ARABAKI ROCK FEST.2019 day1 @エコキャンプみちのく 4/27
- 2019/04/30
- 16:32
春フェスの先駆けとして宮城県で開催されてきた、ARABAKI ROCK FEST.。毎年ここでしか見ることができないセッションやイベントなどで周年イヤーのアーティストを祝ったり、震災以降は復興のシンボル的なフェスであり続けてきた。
今年は15周年の9mm Parabellum Bulletと30周年のthe pillowsをヘッドライナーに据え、豪華なゲストが登場する記念ライブになることが発表されており、そのほかにもそうしたゲストが登場するアクト多数ということもあってか、チケットは早々にソールドアウト。今年のゴールデンウィークが10連休という影響もあるのかもしれないが。
昨年は暑いくらいの快晴だったのが、今年は朝から曇天に雨。気温も冬のごとき1桁台という寒さ。それ故にかなりの厳しい2日間になると予想される。
11:30〜 go! go! vanillas [BAN-ETSU STAGE]
メインステージのMICHINOKU STAGEから最も離れたBAN-ETSU STAGE。開場すると日差しすら射し込むような天候の回復を見せる中、このステージのトップバッターとして登場するのは、go! go! vanillas。
昨年末にベースのプリティが交通事故に遭ってからはサポートメンバーを加えてライブを行ってきたが、今月のワンマンからはまだ復帰に至っていないプリティを除くメンバー3人でライブを行う形になっている。
よって下手側にジェットセイヤのドラムセットが置かれたスリーピースだからこそのステージ配置で「we are go!」のSEが鳴っていつもと変わらぬようなテンションの高さの3人がステージに登場。柳沢進太郎(ギター)のフォーマルな出で立ちはいつにも増してオシャレに見える。
3人の声が重なるハーモニーでスタートしたのは、モンストの大会のタイアップ曲に起用されることが決まった、来月リリースの新作アルバム「THE WORLD」収録の「Hey My Bro.」。前作「FOOLs」で見せた音楽性とメンバーの技術の拡張あってこその曲であるというのは聴くとすぐにわかるが、実の兄弟というよりは兄弟的な存在に
「お前はまだやれる」
と勇気を送るようなメッセージの歌詞はやはり療養中のプリティに向けたものだと思ってしまう。事故の前から作られていたのが間違いないのは、3人の演奏する音にプリティのベースの音が同期で加えられているという、すでに4人でレコーディングをしている事実からもわかる。
朝イチから満員の観客を飛び跳ねさせまくった「エマ」で柳沢がセイヤのドラムセットに登ってから大ジャンプを決めると、この日も改めて「歌上手いな〜」と思うほどにこの広いキャパを掌握している牧が初めてライブを見たりこのバンドを知ったであろう人がたくさんいるであろうフェスだからこそ、改めてプリティが不在の状況を説明し、ストレートなロックサウンドの新曲「パラノーマルワンダーランド」とさらに新曲が続くが、こうしてライブで新曲ができるのはサポートメンバーではなくプリティの音を使うという選択をバンドがしたから。しかもそこには物足りなさは感じない。むしろプリティが確かにこの曲を演奏していること、アルバムが出たら4人でこの曲を演奏する姿が見ることができるという期待を感じさせてくれる。
「3人でも俺たちのロックンロールの魔法、いや3人じゃない、あなたと、あなたたちとでロックンロールをしに来ました!」
とこのバンドにかかっているロックンロールバンドの魔法をそのまま体現するかのような「マジック」へ。ジェットセイヤはシンバルを掴んでシンバル台で別のシンバルをぶっ叩き、そのシンバル台を放り投げるという革ジャンにサングラスという出で立ち通りの破天荒なロックンロールドラマーっぷりを見せる。
さらに
「デスからアゲイン」
というタイアップの「ゲゲゲの鬼太郎」を意識したであろうフレーズが図らずともバンドの現状とリンクしている「No.999」はイントロのセッション的なアレンジがさらにロックンロール感を増している。
そして「カウンターアクション」を終えると、
「平成最後のARABAKI ROCK FEST.。このフェスが終わったら新しい時代になる」
と牧が平成最後、そして令和に突入する直前であるこのタイミングだからこそのMCをしてから「平成ペイン」を最後に演奏。平成生まれ、平成という時代しか知らないバンドが平成の最後に鳴らした「平成ペイン」は間違いなく今年のこのフェス最初の名場面だった。果たしてこのバンドは新しい時代にどんなロックンロールを鳴らすのか。ロックンロールバンドという意味でも、日本のバンドシーンにおいてもさらに重要な存在になる予感がしている。
このバンドにはロックンロールの魔法がかかっているけれど、それは3人でも、いや、やはりこのバンドは3人ではないということを3人のライブで証明していた。来年はまた4人で。
1.Hey My Bro.
2.エマ
3.パラノーマルワンダーランド
4.マジック
5.No.999
6.カウンターアクション
7.平成ペイン
パラノーマルワンダーランド
https://youtu.be/TtvY48y5NNE
12:30〜 ヤマサキセイヤ (キュウソネコカミ) [HASEKURA Revolution × 東北ライブハウス大作戦STAGE]
昨年はHANAGASA STAGEとBAN-ETSU STAGEの間の飲食ブースの中にあった喫煙所のステージが今年から支倉常長(伊達政宗の家臣でこの会場のある宮城県川崎町出身の戦国武将)の名前を冠した、東北ライブハウス大作戦のステージとしてリニューアル。
主に弾き語りを中心とした出演者が並ぶステージだからこそ、普通に開演時間のはるか前からサウンドチェックと称して登場して、本隊のキュウソネコカミの本気のリハのようにヤマサキセイヤも20分以上前から弾き語りをしている。
5年前の新木場STUDIO COASTでのN'夙川BOYSとThe Mirrazとキュウソネコカミの3マンの際にセイヤは人生初の人前での弾き語りをやっているのだが、それからもほとんど弾き語りはやっていないのでこうしてソロでライブに出演するのは実に貴重な機会である。
時間前から観客にリクエストを募ってはキュウソネコカミの曲を弾き語りするのだが、「空心菜」や「5RATS」というリクエストに応えるも、
「キュウソネコカミの曲はみんなで歌う曲が多いから1人でやるのは無理やって〜!
緊張するよ〜!ヨコちゃーん!ソゴウー!オカザワー!タクロウー!」
と思わずメンバーの名前を叫んでしまうくらいに緊張していた様子。
「始まる前からこんなにたくさん来てくれていて嬉しいけど、本番になったら誰もいなくなってるんちゃうか(笑)」
と不安がっていたが、本番になるとさらに多くの人が集まっており、他のステージでも充分埋まるというか満員になるくらいなのはさすがだし、みんなこの弾き語りが貴重な機会であることをわかっている。
アコギを手にして
「あの〜」
と歌い始めるも、ギターの弾き心地がサウンドチェックの時とはどうにも違うということで何度かやり直してから
「あの街並 思い出したときに 何故だか浮かんだ」
と歌い出したのは、フジファブリックの「陽炎」。かつてキュウソがインディーズ時代にライブで「虹」をカバーしていたこともあったが、今では自分たちの曲だけでもやり切れないくらいに曲数があってなかなかカバーを聴ける機会がなくなってきているだけにこれは弾き語りならではだし、セイヤとキュウソのルーツを改めて感じさせてくれる。フジファブリックが「夏盤」としてリリースしたことを考えるとあまりに寒い気候ではあるが。
「みんなが知ってる曲はやりませんよ!普段はやらない曲ばっかりです」
と予告して弾き語りしたのは確かに近年ライブでは全然やっていない「適度に武士道、サムライBOYS。」。メンバー全員のコーラスが入らない曲を中心に選んでいるのは間違いないだろうが、
「戦ってるよ」
のフレーズの部分ではファンがしっかりコーラスを返しており、セイヤも実に嬉しそうだ。
「キュウソには実はあんまり楽しい曲はないねん。暗い曲ばっかり。この曲もイライラしたりした時とかの曲」
という「フラッシュバック」はその言葉通りに思い出したくないような後悔が頭をよぎるような曲だが、バンド形態ではなく弾き語りという形だからこそ歌詞がいつもよりもはっきりと耳に入ってきて、セイヤの「暗い曲ばっかり」という言葉に納得してしまう。
アコギにカポを取り付けると
「BUMP OF CHICKENみたい!」
と自身でテンションを上げながら、
「曲を選んでたら「人生はまだまだ続く」の曲ばかりになって。この時期からメロディにちゃんと向き合うようになったから」
と2015年リリースのアルバムからの曲が中心のセトリになっていることを明かしたのだが、「春になっても」もそうした、いわゆる「DQN〜」みたいなキュウソらしい曲というよりはメロディに重きを置いた曲であるし、結果的には季節感を意識したものになっている。
「今日は寒いけど、春ですね。友達の春の曲をやろうと思うんですけど、あいつど天然なのにギターめちゃ上手いから難しいんですよ」
と言ってからカバーしたのはSAKANAMON「ぱらぱらり」。確かにSAKANAMONはスリーピースとは思えないくらいにギターを弾きまくるバンドであるが、こうして弾き語りというシンプルな形だとメロディと歌詞のみが強く浮き彫りになるし、何よりもこうしてカバーを聴くと、セイヤが歌うとどれもキュウソネコカミの曲になるということに気づかされる。どちらかというとパフォーマー的なイメージが強い男ではあるが、ボーカリストとしての資質をちゃんと持ち合わせているというか、活動を続ける中でそれを磨いてきたということがちゃんとわかる。
そして最後はまだメンバーにも聴かせてないという新曲。失恋をテーマにしたものであるが、あくまで自身の経験ではなく友人の話を元に作ったということで、タイトルも「K君」。別れた彼女が気になって仕方がなく、
「君のSNSを見ることがやめられない」
「新しい男の影がある」
というキュウソというかセイヤならではの視点での失恋ソング。
「キュウソは暗い曲ばかり」というセイヤの言葉通りの曲であるが、あまりにも率直な歌詞には客席から苦笑いのような声も聞こえた。果たしてバンドではどのようなアレンジになるのだろうか。
まだ経験値もほとんどないし、やはり「なぜバンドで出ないのか」とも思ってしまうけれども、こうした弾き語りライブはセイヤのボーカリストとしての技術を間違いなく向上させるものになる。そしてそれはキュウソ本隊にも還元されるし、それによってバンド自体も今よりもさらに一段階上の場所に行けるようになるはず。
何よりもこのステージには東北ライブハウス大作戦の中心的存在の猛者たちが弾き語りで出演するのだが、セイヤがその中に入る存在になっているというのが本当に頼もしく感じる。
1.陽炎 (フジファブリック)
2.適度に武士道、サムライBOYS。
3.フラッシュバック
4.春になっても
5.ぱらぱらり (SAKANAMON)
6.K君 (新曲)
ぱらぱらり
https://youtu.be/1x40I9xurXk
13:30〜 SiM [MICHINOKU STAGE]
今年は春から様々なフェスに出まくっている、SiM。ラウドシーンの首魁として、今やこのフェスにおいてもメインのMICHINOKU STAGEに登場するのが当たり前の存在となった。
SEとともにGODRi(ドラム)、SIN(ベース)、SHOW-HATE(ギター)の順番でメンバーがステージに登場すると、最後に黒い革ジャンを着たMAH(ボーカル)が現れ、
「アラバキー!」
と叫ぶと、いきなりの「KiLLiNG ME」からスタートという飛ばし具合。最近はフェスではこの曲の途中で観客をステージに上げてギターを弾かせたりしているが、最初に演奏されたことで今回はそういうパフォーマンスはないということがわかる。
「ツーステって知ってるかー!」
とさらに「Amy」、レゲエパンクというジャンルでシーンに登場したこのバンドの音楽性を強く感じさせながら高速左回りサークルを生み出した「T×H×C」、MAHが携帯の着信音に合わせて電話に出る素振りを見せてから演奏された「Fall In Love With You」と、最近ではほとんどなかったくらいのキラーチューンの連発に次ぐ連発で、もう息つく暇もないくらいのモッシュ&ダイブの嵐。
昨年配信リリースされた「DiAMOND」もそのキラーチューン群の中に入ってきても全く遜色ないラウドバンドとしての重さと強さを見せつけると、「GUNSHOTS」ではSHOW-HATEの操るシンセの妖しげなフレーズに合わせて腕を上下させるモンキーダンスが発生。
「4年ぶりのアラバキです!SiMがいなかった3年間はさぞ平和だったことでしょう!これから俺たちが地獄を見せてやる!」
と自信満々にMAHが語ると、「MAKE ME DEAD!」で再びラウドに振り切り、メンバーたちのコーラスも勇壮に響くと、歌い上げるような曲をやるような空気を出しておきながら、
「やっぱり激しい曲やります!」
と最近フェスではあまり聞けなくなっていた「JACK.B」にいきなり転じて激しさはさらに増していく。
「お金を払って時間をかけて見にきてるお前たちには全く関係ないことだけど、この前に東北ツアーを回った時にこのフェスの主催会社の新人スタッフが同行してくれて。ツアー終わって打ち上げしてる時にそいつが感極まって、
「本当に最高でした!次はSiMをアラバキに呼びます!」
って言ってたんだけど、新人のお前にそんな権限あるのかっていう(笑)
でもそれがこうして今日出演してることにつながってるのかもしれない。おい!そのスタッフ!今ライブ見てるか!見てないでちゃんと仕事しろ!」
とこの日に至るまでのアラバキとのエピソードを語る。
MAHはヒールというかダークヒーロー的な人を演じているところもあるが、そうして自分たちの音楽を大事に思ってくれている人の想いにはしっかり応える男だし、もしかしたらこの日の「こんなセトリで来るの!?」というくらいの選曲にもそのスタッフの期待や想いに応えた部分もあるのかもしれない。そうした優しさを持っているのが演奏している姿や音から滲み出ているから、フェスでも初見の人がすぐに引き込まれていく。
そして大合唱を巻き起こした「Blah Blah Blah」からラストはこの日はウォールオブデスではなく巨大なサークルが発生した「f.a.i.t.h」でこの日も圧勝。
「SiMを見に来た人が5割、名前は知ってるから見てみようっていう人が3割、全然知らないけど見るの他にないからいるっていう人が2割」
とこの日の観客のノリを見てMAHは言っていたが、最後には10割全てを完全に持って行ってしまうのだから凄い。
アラバキは今年のトリがthe pillowsと9mmだし、去年はストレイテナーとエレファントカシマシだった。ラインアップにも他の首都圏のフェスではアウェー感の強くなってきているベテランアーティストも多いから、渋いフェスというイメージもあるが、ずっと昔からパンクやラウドバンドのライブで青空の下でダイブができるフェスでもあり続けてきた。
(ダイブ禁止のJAPAN JAMなどの春フェスが始動した時に「ダイブしたい人はアラバキに行けばいい」という声もよく聞いた)
SiMはどんなフェスでも出るというバンドではなく、自分たちの中で明確に自分たちが出る意義があるフェスというのに選んで出ている。それは決してダイブが禁止されてないからとかいう短絡的な理由ではないのはこれまでに出演してきたフェスからもわかることであるが、そのアラバキが守り続けてきたロックバンドのライブにおける自由さをこのSiMのライブでの客席の景色からは確かに感じさせてくれたし、それはこれからも変わらないでいて欲しいと思う。
1.KiLLiNG ME
2.Amy
3.T×H×C
4.Fall In Love With You
5.DiAMOND
6.GUNSHOTS
7.MAKE ME DEAD!
8.JACK.B
9.Blah Blah Blah
10.f.a.i.t.h
DiAMOND
https://youtu.be/iA8UwjH0ljw
14:30〜 TOSHI-LOW (BRAHMAN / OAU) [HASEKURA Revolution × 東北ライブハウス大作戦STAGE]
一応開演は14:30なのだが、明らかにその時間の前からスタートしていただろうというか、もはや持ち時間という概念が存在しているのだろうか、というくらいにサウンドチェックと本番との境目がないくらいに、ステージに到着したらボトルワインを持った細美武士と談笑していた、TOSHI-LOW。聞いた話ではこの前には10-FEETのTAKUMAが出てきてTHE BLUE HEARTSの「青空」を歌っていたようで、開演時間の14:30にはギリギリ間に合ったはずなのに、結果的にライブには全然間に合っていなかったというよくわからない事態に。
「俺たちが飲み過ぎたら大変だよ」
とボトルワインを飲みながら言うので全く説得力がない(このあとバンドでのライブがあるというのに)細美武士とともに河島英五「酒と泪と男と女」を歌うと細美はステージを去り、
「みーちゃんいなくなったら寂しいな。そういう寂しい気持ちの歌。ドラマに使われたんだけど、どうせ東北では放送されてないだろうから(笑)、オンデマンドで、オンデマン○で見てください(笑)」
と何故か下ネタ混じりで1人で弾き語りしたのは、BRAHMANのメンバーにヴァイオリンとパーカッションを加えたアコースティックバンドOAUの「帰り道」。直前に下ネタを言ったのを忘れてしまうくらいに沁みるような良い曲。BRAHMANの激しさ、ラウドさとは対極にあるようでいて、どちらもTOSHI-LOWの人間性が強く出ている曲である。
「東京では桜が散ってしまっているけれど、この会場には桜がまだ咲いている。でも今日は寒いな。東北の寒さ。きっとあの日も寒かったんだろうな。波にさらされて、電気も使えなくなって…」
と2011年の震災の日のことを思い出させるような言葉の後に歌ったのは「満月の夕」。BRAHMANのライブでもおなじみの曲であるだけに、客席からは
「イヤーサッサ!」
というコーラスの合唱が起きたのだが、ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が作ってHEATWAVEの山口洋が発展させたこの曲を
「オリジナル曲、「満月の夕」でした(笑)」
と言ってしまうあたりがさすがTOSHI-LOWである。
この時間の直前には隣のHANAGASA STAGEにてG-FREAK FACTORYがライブをしていたので、
「ここにいる皆さんはG-FREAK見てないっていうことでしょ?」
と言うとG-FREAK FACTORYの茂木洋晃が登場して「ダディ・ダーリン」を一緒に歌う。自身のライブ終了直後にこうしてまたステージに出てきて歌う茂木も凄いし、その状態の茂木をステージに呼んだTOSHI-LOWもやっぱり凄い。そして「ダディ・ダーリン」はTOSHI-LOWの人生の深みを感じさせる大人の歌声が実によく似合う。
茂木がステージから去ると、
「1人でやってる奴は本当に強い。バンドはメンバーがいるけれど、1人の奴は全部自分だけで背負わなくちゃいけない。そんな1人で戦い続けてる奴」
と称えてステージに呼び込んだのは、やはり自身のライブを終えたばかりの竹原ピストル。
「前にアラバキに出た時に、ライブ後にビールを貰いに行こうとしたら、TOSHI-LOWさんとTHA BLUE HERBのBOSSさんがその前にたむろしてて、怖くて行けなかった(笑)」
というエピソードを話して笑わせると、ともに弾き語りをやる上で大きな影響を受けているという遠藤ミチロウの「カノン」をカバー。TOSHI-LOWはザ・スターリンのボーカリストだったミチロウから追っていたが、竹原ピストルは逆にスターリン時代のミチロウのことを最初は知らなかったという。それが今なおバンドで戦うTOSHI-LOWと、バンド解散後に弾き語りという道を選んだ竹原ピストルの姿勢の違いを示しているかのよう。
「いやー、ずっと1人でやるのはキツい(笑)」
と半数以上の曲でゲストを呼んでいるにもかかわらず嘯くと、当初から絶対時間押すだろうな、と懸念した通りにすでに予定時間はオーバーしてる中で最後に1人で弾き語りしたのはBRAHMANの「鼎の問」。
普段のBRAHMANのライブのような映像はないけれど、この日BRAHMANの曲で唯一弾き語りしたのがこの曲だったというのは福島からほど近いこの会場だからこその明確なメッセージのようだった。震災を機に自分の身とアコギのみで被災地でライブができるようにと弾き語りを始めたTOSHI-LOWだからこそのこのフェス、このステージでのライブはTOSHI-LOWの持つ人間としての温かさ(それによってこんなにゲストが集まったとも言える)を感じさせるものだった。ライブが終わる頃には曇天だった空から太陽が顔を見せていた。
1.青空 w/ TAKUMA
2.酒と泪と男と女 w/ 細美武士
3.帰り道
4.満月の夕
5.ダディ・ダーリン w/ 茂木洋晃
6.カノン w/ 竹原ピストル
7.鼎の問
鼎の問
https://youtu.be/PoTtRK63t6M
15:00〜 リーガルリリー [HANAGASA STAGE]
このフェスには初出演となる、リーガルリリー。案の定、TOSHI-LOWが時間押しまくっただけに着いた時にはもうライブが始まっていた。
高橋ほのか(ボーカル&ギター)がその見た目通りの少女性と儚さを感じさせる歌声を響かせる「こんにちは。」を演奏している途中から見たのだが、やはりこのバンドは一筋縄ではいかないというか、それは近年のリリースを見てもわかることなのだが、いわゆるフェス向けのわかりやすいような曲でセトリを固めるということはしないし、かといって最新作の曲ばかりの現在のモードを示すということでもないだけに実に掴み所がない。続く「the tokyo tower」も含めてどうやってこの順番のセトリを決めたのかを本人たちに聞いてみたいくらいだ。会場的に東京タワーに全くリアリティがない場所であるし。
しかしそのアウトロからイントロにかけて、ゆきやま(ドラム)が激しいビートを叩き出すと、高橋のギターも一気に轟音になっていく、このバンド最大の代表曲であり、テレビ番組「関ジャム」で蔦谷好位置に取り上げられた「リッケンバッカー」へ。しかしながらそのサウンドは音源とはもう全く別物というレベルに進化しまくっている。イントロからそうだったが、ゆきやまのドラムは手数も強さも数倍増しているのだが、そうなったのは去年バンドに加入したベースの海の安定感あってこそ。3人の音と意識が完全に一つの大きな塊として曲になっている。もう今のバージョンで新録したものをリリースしてほしいくらいだが、きっとこれはライブを重ねるたびにまた変わっていくのだろう。
「9mmパラベラム」
という歌詞のフレーズが、この日メインステージでトリを務める9mm Parabellum Bulletに合わせた選曲なのだろうか?と思ってしまう「Overture」を終えると、演奏をしていることで暑くなった高橋がコートを脱ぎながら
「凍死しないように気をつけてください」
と言う天然さをフルに発揮しながら最後に演奏されたのはタイトル通りにその歌声と音像も美しく響く「うつくしいひと」だった。
リーガルリリーはデビューした時から見た目が一貫して幼い(そもそもデビュー時は10代だったし)ものだったし、それは今もほとんど変わっていないのだが、バンドの音は幼さを一切感じさせないどころか、イカつい見た目のバンドと比べても遜色ないくらいに凄まじいレベルにまで進化している。それはもはやバケモノと言っていいくらいに、他の若手ガールズバンドとはちょっと立っている地平が違うとすら思う。
だからこそツアーにも毎回足を運んでいるのだが、この日は「リッケンバッカー」が終わったら人がかなり減ってしまっていた。それだけのバンドじゃないことを普段からこのバンドのライブを見ている人たちはよくわかっているけれども、まだまだそこが伝わりきっていないのはもどかしさを感じてしまう。
1.こんにちは。
2.the tokyo tower
3.リッケンバッカー
4.Overture
5.うつくしいひと
リッケンバッカー
https://youtu.be/V-lYzz5BNo0
15:35〜 the HIATUS [BAN-ETSU STAGE]
昨年に続いてのBAN-ETSU STAGEへの出演となる、the HIATUS。細美武士はすでにTOSHI-LOWの弾き語りに出演しているし、この後にはこのステージのトリであるLOW IQ 01の20周年ライブにも出演するなど、かなり忙しい一日である。
だいぶ陽が出てきてはいるものの、やはりまだ寒いからかmasasucksは帽子を被って登場すると、伊澤一葉の美しいピアノの旋律に細美武士のボーカルが重なる「Clone」からスタートし、どことなくこの会場の周りの景色を思い起こさせる「Sunset Off The Coastline」と続くあたりは昨年の「Monochrome Film Tour」からの、激しいロックサウンドというよりも繊細かつ美しいバンドアンサンブルと細美武士のシンガーとしての力量と懐の深さを感じさせる歌を聴かせるモードの延長線上と言えるだろう。
細美がサンプラーを操作しながら飛び跳ねて歌う「Unhurt」で一気に、というよりはじわじわと場内の温度が上がってくると、「Insomnia」では絶唱とでもいうようなボーカルを響かせる。しかしこの曲の「Save me」のフレーズにかつてのような悲壮感を感じないのは今の細美武士がいる場所や状況が楽しいものであり、自分が望んだものだからだろう。
しかし細美はすでにTOSHI-LOWの弾き語りに出演した時から飲んでいたボトルワインを一本飲み干しているのだが、その状態でここまで歌えるというのはいったいどんな喉をしているのだろうか。
とはいえやはり酔いは回ってきているようで、最近はフェスではほとんどMCはしないにもかかわらず、
「今日、ここまで出演者が乗るバスで来たんだけど、前にSCANDALが座ってて、凄く良い匂いがした(笑)」
とおっさん丸出しのトークを展開。おっさんになってきたからか細美は自身の顔のほうれい線が気になってきているとのこと。
しかし曲が始まるとそのおっさんらしさはすぐに消え、近年のモードに合わせたアレンジが施された「西門の昧爽」は
「がれきの海で 夢を見ていた」
という歌い出しのフレーズが東北のこの地方で聴くからこそ刺さる。この曲がリリースされたのは震災よりも前だけど、震災を経て曲の意味は間違いなく変わっている。だからこそここまで聴いている人に優しく寄り添うようなアレンジになっているのだろう。
爽やかになってきた空と気候に細美の声が溶け合っていく「Radio」、
「燃え尽きるように、でもまた生きて会いましょう。俺たち、しょっちゅう東北にいるから」
と再会を約束した「Burn To Shine」は曲のタイプは全く違うけれど、どちらもやはりこれを歌い切れる細美武士の歌の力はやはり凄まじいと思わせてくれた。LOW IQ 01のライブに出る頃にはベロベロになっているだろう、と言っていたが果たしてどうだったのだろうか。
the HIATUSはもう10周年を迎えるようになった。それ故に絶賛レコーディング中のアルバムが今年ついにリリースされる(昨年のツアーでは新曲もやっていた)のだが、前は「明るいアルバムになる」的なことを言っていた記憶があるけれど、この日は「悪い大人のアルバム」になっているとのこと。大人の、というとジャズ箱ツアーを回ったりした時のような、スーツで演奏するのが似合うようなアルバムになっているのだろうか。
もはや誰もマネできないレベルまで行ってしまっているバンドなだけに、MONOEYESやELLEGARDENよりも自由に、自分たちがやりたいことをひたすら追求できる。まだ詳細は何もわからないが、リリースの度に毎回我々を驚かせてきただけに、今から本当に楽しみだ。
1.Clone
2.Sunset Off The Coastline
3.Thist
4.Unhurt
5.Insomnia
6.西門の昧爽
7.Radio
8.Burn To Shine
Clone
https://youtu.be/h9aLBoHFeOQ
16:30〜 10-FEET [MICHINOKU STAGE]
もうこの日本においていくつ「このフェスではおなじみ」というフェスがあるのだろうか、というくらいにこのフェスにおいてもおなじみの存在と言える、10-FEET。
TAKUMAはすでにTOSHI-LOWの弾き語りにも出演しているが、さらにはLOW IQ 01、真心ブラザーズと本隊以外でもこの日はフル稼働である。
おなじみの「そして伝説へ…」のSEでステージにメンバー3人が登場すると、いきなりの「goes on」でスタートするも、TAKUMAが最初のサビを歌い終えたところで演奏を止めさせ、
「俺たち何回アラバキ出てると思ってんねん。もっとできるの知ってるぞー!」
と言って煽ってからやり直すと、最初よりもさらに激しいサークルやダイバーが続出。やはりアラバキはこうした側面も持っているフェスなのだ。
「平成最後の!」
と言って「1 size FITS ALL」を演奏したかと思いきや、
「俺は平成最後とか絶対言わねーぞ!言わねーかんな!」
と明らかにサンボマスター山口の口調を真似したり、
「10-FEET最大のヒット曲!」
と言って長渕剛「乾杯」を歌い出したり、カメラに向かって変顔を連発したりとこの日のTAKUMAは実にテンション高め。このフェスのこのステージに立てていることが嬉しくて仕方がないし、たくさんの仲間と一緒にステージに上がって音楽ができる場所があるのが楽しくて仕方がないのだろう。YON FESに出た時は声があまり出ていなくてちょっと心配だったが、やはりあれはたまたまだったようだというくらいにこの日は不調を全く感じさせない。
「RIVER」では恒例の川の名前をご当地のものに変えて歌うのを仙台市を流れる「広瀬川」にして大歓声を浴びると、
「あの時にあいつが言ってくれた言葉でどれだけの勇気や力をもらっただろう。みんなも伝えたいことがある人には真っ直ぐに正直に伝えるんやで。言葉は時としては人を傷つけたりすることもあるけれど、その人が言ってくれた言葉で救われることもある」
という、亡くなった松原裕のことを思い起こさせるMCからの「蜃気楼」は楽しいライブの最中ではあれど感傷的になってしまうし、色々と考えさせられる。
「オフィシャルのカメラマンの方いますか?じゃあみんな靴を上に挙げて、それを撮ってください」
と言うと観客が一斉に靴を脱いで上に掲げ、TAKUMAも同様に靴を掲げるのだが、かつてロッキンで「靴だけダイブ」させた時とは違ってライブの流れとは一切関係ないものだったし、天候の影響で長靴を履いている人も多かっただけに脱がない(脱げない)人もいた。これはマジで写真でいきなりこの瞬間が映し出されたら見てない人はなんなのか全くわからないと思う。
「えー、重大発表があります。10-FEETは年内まで制作活動とライブ活動を目一杯やって、年内を持ちまして…」
とTAKUMAが急に語り始めたので、「え!?」「嘘だろ?」と会場がざわつき始めると、
「年明けからはバンド名のハイフンがちょっとだけ長くなります(笑)全然辞めへん!」
というとんでもないオチ。そうして爆笑をかっさらっておいて「その向こうへ」で全てをその向こうへ投げ出すと、「ヒトリセカイ」のメッセージに浸らせて終了…かと思いきや、
「まだほんのちょっとだけ時間あるんで、ギリギリまでやります」
と言って四星球のライブでおなじみの
「母は泣いた 手に触れ泣いた」
の部分だけを演奏する「時間がない時のRIVER」でやはり爆笑をかっさらっていった。
この日、TAKUMAは最近フェスではやっていなかった「シガードッグ」を
「東北の景色を見て作った曲」
と言って演奏していた。BRAHMANやthe HIATUSほど東北ライブハウス大作戦にがっつり参加しているイメージはないが、10-FEETは自分たちなりのやり方やペースで東北をずっと支援し続けてきた。それをちょっとだけど、でも確実に感じることができる。10-FEETのライブはいつも同じようでいて、いつも違う。だからこうしていろんなフェスに出ていても毎回見ようと思える。もちろんそれはライブそのものが素晴らしいバンドであるからというのが大前提にあった上で。
1.goes on
2.VIBES BY VIBES
3.1 size FITS ALL
4.シガードッグ
5.RIVER
6.蜃気楼
7.1sec.
8.その向こうへ
9.ヒトリセカイ
10.時間がない時のRIVER
その向こうへ
https://youtu.be/p67eKL1e6u0
18:00〜 UNISON SQUARE GARDEN [MICHINOKU STAGE]
トップバッターがDizzy Sunfistだし、SiM→サンボマスター→10-FEETと繋いできただけに、この日のメインステージであるMICHINOKU STAGEはアラバキの持つ激しい部分を凝縮させたような流れだったのだが、その空気がガラッと変わる、客席の層もガラッと変わるのはUNISON SQUARE GARDENがこのステージに登場するからである。
おなじみイズミカワソラ「絵の具」でメンバー3人がステージに登場すると、早くも挙動が不審な田淵の姿に歓声が上がる中、始まったのはなんでこのタイミングでこの曲を1曲目に?と思ってしまう「流れ星を撃ち落とせ」。ユニゾンの曲の中ではかなりハード目な曲ではあるのだが、別にフェスのラインアップによってやる曲を合わせに行ったりするバンドでもないだけにより一層なんでなのか気になってしまう。
「fake town baby」「10% roll, 10% romance」と近作のシングル曲を続けると、昨年リリースのアルバム「MODE MOOD MODE」収録の「フィクションフリーククライシス」と続くのだが、こんなに1曲の中でガラッと展開が変わる場面が何度もあるような曲なのにやはりポップに感じてしまうのはこの曲ではコーラスでも大忙しの田淵の策略に見事にハマってしまっているし、そんな曲が観客から待たれていて受け入れられているというのが田淵の策略が間違っていない証拠である。
というかもう今のユニゾンはどんな場所のフェスでどんな曲をやっても受け入れられるという無双状態のバンドになってきているし、それはここ数年で聞いてくれる人が増えたことであらゆる時期の曲に焦点が当たるようになったからでもあるし、何よりもライブにおける3人の安定感と爆発力を兼ね備えた演奏が曲の持つ力を100%以上に引き出しているからである。
それを強く感じさせるのは「天国と地獄」以降の、鈴木の100%とは行かないまでも10%どころじゃない増しっぷりのドラムの手数。でも曲の表情を変えるくらいにやり過ぎるところまでは行かず、あくまで「めちゃ凄くなってる!」と思えるギリギリのところを攻めている。どうしても何かと田淵にスポットが当たりがちではあるが、実はライブになると1番豹変するのは普段はゲームばっかりやっているというこの鈴木なのかもしれない。
定番とはいえやはりライブで聴けるのが嬉しい「場違いハミングバード」で飛び跳ねさせまくると、イントロに湧く客席を見て田淵が嬉しそうな笑みを浮かべた「シュガーソングとビターステップ」ではこの曲がありとあらゆる年代の、ありとあらゆる音楽好きに刺さった曲であるということを感じさせ、最後はホーンなどの華やかな打ち込みの音が彩りを与える「君の瞳に恋してない」。
斎藤は「バイバイ!」とだけ言ってそのさわやかな表情を崩すことなくステージを後にしたが、東北最大のフェスのメインステージであっても MCなしで駆け抜けるというユニゾンのスタイルは全く変わらなかった。それがユニゾンらしさを10%ではなく100%感じさせていた。カップリング曲ツアー真っ最中なのにこの内容だけ見たらツアーと同時進行中なのを全く感じさせないのは本当に凄い。普通なら少しはそれを感じさせる選曲なり言葉なりがあると思うのだけれど、そもそもユニゾンは全然普通のバンドじゃなかった。
1.流れ星を撃ち落とせ
2.fake town baby
3.10% roll, 10% romance
4.フィクションフリーククライシス
5.天国と地獄
6.場違いハミングバード
7.シュガーソングとビターステップ
8.君の瞳に恋してない
シュガーソングとビターステップ
https://youtu.be/JpCyeo_kNA0
18:40〜 a flood of circle [ARAHABAKI STAGE]
ユニゾン以降の時間は、なぜこんなにも!?というくらいに見たいアーティストが密集していて実に忙しないのだが、そんな中にあって絶対に外せないバンドである、a flood of circle。何故だかイメージ的には「フラッドが出るフェス」と言われるとこのフェスが真っ先に頭に思い浮かぶ。
おなじみのSEでメンバーがステージに登場すると、佐々木亮介はこの日は赤い革ジャン姿で、
「おはようございます、a flood of circleです」
と挨拶すると、HISAYOのゴリゴリのベースが引っ張る「Blood Red Shoes」からスタート。そのHISAYOは陽が落ちて寒さがさらに増している中であるにもかかわらずいつもと全く変わらぬ出で立ちであり、風邪を引かないだろうかとちょっと心配になる。(普通に厚着しててもすごく寒いレベル)
「こんなもんなんでしょう ってこんなもんじゃねぇだろアラバキ!」
と亮介が歌詞を変えて煽った「Dancing Zombiez」ではアウトロのギターソロで青木テツがステージ前に進んでいく。この日このステージに来ていなかったのでわからなかったのだが、このステージには中央から伸びる花道があったのだ。亮介も
「ギター、俺!」
と言ってテツに続いて花道に歩き出して行ってギターを弾く。テツは上手、亮介は下手を向きながらギターを弾くのだが、その姿があまりにもカッコよくて、そして物凄く似合っていただけに、いつかこういうステージセットが作れるような広い会場でワンマンができるようになって欲しいと心から思う。
亮介はさらにギターを置いてハンドマイク状態になった「Sweet Home Battle Field」でも花道を進んでいって、さらには客席に突入していく。その間にはHISAYOも花道に進んでいってベースを弾くという見事なフォーメーション。このステージを使って入念にリハをしているわけじゃないし、こういう設計のステージでライブをやった経験もほぼないはず。それでもそれぞれがこの花道をどう使うか、自分がどのタイミングでここに行くべきかというのを完璧に感覚でわかっているかのようだ。やっぱりすごくこの花道があるステージが似合うバンドだ。
「アルバムを出したばかりなのにもうシングルが出た(笑)」
と亮介が自らのハイスピード極まりない音楽人生について語ると、アルバムのタイトル曲「Center Of The Earth」を演奏するのだが、
「サンキューベイビー 泣けるほど笑える日々を」
という歌詞はこうしてここに集まってくれた人たちに向けられているようであった。
複雑なキメ連発から文字通りに逆転満塁ホームラン級のキャッチーなサビに雪崩れ込む「美しい悪夢」から
「アラバキロックンローラー、ちょっとテンション低いんじゃない!?」
とテンションをさらに上げるべく新作からの「ハイテンションソング」へ。すでに先日のO-EASTでの主催イベントでも聴いている曲だが、タイトル部分のコーラスをメイン部分は亮介とテツが、追う部分をHISAYOと渡邊一丘のリズム隊が担っていたのは新しい発見であった。
そしてラストはやはり
「俺たちとあんたらの明日に捧げる!」
と「シーガル」へ。亮介はマイクスタンドを花道まで自らの手で運んで観客に最も近い場所で歌うと、サビでは観客にボーカルを委ねて大合唱を巻き起こすのだが、ここまで大合唱が起こるフェスがあるだろうかというくらいの声の大きさ。紛れもなくこの場所はフラッドにとってホームと言っていい場所だし、亮介もこのフェスの観客を心から信用しているようだった。
今はロックフェスにもロックバンド以外の様々な形態のアーティストが出演するようになってきているし、それは決して悪いことではないのだけれど、「ロック」という看板を掲げているフェスであれば必ずそこには「ロックとは何か?」という問いが生まれる。それは人それぞれ価値観が違うけれど、亮介は去年のロッキンに出演した時に
「ROCK IN JAPANに来るといつも思う。ROCKって何!?」
と観客に問いかけていた。亮介には亮介なりのロックという音楽や言葉へのこだわりがあって、このフェスやこのフェスに来る観客たちは亮介と同じようなロック観を共有している。だから亮介はこのフェスの観客を「アラバキロックンローラー」と信頼しているし、このフェスもまた他のフェスにはないくらいにフラッドをホームとして迎え入れてくれている。そこが完璧に噛み合っていたから、ただでさえ最強な今のフラッドのライブがその何倍にも向上していて、最後の「シーガル」では感動して思わず泣きそうになってしまった。だからこそ亮介はこの日、
「忘れるな。ロックンロールはいつだって君たちの味方だ!」
と言った。この場所に集まっていたのがロックンロールを愛する人たちであるとわかっているから。
このフェスはあらゆるタイプのライブ猛者が顔を揃えているが、その中でもこのバンドは全く負けていないというか、他のバンドたちを凌ぐようなライブをやるバンドだと証明してみせた。それが本当に嬉しかったし、信じ続けてきて良かったと心から思った。
2日目のトリのthe pillowsの30周年ライブに亮介が出演したあと、フェスのスタッフが
「15周年か20周年の時はフラッドに」
と言っていたらしい。もしメインステージにフラッドが立って、一切止まらずに走り続けてきたことを祝える日が来るのならば、それまでは絶対に死ねないじゃないか。
1.Blood Red Shoes
2.Dancing Zombiez
3.Sweet Home Battle Field
4.Center Of The Earth
5.美しい悪夢
6.ハイテンションソング
7.シーガル
Center Of The Earth
https://youtu.be/7w1GhWCzehw
フラッドからトリの9mmまでのわずかな時間。HATAHATA STAGEのトリのTHE BAWDIES。着いたらちょうど「HOT DOG」劇場を展開中で、この日は少女漫画バージョンの前編。そこから「HOT DOG」、ROYの超ロングシャウトが轟いた「IT'S TOO LATE」、観客を飛び跳ねさせまくった「JUST BE COOL」、そしてコール&レスポンスをさせたのは最近よくやっている「TWISTIN' ANNIE」ではなくて「KEEP ON ROCKIN'」だった。
THE BAWDIESも結成15周年を迎え、もう中堅からベテランの域に差し掛かってきている。そうなるとどうしても若い観客が多いフェスではアウェーな場面も多くなりがちだが、この日は溢れかえるくらいの観客が詰めかけていた。
直前に最高のライブを見せたフラッド、トップバッターとして見事なフェスの始まりを告げたgo! go! vanillas、そしてこのステージのトリのTHE BAWDIES。それらを全て見ると、新しさはなくても、ロックンロールはまだまだいける、転がり続けていくことができると思える。だからこそ自分は彼らと一緒にこれからも転がり続けていきたいと思う。
19:40〜 9mm Parabellum Bullet 15th ANNIVERSARY CARNIVAL OF CHAOS in ARABAKI [MICHINOKU STAGE]
そしてついにこの日のメインステージのトリ、9mm Parabellum Bulletの15周年記念ライブである。ちなみに菅原卓郎は去年このステージで初日のトリだった、ストレイテナーの20周年記念ライブに参加している。
おなじみの「Digital Hardcore」のSEで4人+サポートの武田将幸(HERE)が登場すると、
「9mm Parabellum Bulletです」
と卓郎が挨拶してトリプルギターの轟音サウンドによる「太陽が欲しいだけ」からスタート。もうメンバーの気合いが入りまくっているのがよくわかるし、もう空は完全に夜の暗闇となっているが、この日に太陽が見えるくらいに天候が良くなったのはこの曲を演奏するこのバンドがトリだったからかもしれない、とすら思ってしまう。日比谷野音でのフリーライブも雨の予報だったのを吹き飛ばしたバンドである。
暴れまくって叫びまくる中村和彦(ベース)が作曲した「Cold Edge」を終えると、
「中村和彦くんは第1回のこのアラバキが開催された時に高校生で、自転車を漕いで見に行ったらしいです」
という仙台出身の和彦のアラバキエピソードを語り、いよいよ「CARNIVAL OF CHAOS」と題された、9mmの15周年を祝うゲスト総出演のスペシャルライブに。
最初に登場したのは、卓郎と滝によるユニット、キツネツキでも取り憑かれメンバーとしてヴァイオリンを弾いていた、BIGMAMAの東出真緒。
「東北の景色を思い浮かべて作った」
という「黒い森の旅人」のイントロからその流麗なヴァイオリンの音色を響かせるのだが、普段は滝のギターが(滝不在時は和彦のベースが担っていた)奏でるイントロの音色をヴァイオリンで奏でることによって、まるで曲を作っている時からこうしてヴァイオリンが入ることを想定していたかのようなハマり具合だった。
続いて登場したのは姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンの2人。去年の9mmの仙台でのライブで会場入りする時に卓郎が声をかけられたのがこの2人だった、という出会いから、2人がラジオで9mmの曲をカバーしてくれていたということで今回こうしてコラボするに至ったという。
そのコラボ曲は「ハートに火をつけて」で、ボーカルである妹のももはおなじみの豚のぬいぐるみを抱えて卓郎とボーカルを分け合い、ミスチルのツアーにも参加していた小春はアコーディオンを立ったまま弾き、このユニット特有のジプシー感、オリエンタル感を9mmの持つ歌謡性に融合させていく。間奏では踊りまくっていたももは自身が歌う2コーラス目の入りを踊るのに夢中になって飛ばしてしまい、ステージから去る時も袖にいるスタッフに
「踊ってたら2番歌うの忘れちゃった〜」
とマイクが入った状態で言っていたのが面白かった。
続いては9mmとは同年代である、UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介。ユニゾンのライブ時のフォーマルさとは異なり、黒いTシャツのみというラフな姿で「新しい光」を卓郎と歌い合うのだが、やはり斎藤が歌うとそれだけで「めちゃ激しいユニゾンの曲」になるくらいに斎藤の声はそれがそのままユニゾンの音楽になっている。間奏ではマイクを握りしめてヘドバンしまくり、アウトロでは滝に合わせるようにエアギターをしていたのも普段のユニゾンのライブでは絶対に見ることができない光景だった。
「9mmはさっきも言ったように、和彦が仙台出身で、俺が山形出身で東北出身のメンバーが2人いるんだけど、次に出てくれる人は青森出身の人です」
と言ってステージに招き入れたのは、ここまでのゲストでは初めての先輩となる、人間椅子のギタリスト・和嶋慎治。普段と変わらぬ着物姿で登場すると、滝と武田の間で「Bone To Love You」のチョーキングギターを炸裂させる。するとステージ袖からは西馬音内盆踊りのメンバーが大挙して登場してリズムに合わせて盆踊りを踊るという、タイトルにもついている「カオス」という言葉が最も似合うような光景に。そもそもカップリングであるこの曲を演奏するのはいつ以来だろうか。和嶋のギターと盆踊りを融合させるにはこの曲しかなかったと思えるが、この曲を聴けると思っていた人がどれだけいるだろうか。
コラボはまだまだ続く。続いては去年完結を迎えるまでは9mmとずっと共闘してきたバンドと言えるチャットモンチーのボーカリストであった、橋本絵莉子。おなじみの黒いギターを持って登場すると、ギターを弾きながら「Vampiregirl」を卓郎と2人で歌う。やはり普段の9mmのライブでの時ほどテンポが速くはならなかったが、橋本の出演が発表された時はこうして速くて激しい曲ではなく、もっと聴かせるようなタイプの曲になると思っていただけに意外であった。ボーカルだけでなく、間奏ではお立ち台に立って滝と向き合うようにギターを弾き、ギタリストとしての存在感も見せる。
他のゲストがみんな1曲のみだったので、当然「Vampiregirl」が終わると橋本も入れ替わるのかと思っていたら、そのままステージに残って1人で歌い始めたのは、
「今までひとつでも失くせないものってあったかな」
と、まさかのチャットモンチー「恋愛スピリッツ」。しかもそのまま9mmのメンバーたちによって演奏が続けられていく。
橋本がゲスト出演すると決まった時も、普通に9mmの曲だけをやるんだろうと思っていたから、こうしてチャットモンチーの曲をやるなんて全く予想していなかったし、そもそも去年の徳島でのラストライブ以降はこうしてステージに上がることすら一切なかっただけに、もう彼女がチャットモンチーの曲を歌うことはないとすら思っていた。ましてやラストライブの時も、その前の日本武道館の時も演奏していなかった曲だから、もう二度とこうしてライブで聴くことはできないと思っていた。
その曲が目の前で鳴らされている。橋本絵莉子がブランクを一切感じさせない歌声を聴かせてくれている。9mmの15周年を祝うはずのこのライブのこの時間だけは、9mmのためじゃなくて、9mmが橋本のために用意した時間だった。このまま一線から退いても仕方がない(家庭もある身だし)けれど、それでも橋本をミュージシャンとしてステージに立たせたいという思いが9mmのメンバーにもあったのかもしれない。
チャットモンチーがいしわたり淳治が初めてプロデュースするバンドとしてメジャーデビューしてからすぐに、9mmもいしわたり淳治のプロデュースでメジャーデビューした。新人の頃は一緒にトークイベントに出たりしたし、対バンした時にはチャットモンチーの3人が楽屋で
「お菓子を食べるのさー!って「The Revolutionary」みたいに9mmごっこしてる(笑)」
と言って笑いあったりしていた。もうそれから長い年月が経って、チャットモンチーは完結し、9mmもいろんな危機を乗り越えながら活動を続けてきた。でも今でも両者の絆は変わっていないと思えたし、9mmの演奏ならではのアウトロの轟音サウンドを聴きながら、またこうして橋本絵莉子がチャットモンチーの曲を歌う姿を見ることができるかもしれない、と思えた。
結果的に、この特別なライブの中で9mm以外の曲が演奏されたのはこの曲だけだった。やはりこれは特別な瞬間であり、9mmが自分たちの曲を減らしてまでもやりたかったことだったのだ。
こんなクライマックス感が出まくってもまだコラボは続く。続いては昨年は卓郎がゲストとして参加した、ストレイテナーのホリエアツシと、アラバキの象徴的な存在の1人と言えるTHE BACK HORNの山田将司。
「先輩たちをまとめてしまうという失礼なことを(笑)」
と言いながら、「The World」のボーカルを3人で分け合う。基本的にどのボーカルもキーを変えずに原曲のままで歌っているのだが、声が変わると曲の印象はガラッと変わる。それはそのボーカリストたちが歌うと自分の曲に変えることができる声を持っていることの証明であるし、「The World」の歌詞はともに生きることや世界について何度となく歌ってきたホリエと将司に実によく似合っていた。
次も先輩の登場であるが、一気に濃さを増すのはTOSHI-LOW(BRAHMAN / OAU)とウエノコウジ(the HIATUS)のコンビ。
TOSHI-LOW「どうせまとめるんならさっきのホリエと将司のとこにまとめてよ!なんで俺がウエノコウジとまとめられてるんだよ!」
卓郎「でも2人とも黒のライダースで合わせてまとまりにきてるじゃないですか(笑)」
TOSHI-LOW「和彦のマイクなんてウエノコウジのくるぶしくらいまでしか高さないよ?」
ウエノコウジ「(和彦のマイクに向かって屈んで)どうも〜、広島から来たウエノコウジです!」
TOSHI-LOW「っていうかベース2人もいらなくね?(笑)」
卓郎「和彦、第1回のアラバキの時にミッシェルでベース弾くウエノさんのこと見てたんだから、客席で見てていいよ(笑)」
TOSHI-LOW「あ、でもウエノコウジが曲をちゃんと覚えてないかもしれないから、やっぱり和彦いて!(笑)」
ウエノコウジ「9mmの曲はキメが多いから難しい!(笑)」
と完全にコメディリリーフ的な役割になっていた2人が参加したのは「Black Market Blues」。TOSHI-LOWの男臭いボーカルによってまた曲は表情を変えるのだが、9mmがインディーズで脚光を浴びてからメジャーデビューしてからも、BRAHMANと繋がるようになるなんて思っていなかった。むしろかつてのライブの時のストイックさは通じるところがあったが、だからこそこうして仲間がたくさん集まって、という存在になるような想像ができなかった。そんな両者がこうして
「仲間入りさせてやるぜ」
と歌っている。これもまた9mmが続けてきたからこそ手にすることができたものだ。
ゲストが去ると5人で演奏されたのは、インスト曲「Mr.Brainbuster」。なんで今この曲?と思っていると、客席にある滑り台の遊具から、このフェスではおなじみのみちのくプロレスの剣舞選手が登場。この曲を入場曲として使用していたというくらいに9mmを好きな剣舞がヒールのプロレスラーにブレーンバスターをお見舞いするというプロレスを見せてくれたことによって、この曲がなんでこのタイトルなのかというのが良くわかった。ある意味では小芝居とも言えるような内容だったが、メンバーはみんな実に楽しそうだった。
とはいえ、ゲストがこうして代わる代わる登場すると、ライブのテンポはいつもより悪くなる。1曲ごとに転換が入るし、紹介したりしなくてはいけないから。9mmは普段のライブが実にテンポが良いだけに(ワンマンも1時間半くらいで終わる)それが顕著に感じてしまうのだが、その後の5人だけの演奏はやはり9mmのライブはゲストがなくても十分カッコいいものであるというのを示していた。
「The Revolutionary」では和彦が目の前にいる全ての人のバンドへの想いを受け止めるように両手を大きく広げ、リリースされたばかりの最新シングル「名もなきヒーロー」の
「守りたいものにいつも 守られているんだね」
というフレーズは9mmを守りたいと思ってきた観客や仲間が結局は9mmという存在に守られていることを実感させ、ラストは「talking machine」で踊りまくり、「Punishment」の轟音サウンドがトドメのように鳴った。
ゲスト総登場というのはやはり特別だったけれど、それが特別に感じられるのは9mmがそれがなくても最高だと思えるライブができるバンドだからである、というのを終盤のバンドのみのライブは示していた。
アンコールに再び5人で登場すると、演奏されたのは「カモメ」。夜の野外が実によく似合う選曲、しかもどこか歌詞からは東北らしい情景が浮かぶこの曲がアンコールで演奏されたのは必然だったのかもしれない。卓郎がいつものように深々と頭を下げる一方で、かみじょうは客席に投げキスをして去っていった。客席からは笑いとざわめきが起こっていたが、そのかみじょうの姿が、メンバーが今回のライブを本当に楽しんでいたことをこの上なく示していた。
9mmは正直言って、もう巨大なフェスでトリをやるどころか、メインステージに出れるような集客力はなくなってきている。だから今回も周年イベントあってこそのメインステージのトリだったと思われるが、この日のライブや日比谷野音のワンマンを見ていると、モンスタークラスの動員力を持っているバンドにも全く負けていないどころか、やっぱり9mmって最強なんじゃん?と思えてくる。つまり、まだまだ9mmはいけるっていうか、そういう巨大なフェスでもトリをまたできるようになる可能性が十分ある。一回そこまで行ったこともあるけれど、今でもそう思える存在であり続けているというのが何よりも嬉しかった。
この日はいろんな危機を乗り越えて15年続けてきたバンドへのご褒美のような一夜であったが、それを見るとやっぱり続けるのって凄いし、好きなバンドにはできる限り続いて欲しいと思う。そうすればこんなに素晴らしい景色を我々も見ることができるし、バンドに見せてあげることもできる。そこまで行けなかったバンドもたくさん見てきたからこそ、出会ってから一度も離れたりすることがなかった9mmでそれが見れたのは本当に幸せだった。
この日のライブでいろんな力をもらったバンドはこれからまた新たな季節に突入していく。また来週、次は千葉県で生き延びて会いましょう。
1.太陽が欲しいだけ
2.Cold Edge
3.黒い森の旅人 w/東出真緒(BIGMAMA)
4.ハートに火をつけて w/チャラン・ポ・ランタン
5.新しい光 w/斎藤宏介 (UNISON SQUARE GARDEN)
6.Bone To Love You w/和嶋慎治 (人間椅子)、西馬音内盆踊り
7.Vampiregirl w/橋本絵莉子
8.恋愛スピリッツ w/橋本絵莉子
9.The World w/ホリエアツシ(ストレイテナー)、山田将司(THE BACK HORN)
10.Black Market Blues w/TOSHI-LOW(BRAHMAN / OAU)、ウエノコウジ(the HIATUS)
11.Mr.Brainbuster w/みちのくプロレス
12.The Revolutionary
13.名もなきヒーロー
14.talking machine
15.Punishment
encore
16.カモメ
名もなきヒーロー
https://youtu.be/Ad5B0wS5Huc
Next→ 4/28 ARABAKI ROCK FEST. 2019 day2 @みちのくエコキャンプ
今年は15周年の9mm Parabellum Bulletと30周年のthe pillowsをヘッドライナーに据え、豪華なゲストが登場する記念ライブになることが発表されており、そのほかにもそうしたゲストが登場するアクト多数ということもあってか、チケットは早々にソールドアウト。今年のゴールデンウィークが10連休という影響もあるのかもしれないが。
昨年は暑いくらいの快晴だったのが、今年は朝から曇天に雨。気温も冬のごとき1桁台という寒さ。それ故にかなりの厳しい2日間になると予想される。
11:30〜 go! go! vanillas [BAN-ETSU STAGE]
メインステージのMICHINOKU STAGEから最も離れたBAN-ETSU STAGE。開場すると日差しすら射し込むような天候の回復を見せる中、このステージのトップバッターとして登場するのは、go! go! vanillas。
昨年末にベースのプリティが交通事故に遭ってからはサポートメンバーを加えてライブを行ってきたが、今月のワンマンからはまだ復帰に至っていないプリティを除くメンバー3人でライブを行う形になっている。
よって下手側にジェットセイヤのドラムセットが置かれたスリーピースだからこそのステージ配置で「we are go!」のSEが鳴っていつもと変わらぬようなテンションの高さの3人がステージに登場。柳沢進太郎(ギター)のフォーマルな出で立ちはいつにも増してオシャレに見える。
3人の声が重なるハーモニーでスタートしたのは、モンストの大会のタイアップ曲に起用されることが決まった、来月リリースの新作アルバム「THE WORLD」収録の「Hey My Bro.」。前作「FOOLs」で見せた音楽性とメンバーの技術の拡張あってこその曲であるというのは聴くとすぐにわかるが、実の兄弟というよりは兄弟的な存在に
「お前はまだやれる」
と勇気を送るようなメッセージの歌詞はやはり療養中のプリティに向けたものだと思ってしまう。事故の前から作られていたのが間違いないのは、3人の演奏する音にプリティのベースの音が同期で加えられているという、すでに4人でレコーディングをしている事実からもわかる。
朝イチから満員の観客を飛び跳ねさせまくった「エマ」で柳沢がセイヤのドラムセットに登ってから大ジャンプを決めると、この日も改めて「歌上手いな〜」と思うほどにこの広いキャパを掌握している牧が初めてライブを見たりこのバンドを知ったであろう人がたくさんいるであろうフェスだからこそ、改めてプリティが不在の状況を説明し、ストレートなロックサウンドの新曲「パラノーマルワンダーランド」とさらに新曲が続くが、こうしてライブで新曲ができるのはサポートメンバーではなくプリティの音を使うという選択をバンドがしたから。しかもそこには物足りなさは感じない。むしろプリティが確かにこの曲を演奏していること、アルバムが出たら4人でこの曲を演奏する姿が見ることができるという期待を感じさせてくれる。
「3人でも俺たちのロックンロールの魔法、いや3人じゃない、あなたと、あなたたちとでロックンロールをしに来ました!」
とこのバンドにかかっているロックンロールバンドの魔法をそのまま体現するかのような「マジック」へ。ジェットセイヤはシンバルを掴んでシンバル台で別のシンバルをぶっ叩き、そのシンバル台を放り投げるという革ジャンにサングラスという出で立ち通りの破天荒なロックンロールドラマーっぷりを見せる。
さらに
「デスからアゲイン」
というタイアップの「ゲゲゲの鬼太郎」を意識したであろうフレーズが図らずともバンドの現状とリンクしている「No.999」はイントロのセッション的なアレンジがさらにロックンロール感を増している。
そして「カウンターアクション」を終えると、
「平成最後のARABAKI ROCK FEST.。このフェスが終わったら新しい時代になる」
と牧が平成最後、そして令和に突入する直前であるこのタイミングだからこそのMCをしてから「平成ペイン」を最後に演奏。平成生まれ、平成という時代しか知らないバンドが平成の最後に鳴らした「平成ペイン」は間違いなく今年のこのフェス最初の名場面だった。果たしてこのバンドは新しい時代にどんなロックンロールを鳴らすのか。ロックンロールバンドという意味でも、日本のバンドシーンにおいてもさらに重要な存在になる予感がしている。
このバンドにはロックンロールの魔法がかかっているけれど、それは3人でも、いや、やはりこのバンドは3人ではないということを3人のライブで証明していた。来年はまた4人で。
1.Hey My Bro.
2.エマ
3.パラノーマルワンダーランド
4.マジック
5.No.999
6.カウンターアクション
7.平成ペイン
パラノーマルワンダーランド
https://youtu.be/TtvY48y5NNE
12:30〜 ヤマサキセイヤ (キュウソネコカミ) [HASEKURA Revolution × 東北ライブハウス大作戦STAGE]
昨年はHANAGASA STAGEとBAN-ETSU STAGEの間の飲食ブースの中にあった喫煙所のステージが今年から支倉常長(伊達政宗の家臣でこの会場のある宮城県川崎町出身の戦国武将)の名前を冠した、東北ライブハウス大作戦のステージとしてリニューアル。
主に弾き語りを中心とした出演者が並ぶステージだからこそ、普通に開演時間のはるか前からサウンドチェックと称して登場して、本隊のキュウソネコカミの本気のリハのようにヤマサキセイヤも20分以上前から弾き語りをしている。
5年前の新木場STUDIO COASTでのN'夙川BOYSとThe Mirrazとキュウソネコカミの3マンの際にセイヤは人生初の人前での弾き語りをやっているのだが、それからもほとんど弾き語りはやっていないのでこうしてソロでライブに出演するのは実に貴重な機会である。
時間前から観客にリクエストを募ってはキュウソネコカミの曲を弾き語りするのだが、「空心菜」や「5RATS」というリクエストに応えるも、
「キュウソネコカミの曲はみんなで歌う曲が多いから1人でやるのは無理やって〜!
緊張するよ〜!ヨコちゃーん!ソゴウー!オカザワー!タクロウー!」
と思わずメンバーの名前を叫んでしまうくらいに緊張していた様子。
「始まる前からこんなにたくさん来てくれていて嬉しいけど、本番になったら誰もいなくなってるんちゃうか(笑)」
と不安がっていたが、本番になるとさらに多くの人が集まっており、他のステージでも充分埋まるというか満員になるくらいなのはさすがだし、みんなこの弾き語りが貴重な機会であることをわかっている。
アコギを手にして
「あの〜」
と歌い始めるも、ギターの弾き心地がサウンドチェックの時とはどうにも違うということで何度かやり直してから
「あの街並 思い出したときに 何故だか浮かんだ」
と歌い出したのは、フジファブリックの「陽炎」。かつてキュウソがインディーズ時代にライブで「虹」をカバーしていたこともあったが、今では自分たちの曲だけでもやり切れないくらいに曲数があってなかなかカバーを聴ける機会がなくなってきているだけにこれは弾き語りならではだし、セイヤとキュウソのルーツを改めて感じさせてくれる。フジファブリックが「夏盤」としてリリースしたことを考えるとあまりに寒い気候ではあるが。
「みんなが知ってる曲はやりませんよ!普段はやらない曲ばっかりです」
と予告して弾き語りしたのは確かに近年ライブでは全然やっていない「適度に武士道、サムライBOYS。」。メンバー全員のコーラスが入らない曲を中心に選んでいるのは間違いないだろうが、
「戦ってるよ」
のフレーズの部分ではファンがしっかりコーラスを返しており、セイヤも実に嬉しそうだ。
「キュウソには実はあんまり楽しい曲はないねん。暗い曲ばっかり。この曲もイライラしたりした時とかの曲」
という「フラッシュバック」はその言葉通りに思い出したくないような後悔が頭をよぎるような曲だが、バンド形態ではなく弾き語りという形だからこそ歌詞がいつもよりもはっきりと耳に入ってきて、セイヤの「暗い曲ばっかり」という言葉に納得してしまう。
アコギにカポを取り付けると
「BUMP OF CHICKENみたい!」
と自身でテンションを上げながら、
「曲を選んでたら「人生はまだまだ続く」の曲ばかりになって。この時期からメロディにちゃんと向き合うようになったから」
と2015年リリースのアルバムからの曲が中心のセトリになっていることを明かしたのだが、「春になっても」もそうした、いわゆる「DQN〜」みたいなキュウソらしい曲というよりはメロディに重きを置いた曲であるし、結果的には季節感を意識したものになっている。
「今日は寒いけど、春ですね。友達の春の曲をやろうと思うんですけど、あいつど天然なのにギターめちゃ上手いから難しいんですよ」
と言ってからカバーしたのはSAKANAMON「ぱらぱらり」。確かにSAKANAMONはスリーピースとは思えないくらいにギターを弾きまくるバンドであるが、こうして弾き語りというシンプルな形だとメロディと歌詞のみが強く浮き彫りになるし、何よりもこうしてカバーを聴くと、セイヤが歌うとどれもキュウソネコカミの曲になるということに気づかされる。どちらかというとパフォーマー的なイメージが強い男ではあるが、ボーカリストとしての資質をちゃんと持ち合わせているというか、活動を続ける中でそれを磨いてきたということがちゃんとわかる。
そして最後はまだメンバーにも聴かせてないという新曲。失恋をテーマにしたものであるが、あくまで自身の経験ではなく友人の話を元に作ったということで、タイトルも「K君」。別れた彼女が気になって仕方がなく、
「君のSNSを見ることがやめられない」
「新しい男の影がある」
というキュウソというかセイヤならではの視点での失恋ソング。
「キュウソは暗い曲ばかり」というセイヤの言葉通りの曲であるが、あまりにも率直な歌詞には客席から苦笑いのような声も聞こえた。果たしてバンドではどのようなアレンジになるのだろうか。
まだ経験値もほとんどないし、やはり「なぜバンドで出ないのか」とも思ってしまうけれども、こうした弾き語りライブはセイヤのボーカリストとしての技術を間違いなく向上させるものになる。そしてそれはキュウソ本隊にも還元されるし、それによってバンド自体も今よりもさらに一段階上の場所に行けるようになるはず。
何よりもこのステージには東北ライブハウス大作戦の中心的存在の猛者たちが弾き語りで出演するのだが、セイヤがその中に入る存在になっているというのが本当に頼もしく感じる。
1.陽炎 (フジファブリック)
2.適度に武士道、サムライBOYS。
3.フラッシュバック
4.春になっても
5.ぱらぱらり (SAKANAMON)
6.K君 (新曲)
ぱらぱらり
https://youtu.be/1x40I9xurXk
13:30〜 SiM [MICHINOKU STAGE]
今年は春から様々なフェスに出まくっている、SiM。ラウドシーンの首魁として、今やこのフェスにおいてもメインのMICHINOKU STAGEに登場するのが当たり前の存在となった。
SEとともにGODRi(ドラム)、SIN(ベース)、SHOW-HATE(ギター)の順番でメンバーがステージに登場すると、最後に黒い革ジャンを着たMAH(ボーカル)が現れ、
「アラバキー!」
と叫ぶと、いきなりの「KiLLiNG ME」からスタートという飛ばし具合。最近はフェスではこの曲の途中で観客をステージに上げてギターを弾かせたりしているが、最初に演奏されたことで今回はそういうパフォーマンスはないということがわかる。
「ツーステって知ってるかー!」
とさらに「Amy」、レゲエパンクというジャンルでシーンに登場したこのバンドの音楽性を強く感じさせながら高速左回りサークルを生み出した「T×H×C」、MAHが携帯の着信音に合わせて電話に出る素振りを見せてから演奏された「Fall In Love With You」と、最近ではほとんどなかったくらいのキラーチューンの連発に次ぐ連発で、もう息つく暇もないくらいのモッシュ&ダイブの嵐。
昨年配信リリースされた「DiAMOND」もそのキラーチューン群の中に入ってきても全く遜色ないラウドバンドとしての重さと強さを見せつけると、「GUNSHOTS」ではSHOW-HATEの操るシンセの妖しげなフレーズに合わせて腕を上下させるモンキーダンスが発生。
「4年ぶりのアラバキです!SiMがいなかった3年間はさぞ平和だったことでしょう!これから俺たちが地獄を見せてやる!」
と自信満々にMAHが語ると、「MAKE ME DEAD!」で再びラウドに振り切り、メンバーたちのコーラスも勇壮に響くと、歌い上げるような曲をやるような空気を出しておきながら、
「やっぱり激しい曲やります!」
と最近フェスではあまり聞けなくなっていた「JACK.B」にいきなり転じて激しさはさらに増していく。
「お金を払って時間をかけて見にきてるお前たちには全く関係ないことだけど、この前に東北ツアーを回った時にこのフェスの主催会社の新人スタッフが同行してくれて。ツアー終わって打ち上げしてる時にそいつが感極まって、
「本当に最高でした!次はSiMをアラバキに呼びます!」
って言ってたんだけど、新人のお前にそんな権限あるのかっていう(笑)
でもそれがこうして今日出演してることにつながってるのかもしれない。おい!そのスタッフ!今ライブ見てるか!見てないでちゃんと仕事しろ!」
とこの日に至るまでのアラバキとのエピソードを語る。
MAHはヒールというかダークヒーロー的な人を演じているところもあるが、そうして自分たちの音楽を大事に思ってくれている人の想いにはしっかり応える男だし、もしかしたらこの日の「こんなセトリで来るの!?」というくらいの選曲にもそのスタッフの期待や想いに応えた部分もあるのかもしれない。そうした優しさを持っているのが演奏している姿や音から滲み出ているから、フェスでも初見の人がすぐに引き込まれていく。
そして大合唱を巻き起こした「Blah Blah Blah」からラストはこの日はウォールオブデスではなく巨大なサークルが発生した「f.a.i.t.h」でこの日も圧勝。
「SiMを見に来た人が5割、名前は知ってるから見てみようっていう人が3割、全然知らないけど見るの他にないからいるっていう人が2割」
とこの日の観客のノリを見てMAHは言っていたが、最後には10割全てを完全に持って行ってしまうのだから凄い。
アラバキは今年のトリがthe pillowsと9mmだし、去年はストレイテナーとエレファントカシマシだった。ラインアップにも他の首都圏のフェスではアウェー感の強くなってきているベテランアーティストも多いから、渋いフェスというイメージもあるが、ずっと昔からパンクやラウドバンドのライブで青空の下でダイブができるフェスでもあり続けてきた。
(ダイブ禁止のJAPAN JAMなどの春フェスが始動した時に「ダイブしたい人はアラバキに行けばいい」という声もよく聞いた)
SiMはどんなフェスでも出るというバンドではなく、自分たちの中で明確に自分たちが出る意義があるフェスというのに選んで出ている。それは決してダイブが禁止されてないからとかいう短絡的な理由ではないのはこれまでに出演してきたフェスからもわかることであるが、そのアラバキが守り続けてきたロックバンドのライブにおける自由さをこのSiMのライブでの客席の景色からは確かに感じさせてくれたし、それはこれからも変わらないでいて欲しいと思う。
1.KiLLiNG ME
2.Amy
3.T×H×C
4.Fall In Love With You
5.DiAMOND
6.GUNSHOTS
7.MAKE ME DEAD!
8.JACK.B
9.Blah Blah Blah
10.f.a.i.t.h
DiAMOND
https://youtu.be/iA8UwjH0ljw
14:30〜 TOSHI-LOW (BRAHMAN / OAU) [HASEKURA Revolution × 東北ライブハウス大作戦STAGE]
一応開演は14:30なのだが、明らかにその時間の前からスタートしていただろうというか、もはや持ち時間という概念が存在しているのだろうか、というくらいにサウンドチェックと本番との境目がないくらいに、ステージに到着したらボトルワインを持った細美武士と談笑していた、TOSHI-LOW。聞いた話ではこの前には10-FEETのTAKUMAが出てきてTHE BLUE HEARTSの「青空」を歌っていたようで、開演時間の14:30にはギリギリ間に合ったはずなのに、結果的にライブには全然間に合っていなかったというよくわからない事態に。
「俺たちが飲み過ぎたら大変だよ」
とボトルワインを飲みながら言うので全く説得力がない(このあとバンドでのライブがあるというのに)細美武士とともに河島英五「酒と泪と男と女」を歌うと細美はステージを去り、
「みーちゃんいなくなったら寂しいな。そういう寂しい気持ちの歌。ドラマに使われたんだけど、どうせ東北では放送されてないだろうから(笑)、オンデマンドで、オンデマン○で見てください(笑)」
と何故か下ネタ混じりで1人で弾き語りしたのは、BRAHMANのメンバーにヴァイオリンとパーカッションを加えたアコースティックバンドOAUの「帰り道」。直前に下ネタを言ったのを忘れてしまうくらいに沁みるような良い曲。BRAHMANの激しさ、ラウドさとは対極にあるようでいて、どちらもTOSHI-LOWの人間性が強く出ている曲である。
「東京では桜が散ってしまっているけれど、この会場には桜がまだ咲いている。でも今日は寒いな。東北の寒さ。きっとあの日も寒かったんだろうな。波にさらされて、電気も使えなくなって…」
と2011年の震災の日のことを思い出させるような言葉の後に歌ったのは「満月の夕」。BRAHMANのライブでもおなじみの曲であるだけに、客席からは
「イヤーサッサ!」
というコーラスの合唱が起きたのだが、ソウル・フラワー・ユニオンの中川敬が作ってHEATWAVEの山口洋が発展させたこの曲を
「オリジナル曲、「満月の夕」でした(笑)」
と言ってしまうあたりがさすがTOSHI-LOWである。
この時間の直前には隣のHANAGASA STAGEにてG-FREAK FACTORYがライブをしていたので、
「ここにいる皆さんはG-FREAK見てないっていうことでしょ?」
と言うとG-FREAK FACTORYの茂木洋晃が登場して「ダディ・ダーリン」を一緒に歌う。自身のライブ終了直後にこうしてまたステージに出てきて歌う茂木も凄いし、その状態の茂木をステージに呼んだTOSHI-LOWもやっぱり凄い。そして「ダディ・ダーリン」はTOSHI-LOWの人生の深みを感じさせる大人の歌声が実によく似合う。
茂木がステージから去ると、
「1人でやってる奴は本当に強い。バンドはメンバーがいるけれど、1人の奴は全部自分だけで背負わなくちゃいけない。そんな1人で戦い続けてる奴」
と称えてステージに呼び込んだのは、やはり自身のライブを終えたばかりの竹原ピストル。
「前にアラバキに出た時に、ライブ後にビールを貰いに行こうとしたら、TOSHI-LOWさんとTHA BLUE HERBのBOSSさんがその前にたむろしてて、怖くて行けなかった(笑)」
というエピソードを話して笑わせると、ともに弾き語りをやる上で大きな影響を受けているという遠藤ミチロウの「カノン」をカバー。TOSHI-LOWはザ・スターリンのボーカリストだったミチロウから追っていたが、竹原ピストルは逆にスターリン時代のミチロウのことを最初は知らなかったという。それが今なおバンドで戦うTOSHI-LOWと、バンド解散後に弾き語りという道を選んだ竹原ピストルの姿勢の違いを示しているかのよう。
「いやー、ずっと1人でやるのはキツい(笑)」
と半数以上の曲でゲストを呼んでいるにもかかわらず嘯くと、当初から絶対時間押すだろうな、と懸念した通りにすでに予定時間はオーバーしてる中で最後に1人で弾き語りしたのはBRAHMANの「鼎の問」。
普段のBRAHMANのライブのような映像はないけれど、この日BRAHMANの曲で唯一弾き語りしたのがこの曲だったというのは福島からほど近いこの会場だからこその明確なメッセージのようだった。震災を機に自分の身とアコギのみで被災地でライブができるようにと弾き語りを始めたTOSHI-LOWだからこそのこのフェス、このステージでのライブはTOSHI-LOWの持つ人間としての温かさ(それによってこんなにゲストが集まったとも言える)を感じさせるものだった。ライブが終わる頃には曇天だった空から太陽が顔を見せていた。
1.青空 w/ TAKUMA
2.酒と泪と男と女 w/ 細美武士
3.帰り道
4.満月の夕
5.ダディ・ダーリン w/ 茂木洋晃
6.カノン w/ 竹原ピストル
7.鼎の問
鼎の問
https://youtu.be/PoTtRK63t6M
15:00〜 リーガルリリー [HANAGASA STAGE]
このフェスには初出演となる、リーガルリリー。案の定、TOSHI-LOWが時間押しまくっただけに着いた時にはもうライブが始まっていた。
高橋ほのか(ボーカル&ギター)がその見た目通りの少女性と儚さを感じさせる歌声を響かせる「こんにちは。」を演奏している途中から見たのだが、やはりこのバンドは一筋縄ではいかないというか、それは近年のリリースを見てもわかることなのだが、いわゆるフェス向けのわかりやすいような曲でセトリを固めるということはしないし、かといって最新作の曲ばかりの現在のモードを示すということでもないだけに実に掴み所がない。続く「the tokyo tower」も含めてどうやってこの順番のセトリを決めたのかを本人たちに聞いてみたいくらいだ。会場的に東京タワーに全くリアリティがない場所であるし。
しかしそのアウトロからイントロにかけて、ゆきやま(ドラム)が激しいビートを叩き出すと、高橋のギターも一気に轟音になっていく、このバンド最大の代表曲であり、テレビ番組「関ジャム」で蔦谷好位置に取り上げられた「リッケンバッカー」へ。しかしながらそのサウンドは音源とはもう全く別物というレベルに進化しまくっている。イントロからそうだったが、ゆきやまのドラムは手数も強さも数倍増しているのだが、そうなったのは去年バンドに加入したベースの海の安定感あってこそ。3人の音と意識が完全に一つの大きな塊として曲になっている。もう今のバージョンで新録したものをリリースしてほしいくらいだが、きっとこれはライブを重ねるたびにまた変わっていくのだろう。
「9mmパラベラム」
という歌詞のフレーズが、この日メインステージでトリを務める9mm Parabellum Bulletに合わせた選曲なのだろうか?と思ってしまう「Overture」を終えると、演奏をしていることで暑くなった高橋がコートを脱ぎながら
「凍死しないように気をつけてください」
と言う天然さをフルに発揮しながら最後に演奏されたのはタイトル通りにその歌声と音像も美しく響く「うつくしいひと」だった。
リーガルリリーはデビューした時から見た目が一貫して幼い(そもそもデビュー時は10代だったし)ものだったし、それは今もほとんど変わっていないのだが、バンドの音は幼さを一切感じさせないどころか、イカつい見た目のバンドと比べても遜色ないくらいに凄まじいレベルにまで進化している。それはもはやバケモノと言っていいくらいに、他の若手ガールズバンドとはちょっと立っている地平が違うとすら思う。
だからこそツアーにも毎回足を運んでいるのだが、この日は「リッケンバッカー」が終わったら人がかなり減ってしまっていた。それだけのバンドじゃないことを普段からこのバンドのライブを見ている人たちはよくわかっているけれども、まだまだそこが伝わりきっていないのはもどかしさを感じてしまう。
1.こんにちは。
2.the tokyo tower
3.リッケンバッカー
4.Overture
5.うつくしいひと
リッケンバッカー
https://youtu.be/V-lYzz5BNo0
15:35〜 the HIATUS [BAN-ETSU STAGE]
昨年に続いてのBAN-ETSU STAGEへの出演となる、the HIATUS。細美武士はすでにTOSHI-LOWの弾き語りに出演しているし、この後にはこのステージのトリであるLOW IQ 01の20周年ライブにも出演するなど、かなり忙しい一日である。
だいぶ陽が出てきてはいるものの、やはりまだ寒いからかmasasucksは帽子を被って登場すると、伊澤一葉の美しいピアノの旋律に細美武士のボーカルが重なる「Clone」からスタートし、どことなくこの会場の周りの景色を思い起こさせる「Sunset Off The Coastline」と続くあたりは昨年の「Monochrome Film Tour」からの、激しいロックサウンドというよりも繊細かつ美しいバンドアンサンブルと細美武士のシンガーとしての力量と懐の深さを感じさせる歌を聴かせるモードの延長線上と言えるだろう。
細美がサンプラーを操作しながら飛び跳ねて歌う「Unhurt」で一気に、というよりはじわじわと場内の温度が上がってくると、「Insomnia」では絶唱とでもいうようなボーカルを響かせる。しかしこの曲の「Save me」のフレーズにかつてのような悲壮感を感じないのは今の細美武士がいる場所や状況が楽しいものであり、自分が望んだものだからだろう。
しかし細美はすでにTOSHI-LOWの弾き語りに出演した時から飲んでいたボトルワインを一本飲み干しているのだが、その状態でここまで歌えるというのはいったいどんな喉をしているのだろうか。
とはいえやはり酔いは回ってきているようで、最近はフェスではほとんどMCはしないにもかかわらず、
「今日、ここまで出演者が乗るバスで来たんだけど、前にSCANDALが座ってて、凄く良い匂いがした(笑)」
とおっさん丸出しのトークを展開。おっさんになってきたからか細美は自身の顔のほうれい線が気になってきているとのこと。
しかし曲が始まるとそのおっさんらしさはすぐに消え、近年のモードに合わせたアレンジが施された「西門の昧爽」は
「がれきの海で 夢を見ていた」
という歌い出しのフレーズが東北のこの地方で聴くからこそ刺さる。この曲がリリースされたのは震災よりも前だけど、震災を経て曲の意味は間違いなく変わっている。だからこそここまで聴いている人に優しく寄り添うようなアレンジになっているのだろう。
爽やかになってきた空と気候に細美の声が溶け合っていく「Radio」、
「燃え尽きるように、でもまた生きて会いましょう。俺たち、しょっちゅう東北にいるから」
と再会を約束した「Burn To Shine」は曲のタイプは全く違うけれど、どちらもやはりこれを歌い切れる細美武士の歌の力はやはり凄まじいと思わせてくれた。LOW IQ 01のライブに出る頃にはベロベロになっているだろう、と言っていたが果たしてどうだったのだろうか。
the HIATUSはもう10周年を迎えるようになった。それ故に絶賛レコーディング中のアルバムが今年ついにリリースされる(昨年のツアーでは新曲もやっていた)のだが、前は「明るいアルバムになる」的なことを言っていた記憶があるけれど、この日は「悪い大人のアルバム」になっているとのこと。大人の、というとジャズ箱ツアーを回ったりした時のような、スーツで演奏するのが似合うようなアルバムになっているのだろうか。
もはや誰もマネできないレベルまで行ってしまっているバンドなだけに、MONOEYESやELLEGARDENよりも自由に、自分たちがやりたいことをひたすら追求できる。まだ詳細は何もわからないが、リリースの度に毎回我々を驚かせてきただけに、今から本当に楽しみだ。
1.Clone
2.Sunset Off The Coastline
3.Thist
4.Unhurt
5.Insomnia
6.西門の昧爽
7.Radio
8.Burn To Shine
Clone
https://youtu.be/h9aLBoHFeOQ
16:30〜 10-FEET [MICHINOKU STAGE]
もうこの日本においていくつ「このフェスではおなじみ」というフェスがあるのだろうか、というくらいにこのフェスにおいてもおなじみの存在と言える、10-FEET。
TAKUMAはすでにTOSHI-LOWの弾き語りにも出演しているが、さらにはLOW IQ 01、真心ブラザーズと本隊以外でもこの日はフル稼働である。
おなじみの「そして伝説へ…」のSEでステージにメンバー3人が登場すると、いきなりの「goes on」でスタートするも、TAKUMAが最初のサビを歌い終えたところで演奏を止めさせ、
「俺たち何回アラバキ出てると思ってんねん。もっとできるの知ってるぞー!」
と言って煽ってからやり直すと、最初よりもさらに激しいサークルやダイバーが続出。やはりアラバキはこうした側面も持っているフェスなのだ。
「平成最後の!」
と言って「1 size FITS ALL」を演奏したかと思いきや、
「俺は平成最後とか絶対言わねーぞ!言わねーかんな!」
と明らかにサンボマスター山口の口調を真似したり、
「10-FEET最大のヒット曲!」
と言って長渕剛「乾杯」を歌い出したり、カメラに向かって変顔を連発したりとこの日のTAKUMAは実にテンション高め。このフェスのこのステージに立てていることが嬉しくて仕方がないし、たくさんの仲間と一緒にステージに上がって音楽ができる場所があるのが楽しくて仕方がないのだろう。YON FESに出た時は声があまり出ていなくてちょっと心配だったが、やはりあれはたまたまだったようだというくらいにこの日は不調を全く感じさせない。
「RIVER」では恒例の川の名前をご当地のものに変えて歌うのを仙台市を流れる「広瀬川」にして大歓声を浴びると、
「あの時にあいつが言ってくれた言葉でどれだけの勇気や力をもらっただろう。みんなも伝えたいことがある人には真っ直ぐに正直に伝えるんやで。言葉は時としては人を傷つけたりすることもあるけれど、その人が言ってくれた言葉で救われることもある」
という、亡くなった松原裕のことを思い起こさせるMCからの「蜃気楼」は楽しいライブの最中ではあれど感傷的になってしまうし、色々と考えさせられる。
「オフィシャルのカメラマンの方いますか?じゃあみんな靴を上に挙げて、それを撮ってください」
と言うと観客が一斉に靴を脱いで上に掲げ、TAKUMAも同様に靴を掲げるのだが、かつてロッキンで「靴だけダイブ」させた時とは違ってライブの流れとは一切関係ないものだったし、天候の影響で長靴を履いている人も多かっただけに脱がない(脱げない)人もいた。これはマジで写真でいきなりこの瞬間が映し出されたら見てない人はなんなのか全くわからないと思う。
「えー、重大発表があります。10-FEETは年内まで制作活動とライブ活動を目一杯やって、年内を持ちまして…」
とTAKUMAが急に語り始めたので、「え!?」「嘘だろ?」と会場がざわつき始めると、
「年明けからはバンド名のハイフンがちょっとだけ長くなります(笑)全然辞めへん!」
というとんでもないオチ。そうして爆笑をかっさらっておいて「その向こうへ」で全てをその向こうへ投げ出すと、「ヒトリセカイ」のメッセージに浸らせて終了…かと思いきや、
「まだほんのちょっとだけ時間あるんで、ギリギリまでやります」
と言って四星球のライブでおなじみの
「母は泣いた 手に触れ泣いた」
の部分だけを演奏する「時間がない時のRIVER」でやはり爆笑をかっさらっていった。
この日、TAKUMAは最近フェスではやっていなかった「シガードッグ」を
「東北の景色を見て作った曲」
と言って演奏していた。BRAHMANやthe HIATUSほど東北ライブハウス大作戦にがっつり参加しているイメージはないが、10-FEETは自分たちなりのやり方やペースで東北をずっと支援し続けてきた。それをちょっとだけど、でも確実に感じることができる。10-FEETのライブはいつも同じようでいて、いつも違う。だからこうしていろんなフェスに出ていても毎回見ようと思える。もちろんそれはライブそのものが素晴らしいバンドであるからというのが大前提にあった上で。
1.goes on
2.VIBES BY VIBES
3.1 size FITS ALL
4.シガードッグ
5.RIVER
6.蜃気楼
7.1sec.
8.その向こうへ
9.ヒトリセカイ
10.時間がない時のRIVER
その向こうへ
https://youtu.be/p67eKL1e6u0
18:00〜 UNISON SQUARE GARDEN [MICHINOKU STAGE]
トップバッターがDizzy Sunfistだし、SiM→サンボマスター→10-FEETと繋いできただけに、この日のメインステージであるMICHINOKU STAGEはアラバキの持つ激しい部分を凝縮させたような流れだったのだが、その空気がガラッと変わる、客席の層もガラッと変わるのはUNISON SQUARE GARDENがこのステージに登場するからである。
おなじみイズミカワソラ「絵の具」でメンバー3人がステージに登場すると、早くも挙動が不審な田淵の姿に歓声が上がる中、始まったのはなんでこのタイミングでこの曲を1曲目に?と思ってしまう「流れ星を撃ち落とせ」。ユニゾンの曲の中ではかなりハード目な曲ではあるのだが、別にフェスのラインアップによってやる曲を合わせに行ったりするバンドでもないだけにより一層なんでなのか気になってしまう。
「fake town baby」「10% roll, 10% romance」と近作のシングル曲を続けると、昨年リリースのアルバム「MODE MOOD MODE」収録の「フィクションフリーククライシス」と続くのだが、こんなに1曲の中でガラッと展開が変わる場面が何度もあるような曲なのにやはりポップに感じてしまうのはこの曲ではコーラスでも大忙しの田淵の策略に見事にハマってしまっているし、そんな曲が観客から待たれていて受け入れられているというのが田淵の策略が間違っていない証拠である。
というかもう今のユニゾンはどんな場所のフェスでどんな曲をやっても受け入れられるという無双状態のバンドになってきているし、それはここ数年で聞いてくれる人が増えたことであらゆる時期の曲に焦点が当たるようになったからでもあるし、何よりもライブにおける3人の安定感と爆発力を兼ね備えた演奏が曲の持つ力を100%以上に引き出しているからである。
それを強く感じさせるのは「天国と地獄」以降の、鈴木の100%とは行かないまでも10%どころじゃない増しっぷりのドラムの手数。でも曲の表情を変えるくらいにやり過ぎるところまでは行かず、あくまで「めちゃ凄くなってる!」と思えるギリギリのところを攻めている。どうしても何かと田淵にスポットが当たりがちではあるが、実はライブになると1番豹変するのは普段はゲームばっかりやっているというこの鈴木なのかもしれない。
定番とはいえやはりライブで聴けるのが嬉しい「場違いハミングバード」で飛び跳ねさせまくると、イントロに湧く客席を見て田淵が嬉しそうな笑みを浮かべた「シュガーソングとビターステップ」ではこの曲がありとあらゆる年代の、ありとあらゆる音楽好きに刺さった曲であるということを感じさせ、最後はホーンなどの華やかな打ち込みの音が彩りを与える「君の瞳に恋してない」。
斎藤は「バイバイ!」とだけ言ってそのさわやかな表情を崩すことなくステージを後にしたが、東北最大のフェスのメインステージであっても MCなしで駆け抜けるというユニゾンのスタイルは全く変わらなかった。それがユニゾンらしさを10%ではなく100%感じさせていた。カップリング曲ツアー真っ最中なのにこの内容だけ見たらツアーと同時進行中なのを全く感じさせないのは本当に凄い。普通なら少しはそれを感じさせる選曲なり言葉なりがあると思うのだけれど、そもそもユニゾンは全然普通のバンドじゃなかった。
1.流れ星を撃ち落とせ
2.fake town baby
3.10% roll, 10% romance
4.フィクションフリーククライシス
5.天国と地獄
6.場違いハミングバード
7.シュガーソングとビターステップ
8.君の瞳に恋してない
シュガーソングとビターステップ
https://youtu.be/JpCyeo_kNA0
18:40〜 a flood of circle [ARAHABAKI STAGE]
ユニゾン以降の時間は、なぜこんなにも!?というくらいに見たいアーティストが密集していて実に忙しないのだが、そんな中にあって絶対に外せないバンドである、a flood of circle。何故だかイメージ的には「フラッドが出るフェス」と言われるとこのフェスが真っ先に頭に思い浮かぶ。
おなじみのSEでメンバーがステージに登場すると、佐々木亮介はこの日は赤い革ジャン姿で、
「おはようございます、a flood of circleです」
と挨拶すると、HISAYOのゴリゴリのベースが引っ張る「Blood Red Shoes」からスタート。そのHISAYOは陽が落ちて寒さがさらに増している中であるにもかかわらずいつもと全く変わらぬ出で立ちであり、風邪を引かないだろうかとちょっと心配になる。(普通に厚着しててもすごく寒いレベル)
「こんなもんなんでしょう ってこんなもんじゃねぇだろアラバキ!」
と亮介が歌詞を変えて煽った「Dancing Zombiez」ではアウトロのギターソロで青木テツがステージ前に進んでいく。この日このステージに来ていなかったのでわからなかったのだが、このステージには中央から伸びる花道があったのだ。亮介も
「ギター、俺!」
と言ってテツに続いて花道に歩き出して行ってギターを弾く。テツは上手、亮介は下手を向きながらギターを弾くのだが、その姿があまりにもカッコよくて、そして物凄く似合っていただけに、いつかこういうステージセットが作れるような広い会場でワンマンができるようになって欲しいと心から思う。
亮介はさらにギターを置いてハンドマイク状態になった「Sweet Home Battle Field」でも花道を進んでいって、さらには客席に突入していく。その間にはHISAYOも花道に進んでいってベースを弾くという見事なフォーメーション。このステージを使って入念にリハをしているわけじゃないし、こういう設計のステージでライブをやった経験もほぼないはず。それでもそれぞれがこの花道をどう使うか、自分がどのタイミングでここに行くべきかというのを完璧に感覚でわかっているかのようだ。やっぱりすごくこの花道があるステージが似合うバンドだ。
「アルバムを出したばかりなのにもうシングルが出た(笑)」
と亮介が自らのハイスピード極まりない音楽人生について語ると、アルバムのタイトル曲「Center Of The Earth」を演奏するのだが、
「サンキューベイビー 泣けるほど笑える日々を」
という歌詞はこうしてここに集まってくれた人たちに向けられているようであった。
複雑なキメ連発から文字通りに逆転満塁ホームラン級のキャッチーなサビに雪崩れ込む「美しい悪夢」から
「アラバキロックンローラー、ちょっとテンション低いんじゃない!?」
とテンションをさらに上げるべく新作からの「ハイテンションソング」へ。すでに先日のO-EASTでの主催イベントでも聴いている曲だが、タイトル部分のコーラスをメイン部分は亮介とテツが、追う部分をHISAYOと渡邊一丘のリズム隊が担っていたのは新しい発見であった。
そしてラストはやはり
「俺たちとあんたらの明日に捧げる!」
と「シーガル」へ。亮介はマイクスタンドを花道まで自らの手で運んで観客に最も近い場所で歌うと、サビでは観客にボーカルを委ねて大合唱を巻き起こすのだが、ここまで大合唱が起こるフェスがあるだろうかというくらいの声の大きさ。紛れもなくこの場所はフラッドにとってホームと言っていい場所だし、亮介もこのフェスの観客を心から信用しているようだった。
今はロックフェスにもロックバンド以外の様々な形態のアーティストが出演するようになってきているし、それは決して悪いことではないのだけれど、「ロック」という看板を掲げているフェスであれば必ずそこには「ロックとは何か?」という問いが生まれる。それは人それぞれ価値観が違うけれど、亮介は去年のロッキンに出演した時に
「ROCK IN JAPANに来るといつも思う。ROCKって何!?」
と観客に問いかけていた。亮介には亮介なりのロックという音楽や言葉へのこだわりがあって、このフェスやこのフェスに来る観客たちは亮介と同じようなロック観を共有している。だから亮介はこのフェスの観客を「アラバキロックンローラー」と信頼しているし、このフェスもまた他のフェスにはないくらいにフラッドをホームとして迎え入れてくれている。そこが完璧に噛み合っていたから、ただでさえ最強な今のフラッドのライブがその何倍にも向上していて、最後の「シーガル」では感動して思わず泣きそうになってしまった。だからこそ亮介はこの日、
「忘れるな。ロックンロールはいつだって君たちの味方だ!」
と言った。この場所に集まっていたのがロックンロールを愛する人たちであるとわかっているから。
このフェスはあらゆるタイプのライブ猛者が顔を揃えているが、その中でもこのバンドは全く負けていないというか、他のバンドたちを凌ぐようなライブをやるバンドだと証明してみせた。それが本当に嬉しかったし、信じ続けてきて良かったと心から思った。
2日目のトリのthe pillowsの30周年ライブに亮介が出演したあと、フェスのスタッフが
「15周年か20周年の時はフラッドに」
と言っていたらしい。もしメインステージにフラッドが立って、一切止まらずに走り続けてきたことを祝える日が来るのならば、それまでは絶対に死ねないじゃないか。
1.Blood Red Shoes
2.Dancing Zombiez
3.Sweet Home Battle Field
4.Center Of The Earth
5.美しい悪夢
6.ハイテンションソング
7.シーガル
Center Of The Earth
https://youtu.be/7w1GhWCzehw
フラッドからトリの9mmまでのわずかな時間。HATAHATA STAGEのトリのTHE BAWDIES。着いたらちょうど「HOT DOG」劇場を展開中で、この日は少女漫画バージョンの前編。そこから「HOT DOG」、ROYの超ロングシャウトが轟いた「IT'S TOO LATE」、観客を飛び跳ねさせまくった「JUST BE COOL」、そしてコール&レスポンスをさせたのは最近よくやっている「TWISTIN' ANNIE」ではなくて「KEEP ON ROCKIN'」だった。
THE BAWDIESも結成15周年を迎え、もう中堅からベテランの域に差し掛かってきている。そうなるとどうしても若い観客が多いフェスではアウェーな場面も多くなりがちだが、この日は溢れかえるくらいの観客が詰めかけていた。
直前に最高のライブを見せたフラッド、トップバッターとして見事なフェスの始まりを告げたgo! go! vanillas、そしてこのステージのトリのTHE BAWDIES。それらを全て見ると、新しさはなくても、ロックンロールはまだまだいける、転がり続けていくことができると思える。だからこそ自分は彼らと一緒にこれからも転がり続けていきたいと思う。
19:40〜 9mm Parabellum Bullet 15th ANNIVERSARY CARNIVAL OF CHAOS in ARABAKI [MICHINOKU STAGE]
そしてついにこの日のメインステージのトリ、9mm Parabellum Bulletの15周年記念ライブである。ちなみに菅原卓郎は去年このステージで初日のトリだった、ストレイテナーの20周年記念ライブに参加している。
おなじみの「Digital Hardcore」のSEで4人+サポートの武田将幸(HERE)が登場すると、
「9mm Parabellum Bulletです」
と卓郎が挨拶してトリプルギターの轟音サウンドによる「太陽が欲しいだけ」からスタート。もうメンバーの気合いが入りまくっているのがよくわかるし、もう空は完全に夜の暗闇となっているが、この日に太陽が見えるくらいに天候が良くなったのはこの曲を演奏するこのバンドがトリだったからかもしれない、とすら思ってしまう。日比谷野音でのフリーライブも雨の予報だったのを吹き飛ばしたバンドである。
暴れまくって叫びまくる中村和彦(ベース)が作曲した「Cold Edge」を終えると、
「中村和彦くんは第1回のこのアラバキが開催された時に高校生で、自転車を漕いで見に行ったらしいです」
という仙台出身の和彦のアラバキエピソードを語り、いよいよ「CARNIVAL OF CHAOS」と題された、9mmの15周年を祝うゲスト総出演のスペシャルライブに。
最初に登場したのは、卓郎と滝によるユニット、キツネツキでも取り憑かれメンバーとしてヴァイオリンを弾いていた、BIGMAMAの東出真緒。
「東北の景色を思い浮かべて作った」
という「黒い森の旅人」のイントロからその流麗なヴァイオリンの音色を響かせるのだが、普段は滝のギターが(滝不在時は和彦のベースが担っていた)奏でるイントロの音色をヴァイオリンで奏でることによって、まるで曲を作っている時からこうしてヴァイオリンが入ることを想定していたかのようなハマり具合だった。
続いて登場したのは姉妹ユニット、チャラン・ポ・ランタンの2人。去年の9mmの仙台でのライブで会場入りする時に卓郎が声をかけられたのがこの2人だった、という出会いから、2人がラジオで9mmの曲をカバーしてくれていたということで今回こうしてコラボするに至ったという。
そのコラボ曲は「ハートに火をつけて」で、ボーカルである妹のももはおなじみの豚のぬいぐるみを抱えて卓郎とボーカルを分け合い、ミスチルのツアーにも参加していた小春はアコーディオンを立ったまま弾き、このユニット特有のジプシー感、オリエンタル感を9mmの持つ歌謡性に融合させていく。間奏では踊りまくっていたももは自身が歌う2コーラス目の入りを踊るのに夢中になって飛ばしてしまい、ステージから去る時も袖にいるスタッフに
「踊ってたら2番歌うの忘れちゃった〜」
とマイクが入った状態で言っていたのが面白かった。
続いては9mmとは同年代である、UNISON SQUARE GARDENの斎藤宏介。ユニゾンのライブ時のフォーマルさとは異なり、黒いTシャツのみというラフな姿で「新しい光」を卓郎と歌い合うのだが、やはり斎藤が歌うとそれだけで「めちゃ激しいユニゾンの曲」になるくらいに斎藤の声はそれがそのままユニゾンの音楽になっている。間奏ではマイクを握りしめてヘドバンしまくり、アウトロでは滝に合わせるようにエアギターをしていたのも普段のユニゾンのライブでは絶対に見ることができない光景だった。
「9mmはさっきも言ったように、和彦が仙台出身で、俺が山形出身で東北出身のメンバーが2人いるんだけど、次に出てくれる人は青森出身の人です」
と言ってステージに招き入れたのは、ここまでのゲストでは初めての先輩となる、人間椅子のギタリスト・和嶋慎治。普段と変わらぬ着物姿で登場すると、滝と武田の間で「Bone To Love You」のチョーキングギターを炸裂させる。するとステージ袖からは西馬音内盆踊りのメンバーが大挙して登場してリズムに合わせて盆踊りを踊るという、タイトルにもついている「カオス」という言葉が最も似合うような光景に。そもそもカップリングであるこの曲を演奏するのはいつ以来だろうか。和嶋のギターと盆踊りを融合させるにはこの曲しかなかったと思えるが、この曲を聴けると思っていた人がどれだけいるだろうか。
コラボはまだまだ続く。続いては去年完結を迎えるまでは9mmとずっと共闘してきたバンドと言えるチャットモンチーのボーカリストであった、橋本絵莉子。おなじみの黒いギターを持って登場すると、ギターを弾きながら「Vampiregirl」を卓郎と2人で歌う。やはり普段の9mmのライブでの時ほどテンポが速くはならなかったが、橋本の出演が発表された時はこうして速くて激しい曲ではなく、もっと聴かせるようなタイプの曲になると思っていただけに意外であった。ボーカルだけでなく、間奏ではお立ち台に立って滝と向き合うようにギターを弾き、ギタリストとしての存在感も見せる。
他のゲストがみんな1曲のみだったので、当然「Vampiregirl」が終わると橋本も入れ替わるのかと思っていたら、そのままステージに残って1人で歌い始めたのは、
「今までひとつでも失くせないものってあったかな」
と、まさかのチャットモンチー「恋愛スピリッツ」。しかもそのまま9mmのメンバーたちによって演奏が続けられていく。
橋本がゲスト出演すると決まった時も、普通に9mmの曲だけをやるんだろうと思っていたから、こうしてチャットモンチーの曲をやるなんて全く予想していなかったし、そもそも去年の徳島でのラストライブ以降はこうしてステージに上がることすら一切なかっただけに、もう彼女がチャットモンチーの曲を歌うことはないとすら思っていた。ましてやラストライブの時も、その前の日本武道館の時も演奏していなかった曲だから、もう二度とこうしてライブで聴くことはできないと思っていた。
その曲が目の前で鳴らされている。橋本絵莉子がブランクを一切感じさせない歌声を聴かせてくれている。9mmの15周年を祝うはずのこのライブのこの時間だけは、9mmのためじゃなくて、9mmが橋本のために用意した時間だった。このまま一線から退いても仕方がない(家庭もある身だし)けれど、それでも橋本をミュージシャンとしてステージに立たせたいという思いが9mmのメンバーにもあったのかもしれない。
チャットモンチーがいしわたり淳治が初めてプロデュースするバンドとしてメジャーデビューしてからすぐに、9mmもいしわたり淳治のプロデュースでメジャーデビューした。新人の頃は一緒にトークイベントに出たりしたし、対バンした時にはチャットモンチーの3人が楽屋で
「お菓子を食べるのさー!って「The Revolutionary」みたいに9mmごっこしてる(笑)」
と言って笑いあったりしていた。もうそれから長い年月が経って、チャットモンチーは完結し、9mmもいろんな危機を乗り越えながら活動を続けてきた。でも今でも両者の絆は変わっていないと思えたし、9mmの演奏ならではのアウトロの轟音サウンドを聴きながら、またこうして橋本絵莉子がチャットモンチーの曲を歌う姿を見ることができるかもしれない、と思えた。
結果的に、この特別なライブの中で9mm以外の曲が演奏されたのはこの曲だけだった。やはりこれは特別な瞬間であり、9mmが自分たちの曲を減らしてまでもやりたかったことだったのだ。
こんなクライマックス感が出まくってもまだコラボは続く。続いては昨年は卓郎がゲストとして参加した、ストレイテナーのホリエアツシと、アラバキの象徴的な存在の1人と言えるTHE BACK HORNの山田将司。
「先輩たちをまとめてしまうという失礼なことを(笑)」
と言いながら、「The World」のボーカルを3人で分け合う。基本的にどのボーカルもキーを変えずに原曲のままで歌っているのだが、声が変わると曲の印象はガラッと変わる。それはそのボーカリストたちが歌うと自分の曲に変えることができる声を持っていることの証明であるし、「The World」の歌詞はともに生きることや世界について何度となく歌ってきたホリエと将司に実によく似合っていた。
次も先輩の登場であるが、一気に濃さを増すのはTOSHI-LOW(BRAHMAN / OAU)とウエノコウジ(the HIATUS)のコンビ。
TOSHI-LOW「どうせまとめるんならさっきのホリエと将司のとこにまとめてよ!なんで俺がウエノコウジとまとめられてるんだよ!」
卓郎「でも2人とも黒のライダースで合わせてまとまりにきてるじゃないですか(笑)」
TOSHI-LOW「和彦のマイクなんてウエノコウジのくるぶしくらいまでしか高さないよ?」
ウエノコウジ「(和彦のマイクに向かって屈んで)どうも〜、広島から来たウエノコウジです!」
TOSHI-LOW「っていうかベース2人もいらなくね?(笑)」
卓郎「和彦、第1回のアラバキの時にミッシェルでベース弾くウエノさんのこと見てたんだから、客席で見てていいよ(笑)」
TOSHI-LOW「あ、でもウエノコウジが曲をちゃんと覚えてないかもしれないから、やっぱり和彦いて!(笑)」
ウエノコウジ「9mmの曲はキメが多いから難しい!(笑)」
と完全にコメディリリーフ的な役割になっていた2人が参加したのは「Black Market Blues」。TOSHI-LOWの男臭いボーカルによってまた曲は表情を変えるのだが、9mmがインディーズで脚光を浴びてからメジャーデビューしてからも、BRAHMANと繋がるようになるなんて思っていなかった。むしろかつてのライブの時のストイックさは通じるところがあったが、だからこそこうして仲間がたくさん集まって、という存在になるような想像ができなかった。そんな両者がこうして
「仲間入りさせてやるぜ」
と歌っている。これもまた9mmが続けてきたからこそ手にすることができたものだ。
ゲストが去ると5人で演奏されたのは、インスト曲「Mr.Brainbuster」。なんで今この曲?と思っていると、客席にある滑り台の遊具から、このフェスではおなじみのみちのくプロレスの剣舞選手が登場。この曲を入場曲として使用していたというくらいに9mmを好きな剣舞がヒールのプロレスラーにブレーンバスターをお見舞いするというプロレスを見せてくれたことによって、この曲がなんでこのタイトルなのかというのが良くわかった。ある意味では小芝居とも言えるような内容だったが、メンバーはみんな実に楽しそうだった。
とはいえ、ゲストがこうして代わる代わる登場すると、ライブのテンポはいつもより悪くなる。1曲ごとに転換が入るし、紹介したりしなくてはいけないから。9mmは普段のライブが実にテンポが良いだけに(ワンマンも1時間半くらいで終わる)それが顕著に感じてしまうのだが、その後の5人だけの演奏はやはり9mmのライブはゲストがなくても十分カッコいいものであるというのを示していた。
「The Revolutionary」では和彦が目の前にいる全ての人のバンドへの想いを受け止めるように両手を大きく広げ、リリースされたばかりの最新シングル「名もなきヒーロー」の
「守りたいものにいつも 守られているんだね」
というフレーズは9mmを守りたいと思ってきた観客や仲間が結局は9mmという存在に守られていることを実感させ、ラストは「talking machine」で踊りまくり、「Punishment」の轟音サウンドがトドメのように鳴った。
ゲスト総登場というのはやはり特別だったけれど、それが特別に感じられるのは9mmがそれがなくても最高だと思えるライブができるバンドだからである、というのを終盤のバンドのみのライブは示していた。
アンコールに再び5人で登場すると、演奏されたのは「カモメ」。夜の野外が実によく似合う選曲、しかもどこか歌詞からは東北らしい情景が浮かぶこの曲がアンコールで演奏されたのは必然だったのかもしれない。卓郎がいつものように深々と頭を下げる一方で、かみじょうは客席に投げキスをして去っていった。客席からは笑いとざわめきが起こっていたが、そのかみじょうの姿が、メンバーが今回のライブを本当に楽しんでいたことをこの上なく示していた。
9mmは正直言って、もう巨大なフェスでトリをやるどころか、メインステージに出れるような集客力はなくなってきている。だから今回も周年イベントあってこそのメインステージのトリだったと思われるが、この日のライブや日比谷野音のワンマンを見ていると、モンスタークラスの動員力を持っているバンドにも全く負けていないどころか、やっぱり9mmって最強なんじゃん?と思えてくる。つまり、まだまだ9mmはいけるっていうか、そういう巨大なフェスでもトリをまたできるようになる可能性が十分ある。一回そこまで行ったこともあるけれど、今でもそう思える存在であり続けているというのが何よりも嬉しかった。
この日はいろんな危機を乗り越えて15年続けてきたバンドへのご褒美のような一夜であったが、それを見るとやっぱり続けるのって凄いし、好きなバンドにはできる限り続いて欲しいと思う。そうすればこんなに素晴らしい景色を我々も見ることができるし、バンドに見せてあげることもできる。そこまで行けなかったバンドもたくさん見てきたからこそ、出会ってから一度も離れたりすることがなかった9mmでそれが見れたのは本当に幸せだった。
この日のライブでいろんな力をもらったバンドはこれからまた新たな季節に突入していく。また来週、次は千葉県で生き延びて会いましょう。
1.太陽が欲しいだけ
2.Cold Edge
3.黒い森の旅人 w/東出真緒(BIGMAMA)
4.ハートに火をつけて w/チャラン・ポ・ランタン
5.新しい光 w/斎藤宏介 (UNISON SQUARE GARDEN)
6.Bone To Love You w/和嶋慎治 (人間椅子)、西馬音内盆踊り
7.Vampiregirl w/橋本絵莉子
8.恋愛スピリッツ w/橋本絵莉子
9.The World w/ホリエアツシ(ストレイテナー)、山田将司(THE BACK HORN)
10.Black Market Blues w/TOSHI-LOW(BRAHMAN / OAU)、ウエノコウジ(the HIATUS)
11.Mr.Brainbuster w/みちのくプロレス
12.The Revolutionary
13.名もなきヒーロー
14.talking machine
15.Punishment
encore
16.カモメ
名もなきヒーロー
https://youtu.be/Ad5B0wS5Huc
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