早いもので2021年ももう残りはCOUNTDOWN JAPAN 21/22だけということで、毎年勝手にやっている年間ベストディスクなど。まずは2021年のベストディスクを20位から。
20.30 / UVERworld
春フェスなどでもライブで演奏していた、インタビューではTAKUYA∞が
「やるたびに歌詞が変わるから、どの段階で録音するべきか」
と語っていた「EN」が再生すると1曲目に流れ始めてきて、「そう来るか!」と思った、UVERworldの11枚目のアルバム。
その「EN」はライブ録音かと思うくらいに生々しいTAKUYA∞のボーカルが収められているが、かと思えばトラップを取り入れた、前作「UNSER」の延長線上のサウンドの曲やコラボレーションもあったりと、このコロナ禍になったことでバンドが向かおうとした方向が変化したりというTAKUYA∞や混沌さがそのまま作品になっている。UVERworldほど何があっても動じない、変わることがない精神力を持っていると思っていたバンドですら、コロナによってどんなサウンドを鳴らすべきか、どんなことを歌うべきか翻弄されていたことがよくわかるという意味では、UVERworldにとってのコロナ禍になる直前から今に至るまでのドキュメント的なアルバムと言えるのかもしれない。
19.天才の愛 / くるり
私は幼少の頃からの野球ファンであり、今でもシーズン中はライブがない日は毎日野球中継を見て、野球ニュースをチェックしている。そういう意味では贔屓球団こそ違うけれど、1番近しい存在だと思っているアーティストが音楽雑誌のインタビューでも延々と野球の話をしまくるくらいに野球マニアなくるりの岸田繁である。
そんなくるりがついに生み出した野球ファンのための(だからこそ野球に興味のないくるりファンは置いてきぼりとも言える)曲がこの「天才の愛」に収録されている、奈良県の名門高校である天理高校の応援歌をくるりなりにパンクにアレンジした「野球」である。
野球界のレジェンドの名前が次々に登場する中でいきなり挟まれる「戸柱」(DeNAベイスターズの現役捕手)にツッコミを入れながらも、「ノムさんありがとう」というフレーズには亡くなった野村克也のことを思い出させてウルっとしてしまうのだが、曲最後のフレーズが「SHINJO」なのはすでにBIGBOSS誕生を岸田は予期していたのだろうかとも今になると思う。これまでに数々の名曲を生み出してきたくるりの中でもどんな曲よりも毎回ライブで聴きたいと思える曲。
18.GIFT ROCKS / a flood of circle
今年でバンド15周年を迎えたa flood of circleがそれを祝ってリリースしたのは、フラッドと互いにリスペクトし合うアーティストに書いてもらった曲をフラッドが演奏するという、変わったタイプのトリビュートアルバムだった。
the pillows、THE BACK HORN、SIX LOUNGE、Rei、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN, THE KEBABS)というフラッドと相思相愛のアーティストたちがフラッドのために曲を書き、フラッドはそのアーティストたちのカバーも収録して返すという双方向での愛情の形。
とりわけフラッド「世界は君のもの」の続編とも言える田淵による「まだ世界は君のもの」と、フラッドメンバーの演奏する姿を巧みに歌詞に取り入れたRei「I'M ALIVE」はすでにフラッドのライブでもおなじみになってきているが、フラッドによるバクホン「コバルトブルー」の爆裂ロックンロールカバーも必聴。とはいえ、このアルバムを聴くとより強く実感するのは、このアルバムでは一切曲を書いていない佐々木亮介のソングライターとしての素晴らしさである。
17.ぐされ / ずっと真夜中でいいのに。
先行配信曲やEPに収録されていた曲だけでも「正しくなれない」「お勉強しといてよ」「勘ぐれい」「暗く黒く」「MILABO」「低血ボルト」と凄まじいまでのキラーチューンが揃った、ずっと真夜中でいいのに。の2ndフルアルバム。
もはやACAねが歌の精霊と化しているライブでは「秒針を噛む」「脳裏上のクラッカー」「正義」「勘冴えて悔しいわ」というこれまでの代表曲が演奏されない時すらあるくらいに次々に自身のキャリアを更新してきているわけであるが、1stアルバムの「潜潜話」もそうであったように、先行EPなどを聴いた時の期待値の高さからすると、アルバムで初収録された新曲がそこまでではないというのがこの順位になってしまっている。もちろんフルアルバムに同じタイプの曲ばかり収録されていても仕方がないのだが、ライブがあまりに圧巻すぎるだけに、そこが少し物足りなさを感じてしまうところでもある。そこを超えてきたアルバムが生まれたら年間1位も充分あり得る存在。
16.AMUSIC / sumika
10曲入り30分というくらいでもフルアルバムとされるような時代にあって、全16曲64分という凄まじいボリュームを誇る、sumikaの3rdフルアルバム。
それはこのアルバムに至るまでに3枚の両A面シングルをリリースし、その曲たちが揃って収録されているだけに、既聴感の強いものになってしまいそうな内容を新曲も多数収録することでそうは感じさせないというスマートなイメージにも見えるsumikaの力技っぷりと、何よりもアルバムスパンとしては1年しか空いていないのにこのボリュームというのが曲が止めどなく出てきているという今のsumikaの状態を感じさせる。
「願い」や「本音」というJ-POPのど真ん中で鳴るようなバラードから強いメッセージをギターロックサウンドに込めた「惰星のマーチ」など、バラエティに富む中でもドラムの荒井智之が手がけた「Jamaica Dynamite」、キーボードの小川貴之メインボーカルの「わすれもの」が良いアクセントになりつつ、これから先のsumikaの可能性も感じられる。それはこのアルバムリリース後に「Shake & Shake」や「Jasmine」という名曲が早くも世に放たれていることに現れている。
15.BLAST OFF! / THE BAWDIES
ビックリするくらいにコロナ禍の影響を感じさせないアルバムだ。それはそうなる前にすでに制作が始まっていたということもあるだろうけれど、それ以上にどんなことがあろうが、どんな世の中だろうがTHE BAWDIESがやることは変わることがないという強い意志の表明でもある。
2年前の「Section #11」が自他共に認める最高傑作と言えるくらいに素晴らしい内容だったのだが、ロックンロールで突っ走るというスタイルだったあのアルバムとは変わり、THE BAWDIESのロックンロールを貫きながらもポップさを感じさせるような曲も多く収録されているのがこれまでのアルバムとは違う部分と言えるだろうか。
その極地が最後に収録された「END OF THE SUMMER」。コロナによる影響を全く感じさせないと冒頭で書いたし、メンバーもその意識で作ったと思われるが、コロナに翻弄された聴き手としてはどうしても2019年までの夏の光景を思い出してしまう。THE BAWDIESがやることは変わらないけれど、ステージから見える景色は変わってしまった。ワンマンでもTAXMAN(ギター)はビールを飲まなくなった。それは我々と一緒にTHE BAWDIESがかつての景色を取り戻しにいこうとしているということだ。それが戻ってきた時に鳴らされていて欲しい12曲が収められたアルバム。
14.愛と例話 / teto
tetoにとって2021年は激動の年だった。それは言うまでもなく、山崎陸と福田裕介の脱退というバンドの存続すら危ぶまれる出来事があったからであるが、とはいえtetoの刹那的な衝動を炸裂させるというスタイルは確かにずっとこのまま変わらずに、というタイプのバンドのものではなかった。
小池貞利は脱退報告時に
「幼なじみでもないし、同級生でもない。25歳で始めたバンドだし、思想も哲学も全く違う。押されたら崩れそうな縄の上をギリギリのバランスで渡ってきた4人だった」
と言っていたが、その4人で作った最後の作品はそんな感傷を感じさせないくらいに(作っている時は脱退が決まっていないから当然だが)tetoでしかないものになっているが、その作品の曲やこれまでのtetoの曲を、今のライブではこれまでの活動で出会ってきた盟友たちの力を借りて鳴らしている。そこから感じるのは変わらないtetoらしさ。それはすでにこのアルバムリリース後に小池が弾き語りで演奏している新曲もそうなるはずだ。
「居場所が無い訳では無くて
ただ居場所がわからない
目を閉じ胸を押さえ耳を塞ぐ
どこにも出掛けられず」
(「遊泳地」)
そんな思いをしてきた人の居場所が確かにここにあることを感じさせてくれるアルバム。
13.FOREVER DAZE / RADWIMPS
何かとRADWIMPSのファンとしては心中穏やかではいられない1年だったが、そんな中でもRADWIMPSはコロナ禍になったことを受けた楽曲を精力的にリリースしてきた。その中にはミュージックステーションで披露された「新世界」など、このアルバムには収録されていない曲もあるというあたりが、逆にこの状況は野田洋次郎の創作意欲に火をつけ、歌いたいこと、歌わなければならないことを明らかにしたんじゃないかとすら思えてくる。
正直、かつてのギターロック、ミクスチャーロックとしてのRADWIMPSらしい曲は「桃源郷」くらいしかなく、それはAwichやiriがゲストに招かれているというあたりからも、今のRADWIMPSの鳴らしたい音、今の世の中やバンドの状況を鑑みても鳴らすべき音がそこではないということがわかるのだが、そんなRADWIMPSの2021年を象徴するのが、フジロックに出演した際に新曲として演奏された「SUMMER DAZE 2021」。エレクトロなダンスビートに乗って終末が来るまで踊っているようでありながら、今年の夏のことをこの曲に封じ込めて忘れないようにするような。そんな切なくも永遠の煌めきが鳴らされている。
12.ACHATTER / Hump Back
何はなくとも先行で公開された「番狂わせ」である。
「おもろい大人になりたいわ」「しょうもない大人になりたいわ」
と歌うこの曲はHump Backの3人が今バンドを心から謳歌していることがすぐにわかるのだが、このバンドをこれまで1人だけになっても続けてきた林萌々子のボーカルも変わった。これまでとは全く違う、自信のようなものがその声からも満ち溢れている。
スタイルもサウンドもこれまでのアルバムとは変わることはない。でもこれまでとは全く違うようにすら感じるのはその林の声やバンドから確信が鳴っているから。愚直なまでにシンプルなスリーピースのロックバンドだからこそ、その確信がダイレクトに音に乗っている。
「どうやら僕らは騙されたみたいだ
ロックンロールの神様ってやつに」(「HIRO」)
もし、そのロックンロールの神様というものが本当に存在しているのなら、この3人を騙してくれて本当にありがとうと思う。今、ライブで林が「番狂わせ」を演奏する前に口にする、その場でこそ言うべき言葉も含めて、10代の頃の自分が欲しかったのは、誰かをブン殴るためのロックではなく、このバンドのこのアルバムのように、自分のことを優しく抱きしめてくれるようなロックだったからだ。
11.アイラヴユー / SUPER BEAVER
完全に時代そのものがこのバンドのものになってきている。今のこんな世の中だからこそ求められる、ストレートだけれど強い説得力を持った言葉と、聴き手の足を前に、先に進ませてくれるような突破力を持ったバンドサウンド。その到達点と言えるのがSUPER BEAVERの「アイラヴユー」だ。
「僕はあなたの自慢になりたい」(「自慢になりたい」)
「アイラヴユーが歌いたい 愛してる 愛してる
ぎこちなくてもいいさ とにかく届けばいい
照れながらでもいいさ 顔がほころぶなら」(「アイラヴユー」)
という誰でも歌えそうなくらいにシンプルな歌詞を、このバンドにしか歌えないものにしているのは挫折も苦難も山ほど味わってきた4人の意志とライブでの口上も含めた人間性がそのまま歌詞になっているからであるが、
「さよなら絶望 絶望 何のための爆音だ
抗ってやろうぜ 抗ってやろうぜ 抗ってやろうぜ
涙目でもいい さよなら絶望」(「さよなら絶望」)
という歌詞によってアルバムが締められているのがビーバーが自分たちの音楽によって今の世の中に対峙している姿勢そのものでもある。
「時代とはあなただ」(「時代」)
とアルバム内で歌っているバンドは15年という長い歴史を経て、このアルバムを以って今の日本のバンドシーンの時代そのものになった。
10.アンチ・フリーズ / 日食なつこ
今年の夏にZepp Tokyoで初めて日食なつこのライブを見た。広いZeppのステージにピアノ1台、本人1人だけ。曲と曲の間に口にされる曲の物語の解説も含めた30分間の全てが音楽だった。そのライブで演奏されていた曲のほとんどがこの今年リリースの「アンチ・フリーズ」に収録されている曲であった。
それまではどこかアングラなイメージも持っていた日食なつこがポップなシンガーソングライターであり、稀代のストーリーテラーであるということがこのアルバムを聴けばすぐに理解できるのだが、このアルバムの最後に収録されている「音楽のすゝめ」は曲の歌詞を全て書き記したいくらいに、今この状況の世の中であっても音楽の力を少しでも信じている、音楽が人生に必要だと思っている全ての人に届いて欲しい曲である。その中で絞って記すとすれば、
「九つ、即ち音楽これ人の心
絶やしちゃいけない人の命 そのものなんだよ」
ということになるだろう。
「短い夢を 朝が来れば幻と化す夢を
後先もなくかき集めてしまう 馬鹿な僕らでいようぜ」
そう、この曲があれば、この音楽があればどんなに馬鹿と言われても構わない。そう思える、2021年に生まれるべくして生まれた大名曲。そして、馬鹿な僕らで会おうぜ。
9.NEE / NEE
一聴した時の感覚は米津玄師「diorama」を初めて聴いた時のものに近い。それはバンドだけをやっていたら絶対に得られないような、ボカロ音楽由来のサウンドやリズムを人力のバンドで鳴らしているという点において。
それを1stフルアルバムでこれだけ完成度の高いものとして完成させたNEEは新人バンドの中では完全に頭ひとつ飛び抜けた発想力と技術を持っているとも言えるが、独特な歌詞や言語のセンスからはどこか人を食ったかのようや、愉快犯的な感覚をも感じる。とかく品行方正さが求められる現在のバンドシーンにおいてはそうした立ち振る舞いすらも異質なものとして映る。
このアルバムにも収録されている、川谷絵音が絶賛した「不革命前夜」が飛び抜けた存在と言ってもいいが、画面から流れてくる音楽というだけではなく、そこからは確かにバンドで鳴らしているからこその熱のようなものを感じることができる。それをこれから先にもっと大きなステージで感じさせてくれる予感に満ちているという点では、まだまだこのアルバムは自己紹介的な、バンドにとってまさに序章と言えるものなのかもしれない。
8.夜にしがみついて、朝で溶かして / クリープハイプ
こんなにも歌詞カードを見ながら聴きたいと思うアルバムは今年他にない。何と発音しているのかはハッキリとわかるのだが、そこにどんな漢字が当てられているのか、それによってどんな意味を持った文章になっているのか。クリープハイプはずっと歌詞にこれでもかというくらいに向き合ってきたバンドであるが、尾崎世界観が作家として芥川賞候補になったりというバンド外での活動がバンドの言語表現にもより独特な表現をもたらすように作用している。とりわけアルバム冒頭に収められた「料理」は現状のそのクリープハイプの歌詞表現の極地と言っていいものである。
しかし、「クリープハイプの日」に先んじてライブで演奏された「ナイトオンザプラネット」がR&Bなどの要素を強く含んだものであったために、アルバム全体としてもそうした方向に向かうのかと思いきや、直前に配信でリリースされた「しょうもな」が象徴するように、疾走感あふれるギターロックとしてのクリープハイプという曲が意外なくらいに多い。それはもしかしたら自身の歌詞が最も乗りやすいサウンドはそうしたものであるということを悟ったのかもしれない。
フェスやイベントで「今自分たちが本当にやりたい、やるべき曲をやる」というモードに突入していることも含めて、シーンに登場してきた時以来というくらいに、今のクリープハイプの活動にドキドキしている。それは2022年以降もきっとそう思っているはずだ。
7.DIARY KEY / Base Ball Bear
自分はBase Ball Bearのメンバーがまだ20歳くらいの時からずっと音源を聴いて、ライブに通っている。(知った時はまだ下北沢のインディーズバンドだった)
そうしてずっとベボベを追いかけ続けて来たのはベボベの生み出してきた音楽と行ってきたライブがいつだって、形が変わったって素晴らしいものであり続けてきたからであるのだが、この年間ベストの企画で最後に上位に入れたのはおそらく2015年の「C2」だと思われる。
バンドの形も変わって変化作となった「光源」はまた別として、前作フルアルバムの「C3」がランクインするに至らなかったのは、ライブ会場限定も含めて先行EPの曲が全てアルバムに収録されているという、コアなファンであればあるほどに新鮮味が感じられない内容だったからである。
しかし、やはり曲のクオリティ、アルバムのクオリティとして素晴らしいものを生み出しているバンドであるということを証明するのがこの「DIARY KEY」である。スリーピース・ギターロックバンドとしてのベボベを突き詰めたようなサウンドで、とりわけ耳を惹くのは関根史織がメインボーカルを務める「A HAPPY NEW YEAR」であり、
「A HAPPY NEW YEAR! ふたりに
幸せたくさんありますように
生きてくれてありがとう
幸せが降り注ぎますように
願ってる いまもいつものように
いつでも いつでも」
という歌詞からはとかく青春を歌ってきたというイメージが今なお強いベボベのメンバーが大人になったんだなと感じるとともに、いろんなことをずっと見てきたファンとして、3人のこれからに幸せがたくさんありますように、と思える曲になっている。またいつか正月に日本武道館ワンマンでこの曲を聴くことができることを願ってる。
6.セカンド / THE KEBABS
デビューフルアルバム「THE KEBABS」も昨年のこの企画で18位にランクインさせたくらいに良いアルバムだったが、そのアルバムを聴いた時に少し疑念もあった。それは「即興性の強いロックンロールというスタイルゆえに、今後似たような曲ばかりになってしまうのでは?」というものだったのだが、そこはさすがa flood of circleの佐々木亮介、UNISON SQUARE GARDENの田淵智也、元serial TV dramaの新井弘毅、元ART-SCHOOLの鈴木浩介によるバンド、THE KEBABSであり、こちらのそうした不安を「セカンド」は見事なまでに払拭してくれている。
その象徴として「てんとう虫の夏」「ジャンケンはグー」にはシンセのサウンドが取り入れられている。それはフラッドやユニゾン(ピアノの音は入れてるけど)では禁じ手と言えるものであるが、ライブではもちろん誰も演奏しないし、同期の音として流すこともしない。つまりはライブでそのまま演奏できるというTHE KEBABSの即興性は、ライブと音源は別物という作り込まれ方に変化したと言える。
そんな中での白眉は「うれしいきもち」「ラビュラ」という、むしろポップフィールドで鳴らされていてもおかしくないような曲。そこには佐々木亮介と田淵智也の2人のメロディメーカーとしての地力の強さと、1stでは感じることのなかった、切なさや感動といった感情を感じることができる。
つまりはこのアルバムをもってTHE KEBABSは「亮介と田淵のもう一つのバンド」から、「このメンバーでしかないバンド」にハッキリと進化を果たしたということだ。そんなアルバムを聴くことができて、うれしいきもち。
5.ギター / ハンブレッダーズ
「DAY DREAM BEAT」や「スクールマジシャンガール」を聴いた時、良いバンドだと思いつつも、曲から浮かんでくる情景はどうしたって学校や教室や登下校という自分がすでに過ぎ去ってしまっていたものであり、自分が10代だったらハマっていたかもしれないな…と思うに止まっていたのが、去年までのハンブレッダーズである。
しかしながら今年になってからのライブを観た時に、「これはもしかして自分みたいなやつのための音楽なんじゃないだろうか?」と思い始め、それが確信に変わったのがこの「ギター」である。
ムツムロアキラも「タイトルを「ギター」にするか「ロック」にするかで迷った」というくらいに、このアルバムで歌われているのは制服を着たあの娘への想いではなくて、ひたすらに音楽への、ロックへの愛。それをド派手なエレキギターを全開にして鳴らす。
「ギター歪ませずに、聴き心地のいいBGMになるための音楽を作ってるけど、今本当に孤独になってる人に必要なものって、その真逆なんじゃないかって」
というムツムロのリリース時のインタビューが全てを言い表しているくらいに、このアルバムは聴かせたい相手がハッキリしている。それはかつてのムツムロや自分のような奴である。そんな奴らの救いになるような、ロックでしかないアルバムには、メンバーによる1曲1曲の解説的なライナーノーツが封入されている。ボーナストラックと言ってもいいラストの「ライブハウスで会おうぜ」の部分では
「早くこの曲が特別に聴こえないような世の中になって欲しい」
とムツムロは言葉にしていた。今はまだ、ライブでこの曲を聴くと泣いてしまうくらいに、特別に響いてしまう状況だ。だけど、涙を流したってここじゃきっとバレないんだろう。
4.FIZZY POP SYNDROME / 秋山黄色
昨年の1stフルアルバム「From DROPOUT」は衝撃的な大名盤だった。昨年のこの企画で2位に挙げ、おそらく再生数では2020年で1番のアルバムだった。
そんな完璧な1stの後に早くも届いた秋山黄色の2ndアルバム「FIZZY POP SYNDROME」は秋山黄色というアーティストの持つサウンドと描く風景の引き出しの広さを示すものになった。
ドラマ、アニメ、映画のタイアップでそれぞれ全く異なるアプローチを見せただけに、どれで出会ったかによってその人なりの秋山黄色像は変わるかもしれないが、そうした多彩な秋山黄色像がそのままこのアルバムには1枚に収められている。
中でも秋山黄色の音楽の原風景が見える「宮の橋アンダーセッション」からレイドバックした「ゴミステーションブルース」、エレクトロなサウンドを取り入れた「ホットバニラ・ホットケーキ」というアルバム終盤は目まぐるしくサウンドも情景も変化しながらも、とっ散らかっているような感覚は全くない。全てが秋山黄色の音楽であるべき姿で鳴っている。
それはこれから先も秋山黄色が様々なタイプの曲と音楽で我々を楽しませてくれるということであるが、そんなアルバムの最後に待ち構えるグランジ的なサウンドの「PAINKILLER」はこの現実(それはコロナ禍関係なく)を生きていくことの辛さと痛みを
「消える前に 終わる前に
辞めてやろう大人なんて
BORDER
消える前に 終わる前に
捨ててやろう優しさも
BORDER」
という歌詞で描きながらも、それから逃げてでも生きていていいという秋山黄色なりの優しさを感じさせる。これからも秋山黄色の音楽を、作品を聴き続けられるように。もがけ僕らの足。
3.PANDORA / go!go!vanillas
go!go!vanillasの歴史はサウンドの広がりの歴史だと思っている。ロックンロールバンドとしてシーンに登場しながらも、世界中のありとあらゆる音楽を聴き、オフにはレコード屋に行って古今東西のレコードを掘る。そんな音楽マニア集団であるバニラズなだけに、こうしてアルバムごとにどんどん内容が多彩になっていくのは必然であるとも言える。
とはいえ、1枚のアルバムの中にいろんなサウンドの曲を入れるというのは時にはアルバム自体がとっ散らかってしまう可能性も孕んでいるのだが、それを全くそう感じさせないどころか、ロックンロールバンドがヒップホップやゴスペルを取り入れてもそこに違和感を感じさせない、バニラズの音楽として成立させているというあたりにこのバンドの凄まじさを改めて感じさせるとともに、よく言われる「この4人で音を鳴らせば自分たちの音楽になる」ということを今最も体現しているバンドであるとも思える。
今やフェスなどの持ち時間の短いライブでも、「クライベイビー」「お子さまプレート」「one shot kill」というシングル曲でもないこのアルバムの曲がセトリの中に入るようになったし、それがちゃんと観客に受け入れられている。バンドはこのアルバムに絶大な自信を持っていて、それがしっかり届いているという理想的な状況はこのバンドがシーン登場時には全く想像も出来なかったアリーナツアーをやるバンドになったということも当然の結果であると言える。
なまじ牧達弥のビジュアルが良いだけにそういうバンドとして見られていることもあるかもしれないが、そのイメージを自分たちの音と曲でもって吹き飛ばすかのような説得力に満ちた、間違いなくバニラズの最高傑作。これからも、バニラズの未来に賭けてみよう。
2.灯命 / CIVILIAN
こんなにも2021年という「今」を真っ向から描いたロックアルバムは他にないと思う。
「それでも、私は思う。なぜ今なのですか。なぜ私達なのですか。なぜこんなことになったのですか。
世界を元に戻してください、神様。」
という今の世の中を
「遥か先の君へ
どうか忘れないでいて
2021年6月2日
僕等がここに居たことを」
というリアルな視点でもって描く「遥か先の君へ」で始まるCIVILIANの「灯命」は間違いなくこのコロナ禍において自分たちが歌うべき、作品として残すべきという思いによって生み出されたアルバムだ。
コロナ禍によって人間の醜さが暴かれたということは常々言われてきたことであるが、このアルバムでCIVILIANが、コヤマヒデカズが描いたのはその人間の醜い部分。それがそのままコロナ禍で表出したそれと重なることで、このアルバムが今そのもののアルバムになっている。
でも、果たして今のこの世の中にあるのはそうした醜さや絶望だけなんだろうか。いや、そうじゃない。
「どうせ誰もが皆一人なら 君と一緒に」(「世界の果て」)
「失くして初めて 後悔したんだ
「遅い」って笑って どうかもう一度だけ
失くしたくないものが
今更分かったのです」(「灯命」)
というラスト2曲の流れはそんな世の中でも生きていくべき理由があること、この世界には大切なものがあるということを示している。「遥か先の君へ」から始まった一大絵巻的な物語はここへ向かうために、コロナ禍で表出したのは人間の醜さだけではなく、それぞれが守っていくべきものがなんなのかということも描いている。アルバムという形態はそうした物語を描くことができる。コロナ禍で不要不急とも言われた音楽にはこうした表現をすることができる。ただコロナ禍を描いただけではない、それを証明したという点で、間違いなく今を歌った、2021年を代表するべき名盤だ。
1.伝説の夜を君と / a flood of circle
懸念点は一つだけ。昨年この年間ベストで1位に選んだ「2020」があまりに凄すぎただけに、それと比べたら見劣りしてしまうかもしれないということ。
しかしながら佐々木亮介の弾き語り的なアルバムタイトル曲で始まり、先行公開された2曲目の「北極星のメロディー」のイントロを聴いた瞬間に涙が出てきそうなくらいのカッコ良さを感じる。フラッドが好きでいて良かったと。つまりは「2020」が良すぎただけに見劣りするかもしれないというのは全くの杞憂だったわけである。
それはそのままフラッドファンの熱さにもつながる。決して東京公演のチケットが取れないわけでもないのに、地方も含めてツアーに何本も参加したりという、フラッドが見たくてたまらない、聴きたくてたまらないという感覚。それを呼び起こしているのが楽曲としての、作品としてのクオリティの高さあってこそだ。
佐々木亮介はソロではR&Bやヒップホップの影響が色濃い音楽も作っているが、フラッドでは敢えてそうした音楽からの影響を省いた、ロックンロールとブルースという軸に忠実な音楽を作り続けている…というのは去年の「2020」でも書いたことであるが、なぜそうしているかというと、ロックンロールが、ロックバンドが、フラッドが世の中のどんな形態よりもカッコいいという確固たる自信を持っているからだ。もう若手でもなければ話題になることもそうそうない、でも全てのロックファンに届いて欲しい作品と存在。
「本当に見たい未来
辿り着くのはきっと
諦めずに最後まで
歩いた君だぜ」(「セイントエルモ」)
フラッドならその未来にたどり着くことができるって、諦めずに信じている。こんなアルバムを作ってくれているから。
・惜しくもTOP20に入らなかった作品たち(順不同)
日記を燃やして / 橋本絵莉子
INNOCENCE / ACIDMAN
新しい果実 / GRAPEVINE
CRYAMY -red album- / CRYAMY
I LOVE YOU / フジファブリック
モルモットラボ / キュウソネコカミ
SUPER CHILL / SATETSU
REAMP / ヒトリエ
USELESS / XIIX
愛とヘイト / ビレッジマンズストア
scent of memory / SEKAI NO OWARI
ACTION! / KEYTALK
the meaning of life / yama
ジェニースター / ジェニーハイ
Case / Creepy Nuts
ツイス島&シャウ島 / ユニコーン
輝きの中に立っている / 時速36km
血を嫌い肉を好む / ドミコ
アンメジャラブル / オレンジスパイニクラブ
The GARDEN / the peggies
DIZZYLAND -To Infinity & Beyond / Dizzy Sunfist
Break and Cross the Walls I / MAN WITH A MISSION
Pure Blue / Age Factory
縦横無尽 / 宮本浩次
PEOPLE / PEOPLE 1
inVisible / SHIFT_CONTROL
去年は上位候補の作品が早い段階で出揃っていたが、今年は本当に選ぶのが難しかった。昨年リリース作品はまだコロナ禍になる前に作られたものばかりだっただろうが、レコーディング環境の変化などが現れた作品がリリースされたのも今年からだと思われる。
そんな中で早い時期にgo!go!vanillasとCIVILIANは今年の中では突出した存在だと思っていたのだが、12月22日リリースというギリギリのタイミングでのa flood of circleが2年連続の年間ベストディスクに。このクオリティの作品を作り続けているバンドであるということが、せめてもう少しだけでいいからいろんな人に評価されて欲しいと思う。
選出した20作品中、17作品(ずっと真夜中でいいのに。はライブを見るとバンドでしかないのだが、あえて存在としてはバンド外に)がバンドの作品。もうアメリカなどではR&Bやヒップホップが主流になって久しいし、日本にもその流れは来ているかもしれないけれど、そうした「世間や世界でこれが流行ってるからこれを評価すべき」とかそんなのは一切知らん、ただ自分が心からカッコいいと思っているものをこうして評価して、ライブに行くという信念だけは曲げずに生きていきたいと思う次第。
2021年の20曲 (順不同)
閃光 / [Alexandros]
Shake & Shake / sumika
SUMMER DAZE 2021 / RADWIMPS
うれしいきもち / THE KEBABS
光インザファミリー / ハルカミライ
音楽のすゝめ / 日食なつこ
まだ世界は君のもの / a flood of circle
エンパシー / ASIAN KUNG-FU GENERATION
番狂わせ / Hump Back
8月の陽炎 / マカロニえんぴつ
泡沫 / 9mm Parabellum Bullet
野球 / くるり
さまらぶ♡ / 東京初期衝動
Bluetooth Love / ヤバイTシャツ屋さん
さよなら絶望 / SUPER BEAVER
Rise Again / AIRFLIP
春泥棒 / ヨルシカ
アイデンティティ / 秋山黄色
ナイトダンサー / 秋山黄色
追い風 / SHE'S
表彰2021
MVP: a flood of circle
新人王:AIRFLIP
カムバック賞:KANA-BOON
最優秀公演賞:a flood of circle 4/1 新木場STUDIO COAST
特別表彰:JAPAN JAM 2021 5/2〜5/5
2021年参加ライブ数158本 (CDJ4日間含む)
今年のプロ野球の新人王、特にセ・リーグは本当に例年なら文句なしで受賞できるような選手がたくさんいた。受賞したのは広島の栗林だが、個人的にはDeNAの牧に取らせてあげたかったし、今年のプロ野球の主役の1人だった佐藤輝明に加え、阪神では伊藤将司、中野拓夢も受賞してもおかしくないくらいに。
それは音楽シーンでもそうで(どこまでを新人とするかはそれぞれだが)、ランキングにランクインしたNEE、ランクインしなかったものの、面白い存在のバンドであるPEOPLE 1、いよいよ覚醒の兆しが見えて来たSHIFT_CONTROL、バンド以外ではyamaなど、他にも様々なスタイルの様々なアーティストが個性と存在感を発揮した。
そんな中で自分が選んだのがAIRFLIP。スペシャで流れた「Rise Again」のMVの衝撃度によっての新人王であるが、メロディックパンクというある程度型が決まりきったスタイルのバンドでそこまで衝撃を与えられる存在はそうそういない。今年やり残したことが一つあるとするならば、それは彼らのライブが見れなかったこと。それくらいに期待している。それはかつてCDTVのエンディングテーマとして流れていたELLEGARDEN「ジダーバグ」の衝撃を思い出させるものだったから。
そんな新人たちが群雄割拠する中で2年連続のMVPと最優秀公演賞がa flood of circle。もはや自分にとってはバンドシーンにおける、マイク・トラウト(ロサンゼルス・エンゼルス)のような存在だが、それくらいにフラッドが毎年素晴らしい作品を次々にリリースし、それまでの自分たちを塗り替えるようなライブをしてきたということ。それはきっと来年以降も続いていく。それだけに、1人でも多くの人にライブを見てもらいたい思いが強い。見てくれたら、絶対に「カッコいい」と思ってもらえる自信があるからだ。
そんな2021年は夏フェスが去年同様にほとんどなくなってしまった。そんな中でも開催された春フェスのうち、マスコミから晒されまくったJAPAN JAMとそこに参加した人の「フェスを、ライブを守りたい」という意識を持った姿は自分は一生忘れないと思う。今年参加したフェスの中で主催者と参加者の意思が最も強いフェスだったから。夏のひたちなかには残念ながら繋がらなかったけれど、COUNTDOWN JAPANは何としても開催するという意思を持って、形を変えても絶対に中止にさせないようにして開催を迎えた。今まで当たり前だった音楽を浴び続けられる年末が帰ってきたことが本当に嬉しいし、そんな年に158本ライブに行けたということは、ライブハウスやフェスのスタッフやアーティスト、イベンターの方々が感染対策を行ってライブを開催してくれていたから。
キツいこともたくさんあったけれど、そうしてライブハウス、ホール、アリーナ、野外フェスとあらゆる場所のライブに行きまくっても自分は今年を健康に過ごすことができた。それが少しでもライブ会場は危険な場所ではない、感染源ではないということを証明できているのならば、ライブを作ってくれた人たちに貰ってきたものを返すことができたんじゃないかと思っている。