切り口不在の展覧会、でも作品とビデオは一見の価値ありー6+ アントワープ・ファッション展
(今日はもう1つエントリをアップしておりますので、宜しければ1つ下のものからお読み下さい)。
遅くなってしまったんですが、5月6日(水)に見てきた「シックスプラス(6+) アントワープ・ファッション展」について少しだけ。
既に幾つかのブログにこの展覧会の感想がアップされているんですが、立場上あまりストレートな物言いが難しいファッション系ブログでなおかつ業界内部の方々の当たり障りのない「ご紹介」程度のコメントに比べて、「あまり面白くなかった」という、アートの業界のプロの方のコメントや一般の方の率直なご意見の方に、さくらも近い感想を持ちました。
正直、「キュレーション」というか「編集」の意図が、あまり伝わってこない展覧会のように思ったんですよね。新しい視座の提示がないというか・・・。
というか、見方によっては、アントワープ系デザイナーの功績礼賛、そのさわりの部分のみを紹介する、素直で素朴なファッション初心者向けのポジティブな展示だという風な評価も可能かもしれません。
ネットで検索をかけてみたんですが、どうやらこの展覧会は元々、2007年の1月から6月の間に、ブリュッセルのフランダース議会で開催されていたみたいです。なので、目的と想定される観客によって、必然的にこういう内容につながっていった、ということなんだろうと思います。
東京オペラシティギャラリーの同展の会場は3つのパートに区分されていて、
1.アントワープ王立美術アカデミーファッション科(2007-2008)・・・最近の学生さんの作品
2.アントワープの6人とメゾン・マルタン・マルジェラ・・・「アントワープの6人」=アン・ドゥムールメースター、ドリース・ヴァン・ノッテン、マリナ・イェー、ディルク・ビッケンベルヒス、ディルク・ヴァン・サーヌ、ワルター・ヴァン・ベイレンドンクと、マルタン・マルジェラのコレクション作品。
3.新世代のデザイナーたち・・・「アントワープの6人」以降に登場した「第2世代」=王立アカデミー卒ではないラフ・シモンズ及び、同校卒のユルヒ・ペルソーンス、リープ・ヴァン・ホルプ、A・F・ヴァンドヴォルスト、ヴェロニク・ブランキーノ、パトリック・ヴァン・オンメスラーゲ、ブルーノ・ピータルス、ハイダー・アッカーマン、ベルンハルト・ヴィルヘルム、クリス・ヴァン・アッシュのコレクション作品。
4.写真・映像・・・上記のプロデザイナー達のコレクションの写真や映像、アカデミーの修了ショーの映像。
上記のような構成になっていました(人名の表記はパンフレットに準じました)。
1から3までの展示スペースでは、マネキンを載せているランウェイというか縦長の平台には、ファッションに関する記事や評論が掲載された海外の媒体が引き延ばされてコラージュ状にプリントされており、アントワープ王立アカデミーの教育や、アントワープ発のデザイナー達のクリエーションは、ファッション・ジャーナリズムの評価に後押しされて大きく世に羽ばたいたのだ、ということを暗示する演出になっております。
さくら的には、これがない方が良かったんじゃないか、時系列的なグルーピングも止めて、キュレーションする人の独自の視点で見せて欲しいな、という気がしたんですが、
まあ、一番簡単でなおかつハズレのない展示方法ではありますよね。
最近の学生さん達の作品は、リアル・クローズではなく、服飾の歴史を踏まえた上でそこから各自のアイデアを膨らませているんだろうな、といった感じのものであります。なので、バッスル・スカートなど、シルエットがリアル・クローズ的ではないものもございます。
なおかつ、マテリアルの中にもユニークなものがいろいろ登場していて、籐、シャッター、ファー、かつらなどがございました。
説明が全くなかったので想像する以外にないんですが、それぞれの素材を選択した学生さんの中には、何らかの必然性があってのことではないかとは思います。
とはいえ、例えば、かつてパコ・ラバンヌが登場した時のように、時代性を感じさせる素材の選択がそこにあったかというと、うーん、どうなんでしょう、という風に私は思いました。
たぶん、「アントワープ」という場所は、日本やアメリカのようにモダンーポストモダンとか、インターネット周りで覚醒する消費者の動きの変化とか、そういうものから距離があって、なおかつ、今の社会の中でもう1つ台頭してきているグローバリゼーションとネガとポジの関係にある民族主義とか、民族独自のカルチャーに関する意識の高まりとか、そういうものからもまた、距離がまだまだある、静かな場所だからなんだと思います。
3年時の「民族衣装」というテーマからも、もうちょっとラジカルだったりユニークなものが出てきてもいいんじゃないかなと。
フォルムの作り方は、どなたも非常に奇麗だなと感心致しました。プロポーションを取る際の黄金律に対する美的感覚が鈍いような方は、恐らくこの学校ではとてもとてもやってはいけないのでしょう。縫製も大体において良くて、乱れはごくごく一部しかないように思いましたので、ひょっとしたら外部のプロに委託しておられるのかもしれませんね。
2と3のパートについては、プロの業界人の皆様なら重々ご存知のデザイナー達ばかりだと思います。学生さん達の作品とは打って変わって、皆さん、コンセプチュアルでありながら服として袖を通したくなるような「商品」を打ち出しておられます。
ということは、「学生」と「プロ」の間には、何かプロになってご成功された皆さんが飛び越えて行かれた「河」のようなものがあった筈なんですが、その辺りを本当はこの展覧会では深掘りして欲しかったな、というのが、私の感想であります。
今見ても、昔のアン・ドゥムルメステール、ドリス・ヴァン・ノッテン、ハイダー・アッカーマン、ヴェロニク・ブランキーノ、A・F・ヴァンドヴォルストなんかの作品は、やっぱりすごく良くて、「これは間違いなく売れるな」という感じが致します。
それと、さくら的には、心の恋人であるラフ・シモンズにまつわる展示が、メチャメチャ懐かしく、非常に嬉しかったです。
特に、4の写真・映像のコーナーにあった1998年春夏(上半身裸にパンツとか、裸の上に直接スーツ着用といったルック)とか、1999年秋冬のコレクション(グレーで未来的なイメージを演出)の頃は、インテリジェンスがあるが故に懊悩する若きクリエーターが自分の友人達に向けて作っている服だなぁと思っていて、心酔しておりました。
ラフ・シモンズ氏の場合は、セクシーさを狙っていないのに、結果的に、独特のセクシュアリティがある服になっているところが、ものすごく好きだったんですよね(だから売れたんだと思いますが)。
この頃ちょうど、岡山からその頃勤務していた新聞社を辞めて上京しIFIビジネススクールに入学する前後で、自分の人生の転機でもあったので、余計に鮮明な記憶として体の中に残っております。
厳密に言うと、私は女性なのでラフ・シモンズを購入することはないんですが、ファッションがアート以上に魅力がある部分は、「自ら購入し、身体に身につける」ものであるからこそ、自分史と切り離せないものになるところにあると思います。コレクションの映像もさることながら、例えば商品を購入した方々のアルバム(今だとケータイとかPCのピクチャのホルダーですか)の中に保存されている写真や動画を集めて見せたら、非常に面白いんじゃないかと私は思うんですよね。特に、ネットが発達する以前の写真は、それらを見ることで「ネット以前」「ネット以後」の消費者の意識の変化も理解出来ると思いますので、集めてみるといろいろなことが見えてくるのではないとに思います。
映像に関しては、ベルンハルト・ウィルヘルムの2005-2006秋冬(モデルさんがぴょんぴょん飛び跳ねているコレクション)とか、ベルリンの壁崩壊を予見したかのような、1990年春夏のマルタン・マルジェラのコレクションとか、一見する価値があるものが他にも沢山ございました。
総体としての評価云々は別として、ファッションやアートが好きな方にはこの展覧会のディテールは非常に刺激的で発見が多いものになるのではないかと思います。特に若い方で、まだまだアーカイブをあまり沢山見ておられないという方には、是非初台まで足を運んで見られることをおすすめいたします。
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投稿: ロレックス 大阪 アンティーク | 2021年10月19日 (火) 11時00分