満(?)の、いじけた血と糞とゲロの詰まった皮袋状態で、生きていたとしたら」
雛苺「みょわわわっ! お先真っ暗なのよー!」ガクブル
翠星石「うひゃあ、背筋が凍りつくほど恐ろしい話ですぅ!
マジにありえそうな未来予測なのが、寒さに拍車をかけているですよー!」ガクブル
真紅「ふふふ、当の発言をしている本人であるこの真紅ちゃんも
あまりのジュンの人生の日陰っぷりに、震えが止まらないわ」ガクブル
ジュン「勝手に人の未来を予想して震えるな」 - 113 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:39:47 ID:BQYXhFEg0
- 真紅「でも、ぶっちゃけ私達がジュンのところに来なかったら、どうなってたことやら」
ジュン「う……っ!?」
翠星石「そうですよ! チビ人間はもっと翠星石たちに感謝するべきなのです!」
雛苺「そうよそうよ! だから冷房の温度もあと2度下げるべきなのー!」
ジュン「ええい! やかましい! 変にわめいてばっかりいるから暑くなるんだよ!」
雛苺「うゆゆ、ジュンが怒っちゃったわ」
真紅「この暑さのせいでジュンも沸点が低くなってるみたいね。
他に何とか納涼する方法はないものかしら……、あ! そうだ!」
翠星石「?」
真紅「蒼星石を呼びましょう。翠星石、スィドリームを出して」
翠星石「何故、急に蒼星石を呼ぶ気になったのですか真紅?」
真紅「あの子、青いじゃない。見てるだけで少しは涼しくなるわ。
それにお客様が来たら、ジュンとて冷房の温度を下げざるを得ないはず」
雛苺「ふぉおお! 真紅はすごいのー! 賢いのよー!」
真紅「なっはっはっは! 完璧よォー、この真紅様の作戦は!」
ジュン「……」 - 114 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:43:19 ID:BQYXhFEg0
- §三十分後
蒼星石「やあ、こんばんは。どうかしたの? スィドリームからは急な用事と聞いたんだけど」
翠星石「おお、よく来てくれたですね蒼星石ぃ!」
雛苺「息苦しいところだけどゆっくりしていってなのー」
真紅「それを言うなら『むさ苦しい』か『暑苦しい』よ雛苺」
蒼星石「うん。で、用事は?」
翠星石「いや、まあ、その……用事ってほどのことは……」
蒼星石「?」
翠星石「と、その前にチビ人間! 蒼星石が来てるんですよ!
翠星石が抱きしめただけでも壊れそうな、か弱い蒼星石のためにクーラーをもっときかせろです!」
ジュン「……暑いか? 蒼星石?」
蒼星石「ううん。全然平気だよ。今日も熱帯夜らしいけど、基本、ドールに気温は関係ないし」
ジュン「だよな」
翠星石「おおおおお、おまっ!? 蒼星石!? 何を血迷ったことを!?」
真紅「そうよ、我慢は毒なのだわ! 貴女のかつての死因だって
翠星石に対する不満をためすぎての、我慢しすぎての自爆でしょ!?」
蒼星石「そ、それと暑さとは関係ないかと……。あと語弊あるよ、その言い方」 - 115 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:45:44 ID:BQYXhFEg0
- ジュン「本当にうちの三馬鹿が無理ばっかり言って悪いな蒼星石。
要は蒼星石をダシにして涼もうとしているだけなんだこいつらは」
翠星石「ぐっ……」
蒼星石「気持ちは分からないでもないけどね」
真紅「ねぇ蒼星石、育てたら気温が10度ぐらい下がる、nのフィールドのびっくりドッキリ植物でも知らない?」
蒼星石「……知らない」
翠星石「む? ちょっと蒼星石、今ウソをついたですね」
蒼星石「え!?」ビクッ
翠星石「さんざ、蒼星石の嘘を見てきた翠星石にはピーンと来たですぅ。
さあ、これ以上、双子の姉に隠し事はできねーですよ!」
蒼星石「い、いや、それは……」
雛苺「うにゅ!? 育てたら涼しくなる樹を独り占めする気なのよね蒼星石は!」
蒼星石「そんなつもりは。それに、そういう涼しくなる植物なんてのも本当に知らないんだ」
翠星石「じゃあ、さっきの『……知らない』の変な間はなんだったのですか!?」
蒼星石「それは……」
真紅「言いなさい蒼星石。私達の間に秘密は許されない。どうしても言わないのだとしたら、こちらにも考えがあるわよ」
蒼星石「考え?」 - 116 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:47:24 ID:BQYXhFEg0
- 真紅「……結菱老人はずいぶんと旅行好きになったようね」
蒼星石「きゅ、急に何を……?」
真紅「二葉や、思い人の女性に対する妄執が晴れて以降、外界に目を向ける心の余裕が生まれたからということかしら?
資産家華族として政財界に再び影響力を持つようにもなったとか、たまに新聞の隅の記事でも見かけるわよ」
ジュン「結菱さんすごいな」
蒼星石「そ、それがどうだと?」
真紅「『復活の資産家華族、旅先で事故』なんて見出しは新聞で見たくないわよね……」
翠星石「真紅……?」
蒼星石「まさか僕のマスターを人質に!?」
ジュン「な、なんてゲスいことを……っ!?」 - 117 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:48:46 ID:BQYXhFEg0
- 真紅「落ち着いて。私は実際にそんなことはしない。けど、そういうことが大好きな子が身内にいるわよね」
蒼星石「……白薔薇!」
真紅「あの子は新聞とか読まないから、今の話のことは知らない。私が黙っていれば……だけど」
蒼星石「脅しているのか、僕を」
真紅「まさか、ただのお願いだわ。貴女が喋る代わりに私は黙る。錬金術でも経済学でも基本の、等価交換ってやつよ」
ジュン「自分は手を汚さず、舌先三寸ってゲスの極みだな真紅……」
真紅「何とでもおっしゃい。蒼星石がうじうじしているのを取っ払うには、これぐらいの押しの強さが必要なのよ」
蒼星石「……分かった。喋る、喋るよ。けど、これはあくまで可能性の話であって
本当に涼しくなれるかどうかは分からないってことを前置きさせてもらう」
雛苺「?」
真紅「とにかく話を聞かせて頂戴。その後の判断はまたその時にするから」 - 118 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:51:54 ID:BQYXhFEg0
- 蒼星石「nのフィールドの『雷雨の竹林の一本笹』を覚えているかい?」
ジュン「?」
真紅「?」
翠星石「なんだったですか、それ? 聞いた覚えはあるですよ」
雛苺「ヒナは全然知らないの」
蒼星石「やはり忘れているね。ほら、金糸雀が招雷子……雷に打たれて死にかけたことがあったろ(※)」
翠星石「カナチビが?」
雛苺「そんなことあったっけなのよ?」
真紅「あの子、いつもつまらないことで死にかけてない?」
蒼星石「しょうがないなぁ……」
※金糸雀と雷雨の袂参照 - 119 :名無しさん:2013/07/08(月) 22:56:50 ID:BQYXhFEg0
- 蒼星石「ま、金糸雀が死にかけた話はぶっちゃけどうでもいいから飛ばすけど、とにかく雷雨の竹林というnのフィールドの
一領域に『竹』林にもかかわらず、一本だけご立派な笹が生えていたが、僕達が行った時には折れてしまっていた」
真紅「あ、だいぶ思い出してきたわ。その時、私、頭が取れてたのよね。水銀燈のせいで」
蒼星石「うん。そのこともちょっと後の話に関わってくるから、覚えていてね」
真紅「?」
蒼星石「話を進めよう。最近その雷雨の竹林の雷雲が全て消え、雨も降らなくなったそうだ」
翠星石「へー」
蒼星石「結果、竹林それ自体もその座標から消失……。いや、庭師連盟では
これは雷雨の竹林が別の領域に『移動』したものと見ている」
ジュン「林が……移動?」
蒼星石「nのフィールドは流動的だからね、地形が移動することは珍しくない。
が、竹林が消えた後にも残っているものがあった」
真紅「折れた一本笹?」
蒼星石「そう。しかし折れる前の状態に戻っていた。しかも一本じゃあない」
雛苺「?」
蒼星石「二本。『二本笹』だ。雷雨の竹林の後には双子のようにそっくりな二本の笹だけが残った」 - 120 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:01:01 ID:BQYXhFEg0
- ジュン「再生、分裂したってことか?」
蒼星石「おそらく。そしてさらに問題なのは、この二本笹の出生において変な噂がついてしまっていることだ」
真紅「噂?」
蒼星石「ここで真紅の頭の話も、少し出てくる」
真紅「あらやだ。真紅ちゃん、人気者ね」
ジュン「……」
蒼星石「二本笹の根元にはあの伝説のローゼンメイデンの頭が埋まっていた。
だから、折れた一本笹もご立派な笹として再生した……と」
真紅「ちょっと待って。私の頭が転がっていたのは当時の折れた一本笹の根元ではなく
その辺の適当な竹だったはずよ。埋まってたわけでもないし」
蒼星石「残念ながら噂ってのは、そういうもんだ。整合性があるようで、無い。
事実と真実は、しばしば異なる。困ったことにね」
雛苺「……?」
蒼星石「こうして折れた一本笹はローゼンメイデン第5ドールの頭部の祝福によって復活した……が
二本笹にまつわる噂はこれだけじゃあない。笹が一本ではなく二本に増えたのは、もう一つの『要因』があるからだ」
ジュン「二つ目の要因……?」 - 121 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:04:50 ID:BQYXhFEg0
- 蒼星石「これも君達は忘れているかもしれないけど
あそこは野薔薇(※1)やロゼリオン(※2)とも浅からぬ因縁がある土地だった」
真紅「のばら?」
雛苺「ろぜりおん?」
蒼星石「え? まさか野薔薇とロゼリオンのことまで忘れて……!?」
真紅「いやいやいやいや、覚えてるわよ勿論」
翠星石「そうです。ちょっと久しぶりに聞く単語で驚いただけですってば」
雛苺「ヒ、ヒナもちゃんと覚えてたのよ!」
蒼星石「……まあ、そういうことにしておこうか。雷雨の竹林では金糸雀がロゼリオンのオズミを
撃破しているが、さらに遡ると薔薇水晶が野薔薇一号を倒した地でもある」
※1 恥知らずの薔薇水晶 参照
※2 薔薇水晶に祝福を 参照 - 122 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:08:09 ID:BQYXhFEg0
- ジュン「野薔薇一号?」
蒼星石「僕達が初めて認識した野薔薇の存在だ。彼女が現れたことによって
野薔薇がただの噂や夢想の存在ではなく、実在するものだと分かった」
真紅「そう言えば、そうだったわね」
翠星石「そうそう、ちょっと前まで野薔薇はネッシーみたいなもんだったですよ」
蒼星石「薔薇水晶が倒した野薔薇は最後まで自分の名前を言わなかったから
便宜上、一号と呼んでいる。これも誤解を招く言い方だけどね」
雛苺「?」
蒼星石「『一号』の報告があった時よりもかなり前から薔薇水晶が野薔薇達と接触、交戦していたのはほぼ事実。
彼女が、詳しいことは話したがらないのでこれ以上は追及しようがないけど」
真紅「てことは『一号』は本当は『一号』じゃなくて『五号』や『六号』の可能性もあるってこと?」
蒼星石「そういうこと」 - 123 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:11:54 ID:BQYXhFEg0
- ジュン「ふぅん。話が複雑になってきたな。野薔薇一号にロゼリオンのオズミか」
蒼星石「オズミの遺骸は金糸雀が回収して、その他の第二世代ロゼリオンともども別の地でお墓を作ったから
実質、二本笹に関係があるのは野薔薇一号の方だけだ」
翠星石「ほうほう。つまりここでもカナチビの方の話はどうでもいい、と」
蒼星石「野薔薇一号は自分の遺骸は雷雨の竹林に埋めてもらうことを薔薇水晶に希望していた。
そして薔薇水晶は野薔薇を倒した後、その通りにした」
ジュン「んんん? 真紅の頭だけでなく野薔薇の遺体まで埋まってたってことか?」
蒼星石「うん。雷雨の竹林で起きたイベントを時系列にそって少し整理すると、こんな感じだ」
①いつの間にか一本笹が折れる。
②真紅の頭が笹の根元に一時的に埋まる。
③薔薇水晶が野薔薇一号を倒して埋める。
④金糸雀がロゼリオンのオズミを倒す。
⑤雷雨の竹林が消失する。
⑥一本笹だけ残っている。しかも元に戻ってる。おまけに二本に増えた。
蒼星石「なぜか二本に増えた笹の不思議が、噂では②と③に関連付けられてしまっている」
真紅「②も③も一本笹の直近ではなく、ただ雷雨の竹林内での出来事だっただけよね?
しかも同時に起きた事件でもないし」
蒼星石「しかし、関係性を見出すには十分な距離と期間の内だ」
翠星石「うーむ、根も葉もない噂ってワケじゃあなく、根ぐらいはある噂ってのはタチ悪いですね」 - 124 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:13:14 ID:BQYXhFEg0
- 雛苺「噂、噂って言うけれど、笹が二本になっただけなのよ? それがどう大変なことなの? 蒼星石?」
蒼星石「この二本笹は光と影、陰と陽。片や祝福された勝利の乙女である真紅を
片や生まれついての敗残兵である野薔薇の呪いを象徴している……とされている」
真紅「私の知らないところで私の首がそんな噂の根源にまでなっているとは。真紅ちゃん大人気だわだわ」
ジュン「落ち着け。蒼星石の話はまだ途中だぞ真紅」
蒼星石「長くなったけど、ここまでは噂の起源。次に話すが噂の帰結、結果だ」
翠星石「もったいぶらずに早く言えですぅ。蒼星石の説明好きもここに極まれりですよ」
雛苺「うぃ。お話を引っ張りすぎなのよね」 - 125 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:15:26 ID:BQYXhFEg0
- 蒼星石「この二本笹に、短冊を使ってお願い事をすると、どんな願いも叶えてくれるそうだ」
真紅「へ?」
翠星石「は?」
雛苺「七夕みたいなの」
蒼星石「そう。七夕と同じだ。しかし、これは七夕に限定の話じゃあない。年中だ」
ジュン「そりゃ太っ腹な噂なことで」
真紅「大人気乙女の真紅ちゃんが、それぐらいの器量の良さをもたらしたに違いないわね」
翠星石「と言うですか、前置きが随分と大層なこじつけっぽかったですのに
結論が『願いを叶える笹』ってちょっと陳腐じゃねーのです?」
雛苺「うぃ! 蒼星石のお話は要らなかったの! つまり、その笹に
『ジュンが冷房を2度下げてくれますように』って頼めばいいってことだわ」
翠星石「けちくせーお願いですねぇ」
真紅「わざわざ笹にお願いするようなこと、それ?」 - 126 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:22:43 ID:BQYXhFEg0
- 蒼星石「……お願い事を叶えてもらうためにはもう一つ条件がある」
翠星石「ぬ? まだ隠し玉を持っていたですか蒼星石」
雛苺「なになに? もう一つの条件って~」
蒼星石「お願い事、希望を書いた短冊は二本笹のうち片方に結わえる。そのお願い事と反対の内容、絶望を書いた短冊を
もう片方に結わえなくていけない。この幸福と不幸の等価交換を以って、笹は願い事を現実へと変える」
ジュン「等価交換?」
蒼星石「つまり、先ほどの雛苺の願い事『ジュン君が部屋の冷房の温度を2度下げる』ってお願い事を成就させるためには
もう片方の笹に『柏葉巴が自分の部屋の冷房の温度を2度上げる』って短冊をつけなくちゃならない」
翠星石「うわぁ……めんどくせー上にしみったれた笹ですねぇ。真紅が噂の根幹の一部をなしているだけはあるです」
真紅「わ、私のせいじゃないわよ! 勝手に私の首がネタに使われただけじゃない! そんなの私のイメージにも反するし
許せないわ! 肖像権(?)の侵害よ! と言うか誰よ!? そんな薔薇乙女事情に深く通じた噂を流したのは!」
蒼星石「ラプラスの魔」
真紅「あの悪戯ウサギ……ッ!! 今度会ったら、しっぽ引っこ抜いてやる」 - 127 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:26:00 ID:BQYXhFEg0
- ジュン「ちょっといいか? 何で僕の行為の等価交換で柏葉が対象になるんだ?」
蒼星石「お願い事をしようとする雛苺にとって、ジュン君と巴さんは等価だからだ。
得ようとする幸福に対して、かなり正確に等価な不幸をも願わなくてはならない」
ジュン「何か、考えれば考えるほど、えげつねぇな」
蒼星石「そう。例えば誰か身近な誰かの病気を治したいと願うのなら、同じくらい身近な別の誰かが
その病に罹るように願わなくてはならない。綺麗事では終わらないからこそ、噂が変に現実味を帯びている」
真紅「そして厄介なことに、nのフィールドでは現実味を帯びた噂は実現するってことよね……」
蒼星石「その通り。さあ、どうする翠星石、真紅、雛苺? 二本笹にお願い事をしに行くかい……?」
雛苺「うゆゆ、意地悪なのよね、蒼星石は!」
翠星石「そうですそうです! 呪い人形と揶揄されることもある翠星石たちですが
身近な人に不幸をおっ被せてまで、自分達だけ幸せになろうとはしないですよ!」
ジュン「……」 - 128 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:29:24 ID:BQYXhFEg0
- 蒼星石「……真紅は?」
真紅「えーと、私が願い事をして、不幸を水銀燈におっ被せる形にすれば……?
一応彼女は姉だし、身近な人としてカウントされるはず……いや、ダメか。
この願い方じゃ等価交換には多分なってないし……。でも、待って、それなら……」ブツブツ
ジュン「すっげー悪だくみで、頭をフル回転させてやがる」
翠星石「ええい! 真紅、いくらゲスでもこんな二本笹の呪いに頼っちゃあダメですぅ!」
雛苺「そうよ! 水銀燈を不幸にしたかったら、真紅が自分の手で陥れなくちゃなの!」
真紅「……ハッ! そ、そうね! 目が覚めたわ!
いつでも私達は自分で自分のやりたいようにやってきた。その基本を忘れていたとは!」
ジュン「嫌な基本だな」
蒼星石「……」
真紅「というわけで蒼星石、私達は二本笹になんか頼らないわ。部屋の冷房の件は、ジュンを殴ってでも2度下げさせてみせる」
蒼星石「その言葉が聞きたかった」
ジュン(……結局、暴力に頼るってことじゃねーか) - 129 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:36:58 ID:BQYXhFEg0
- §nのフィールド・二本笹
水銀燈「……気持ち悪いお願い事ばっかり結わってるわねぇ。
どれどれ? 『憎いアイツが死ぬなら、愛しい恋人が死んでもかまわない』? 何処の馬鹿よ
こんな願い事するのは。等価交換になってないし。そもそも愛と憎しみが正反対の等価だとでも思ってるわけぇ?」
薔薇水晶「愛の反対は無関心……と言いますものね。仮に噂が現実だとしても
愛しい恋人を犠牲にして殺せるのは、自分にとって無関心な者だけ……」
水銀燈「現世の痛短冊とかの方がよっぽど可愛げがあるわ」
薔薇水晶「そうですか? こちらの短冊の方が私には興味深い。何しろ、偽りのない本音というものが見えるわけですから」
水銀燈「nのフィールドの住人の方が性根が捻じ曲がってる奴が多いってだけ。
現実に順応できない奴らが逃げ込む世界なんだから、ここは」
薔薇水晶「これはまた乱暴な。ローゼンだってnのフィールドの……」
水銀燈「お父様だって同じようなものよ」
薔薇水晶「……」
水銀燈「……で、結局、私を誘ってまで、ここに来た理由は?」
薔薇水晶「誘ってはいません。水銀燈が勝手についてきただけです」
水銀燈「……」 - 130 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:39:22 ID:BQYXhFEg0
- 薔薇水晶「この二本笹の噂が出来上がるのに加担してしまった私達として責任をとっておくべきだと思うのです」
水銀燈「私達とは何よ、私『達』とは」
薔薇水晶「真紅の首が外れる要因を作ったのは水銀燈ですし、野薔薇を埋めたのは私。間違ってはいないはず」
水銀燈「……ふん、この二本笹を両方とも、へし折ろうとでも?」
薔薇水晶「まさか。噂は噂に過ぎない。ですから私も噂に則って始末をつけます」スッ
水銀燈「それは短冊? 薔薇水晶……あんた何か願い事を書いてきたの?」
┌───────────────────────
┤ 呪いの笹が誰の呪いも叶えなくなりますように
└───────────────────────
┌───────────────────────
┤ 願いの笹が誰の願いも叶えなくなりますように
└───────────────────────
水銀燈「……なるほどね。綺麗な等価交換だわ」 - 131 :名無しさん:2013/07/08(月) 23:52:43 ID:BQYXhFEg0
- 薔薇水晶「……」
水銀燈「地味だけど効果は覿面。二本笹の噂を信じる者からすれば、この薔薇水晶の願いと呪いも信じないといけなくなる」
薔薇水晶「ええ」
水銀燈「しかしアンタも物好きよねぇ。これだけのために、こんなところまで来たんだから」
薔薇水晶「ふふ、それは同行してくれた水銀燈も同じですよ」
水銀燈「……」
薔薇水晶「それに」
水銀燈「それに?」
薔薇水晶「この二本笹、真紅の首はともかくとして、あの『名を知らぬ花』の生まれ変わりではないかと私には感じられるのです」
水銀燈「野薔薇一号のこと? 随分な感傷ねぇ」
薔薇水晶「そうかもしれません。しかし……だからこそ、この二本笹が人の欲望で穢されていくことを許せないとも感じる」
水銀燈「穢れが溜まればメメントリオンがやって来る。どこだか知らないけど近くに野薔薇一号の遺体も埋まっている。
確率の問題で、新たなロゼリオンが誕生してしまうこともある……か」
薔薇水晶「……」
水銀燈「アンタ、ひょっとして野薔薇一号は当時の折れた一本笹の下に、ここに埋めたんじゃあないでしょうね?
そうだとしたら、お節介焼きのラプラスの魔が噂を流すのも……」
薔薇水晶「昔のことです。詳しい場所は、もう……忘れました」
薔薇水晶と二本笹 『終』
2013/07/09 19:18:06 コメント22 ユーザータグ ローゼンメイデン