「資本主義の方程式」(その2)

小野善康「資本主義の方程式―経済停滞と格差拡大の謎を解く」の2回目。

614xxA_j61L_SL1200_.jpg 本書のタイトルは「資本主義の方程式」である。
この方程式というのは、決して難しい数式ではない。生産関数、消費選好、資産選好などからなるシンプルな方程式である。
近代経済学の「限界革命」で使われた(偏)微分方程式のような形式ではない。

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つまり数学的には高度なものではないのだけれど、これを理解するのは、けっこうな忍耐力を必要とする。
やはりノートに数式を書き写しながら、それが意味するところを一つ一つ確かめていかなければ、本当に理解することは難しいと思う。
 はじめに
従来の経済学/資産選好/本書の目的
 
第1章 資本主義経済の変遷
人はなぜカネを持つのか/モノとカネの乖離/消費選好が支配する経済/資産選好が支配する経済/資産選好と日本経済/貯蓄は美徳か/資産選がもたらす資産バブル/資産選好と格差拡大/資本主義経済の変遷を説明する式
 
第2章 「モノの経済」から「カネの経済」 へ
 1 基本方程式
資産プレミアム/貯蓄の便益/利子率と流動性/貯蓄のコスト/政府需要と基本方程式/金融緩和と基本方程式
 2 成長経済の経済学
賃金物価調整と景気の維持/成長経済での景気低迷/供給の経済学/市場の欠陥の経済学/インフレ・ターゲット/企業金融の不完全性/不完全な家計金融/成長経済での景気刺激策
 3 成長経済から成熟経済へ
効かなくなった景気刺激/衰えない貯蓄意欲/生産能力の拡大と経済構造の変化
 4 資産選好とバブル
ファンダメンタルズとバブル/資産選好とバブル/デフレ不況下の資産高騰/国債とバブル/資金調達かギャンブルか
 
第3章 成熟経済の構造
 1 成熟経済の基本方程式
豊かな経済の資産選好/総需要が決める消費/新消費関数/総需要と消費の決定/旧ケインズ経済学の消費関数/総需要と所得の因果関係
 2 資産選好と財政金融政策
財政支出の拡大/消費税と景気/成熟経済の大増税/旧消費関数とばらまき政策//MMT理論/資産選好と赤字財政/金融緩和と投資/財政支出の目的/景気を刺激する財政支出
 3 経済活動を決めるもの
需給不均衡の経済学/需要の経済学と基本方程式/合成の誤謬/カネに囚われた政策論争
 4 その他の景気刺激策
投資の促進と市場調整の効率化/労働生産性と失業率/労働市場の効率化と総需要不足/新製品開発とカネの魅力/創造的破壊と景気循環境政策
 5 経済ショックと危機対応
2つの経済ショック/供給ショック/需要ショック/新型コロナウイルス感染症と景気対策/一律ばらまきより所得補償/パンデミックが作る新しい消費/災害と保険制度
 
第4章 格差拡大
成長経済での格差と道徳律/勤勉と質素倹約の弊害/金持ちになるほどカネが惜しい/自己責任ではない経済格差/経済格差と不況
 
第5章 国際競争と円高不況
 1 国際経済での不況
開放経済における国内総生産/成長経済での経済活動水準/開放経済での総需要不足/国際競争力と景気/対外資産/経常収支黒字と円高/金融緩和/為替レートの絶対水準と変化率/マンデル=フレミング・モデル
 2 海外経済の影響
海外特需と成熟経済/競合品の生産性競争/競合しない外国製品の生産性向上/経済援助は誰のため/環境問題をめぐる国際交渉
 
第6章 政策提言
 1 成長経済
勤勉と質素倹約/成長経済の経済政策
 2 成熟经济
資産選好と成熟経済/成熟経済の経済政策/成熟経済に必要な教育/経済成長無用論と消費の意味/失業放置の弊害
 3 格差拡大と再分配
格差拡大の必然性/再分配と経済活性化
 
おわりに

なので私はそういう面倒なことはしていない。
ざっと目は通したけれど、自分で数式を読み解くというようなことまではしていない。


著者がいう基本方程式をベースに、興味の中心になる変数を組み入れる(普通は既存変数の分離)などによって、さまざまな結論を導いている。

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ただ、ちゃんと読めていない私が言うのはおかしいのだけれど、そこから出てくる結論については、本当にそうなのかというものもある。
そういう感覚は、マクロ的視点と個人の感性のズレのようなものがあるのではないかと思う。

本書では、資産選好が効いてくるのは成熟経済の場合と考えているようだけれど、社会には資産家には資産選好があるとしても、貧乏人にはそういうものがあるのだろうかという素朴な疑問である。

ただし私個人としてはちょっと違った感じもある。
というのは年金生活者にとっては、年金と資産のとりくずしで生活しているわけで、資産をもっと殖やしたいという動機ではなく、少しでも資産の減少を抑えるほうが安心だという思いがある。これは多くの高齢者も同様かもしれず、そうならやはり給付金はその分の消費が増えるのではなく、平常の消費を代替するだけということになる。

いずれにせよ、本書では、成長経済の場合、成熟経済の場合、と経済段階を2つのフェーズに分けて考察する場面が多いのだけれど、どんな社会でも資産家と貧乏人がいて、おそらく数の上では後者が圧倒的多数だろう。
だから、「国民への給付は消費には向かわず、資産形成に使われ、景気の浮揚効果はない」というような本書の主張には、まったく賛同できるわけではない。
マクロ経済方程式の帰結が、一般国民感情にあうかどうかということかもしれない。

今までの多くの「常識」と異なる結論が多く呈示されているので、正直なところ信じられない思いもある。

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