ついにこの日が来たのである。銀杏BOYZ、8年ぶりの全国ツアーの初日。アルバムリリースと峯田和伸以外のメンバーの脱退以降、フェス・イベント・対バンなどのライブは精力的に行ってきたが、ワンマンは1人になってからは初。個人的にもワンマンを見るのは9年前の新木場STUDIO COAST以来ということで、心の底から待ちわびていたライブだった。
開演前のステージにはバンドセットのセッティングがされており、場内アナウンスが終わると大きな拍手と歓声が上がったのち、ステージ背面に紗幕が張られると、ステージに向かう峯田和伸の姿が映し出される。
髭をたくわえ、近年おなじみの緑色のコートを来た峯田がステージに登場すると、映像が終わり、紗幕には峯田の顔のアップが映し出され、「峯田ー!」というヤジにも似た歓声が飛ぶ中、
「今日は本当に、よくぞここまで来てくださいました!俺は今日、20年間の音楽人生の中で、自分で作ってきた曲をやります。俺は自分の作ってきた曲で「歌ってくれ」とも「踊ってくれ」とも言いません。好きなようにしてくれ。そして最後まで楽しんでください」
と言うと、アコギを手にして
「君が泣いてる夢を見たよ」
と歌う、まさかの「人間」からスタート。いや、確かにかつての4人時代もこの曲からスタートすることはたまにあったのだが、あの途中からメンバーが合流して爆音バンドサウンドに切り替わるという、最上のカタルシスを感じる瞬間はない、バンドセットは用意されているのに弾き語りのみという形態だっただけに、少々驚いてしまった。しかし、峯田の声は初日にもかかわらず、非常によく出ている。もはや歌い方も声もこの曲が世に出た時とは違うが、変わったならではの歌い方を会得しているというか、声量は抜群である。
「僕を呼んでる声がしたよ」
のフレーズでは
「だから僕はここに来た だから僕はここに来て歌うんだ」
と、この日のライブへの感情が爆発した歌い方に変わる。
「もうさっきから「峯田ー!」だの「死ねー!」だの罵声が飛んできてますけどね、そうやってその罵声があるから僕はこうしてステージに立っていられるんです。
僕はこの曲であなたたち一人一人を肯定したい。あなたが何やってようが、親と喧嘩して手首を切ってようが、覚せい剤やってようが」
と、この曲のテーマそのものについて語ると、長尺最新シングル「生きたい」を情念たっぷりに歌い上げ、この曲の途中で山本幹宗(ギター)、藤原寛(ベース)、後藤大樹(ドラム)のサポートメンバー陣が登場し、激しいノイズサウンドが発せられる中、峯田はこの会場にいる一人一人の存在を肯定するように歌う。
すると峯田がエレキに持ち替え、峯田の顔を映していた紗幕が開くと、ツアーのビジュアルである、片目を手で隠して寝転ぶ女の子な写真が現れ、ギターをかき鳴らしながら峯田が口ずさむフレーズは…「若者たち」。いきなりのこの曲に、それまでは弾き語りということもあって、峯田の表情などを一瞬でも逃すまいと凝視していた観客たちが瞬時に熱狂。かつてGOING STEADY時代にこの曲がリリースされた時にまさに「若者たち」であった大人たち(ネクタイを締めた仕事帰りに直行してきた人も)が次々に人の上を転がっていく。抑えきれない感情がステージ上でも客席でも爆発している瞬間。峯田もギターを弾きながら客席に飛び込み、最後のサビはほとんど藤原のコーラスのみという状態に。
現編成によりノイズ成分が増した「若者たち」だったが、最近のライブではよく演奏されている「まだ見ぬ明日に」(ゴイステ時代の「アホンダラ行進曲」)と「大人全滅」(同じく「DON'T TRUST OVER THIRTY」)は完全にノイズパンクとなり、そのノイズの洪水の中から、
「まだ見ぬ明日に何があるのか 僕は知らない」
「いつの日にか僕らが心から笑えますように」
と、若かりし日の峯田が書いたキラーフレーズが、当時と変わらないままに浮かび上がってくる。
峯田と藤原がパチンとハイタッチを交わすと、ここでいったんサポートメンバーがステージを去り、再び峯田がアコギを手にすると、高校時代に友人からNirvanaの「NEVERMIND」を貸してもらってロックに目覚めたという話から、
「もう上手く歌おうなんて全く思ってない。申し訳ないけど(笑)
でもやっぱり音楽って上手い下手じゃなくて。この前、実家の山形に久しぶりに帰って、友達と久しぶりに飲んだんだけど、その友達がビール飲みまくって顔真っ赤にして酔っ払って(笑)
そいつがカラオケ行こうって言うからカラオケ行ったら、真っ赤な顔してブルーハーツの「キスしてほしい」を歌って。東京でバンドやってる俺の前でかましてやろうっていう気持ちがあったのかもしれないけど、その友達が歌ってたのが、下手だったけど今まで聴いた歌の中で1番かっこ良かったんだよね」
と、自身の音楽観、ロック観について話してから、「17才」を弾き語り。銀杏BOYZには「十七歳」というタイトルの曲もあるが、今回演奏されたのはカバー曲の方。やはりMCの通りに峯田は歌は上手くないが、伝えようとする力がものすごい。それでいてどこか優しさを孕んだ歌声。だからいつ聴いても、どんなに激しい曲でも聴いていて安心する。
タイトル通りにピンク色の、若干エロさを感じる照明がステージを照らす「ピンクローター」から、峯田が椅子に座ると、
「もう何年かぶりにやるかわからない曲をやります。この曲は作った時にすごい本人に怒られて(笑)本人のお姉さんにも怒られた(笑)
そりゃ勝手に曲にして得るものがあるのはこっちだけだもんな」
と曲のエピソードを紹介して歌い始めたのは、まさかの「佳代」。「何年かぶりに」と言いながら、昨年福島でやったと聞いた気もしないではないが、やはりリリースから15年(!)経っても変わらぬ至上のラブソング。峯田は曲終わりで
「ごめんなさい佳代 ごめんなさい佳代」
と口にしていたが。
「生まれてこなければ良かったと思った時もあったけど でも生きてて良かったよ」
というサビのフレーズが今ここにいるすべての人の心境を代弁したかのような「べろちゅー」の途中で再びバンドサウンドに…と思いきや、バンドサウンドに復帰するきっかけとなる山本のギターの音が出ず、もう一回曲の頭からやり直すことに。その際、
「ごめんなさい佳代」
と前の曲の最後の部分からやり直す峯田の几帳面さというか、可愛らしさというか。
安藤裕子に提供した「骨」のセルフカバーは、先月のVIVA LA ROCKでは弾き語りだったが、この日はバンドアレンジに。弾き語りでも軽快に弾き語るという感じだったが、バンドバージョンもノイジーさのほとんどない軽やかなアレンジで、銀杏BOYZの新たなポップサイドの部分を予感させてくれる。
「夢で逢いたかった 夢で逢いたかった」
と峯田が繰り返してから演奏に突入した「夢で逢えたら」からはキラーチューン連発となったが、その「夢で逢えたら」は会場で涙を浮かべる人が続出し、歌詞こそ「I DON'T WANNA DIE FOREVER」だが、サウンドは完全に過去のものに近い「あいどんわなだい」では「イエス!」の大合唱が起こる。
さらに「BABY BABY」では近年のライブではおなじみの、峯田がマイクを客席に向けて、サビを何度も合唱させるバージョン。しかし演奏しているギターの山本の笑顔は本当に楽しそうで、峯田から声をかけたリズム隊の2人と違い、自ら「銀杏BOYZのギターを弾かせて欲しい」と立候補してきただけあり、こうしてこの場でギターを弾けている喜びを噛み締めている。もはやこのバンドのノイズサウンドにこの男のギターは欠かせなくなっているが。
そして観客によるサビの大合唱。これまでもフェスやイベントで大合唱が起きていたが、この日は100%銀杏BOYZだけを見に来た人たちだけによる合唱。だからこれまでのどのライブよりも声が大きく、感情がこもっていて、歌いながら涙が溢れそうになってくる。
さらに峯田がギターを弾かずにタンバリンを手にすると、「漂流教室」という、銀杏BOYZのポップサイドの曲が続く。決して無茶苦茶に暴れまくるような曲ばっかりじゃなく、こういう曲があるからこそ、銀杏BOYZの最初の2枚のアルバムは聴いた人の人生の中で大切なものになった。ここまでバンド編成ではほぼ全編にわたってコーラスを務めている藤原の貢献度も本当に高い。
「俺があの人を思って作った曲を歌えば歌うほど、あの人は遠ざかっていくような気がして。でも俺は歌わなければならなくて。
でもみんながこの曲を聴いて、大切な人を近くに感じてくれたら嬉しい」
と言って演奏されたのは、銀杏BOYZ至上のバラード「東京」。初めてこの曲を聴いたのはCDリリース前の2004年の夏の川崎クラブチッタでのライブの時だったが、こうして12年経って、全国ツアーの東京でのワンマンでこうしてこの曲を聴けているというのがどれだけ幸せなことだろうか。
再び峯田のみの弾き語りで演奏された「新訳 銀河鉄道の夜」では
「中央線を乗り換え 中野で降ります」
の歌詞を「お台場で降ります」に変えて大歓声を浴びる。GOING STEADY時代から何度もバージョンが変わっていて、自分は最初のバージョンが1番好きなのだが、こうしてこの曲をライブで聴いて、
「ハロー 今君に素晴らしい世界が見えますか」
と、バージョンが変わってもずっと変わらないこのフレーズを歌われると、この曲のように変わってきたことや、長い年月を経ても変わらなかったことが頭の中に浮かんできてしまう。
そのまま弾き語りで歌い始めた「光」では途中でバンドが合流し、そこで峯田がアコギを手放し、ハンドマイク状態で歌唱。曲自体は決して速い曲ではないが、轟音サウンドをメンバーが奏でる中、峯田は暴れまくり、ステージ上で倒れてそのまま寝転がったりしながら歌い、まさに「光」を求めるように最後にはじっと天井を見つめる。
「何度ももうダメなのかって思う時もあった。でもそう思った時にあんたらの声が俺をこうしてこのステージに立たせてくれている」
と、家族以上に深い関係性だったメンバーが全員去っていってもこのステージに立つことを選んだ峯田の心境を語り、その峯田が自分自身と、今でも峯田の存在と峯田の作る音楽に救いを求めてこうしてここに集った、情けない男たちに対して捧げるようにして歌った「ボーイズ・オン・ザ・ラン」は、リリースから今までに聴いた中で最も感動的だったし、この曲の真価にこの日ようやく気づけた気がする。
そして最後に演奏されたのは、打ち込みも使いながら、山本のギターが美しいメロディを奏でる「僕たちは世界を変えることができない」。間奏では峯田がメンバーと自分自身を紹介したが、きっとここにいた人たちは、音楽で世界を変えることはできなくても、銀杏BOYZの音楽で自分の世界が変わったということは痛いくらいに自覚しているはず。
アンコールではバンドメンバーとともに登場し、このツアーのファイナルの中野サンプラザでの再会を約束すると、照明をオレンジ色にするように指示して、打ち込みのリズムに生バンドの演奏が加わったロマンチックな「ぽあだむ」。PVの内容もそうだが、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」と対照的なキラキラした曲である。
後藤と山本が客席に一礼してステージを去ると、峯田と藤原によるカラオケ状態での「愛してるってゆってよね」を峯田が暴れ回りながら歌い、壮大な余韻を残したまま、銀杏BOYZの8年ぶりの全国ツアーの幕開けとなった。
内容的には再始動後のライブの集大成という感じだったが、ここまで、いろんなことがあった。メンバーはいなくなったし、一人きりでライブをしたこともあった。でもやっぱりこうして銀杏BOYZがライブをやって、峯田さんが自分の目の前で歌っている。それだけで今日まで生きていて良かったと思える。
最後にワンマンを見てから9年、初ワンマンの渋谷公会堂から12年。なんとなく大人になってしまった自分には、もはや曲が良いとかそういう問題ではなく(もちろんきっかけはそこだったけれど)、峯田和伸という男に自分の人生を救われてしまった、という感覚が今でもずっと消えないからこそ、どんなにお互いの環境や状況が変わっても、結局この人の作る音楽から逃れることはできないし、この人の言葉の一言、行動の一瞬たりとも逃したくはない。それはきっと、これからどんなことが起ころうとも、死ぬまで変わらないはず。また、ツアーの最後に東京で。
1.人間
2.生きたい
3.若者たち
4.まだ見ぬ明日に
5.大人全滅
6.17才
7.ピンクローター
8.佳代
9.べろちゅー
10.骨
11.夢で逢えたら
12.あいどんわなだい
13.BABY BABY
14.漂流教室
15.東京
16.新訳 銀河鉄道の夜
17.光
18.ボーイズ・オン・ザ・ラン
19.僕たちは世界を変えることができない
encore
20.ぽあだむ
21.愛してるってゆってよね
生きたい
https://youtu.be/9YcNQXY2wa8
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