04 Limited Sazabys 「Harvest tour 2022」 ゲスト:Maki @千葉LOOK 10/18
- 2022/10/19
- 19:07
「最新作が最高傑作」というのは音楽雑誌などでよく使われる言い回しであるが、本当にその通りのアルバム「Harvest」をリリースした、04 Limited Sazabys。
そのリリースツアーの前半戦は小さいライブハウスでの対バンなのだが、以前ツアー開催発表時にGENがTwitterでも書いていた通りに、対バンは今までなかなかフォーリミと一緒にやっていないような若手バンドばかり。そこからもこのツアーが今までとは違うものになりそうなことが伝わってくる。
この日のゲストはMakiであるのだが、仕事が長引いて近い千葉LOOKといえど18時30分という早めの開演時間に間に合わず。最後の1曲しか聴くことが出来なかったが、それだけでもカッコいいバンドであることはわかるだけに、近いうちにちゃんとライブを見る機会を持ちたいと思う。
・04 Limited Sazabys
そしてフォーリミがツアー初日のステージへ。誰しもがほとんどの曲をライブで聴いていない「Harvest」の曲はどの曲がどのくらい演奏されるのか。そうした意味でも実に楽しみである。
転換が終わって場内が暗転すると、おなじみのSEがアナウンス的な部分から鳴ってメンバーが登場。RYU-TAとHIROKAZのギターコンビはステージの台の上に立って満員の客席の様子を眺める。その表情に感慨深さのようなものを感じるのは、キャパ100%になったことによって、ついこの間まではステージと客席の間にかなり距離を作っていたこの千葉LOOKが本来の近さになったからであり、GEN(ボーカル&ベース)も思わず出てきた瞬間に
「近ぇ」
と言って気恥ずかしそうに最前列の観客から目を背けるようにすると、KOUHEI(ドラム)を中心として目を合わせるようにバンドが勢いよく音を鳴らすと、「Harvest」の1曲目に収録されている「Every」でこのツアーは幕を開ける。やはり台の上に立ってギターを弾くRYU-TAと HIROKAZの表情からは、バンドを始めたばかりの少年のような音を出す喜びを感じさせる。GENは少し声がキツそうな感じが最初はしたのは、まだこのアルバムの曲での音の作り方、声の出し方を完璧に自分のものにできてないからだろうけれど、それこそがツアー初日である。アルバム自体が実に4年ぶりであるため、こうして新しい曲をたくさん演奏する初日も4年ぶりということだが、この日のメンバーはそんなプレッシャーをも心から楽しんでいるように見える。
そのままアウトロから間髪入れずに「Keep going」へと入っていくというのは「Harvest」の流れそのままであるが、
「あれから
前に前に進むために
注ぐ愛以外は不要になって」
という歌詞はタイアップに起用されたアニメのテーマ的な歌詞でもあるだろうけれど、それでもやはり今のフォーリミの決意が刻まれているようにしか聴こえない。この日の後のMCでも口にしていた通りに、GENはインタビューでもコロナ禍に曲を作るとコロナに引っ張られた曲になるのが嫌だったと言っていたが、この曲からはそんな状況の最底辺、最悪な状況から抜け出して、少しでも希望が見えるようになったからこそ、自分たちがこれからさらに前に進んでいく、その姿を自分たちが見せることによってシーンを前に進ませてやるという覚悟のようなものを感じる。それは地元名古屋でのワンマンから幕張メッセ、そして今年のYON FESと、コロナ禍の中でも少しずつ前に進んできたフォーリミの姿を見てきたからこそそう思うことができるのだ。それを自分たちの原点であるメロディックパンクというサウンドに込めているというのが「Harvest」が最高傑作と言えるものになった一つの理由だ。
「千葉LOOK、一緒にいいとこ行きましょう!」
とGENが口にすると、HIROKAZが台の上に立って手拍子を煽り、客席からはAメロではその手拍子が起き、サビでは両腕を左右に伸ばす「Warp」へ。「Harvest」収録曲ではない既存曲がここで初めて演奏されたわけだが、後でメンバーたちも
「新曲じゃない曲をやると安心する。俺たちが(笑)」
と言うくらいに演奏している挙動からも当たり前だが慣れている感がある。プレッシャーなどから解放されているかのような。
それはこの満員の至近距離の小箱ライブハウスだからこそということもあるだろう。GENが
「もっともっと行ってみる?」
と言って演奏された「climb」ではRYU-TAが最後のサビ前で言葉にならない叫びを発する。その声を聞いてGENもHIROKAZも笑顔を浮かべる。生粋のライブハウスバンドであり続けてきたフォーリミだからこそ、またこうした小さいライブハウスのあるべき姿を見ることができて本当に嬉しいという気持ちが伝わってくるし、その思いがただでさえいつもより圧倒的に距離感が近くてワクワクしている我々観客をもさらに楽しくさせてくれる。
ここまでは勢いよく駆け抜けていくようなパンクな曲が続いてきたが、その序盤の流れでGENのボーカルから始まる「fade」も演奏される。「Warp」「climb」という既存曲を歌ったことでGENは喉の調子が整ったところもあるのかもしれないが、「Keep going」までのハイトーンがキツそうな感じはこの曲の時にはすっかり消えて、曲最後の超ハイトーン部分までもしっかり歌い切ることができていた。
個人的には今のフォーリミによる「monolith」とでも言うような、自分たちがどんなバンドなのかを再定義するようなこの曲が生まれたのは本当に大きいと思っているし、この曲がシングルとしてリリースされた段階で「Harvest」がどんなアルバムになるか決まったという部分もあると思っている。それくらいに今のフォーリミにとって欠かせない曲になってきていると今年の夏以降のライブを見ているとより強く思う。
「いやー、近いなぁ(笑)もう最前はメンバーより近いから、腕振ってるの当たりそうになって避けてるもん(笑)」
とGENが改めてこの千葉LOOKの距離感の近さを口にすると、RYU-TAも
「もう感無量ですよ」
と口にする。その言葉に観客が拍手を送るとGENは
「25%は声出していいらしいんで、声出しても大丈夫だよ」
と言うのだが、今年のYON FESでも「hello」で話し声くらいでの合唱を促した時に観客は最初はほとんど声を出していなかった(この様子は「Harvest」初回盤の映像にも収録されている)ように、フォーリミのファンは今の状況でそうした一歩を踏み出すのが実に慎重だ。それはもちろん根底に「このライブで感染者が出て自分たちの好きなバンドやライブが悪く言われたくない」という思いあってこそのものなだけに、本当に声量的には25%というか、それよりも控えめにすら感じるように少し声をあげていたという感じだった。それでもやっぱりライブが始まったらずっと黙っていなければいけなかった状況よりは少しだけでも前に進めている気がする。それはもちろんライブハウスのキャパが100%になったことも含めて。
真っ赤な照明がステージを照らす「Finder」からはパンク・メロコアの中にハードかつラウドなサウンドを感じさせる曲が続くゾーンであり、だからこそ「escape」という曲がここに挟まれるのであるが、この曲が始まった時の観客のダイレクトに喜びが伝わってくるようなリアクションもこの規模感と距離感のライブハウスだからこそだろうが、こうしたサウンドの曲として「Harvest」に収録された「Predator」はRYU-TAのギターにトラブルが起きていたことを指摘されていたりと、まだまだこれからツアーを回ることによって練り上げられて完成度が高くなっていく曲だと思うが、赤、青、緑と明滅する照明はこの規模感でも派手に見えるだけに、「fiction」などを大きな会場で演奏する時のようなレーザーの演出が合いそうな曲だ。歌詞に「fiction」という単語が頻繁に登場するのもそうした繋がりを感じさせる。
そんなGENはトイレが出演者も共通で一つしかないこの会場の作りに触れながら、Makiのライブ中にトイレに行きたくなってこっそり行ったことを明かし、
「俺はうんことか出ないから(笑)いちごしか出てこないから(笑)」
とアイドルのような設定で話すと、「Harvest」が非常に売れ行きがいいということを口にする。オリコンチャートでは3位だったが、1位と2位がK-POPグループだったために実質邦楽では1位というくらいに売れていて、それは通常盤を1000円という破格の値段で販売したこともあるが、それも
「物価高になってるこの時代に少しでも財布に優しい形で」
という意図や思いがあったようだ。
さらにはこの千葉LOOKにはかつても何度も来ていることを語り、前に店長に連れて行ってもらった「お母さん」と呼べる人物の店に行ったことを話すのだが、その人物は爆乳の韓国人であり、もう今は韓国に帰ってしまっているらしいということを少し寂しそうに話す。きっとその店に行ったり、その人に会うことも含めてこの千葉LOOKに来ることを楽しみにしていたんだと思うし、そうしてメンバーがこの千葉のライブハウスに思い入れを持ってくれているというのが嬉しくなる。
そんな話の後に演奏された「Harvest」の「Glowing」はタイトル通りにフォーリミの成長を示すような曲であり、HIROKAZによるギターリフのキャッチーさがそのまま音楽における光になっているかのようで、白い照明がステージを照らすのもそれを表しているかのようだ。
そのまま「Kitchen」ではGENがAメロで身振り手振りをするようにして歌い、手拍子も完璧に揃うあたりはさすがフォーリミのファンが集まったツアーであるということを再認識させてくれる。100%動員になったことで観客同士の間隔はほぼないと言っていいくらいの状態であるが、それでも観客は楽しそうに踊っているし、一緒に来たであろう女性2人が顔を合わせて手拍子したりしている姿は本当に微笑ましくなる。
そんな中でも「Harvest」の曲タイトルが発表された時から随一の期待感の高さが溢れていた「Galapagos II」は初代「Galapagos」のような曲中の寸劇こそないけれど、イントロとは別の曲であるかのように疾走するパンクビートという曲の構成とギャップが実に面白いのだが、そうした「パンクだけどパンクに止まってない」というのがフォーリミの、しいては「Harvest」の魅力で、それはパンクというよりも跳ねるようなビートによる「kiki」にも顕著であるが、言葉遊び的な歌詞も実に面白いし、その歌詞とメロすらもリズミカルだ。
で、その「kiki」の感覚はどこか前にも味わったことがあるような…と思っていると、「mahoroba」のイントロが「これだ!」と思わせてくれる。この日のセトリがこれからどう変化していくのかはまだわからないが、「Harvest」の曲たちがサウンドやリズムのタイプによってグループ分けされ、そこに過去の同じタイプの曲を繋ぐように挟むというライブの構成だ。最初はなんなら「Harvest」の曲を収録順にやるのかとも思っていたが、そうせずにこうしたセトリを組むことによって、「Harvest」がちゃんとこれまでのフォーリミと地続きなものとして進化したアルバムであるということがよくわかるようになっている。それは曲順やそれを構成するためのアレンジをメンバーが練りに練ってこのライブに臨んでいるということだ。
そんな展開の中でGENは
「コロナとか難聴になったりとか、この2年間は結構沈むことも多かったんだけど、なんかのインタビューで「1番感謝したいのは誰ですか?」って聞かれた時に、親とか友達とかも浮かんできたんだけど「ファンです」って答えて。俺は生まれた時からロックスターだと思ってるし、売れなくてもバンドをやっていくことはできるけど、今こうして自分をミュージシャンたらしめているのはCDを買ってくれたりライブに来てくれたりするみんながいるからだよなって本当に思う。
だから「Harvest」を「どんなアルバムにするか」っていうのを考えた時に、「ファンが喜ぶアルバムを作りたい」って思った」
と、胸の内を実に素直に明かす。その言葉に3人も静かに頷く。その「ファンを喜ばせるアルバム」というのは明らかに「これをやればファンが喜ぶだろう」というものを狙うのではなくて、フォーリミのど真ん中、自分たちの1番のストロングポイントをしっかり出してそれを込めた曲を作るということだ。「Harvest」がこんなにも最高傑作と呼べるアルバムになったのは間違いなくそれが最も大きな理由であるし、それは我々の存在があったからだと思うとなんだか誇らしくなってくる。こんなに素晴らしいアルバムが生まれた理由の一つに我々がなっているのだから。
そんな我々を、
「みんなをハグするように!」
と言って演奏されたのはそのままのタイトルであり、
「抜け出せないから
ギュっと抱きしめてたいね」
「ここに居て
ずっと二人でいたいね」
というフレーズがHIROKAZのキャッチーなリフとともに優しく響く「hug」であり、そんなメロディアスな曲ですらビートはパンク由来のものであるというのが「メロディックパンク」「メロコア」というフォーリミの属するシーンやジャンルに「メロ」という単語がついている理由として響く。そのジャンル全体をシーンの最前線に立っているフォーリミが今こうしてさらに前に進めようとしている。
そんな中でGENが歌い出した時点で少し空気が変わったのが、盟友であるKEYTALKの小野武正もこの曲が1番好きだとツイートしていた「Honey」。なんならメロディ自体はJ-POP的とも言っていいくらいにキャッチーなものであるが、そんな曲でもやはりライブでビートを聴くとパンクだなと思える。この「Harvest」で得たものは「どんな曲であっても今の4人で鳴らせばフォーリミの音楽になり、パンクになる」というものでもあるんじゃないだろうか。この曲は「Give me」に連なるような、バンドにもファンにも大事な曲になっていくような予感がしている。
そのままRYU-TAがギターを鳴らすと、前述の通りに今年のYON FESで一生忘れることができないであろう名場面を生み出した「hello」へ。この日はさすがにそうした合唱を促すという展開にはならなかったけれど、
「安心なことに 今日も 忘れ始める
ほつれてく日常 hello hello」
という最後のサビ前のバスドラのリズムとボーカルのみになる部分でGENが手振りを含めて思いっきり感情を込めて歌っている表情が肉眼でもハッキリ見える。それはこの距離感のライブハウスだからこそだけれど、こんな空間が
「永久に永久に
ちょうどいい空気で」
続いてくれたらいいなと思う。
その「hello」はアウトロでメンバーが合わせるキメがエモ散らかすくらいにエモくなるというのはGEN談であるが、この日は
GEN「KOUHEIが最後のキメで椅子から落ちそうになってたからエモかったのが戻った(笑)」
KOUHEI「こんなの初めて(笑)でもお前がこっち見て笑ってたから絶対ここで言うんやろなって思ってた(笑)」
と、そんなトラブルすらも笑い合えるのがライブならではであるが、GENはこの千葉LOOKの名物店長であるサイトウヒロシを、
「サイトウさんが昔バンドやってたかどうか知らないけど、バンドやってなくてもロックな生き方ができるんだなっていうのを見せてくれる、俺にとって師匠みたいな存在で。
「CAV U」をリリースしてここでツアー初日をやった時、もうイケイケみたいな感じにバンドがなってた。そういう時ってみんな良いことしか言わないんだけど、サイトウさんはライブ後に楽器担当の人が俺のベースとかを片付けてるのを見て、
「おい、GEN。お前変わっちまったのかよ。そんなことまでさせて」
って言ってくれて。その時は「いや、昔から自分でやりたくなかったし〜」みたいに言ったんだけど、そんなところまで見てくれていてちゃんと叱ってくれるんだなって思った。そういう調子が良い時にちゃんと言ってくれるような人こそ大事にしなきゃと思って、ここがもっと好きになった」
というエピソードを交えて話す。それはフォーリミもそうだが、アリーナクラスでワンマンをやるようなバンドがツアー初日にここにライブをしに来る理由をそのまま示している。だからサイトウ店長はたくさんのバンドマンに愛されている。それは今でも自ら帰りにフライヤー(というか千葉LOOKオリジナルフリーペーパー。普通に読み物として面白いコラムが満載なだけに続いているのが嬉しい)を我々に配るという姿にも現れている。
そんな千葉LOOKでツアー初日をやると作ってくれる巨大ポスターと
「これからツアー各地を回って、このポスターがぼろぼろになるまで一緒に駆け抜けたいと思います」
ともう仲間のように一緒にツアーを回る覚悟を口にすると、
GEN「この曲どうやろうかな?ハンドマイクあり?」
KOUHEI「リハでやってないことをやるな(笑)」
GEN「何事もトライ&エラーで…(笑)」
KOUHEI「エラーする前提やめろ(笑)」
というやりとりを経て、本当にGENがハンドマイクで台の上に立って「Harvest」を歌い始める。GENがハンドマイクで歌うというのはYON FESなどでゲストが演奏する時や、あるいはGENがゲストボーカルで歌うということも多々あるだけにそこまで珍しいものではないが、それでも4人だけの演奏でハンドマイクで歌い、その後に通常のバンド編成のパンクサウンドになるというのは実に新鮮な姿とアレンジだ。
「今は心配ばかりだけど
ありふれた感動 見えるから
いつでも 君とこの幸せ
見続けられたらな
感じ続けられたらな
信じ続けられたらな」
というサビの歌詞は「hello」の続きというか、様々なことを経てきたからこその決意表明のように感じられる。このアルバムが作れた事で改めてこれでずっと生きていくという覚悟が明確なものになったかのような。
そんなこの日の本編は(笑撃のボーナストラックを除けば)アルバムの流れ通りにHIROKAZのリフが実に爽やかに響き渡る「Just」で最後を迎える。
「未完成なだけの僕達は
不安定のままいたいや
ぶつかって見失って
見透かして恐くなって 痛い
何処まで行こう 止まれない
今さら」
というサビのフレーズは「Harvest」のサビとも連なるものであるだけに、先行シングル曲としてリリースされたこの曲がより強く、まるでこうしてこのアルバムの最後を担う運命にあったかのように響く。そこにはキャッチーさとともにパンクの強さも確かに備わっている。今のフォーリミの「swim」と言っていいこの曲はこうして長い尺のライブの最後を担えるような存在になっていた。
アンコールでメンバーがステージに戻ってくると、RYU-TAが「Harvest!」と言って謎のポーズを取るという一発ギャグ的なことをするのだが、GENに
「絶対流行らないで欲しい(笑)」
と一蹴されてしまう。そんなGENは
「Makiには期待しかしてない。BACK LIFTもいなくなって、Kichikuも天国から見ているだろうから…」
とこの日の対バンである名古屋の後輩バンド・Makiへの期待を口にするのだが、BACK LIFTは全然まだ活動しているためにKOUHEIに
「いや、まだいるし(笑)」
と当たり前のように突っ込まれつつ、
「最近名古屋に帰ると先輩から後輩バンドをよく紹介されて。俺たちが名古屋に住んでた頃は名古屋はロックバンド不毛の地みたいに言われていたのに、今はMakiみたいにカッコいいバンドが本当にたくさんいる。そういう名古屋のシーンを、バンドシーンをもっと活性化させたいと思ってるし、みんなでもっと良い景色が見れたらなって思ってる」
と、背負うものとしてシーン全体のことも口にしてから、それを自分たちが照らすかのように
「2022年10月18日千葉LOOK、どこでもない、今ここ!」
と、この日の日付と場所を口にし、それを刻みつけるかのように鳴らされた「Now here, No where」の最後のキメでRYU-TAが狭いステージをものともせずというか、むしろ狭いステージでこうして跳ぶのがパンクバンドだという矜持を見せつけるかのようにギターを抱えたまま高くジャンプすると、GENは
「千葉LOOK、この曲知ってるやつ何人いんだよ!」
と言って思いっきり腕を振り下ろして「monolith」の始まりを告げると、HIROKAZとRYU-TAがポジションを入れ替わり、それぞれが自分の立ち位置とは逆サイドにいる観客のことをしっかりと見ながら鳴らし、もはや阿吽の呼吸と言ってもいいくらいに最後には元の位置に戻って、やはり高くジャンプした。GENの
「君以外に何もないだろ」
のハイトーンをさらに張り上げるようなボーカルはその「君」がこの瞬間に目にしているものであるかのように高らかに、低い天井を突き抜けるかのように響いた。ほぼ毎回と言っていいくらいに演奏される曲だけれど、そんな曲がここで聴くとまたいつもとは違うもののように聴こえた。ここでフォーリミのライブが見れて本当に幸せだと改めて思えた。
演奏が終わるとGENiは
「今日、もしかしたらダイブが起きちゃうかもって思ってた。我慢してくれて本当にありがとう」
と言った。きっと次に千葉LOOKに来る時にはそれを我慢しなくていい状況になっているはず。メンバーが去ってから終演SEとして流れた「Honey」を聴いて観客が体を揺らす中で、その時にまたここにいれたらいいなと思っていた。結局、ずっとフォーリミが好きだから。
コロナ禍になってからも何回も千葉LOOKに来た。ライブ再開直後は50人も入れないくらいにステージと観客の間隔も、観客同士の間隔も空いていた。600円のアルコールと400円のソフトドリンクが選べるこの会場のシステムが、ソフトドリンク一択になっていた。客席に椅子が並ぶという信じられない光景になっていた時すらあった。
そうした状況ばかり見てきた2年半だったから、それ以前の景色を忘れてしまいそうになる。ここに来れば来るほど、この状況での記憶が上書きされていってしまう。
でもこの日の超満員ならではのドラムセットが全然見えないくらいの見辛さも、それでも何度もメンバーと目が合う距離感も、そんな狭さだからこそダイレクトに感じる周りにいる人たちの熱気も。コロナ禍になる前まで学生時代からずっと見てきたこの千葉LOOKの客席の記憶が一気に蘇ってきた。あの頃と変わることがないこの日の景色がそれを思い出させてくれたのだ。どんなに見づらかろうとも、大好きなバンドたちがずっと来てくれる、千葉県民にとって本当に特別なライブハウスであり、そこで生きている人の顔がすぐに浮かんでくる場所である、自分にとっても大好きな千葉LOOKの景色が戻ってきたのだ。それをフォーリミの新しい始まりの場所として見れて本当に幸せだった。
1.Every
2.Keep going
3.Warp
4.climb
5.fade
6.Finder
7.escape
8.Predator
9.Glowing
10.Kitchen
11.Galapagos ll
12.kiki
13.mahoroba
14.hug
15.Honey
16.hello
17.Harvest
18.Just
encore
19.Now here, No where
20.monolith
そのリリースツアーの前半戦は小さいライブハウスでの対バンなのだが、以前ツアー開催発表時にGENがTwitterでも書いていた通りに、対バンは今までなかなかフォーリミと一緒にやっていないような若手バンドばかり。そこからもこのツアーが今までとは違うものになりそうなことが伝わってくる。
この日のゲストはMakiであるのだが、仕事が長引いて近い千葉LOOKといえど18時30分という早めの開演時間に間に合わず。最後の1曲しか聴くことが出来なかったが、それだけでもカッコいいバンドであることはわかるだけに、近いうちにちゃんとライブを見る機会を持ちたいと思う。
・04 Limited Sazabys
そしてフォーリミがツアー初日のステージへ。誰しもがほとんどの曲をライブで聴いていない「Harvest」の曲はどの曲がどのくらい演奏されるのか。そうした意味でも実に楽しみである。
転換が終わって場内が暗転すると、おなじみのSEがアナウンス的な部分から鳴ってメンバーが登場。RYU-TAとHIROKAZのギターコンビはステージの台の上に立って満員の客席の様子を眺める。その表情に感慨深さのようなものを感じるのは、キャパ100%になったことによって、ついこの間まではステージと客席の間にかなり距離を作っていたこの千葉LOOKが本来の近さになったからであり、GEN(ボーカル&ベース)も思わず出てきた瞬間に
「近ぇ」
と言って気恥ずかしそうに最前列の観客から目を背けるようにすると、KOUHEI(ドラム)を中心として目を合わせるようにバンドが勢いよく音を鳴らすと、「Harvest」の1曲目に収録されている「Every」でこのツアーは幕を開ける。やはり台の上に立ってギターを弾くRYU-TAと HIROKAZの表情からは、バンドを始めたばかりの少年のような音を出す喜びを感じさせる。GENは少し声がキツそうな感じが最初はしたのは、まだこのアルバムの曲での音の作り方、声の出し方を完璧に自分のものにできてないからだろうけれど、それこそがツアー初日である。アルバム自体が実に4年ぶりであるため、こうして新しい曲をたくさん演奏する初日も4年ぶりということだが、この日のメンバーはそんなプレッシャーをも心から楽しんでいるように見える。
そのままアウトロから間髪入れずに「Keep going」へと入っていくというのは「Harvest」の流れそのままであるが、
「あれから
前に前に進むために
注ぐ愛以外は不要になって」
という歌詞はタイアップに起用されたアニメのテーマ的な歌詞でもあるだろうけれど、それでもやはり今のフォーリミの決意が刻まれているようにしか聴こえない。この日の後のMCでも口にしていた通りに、GENはインタビューでもコロナ禍に曲を作るとコロナに引っ張られた曲になるのが嫌だったと言っていたが、この曲からはそんな状況の最底辺、最悪な状況から抜け出して、少しでも希望が見えるようになったからこそ、自分たちがこれからさらに前に進んでいく、その姿を自分たちが見せることによってシーンを前に進ませてやるという覚悟のようなものを感じる。それは地元名古屋でのワンマンから幕張メッセ、そして今年のYON FESと、コロナ禍の中でも少しずつ前に進んできたフォーリミの姿を見てきたからこそそう思うことができるのだ。それを自分たちの原点であるメロディックパンクというサウンドに込めているというのが「Harvest」が最高傑作と言えるものになった一つの理由だ。
「千葉LOOK、一緒にいいとこ行きましょう!」
とGENが口にすると、HIROKAZが台の上に立って手拍子を煽り、客席からはAメロではその手拍子が起き、サビでは両腕を左右に伸ばす「Warp」へ。「Harvest」収録曲ではない既存曲がここで初めて演奏されたわけだが、後でメンバーたちも
「新曲じゃない曲をやると安心する。俺たちが(笑)」
と言うくらいに演奏している挙動からも当たり前だが慣れている感がある。プレッシャーなどから解放されているかのような。
それはこの満員の至近距離の小箱ライブハウスだからこそということもあるだろう。GENが
「もっともっと行ってみる?」
と言って演奏された「climb」ではRYU-TAが最後のサビ前で言葉にならない叫びを発する。その声を聞いてGENもHIROKAZも笑顔を浮かべる。生粋のライブハウスバンドであり続けてきたフォーリミだからこそ、またこうした小さいライブハウスのあるべき姿を見ることができて本当に嬉しいという気持ちが伝わってくるし、その思いがただでさえいつもより圧倒的に距離感が近くてワクワクしている我々観客をもさらに楽しくさせてくれる。
ここまでは勢いよく駆け抜けていくようなパンクな曲が続いてきたが、その序盤の流れでGENのボーカルから始まる「fade」も演奏される。「Warp」「climb」という既存曲を歌ったことでGENは喉の調子が整ったところもあるのかもしれないが、「Keep going」までのハイトーンがキツそうな感じはこの曲の時にはすっかり消えて、曲最後の超ハイトーン部分までもしっかり歌い切ることができていた。
個人的には今のフォーリミによる「monolith」とでも言うような、自分たちがどんなバンドなのかを再定義するようなこの曲が生まれたのは本当に大きいと思っているし、この曲がシングルとしてリリースされた段階で「Harvest」がどんなアルバムになるか決まったという部分もあると思っている。それくらいに今のフォーリミにとって欠かせない曲になってきていると今年の夏以降のライブを見ているとより強く思う。
「いやー、近いなぁ(笑)もう最前はメンバーより近いから、腕振ってるの当たりそうになって避けてるもん(笑)」
とGENが改めてこの千葉LOOKの距離感の近さを口にすると、RYU-TAも
「もう感無量ですよ」
と口にする。その言葉に観客が拍手を送るとGENは
「25%は声出していいらしいんで、声出しても大丈夫だよ」
と言うのだが、今年のYON FESでも「hello」で話し声くらいでの合唱を促した時に観客は最初はほとんど声を出していなかった(この様子は「Harvest」初回盤の映像にも収録されている)ように、フォーリミのファンは今の状況でそうした一歩を踏み出すのが実に慎重だ。それはもちろん根底に「このライブで感染者が出て自分たちの好きなバンドやライブが悪く言われたくない」という思いあってこそのものなだけに、本当に声量的には25%というか、それよりも控えめにすら感じるように少し声をあげていたという感じだった。それでもやっぱりライブが始まったらずっと黙っていなければいけなかった状況よりは少しだけでも前に進めている気がする。それはもちろんライブハウスのキャパが100%になったことも含めて。
真っ赤な照明がステージを照らす「Finder」からはパンク・メロコアの中にハードかつラウドなサウンドを感じさせる曲が続くゾーンであり、だからこそ「escape」という曲がここに挟まれるのであるが、この曲が始まった時の観客のダイレクトに喜びが伝わってくるようなリアクションもこの規模感と距離感のライブハウスだからこそだろうが、こうしたサウンドの曲として「Harvest」に収録された「Predator」はRYU-TAのギターにトラブルが起きていたことを指摘されていたりと、まだまだこれからツアーを回ることによって練り上げられて完成度が高くなっていく曲だと思うが、赤、青、緑と明滅する照明はこの規模感でも派手に見えるだけに、「fiction」などを大きな会場で演奏する時のようなレーザーの演出が合いそうな曲だ。歌詞に「fiction」という単語が頻繁に登場するのもそうした繋がりを感じさせる。
そんなGENはトイレが出演者も共通で一つしかないこの会場の作りに触れながら、Makiのライブ中にトイレに行きたくなってこっそり行ったことを明かし、
「俺はうんことか出ないから(笑)いちごしか出てこないから(笑)」
とアイドルのような設定で話すと、「Harvest」が非常に売れ行きがいいということを口にする。オリコンチャートでは3位だったが、1位と2位がK-POPグループだったために実質邦楽では1位というくらいに売れていて、それは通常盤を1000円という破格の値段で販売したこともあるが、それも
「物価高になってるこの時代に少しでも財布に優しい形で」
という意図や思いがあったようだ。
さらにはこの千葉LOOKにはかつても何度も来ていることを語り、前に店長に連れて行ってもらった「お母さん」と呼べる人物の店に行ったことを話すのだが、その人物は爆乳の韓国人であり、もう今は韓国に帰ってしまっているらしいということを少し寂しそうに話す。きっとその店に行ったり、その人に会うことも含めてこの千葉LOOKに来ることを楽しみにしていたんだと思うし、そうしてメンバーがこの千葉のライブハウスに思い入れを持ってくれているというのが嬉しくなる。
そんな話の後に演奏された「Harvest」の「Glowing」はタイトル通りにフォーリミの成長を示すような曲であり、HIROKAZによるギターリフのキャッチーさがそのまま音楽における光になっているかのようで、白い照明がステージを照らすのもそれを表しているかのようだ。
そのまま「Kitchen」ではGENがAメロで身振り手振りをするようにして歌い、手拍子も完璧に揃うあたりはさすがフォーリミのファンが集まったツアーであるということを再認識させてくれる。100%動員になったことで観客同士の間隔はほぼないと言っていいくらいの状態であるが、それでも観客は楽しそうに踊っているし、一緒に来たであろう女性2人が顔を合わせて手拍子したりしている姿は本当に微笑ましくなる。
そんな中でも「Harvest」の曲タイトルが発表された時から随一の期待感の高さが溢れていた「Galapagos II」は初代「Galapagos」のような曲中の寸劇こそないけれど、イントロとは別の曲であるかのように疾走するパンクビートという曲の構成とギャップが実に面白いのだが、そうした「パンクだけどパンクに止まってない」というのがフォーリミの、しいては「Harvest」の魅力で、それはパンクというよりも跳ねるようなビートによる「kiki」にも顕著であるが、言葉遊び的な歌詞も実に面白いし、その歌詞とメロすらもリズミカルだ。
で、その「kiki」の感覚はどこか前にも味わったことがあるような…と思っていると、「mahoroba」のイントロが「これだ!」と思わせてくれる。この日のセトリがこれからどう変化していくのかはまだわからないが、「Harvest」の曲たちがサウンドやリズムのタイプによってグループ分けされ、そこに過去の同じタイプの曲を繋ぐように挟むというライブの構成だ。最初はなんなら「Harvest」の曲を収録順にやるのかとも思っていたが、そうせずにこうしたセトリを組むことによって、「Harvest」がちゃんとこれまでのフォーリミと地続きなものとして進化したアルバムであるということがよくわかるようになっている。それは曲順やそれを構成するためのアレンジをメンバーが練りに練ってこのライブに臨んでいるということだ。
そんな展開の中でGENは
「コロナとか難聴になったりとか、この2年間は結構沈むことも多かったんだけど、なんかのインタビューで「1番感謝したいのは誰ですか?」って聞かれた時に、親とか友達とかも浮かんできたんだけど「ファンです」って答えて。俺は生まれた時からロックスターだと思ってるし、売れなくてもバンドをやっていくことはできるけど、今こうして自分をミュージシャンたらしめているのはCDを買ってくれたりライブに来てくれたりするみんながいるからだよなって本当に思う。
だから「Harvest」を「どんなアルバムにするか」っていうのを考えた時に、「ファンが喜ぶアルバムを作りたい」って思った」
と、胸の内を実に素直に明かす。その言葉に3人も静かに頷く。その「ファンを喜ばせるアルバム」というのは明らかに「これをやればファンが喜ぶだろう」というものを狙うのではなくて、フォーリミのど真ん中、自分たちの1番のストロングポイントをしっかり出してそれを込めた曲を作るということだ。「Harvest」がこんなにも最高傑作と呼べるアルバムになったのは間違いなくそれが最も大きな理由であるし、それは我々の存在があったからだと思うとなんだか誇らしくなってくる。こんなに素晴らしいアルバムが生まれた理由の一つに我々がなっているのだから。
そんな我々を、
「みんなをハグするように!」
と言って演奏されたのはそのままのタイトルであり、
「抜け出せないから
ギュっと抱きしめてたいね」
「ここに居て
ずっと二人でいたいね」
というフレーズがHIROKAZのキャッチーなリフとともに優しく響く「hug」であり、そんなメロディアスな曲ですらビートはパンク由来のものであるというのが「メロディックパンク」「メロコア」というフォーリミの属するシーンやジャンルに「メロ」という単語がついている理由として響く。そのジャンル全体をシーンの最前線に立っているフォーリミが今こうしてさらに前に進めようとしている。
そんな中でGENが歌い出した時点で少し空気が変わったのが、盟友であるKEYTALKの小野武正もこの曲が1番好きだとツイートしていた「Honey」。なんならメロディ自体はJ-POP的とも言っていいくらいにキャッチーなものであるが、そんな曲でもやはりライブでビートを聴くとパンクだなと思える。この「Harvest」で得たものは「どんな曲であっても今の4人で鳴らせばフォーリミの音楽になり、パンクになる」というものでもあるんじゃないだろうか。この曲は「Give me」に連なるような、バンドにもファンにも大事な曲になっていくような予感がしている。
そのままRYU-TAがギターを鳴らすと、前述の通りに今年のYON FESで一生忘れることができないであろう名場面を生み出した「hello」へ。この日はさすがにそうした合唱を促すという展開にはならなかったけれど、
「安心なことに 今日も 忘れ始める
ほつれてく日常 hello hello」
という最後のサビ前のバスドラのリズムとボーカルのみになる部分でGENが手振りを含めて思いっきり感情を込めて歌っている表情が肉眼でもハッキリ見える。それはこの距離感のライブハウスだからこそだけれど、こんな空間が
「永久に永久に
ちょうどいい空気で」
続いてくれたらいいなと思う。
その「hello」はアウトロでメンバーが合わせるキメがエモ散らかすくらいにエモくなるというのはGEN談であるが、この日は
GEN「KOUHEIが最後のキメで椅子から落ちそうになってたからエモかったのが戻った(笑)」
KOUHEI「こんなの初めて(笑)でもお前がこっち見て笑ってたから絶対ここで言うんやろなって思ってた(笑)」
と、そんなトラブルすらも笑い合えるのがライブならではであるが、GENはこの千葉LOOKの名物店長であるサイトウヒロシを、
「サイトウさんが昔バンドやってたかどうか知らないけど、バンドやってなくてもロックな生き方ができるんだなっていうのを見せてくれる、俺にとって師匠みたいな存在で。
「CAV U」をリリースしてここでツアー初日をやった時、もうイケイケみたいな感じにバンドがなってた。そういう時ってみんな良いことしか言わないんだけど、サイトウさんはライブ後に楽器担当の人が俺のベースとかを片付けてるのを見て、
「おい、GEN。お前変わっちまったのかよ。そんなことまでさせて」
って言ってくれて。その時は「いや、昔から自分でやりたくなかったし〜」みたいに言ったんだけど、そんなところまで見てくれていてちゃんと叱ってくれるんだなって思った。そういう調子が良い時にちゃんと言ってくれるような人こそ大事にしなきゃと思って、ここがもっと好きになった」
というエピソードを交えて話す。それはフォーリミもそうだが、アリーナクラスでワンマンをやるようなバンドがツアー初日にここにライブをしに来る理由をそのまま示している。だからサイトウ店長はたくさんのバンドマンに愛されている。それは今でも自ら帰りにフライヤー(というか千葉LOOKオリジナルフリーペーパー。普通に読み物として面白いコラムが満載なだけに続いているのが嬉しい)を我々に配るという姿にも現れている。
そんな千葉LOOKでツアー初日をやると作ってくれる巨大ポスターと
「これからツアー各地を回って、このポスターがぼろぼろになるまで一緒に駆け抜けたいと思います」
ともう仲間のように一緒にツアーを回る覚悟を口にすると、
GEN「この曲どうやろうかな?ハンドマイクあり?」
KOUHEI「リハでやってないことをやるな(笑)」
GEN「何事もトライ&エラーで…(笑)」
KOUHEI「エラーする前提やめろ(笑)」
というやりとりを経て、本当にGENがハンドマイクで台の上に立って「Harvest」を歌い始める。GENがハンドマイクで歌うというのはYON FESなどでゲストが演奏する時や、あるいはGENがゲストボーカルで歌うということも多々あるだけにそこまで珍しいものではないが、それでも4人だけの演奏でハンドマイクで歌い、その後に通常のバンド編成のパンクサウンドになるというのは実に新鮮な姿とアレンジだ。
「今は心配ばかりだけど
ありふれた感動 見えるから
いつでも 君とこの幸せ
見続けられたらな
感じ続けられたらな
信じ続けられたらな」
というサビの歌詞は「hello」の続きというか、様々なことを経てきたからこその決意表明のように感じられる。このアルバムが作れた事で改めてこれでずっと生きていくという覚悟が明確なものになったかのような。
そんなこの日の本編は(笑撃のボーナストラックを除けば)アルバムの流れ通りにHIROKAZのリフが実に爽やかに響き渡る「Just」で最後を迎える。
「未完成なだけの僕達は
不安定のままいたいや
ぶつかって見失って
見透かして恐くなって 痛い
何処まで行こう 止まれない
今さら」
というサビのフレーズは「Harvest」のサビとも連なるものであるだけに、先行シングル曲としてリリースされたこの曲がより強く、まるでこうしてこのアルバムの最後を担う運命にあったかのように響く。そこにはキャッチーさとともにパンクの強さも確かに備わっている。今のフォーリミの「swim」と言っていいこの曲はこうして長い尺のライブの最後を担えるような存在になっていた。
アンコールでメンバーがステージに戻ってくると、RYU-TAが「Harvest!」と言って謎のポーズを取るという一発ギャグ的なことをするのだが、GENに
「絶対流行らないで欲しい(笑)」
と一蹴されてしまう。そんなGENは
「Makiには期待しかしてない。BACK LIFTもいなくなって、Kichikuも天国から見ているだろうから…」
とこの日の対バンである名古屋の後輩バンド・Makiへの期待を口にするのだが、BACK LIFTは全然まだ活動しているためにKOUHEIに
「いや、まだいるし(笑)」
と当たり前のように突っ込まれつつ、
「最近名古屋に帰ると先輩から後輩バンドをよく紹介されて。俺たちが名古屋に住んでた頃は名古屋はロックバンド不毛の地みたいに言われていたのに、今はMakiみたいにカッコいいバンドが本当にたくさんいる。そういう名古屋のシーンを、バンドシーンをもっと活性化させたいと思ってるし、みんなでもっと良い景色が見れたらなって思ってる」
と、背負うものとしてシーン全体のことも口にしてから、それを自分たちが照らすかのように
「2022年10月18日千葉LOOK、どこでもない、今ここ!」
と、この日の日付と場所を口にし、それを刻みつけるかのように鳴らされた「Now here, No where」の最後のキメでRYU-TAが狭いステージをものともせずというか、むしろ狭いステージでこうして跳ぶのがパンクバンドだという矜持を見せつけるかのようにギターを抱えたまま高くジャンプすると、GENは
「千葉LOOK、この曲知ってるやつ何人いんだよ!」
と言って思いっきり腕を振り下ろして「monolith」の始まりを告げると、HIROKAZとRYU-TAがポジションを入れ替わり、それぞれが自分の立ち位置とは逆サイドにいる観客のことをしっかりと見ながら鳴らし、もはや阿吽の呼吸と言ってもいいくらいに最後には元の位置に戻って、やはり高くジャンプした。GENの
「君以外に何もないだろ」
のハイトーンをさらに張り上げるようなボーカルはその「君」がこの瞬間に目にしているものであるかのように高らかに、低い天井を突き抜けるかのように響いた。ほぼ毎回と言っていいくらいに演奏される曲だけれど、そんな曲がここで聴くとまたいつもとは違うもののように聴こえた。ここでフォーリミのライブが見れて本当に幸せだと改めて思えた。
演奏が終わるとGENiは
「今日、もしかしたらダイブが起きちゃうかもって思ってた。我慢してくれて本当にありがとう」
と言った。きっと次に千葉LOOKに来る時にはそれを我慢しなくていい状況になっているはず。メンバーが去ってから終演SEとして流れた「Honey」を聴いて観客が体を揺らす中で、その時にまたここにいれたらいいなと思っていた。結局、ずっとフォーリミが好きだから。
コロナ禍になってからも何回も千葉LOOKに来た。ライブ再開直後は50人も入れないくらいにステージと観客の間隔も、観客同士の間隔も空いていた。600円のアルコールと400円のソフトドリンクが選べるこの会場のシステムが、ソフトドリンク一択になっていた。客席に椅子が並ぶという信じられない光景になっていた時すらあった。
そうした状況ばかり見てきた2年半だったから、それ以前の景色を忘れてしまいそうになる。ここに来れば来るほど、この状況での記憶が上書きされていってしまう。
でもこの日の超満員ならではのドラムセットが全然見えないくらいの見辛さも、それでも何度もメンバーと目が合う距離感も、そんな狭さだからこそダイレクトに感じる周りにいる人たちの熱気も。コロナ禍になる前まで学生時代からずっと見てきたこの千葉LOOKの客席の記憶が一気に蘇ってきた。あの頃と変わることがないこの日の景色がそれを思い出させてくれたのだ。どんなに見づらかろうとも、大好きなバンドたちがずっと来てくれる、千葉県民にとって本当に特別なライブハウスであり、そこで生きている人の顔がすぐに浮かんでくる場所である、自分にとっても大好きな千葉LOOKの景色が戻ってきたのだ。それをフォーリミの新しい始まりの場所として見れて本当に幸せだった。
1.Every
2.Keep going
3.Warp
4.climb
5.fade
6.Finder
7.escape
8.Predator
9.Glowing
10.Kitchen
11.Galapagos ll
12.kiki
13.mahoroba
14.hug
15.Honey
16.hello
17.Harvest
18.Just
encore
19.Now here, No where
20.monolith