SLPY

447 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:40:40.98 ID:GHZ96eRr
これまでの大体の流れ

§1 nのフィールドの住人達
§1-1 メメントリオン (長靴を履いた蒼星石と記憶の海賊
§1-2 野薔薇の咲く頃 (薔薇水晶と白い悪魔
§1-3 nフィー五大集団 (蒼星石の困惑と庭師の品格

§2 ロゼリオン
§2-1 ロゼリオンの噂 (蒼星石の返答と庭師の変革
§2-2 ロゼリオンの真実 (水銀燈と桜色のストゥーパ・ビブーティ
§2-3 ロゼリオンの結末 (薔薇乙女のうた『ロゼリオン』

§3 ザ・ニュー・ロゼリオン
§3-1 ロゼリオン後日談 (水銀燈と竜の骸に湧く蝿
§3-2 とある野薔薇の島 (薔薇乙女のうた『ある野薔薇とワタハミの樹』
§3-3 新世代ロゼリオン (青い絵と赤い絵そして薔薇乙女
§3-4 雌伏のロゼリオン (夕餉前の薔薇水晶


448 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:43:10.69 ID:GHZ96eRr
真紅「そんなのありえないのだわ翠星石! ちょっと貴女、頭おかしいんじゃない!?」

翠星石「なんですとーっ!? 真紅こそイカレポンチのアンポンタンですぅ!!」

蒼星石「ちょ、ちょっと二人とも落ち着いて……!」

雛苺「ケンカはダメなのよ~っ」

真紅「これが落ち着いていられるものですか蒼星石、雛苺! 温和メイデン真紅ちゃんの堪忍袋の緒もとうにぶちギレ金剛!」

翠星石「翠星石だって既にキレているですぅ! 妹相手と言えども、この翠星石、容赦はせんですよ!」

真紅「何をっ!?」

翠星石「何です!?」


449 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:44:27.36 ID:GHZ96eRr
ジュン「こらこらこら、何を騒いでいるんだ。蒼星石が遊びに来てくれてるのに」

蒼星石「あ、ジュン君」

雛苺「ジュ~ン~。二人を止めてなの~」

真紅「ガルルルルルっ!」

翠星石「フシャァーっ!」

ジュン「ストップ! ストーーーップ!!」

真紅「止めないでジュン! これはもう、拳で決着をつけるしかないのだわ!!」

翠星石「そうですそうですぅ! 翠星石だってやる時はやるのです!
     今がその時です! 自らの血を流さねば解決しない問題もあるのですぅ!」

ジュン「あーもう、とにかくひとまず座れ二人とも! 何が原因でケンカしていたんだ!?」

真紅「ロックマンでボス部屋に入る時はスライディングかジャンプかで意見が割れたのだわ」

翠星石「翠星石はスライディングがいいと言っているですのに真紅はジャンプだと言って譲らないのですぅ!!」

ジュン「はぁ~~っっ!?」


450 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:46:52.31 ID:GHZ96eRr
ジュン「く、くだらねぇ~……っ!」

翠星石「くだらないとは何ですか!? 翠星石たちは真剣なのですよ!!」

ジュン「やかましいわ。そんなしょーもないことで熱くなってんじゃ……」

真紅「でもねジュン、ボス部屋へチャージもせずに普通に歩いて入るという者がここにいるとしたら
    あなたは冷静でいられるのかしら?」

ジュン「ッッ!? 誰だ、それは!?」

蒼星石「ぼ、僕だけど……」

ジュン「お前、正気か!? 蒼星石!? チャージショットは溜めて入れよ、溜めて!!」

蒼星石「いや、なんだかボスに対してずるいかなぁ……と思って」

ジュン「ったく、変なところでフェアプレイ精神発揮しやがって……!」

翠星石「ほぉら、チビ人間だって熱くなっているですよ」

真紅「ええ。私と翠星石のバトルにも理解を示してほしいのだわ」

ジュン「うっ……、いや、しかしだな」

雛苺「頼りないのよジュン」

蒼星石「ミイラ取りがミイラになっちゃったね」

真紅「それでは皆の合意(?)も得られたところで……!」

翠星石「おうです! いざ尋常に……ッ!!」


451 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:49:45.51 ID:GHZ96eRr
少年「その勝負! お収めください!!」ガラッ

翠星石「何奴!?」

真紅「誰ッ!?」

少年「トキです! お忘れですか!?」

真紅「あ……」

雛苺「そういえば前に会ったことがあるのよね」

翠星石「チビ人間といい、クソボーズといい、今日は邪魔がよく入るですぅ」

蒼星石「しかし随分と久しぶりだ、トキ、どうかしたの?」

トキ「やはり、ここにおられましたね蒼星石さん! 薔薇屋敷にて一葉さんより、桜田さんのところだと……」

蒼星石「……? その慌てよう、何か良くないニュースのようだね」

ジュン「トキ君が良いニュース持って来たことないけどな」

トキ「恐縮であります」


452 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:51:16.07 ID:GHZ96eRr
翠星石「それで? まぁた蒼星石を便利屋のようにこき使うつもりですかぁ?」

トキ「う、いや、まあ、その……」

ジュン「まさか、図星なのかよ」

トキ「いえ、決してそのようなことは」

蒼星石「まあまあ、トキにも庭師連盟の使いとしての立場ってもんが……」

翠星石「しょせんは言われたことを伝えるだけのガキの使いですぅよ」

雛苺「ヒナもお使い得意なの!」

真紅「そういう意味じゃないのだわ雛苺」

トキ「ま、真に申し上げにくいことなのですが、率直にお伝えします。庭師連盟の武器庫より数点の庭師道具が盗難に遭いました」

翠星石「とー!?」

蒼星石「なん!?」

真紅「さあさあ、半荘1回の勝負でお願いするのだわ」ジャラジャラ

雛苺「うぃ! まずはヒナの親番なのよね」ジャラジャラ

ジュン「それは東南戦」


453 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:53:26.02 ID:GHZ96eRr
翠星石「そりゃまあ、お気の毒様としか言いようがないですが、まさか犯人探しを蒼星石に頼もうってんじゃあ……?」

トキ「いえ、犯行グループは既に分かっています」

蒼星石「……?」

トキ「オズマを首魁とするロゼリオン一味の仕業です」

蒼星石「ロ……!?」

真紅「ロン!」パタン

雛苺「うにゃにゃにゃ!? 真紅の手が揃うの早すぎるのよーっ!?」

ジュン「遊んでいないで、お前らも話を聞け」


454 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 19:55:17.03 ID:GHZ96eRr
翠星石「ロゼリオン~~!?」

蒼星石「それは本当なのか?」

トキ「はい。奴らは大胆にも犯行メッセージを残していきました。
   この庭師道具を使って、蒼星石さん方ローゼンメイデンに挑戦する……と」

雛苺「ええっ!?」

真紅「……ついに、あの子達も本格的に動き出したと言うわけね」

ジュン「けど、急に大っぴらに動きすぎじゃないのか!?
     庭師連盟ってnフィー内でもトップの集団のはずだろ? そこの武器庫を襲うだなんて……」

トキ「庭師道具管理責任者のシキ兄様が留守で、警備も手薄な時を狙われました」

蒼星石「!? ひょっとして庭師連盟内にロゼリオンを手引きした者が?」

トキ「盟主はそう考えています。庭師連盟内の権力が我ら十人兄弟に集中しているのを嫌う輩は多いですから」

翠星石「獅子身中の虫ですね。だから蒼星石にも面倒な話がよく振られてしまうのですか」

トキ「何にせよ庭師道具を盗まれた咎でシキ兄様が責任を問われるのは勿論、盟主の進退問題にまで発展しかねない状況です」

蒼星石「カズキさんにまで責任問題が波及? 確かに盗難事件は重大な問題だが、そこまで……」

トキ「盗まれたのがただの庭師道具であれば……です」

蒼星石「?」


455 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:04:25.83 ID:GHZ96eRr
トキ「盗まれた庭師道具は全部で七点。『庭師の礫(つぶて)』『庭師の円匙(えんし)』 『庭師の黒縄(こくじょう)』『庭師の鉄杭』
   『庭師の霞網』『庭師の糸車』、これらも大変な代物ですが何よりも問題となっているのが『庭師の傀儡(くぐつ)』」

蒼星石「馬鹿な! 庭師の傀儡は廃棄されたはず!!」

トキ「わ、私もそのように聞き及んでいます。しかし……」

蒼星石「何故だ!? 何故アレをそのまま残していた! 絶対に捨てると!!」

トキ「す、すいません! 私も知らなかったのです! 隠していたなど!!」

蒼星石「くっ……、これ以上トキを責めてもしかたないか」

トキ「本当に……すいません……」

雛苺「蒼星石、怖いのよ……」

翠星石「そ、その庭師の傀儡ってぇのは何なのですか?」

真紅「蒼星石がこれほど怒るとは相当ね。大体察しはつくけど」

蒼星石「昔、庭師連盟に入会する時に審査された僕のデータから作られた傀儡人形だ」

ジュン「!?」

翠星石「んなっ!? あいつら、そんな下種な真似を!?」

蒼星石「勿論、表面的なデータからしかそれは作られていなかった。自律的な行動など不可能なただの人形の形をした武器。
     繰り手が糸を使って自分の生命力を送り操作する、操り人形だ」

トキ「庭師連盟のスタンスとしては、あくまで道具は庭師が使うもの。
   庭師の傀儡はそれで庭師道具として充分に有用な出来でした」

真紅「理由や目的がどうであれ、反吐が出るわ。それを量産しようとしていたら、まず真っ先に貴方達を潰していた」

トキ「……」

蒼星石「庭師道具は一点物であるというのが基本だからね。量産化はまず無い。僕はその庭師の傀儡の所持者と勝負して
     その傀儡を破壊した。そして、それを修復せずに破棄するように約束したはずだが……」

雛苺「うゆゆ、その人は蒼星石との約束を破っちゃったのよね」


456 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:07:03.03 ID:GHZ96eRr
トキ「……庭師の傀儡の破棄については庭師連盟内でも文書として残っている事実です」

真紅「公式には廃棄されたはずのものが盗難に遭った。なるほど、盟主にまで問題が飛び火するはずだわ」

翠星石「ふん、いい気味ですよ。自分達だけでコソコソ隠し事するからです」

蒼星石「ロゼリオンを手引きした者はそこまで考えていたのだろうか」

トキ「おそらく」

蒼星石「……ロキさんと会うことは可能か? トキ?」

トキ「無理です。盟主カズキとシキ兄様はもとよりニキ、ミキ、ゴキ、ロキ兄様までは行動が制限され、監視がついています」

蒼星石「流石に十人兄弟全てにまで手を回しはしないか。露骨過ぎるからな」

雛苺「えぇと、どうして蒼星石はロキさんって人に会いたいのよ?」

ジュン「庭師道具のことならシキさんが一番詳しいはずじゃ?」

蒼星石「うん、そのとおりだけど、庭師の傀儡に限ってはロキさんが一番詳しい。
     何しろ彼が庭師の傀儡の所有者だったんだから」

翠星石「!?」

真紅「そ、それじゃあ蒼星石が打ち負かした相手っていうのも?」

蒼星石「そう。ロキさんだ。彼に直接、問いただせれば一番だったんだが」


457 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:09:40.89 ID:GHZ96eRr
トキ「正直、今の庭師連盟の動向は盗まれた庭師道具の奪還よりも盟主兄弟への責任追及に力を注いでいます」

翠星石「かーっ! やれやれ、救えねぇ奴らですね。もう、どうにでもなっちまえです連盟なんざ」

トキ「そんなこと言わないでくださいよ、翠星石さん~っ」

翠星石「泣くなです! トキ! じょ、冗談ですから冗談」

雛苺「けど、これからどうすればいいのよ?」

蒼星石「ひとまず、庭師連盟の騒動に僕達が介入するのはよそう。
     庭師の傀儡の件は気になるが、あくまで僕達は部外者だ。それよりも問題なのは」

トキ「ロゼリオンですね。わざわざ犯行メッセージを残したことからも、すぐにでも蒼星石さん達に仕掛けてくるかと」

蒼星石「そう思ったからこそ、トキも急いで知らせに来てくれたんだろ?」

トキ「はい。ですが私もすぐに庭師連盟に戻らねばなりません。何かあった時には兄上様達の助けとならねば……」

蒼星石「今回はそれで充分だ。ロゼリオンの方は僕らで決着をつけなければいけない問題でもある。
     相手が庭師道具を使ってくるという情報だけでも助けになる」

トキ「そう言っていただけるなら感謝の極み」

蒼星石「事態が沈静化して、カズキさん、シキさんやロキさんに会えるようになったら
     『僕がよろしく言っていた』そう伝えておいてくれ」

トキ「……!」

蒼星石「くれぐれも頼んだよ」

トキ「は、はい。それでは失礼します」


458 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:15:10.33 ID:GHZ96eRr
ジュン「……やれやれ、カズキさんもシキさんも、トキ君も悪い人じゃない筈なんだけどなぁ」

蒼星石「ジュン君がまだ会ったことがない他の十人兄弟も同様だよ。ロキさんだって勝負の後には僕の言い分を理解してくれていた。
     しかし個人としてはそうでも、組織としての立場を伴うようになると正しいだけでは立ち行かなく事もあるんだろう」

翠星石「だからといってですねぇ蒼星石! 蒼星石がそういう甘い顔ばっかりしていると
     結局貧乏くじばかり掴まされることになるんですぅよ」

蒼星石「僕の性分なんだろうね。反省するよ」

真紅「ま、そういう蒼星石が私は好きなのだわ。なんだかんだ言っても翠星石だってそう」

翠星石「むぅ……」

雛苺「ヒナも! ヒナも蒼星石のことは好きなのよ~!」

蒼星石「……さて、当面の問題はロゼリオンだ。庭師の傀儡の他の六つの庭師道具も強力。
     彼女達がそれを使いこなしてくるとなると多少厄介だが……」

真紅「それよりも七つというのが気にかかるのだわ。ロゼリオンは全部で六体。
    彼女達は薔薇水晶を七人目の仲間に引き込んで、私達と闘う目論見だったはず」

ジュン「薔薇水晶の他に新たなロゼリオン候補が見つかったのか? それとも……」



メイメイ「……ッ!」しゅぱー



雛苺「あ、メイメイが窓から入ってきたの」

翠星石「水銀燈専属の人工精霊じゃねーですか。何か用ですか?」

蒼星石「水銀燈からのメッセージかい?」

メイメイ「……!!」

ジュン「な、何ぃ!? 薔薇水晶が!?」

真紅「さらわれたぁッ!?」

翠星石「そりゃ歩くのが難儀になっちまったですねぇ」

ジュン「あほう! 膝の皿が割れたってことじゃない! 誘拐されたってことだ! ユーカイ!!」

翠星石「なんですとーっ!?」


459 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:16:19.21 ID:GHZ96eRr
§三十分後・EnjuDoll(槐の店)

水銀燈「奴らを甘く見ていたのかもしれない……」

真紅「水銀燈……」

金糸雀「ほ、本当に薔薇水晶がロゼリオン達の手に落ちたのかしら?」

槐「僕だって信じたくないが、先ほどこれが送られてきた」ゴロッ

雛苺「ッ!?」

ジュン「こ、これは!?」

雪華綺晶「右腕……ですわね。薔薇水晶の」

蒼星石「むごい真似を……っ!」

雛苺「そ、そんなぁ薔薇水晶、ひょっとして死ん……?」

水銀燈「いいえ。薔薇水晶は人質よ。この右腕と一緒にロゼリオンからの手紙も届いていた」

ジュン「な、なんて書いてあったんだ?」

水銀燈「私達へのラブレター。伝説の樹の下で告白したいんですってさ。二人っきりで」

雪華綺晶「私達それぞれとの一対一の決闘を望んでいるのですね」


460 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:18:42.02 ID:GHZ96eRr
翠星石「そ、そんな!? どう考えたって罠じゃないですか!?」

蒼星石「庭師道具という武器を得たロゼリオンが自分に有利な場所を指定しての果し合いか。できればお断りしたいところだが」

槐「そうさせないための人質だ。君達が渋れば時間が経つにつれ薔薇水晶の体をちぎって送ってくる」

ジュン「馬鹿な!!」

槐「効果的なやり方だ。こう使えば人質も一人で充分に事足りる。
  その上、自分達のイカレ具合、いや、この場合は真剣さか、それも強烈にアピールできる」

ジュン「槐先生! アナタ何を冷静に相手の分析しているんですか!?
     薔薇水晶が、娘の体がちぎられているんですよ!! よくもそう平気で……」

真紅「やめなさいジュン! 薔薇水晶さえ取り戻せば、彼女の体は槐が直せる!」

ジュン「真紅!? そういう問題じゃないだろ、今は!」

水銀燈「ふん。真紅のマスターはどん臭いから何も感じないんでしょうけど、私には今の槐に話しかけることすら躊躇われるわよ」

ジュン「?」

雪華綺晶「人の怒りには二種類ある。真っ赤に激しく燃え盛る怒りと、真っ青に凍てつき滾る怒りが」

槐「……」

ジュン「え、槐先生?」

槐「ロゼリオンはローゼンメイデンをご指名だ。僕が出向くわけにはいかない」

金糸雀「槐……」

雛苺「わ、分かったのよ。槐先生の代わりにヒナが悪い子を懲らしめてあげるの」

翠星石「薔薇水晶救出作戦……ですか」

蒼星石「時間が惜しい、薔薇水晶がこれ以上バラされる前に行動したい。
     簡易にだがロゼリオンが持っていると思われる庭師道具について説明する」

雪華綺晶「……」


461 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:21:14.34 ID:GHZ96eRr
蒼星石「……以上。だが、彼女達もわざわざ盗んだ現場で僕達相手へのメッセージを残していることから
     庭師道具は囮として使ってくる可能性も高い。そのことも頭に入れておいてくれ」

金糸雀「合点かしら」

真紅「いざ決戦の地へ……ね」

蒼星石「相手も必死だ。翠星石、雛苺、分かっていると思うが情けをかけたりすることはロゼリオンへの侮辱になる」

翠星石「う……」

雛苺「にゅにゅにゅ」

蒼星石「多くの人形は自殺が出来ない。ロゼリオンは目的があって生きているんじゃない。
     死ねないから、目的を探している。今まで自分達が生きていた目的、生きている目的、生きていく目的……」

翠星石「みなまで言うなです蒼星石。翠星石だって分かっているのです。
     自らの手を汚さなければ解決しない問題があるということも」

雛苺「ヒナだって覚悟はあるの、一人だけでも戦えるのよ!」

蒼星石「……」

雪華綺晶「……では、行きますか。それぞれの戦場へ」


462 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:23:53.17 ID:GHZ96eRr
槐「……乙女達は戦場へ行った、か。相手が誰であれ彼女達は天下のローゼンメイデンだ。
  姉妹同士の争い以外で負けることはまず無いだろう」

ジュン「真紅達を倒したことのある薔薇水晶がロゼリオン達に捕らえられたのに、ですか?」

槐「……蒼星石も厳しいことを言ってくれていたね。
  誰だって明確な目的を持って生きているわけじゃないのに。人形が自分探しをするのは間違いだと言わんばかりだ」

ジュン「……? そ、それは、真紅達には最初から強固な宿命が課せられていたから」

槐「まあね。目的も無く人形を作る奴なんていない」

ジュン「……あ、あの槐先生!」

槐「?」

ジュン「ええと、すいませんでした。さっきは僕の勝手な思い込みで槐先生のことを非難したりして」

槐「そう思うのも無理はない」

ジュン「けど、やっぱり槐先生は薔薇水晶のことで水銀燈や雪華綺晶の言うとおりに静かな怒りを……」

槐「いや、そのまま彼女達の言ったとおりというわけではない。僕が怒りを覚えているのは確かだが……」

ジュン「?」

槐「僕も行かなくちゃいけない場所ができた。ジュン君はどうする?」

ジュン「僕がついて行ってもいいんですか?」

槐「君さえよければ、だが」

ジュン「……! 行きます」


463 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:29:04.22 ID:GHZ96eRr
§nのフィールド・夢女の塩田

記憶の海岸線に広がる領域。
子と生き別れた母親の情念が凝り固まって生まれた、のっぺらぼうのような妖怪『夢女』達が
自らの子供の姿を浜の砂や泥で作ろうと地面をほじくり回した結果
かき回され練られた塩と泥で一帯が覆われている。夢女達は今日もまた、波で壊されながら子供の像を何度も作り続ける。



オズマ「お早いお着き。期待通りです、水銀燈」

水銀燈「アンタがオズマ、ロゼリオンの長女ね」

オズマ「いかにも」

水銀燈(野薔薇としてはオーソドックスなタイプ。ワンレンの金髪碧眼、真紅に少し似ているか。
     ナチスドイツ時代に最良とされたアーリア人種型……)

オズマ「既にご存知とは思いますが、素手では勝てる気がしないので、こちらは武器を使わせてもらいます」

水銀燈「好きにすればいい。この場所もアンタが自分に有利だと思って選んだんでしょ?
     なんならもう少しハンデをつけてあげましょうか? 両手を使わないでいてあげるとか」

オズマ「それは流石に自惚れが過ぎるのでは?」


464 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 20:31:05.06 ID:GHZ96eRr
水銀燈「目障りなのよ。アンタら身の程知らずの相手をさせられる私達の身にもなってみなさい。
     礼儀も分も弁えないから手段も選ばず、私達を泥仕合に引きずり込む。そういう相手はただ倒すだけじゃ意味が無い。
     むこう1000年間は私に歯向かう気が起きないように、完膚なきまでに叩き潰す」

オズマ「命だけは見逃してやると言いたげですね」

水銀燈「……物の例えよ。ここでアンタを始末することには変わりが無い! 行けぇ!! 黒羽根ェッ!!」ドバオッ

オズマ「ッ!?」ジャキッ

水銀燈(奴が構えたアレは? シャベル? 庭師の円匙か!!)

オズマ「ハッ!!」ドボッ

水銀燈「地面に潜って羽根を避けた!? くっ……」

オズマ「そこぉッ!!」ずぼっ

水銀燈「なんの」ひらり

オズマ「……飛んで逃げたか」

水銀燈「なぁるほど。庭師の円匙の能力を最大限に活かす為に
     地面の柔らかいこの夢女の塩田地帯を勝負の場所に選んだ……」ばさばさ

オズマ「そのとおり。そこまで分かっていたなら」

水銀燈「?」

オズマ「私は暢気に空に飛び上がったりはしませんけどね」

水銀燈「ッ!?」

オズマ「塩よ! 泥よ! 逆巻き爆ぜよ!!」ザクゥッ!

水銀燈「チィッ!? 庭師の円匙で泥を巻き上げ、弾丸として打ち出すか!?
     けど、そんな攻撃を貰うほど私はノロマじゃあない!!」

オズマ「それはそうでしょう、今のうちは……ね」ドドドド


465 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:01:03.55 ID:GHZ96eRr
水銀燈「……ッ!? な、何? 翼が重い!? 直撃は受けていないはず……」ばさっばさっ

オズマ「私が巻き上げ続けた塩と泥の粒子が、貴女の翼に付着しているのだ水銀燈!」

水銀燈「ッ!?」ぐぐっ

オズマ「その状態では湿気って火羽根も使えまい!」

水銀燈「ダメか! これ以上は……飛んでいられない!!」すとっ

オズマ「ふふ、いい気分ですよ。上から見下ろしていた存在を自分と同じ目線へと引きずり下ろすというものは」

水銀燈「……」

オズマ「翼を使えない水銀燈などまさしく羽をもがれた鳥! 地に足をつけた状態での戦いなら……!!」

水銀燈「ふぅ……。私も軽く見られたものね」

オズマ「っ?」

水銀燈「翼さえ封じれば勝てるとでも思ったのか? 痴れ者が」ぎろっ

オズマ「!!」ビクッ


466 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:02:29.74 ID:GHZ96eRr
オズマ(気圧されるな! 水銀燈は羽根が使えない! 武器が無い! どう考えても、この地で円匙もある私が有利!!)

水銀燈「シッ!」ズドォ

オズマ「ッ!? 正拳突き!? 一瞬でここまで距離を詰められるとは!」ギャリッ

水銀燈「なかなかの反応速度ね。とっさにシャベルでガードした」

オズマ「くっ……」ぴしっ

水銀燈「でも、次は耐えられるかしら」

オズマ(なんてこと、一撃で庭師の円匙にヒビが……!)

水銀燈「真紅なら今の一撃でシャベルごと打ち抜いていたんだろうけど。あいにく私は殴る蹴るってのは
     野蛮で苦手なのよねぇ……。足元がこぉんなに、ぬかるんでいたんじゃあ泥もたくさん撥ねちゃうし」ばささっ

オズマ(羽をふるって泥を落とした? まさか、もう飛び上がれるようになったのか!?)


467 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:04:33.14 ID:GHZ96eRr
オズマ「手は……使わないのではなかったので?」

水銀燈「サービスは要らないと、アンタは答えたはずよ」ブンッ

オズマ「くあっ!」さっ

水銀燈「流石に同じ手は二度もくわないようね。それとも、そのシャベルで受けきる自信が無いのかしら」ばささっ

オズマ(シャベルのダメージを見抜かれている。しかし、まただ。また羽をふるって泥を落とした? 隙を見て翼を整えているのか?)

水銀燈「今度こそ当てる!!」

オズマ(いや、違う! アンカーだ! 水銀燈は正拳付きの際に自分の体を固定するために翼を地面に刺して
     アンカーにしている! だから、このぬかるんだ地でも重い拳が打てる! 落とした泥はその時に付いた!)

水銀燈「ハァッ!!」ブオッ

オズマ「種さえ分かれば避けるのは容易い!」スッ

水銀燈「!?」

オズマ「そうそう何度も見せられる芸ではなかったな水銀燈! 体を固定する分、拳の軌道も限定される!!」

水銀燈「もう勘付いたか」

オズマ「空を飛べない翼を、今度は地に繋ぎとめるために使うとは! やはり水銀燈! あなたは手強い!!」

水銀燈「今さら認識を改めたところで、既に手遅れ!!」

オズマ「何事にも考えを改めるに遅すぎるということは無いッ!」

水銀燈「減らず口をッ!!」

オズマ「庭師の円匙! 私に力を!!」ドブン

水銀燈「!? 潜った!? また!?」


468 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:07:11.60 ID:GHZ96eRr
水銀燈「地面の中から攻撃するつもり!?」

触手A「!」ドバオッ

水銀燈「ロゼリオンのバッカルコーン(口円錐触手)!?」サッ

触手B「!」ゴバッ

水銀燈「こっちからも!? 挟み撃ちにする気か!」

触手C「!」ズボッ

水銀燈「本体は地面の中に隠れて触手だけ出してきたか! しかし、バッカルコーンをここまで伸ばすことができるとは……!!」

触手D「!」ズッ
触手E「!」ドッ
触手F「!」ガッ

水銀燈「しまった!? 掴まれた!?」



オズマ(地中)『このまま握りつぶす!』



水銀燈「冗談! メイメイ!! 今よ!!」

メイメイ「!」ヒュパッ

水銀燈「六本全ての触手を使って私を縛りあげたせいで相手も今、地中から出られない!
     メイメイ! あなたなら奴の掘った穴をたどり本体を叩ける!」

メイメイ「ッ!!」ズボ


469 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:08:23.39 ID:GHZ96eRr
オズマ(地中)『!? しまった! 触手を引っ込めて浮上せねば……!!』



水銀燈「ダメダメ、折角の抱擁なんだから。もう少し楽しみましょう」ガシッ



オズマ(地中)『くっ!? びくともしない! また翼をアンカーにしているな! は、離せ!』



水銀燈「あらあら、抱きついたのはアンタの方でしょうが」ぎりり



メイメイ(地中)『!』しゃきーん

オズマ(地中)『き、来た!』



水銀燈「覚悟もなく薔薇乙女を抱こうとするから、こうなる」


470 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:12:43.79 ID:GHZ96eRr
メイメイ(地中)『!』カッ

オズマ(地中)『じ、人工精霊がーっ』



どばーん



オズマ「……人工精霊が火を……吹いた」ぼてっ

水銀燈「メイメイの爆破は正直大したことはない。
     しかし、地中の狭い穴の中では、その衝撃もこもって大威力となる。地上にまでアンタを吹き飛ばすほど」

オズマ「う、く……」

水銀燈「ふぅーっ。なかなかいい気分ね。地下に引っ込んだ相手を自分と同じ目線の高さにまで炙り出すというのは……」

オズマ「同じ……目線……か。く、ふふ……。私は最早……
     立ち上がることもできず、水銀燈に見下ろされている……だけのこの状況が」

水銀燈「自虐には聞こえないわね」

オズマ「長い長い間、暗い穴蔵を彷徨った挙句の短い闘い。それでも……私は……満足……」

水銀燈「……」

オズマ「空が……見える、水銀燈の顔が……見える。な……んて、いい気持……ち……」

水銀燈「……死んだか。嬉しそうな顔しちゃって」

オズマ「……」

メイメイ「……!」ひょろろ

水銀燈「ご苦労だったわねメイメイ、助かった。さ、次は薔薇水晶探しよ」

メイメイ「……」ふよふよ

オズマ「……」

水銀燈「私に人工精霊を使わせるとは、ロゼリオンの長女ってのも伊達じゃあなかった……か」


471 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:17:41.32 ID:GHZ96eRr
§庭師連盟・盟主執務室

カズキ「……こうして兄弟が半分以上集うのは久しぶりだ。どれ、今日は俺が紅茶を淹れよう」

ニキ「状況が状況だけに喜べるものでもないがな兄者。実質これは軟禁状態だ」

ミキ「そうとも。のんきに茶なんぞ飲んでいる場合では!」

ゴキ「ミキさん、落ち着いて。今は慌てても仕方ないでしょう」

ミキ「なんだとゴキ!?」

カズキ「やめろ二人とも。ここで兄弟間で争っても意味がない。それこそ、奴らの思うつぼだ」

ミキ「……」

カズキ「ナナキ達が無事なのは確かなんだろうな? シキ?」

シキ「はい。ナナキ以下の兄弟達は拘束などされておらず、平時通りの活動を許されています」

ロキ「……麗しの兄様達を助けに来るような可愛らしさはないみたいだな」

ゴキ「ロキさん。ここでナナキさん達が強行に私達を助けに来てみなさい?
   カズキさん一人の首が飛ぶだけでは済まない騒ぎになる」

ロキ「分かってるよゴキ兄貴。ナナキ達は賢い判断をしている。兄貴達皆も鼻が高かろうよ」

カズキ「お前の判断は賢くなかったようだがな、ロキ」

ロキ「……」

カズキ「何故、庭師の傀儡を廃棄処分したと俺に偽った? 蒼星石との約束を何故、破った?」

シキ「カズキ兄さん、ここでの会話は全て記録されて……」

カズキ「分かっている。いや、むしろ好都合だ。たとえ身内であろうと、身内だからこそ不正はたださねばならん」

ロキ「……」

カズキ「シキ? 庭師道具の管理人はお前だ。お前もロキの不正に加担していたのか?
     まさか、自分も知らない内に保管庫に傀儡があったとは言うまいな」

シキ「……」


472 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:22:58.44 ID:GHZ96eRr
§nのフィールド・雷雨の竹林

常に天と地の間に雷鳴が響き渡り、また雨が降っていることも多い領域。この領域固有種のヴォーパルパンダは凶暴で有名。



オズミ「会えた。また会えた。あなたは確か、金糸雀」

金糸雀「カナもあなたの事は覚えているかしら。ネクロポリタン美術館から絵を盗んだロゼリオン」

オズミ「おお、おお。勝負っ! 勝負……ッ!!」

金糸雀(……以前見た時とは様子が違う? 強くなるために無茶をして呪いを取り込み続けたのかしら!?)

オズミ「使う! これ! 庭師の……黒縄!」シュバッ

金糸雀「ロ、ロープ!?」サッ

オズミ「逃げない! 捕まえる! 吊るす! 吊るして刻む!!」ズドド

金糸雀「クッ! 庭師の黒縄! 蒼星石が教えてくれた情報によると全長3kmにまで伸び、持ち手の意のままに動く黒鉄の縄!!
     一度捕まってしまうと逃げ出すことは困難……いや、竹をひしゃぎ土を抉るこの威力! ぶつけられただけでダメージ必至」

オズミ「捕まえる! 捕まえる! 捕まえて吊るす!!」

金糸雀「でも、水銀燈の黒羽根乱射に比べれば、ただ一本の縄!
     こんなのに捕まるわけないのかしら……! とにかく一旦距離をとらなくちゃ」


473 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:25:14.55 ID:GHZ96eRr
金糸雀「!?」ガツッ

オズミ「!」にやり

金糸雀「何!? し、しまった! 竹にぶつかって……!?」

オズミ「もらった! 捻じ切れろ! 黒縄!」

金糸雀「パ、パルティータ!!」♪~♪♪~

オズミ「!? お、音波で縄の軌道を……逸らした?」

金糸雀「くっ! 危ないところだったかしら!
     なるほどカナが逃げにくいように、この雷雨の竹林を戦場に! でも、逃げにくくなったのは相手も同じかしら!」

オズミ「……! 今度こそ捕まえ! 捕まえる! 伸びろ! 黒縄!」

金糸雀「カナの演奏は縄よりも早いかしら! 聞け! そして鎮まれ!! 沈黙のレクイエム!!」♪~♪♪~


474 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:27:46.55 ID:GHZ96eRr
オズミ「ッ!?」



ガカカッ ガラガラガラガラ



オズミ「……」けろり

金糸雀「沈黙のレクイエムが効いてない!? ま、まさか……」



ピシャーッ ゴロロロロロロ



金糸雀「雷鳴……? これのせいで!?」

オズミ「雷は聴覚を鈍らせる。金糸雀の音、聞きにくければ効きにくい。さらに」



ポッポッポッ ザアアアアア



金糸雀「……! あ、雨……!?」

オズミ「これでまたさらに! さらにさらにさらに! 曲は聞こえない!」

金糸雀「だ、だったら演奏が届くところまで接近を! 黒縄が伸びた内側、相手の懐になら突入できるかしら!!」だっ

オズミ「寄らせない! 見やれ! バッカルコーン!!」うじゅるるるる

金糸雀「しょ、触手まで伸びるのかしら!?」ずささっ


475 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:47:16.06 ID:2vx4W0FE
オズミ「三度目の正直! 今度こそ! 捕らえて黒縄!」

金糸雀「近寄れば六本の触手でカナを遠ざけ、そこを黒縄で捕らえる! これがあのロゼリオンの戦法!?
     このままじゃまずいかしら! 何か突破口を見つけないと……そのうち捕まってしまう!」

オズミ「いつまでもちょこまかと!」

金糸雀「……直線で逃げては駄目かしら! 相手を中心とした円の動きでこの動きでなら何とか黒縄を……」


476 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:47:41.74 ID:dw6f8juP
オズミ「考え事をしていると、足が鈍る」ガシーン

金糸雀「ああっ!? 黒縄に捕まっちゃったかしら!!」

オズミ「次は腕!」ぎゅるるる

金糸雀「か、かしらぁああああ」ぽとっ

オズミ「バイオリンを落とした。腕も縛った。金糸雀はもう歌えない!! 勝った!」

金糸雀「……うぅぐ」

オズミ「けど、けど金糸雀の目は諦めてはいない。奴は策士、頭がいい。私を油断させて近付かせるためのフリかもしれない」


477 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:51:20.72 ID:2vx4W0FE
オズミ「このまま確実に息の根を止める。止めて完全な勝利……!」

金糸雀「……見抜かれちゃっていたのかしら。あなたも結構策士ね」

オズミ「?」

金糸雀「独唱(アリア)! 『ある晴れた日に(蝶々夫人)』!」♪~♪♪~

オズミ「馬鹿な! 歌った!? バイオリンも無しに!?」

金糸雀「♪~♪♪~~」

オズミ「しかし! 遠い! 遠い遠い遠い! 私には少ししか聞こえない! 届かない!」

金糸雀「♪~♪♪~~」

ビシビシビシ

オズミ「黒縄が!? 崩壊していく!? な、何故……」


478 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:51:39.78 ID:dw6f8juP
金糸雀「げほっ げほげほげほ……」すたっ

オズミ「何故? なぜなぜなぜ」

金糸雀「金糸雀の名は伊達じゃあないかしら。でも、本当に奥の手、この独唱は。姉妹相手にもまだ秘密の技。
     威力も射程も演奏には遠く及ばない。けど、カナに密着していた黒縄を固有振動で崩す程度はできる」

オズミ「な、縄はもう使えないのか。で、でも、まだ! まだまだ!
     私には触手が六本も……!! この密生した竹林では、まだ私の方が有利」


479 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:54:18.19 ID:GHZ96eRr
金糸雀「おあいにくさまかしら。カナだって竹林では有利なのかしら」すっ

オズミ「バイオリンを拾う気か!? させない! させるか! 私の触手でも、そこまで伸ばすことはできるっ!」

金糸雀「バイオリンを拾うのを邪魔する気? その必要はぜーんぜん無いのかしら。
     このままよ、地面にバイオリンが落ちて刺さった状態。これがグッド」

オズミ「私の方が、金糸雀がバイオリンを持ちあげるより早いっ!!」

金糸雀「疑似チェロ奏法! 第六交響曲!!」♪~♪♪~~

オズミ「なっ……!? 音が響く!? 曲が届く!? な、ナゼェーッッ!?」



ぱきょーん



オズミ「う、うあああっ!? あああ!」どぐしゃ

金糸雀「間一髪。バイオリンをチェロみたいに地面に垂直に立てて奏でるのは邪法だけど……やれやれ、まにあったかしら」

オズミ「ぐ……は……。どどど、どうして!? 金糸雀の曲が!? 私に届く!? ま、まだ距離は充分に……」


480 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 21:57:01.57 ID:GHZ96eRr
金糸雀「……翠星石が昔、教えてくれたのかしら」ざっざっ

オズミ「か、金糸雀! 来た!? トドメを私に刺す気……か」

金糸雀「竹林に生えている竹の根は全て繋がっている。竹林はそれ自体が巨大で一個の植物である……と」

オズミ「……! じゃ、じゃあバイオリンを落としたのは」

金糸雀「ええ、地面に突き刺し、竹の根っこへと音波を送りやすくするため」

オズミ「!」

金糸雀「雨が降ってきたおかげで竹の根にも水が満ち、よく音を伝えてくれたかしら。
     音は根を巡り、あなたのすぐそばの竹からあなためがけて発射された」

オズミ「……ど、どうして……私の位置だけに音波が集中を……?」

金糸雀「沈黙のレクイエム。あれでカナは、あなたと自分の周りの地下の竹の根の張り具合を確認したのかしら。
     あとは、カナとあなたの間以外に伸びる邪魔な竹の根を、その黒縄で切断してもらっていたかしら」

オズミ「私のまわりをぐるぐる回って逃げたのは、そのため……」

金糸雀「黒縄を使っている間はあなたは持ち場から動かない。そして最後に、カナとあなたの間の
     竹の根直通ホットラインが完成したのを見計らって、念を入れて黒縄を破壊って段取りかしら」

オズミ「くっ……」

金糸雀「以上、解説終了かしら。他に御質問は?」

オズミ「ありま……せん」

金糸雀「潔し! さよならかしらロゼリオン!!」♪~♪♪~~

オズミ「……いい曲ね。美し……」

金糸雀「……」♪~♪♪~~

オズミ「……」ボゴアァッ


481 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:01:43.44 ID:GHZ96eRr
§庭師連盟・盟主執務室

ロキ「なあ、カズキ」

カズキ「?」

ロキ「俺の言うことを本当に信じてくれるか?」

ゴキ「ロキさん? それはどういう意味で?」

ロキ「蒼星石との約束を俺はちゃんと履行した。彼女に半壊された庭師の傀儡を俺は完全に破壊して焼き払った」

ミキ「おいおいおい、ロキちゃんよ! だったらなんで……!?」

シキ「自己再生能力です。とは言っても時間はかかる。
   ロキが焼却処分したはずの傀儡は一か月後には完全に復元された状態で発見された」

カズキ「!? 再生能力!? そんなものが傀儡にあるとは……?」

シキ「再生スピードが遅すぎて気付かなかったのです。
   それまでは再生が始まる前に破損個所を私が修理していたから。それが、その時になって……」

ロキ「スピードは遅くとも再現性は抜群だ。いくら壊そうがすり潰そうが、一ヶ月後には元に戻っちまう。
   仕方がないから、武器庫の奥に死蔵することとなった」

ニキ「腑に落ちないな。庭師の傀儡は、シキ、お前が作った物ではないのか?
   何故、再生能力が備わっていたことを知らなかった? 偶然の産物か?」

シキ「私だけで作り上げた物ではないのです」

カズキ「……レイキか!?」

シキ「すいませんでした。今まで言い出せずにいて。
   それに本当にレイキ姉様が手伝ってくれたと判断してよいか、確信もなかったので」

ミキ「お前! 魔女レイキが庭師時代に関わった物は、なんであろうと処分しなければならなかったはずだ!!
   蒼星石との約束どころじゃあない! 連盟への大変な背信だぞ!!」

ニキ「……確信が無かったとはどういう意味だシキ?」

シキ「庭師の傀儡の開発中に、なかなかうまく完成できないことをレイキ姉様に相談したら
   いくつかアドバイスをもらい、それに従ってやってみたまでで……」

カズキ「……なるほど。あくまでレイキは口を出しただけで、手は出していないということか。
     確かにどう扱うかは判断しづらいものだな」

ロキ「……」

カズキ「ロキは知っていたのか? 傀儡にレイキの意見が取り入れられていたことを」

ロキ「なんとなく姉貴の匂いは感じたよ。けど、あくまでなんとなくだ。
   それを誰にも言ったことはねぇし、シキの兄貴に尋ねたこともねぇ」


482 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:05:19.08 ID:GHZ96eRr
§nのフィールド・愚者の砂漠

乾燥した砂漠が続いている領域。固有種としてテレポーテーション能力を持つグシャキャット(愚者猫)や
毒の種子を作るロックンローズ(愚者の薔薇)などが存在する。



翠星石「水と緑の申し子の翠星石だから、砂漠は苦手だと思ったのですか」

オズム「そうです」

翠星石「随分と安っぽい算段ですねぇ。砂漠だからといって翠星石が全く植物を使えないわけねーだろーがです」

オズム「そうでしょうね。けど、いくつか戦法が制限されるのも事実。
     薔薇乙女の中でも金糸雀と翠星石は特に多彩と聞いていますれば」

翠星石「……」

オズム「正直、私も砂漠は苦手です。何しろこの身の半分はメメントリオン。乾燥に強い生き物ではございませんので」

翠星石「おうおう、得意のエリアに誘い込んだかと思えば
     次は自分の弱みをバラすですか……卑怯なんだか正直なんだか分からねーですね」

オズム「闘争とはそういうもの。そして勝負はシンプルな方がいい」ジャキッ

翠星石「庭師の鉄杭!?」

オズム「予習されているのですね。ますます結構。知ってのとおりこれは庭師の礫や円匙、黒縄と違い出来損ないの庭師道具」

翠星石「……」

オズム「取り得はただ頑丈なだけ。しかしながら突いて良し、叩いて良し、投げて良しの
     シンプルゆえに信頼性の高い武器とも言えます。それこそ岩をも砕き、貫く」

翠星石「言いたいことはそれだけですか」しゃきーん

オズム「おお、それが庭師の如雨露ですね。ローゼンの作ったオリジナルの庭師道具。
     なるほど、金の装飾まで施されて美麗です。それで武器にもなるとは……」


483 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:08:57.33 ID:GHZ96eRr
翠星石「こちとら薔薇水晶の件でハラワタ煮えくり返ってんですよ!!
     お前のおべんちゃらにいつまでも付き合うつもりはねーです!!」すちゃっ

オズム「ッッ!?」

翠星石「喚び水の弾丸!!」シャワワー

オズム「なるほど! まずは撃ってきましたか! しかし!」うじゅるるる

翠星石「なっ!? バッカルコーンで翠星石の流水弾を吸収……!?」

オズム「美味! 実に甘いお水を馳走になりました。先も言った通り乾燥には弱いもので……助かります」つやつや

翠星石「ぬぬぬ! ならばそのまま水ぶくれになっちまえです!」ドドド

オズム「めくら撃ちをっ!? しかし、そのような当てずっぽう!」

翠星石「避けられるのも計算のうちでーす! 伊達に水をバラまいていたわけじゃねーです。
     これで充分大地は潤ったですよ! カモーン世界樹!!」



ずどごごごっ



オズム「ッ!? さ、砂漠の下から大樹の枝!?」

翠星石「世界樹の根はnのフィールド内の地下深くどこにでも通っているのです!
     すなわち、この翠星石にとって不利な場所などあるわけないのでーす!!」


484 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:11:30.88 ID:GHZ96eRr
オズム「くっ! バッカルコーン!」どすどす

翠星石「? 触手を樹に打ち込んで!? また水分を奪う気ですか!?」

オズム「いいえ、逆ですよ。腐れよ……!」どきゅきゅっ

翠星石「なぬっ!? 折角伸びてきた世界樹の枝がボロボロに……!?」

オズム「お忘れか。我らロゼリオンは呪毒を食らい、自らを強化してきたのです。
     この身に取り込んだ物はすべて腐毒、瘴気と化し、排出できる」

翠星石「ぬぬぅ。さっき吸った翠星石の甘露を毒水に変えたですとーっ!?」

オズム「そもそもとして、このような場所で無理やりに世界樹を召喚する! その行為が、あなた自身が接近戦を
     避けていることを示している! とどのつまり、翠星石あなたは近距離での戦闘が不得手であるのでしょう!」ずぎゃっ

翠星石「うぐっ」がきーん

オズム「鉄杭を如雨露で受け止める。その程度のことはできるのですね」ぎりぎりぎり

翠星石「ぬくくく……」ぐぎぎ


485 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:13:34.00 ID:GHZ96eRr
オズム「しかし、これは受けきれますか!?」うじゅるる

翠星石「ッ!? ま、まさか今度は翠星石にバッカルコーンを刺す気!?」

オズム「腐り溶けて、無限の砂地に流れ落ちよ!!」じゅどばっ

翠星石「喚び水のヴェール!!」

オズム「ッ!? これは? 清水のバリアーか!? こちらの瘴気が翠星石にまで届かない……!?」

翠星石「アーンド、翠星石キーック!!」どげしっ

オズム「むぅ!?」ぐらっ

翠星石「ふぅ……ふぅ……」すたっ

オズム「うまく逃げられましたか。仕切り直しですね」

翠星石「……」ちゃきっ

オズム「水不足ですか? もうヴェールも弾丸も使わないので?」

翠星石「おべんちゃらに付き合う気はないと言ったはずです」

オズム「重畳。やはり勝負はこうが良い。お互いがお互いの剣に全てをかけ交錯、まるで映画のよう……」

翠星石「だから言葉遊びはやめろと言っとるです!!」だっ

オズム(来たっ! 痺れを切らして私の頭部狙いの大上段! 絶好のカウンターポイント!!)


486 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:14:41.24 ID:GHZ96eRr
翠星石「脳漿ぶちまけなですぅ!!」ぶおっ

オズム「いいえ! ぶちまけるのはあなたの方です翠星石!!」ズドッ

翠星石「くあっ!?」ぷしゅーっ

オズム「とった!! 完璧なカウンターです……! 決まった!! 翠星石の真芯を! この鉄杭で貫いた!!」

翠星石「……」ぱしゃん

オズム「翠星石がはじけて消えた!? いや、これは水の塊、ヴェールの残り水! 分身!?」


487 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:16:56.85 ID:GHZ96eRr
翠星石「今頃気づいたですかボケリオン。砂漠にゃ蜃気楼がツキモノですよ」

オズム「クッ! 本体はそっちか!?」ビュバッ

翠星石「ちょいさーっ!!」がきーん

オズム「う、打ち落とし!?」びりびりびり

翠星石「こう見えて翠星石の如雨露剣技は蒼星石仕込みです!」

オズム「鉄杭が落とされてもまだ、バッカル……」じゅるる

翠星石「遅い!!」



ずんばらりん



オズム「があッ!」

翠星石「二つ……大きな勘違いをしていたですねロゼリオン」

オズム「ぐ……は……」どさっ

翠星石「一つ、砂漠も翠星石にとっては得意な領域。水による光の屈折が使いやすいですからね」

オズム「……うぅ」

翠星石「二つ。翠星石は確かに接近戦が好きではないです。それは相手が蒼星石と重なって見えるからです。
     だから避けていたです。でも、今は好きとか嫌いだとか言ってる場合ではないです」

オズム「おみ……ごと……」ボロロッ


488 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:18:07.17 ID:GHZ96eRr
翠星石「……っぷはー。な、なんとか勝てた……ですか?
     最後は余裕ぶっこいてみせたですけど、きつい相手だったですぅ」よろろ

スィドリーム「……!」

翠星石「お前もよく、水分身で気張ってくれたですよスィドリーム。でも、流石にアイツの言ったとおり、もう水不足……です」

スィドリーム「!」

翠星石「とにもかくにも翠星石は自分の務めを果たしたです。これで薔薇水晶はちゃんと帰ってくる……はずですよね」


489 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:24:17.17 ID:GHZ96eRr
§庭師連盟・盟主執務室

カズキ「……魔女レイキ。俺達の実の姉」

ミキ「俺は……もうあの女を姉とは思っとらんぞ。何人殺したと思ってやがる!!」

ゴキ「優秀な庭師であったのに、突如として庭師の掟を破り、同胞を虐殺
   その上、現世の人々の心の樹を多く腐らせ……黒庭師へと堕落した魔女」

シキ「私は、あの優しかったレイキ姉さんの豹変がまだ……」

カズキ「だが、事実は事実だ」

ニキ「あの時も、僕ら兄弟への連盟からの風当たりは強くなった。けれどカズキ兄者がレイキ姉者を討伐したことで
   一躍、悲劇の英雄『十人兄弟』として連盟内での信用と権力を得た」

ミキ「そんなの関係ねーだろ。実力的に元からカズキ兄ぃがいずれ盟主になることは明白だった。
   魔女レイキが余計な事をしたせいで、それが遅れただけだ」

カズキ「過ぎたことはもういい。それよりも問題はオズ教団だ」

ゴキ「はい、カズキさん。事態はどうも最悪の展開になっているのではないですか?
   庭師道具を盗んだロゼリオンは、オズ教団の本部跡地をねぐらにしていました」

シキ「オズ教団は先の東果重工との共同作戦で、完全に壊滅させたはずだろ? ゴキ」

カズキ「教主を取り逃がしている」

シキ「そ、それはそうですけど」

ゴキ「シキさん。オズ教団の教主は魔女レイキである可能性が高い。これは盟主と一部の暗部にしか
   知らされていないトップシークレットです。ですが、事ここに至ってはもう隠し続けるわけにもいきません」

シキ「!?」

ミキ「馬鹿な!?」

ロキ「生きているのか!? 姉貴は!?」

カズキ「魔女レイキの心臓を俺は庭師の剣で確かに突いた。だが、レイキは川に落ち、いくら捜索しても死体は見つからなかった」

ゴキ「その直後、オズ教団の教主が突然の代替わりをし、急速に勢力を拡大。トップ5を脅かすまでになった」

ニキ「タイミングが重なっているだけでそうと決めつけるのは乱暴では?」

カズキ「ニキ、お前だって知っているはずだ。連盟からの『抜け庭師』……
     外法に堕ちた黒庭師達の受け皿としての面が、オズ教団にあったことを」

ニキ「……」

ゴキ「東果との共同作戦で、組織は潰せたものの肝心な頭を叩けなかった。
   そもそもオズ教団が主導していた『旧型ロゼリオン』。そのオズ教団の廃墟に何故か巣食うようになった『新型ロゼリオン』。
   盗まれた『庭師の傀儡』。全てに魔女レイキの影が見え隠れし始めた」

ミキ「……ッッ!」


490 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:27:27.11 ID:GHZ96eRr
§nのフィールド・ユニコーンの大草原

ユニコーンが出没すると言われる草原の領域。高木はまばらでどこまでも丈の低い草で覆われている見通しの良い平野。



オズメ「なんてこったい。嘘だろ! まだ、こんなに……こんなにローゼンメイデンとアタシらには力の差があるってのかよぉっ!」

蒼星石「てやあああああ」

オズメ「近寄らせるな! 撃墜しろ! 庭師の礫ェッ!!」

蒼星石「むっ!?」すかっ

オズメ「くそッ! また当たらない! 当たらない当たらないぃ!? なんでだ! 庭師の礫は一度、使い手から飛び立てば
     絶対に相手に当たる誘導武器じゃないのかよ! それを八個も飛ばしてんだぞ、なんで避け続けられるんだアイツは!」

蒼星石「水銀燈は一度に百近い羽根を飛ばすこともある。それに比べればどうということはない!」

オズメ「くっ!? 挟みうちにしろ! 礫ェ!!」

蒼星石「軌道は読めているぞ! オズメ!!」ぐんっ

オズメ「庭師の礫を足の裏で受け止めて!? いや、踏み台にしたァ!?」

蒼星石「車枝剪定!!」ズバアッ

オズメ「ぎゃうッ!」


491 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:32:30.73 ID:2vx4W0FE
蒼星石「さあ、観念のしどころだオズメ。庭師の礫は僕には当たらない。頼みのバッカルコーンも最後の一本を今、切り落とした!」

オズメ「観念だぁ? そんなことが出来れば……! はぐれ者同士で傷をなめ合って
     メメントリオンを食らって……! ロゼリオンなんかになるわきゃぁねーだろーーーーッッ」

蒼星石「それもそうだ!」チャキッ



ずばーん



オズメ「くそっ! 痛ェッッ!! アアッ!! 畜生! 痛ェエ!!」

蒼星石「今、楽にしてやる」

オズメ「畜生! あーっ! もう強いな。強すぎるよ蒼星石ぃ! あの水晶ちゃんは、どうやってお前らに勝てたってんだ」


492 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:32:47.40 ID:dw6f8juP
蒼星石「……薔薇水晶の居場所を知ってるのか? どこに彼女を隠した!?」

オズメ「居場所? く、くく、そうか、そういうことだったよな」

蒼星石「何がおかしい? 君は何か知っているのか?」

オズメ「ああ知っている。何もかも知っているさ。知っているけど教えない、たとえ殺されようともね」

蒼星石「……」

オズメ「そう難しく考えるなよ。どうせアタシらを倒せば水晶ちゃんにはそのうち会えるんだ。我慢のしどころってやつさ蒼星石」

蒼星石「……」

オズメ「アタシにかかずらっているよりも、とっととトドメさして水晶ちゃんを探した方が賢明だぁね」

蒼星石「それも……そうだ。なら、これでサヨナラだオズメ」

オズメ「畜生、こんな不完全燃焼で死ぬことになるとはよぉ。オズマぁ……、アンタは……燃えることができ……」

蒼星石「……」ドズン

オズメ「……」


493 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:37:49.60 ID:2vx4W0FE
§nのフィールド・レーテ河のほとり

溺れた者は記憶を失うと言われる忘却の大河レーテ。その川幅は向こう岸が見えないほど長大。



真紅「う、ううう……」がくがく

オズモ「ホホホ、他愛のない。やはり身内が相手だと薔薇乙女は全力が出せないとの噂は真でしたか」

真紅「ひ、卑怯なッ!」

オズモ「卑怯? 作戦と言ってください。さあ、早いとこその邪魔者を排除なさい! パウル!!」

パウル「は! オズモ船長!!」ドバオッ

真紅「や、やめて! パウル君」

パウル「黙れ! 慣れ慣れしく私の名を呼ぶな」ビシィッ

真紅「うああっ」



※真紅とパウル君の関係については薔薇乙女探検隊『忘却の大河に幻の大ウナギを追え!』を参照


494 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:38:06.40 ID:dw6f8juP
オズモ(ウフフ、庭師の霞網の特殊能力。これで捕らえた生物一体を自らの手駒にすることができる)

パウル「予知ダコ拳法! 紫光八極!!」ばこーん

真紅「ぐはぁっ」

オズモ(何故かは知らんが、川で縮んで死に損なっていた傷だらけの化けダコ……
     こいつに霞網を使え、とオズレに言われた時は『何を言ってんだ?』とも思ったが)

パウル「必殺! 近距離パウル砲!」ぶしゅーん

真紅「ぬわぁーっ」

オズモ(まさか、こうも真紅が手も足も出せなくなるとは)


495 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:40:33.70 ID:GHZ96eRr
オズモ「何をしているパウル! ぬるいぞ! しかとえぐれ!!」

パウル「はっ! もうしわけありませんオズマ船長!」

真紅「や、やめて頂戴パウル君! あなたは……操られているのだわ!」

パウル「世迷言もこれまでよ! 死ねぃ!」

真紅「パウル君!! 目を覚まして!!」

パウル「黙れと言っている!!」

真紅「いいえ、黙らないのだわ!! たとえ喉が潰れても私は叫び続ける!」

パウル「惑わせるなぁ」

真紅「思い出して! 第五真紅丸の甲板を二人で共にデッキブラシかけてピカピカに磨き上げた日の事を!! 
    パウル君、うっかり墨を吐かないように自分で自分の漏斗を縛ってたじゃない!」

パウル「知らぬ!」ズガッ

真紅「思い出して! 先代副船長さかなくんJr.の冷凍品を炙り寿司にして食べた時の事を!
    パウル君、わさびが本当にダメで、ずっと涙目だったじゃない!!」

パウル「知らーぬっ!!」ドコォ


496 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:42:22.81 ID:GHZ96eRr
真紅「パ、パウル……く……ん」ぼろっ

パウル「これだけ打ちこんでいるのに何故だ!? 何故倒れない!!」

真紅「私は……倒れるわけにはいかない! 
    この命はパウル君によって助けられたものなのだわ。だから、失うわけにはいかない!!」

パウル「わ、私がお前の命を……? 救った?」

真紅「思い出して! レーテウナギとの格闘を! あなたは!
    あなたは私を守るために!! あなたの身に刻まれた無数の傷はその時のもの!!」

パウル「……ッッ!?」

真紅「そんなに傷だらけになってもあなたはギリギリまで倒れなかった。その魂を私は受け継いでいる。だから……私も倒れない」

パウル「う……ぬぬぬ……」

オズモ「何をしているパウル! 手を休めるな!」

パウル「ぐ……あああ……」

真紅「パウル君!!」

パウル「うおおおおあああああーーーッ」ムシャムシャムシャ

オズモ「何ッ!?」

真紅「じ、自分の腕を食べ始めた!? や、やめなさいパウル君!! あなた何を!?」



※タコは極度のストレスにさらされると自分の手足を食べてしまう


497 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:46:45.53 ID:GHZ96eRr
パウル「し、真紅……船長」ずしゃあっ

オズモ「ッ!?」

真紅「パウル君! あなた……記憶が!!」

パウル「申しわけ……ありません。自分は船長に怪我をさせ……」

真紅「この程度! かすり傷だわ、あなたがかつてウナギにやられたものに比べれば!」

パウル「せ……んちょう……」

真紅「パ、パウル君!? ダメよ! 目を閉じちゃダメ!! パウル君! パウル君!!」

パウル「真紅……せんちょ……」

真紅「まだよ! まだ! わ、私まだパウル君にちゃんとお礼を言ってない!
    ずっとずっと! 言わなくちゃって! ウナギから助けてくれて……!!」

パウル「また会える……とは思っていませんでした。けれども会えた……それだ……けで私……は」

真紅「パウル君!!」

パウル「今度こそ……本当に……おさらばでございま……す」がくり

真紅「パウル副船長ぉぉおおおおおおおおおおおッ!!」


498 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:49:08.15 ID:GHZ96eRr
オズモ「ちっ! 所詮はタコの死に損ない。だが、それにしてはよく真紅を傷めつけたと褒めるべきか……」

真紅「……」

オズモ「だが、タコなどオードブルに過ぎん! 次はこのメインディッシュのオズモを味わってもらおう」

真紅「……」ズドォッ

オズモ「……かっ? ぐ……あ……?」ぐらり

真紅「何ですって? あなたがメインデイッシュ?」

オズモ「早すぎる……! な、何をされた!? あの場所から一瞬で私の背後へ?
     しかも! この衝撃……痛み!? 殴られたのか!? 蹴られたのか!? それも分からな……いっ!?」

真紅「あなたから引っこ抜いた、この歯車……? これを食べればいいのかしら?」

オズモ「そ、それは……!? か、返せ! 私の大事な……」

真紅「バリッ! むしゃむしゃ!」

オズモ「ッ!?」

真紅「不味い。とても食べられるもんじゃないのだわ」ぷっ

オズモ「お、おおおあああ……し……んく……」ドサァッ


499 :創る名無しに見る名無し:2012/09/10(月) 22:52:54.55 ID:GHZ96eRr
オズモ「こん……なハズでは……私……が、こんな簡単に」

真紅「あなたは私を本気で怒らせた。それだけのことよ」

オズモ「慣れ……ないことをすると、こんなもの……か。
     しか……し、取るに足らない野薔薇だった私が、ふふ……ロー……ゼンメイデンを本気で怒ら……せ……」

真紅「オズモ?」

オズモ「……」

真紅「……パウルくん?」くるり

パウル「……」

真紅「パウル……くん……。パウル君、パウル君、パウル君……」

パウル「……」

真紅「パウルくぅ~~~~~~んっ!!」


504 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:30:21.29 ID:rw6xZ3w7
§nのフィールド・とある小屋

雛苺「えへへ、糸を紡ぐのも慣れると楽しいのよ」クルクル

オズレ「お上手ですね雛苺。糸紡ぎは子女の嗜み。覚えておいて損はない」

雛苺「ウィ。でも、オズエ……オズメ……?」

オズレ「オズレです。私の名はオズレ」

雛苺「ご、ごめんなさいなのよ名前を間違えちゃって。
    けど、オズレはどうしてヒナと戦わないの?  『庭師の糸車で一緒に糸を紡ごう』なんて……」

オズレ「……戦いたいの雛苺?」

雛苺「……」ぶんぶん

オズレ「私もそう。ロゼリオン全てがローゼンメイデンと戦いたいわけではない」

雛苺「? ??」

オズレ「あなた方の中でもアリスゲームに積極的な者と消極的な者がいる。それと同じようなこと」

雛苺「……」

オズレ「そもそも、庭師の糸車もこの使い方が本来あるべき姿。紡いだ糸で相手を攻撃することもできるそうですが
     そのようなモノは庭師道具のバリエーションに悩んでいた庭師連盟の都合」

雛苺「だ、だったら薔薇水晶をもう返してちょーだいなの! ヒナ達はみんな約束を守ったはずよ!」

オズレ「……」

雛苺「オズレ?」


505 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:32:01.87 ID:rw6xZ3w7
オズレ「その要求に対する答えはイエスでもありノーでもあります」

雛苺「……?」

オズレ「私達は薔薇水晶を誘拐したり拘束したわけではない」

雛苺「どういうこと?」

オズレ「……むッッ!?」ピクッ

雛苺「?」

オズレ(マミムメモが……全員逝ったか。意外と早かったな。それだけ薔薇乙女を本気にさせてしまったというのもあるだろうが)

雛苺「ちゃんと説明してオズレ! ヒナにはまだチンプンカンプンなのよ?」

オズレ「薔薇水晶は自由。自分の意思で……今の状況を受け入れた、いや招き入れた」

雛苺「?」


506 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:33:46.67 ID:rw6xZ3w7
§nのフィールド・旧ロゼリオン組み立て工場跡地

かつてオズ教団の要請により東果重工が建設した工場があった場所。金糸雀が工場の自爆スイッチを押したことで
派手に爆発したため爆心地を中心に巨大なクレーター状の荒地となっている。



雪華綺晶「私のお相手はオズンという名のロゼリオン……と文にはありましたが」

薔薇水晶「……雪華綺晶」

雪華綺晶「何故、あなたがここで私を待ち構えていたのでしょうか薔薇水晶?」

薔薇水晶「……」

雪華綺晶「ひょっとして薔薇水晶の名は捨て、ロゼリオンのオズンになったとでも?」

薔薇水晶「……違う」

雪華綺晶「そうですわね。それはあり得ません。槐の忠実なお人形であるあなたが、お父様から頂いた名を捨てるなど」


507 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:36:12.88 ID:rw6xZ3w7
雪華綺晶「となれば、ロゼリオン達に何かをされた?」

薔薇水晶「それも違う」

雪華綺晶「なるほど。あなたの目に宿るは信念の光。操られていたり迷っている者の眼差しではない」

薔薇水晶「……」ジャキン

雪華綺晶「剣を納めなさい薔薇水晶。思い上がったロゼリオン相手なら、一も二もなく壊していたところですが
       私はあなたが好きです。壊したくない。大体、右腕の無い今の状態で私と戦えるとお思いなので?」

薔薇水晶「私は……あなたが好きではありません雪華綺晶」

雪華綺晶「何があなたをそうさせるのか。それが分からない限り、私はあなたの求めに応じませんよ」

薔薇水晶「魔女レイキ」

雪華綺晶「……」

薔薇水晶「知らないとは言わせません雪華綺晶」

雪華綺晶「どこでその名を? どこぞの庭師、いや、ロゼリオンの誰かから?
       それともまさかラプラスの魔からですか? はたまた……レイキ本人から?」

薔薇水晶「そのようなことはどうでもいい。あなたはいつもそうやって他人を騙し、煽り、道を踏み外させる。私のお父様をも」


508 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:38:58.22 ID:rw6xZ3w7
雪華綺晶「踏み外させる? 心外ですわね。私は槐のローゼンを越えたいという願いに共感し、応援したまでのこと」

薔薇水晶「……!」

雪華綺晶「それを外道と言うならば、その結果生まれたあなたは何なのです薔薇水晶?」

薔薇水晶「私は……鬼子です! 生まれるべきでは……なかった」

雪華綺晶「自分を卑下するのはやめなさい。あなたには力がある」

薔薇水晶「力があるから……。そう、野薔薇やロゼリオンと私は何も違わないのにただ力があるというだけで、私は……私は」

雪華綺晶「強い者が生き、弱い者が淘汰されるは運命」

薔薇水晶「違う! それは理性を持たない野獣の理屈。そんなものが人形の運命ではないことを……
       私はアリスゲームに触れて知った。なのに真にローゼンメイデンである雪華綺晶、あなたは……どうして」

雪華綺晶「……なるほど。大体分かりました。裏で糸を引くのが大好きな私は、俗に言う、人に嫌われるタイプですわね。
       けれども薔薇水晶、あなたならこんな私も好きになってくれると密かに期待していたのですよ?」


509 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:43:00.81 ID:rw6xZ3w7
薔薇水晶「……ロゼリオンを救いたかった。彼女達に、友達に生きていてほしかった。
       自らの生を呪う彼女達に、薔薇の祝福を感じてほしかった」

雪華綺晶「それは叶わぬ願いです。繰り返しますが、弱者は淘汰される運命」

薔薇水晶「違う! 暴力だけで人の強弱を測るなど……! 彼女達は弱者なんかじゃ」

雪華綺晶「あなたがそう考えようとも、ロゼリオン達自身はどうでしたか?」

薔薇水晶「ッ!?」

雪華綺晶「自分を弱者と認めていたのか、貶めていたのか。どちらにせよ、それは精神力をも弱かったということに他ならない」

薔薇水晶「そんなこと……!」

雪華綺晶「緩慢で気が遠くなる時間をかけての老朽化による死を迎えるよりは憧れに打ち倒される滅びの美学。
       立派だと私は思いますがね。薔薇水晶もそう思ったからこそ、今回の彼女達の自殺行為に手を貸したのでは?」

薔薇水晶「やはり、私はあなたが嫌いです雪華綺晶」

雪華綺晶「……気に触ることを言ってしまいましたか」

薔薇水晶「改めて、勝負を……願います!」すちゃっ

雪華綺晶「いいでしょう。不満も不平も口に出さずに、ためこむタイプのあなたが思いつめてのこと。出すもの出して、スッキリなさい」


510 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:44:01.38 ID:rw6xZ3w7
薔薇水晶「行きます!!」ぐおっ

雪華綺晶「そう簡単には来させません。出でよ、ブサ綺晶」ぱちん



ブサ綺晶達『キッ! キキキッ!!』ぼこぼこ



薔薇水晶「地中から……!?」

雪華綺晶「さあさあ、可愛いこの子達にダンスを教えてくださいな薔薇水晶お姉ちゃん」


511 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:51:43.71 ID:TPa+gMOg
薔薇水晶「巻け!! 『庭師の糸車』!!」ぎゃるん

ブサ綺晶達『キキ~~ッ?』ぐるるる

雪華綺晶「ブサ綺晶達の操り糸が……吸いこまれ? いや、巻き取られていく? 庭師の糸車を背後に隠していたのか」

薔薇水晶「この使い方は想定外でしたか雪華綺晶?」

雪華綺晶「……あなたが槐の作った物以外の道具に頼るとは思っていませんでしたので」

薔薇水晶「これでブサ綺晶は使えません。いい加減に自らの手を汚せ……雪華綺晶」


512 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:52:02.91 ID:aqGqsAe7
薔薇水晶「ハァッ」どかっ

雪華綺晶「うっ……、体当たり!?」ぐら

薔薇水晶「実体の存在確率が揺らいでいるあなたは、重さを利用した攻撃に弱い!」

雪華綺晶「……く」ドサァッ

薔薇水晶「だから虚さえ突けばこうも簡単に押し倒せる! 覚悟……」グオッ

雪華綺晶「……っ!」



槐「そこまでだ! 薔薇水晶!!」



薔薇水晶「ッッ!?」ぴたっ

雪華綺晶「……」


513 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:56:31.41 ID:TPa+gMOg
槐「やめろ薔薇水晶!」

ジュン「え……? え!? なんで薔薇水晶と雪華綺晶が戦って……!?」

薔薇水晶「そんな……馬鹿な、お父様……。桜田ジュンまで、何故、ここに」

槐「剣を捨てろ薔薇水晶。雪華綺晶を討つことに意味はない!!」

薔薇水晶「ですが……! ですが、こいつは……! 雪華綺晶は!!
       お父様を! レイキを! その他にもたくさんの人をこれまで! これからも!」

雪華綺晶「……」

槐「そうだ。雪華綺晶は誘惑の白い悪魔だ! だが、それに惑わされた者にも元から心に悪魔が潜んでいた。
  雪華綺晶は望まれた悪魔だ。雪華綺晶が全ての元凶というわけではない!」


514 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 20:56:47.48 ID:aqGqsAe7
薔薇水晶「ち、違います! 雪華綺晶さえ、雪華綺晶さえいなくなれば少なくともこれ以上」

槐「思いあがるな! 自分が正義の天使にでもなったつもりか薔薇水晶!?」

薔薇水晶「!? う、ううう……! うーっ! うーっ……!」

雪華綺晶「人に馬乗りになって泣くのは止めてくれませんか。涙が私の顔にかかって熱いです薔薇水晶」

薔薇水晶「ッッ!!」グオッ

槐「やめろ薔薇水晶!! 僕の言うことが聞けないのか!!」

薔薇水晶「~~ッ!!」

槐「薔薇水晶ッ! やめろ! 言うことを聞け!!」

薔薇水晶「聞けません! お父様、この咎は後で私の命を以って……」


515 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:02:40.01 ID:TPa+gMOg
薔薇水晶「がふっ!?」ズドッ

雪華綺晶「残念ながら……いつまでも組み敷かれている私ではありません」

ジュン「つ……土雷(つちらい※)!? 雪華綺晶がそんな技を!?」



※組み伏せられた状態から踏み込みと全身の反りを用いて瞬時に拳を相手にめり込ませる柔の技


516 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:03:01.49 ID:aqGqsAe7
薔薇水晶「く……くぐぐ……」ぴくぴく

雪華綺晶「言い遅れましたが、私、搦め手だけでなく寝技も凄いんです」すっく

槐「ば、薔薇水晶……!?」

雪華綺晶「動力中枢にまで衝撃を通しましたから、しばらくはまともに動けません。
       しかし、命にまで影響はありませんのでご安心を。無理に動こうとするなら保証はできませんが」

薔薇水晶「ふーっ! ふーっ……!」ぐぎぎ

ジュン「お、おい薔薇水晶! 動くなって! 今の雪華綺晶の台詞聞こえてただろ!?」


517 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:06:13.08 ID:rw6xZ3w7
槐「……薔薇水晶」そっ

薔薇水晶「……すいません。お父様……わ、私は」

槐「言うな。もう、分かってる。全部、分かったから……」だきっ

薔薇水晶「こ……んなに強く抱きしめられるのは……久し……ぶ」がくっ

ジュン「ば、薔薇水晶!?」

槐「いや、大丈夫。気を失っただけだ」

薔薇水晶「……」

雪華綺晶「……薔薇水晶はいつもこうですわね。普段はおとなしいのに、ある日突然、感情が爆発する」

槐「君にも悪いところがある雪華綺晶。薔薇水晶のそういうところが分かっていながら挑発しただろう?」

雪華綺晶「彼女のガス抜きに、つきあったまで」

槐「……」

ジュン「ええと、あの、槐先生? 僕にはまだ何が何だか全然分からないんですけど」

槐「言うなれば、薔薇水晶の狂言誘拐だったというわけだ」

ジュン「狂言ッ!?」

雪華綺晶「ロゼリオンの境遇に同情した薔薇水晶が、彼女達のために人質役を引き受けたのです。
       それどころか、ロゼリオンに味方して私と敵対した」

ジュン「!」

槐「続きは他の薔薇乙女達と合流してから話そう」


518 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:07:28.31 ID:rw6xZ3w7
§nのフィールド・とある小屋

雛苺「むにゃむにゃ……」くかー

金糸雀「ちょっと雛苺!」ゆさゆさ

雛苺「うゅ~、まだまだ食べられるのよ~……」

真紅「いい加減起きなさい!」ぺちっ

雛苺「うやっ!? し、真紅ぅ?」むくり

翠星石「ったく、何をのんきに眠りこけているですか! バカチビ!!」

雛苺「あれれ? ヒナ、寝ちゃってたのよ?」

水銀燈「『寝ちゃってたのよ?』じゃ、ないでしょ! アンタ、相手のロゼリオンはどうしたの! ちゃんと始末したんでしょうね!?」

雛苺「むー?」

雪華綺晶「どうやら、オズレと名乗るロゼリオンには逃げられたようですわね」

ジュン「に、逃げられた!?」


519 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:09:58.30 ID:rw6xZ3w7
蒼星石「この小屋にあった糸車は『庭師の糸車』じゃない。ただの普通の糸車だ」

雪華綺晶「ええ。本物の庭師の糸車は薔薇水晶が使ってきました」

雛苺「え? え?」

ジュン「槐先生? 薔薇水晶は……?」

槐「こっちはまだ目覚めないようだ。眠らせておいてやってくれ」

薔薇水晶「……」

蒼星石「……庭師の円匙、黒縄、鉄杭、礫、霞網、糸車はみんなのお陰で全て回収できた。黒縄はかなり傷んでいたけど」

金糸雀「……」

真紅「庭師の傀儡だけが見つかっていない?」

翠星石「オズレっていう奴が持ち逃げしたってことですか?」

雪華綺晶「おそらく」

金糸雀「オズレの目的は他のロゼリオンとは違っていたのかしら?」

水銀燈「でしょうね。今回の混乱に乗じて……といったところか」


520 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:12:28.34 ID:rw6xZ3w7
水銀燈「庭師の傀儡は蒼星石のデッドコピー。自動人形としては出来上がっていなかったとしても
     見る人間が見れば、有益な情報が詰まっているのかもしれない」

槐「オズレの後ろに誰かがいる?」

雪華綺晶「あるいは最初からオズレはロゼリオンですらなかった」

ジュン「はぁ!?」

雛苺「で、でもオズレの背中にも六本のバッカルコーンが……」

雪華綺晶「そのようなものはどうにでも偽装できますわ。
       そもそもオズレが雛苺お姉様と戦わなかったというのも自分の素性を悟られないためだったとしたら」


521 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:14:48.96 ID:rw6xZ3w7
真紅「ちょ、ちょっと待って。話がなかなか見えてこないわ! 最初から! もう一度、最初から整理していきましょう!」

金糸雀「カナもその意見に賛成かしら」

翠星石「正直、翠星石も頭の中がこんがらがってきたですぅ」

雪華綺晶「……そうですね。では、まず一番最初の疑問……」

水銀燈「何故、薔薇水晶は私達を裏切りロゼリオン側についたのか?」

蒼星石「これはまあ、今になって思い返せばという前提はつくが、簡単な理由だ。
     薔薇水晶にとってはローゼンメイデンよりも野薔薇やロゼリオンの方が本質的に自分に近い存在」

翠星石「情に流されたということですか」

槐「それもあるだろう。しかし、何よりも雪華綺晶への反発が強かった」

ジュン「雪華綺晶への?」

槐「彼女の中では、雪華綺晶は僕を唆して自分を作らせた存在だと認識している。
  薔薇水晶は雪華綺晶に対して、今も愛憎入り混じった感情を持っている」


522 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:18:45.43 ID:rw6xZ3w7
ジュン「じゃあ、槐先生は最初から薔薇水晶が誘拐されたのは嘘だと……?」

槐「確信はなかった。しかし、送られてきた右腕があまりにも綺麗だったことが、僕に疑念を抱かせた」

雛苺「きれい?」

槐「薔薇水晶の構造をよく知っていなければ、こうも綺麗に右腕を外すことは出来ないはずなんだ」

雪華綺晶「薔薇水晶の構造を知っているのは槐と私、ラプラスの魔、この三名以外には薔薇水晶本人だけです」

水銀燈「つまり送られてきた右腕は薔薇水晶が自分で外した……と。馬鹿ねぇ、そんなことせずに切断していれば」

金糸雀「きっと、槐に作ってもらった自分の体を傷つけるのをためらった結果のギリギリの判断だったんじゃないかしら」

薔薇水晶「……」

槐「もちろん、ラプラスの魔がロゼリオンと接触している可能性もあった。だから僕は実際どうなのか確かめるために
  雪華綺晶VSオズンの戦場に……、雪華綺晶を追いかけていくことにした」

ジュン「どうしてオズンが薔薇水晶だと?」

槐「薔薇水晶はロゼリオンと何度か茶会などをして交遊している。しかしオズンという名は彼女の口から聞いたことがなかった」


523 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:21:01.07 ID:rw6xZ3w7
水銀燈「納得はできる。が、まだ今一つ理由としては弱いわね」

槐「加えて、魔女レイキの存在を薔薇水晶が知った」

蒼星石「レイキ……さんのことを!?」

ジュン「……誰?」

真紅「私は知らないのだわ」

雛苺「ヒナも」

翠星石「翠星石だって知らんですぅ」

金糸雀「カナも知らないかしら」

水銀燈「私が知っているのは噂程度ね。庭師連盟始まって以来、最悪で最凶の『抜け庭師』。掟を破り、堕落した魔女レイキ」

蒼星石「……今の庭師連盟の中枢を担う十人兄弟の長姉だった人だ」

槐「……」

ジュン「!? カズキさんの上にまだもう一人いたのか!?」

蒼星石「ああ、彼らは元々は十一人兄弟」


524 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:25:20.70 ID:TPa+gMOg
槐「そしてレイキが抜け庭師になった原因が雪華綺晶にあると思ったらしい。
  僕と同じように、雪華綺晶にたぶらかされて道を外した、と」

蒼星石「そう……なのか? 雪華綺晶?」

雪華綺晶「私は……彼女が、レイキ本人が知りたがっていたことを教えただけです。たとえ私がその時は
       口を噤んでいたとしても、聡明な彼女のこと、遅かれ早かれ独力で真実にたどりついたことでしょう」

蒼星石「!」


525 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:25:43.97 ID:aqGqsAe7
水銀燈「興味あるわねぇ。レイキに何を話したのよ末妹?」

雪華綺晶「それは言えません。何しろ当人のプライベートに関わりますので。どうしてもと言うのなら
       蒼薔薇のお姉様に聞いてみては如何でしょう? 彼女もどうやら、その秘密を御存知の様子」

水銀燈「……?」

蒼星石「僕も、言えない。ここでは……今は……」

翠星石「蒼星石」

蒼星石「……」

金糸雀「気にはなるけど今は野次馬根性を抑えるかしら水銀燈、翠星石」

水銀燈「……分かった」

翠星石「わ、分かってるですよ」


526 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:29:43.46 ID:rw6xZ3w7
金糸雀「じゃあ、次の疑問かしら。レイキとロゼリオンの関係は?
     この両者に何らかの接点がなければ今回のような事件は起きないはず」

翠星石「そ、そうですそうです! 庭師連盟もロゼリオンとは直接関係ねーですよ」

雪華綺晶「関係あります。レイキはローゼンに興味を持っていました」

真紅「な……っ!?」

雪華綺晶「何を驚くことがあります紅薔薇のお姉様? 自然科学や錬金術の、ある事柄を極めようとすれば
       いずれ私達のお父様にぶち当たることは必然。優秀であればある程、お父様の本質にも近づく」

槐「……」

雪華綺晶「彼女の場合は、心の樹に対する庭師の技術を記した古い書物からローゼンを知ったようです。そしてその後
       偶然にも庭師連盟にやってきた蒼星石と出会った。またさらにその後に独自の探究心からこの私にもたどりついた」

蒼星石「……レイキさんは、僕には、そんなこと一言も」

雪華綺晶「レイキは蒼星石の前では、一人の女庭師として振舞っていたようですが、私の前では泣き虫の小さな女の子でした」


527 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:31:37.61 ID:rw6xZ3w7
真紅「白薔薇の思い出話はそれぐらいにして、レイキは結局どうなったの?」

雪華綺晶「死にました。弟カズキの手によって」

雛苺「!?」

ジュン「な、なんで!?」

蒼星石「粛清だ。レイキさんは……連盟離反の際、大勢の庭師を、仲間を殺した。
     これこそが魔女レイキと渾名される由縁。だからカズキさんも断腸の思いで……」

翠星石「そ、そんな事件があったのですか」

水銀燈「もう一度聞くけど、そのレイキが変貌した原因と思われる『秘密』とやらについては
     蒼星石も雪華綺晶も今は黙秘するのよね?」

蒼星石「ああ、すまない」

雪華綺晶「……」

水銀燈「ちっ、肝心なところが伏せられているとモヤモヤするわ」


528 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:39:54.29 ID:TPa+gMOg
雪華綺晶「……実はレイキは死んでいないとの噂もあります」

蒼星石「ッ!?」

雪華綺晶「その噂では……レイキはオズ教団の教祖の後釜に座ったとか」

金糸雀「えっ!? えええっ!?」

雪華綺晶「義経がチンギス・ハーンになったという話よりも荒唐無稽ですがね。当時、代替わりして急速に
       上り調子になってきていたオズ教団の士気低迷を狙って庭師連盟が流した情報戦略だとされることも……」

槐「だがこれで、レイキ、オズ教団、ロゼリオンの間に疑惑の連鎖が繋がった形だな。
  湖に張る薄氷のように、僅かな疑念ではあるが」

蒼星石「そして、その薄氷の上を渡る者がいる。それがオズレと名乗ったロゼリオン」


529 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:40:12.18 ID:aqGqsAe7
雪華綺晶「オズレ(OZRE)はゼロ(ZERO)のアナグラムともとれます。であれば、兄弟で零のナンバーを持つレイキとの関連性も」

ジュン「名前だけで……そんな……」

雪華綺晶「確かに。名前などその本質を表すには至らないもの」

蒼星石「だけど重要なもの。大切にすべきもの」

真紅「名付けた人と名付けられた人との間の絆を示すものだから」

翠星石「蒼星石、真紅……」


530 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:43:16.12 ID:TPa+gMOg
薔薇水晶「オ、オズレが……レイキと繋がってい……るのは間違いありま……せん」

槐「薔薇水晶!? 目覚めたのか!?」

薔薇水晶「ロ、ロゼリオンは皆、自分の素性も本当の名前も……想い出にして
       詳しくは……語りませんでしたが、オズレだけは違いました」

ジュン「む、無理して喋らなくてもいいぞ薔薇水晶」

薔薇水晶「オズレは、自分はレイキに作られた自動人形、野薔薇だと……言っていました」

水銀燈「!?」

雛苺「ほ、本当なのよ?」


531 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:43:32.26 ID:aqGqsAe7
薔薇水晶「今となっては……分かりません。自分を作ったレイキは既に死んだとも言っていましたので」

雪華綺晶「仮に本当だとすれば、レイキは少なくとも粛清では死なず
       野薔薇が作れる程度には生き延びていたということになりますわね」

薔薇水晶「オズレは……レイキの匂いがするものが欲しいと言っていた。亡き母の想い出を少しでも、と。
       それが……庭師の傀儡。ローゼンメイデンとの勝負は……あくまで他の仲間、オズマ達への義理」

蒼星石「庭師の傀儡の開発はシキさんがやっていたはずだが、レイキさんも手を貸していたのだろうか?」


532 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:45:36.56 ID:rw6xZ3w7
金糸雀「薔薇水晶から得られたオズレの証言、そのまま鵜呑みにはできないけど一部は信じられるものであるのは確かかしら」

水銀燈「ええ、話がスッキリする。けどスッキリしすぎて気に食わない」

真紅「どういうこと?」

水銀燈「話の落としどころとして、創作された目的に思えるの」

翠星石「ううむ……、つまりどういうことですか?」

雛苺「オズレは庭師の傀儡を使って何か悪い事を企んでいるってことなのよ?」

水銀燈「そういうこと。翠星石よりも良く頭が回るじゃないのよ雛苺」

雛苺「えっへん、なのよ!」

翠星石「ぬぐ、チビ苺のくせに生意気な、ですぅ」


533 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:47:22.46 ID:rw6xZ3w7
水銀燈「では、ここで総まとめ! 六体のロゼリオンの中で私達との勝負を純粋に望んでいたのは五体だけ。
     今回逃げたオズレはどさくさで庭師の傀儡を持ち去るのが目的だった」

金糸雀「その通りだとカナも思うかしら」

水銀燈「オズレは、レイキという人物と深い関連が疑われる。そのレイキはなんだかよく分かんないけど悪い魔女!」

翠星石「現時点では、まあ、そうとしか考えられないですね」

蒼星石「……」

水銀燈「この後、私達が気をつけなければいけないのはオズレとレイキ、そして庭師の傀儡。あと、ついでに雪華綺晶!」

雪華綺晶「私も……ですか?」

水銀燈「当然よ末妹。アンタの周りの疑惑の氷はまだまだ厚い永久凍土なんだから」


534 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:49:36.93 ID:rw6xZ3w7
水銀燈「以上、まとめ終わり! 疑問がある人は挙手して頂戴」

真紅「はい!」

水銀燈「何? 真紅?」

真紅「どうして水銀燈が唐突に場を仕切ったの?」

水銀燈「うるさい。他に質問は?」

真紅「……他にはないのだわ」

雛苺「ヒナも質問はないのよ」

雪華綺晶「ありません」

薔薇水晶「あ、あの……」

水銀燈「何よ薔薇水晶?」

薔薇水晶「私は今回、皆様を裏切ったわけで、その……」

水銀燈「あー、そのこと? もう面倒くさいから、あとは槐に任せた」

槐「……任された」

薔薇水晶「し、しかし……」

金糸雀「薔薇水晶、カナ達は結構疲れちゃっているのかしら」

翠星石「ま、そういうことです」

蒼星石「そもそも僕は薔薇水晶は裏切ったわけじゃないと思っているけどね」

真紅「私もぶっちゃけ、どうでもいいのだわ。このあと、パウル副船長やマミムメモ達のお墓を作らないといけないし」

雛苺「ヒナも、まだ寝足りないのよ……ふぁ……」


535 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:51:07.33 ID:rw6xZ3w7
薔薇水晶「ありがとう……ございます。けれども、このままでは私は……いつ、また」

雪華綺晶「また私に牙を剥くと言うのなら、それで構いません薔薇水晶」

薔薇水晶「……雪華綺晶」

雪華綺晶「私はあなたに否定される生き方をしています。変えるつもりもない」

翠星石「白薔薇……」

雪華綺晶「もし、変えることができる者がいるとすれば
       それはあなたや、紅薔薇のお姉様達のように私を真正面から否定し、さらに闘う者達であるのでしょう」

薔薇水晶「……」

ジュン「これで、一応みんな元の鞘に収まった……のかな」

槐「……まだだ」

ジュン「槐先生……?」


536 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:58:16.36 ID:rw6xZ3w7
槐「僕からも薔薇水晶に言うことがある」

薔薇水晶「……ッ」びくっ

水銀燈「それ、ここで絶対に言わなきゃ駄目なの槐? お小言なら帰ってからにしてよ」

金糸雀「よそ様のお家の説教だなんて、聞いてて気持ちのいいものではないかしら」

槐「いや、今すぐにでも言っておかなくてはならない」

薔薇水晶「……」ぶるぶる

翠星石(あの薔薇水晶が子猫みたいに震えているです)

蒼星石(本当に、怖いんだ槐先生の言葉が。愛しているからこそ)


537 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 21:59:34.49 ID:rw6xZ3w7
槐「薔薇水晶……君は今日まで僕の言葉に正面から逆らったことがなかった」

薔薇水晶「は、はい……」

槐「けど、今日ついに僕の『やめろ』という命令に従わなかったね」

ジュン「え、槐先生……っ!?」

真紅「ジュン」

ジュン「真紅?」

真紅「大丈夫よ、槐は薔薇水晶を責めているのではない」

槐「そうだね、薔薇水晶」

薔薇水晶「は……い」コクリ

槐「……」

薔薇水晶「お、お父様! こ、この罰はどのようなものでも、私は……!」

槐「よく親に歯向かった。これで君も一人前だ」ぽんっ

薔薇水晶「……!?」


538 :創る名無しに見る名無し:2012/09/12(水) 22:02:51.17 ID:rw6xZ3w7
薔薇水晶「う、ああ……。お、お父様……っ! わ、私……私……!!」

槐「……帰ろう、薔薇水晶」

薔薇水晶「は……い! お父様!」ぐしぐし

雛苺「薔薇水晶、怒られて泣いちゃったのよ」

翠星石「バカチビ、何を聞いていたんですか」

雛苺「うにゅにゅ?」

ジュン「あれは嬉しくて泣いてるんだよ」

雛苺「そうなの?」

真紅「そうよ」

金糸雀「槐もハラハラさせてくれるかしら」

水銀燈「ふん、お父様……か」

蒼星石「水銀燈、君も会いたくなったかい? お父様に」

水銀燈「いつだって……会いたいわよ」



【薔薇水晶に祝福を】 完



関連記事
2012/09/13 23:51:34 コメント15 ユーザータグ ローゼンメイデン

コメント

※88681:No name:2012/09/14 00:43:02
パウル君・・・(´;ω;`)
※88685:No name:2012/09/14 01:33:41
パウル君こんな活躍するとは思わなかったな
不覚にも感動した
※88696:No name:2012/09/14 03:44:50
次の副船長は・・・また魚介類かな?シキだといいな、けどそれだとシキに死亡フラグたっちゃうか
※88702:No name:2012/09/14 10:29:38
クローンが出てくるSFものでもよくあるな。
登場人物が誰かのレプリカや紛い物として造られた自分の存在の意味に苦悩する、っていうやつ。
考えてみればロゼリオンだけでなく、薔薇乙女自体もアリスの紛い物だといえるわけだから
ロゼリオンの生き様、死に様は今後彼女たちにも影響するんだろうね
これからもSLPYのテンポ良い作品を応援させていただきます
※88703:No name:2012/09/14 10:35:02
ばらしーマジ良い子だなー。槐先生も。このシーンの絵があったら凄い良いのだろうな。ラストの銀ちゃんの言葉も良かった。

>ぶちギレ金剛
最初から飛ばし過ぎw
※88706:No name:2012/09/14 12:19:12
フルパワーのドールズかっけえええ
カナは絶対2部ジョセフの戦法やってくれると信じてた!
夢女とかパンダの竹林とか懐かしいフィールドも出てきて
改めてここのシリーズ過去作を読み返したくなったよ

だが庭師十人兄弟の5番目はイツキだと思ってたら……
ゴキってwww黒光りするアレしか思い浮かばないwww
※88707:No name:2012/09/14 12:59:24
自分で書かれているように薔薇水晶がそうする動機が弱すぎ、本当に唐突すぎて「?」
このシリーズでは近頃 きらきーが悪事をはたらいていないのも、それに拍車をかけている
というか、きらきーが情緒不安定な◯◯◯◯に絡まれているようにしか見えない。
せめてギリギリまで悩むとか、野バラの墓参りをするとか、置き手紙を残して出て行く
ぐらいのことはして欲しかった。
私だけかもしれんが、違和感がすごい
※88721:No name:2012/09/14 19:44:39
ジュン君かっこよくついてったけど驚き役のマエストロだったね。
庭師道具がジュン君の考案したもので攻略の助言するとか
マエストロな観察眼で狂言誘拐に気づくとか絆パワーとかはやってほしかったな。
※88722:No name:2012/09/14 20:33:50
オズレ=庭師の傀儡……ってのは違うのかな?
最初っから、庭師の傀儡をレイキが操ってたのが「オズレ」、と。

※88707
薔薇水晶と雪華綺晶の確執、薔薇推奨のロゼリオン及び野薔薇への気持ちは、「薔薇水晶と白い悪魔」を見直してみればわかると思う。
あとこのSSシリーズだと、「ロゼリオン関連」と「その他閑話」は別物として見るべきなんじゃないかな。
※88729:No name:2012/09/14 23:11:42
最近きらきーが悪巧みを対してしてなかったから確かに印象は薄れ気味だけど、シリーズでの描写的には薔薇水晶が今まで喧嘩吹っかけなかったことの方がおかしいレベル
きらきー自身がどう思ってるかは知らんが客観的に見たら明らかに挑発ばっかしてたし
※88737:No name:2012/09/15 11:27:55
薔薇水晶に対して、ではないけど初めましてローゼンの母ですの時期のきらきーのやり方もえぐいよな。真紅たちは慣れてるから良いとしても(良くないが)、ばらしーは特に出自のこともあるからね。

パウルくんも真紅もおっとこまえやな…
※88743:No name:2012/09/15 15:36:52
ばらしー、ずーーーっと、きらきーの事疎んじてたじゃん
流石に狂言誘拐にまで暴走するとは思わなかったけど、
一日腹筋やドラクエレベル上げやってる病み具合知ってるから、そんなに不思議じゃなかった

そんなことよりも、真紅戦だけなんでこんなことになってるんだよ
一人だけジャンプのノリじゃないかー!パウルの文字見た瞬間モニターが麦茶まみれになったわ!
※88745:No name:2012/09/15 20:26:48
やっとわかった
レイキ→初期ロゼリオン計画→大量野薔薇狩り
一連の流れが きらきーの仕業(未確定)だとわかったのがきっかけね
何で今頃狂言誘拐までしたのかわからなかったが
同胞虐殺の復讐かぁ
ロゼリオン計画の細かい中身を忘れていたから繋がらなかったと…
俺も復習だな、コリャ
※88751:No name:2012/09/16 02:37:06
すごい話になってきたな
それにしても本気を出したカナはかっこいい!
※88758:No name:2012/09/16 14:12:58
カナかっこいいよカナ

このシリーズがどう転ぶかは原作の展開次第だと思うけど今後も楽しみだ
コメントの投稿
前後の記事
« 新人OL争奪黙示録カイジ | アーマードコア風に遅刻を語る »
Copyright(c)SLPY All Rights Reserverd.