KOTORI 「DREAM MATCH 2022」 対バン:くるり @Zepp DiverCity 10/21
- 2022/10/22
- 12:11
3月にハルカミライ、Hump Back、FOMARE、KOTORIの4組で開催された日本武道館での「今日も最初で最後。」で1番大きなインパクトを残したのはKOTORIだった。規模的には最も武道館とは遠いバンドが、このライブを全編映像化して欲しいと思うような素晴らしいライブをやりきった、横山優也(ボーカル&ギター)の全力ガッツポーズまでしっかり覚えている。
そんなKOTORIはその武道館ライブ後にも本拠地と言えるような小さなライブハウスでライブを重ねながら、3ヶ月連続で新曲をリリース。その最新作である「こころ」をプロデュースした岸田繁のくるりを招いて開催されるのがこの日の対バンライブ「DREAM MATCH」である。何ヶ月か前までは誰がこの2組での対バンを想像していただろうかという意味でも確かにDREAM MATCHである。
・くるり
ステージ背面にはこの日のタイトルの「DREAM MATCH」という文字が少しボヤけたような字体の幕がかかる中で、19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、くるりのメンバーがステージに登場。この日はもはやおなじみの松本大樹(ギター)と野崎泰洋(キーボード)に加えて、氣志團万博でのライブにも参加していた、これまでに何度となくくるりのライブを支えてきた、あらきゆうこがドラムという5人編成。
この日はKOTORI主催のライブということもあり、客席にはくるりの普段のライブにはまずいないような若い世代の観客も多く、それはなかなかバンドにとってはアウェーな状況とも言えるのであるが、そんな空気をバンドの鳴らす音で吹き飛ばそうとするように、岸田繁(ボーカル&ギター)の絶唱が響く「街」で幕を開ける。自分たちが主催するフェス「京都音博」を経たばかりというタイミングであるだけに、近年はそこまでライブが多いわけではないが、岸田のボーカルは実に安定感を感じさせる。もちろんその
「この街は僕のもの」
にはロックバンドとしての衝動も確かに感じられるのだが、そこにベテランとしての経験と安定感が合わさっていることにより、この1曲目の時点ですでに「やっぱりレベルが違うな」と思わせてくれる。
そんな絶唱を見せた岸田がギターを刻むと、それは何と2曲目にしてメジャーデビュー曲であり至高の名曲である「東京」。
「君が素敵だったこと
忘れてしまったこと」
という1コーラス目のサビ終わりのフレーズで岸田は思いっきり伸ばすように歌っていたのも今の自分の歌唱の調子の良さをわかっていたからかもしれないが、佐藤征史(ベース)と野崎によるアウトロでのコーラスが、東京のライブ会場でこの「東京」を聴いているという切なさを加速させる。それはここにいる人はもちろん、東京をテーマにした曲を歌ってきたKOTORIへのメッセージでもあるはずだ。
さらには野崎の美しいピアノの音が体と心に沁み渡る「ばらの花」と、驚くほどの代表曲にして名曲の連打に次ぐ連打っぷり。その美しいメロディに少しずつ観客の体が揺れる、この曲に浸っているということが伝わってくる。あらきゆうこの正確なキメを打つリズムも、これまでに様々な人が参加したライブを見てきたけれど、やはり自分はこの人が叩くくるりのドラムが1番好きかもしれないと思う。
岸田がアコギに持ち替えると、そのアコギによるイントロの音色が流れただけで客席からは腕が上がるのは「ハイウェイ」という、いつからこんなに初見の人に優しく、わかりやすくなったんだという選曲が続く。かつて映画のタイアップにもなった曲であるが、世代的にもその映画が近年アニメ化したことによって、実写映画を見てこの曲と出会ったという人も少なからずいるんじゃないかと思ったが、ここまでの曲を聴いているとどうにも旅に出たくなってしまうのがくるりの名曲が持つ魔力だ。この曲は交通量が少ないのどかな高速道路で車を走らせたくなる。
「どうもこんばんは、初めましての人もたくさんいるやろうけど、くるりです。名前が3文字のバンド繋がりで呼んでもらいまして(笑)
KOTORIの名前の由来をWikipediaで調べたら、そういうことかと。我々も友達に「くるり」っていう人がいて、そこから取ったんで同じ由来ですね(笑)
3文字バンドとして親戚のお兄さんみたいな感じでよろしくお願いします」
と、知らない人がその由来を本当に信じたらどうするんだと思ってしまうようなMCを挟むのも、この余裕がベテランになったんだな〜と思うけれど、そんなすっかりベテランとなったくるりは今年の夏に立て続けに新曲をリリースしており、その中からやはり野崎のピアノの美しいサウンドが、曲全体のメロディをさらに美しく輝かせる「八月は僕の名前」を披露。なかなかライブでこうして新曲を聴く機会も少なくなっているだけに、この曲を聴くことができたのは本当に嬉しい。それはこの曲が「くるりはやっぱり良い曲ばかり作るよな〜」と思わせてくれるような、新たなくるりの名曲だからである。
岸田がギターを置くと、松本によるハードロック的なギター(もともと松本はくるり参加前からそうしたシーンの中で活動してきたギタリストだ)を鳴らしまくり、そこだけ聴いたらどんなロックな曲が来るのかと思いきや、妖しい照明に照らされながら岸田が歌い始めたのは「琥珀色の街、上海蟹の朝」であり、明らかに曲を演奏するごとに観客をくるりの世界に引き込んでいる。それは安定感抜群の鉄壁の演奏によるものでもあるのだが、客席ではこの曲演奏時には恒例になっている、カニを模したピースサインを掲げる観客もそこそこいたことから、くるりを普段から聴いていたり、ライブに来ている人もこの日の客席にいたんだなということがわかる。
岸田「KOTORIの「こころ」という曲を私がプロデュースさせていただきまして。その時にメンバーとよく話していたんですが、KOTORIのメンバーは本当に良い子たちですね。若手バンドでこんなに良い子たちとはって思うくらいに良い子。自分の若手時代の悪態っぷりを悔いましたね(笑)」
佐藤「今更になって悔いますか(笑)」
という2人の掛け合いの流れるような自然さはその若手時代から25年間も一緒にバンドをやってきた間柄だからこその呼吸のようなものを感じさせるが、そんな岸田がギターを掻き鳴らして、光が射し込むような照明が光った瞬間に多くの観客が腕を掲げる「ロックンロール」が演奏された頃にはライブ開始時のアウェー感はすっかりなくなっていた。あらきゆうこが牽引する、年齢を重ねても正確さも力強さも全く変わることがないドラムのビートが、くるりをカッコいいロックバンドたらしめている。それがここにいる人にしっかり伝わっているということがよくわかる。
さらにはかつてファンファンや吉田省念というメンバーたちが加わった時代のテーマソングと言えるような曲だった「everybody feels the same」と、さらにサウンドはロックさを強めていくのであるが、
「2012年の冬 悲しみは吹雪の向こうから」
というフレーズで佐藤が岸田のボーカルにコーラスを重ねると、この曲がリリースされてからもう10年も経つのかと思うとともに、2011年の東日本大震災から復興していこうという時にこの曲をよく聴いていたこと、よく流れていたことを思い出す。そうやってくるりの音楽に支えられてきたんだなということも。間奏ではクールな松本がステージ前に出てきてギターを弾き倒しまくり、そのギターソロを弾き終わると観客に促すように手拍子をする。そうして観客が一つになっていくところにやってくる、タイトルの「everybody feels the same」のメンバーたちによる合唱。確かにこの時、我々は同じことを感じていたはずだ。くるりのライブが、音楽が最高だということを。
そんなくるりが最後に演奏したのは、素朴なサウンドとメロディが聴き手それぞれの脳裏に情景を思い浮かばせてくれる「潮風のアリア」。それは人によってはこのお台場の海かもしれないし、冷たい日本海や太陽の光が射す太平洋かもしれない。その様々なイメージを描き出すメロディの力こそがくるりの音楽の醍醐味だ。それを改めて味合わせてくれる、これが対バン側のライブでいいのかと思うくらいに贅沢な時間だった。
こうしてKOTORIの主催ライブというシチュエーションでくるりのライブを見て思うのは、KOTORIは音楽的に進化と深化を果たした昨年のアルバム「We Are The Future」で、くるりのような音楽をやろうとしていたんじゃないかということだ。それくらいに、今でもくるりはたくさんのバンドに影響を与え続けているし、15年以上ライブを見てきた中で今のくるりが1番ライブが良いと思うくらいに、くるり自身も進化を続けている。
1.街
2.東京
3.ばらの花
4.ハイウェイ
5.八月は僕の名前
6.琥珀色の街、上海蟹の朝
7.ロックンロール
8.everybody feels the same
9.潮風のアリア
・KOTORI
そんなリスペクトするくるりのライブが終わり速やかな転換を経て、きのこ帝国の「明日にはすべてが終わるとして」がBGMで流れる中で場内が暗転すると、メンバーがステージに登場。実に自然体な登場の仕方であるが、曲タイトルに合わせたかのように鮮やかな金髪になった細川千弘(ドラム)の思いっきりぶっ叩くドラムを合図に、横山と上坂仁志(ギター)のギターが轟音を鳴らす「GOLD」がスタートするのだが、京都大作戦の時に聴いた時などはただひたすら轟音サウンドを鳴らす曲というイメージだったのが、横山のボーカルがその轟音に消されないどころか、その音を上回るくらいに高らかに響く。もうこの瞬間にKOTORIがまた飛躍的な進化を果たしたことがよくわかる。光に照らされるように真っ白な照明を背に受けながら、
「KOTORIです。よろしくお願いします。最高の日にしましょう!」
と横山の挨拶を挟むと、タイトル通りに照明の色が黄金へと変化していく。それはこうした大きな規模で派手に演出が使えるからこそのものだ。
「今夜 祝杯をあげよう」
という宣誓であるかのような歌詞の「GOLD」でスタートすると、「1995」「unity」とバンドの持つ衝動を炸裂させるようなアッパーなロックサウンドの曲が続くのであるが、細川のドラムの手数と強さを兼ね備えた凄まじさには何度見ても惚れ惚れしてしまうのだが、その叩く姿の体幹というか、体の芯がどっしりとしていて、腕がしなやかに振り下ろされる叩き方は見ていて実に美しいと思ってしまう。そうした見た目も含めて本当にこの世代随一の超人ドラマーだなと思う。
「くるり、ヤバくなかったですか?あんなライブが見れるなんてもうご褒美ですよ。くるりを初めて見たのもこの会場だったんです。あの時見ていた自分には今の自分を誇れることができます!あの頃の自分に!」
と、横山が本当に嬉しそうかつ感無量といった感じでくるりと対バンできた喜びを語ると、
「東京にやってきました
特に何も言うことはないが
東京の空の星は
思ったよりもよく見えるので
あいつに教えてあげようと思ったけど
なんだか恥ずかしくなってしまって
冷たい右手でたばこに火をつけた」
という歌い出しの「たばこ」の銘柄がタイトルになっている「ラッキーストライク」はくるりの「東京」(とフジファブリックの「茜色の夕日」)へのアンサー的な歌詞として書かれたんじゃないかと思えるし、そうした影響こそがKOTORIの音楽が持つメロディの美しさに表れているんじゃないかと思う。
なので上坂のギターが勢いだけではない構築的な響きを鳴らすことによって、ポップかつキャッチーでありながらもこのバンドの演奏力の見事さを示す「春一番」のアウトロから細川がそのままイントロへと繋ぐようなライブアレンジを施した「オリオン」は春から冬へと季節が逆戻りするかのように感じさせるものである。
「真夏のピークはいつの間にか去っていた 最後の夏でした」
「金木犀の匂いのせいで思い出した 最後の夏でした」
というフレーズたちはどうしたってかつて山内総一郎がくるりのサポートギターを務めていたこともあるフジファブリック「若者のすべて」「赤黄色の金木犀」という曲たちを思い出させる。この曲に潜む切なさもそれらの曲と通じるものであるだけに、こうしてくるりと対バンしたように、いつかKOTORIがフジファブリックと対バンする日も来るんだろうかと思う。
序盤は掻き鳴らすように弾いていた上坂が爪弾くようにイントロでギターを弾いて始まるのは客席で無数の拳が挙がる「トーキョーナイトダイブ」。それはこのZepp DiverCityが東京の都心と言ってもいい商業施設の地下にあるライブハウスという、どこか潜っているような感覚にもなる場所であり、そこでこうして夜にKOTORIのライブを見ているからこそハマるような感覚が確かにあった。その感覚を鮮やかな真っ青な照明が後押ししていたのだが、本当に横山はボーカルが格段にレベルアップしているなとこの曲のサビでの伸びやかな歌唱を聴いていると実感せざるを得ない。
そんな横山の、KOTORIの歌詞面での進化というか、より自分たちが今思っていること、歌にしたいことをそのまま歌にしたのが、
「遠くの国では鉄の雨が降って
泣き叫ぶ人はテレビの中
変わり果てた僕らの日常は
顔も見えないまままたさようなら」
という、ロシアとウクライナの争いを受けて書かれたであろうけれど、その問題が起こる前や、これから数十年後に聴いても詩的な表現の歌詞だと受け止められるようなものに落とし込んだ「ツバメ」なのだが、KOTORIがこうした歌詞を書くようになったのが個人的には実に嬉しかったりする。それは彼らが我々と同じようにニュースを見ては胸を痛め、それをなんとかしたくてもどうすることもできない、市井に生きる1人の人間であると感じさせつつも、音楽家として自分たちが今歌わなければならないテーマをしっかり自分たちの音楽にしているからだ。
「ツバメになって空を飛んで
この目で遠くまで見れたら
本当のことさえわかれば
いつかは笑えるかな
君を守れるかな」
シンプルと言っていいくらいにストレートなギターロックサウンドに乗せられたこの最後のサビの歌詞は紛れもなくKOTORIというバンドの世界への祈りだ。それはスマホの中からイヤホンを通して聴くのではなくて、ライブという目の前で音を鳴らしている姿を見れるからこそ感じられる体温や感情が確かにあるからそう思うのだ。
細川が手数の多いドラムを連打する、ライブではおなじみの「羽」では間奏で佐藤知己によるベースソロも挟まれるのだが、決して音階的に動きまくるようなベーシストではないけれど、そのソロでのルート弾きでありながらも独特のグルーヴを埋めるこの男の存在は地味ながらも実に大きい。この日はやらなかったが、曲によってはトランペットも吹いたりもするし、何よりも超人ドラマーと言えるくらいに凄まじい細川のドラムとリズム隊としてコンビを組んで、そのドラムに埋もれることなく横山の歌を引き立てるベースを弾くことができるからだ。その絶妙なバランスはこの4人でのバンドだからこそ、こんなにも凄まじいライブができていると言ってもいいだろう。
するとアコギに持ち替えた横山が
「ここで特別ゲスト」
と言って呼び込んだのは、やはりくるりの岸田繁で、ギターを持って登場した岸田とともに演奏したのはもちろん岸田プロデュースの「こころ」なのだが、その横山の歌唱を聴いて冒頭に「KOTORIがまた進化したな」と思えた理由がわかった。それはやはりこの曲が生まれたこと、岸田と出会えたことが本当に大きいのだ。それくらいにシンプルかつ穏やかなサウンド、ビートの曲だけに横山のボーカルが何よりも大事な曲になる。MUSICAのインタビューでも横山が口にしていたように、岸田と出会って「歌が曲の中心なんだなってわかった」という通りに、横山の歌がバンドの、KOTORIの曲の中心になったということがバンドの進化の最大の要因だ。
しかしアウトロでは岸田がブルージーなギターソロを弾きまくると、そのギターおじさんっぷりが上坂に乗り移ったかのように2人が顔を見合わせながらギターを弾く。そのギター2人を見ている横山、細川、佐藤の3人の笑顔も、誰よりもメンバーがこの機会を楽しんでいた。意外な組み合わせだと思ったKOTORIとくるりの邂逅はもしかしたらこれまでで最もKOTORIに大きな影響を与えることになるかもしれないと思っていた。
そうしてギターを弾き倒した岸田がステージを去ると横山が
「自分たちで言うのもなんですけど、岸田さんと一緒に曲を作って結構仲良くなれて。下ネタの話とかもできるようになったら「エロ小僧」って言われたり、「こころ」の上坂のギターソロを聴いて「ブチギレ童貞の逆襲」って言われたり(笑)ここからはそんな、エロ小僧・ブチギレ童貞の逆襲的なライブをやります!」
と気合いを入れるようにすると、そのメンバーの気合いが真っ赤な照明として輝くような「RED」で横山の弾き語り的に始まってから曲中で一気にバンドの演奏が勢いを増していく。その勢いを牽引する細川のドラムもより手数と強さと速さを増していく。完全にドラムの鬼神のようなオーラを放っている。
「働いてる皆さん、1週間お疲れ様でした!」
と横山が言葉を挟むと、
「戦う君へこの歌が
この歌が届けばいい」
というフレーズが1週間社会と戦ってきた観客たちを労うように響く「EVERGREEN」へ。もちろん照明は鮮やかかつ慈悲深さを感じさせるような緑色に変化する。こうした演出は色を曲タイトルにしてきたKOTORIだからこそ映える演出であるし、特別派手なものではないけれど最大限に曲の力を引き出しているものである。
そして横山がギターを弾きながら
「心のずっと奥の方 ずっとずっと奥の方」
と歌ってから演奏されたのは「ジャズマスター」。そのフレーズを聴いて、これまでにも「心の中」をテーマにしてきた曲を歌ってきたバンドだからこそ「こころ」のような名曲を作ることができたんだなと思った。そうして名曲がさらなる名曲を呼ぶ。それはこれからもKOTORIがさらなる名曲を生み出していく期待を抱かせるが、「GREEN」のシングルに収録されているこの曲のライブ音源では冒頭に横山が歌ったフレーズで観客が大合唱している声が入っている。今その音源を聴くと泣きそうになってしまうのは、まだそうした声を響かせることができないからだ。だから横山は全力で自分の声を響かせる。聴いている人の心のずっと奥の方までしっかり響かせるように。
そのまま細川が曲と曲を繋ぐようにビートを刻むと、それだけで何の曲なのかわかった観客たちが一斉に飛び跳ねまくる。武道館でも大きなハイライトになった曲である「素晴らしい世界」なのだが、音源よりもはるかに速く轟音になった、ロックバンドの楽器の音のカッコ良さが溢れ出るこの曲であっても、横山の進化したボーカルがど真ん中にいる。というかただでさえ名曲中の名曲であるこの曲が、横山の歌唱力の大幅な向上によってさらに真価を発揮している。だから曲全体の完成度がさらに高くなっているのだが、間奏でその横山が
「明日ワンマンやるんですけど、もう喉が潰れて声が出なくなってもいいっていうくらいに思いっきり歌います!」
と言って突入した最後のサビではさらに歌唱に力が入る。それはただ腕を上げるだけしかできないのが悔しくなるくらいに、もっと体でこの音に反応したいくらいの衝動を掻き立てられた。
「最高な時は訪れる 気付いた時には終わっているけど
まあそれくらいがちょうどいい 素晴らしい世界だ」
というフレーズが、まさにこの瞬間そのものを歌っているかのように響いた。この歌声とバンドの音さえあれば、もっと広い場所でここが素晴らしい世界だと感じられるようにきっとなれると思った。
そしてやはり細川が今度は雄大な、どっしりとしたビートを鳴らすと横山が
「今はもうちょっと我慢して頑張ろう。もうちょっとしたらまたみんなでこの曲を歌うことができるように。それまでは俺が歌うから!」
と言って演奏された「We Are The Future」。直前までの曲のように激しい曲というわけではない。それでもたくさんの人が腕を上げる。それは
「音楽で大切なものを守れますように」
と歌うこの曲を、KOTORIの意志を観客がちゃんと理解しているからだ。「こころ」もそうだけれど、今のKOTORIにはアッパーなサウンドの曲だけではなく、こうした歌を軸にしたタイプの曲にも等しくエモーションを込めることができている。それはどんな曲であってもこの4人が歌い、鳴らせばそれがKOTORIのロックになるという域に今のバンドが達しているということだ。こんなに凄まじいバンドになるなんて出会った当時は全く思ってなかった。だからこそより一層この日のライブに感動していた。
アンコールでは佐藤が1人だけ遅れてステージに出てきたことによって横山が
「佐藤に物販紹介やらせよう(笑)くるりのアンコールでの物販紹介見たことあります?佐藤さん(どっちのバンドもベースが佐藤なのが実にややこしい)が物販紹介するんですけど、それに反応する岸田さんとのやり取りが2人のラジオを聴いてるみたいでめちゃくちゃ良いんですよ」
と言ってる間に佐藤が出てくるのだが、なんとくるりの佐藤(やっぱりややこしい)が着ていたTシャツを着て出てくるのだが、それがちゃんとこの日のライブTシャツであるということで、佐藤はステージ前に出てきて観客の近くで見せようとするが、
「前に出てきても見えないから(笑)」
と横山に軽く制され、その横山は
「佐藤さん(最後までややこしい)が「最前列にJKがいるなんて20年以上ぶりや!」って言ってたけど、君たちか!めちゃくちゃ喜んでたからまた一緒にやる時に来てね!」
と最前列の制服を着た2人組の女性に語ると、
「明日もここでワンマンやります。いっぱい曲やるんで、今日はあと1曲だけやって帰ります。ありがとうございました!」
と言って演奏されたのは、武道館でも最後に演奏された際の映像が大きな話題を呼んだ「YELLOW」。曲の途中から照明の色がタイトル通りに変わる「GOLD」とは対照的に、轟音が鳴らされた瞬間から黄色の照明がメンバーを照らす。その逆光に照らされるようなシルエットがそのままこのバンドが発するオーラであるかのように感じられる。それくらいにこの曲でこのバンドが鳴らしている音は特別な力を発揮している。轟音にこそ感情が宿るということをわかっているかのように。アウトロで横山がギターを置くと、指揮者のようにカウントをして、そのカウントに合わせてバンドがキメを打つ。カウントが0になった瞬間にステージが暗闇に包まれ、その間に横山はステージを去っている。そのこの曲だからこその去り際が放心するくらいにカッコよかったのだった。
横山は翌日のワンマンについて
「まだ結構チケットあるんで入れます(笑)」
と言っていた。自分自身翌日は別のライブに行くのでワンマンを見ることができないのだが、まだZeppが埋まるような集客力には至っていないということだろう。ただその鳴らしている音、ライブでの凄まじさはこのZepp規模のさらに先のステージや、あらゆるフェスのメインステージにこのバンドが立っていてもおかしくないと思えるくらいだ。というか、そうしたもっと広いステージでこのバンドを見たくなる。
Instagramなどで夜に野外で酒を飲んでるだけの写真に添えられるような「エモい」とは全く意味合いが異なる、「エモい」というのはKOTORIのライブ、このバンドが鳴らしている音のことを言うのだ、と言いたくなるくらいに、今のKOTORIはロックバンドのエモーションをこれ以上ないくらいに体感させてくれる。気付いた時には終わっていた、本当にあっという間の素晴らしい時間だった。
1.GOLD
2.1995
3.unity
4.ラッキーストライク
5.春一番
6.オリオン
7.トーキョーナイトダイブ
8.ツバメ
9.羽
10.こころ w/ 岸田繁
11.RED
12.EVERGREEN
13.ジャズマスター
14.素晴らしい世界
15.We Are The Future
encore
16.YELLOW
そんなKOTORIはその武道館ライブ後にも本拠地と言えるような小さなライブハウスでライブを重ねながら、3ヶ月連続で新曲をリリース。その最新作である「こころ」をプロデュースした岸田繁のくるりを招いて開催されるのがこの日の対バンライブ「DREAM MATCH」である。何ヶ月か前までは誰がこの2組での対バンを想像していただろうかという意味でも確かにDREAM MATCHである。
・くるり
ステージ背面にはこの日のタイトルの「DREAM MATCH」という文字が少しボヤけたような字体の幕がかかる中で、19時を少し過ぎたあたりで場内が暗転すると、くるりのメンバーがステージに登場。この日はもはやおなじみの松本大樹(ギター)と野崎泰洋(キーボード)に加えて、氣志團万博でのライブにも参加していた、これまでに何度となくくるりのライブを支えてきた、あらきゆうこがドラムという5人編成。
この日はKOTORI主催のライブということもあり、客席にはくるりの普段のライブにはまずいないような若い世代の観客も多く、それはなかなかバンドにとってはアウェーな状況とも言えるのであるが、そんな空気をバンドの鳴らす音で吹き飛ばそうとするように、岸田繁(ボーカル&ギター)の絶唱が響く「街」で幕を開ける。自分たちが主催するフェス「京都音博」を経たばかりというタイミングであるだけに、近年はそこまでライブが多いわけではないが、岸田のボーカルは実に安定感を感じさせる。もちろんその
「この街は僕のもの」
にはロックバンドとしての衝動も確かに感じられるのだが、そこにベテランとしての経験と安定感が合わさっていることにより、この1曲目の時点ですでに「やっぱりレベルが違うな」と思わせてくれる。
そんな絶唱を見せた岸田がギターを刻むと、それは何と2曲目にしてメジャーデビュー曲であり至高の名曲である「東京」。
「君が素敵だったこと
忘れてしまったこと」
という1コーラス目のサビ終わりのフレーズで岸田は思いっきり伸ばすように歌っていたのも今の自分の歌唱の調子の良さをわかっていたからかもしれないが、佐藤征史(ベース)と野崎によるアウトロでのコーラスが、東京のライブ会場でこの「東京」を聴いているという切なさを加速させる。それはここにいる人はもちろん、東京をテーマにした曲を歌ってきたKOTORIへのメッセージでもあるはずだ。
さらには野崎の美しいピアノの音が体と心に沁み渡る「ばらの花」と、驚くほどの代表曲にして名曲の連打に次ぐ連打っぷり。その美しいメロディに少しずつ観客の体が揺れる、この曲に浸っているということが伝わってくる。あらきゆうこの正確なキメを打つリズムも、これまでに様々な人が参加したライブを見てきたけれど、やはり自分はこの人が叩くくるりのドラムが1番好きかもしれないと思う。
岸田がアコギに持ち替えると、そのアコギによるイントロの音色が流れただけで客席からは腕が上がるのは「ハイウェイ」という、いつからこんなに初見の人に優しく、わかりやすくなったんだという選曲が続く。かつて映画のタイアップにもなった曲であるが、世代的にもその映画が近年アニメ化したことによって、実写映画を見てこの曲と出会ったという人も少なからずいるんじゃないかと思ったが、ここまでの曲を聴いているとどうにも旅に出たくなってしまうのがくるりの名曲が持つ魔力だ。この曲は交通量が少ないのどかな高速道路で車を走らせたくなる。
「どうもこんばんは、初めましての人もたくさんいるやろうけど、くるりです。名前が3文字のバンド繋がりで呼んでもらいまして(笑)
KOTORIの名前の由来をWikipediaで調べたら、そういうことかと。我々も友達に「くるり」っていう人がいて、そこから取ったんで同じ由来ですね(笑)
3文字バンドとして親戚のお兄さんみたいな感じでよろしくお願いします」
と、知らない人がその由来を本当に信じたらどうするんだと思ってしまうようなMCを挟むのも、この余裕がベテランになったんだな〜と思うけれど、そんなすっかりベテランとなったくるりは今年の夏に立て続けに新曲をリリースしており、その中からやはり野崎のピアノの美しいサウンドが、曲全体のメロディをさらに美しく輝かせる「八月は僕の名前」を披露。なかなかライブでこうして新曲を聴く機会も少なくなっているだけに、この曲を聴くことができたのは本当に嬉しい。それはこの曲が「くるりはやっぱり良い曲ばかり作るよな〜」と思わせてくれるような、新たなくるりの名曲だからである。
岸田がギターを置くと、松本によるハードロック的なギター(もともと松本はくるり参加前からそうしたシーンの中で活動してきたギタリストだ)を鳴らしまくり、そこだけ聴いたらどんなロックな曲が来るのかと思いきや、妖しい照明に照らされながら岸田が歌い始めたのは「琥珀色の街、上海蟹の朝」であり、明らかに曲を演奏するごとに観客をくるりの世界に引き込んでいる。それは安定感抜群の鉄壁の演奏によるものでもあるのだが、客席ではこの曲演奏時には恒例になっている、カニを模したピースサインを掲げる観客もそこそこいたことから、くるりを普段から聴いていたり、ライブに来ている人もこの日の客席にいたんだなということがわかる。
岸田「KOTORIの「こころ」という曲を私がプロデュースさせていただきまして。その時にメンバーとよく話していたんですが、KOTORIのメンバーは本当に良い子たちですね。若手バンドでこんなに良い子たちとはって思うくらいに良い子。自分の若手時代の悪態っぷりを悔いましたね(笑)」
佐藤「今更になって悔いますか(笑)」
という2人の掛け合いの流れるような自然さはその若手時代から25年間も一緒にバンドをやってきた間柄だからこその呼吸のようなものを感じさせるが、そんな岸田がギターを掻き鳴らして、光が射し込むような照明が光った瞬間に多くの観客が腕を掲げる「ロックンロール」が演奏された頃にはライブ開始時のアウェー感はすっかりなくなっていた。あらきゆうこが牽引する、年齢を重ねても正確さも力強さも全く変わることがないドラムのビートが、くるりをカッコいいロックバンドたらしめている。それがここにいる人にしっかり伝わっているということがよくわかる。
さらにはかつてファンファンや吉田省念というメンバーたちが加わった時代のテーマソングと言えるような曲だった「everybody feels the same」と、さらにサウンドはロックさを強めていくのであるが、
「2012年の冬 悲しみは吹雪の向こうから」
というフレーズで佐藤が岸田のボーカルにコーラスを重ねると、この曲がリリースされてからもう10年も経つのかと思うとともに、2011年の東日本大震災から復興していこうという時にこの曲をよく聴いていたこと、よく流れていたことを思い出す。そうやってくるりの音楽に支えられてきたんだなということも。間奏ではクールな松本がステージ前に出てきてギターを弾き倒しまくり、そのギターソロを弾き終わると観客に促すように手拍子をする。そうして観客が一つになっていくところにやってくる、タイトルの「everybody feels the same」のメンバーたちによる合唱。確かにこの時、我々は同じことを感じていたはずだ。くるりのライブが、音楽が最高だということを。
そんなくるりが最後に演奏したのは、素朴なサウンドとメロディが聴き手それぞれの脳裏に情景を思い浮かばせてくれる「潮風のアリア」。それは人によってはこのお台場の海かもしれないし、冷たい日本海や太陽の光が射す太平洋かもしれない。その様々なイメージを描き出すメロディの力こそがくるりの音楽の醍醐味だ。それを改めて味合わせてくれる、これが対バン側のライブでいいのかと思うくらいに贅沢な時間だった。
こうしてKOTORIの主催ライブというシチュエーションでくるりのライブを見て思うのは、KOTORIは音楽的に進化と深化を果たした昨年のアルバム「We Are The Future」で、くるりのような音楽をやろうとしていたんじゃないかということだ。それくらいに、今でもくるりはたくさんのバンドに影響を与え続けているし、15年以上ライブを見てきた中で今のくるりが1番ライブが良いと思うくらいに、くるり自身も進化を続けている。
1.街
2.東京
3.ばらの花
4.ハイウェイ
5.八月は僕の名前
6.琥珀色の街、上海蟹の朝
7.ロックンロール
8.everybody feels the same
9.潮風のアリア
・KOTORI
そんなリスペクトするくるりのライブが終わり速やかな転換を経て、きのこ帝国の「明日にはすべてが終わるとして」がBGMで流れる中で場内が暗転すると、メンバーがステージに登場。実に自然体な登場の仕方であるが、曲タイトルに合わせたかのように鮮やかな金髪になった細川千弘(ドラム)の思いっきりぶっ叩くドラムを合図に、横山と上坂仁志(ギター)のギターが轟音を鳴らす「GOLD」がスタートするのだが、京都大作戦の時に聴いた時などはただひたすら轟音サウンドを鳴らす曲というイメージだったのが、横山のボーカルがその轟音に消されないどころか、その音を上回るくらいに高らかに響く。もうこの瞬間にKOTORIがまた飛躍的な進化を果たしたことがよくわかる。光に照らされるように真っ白な照明を背に受けながら、
「KOTORIです。よろしくお願いします。最高の日にしましょう!」
と横山の挨拶を挟むと、タイトル通りに照明の色が黄金へと変化していく。それはこうした大きな規模で派手に演出が使えるからこそのものだ。
「今夜 祝杯をあげよう」
という宣誓であるかのような歌詞の「GOLD」でスタートすると、「1995」「unity」とバンドの持つ衝動を炸裂させるようなアッパーなロックサウンドの曲が続くのであるが、細川のドラムの手数と強さを兼ね備えた凄まじさには何度見ても惚れ惚れしてしまうのだが、その叩く姿の体幹というか、体の芯がどっしりとしていて、腕がしなやかに振り下ろされる叩き方は見ていて実に美しいと思ってしまう。そうした見た目も含めて本当にこの世代随一の超人ドラマーだなと思う。
「くるり、ヤバくなかったですか?あんなライブが見れるなんてもうご褒美ですよ。くるりを初めて見たのもこの会場だったんです。あの時見ていた自分には今の自分を誇れることができます!あの頃の自分に!」
と、横山が本当に嬉しそうかつ感無量といった感じでくるりと対バンできた喜びを語ると、
「東京にやってきました
特に何も言うことはないが
東京の空の星は
思ったよりもよく見えるので
あいつに教えてあげようと思ったけど
なんだか恥ずかしくなってしまって
冷たい右手でたばこに火をつけた」
という歌い出しの「たばこ」の銘柄がタイトルになっている「ラッキーストライク」はくるりの「東京」(とフジファブリックの「茜色の夕日」)へのアンサー的な歌詞として書かれたんじゃないかと思えるし、そうした影響こそがKOTORIの音楽が持つメロディの美しさに表れているんじゃないかと思う。
なので上坂のギターが勢いだけではない構築的な響きを鳴らすことによって、ポップかつキャッチーでありながらもこのバンドの演奏力の見事さを示す「春一番」のアウトロから細川がそのままイントロへと繋ぐようなライブアレンジを施した「オリオン」は春から冬へと季節が逆戻りするかのように感じさせるものである。
「真夏のピークはいつの間にか去っていた 最後の夏でした」
「金木犀の匂いのせいで思い出した 最後の夏でした」
というフレーズたちはどうしたってかつて山内総一郎がくるりのサポートギターを務めていたこともあるフジファブリック「若者のすべて」「赤黄色の金木犀」という曲たちを思い出させる。この曲に潜む切なさもそれらの曲と通じるものであるだけに、こうしてくるりと対バンしたように、いつかKOTORIがフジファブリックと対バンする日も来るんだろうかと思う。
序盤は掻き鳴らすように弾いていた上坂が爪弾くようにイントロでギターを弾いて始まるのは客席で無数の拳が挙がる「トーキョーナイトダイブ」。それはこのZepp DiverCityが東京の都心と言ってもいい商業施設の地下にあるライブハウスという、どこか潜っているような感覚にもなる場所であり、そこでこうして夜にKOTORIのライブを見ているからこそハマるような感覚が確かにあった。その感覚を鮮やかな真っ青な照明が後押ししていたのだが、本当に横山はボーカルが格段にレベルアップしているなとこの曲のサビでの伸びやかな歌唱を聴いていると実感せざるを得ない。
そんな横山の、KOTORIの歌詞面での進化というか、より自分たちが今思っていること、歌にしたいことをそのまま歌にしたのが、
「遠くの国では鉄の雨が降って
泣き叫ぶ人はテレビの中
変わり果てた僕らの日常は
顔も見えないまままたさようなら」
という、ロシアとウクライナの争いを受けて書かれたであろうけれど、その問題が起こる前や、これから数十年後に聴いても詩的な表現の歌詞だと受け止められるようなものに落とし込んだ「ツバメ」なのだが、KOTORIがこうした歌詞を書くようになったのが個人的には実に嬉しかったりする。それは彼らが我々と同じようにニュースを見ては胸を痛め、それをなんとかしたくてもどうすることもできない、市井に生きる1人の人間であると感じさせつつも、音楽家として自分たちが今歌わなければならないテーマをしっかり自分たちの音楽にしているからだ。
「ツバメになって空を飛んで
この目で遠くまで見れたら
本当のことさえわかれば
いつかは笑えるかな
君を守れるかな」
シンプルと言っていいくらいにストレートなギターロックサウンドに乗せられたこの最後のサビの歌詞は紛れもなくKOTORIというバンドの世界への祈りだ。それはスマホの中からイヤホンを通して聴くのではなくて、ライブという目の前で音を鳴らしている姿を見れるからこそ感じられる体温や感情が確かにあるからそう思うのだ。
細川が手数の多いドラムを連打する、ライブではおなじみの「羽」では間奏で佐藤知己によるベースソロも挟まれるのだが、決して音階的に動きまくるようなベーシストではないけれど、そのソロでのルート弾きでありながらも独特のグルーヴを埋めるこの男の存在は地味ながらも実に大きい。この日はやらなかったが、曲によってはトランペットも吹いたりもするし、何よりも超人ドラマーと言えるくらいに凄まじい細川のドラムとリズム隊としてコンビを組んで、そのドラムに埋もれることなく横山の歌を引き立てるベースを弾くことができるからだ。その絶妙なバランスはこの4人でのバンドだからこそ、こんなにも凄まじいライブができていると言ってもいいだろう。
するとアコギに持ち替えた横山が
「ここで特別ゲスト」
と言って呼び込んだのは、やはりくるりの岸田繁で、ギターを持って登場した岸田とともに演奏したのはもちろん岸田プロデュースの「こころ」なのだが、その横山の歌唱を聴いて冒頭に「KOTORIがまた進化したな」と思えた理由がわかった。それはやはりこの曲が生まれたこと、岸田と出会えたことが本当に大きいのだ。それくらいにシンプルかつ穏やかなサウンド、ビートの曲だけに横山のボーカルが何よりも大事な曲になる。MUSICAのインタビューでも横山が口にしていたように、岸田と出会って「歌が曲の中心なんだなってわかった」という通りに、横山の歌がバンドの、KOTORIの曲の中心になったということがバンドの進化の最大の要因だ。
しかしアウトロでは岸田がブルージーなギターソロを弾きまくると、そのギターおじさんっぷりが上坂に乗り移ったかのように2人が顔を見合わせながらギターを弾く。そのギター2人を見ている横山、細川、佐藤の3人の笑顔も、誰よりもメンバーがこの機会を楽しんでいた。意外な組み合わせだと思ったKOTORIとくるりの邂逅はもしかしたらこれまでで最もKOTORIに大きな影響を与えることになるかもしれないと思っていた。
そうしてギターを弾き倒した岸田がステージを去ると横山が
「自分たちで言うのもなんですけど、岸田さんと一緒に曲を作って結構仲良くなれて。下ネタの話とかもできるようになったら「エロ小僧」って言われたり、「こころ」の上坂のギターソロを聴いて「ブチギレ童貞の逆襲」って言われたり(笑)ここからはそんな、エロ小僧・ブチギレ童貞の逆襲的なライブをやります!」
と気合いを入れるようにすると、そのメンバーの気合いが真っ赤な照明として輝くような「RED」で横山の弾き語り的に始まってから曲中で一気にバンドの演奏が勢いを増していく。その勢いを牽引する細川のドラムもより手数と強さと速さを増していく。完全にドラムの鬼神のようなオーラを放っている。
「働いてる皆さん、1週間お疲れ様でした!」
と横山が言葉を挟むと、
「戦う君へこの歌が
この歌が届けばいい」
というフレーズが1週間社会と戦ってきた観客たちを労うように響く「EVERGREEN」へ。もちろん照明は鮮やかかつ慈悲深さを感じさせるような緑色に変化する。こうした演出は色を曲タイトルにしてきたKOTORIだからこそ映える演出であるし、特別派手なものではないけれど最大限に曲の力を引き出しているものである。
そして横山がギターを弾きながら
「心のずっと奥の方 ずっとずっと奥の方」
と歌ってから演奏されたのは「ジャズマスター」。そのフレーズを聴いて、これまでにも「心の中」をテーマにしてきた曲を歌ってきたバンドだからこそ「こころ」のような名曲を作ることができたんだなと思った。そうして名曲がさらなる名曲を呼ぶ。それはこれからもKOTORIがさらなる名曲を生み出していく期待を抱かせるが、「GREEN」のシングルに収録されているこの曲のライブ音源では冒頭に横山が歌ったフレーズで観客が大合唱している声が入っている。今その音源を聴くと泣きそうになってしまうのは、まだそうした声を響かせることができないからだ。だから横山は全力で自分の声を響かせる。聴いている人の心のずっと奥の方までしっかり響かせるように。
そのまま細川が曲と曲を繋ぐようにビートを刻むと、それだけで何の曲なのかわかった観客たちが一斉に飛び跳ねまくる。武道館でも大きなハイライトになった曲である「素晴らしい世界」なのだが、音源よりもはるかに速く轟音になった、ロックバンドの楽器の音のカッコ良さが溢れ出るこの曲であっても、横山の進化したボーカルがど真ん中にいる。というかただでさえ名曲中の名曲であるこの曲が、横山の歌唱力の大幅な向上によってさらに真価を発揮している。だから曲全体の完成度がさらに高くなっているのだが、間奏でその横山が
「明日ワンマンやるんですけど、もう喉が潰れて声が出なくなってもいいっていうくらいに思いっきり歌います!」
と言って突入した最後のサビではさらに歌唱に力が入る。それはただ腕を上げるだけしかできないのが悔しくなるくらいに、もっと体でこの音に反応したいくらいの衝動を掻き立てられた。
「最高な時は訪れる 気付いた時には終わっているけど
まあそれくらいがちょうどいい 素晴らしい世界だ」
というフレーズが、まさにこの瞬間そのものを歌っているかのように響いた。この歌声とバンドの音さえあれば、もっと広い場所でここが素晴らしい世界だと感じられるようにきっとなれると思った。
そしてやはり細川が今度は雄大な、どっしりとしたビートを鳴らすと横山が
「今はもうちょっと我慢して頑張ろう。もうちょっとしたらまたみんなでこの曲を歌うことができるように。それまでは俺が歌うから!」
と言って演奏された「We Are The Future」。直前までの曲のように激しい曲というわけではない。それでもたくさんの人が腕を上げる。それは
「音楽で大切なものを守れますように」
と歌うこの曲を、KOTORIの意志を観客がちゃんと理解しているからだ。「こころ」もそうだけれど、今のKOTORIにはアッパーなサウンドの曲だけではなく、こうした歌を軸にしたタイプの曲にも等しくエモーションを込めることができている。それはどんな曲であってもこの4人が歌い、鳴らせばそれがKOTORIのロックになるという域に今のバンドが達しているということだ。こんなに凄まじいバンドになるなんて出会った当時は全く思ってなかった。だからこそより一層この日のライブに感動していた。
アンコールでは佐藤が1人だけ遅れてステージに出てきたことによって横山が
「佐藤に物販紹介やらせよう(笑)くるりのアンコールでの物販紹介見たことあります?佐藤さん(どっちのバンドもベースが佐藤なのが実にややこしい)が物販紹介するんですけど、それに反応する岸田さんとのやり取りが2人のラジオを聴いてるみたいでめちゃくちゃ良いんですよ」
と言ってる間に佐藤が出てくるのだが、なんとくるりの佐藤(やっぱりややこしい)が着ていたTシャツを着て出てくるのだが、それがちゃんとこの日のライブTシャツであるということで、佐藤はステージ前に出てきて観客の近くで見せようとするが、
「前に出てきても見えないから(笑)」
と横山に軽く制され、その横山は
「佐藤さん(最後までややこしい)が「最前列にJKがいるなんて20年以上ぶりや!」って言ってたけど、君たちか!めちゃくちゃ喜んでたからまた一緒にやる時に来てね!」
と最前列の制服を着た2人組の女性に語ると、
「明日もここでワンマンやります。いっぱい曲やるんで、今日はあと1曲だけやって帰ります。ありがとうございました!」
と言って演奏されたのは、武道館でも最後に演奏された際の映像が大きな話題を呼んだ「YELLOW」。曲の途中から照明の色がタイトル通りに変わる「GOLD」とは対照的に、轟音が鳴らされた瞬間から黄色の照明がメンバーを照らす。その逆光に照らされるようなシルエットがそのままこのバンドが発するオーラであるかのように感じられる。それくらいにこの曲でこのバンドが鳴らしている音は特別な力を発揮している。轟音にこそ感情が宿るということをわかっているかのように。アウトロで横山がギターを置くと、指揮者のようにカウントをして、そのカウントに合わせてバンドがキメを打つ。カウントが0になった瞬間にステージが暗闇に包まれ、その間に横山はステージを去っている。そのこの曲だからこその去り際が放心するくらいにカッコよかったのだった。
横山は翌日のワンマンについて
「まだ結構チケットあるんで入れます(笑)」
と言っていた。自分自身翌日は別のライブに行くのでワンマンを見ることができないのだが、まだZeppが埋まるような集客力には至っていないということだろう。ただその鳴らしている音、ライブでの凄まじさはこのZepp規模のさらに先のステージや、あらゆるフェスのメインステージにこのバンドが立っていてもおかしくないと思えるくらいだ。というか、そうしたもっと広いステージでこのバンドを見たくなる。
Instagramなどで夜に野外で酒を飲んでるだけの写真に添えられるような「エモい」とは全く意味合いが異なる、「エモい」というのはKOTORIのライブ、このバンドが鳴らしている音のことを言うのだ、と言いたくなるくらいに、今のKOTORIはロックバンドのエモーションをこれ以上ないくらいに体感させてくれる。気付いた時には終わっていた、本当にあっという間の素晴らしい時間だった。
1.GOLD
2.1995
3.unity
4.ラッキーストライク
5.春一番
6.オリオン
7.トーキョーナイトダイブ
8.ツバメ
9.羽
10.こころ w/ 岸田繁
11.RED
12.EVERGREEN
13.ジャズマスター
14.素晴らしい世界
15.We Are The Future
encore
16.YELLOW
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