JUNE ROCK FESTIVAL 2022 @クラブチッタ川崎 10/15
- 2022/10/16
- 21:19
昨年に続いて無事に開催されることになった、LOVE MUSICのプロデューサーである三浦ジュン氏主催のJUNE ROCK FESTIVAL。もうそのラインナップからして完全に主催者自身がライブを見たいアーティストを集めたというイベントであるが、1ステージのみだった昨年から弾き語りのCHAOS STAGEが復活しての2ステージ制になったというのもライブハウスで開催されるフェス形式のライブが戻ってきているということだろうか。
12:30〜 サバシスター (Opening Act)
本編開始前にオープニングアクトとして登場するのは、今年SUMMER SONICにも出演した女性3人組バンド、サバシスター。オープニングアクトとはいえ大抜擢のクラブチッタのステージである。
バンド名に合わせるようにビッケブランカ「Cava?」のSEでメンバーが登場すると、やはりというかなんというか、サポートベースのサトウコウヘイ以外のメンバーの見た目が若いというかもはや幼いと言っていいくらいに感じるのだが、なち(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら「ジャージ」を歌い始めた瞬間に「うわっ!」と思った。それくらいに歌と鳴らしている音に特別な力が宿っているバンドであるということが1音鳴らしただけですぐにわかる。
「スケボー泥棒」というなんだそりゃと思うような視点の歌詞を曲に落とし込むことができるセンスも素晴らしいが、ドラムのごうけの家族であるプレーリードッグのぬいぐるみの「しげちゃん」(ちゃんとギターアンプの上にいる)のことを歌った曲を説明する際の喋りがまだたどたどしさを感じさせるからこそ、より歌の逞しさに驚いてしまう。やはり歌う時にはスイッチが入るようなタイプだったりするのだろうか。
音源にも収録されている「アイリー」を聴いていても、こうしたバンドは曲もライブも良いけど演奏力はさておき…みたいな感じになりがちなのだが、すでに今の時点で演奏も実にしっかりしているというのもまた驚きである。特別難しいことや新しいことをやっているわけではないけれど、ライブが良いと思える理由がその音からしっかり感じられる。
「主催のジュンさんとはよく下北沢のライブで会うんですけど、友達っていうわけじゃないから挨拶するくらいの感じで…(笑)」
という関係性も実に正直なものであるが、スーパーのタイムセールが終わったことを人生に例える「タイムセール終わってくれ」というあたりの曲は早く音源としても聴きたくなるくらいに期待が高まってしまう。まだまだいろんな曲を持っているんじゃないかと思ってしまうから。
そして最後に演奏された、まさにタイトルそのままにこれからも突き進んでいく覚悟を歌うかのような「サバシスター's THEME」ではなちとともにるみなす(ギター)も前に出てきて並んでギターを弾きまくるのだが、その姿から感じるオーラと鳴らしている音にゾクッとした。きっとこれからこのバンドをもっと大きなステージで見ることになる。いろんな人がそう言うと思うが、チャットモンチーやHump Backを初めて見た時のことを思い出さざるを得ない。そのバンドたちの系譜を引き継ぐ、楽器を思いっきり鳴らして歌うだけのロックバンドに宿る魔法のようなものをこのバンドは体現しているし、まだ原石のようでいてこの原石はすでに光り輝いている。それはこれからさらにいろんなライブを経て研ぎ澄まされていく。あまりにもこの先が楽しみなバンドとの初遭遇。もうこの時点で今年のJUNE ROCK FESTIVALは忘れることができないものになった。
1.ジャージ
2.スケボー泥棒
3.しげちゃん
4.アイリー
5.タイムセール逃してくれ
6.サバシスター's THEME
13:10〜 ビレッジマンズストア
主催者挨拶の最中にメンバーがセッティングを初めてそのままリハを演奏し始めた、ビレッジマンズストア。なんとこの日はこのライブと名古屋でのライブというとんでもないダブルヘッダーのスケジュールである。
本番でおなじみの赤いスーツを着たメンバー5人がステージに現れると、その中で一際目立つ白い羽飾りを首にかけた水野ギイ(ボーカル)が「夢の中ではない」を歌い始めるのであるが、その歌声が耳が痛くなるくらいに大きい。もちろん荒金祐太朗と岩原洋平のギターコンビの鳴らす音も爆音であるのだが、ボーカルでそう感じさせる歌を聴かせられる人はそうそういない。その声量、肺活量、響かせ方は本当にこの男がロックンロールスターであることをその見た目や立ち振る舞いだけではない音楽的な部分で感じさせてくれる。
「日本一昼に会いたくないバンド、ビレッジマンズストアだ!
長いイベントだからちょっとずつちょっとずつ上げていって最後に最高になっていく…なんて考えは今すぐ捨ててください!今この瞬間が最高なんだ!」
と言って、Jack(ベース)と髪がかなり伸びたことで振り乱すようにしてドラムを叩く坂野充のリズム隊も曲入りのタイトルコーラスを重ねる「TV MUSIC SHOW」はこのフェスの主催者がフジテレビで音楽番組を制作している人物だからこその選曲かと思ってしまうのは考えすぎかもしれないが、今年配信リリースしたばかりのこの曲がすでにライブにおけるキラーチューンに育っているし、サビのメロディの力が本当に強い。コロナ禍でも戦い続けてきたライブハウスのロックンロールバンドが手にした新しい武器だ。
さらにおなじみの「逃げてくあの娘にゃ聴こえない」ではイントロでメンバーに合わせて前方の観客から一斉にヘドバンをするのであるが、水野はそれを見て一度演奏を止め、
「戸惑ってる君が正解だ。いきなり周りの人がこんな頭振り始めたらそりゃあビックリするだろう(笑)
でも君がそれをやってくれないと、この時間に俺とめちゃくちゃ目が合ってしまうからな!」
と言って、ただヘドバンしろ!と言うんじゃない方法で客席一面にヘドバンを巻き起こすのは実に見事であるが、コロナ禍前にはギター2人が客席に突入していたこの曲の間奏部分ではその荒金と岩原がギターを弾きながらとは思えないスピードと激しさでステージを駆け回りまくる。それを見ていると客席に突入できないのはむしろバンドの進化に繋がったんじゃないかと思うくらいにステージ上の見せ方が圧倒的に凄まじくなっている。
そんなバンドの進化はかつては観客が全員で大合唱していた「サーチライト」をメンバーだけの合唱で成立させるという、演奏だけではない歌唱の強化からも伺わせるのであるが、サビでサーチライトに照らされるように腕を伸ばしていた観客たちはきっとみんな心の中で歌っていたはずだ。
しかしこのバンドは今大きな転機を迎えている。そのダンディズムを含めたベースでバンドを支え続けてきたJackが今月でバンドを脱退してしまうのだ。そのことを水野は
「俺たちは去年は呼ばれなかった。俺はそれを死ぬまで言い続けるだろう。2021年のJUNE ROCK FESTIVALに呼ばれなかったって。でもこのフェスにはカッコいいバンドだけが出ていて欲しい。ダサいバンドが出れないようなフェスであって欲しい。俺たちは今月でJackが居なくなってしまうけれど、1年かけて今の俺たちよりカッコよくなってまたこのフェスに戻ってくる!」
とあくまで前向きなものとして捉えて宣言した。だからこそ「LOVE SONGS」の
「サヨナラだベイベー」
というフレーズは決して別れの寂しさを歌ったものではなくて、サヨナラすることによって新しい自分たちに出会うために鳴らされていたようにも感じられた。もちろん、右腕を掲げながらこの曲を鳴らしているJackの姿を見ていると涙が出そうになってしまうけれど。
そんなこの5人でのこのフェスで最後に鳴らされたのは「眠れぬ夜は自分のせい」で、飛び切りスイートなロックンロールが鳴らされる。ギタリスト2人はステージ前に出てきて思いっきりギターを掻き鳴らしているその姿は、今のこの5人でのビレッジがやはり最強であるということを示しているかのようだった。
でもこの5人は最初からこの5人だったわけじゃない。かつてもここからというタイミングでギタリストが脱退することになるというリセットがあった。でもそこで加入したのが荒金だった。つまりリセットがあったことでより強くなったのをファンはみんな見てきたのだ。だからJackが抜けてもまた新たにとんでもないメンバーを加えて、今を超える最強のビレッジになるんだろうなと思えるのだ。それでも、やっぱりもっとこの5人でのライブを見ておけば良かったと思ってしまうけれど。
リハ.黙らせないで
1.夢の中ではない
2.TV MUSIC SHOW
3.逃げてくあの娘にゃ聴こえない
4.サーチライト
5.LOVE SONGS
6.眠れぬ夜は自分のせい
14:05〜 プッシュプルポット
昨年にこのフェスの主催者の三浦ジュン氏が主催するイベント「若者のすべて」に出演している、金沢の4人組バンド、プッシュプルポット。その時にもサブステージながら抜群のインパクトを残しただけに、ついにこのフェスのクラブチッタのステージに登場である。
4人がステージに現れると、金髪の明神竜太郎(ドラム)が笑顔であらゆる方向の観客に手を振ると、山口大貴(ボーカル&ギター)が
「金沢のロックバンド、プッシュプルポットです!ライブハウスの歌!」
と自己紹介して「Unity」からスタートするのであるが、もうこのスタートからあまりに熱い。熱すぎる。サウンド的には青春パンクと言っていいくらいにシンプルなものであるし、歌詞も難しい単語や言い回しは一切使ってないくらいのストレートなものなのだが、だからこそメンバーの持つ真っ直ぐさがそのまま伝わってくるし、轟音を鳴らしまくる桑原拓也(ギター)、時に大きくジャンプしながらリズムを刻む、髪色が金と黒が半々の堀内一憲(ベース)の演奏が明らかに以前見た時よりもレベルアップしまくっているのがわかるし、それはそのままバンドの進化へと繋がっている。続く「ともに」もそうであるが、より腕を上げざるを得ないくらいのエモーションが放出されまくっているのである。
山口はその「若者のすべて」のサブステージに出演した際に
「次はデカいステージで!」
と言っていたのだが、こうして今までのバンド人生の中で1番大きなステージに立てたことを、主催者がその時の言葉を叶えてくれたと感謝を語ると、ただ爆音かつ激しくて勢いがあるだけではなくて、キャッチーな部分も持ち合わせているということを感じさせてくれるのが、メンバー全員の声が重なる「愛していけるように」から、山口のファルセットを絡めたボーカルと、メンバーのハイトーンなコーラスが青さとロマンチックさを感じさせてくれる「ダイナマイトラブソング」という流れであり、こうした曲たちの存在と、それを鳴らすためのバンドの技術がこれからのさらなる可能性を感じさせてくれる。
そう、このバンドはサウンドこそ青春パンク的であり、それは演奏が上手くなくても成立する音楽でもあるのだけれど、このバンドの鳴らしている音がこんなにも響くのはその演奏が上手くて、しかもそこに抱えている感情を乗せることができるからだ。それは東日本大震災で被災した当時の心境を
「突然すべて失ったこと あなたはありますか?」
と歌う「13歳の夜」から強く感じられるものだ。曲中には山口は
「あの時、俺ラジオ聴いてたんですよ。TV映らなくなったから。その時にSCHOOL OF LOCK!っていう番組を聴いて。俺はそれで音楽をやろうと思って、ギターを始めてバンドを組んだんだ」
とその時のリアルな体験を語る。その時のSCHOOL OF LOCK!の講師は誰で、どんな曲が流れたんだろうか。きっと山口はそれを覚えているだろうけれど、その時に流れた音楽が山口を救ってくれたように、この真っ直ぐ過ぎるくらいに真っ直ぐな音楽がきっと誰かを救うことになるということをきっと山口もメンバーもわかっているはずだ。
そんな感動してなのか、とにかく涙が出てきそうになってしまうようなエモーションを放出しながらも山口は
「泣いてもらうためにバンドやってるわけじゃない!」
と言って、
「ねえ笑って欲しいのです」
と「笑って」を歌い始める。その巻き舌っぽい歌唱を含めたボーカルの圧倒されるくらいの上手さ。それが明神のぶっ叩きまくる鬼神の如きドラムのビートに乗ることによって、このバンドの音楽になっていく。誰か1人でも欠けたり、サポートになったりしたら間違いなく成立しない、メンバーの真っ直ぐな人間がそのまま鳴ってるロックバンド。だから最後に駆け抜けるように演奏された「こんな日々を終わらせて」を一瞬のうちに演奏して、桑原と堀内が向かい合ってジャンプし、明神がスティックを高く放り投げるようにして鳴らし切ると、そこにはわずか30分間の出来事とは思えないくらいに様々な感情が湧き上がってくる。
まだまだ新人と言っていい立ち位置だけれど、そのライブが百戦錬磨のライブバンドたちと比べても全く遜色ないということは見た人ならすぐにわかる。これからフォーリミの対バンツアーに出演するなど、このバンドが発見される土壌は整いつつある。来年にはこのクラブチッタのキャパを飛び越えるようなステージに立っていてもおかしくないくらいに、これからたくさんの人とロックシーンを救うことになる超新星。そう言ってもいいくらいに、これから数え切れなくなるくらいにライブが観たいと思うバンドだ。
1.Unity
2.ともに
3.愛していけるように
4.ダイナマイトラブソング
5.13歳の夜
6.笑って
7.こんな日々を終わらせて
14:40〜 ずみを [CHAOS STAGE]
クラブチッタの階段を上がったり降りたりして辿り着く、久しぶりに来ると「こここんなに小さかったっけ?」と思うくらいにこじんまりとした、手作り感あふれる装飾のCHAOS STAGEは今年は弾き語りアーティストたちが出演するのであるが、そのトップバッターは女性シンガーソングライターの、ずみを。こうしてライブを観るのも、曲を聴くのも完全にはじめましての存在である。
カホン、ウインドチャイム、シンバルなどのパーカッション類を叩く井上ゆかり(tokyo lil boy)が加わってリズムがあるだけに通常のアコギのみの弾き語りとは違った彩りが曲に与えられているのであるが、物凄く率直に見たままを言うと、ブレイク前のあいみょんをさらに田舎っぽい感じにした見た目のずみをは「ご飯が炊ける音」「冷蔵庫の余り物」などの日常生活のふとした情景を用いて自身のラブソングにするという、ここまでが爆音のロックバンドばかりだったからこそ、まるで別のイベントに来たかのような穏やかさと温もりを感じさせてくれるのであるが、その歌声もそうした歌詞の曲を歌うために持ち得たかのようなものになっている。自分の声に合った表現をすでに見極めているのか、あるいはたまたまそうした声を持った自身の中から出てくるのがそうした歌詞なのかはわからないが、見た目も含めてそこに一切のギャップはない。
そのずみをは
「私は生命力がない(笑)」
と言っていたが、歌っている限りはそんなことは全くないと思うのは、その歌詞は自身の生活を生きているからこそ目に映ったものを活写しているからであるし、だからこそ熱くはないけれど確かな体温を感じることができる。驚くくらいにアットホームな雰囲気を醸し出すこのアーティストには似つかわしくないステージ名であるが、こうして2022年のJUNE ROCK FESTIVALの CHAOS STAGEは幕を開けたのだった。
15:00〜 南無阿部陀仏
デビュー時に名前を見た時は、筋肉少女帯や人間椅子みたいな仏教観念を感じる出で立ちのバンドかと思って聴いてみたら、驚くほどに爽やかなロックバンドで、当時まだ高校生であるということを知って合点がいき、バンド名がリーダーの阿部(ベース)の名前を取り入れたものであることを知った、南無阿部陀仏。そうして曲は聴いていたが、ようやくこうして初めてライブを見れることに。
CHAOS STAGEのライブが終わってから急いでステージに辿り着くと、すでにメンバー4人は柄と色違いのアロハシャツを着てステージに登場しているのであるが、真ん中に全員で固まるようにしてマイクを通したり通さなかったりという形で「若者よ、耳を貸せ」を大合唱するという、ここだけ見たらコーラスグループかと思ってしまうようなスタートであるが、サビをひとしきり歌うとそれぞれが楽器を手にして演奏を始め、髪が鮮やかな赤色のまえす(ボーカル)はステージを歩き回り、時には飛び跳ねながら歌うのであるが、その姿がもうこうしてライブハウスでライブをやれるのが楽しくて仕方がないと言わんばかりにキラキラ輝いた表情をしている。
それは若者特有の、若者でなくてもロックバンド特有のものであるということを、どストレートなタイトルの「青春」が感じさせてくれる。まさに今も青春の真っ只中を謳歌して然るべき年齢のバンドなだけに、こうしてその青春の際たる期間がコロナ禍にぶち当たってしまったのは本当にもったいなく、大人として申し訳なくも思ってしまう。きっとコロナ禍にならなければすでにいろんなフェスに出てもっとたくさんの人にライブを見てもらっている存在になっていただろうから。
その青春は冒険そのものだということを感じさせてくれるような「アドベンチャークルージングパーティー」ではリーダー阿部が丸型サングラスを直したりしながら、こちらも鮮やかだが緑の髪色をしたアントニー大輝(ドラム)のシンバルをスティックを持って叩くと、まえすも同じようにスティックを持ってシンバルを叩きまくるのであるが、その後に吹き荒れるブルースハープのサウンドの迫力はザ・クロマニヨンズのライブをも彷彿とさせる。何ならブルーハーツから脈々と続いてきたシンプルかつストレートなロックバンドの系譜の最先端に今このバンドがいるということを示すかのように。
そんな中でまえすはこの日に楽屋に置いてあった三浦ジュン氏からの手紙に
「南無阿部陀仏はいつも通りのライブをやってくれたらそれが1番カッコいいから」
と書いてあったことを本当に嬉しく思っていたようだ。それは普段から三浦ジュン氏が小さいライブハウスに自分たちのライブを見にきてくれているからこそ、そうした場所でのライブを認めてもらってここに立っているという自覚があったのだろう。
そんなこのバンドのどストレートなラブソングである「(かわいいかわいい)君の顔」ではそれまではノイジーなサウンドをぶっ放していたそーやのギターも歌に寄り添うようなものに変化し、それはまえすもギターを弾きながら歌う「5時のチャイム」でもそうなのであるが、若さによる勢いで突っ走っているように見えるけれど、演奏がしっかりしているからこそこうした聴かせるタイプのずっしりとした曲で観客の意識を引き込むことができるのだし、そこには歌唱力などの技術を超えたまえすのロックボーカリスト、フロントマンとしてのオーラ、カリスマ性を感じさせるからこそでもある。
そしてラストの「ミサンガ」では冒頭同様に全員が思いっきり歌声を重ねるようにしてからバンドでの演奏に突入していくのであるが、まだ20歳という年齢であることを考えると、こんなにも会場にいる全員で大合唱するために書かれたかのようなこの曲たちも、もしかしたらメンバーたちは自分たち以外の人が合唱する場面をまだ目にしたことがないのかもしれないと思った。
もしそうして観客全員がこの曲を歌うような光景を見たら、メンバーはどう思うのだろうか。もう心配になるくらいに良い子過ぎるのがライブを見ていても伝わってくるバンドだからこそ、その光景を見せてやりたいし、自分たちの音楽にはそういう力があるということを教えてあげたい。それはきっとこれからの活動や楽曲に反映されてくるはずだから。何なら、メンバーが客席に降りてきてみんなで肩を組んで歌うことができるような日が来たら。そんな明るい未来を想起させてくれるような、南無阿部陀仏との初邂逅だった。
1.若者よ、耳を貸せ
2.青春
3.アドベンチャークルージングパーティー
4.(かわいいかわいい)君の顔
5.5時のチャイム
6.ミサンガ
15:35〜 メガマサヒデ [CHAOS STAGE]
初めてライブを観る若手バンドがいる一方で、実に18年前にこのクラブチッタで開催された「SET YOU FREE」というイベントでライブを見て以来になる、メガマサヒデ。当時はよく銀杏BOYZやガガガSPなんかと一緒にライブをやっていたものである。
でも見た目は当時からほとんど変わらないように見えるというか、山崎邦正らしさが少し増したような感じで、アコギを弾きながら歌うその独特のダミ声もあの頃によく聴いてライブを見ていたメガマサヒデのまんまである。だから全く久しぶりに感じないというか、一気に時間が埋まっていくような感覚になる。
しかしメガマサヒデはこの飾り付けも含めたCHAOS STAGEを、
「エリザベス女王が死んだ教会みたいなステージ」
とわかりづら過ぎる例えで口にすると、
「このフェスの主催者の人はフジテレビの人なんですけど、昔やってた「登龍門」っていう番組に呼んでもらって、中野美奈子アナとのトークで
「メガさんって凄く素敵な人なんですね」
って言ってもらえたのに、何故かそこだけ丸々カットされていた(笑)」
という思い出話で爆笑を巻き起こす。もう中野美奈子アナウンサーも若い人からしたら知らない存在だろうけど、リアルタイムでその番組を観ていただけに「メガマサヒデが中野美奈子と絡んでいるとは…」と衝撃的な瞬間だったことを思い出してしまう。そんな中野美奈子に送る曲が「テレパシー」という曲であるのも実にメガマサヒデらしいのであるが。
そんなメガマサヒデはこうして弾き語りライブをやっているだけあって、今でも精力的に音楽活動を続けているということを示すように最新リリース楽曲の「白昼夢のストレンジャー」を披露するのであるが、どこか身近な存在のアーティストの曲を彷彿とさせるのもまたメガマサヒデらしさと言っていいのだろうか。
「まだセックスマシーン!!に行かないでくれ〜!」
と、観客を繋ぎ止めるように歌いはじめたのはメガマサヒデ最大の代表曲と言ってもいい、フォークソング的な歌唱の「一人ぼっちの世界」であるのだが、それでもまだ時間が余ったということで、
「セックスマシーン!!には間に合うようにするから!」
と言いながら、まるで自身の不死鳥の如きしぶとさをそのまま曲にしたかのような「火の鳥」を弾き語り、実はちゃんと良い曲を歌うシンガーソングライターなんだよなぁということを改めて示しながら、やっぱりこの人は面白い存在の人だよなぁとも思わせてくれた。
ライブ後に三浦ジュン氏から「別にこの人のライブは観なくていいのに(笑)」と言われたけれど、あの当時にライブを観ていた人たちは今はもう活動していないような人も多い。そんな中でまさかメガマサヒデがこうして生き残っているなんて全く想像していなかったが、そんなあの頃一緒にライブをやっていた人たちのことを、メガマサヒデの曲を聴くことによって思い出したりすることができる。もうきっとこの規模のイベントにはこのフェスくらいしか声がかからないだろうから、来年ももし捻じ込める枠があるのならばこの人を呼んで欲しいと思う。どんなに他の人から需要がなくても自分はちゃんとライブを観るから。
1.扉ヲ開ケテ
2.テレパシー
3.白昼夢のストレンジャー
4.一人ぼっちの世界
5.火の鳥
15:55〜 セックスマシーン!!
メガマサヒデからのセックスマシーン!!という流れはこの時間帯だけSET YOU FREEが復活したかのようだ。おそらくこのバンドを観るのもそれくらいぶりとなるセックスマシーン!!である。
メインステージに戻るとすでに
「おーれーおまーえーすきーすきー、おーれーおまーえーすきー」
というバカらしすぎる歌詞の「サルでもわかるラブソング」を絶賛演奏中で、ボロボロのジーンズを履いて首にスカーフを巻いている、やられまくってもなお立ち上がるヒーローかのような出で立ちの森田剛史(ボーカル)はかつてよりも年齢を感じざるを得ない見た目になっているが、その暑苦しいくらいの熱さは全く変わることはない。この曲はやはりこんなに誰でもすぐにわかる歌詞であるだけに初めてライブを観たり、全く曲を知らない人でも大合唱できる曲でもあるのだが、今はそれを手拍子で行うというのはこの状況の中でもライブハウスで生きてきたという生き様を感じさせる。
そんなライブシーンが徐々に冬から春へと向かいつつあることを歌ったというテーマだからこそ、先ほどまでのバカらしさから一転してシリアスな空気になる「春への扉」では金髪にメガネというメンバー随一の若々しい見た目である日野亮(ベース)がキーボードを弾いたり、あるいは森田もキーボードを弾いたりするのだが、緒方賢太のドラムも、近藤潔のギターも、今こうしてライブを観ると実に演奏がしっかりしているバンドだということがわかる。その実力があるからこうして今でもライブハウスの最前線で戦い続けているというのがよくわかる。
「全く別々の道を歩いていても、地球は丸いからお互い一周すればまた会うことができるんですよ!」
と説得力があるのかないのかわからない森田のMCから、そのMCをそのまま歌詞にしながらも、歌詞を聴いていると円周率をかなり下の桁まで覚えてしまうという副次的効果を持った「頭の良くなるラブソング」と、実はめちゃくちゃ頭がいい人たちが思いっきりバカなことをやっている(森田は塾講師としても生活している)ということも今見るとよくわかる。
そんな森田は
「このフェス初めて出させてもらったんですけど、あまりにも最高すぎるんで、俺の中で早くも来年の出演が決定しました!」
と勝手に翌年の出演を決定させ、
「これが第一弾発表だ。すでに来年出ることが決まってる先輩の身として言わせてもらうけど(笑)、来年はきっとライブ中のレギュレーションも変わってるだろうから。今よりは歌えるようになってると思うぞ」
と、MCもバカバカしいようでいて、心からライブハウス、ライブシーンのことを考えていることがよくわかるのだが、日野が
「えー、来月も結構東京に来るので…」
とライブ予定を告知するも、森田に
「そんなんで来る奴がいるかー!本気で来てもらいたい感じで言え!」
とツッコミを入れられ、
「来月も!東京に!たくさん来るので!見に来てください!」
と全力で告知。しかしスキンヘッドの近藤は全力ではない言い方だったのだが、森田は自分より年上であるだけにあまり強く言えないというバンド内年齢差があらわになる。
そんな爆笑MCで一気に会場を引き込みながら、観客の幸せを願って演奏された「夕暮れの歌」、コロナ禍での日々をそのまま歌詞にしながら、それでも光を求めて進んでいくという最新のバンドの曲である「何にもない日々」と、冒頭のバカバカしいインパクトからのギャップが凄まじい真面目な曲が連発され、このバンドがただバカなだけのバンドではない、コミカルだけど熱さを持った、この日の他のバンドたちと通じるものを持ったバンドだということをしっかり示していた。
このバンドには「いい人どまり」という名曲があって、10代の頃によく聴いていただけにまたライブで聴けたらなとも思うのであるが、それが聴けなくても、というかそうした過去の曲ばかりではなかったからこそ、このバンドが今も前に進み続けているということがよくわかる。メガマサヒデもそうだけど、出会った頃はこんなに息が長いアーティストになるなんて思ってなかったが、そんなバンドが今でも面白くて、カッコよくあり続けていることが本当に嬉しくて頼もしい。
1.サルでもわかるラブソング
2.春への扉
3.頭の良くなるラブソング
4.夕暮れの歌
5.何にもない日々
16:50〜 忘れらんねえよ
CHAOS STAGEでカザマタカフミの弾き語りを少しだけ見てからメインステージへ。前日に15周年2daysをやり切ったばかりの忘れらんねえよが早くも次なるライブとして毎年おなじみのこのフェスに出演である。
サウンドチェックで
「ジュンさんからの手紙に
「来年はスマホライトだけじゃなくて大合唱も聞かせてください」
って書いてあったんだけど、今日スマホライト使う「忘れらんねえよ」はセトリに入ってないから、今やります」
と言ってサウンドチェックで「忘れらんねえよ」を演奏し、早くも客席ではスマホライトが光るという、本番前にしてクライマックスのような状況に。この日は爆弾ジョニーのスケジュールの影響か、ギターはLEGO BIG MORLのタナカヒロキ、ドラムはTHEラブ人間の富田貴之。ベースは前日と変わらずヒトリエのイガラシである。両サイドだけを見たらイケメンバンド。
本番ではメンバーとともにハイテンションな柴田がステージに登場すると、前日のライブでは演奏していなかった「踊れひきこもり」をハンドマイクを持ってステージを動き回りながら歌う。普段からサポートしているのが一人だけだからか、髪を後ろで結いていることによってイケメンというか美人になっているイガラシがメインとなってコーラスをしているのも新鮮であるのだが、普段はタイチが歌っているパートも柴田が歌うと間奏では
「ここからJ-POPっぽくなって今まではみんなで合唱してたんだけど、今はできないからどうしようかと思ってたら、今日はオメでたい頭でなによりがいるから、赤飯ちゃんいるじゃん!」
と、去年同様に赤飯が西野カナ的な女性ボーカルパートをその変幻自在の歌声で見事に歌い分ける形で柴田とデュエット。もはやこのフェスにおいてのおなじみのコラボと言ってもいいだろう。
そんなコラボの後には柴田がギターを持ち「俺よ届け」を演奏するのだが、バンドメンバーの熱量の高さたるや、前日の自分たちの主催ライブを越えようかというくらいにタナカは長い髪を振り乱しながらギターを弾き、イガラシはステージ上を激しく動き回りながら高速ダウンピッキングを続け、間奏ではその2人が向かい合うようにして演奏している。爆弾ジョニーのメンバーもそうであるが、いろんなバンドのメンバーたちがこんなにも忘れらんねえよのメンバーとして全身全霊で音を鳴らしてくれている。これもひとえに柴田の人徳と忘れらんねえよの音楽の素晴らしさによるものもあるだろう。
そんな柴田は
「もう5年連続でこのフェスに出ているが、一つだけ物申したいことがある。フェスっていうと今はVaundyやマカロニえんぴつやSaucy Dogあたりが毎回出ているが、このフェスにはどれも出ていない。爽やかさのカケラもない!ライブハウスを巡って珍獣たちを集めてきたかのような濃すぎるラインナップ!(笑)」
とこの日のラインナップに言及するのだが、Vaundy「しわあわせ」のモノマネ歌唱は全くウケずに
「もう2度とやらない(笑)」
とのこと。個人的には結構面白いしクオリティ高いと思うのだが。
前日のライブでもどうしようもない男サイドの忘れらんねえよの代表曲と言っていい「中年かまってちゃん」が演奏されるのであるが、この曲すらもこのメンバーによるエモーションが迸る熱い演奏となっており、実はこのメンバーたちは相性が良いメンバーたちなんじゃないだろうかと思うし、それは全員が忘れらんねえよの音楽を心から愛してくれているからであろう。
さらに「北極星」でもマイクを通さずともタナカも富田も歌詞を口ずさみながら演奏しているのがよくわかるのが微笑ましい(歌詞が歌詞なだけに)のだが、間奏では柴田が照明スタッフに
「打ち合わせ通りに照明落としてくださいー!」
と言って客席だけではなくてステージまでも真っ暗になると、
「くっそー、まさかここで停電が起きてしまうなんて。でもみんなの力があれば奇跡が起きてまた照明がつくはずだ!みんな、ハミングでこの曲の歌詞を合唱してくれー!」
と、飛沫が飛ばないハミングで合唱を巻き起こし、そんなこのフェスの力によって停電が復活するという小芝居によってさらなる一体感を生み出し、「Cから始まるABC」で客席はルールを守りながらも思いっきり暴れ、踊りまくる。
「残された俺たちはJUNE ROCKで踊りました」
という歌詞も、それが何よりも最高だと思わせてくれるのである。
そして柴田はそんな濃いメンツを集めたこのフェスと、ずっと呼んでくれる主催者への感謝を「おっさんがおっさんに愛を伝えるのはみんなからしたら不快でしかないから(笑)」という理由で、その思いを込めて
「アイラブ言う ジュンさんが好きだと言うのさ」
と歌うと、客席にいた三浦ジュン氏を称えるように周りにいた観客たちが一斉にその場にしゃがむという、この人が愛されていないと絶対にこんなことは起きないという光景に。そこからは観客がそれぞれのバンドを観たいと思っているのはもちろんだが、この人が集めたアーティストたちのフェスなら最高になるに違いないという思いによってこうして観客が集まっているのがよくわかるし、「アイラブ言う」はそうしたこのフェスを愛するここにいた全ての人に向けて鳴らされていたようだった。
前日までの2daysで全て出し切っていてもおかしくないのに、それでもその翌日にこんなにも素晴らしいライブを見せてくれる。それは忘れらんねえよの、柴田の自分たちを愛してくれている人の思いに応えたいという感情がそのまま音になっていたかのようだった。そんな人間臭すぎるバンドだから忘れらんねえよが、そのバンドが愛するこのフェスが大好きだと思えるのだ。
リハ.バンドやろうぜ
リハ.忘れらんねえよ
1.踊れひきこもり w/ 赤飯
2.俺よ届け
3.中年かまってちゃん
4.北極星
5.Cから始まるABC
6.アイラブ言う
17:25〜 あの [CHAOS STAGE]
近年はバンド、I'sとしても活動しながら、ソロとしてテレビにも出演するようになってきた、あの。この日は弾き語りとしてCHAOS STAGEに出演である。
しかしながらこのライブの数日前に右手を骨折してしまったことによって、弾き語りではなくてI'sの相棒のナカヤマをギターに迎えての編成。包帯をぐるぐる巻にした右手は痛々しくもあるが、この人がやるとどこかそれもファッションであるかのように見えてくる。
そんな形であるだけに歌唱に専念しているということもあるだろうし、今年忘れらんねえよの対バンツアーの千葉LOOKで見たI'sのライブの爆音と真逆の削ぎ落とされた編成というのもあるだろうが、あののボーカルが圧倒的に力強さを増している。舌足らずというかロリっぽい声質は変わることはないのだが、その歌声をしっかりと端から端まで届けられる歌い方を会得しているというか。それはバンドとしてライブハウスを巡ってきたという経験から得たものなのかもしれないし、この日最もこのステージが混雑して、3階のバルコニーまで人で埋まるくらいに超満員になっていたのは話題性だけではないということだ。
自ら骨折してしまったことを説明しながら、クリープハイプの尾崎世界観が手がけた新曲「普変」を歌うと、そのフレーズ、歌詞に応じて声をガラッと変えるようにして歌うという表現力を見せつけ、それについつい慄いてしまう。自分はアイドルグループ時代のこの人のことをちゃんと観たことがないのだけれど、もしその頃からこうした表現力を持っていたのだとしたら、こうしてソロ、あるいはバンドとして自分の表現を音にしようと思ったのはビジュアル面だけではなくて表現者としても真っ当なものだったんだなと思える。すでにVaundyが担当して話題沸騰している「チェンソーマン」の週替わりエンディングテーマに起用されることが決定している「ちゅ、多様性。」も実に楽しみだ。
17:45〜 メメタァ
このフェスには初出演であるが、すでにそのバンド名のインパクトの強さもあってライブハウスシーンではよく知られる存在である4人組バンド、メメタァ。初出演にして後半と言っていい時間帯である。
メンバーがステージに揃って、こうしてロックバンドとしてライブハウスで音を鳴らしている喜びを曲として爆発させるような「デイドリーマー」からスタートすると、音源でのストレートなギターロックバンドというイメージよりも圧倒的に熱い。それは西沢成悟(ボーカル&ギター)の張り上げるようにというか、もはや叫ぶようにして歌う姿、そこに挟まれる言葉からも感じられることなのであるが、そんな西沢の見た目だからこそ歌える「僕がメガネをとったら」という曲もそうであるが、鳴らしている音は熱いのであるが、メンバーの見た目は工藤快斗(ギター)も、カワギシタカユキ(ベース)も、名前だけはド派手なサンライズ太陽(ドラム)も、実に素朴だ。体格の良いサンライズは叩きながらの笑顔も含めて目を引くが、出で立ちもプレイスタイルも決して派手さがあるようなバンドじゃない。
そんなバンドだからこそ、自分が「その他大勢」であることを歌った「その他」という曲にもリアリティが宿るというか、そこから逆転するためのロックバンドのヒーロー劇のようにも感じられるバンドだと思える。それはこのバンドが掲げるテーマである
「君がッ泣くまで歌うのをやめないッ!」
をそのまま曲にした「ハイライト」に最も顕著だ。そのテーマはやはりこのバンドの持つロックバンドの熱さがあるからこそであるし、それこそがこのバンドがこの日の面々の中に割って入ってこれる理由でもある。
このバンドにとってもこのクラブチッタのステージはバンド史上最大規模であり、主催者が普段から小さいライブハウスに自分たちのライブを観に来てくれていたからこそこのライブに繋がっているということをやはり熱苦しいほどに熱く、なんならもう熱すぎてちゃんと言葉を聞き取れないくらいに熱く西沢が語ると、さらにその思いを加速させるような「ロスタイム」では工藤が広いステージを最大限に使いながらギターを弾きまくり、そして弱い自分を輝かせるように音が鳴らされる「光の向こうに」を最後に演奏したのだが、それは普段自分たちが音を鳴らしている下北沢などの小さいライブハウスを光の方へ導こうとしているかのようだった。
この得意なバンド名の由来は「ジョジョの奇妙な冒険」の断末魔的なセリフから取られているという。その由来だけ見たらどんな飛び道具的なバンドかと思うけれど、この日の他の出演者たちがそうしたバンドたちばかりであるために、このバンドは名前とは裏腹に正統派に熱いバンドだった。
1.デイドリーマー
2.僕がメガネをとったら
3.その他
4.ハイライト
5.ロスタイム
6.光の向こうに
18:20〜 ナギサワカリン [CHAOS STAGE]
先ほどのこのCHAOS STAGEに登場した、あのは黒髪ショートという出で立ちだったが、次にステージに現れたこのナギサワカリンは長い髪を上で結いた派手な金髪という髪型で、アコギを手にして
「大分県出身のシンガーソングライター、ナギサワカリンでーす!」
と大きな声で挨拶するあたり、キャラクターも全く異なるというあたりが実にCHAOS STAGEという名前に見合っている。
歌い始めるとその声量の大きさをフルに発揮するような、情念が思いっきりこもった弾き語りというのは同郷の先輩である阿部真央がデビュー当時に弾き語りをしていた頃のことを思い出させるのだが、声量が大きいだけでなく歌唱力自体も抜群であることが聴いているとすぐにわかる。天真爛漫なキャラクターのように見えるが、きっとここに至るまでに歌い続けて自分の力を磨いてきたというのがわかるような。ずっと歌だけで戦い続けてきたというか。
その自らの歌の力で来年以降にこのフェスのメインステージに出ることを予告すると、最後にはマイクから離れてアカペラで思いっきり声を張って歌い上げるのであるが、それでも客席だけではなくてバルコニーまでも聞こえていたであろう素晴らしい歌唱力。正直言って、この日見るまで全く知らなかった存在だったのだが、これからいろんな場所で歌う姿を見ることになるのかもしれないと思った。
18:40〜 バックドロップシンデレラ
昨年のこのフェスのトリにして、今年は全国各地の様々なフェスに出演してはウンザウンザさせまくってきた、バックドロップシンデレラ。紛れもなくこのフェスを象徴するバンドの一つである。
「ライブハウスの珍獣」という忘れらんねえよ柴田の言葉がこんなに似合うメンバーたちによるバンドもそうそういないだろうなと思うような4人がステージに現れると、でんでけあゆみ(ボーカル)は襟足のあたりを緑色に染めており、おなじみの「台湾フォーチュン」からその身軽すぎる機動力で、観客以上に誰よりも踊りまくっている。
もうこの曲歌う必要ないくらいに毎週のようにどこかのフェスに出まくってるじゃん、とも思うのであるが、それでも豊島"ペリー来航"渉(ギター)が刻むスカのリズムのギターで観客が踊りまくると、曲中には鬼ヶ島一徳(ドラム)が
「俺はジュンさんが好きだー」
と言いながらドラムを叩くと、アサヒキャナコ(ベース)もそこにコーラスを乗せ、観客も拳を振り上げるようにしてその空気が広がっていくのを豊島が制し、
「なんか昼間に着いてニュース見てたら、ライブハウスのガイドラインが変わって、25%まで声を出していいみたいになったらしいんだけど、まだちゃんと見てなくてよくわかってないから、今はまだ25%の歌声じゃなくて、100%のハミングを響かせてもらってもいいでしょうか!」
と、コロナ禍における発明とも言える、飛沫が飛ばないハミングでの合唱を促すと、
「120%!」「200%!」「300%!」「1000%!」
とどんどん観客のボリュームを上げていき、観客もそれに応えるだけについつい笑えてきてしまう。でもそんなこのバンドが編み出した、コロナ禍だからこその発明のコミカルな大合唱もそろそろ終わりを迎えようとしていると思うと少し寂しくも思えてくる。
そんなバンドはタイトル通りに世界中のあらゆる理不尽な状況に中指を立てるという、実はコミカルなだけではなく強いメッセージを持ったバンドであるということを示すような新曲「HATEです」をリリースしたばかりであり、早くもライブでもこうして演奏しているのだが、それはコロナ禍も含めて今この状況をそのまま歌にしたものであり、このバンドの根底には確かに「怒り」という感情があるということがわかる。
それに連なるようにコロナ禍になったばかりの2年前のリアルな心境を綴った「2020年はロックを聴かない」が続くことによって2年間でのバンドの歌うべきことの変化を感じさせるのだが、豊島は
「VのJが去っていけば、Aが戻ってくる…。わかりづらいか(笑)
ずっとライブハウスで一緒にやってきた、ビレッジマンズストアのJackが辞めるっていうことで。今日が最後の対バンか…と思ってたら、俺たちが会場に着いた時にはビレッジはもう居なくなってた(笑)
でも「どうしようもないくらいの音楽性の違い」によって活動してなかった、アシュラシンドロームが今日は戻ってきます!」
とずっと一緒に戦い続けてきた盟友たちへの思いを口にすると、そうして戻ってくることを選んだアシュラシンドロームを祝うようにして「祝え!朝が来るまで」を演奏するのであるが、この曲はまたオールナイトでこのフェスが開催できるようになった時により祝祭感を増して響くことになるはずだ。
そしてでんでけの驚異的な跳躍力が遺憾なく発揮される「月あかりウンザウンザを踊る」では、まさに踊る奴がこのフェスでは1番偉いということを示すように、鬼ヶ島が叩き出す祭囃子に乗せて観客が踊りまくると、ラストの「さらば青春のパンク」ではでんでけが
「今日、君がつけているリストバンドは去年もそうだったけど、出演者がフェスタイトルとサインを書いてるんよ。そこに当たり外れなんてないから。今日自分のリストバンドにサイン書いてくれたバンドをこういうきっかけで好きになってもいいんじゃないかと思うよ」
と、この手作り感が至る所に溢れるフェスだからこその愛を込めた言葉(去年はこのバンドがサインを書きまくったらしい)を語りかけ、それを自身の大ジャンプに込めるようにして飛んでからステージ上を踊りまくる。それがより我々をも踊らせてくれる。ライブハウスに生息する珍獣はあらゆるフェスに出るようになっても、このフェスへの深い愛を確かに持ち続けている。
1.台湾フォーチュン
2.フェスだして
3.HATEです
4.2020年はロックを聴かない
5.祝え!朝が来るまで
6.月あかりウンザウンザを踊る
7.さらば青春のパンク
19:15〜 後藤まりこ アコースティックviolence POP [CHAOS STAGE]
このCHAOS STAGEという名前の最大の要因はこの後藤まりこが出演するからということなんじゃないかと思う。今年復活したこのステージのトリとして、後藤まりこが降臨。
オレンジ色のパーカーを着てボブカットの後藤まりこが椅子に座ってアコギを持つと、自己紹介をしてからそのガーリーな、バンド時代とは全く違う包容力すら感じさせるような歌声を響かせる。ミドリ時代から客席に突入しまくるというパフォーマンスを繰り広げていただけに、こうしてコロナ禍になったことによってどんな形でのライブをするようになっているんだろうかと少し心配すらあったのだが(なんならCOUNTDOWN JAPANに出演した際も「ダイブ禁止って言われたけど、人の上を歩くなとは言われてないねん」と言って客席に突入してその上を歩き回っていた)、主催者挨拶でも言っていたように、今はそんなパフォーマンスをせずにひたすらに歌で勝負するようになっているというのは、この時勢をちゃんと把握、理解しているとともに、自分が今求められている理由もちゃんとわかっているのだろう。
だからこそ決して驚くほどの声量があるわけでもないし、叫ぶようにして歌うわけでもないのだが、それでもやっぱり他の人とは全く違う、この人が歌うからこそ生まれる独特な空気というものが確かにあるのだということを確かめさせてくれるのであるが、急に
「めちゃくちゃな恋がしたくてTinderに登録しました。明日25歳のバーテンダーと飲みに行く(笑)」
と、ライブは今の時勢に合わせたものになっているけれど、私生活での破天荒っぷりは全く変わっていないことを感じさせてくれる。つまりは後藤まりこらしさは今も全く変わっていないということであり、きっとライブシーンがコロナ禍から解放された時(この人はルールやガイドラインがあるうちは来てくれる人を不安にさせるようなことはしないはず)にはまたあのはちゃめちゃな後藤まりこのライブを見ることができるようになるはずだと思った。
19:35〜 アシュラシンドローム
小さい規模のサーキットなんかで名前はよく見ていたが、ちゃんと追っていないので申し訳ないけれど、実に1年ぶりのライブであるらしい。バックドロップシンデレラの豊島に「どうしようもないくらいの音楽性の違い」という理由で休止していたというアシュラシンドローム、なんとこのフェスをきっかけにして活動再開である。
黒シャツにネクタイの青木亞一人(ボーカル)、金髪に白TシャツのNAGA(ギター)、筋肉質でタンクトップのNAOKIX(ベース)と、確かに見た目からしてメンバーはバラッバラなのだが、そんなメンバーの鳴らす重めというか濃い目のロックサウンドを引き締めるのが2ステージ連続での出演となる、サポートドラマーのバックドロップシンデレラの鬼ヶ島一徳で、スカなどの軽快なダンスサウンドのバックドロップシンデレラとは対照的と言えるようなこのバンドの演奏を段違いの現役感でまとめ上げているのを見ると、鬼ヶ島は本当に凄いドラマーであることがよくわかる。打首獄門同好会のサポート時はまだ近しいサウンドだったのだが、こうして全く違うサウンドのバンドを叩くとそれがよくわかる。
しかしながらやはり1年ぶりのライブということで青木は歌うごとに汗を流しまくり、かなり疲れを見せているのだが、たくさんの観客がこのバンドの帰還を待ち望んでいたということが「山の男は夢を見た」での山の形を腕で作る振り付けが溢れることによってよくわかるのだが、そんなバンドはこうして活動再開をしたことによって、4月にはワンマンライブを開催することも発表。その時にはきっとこの日よりもライブの体力を取り戻しているはずだ。
そんなこのバンドもバックドロップシンデレラ同様に25%の歓声を出していいというニュースを目にしたようで「Over the Sun」のコーラス部分で観客の25%くらいの合唱を求めるのであるが、その遠慮しがちな微かな合唱が実に感動的に聴こえた。それは自分がコロナ禍になってからライブハウスで聴いた初めての合唱だった。その合唱がこのバンドが帰ってくるのを信じて待っていた人たちによるものだったからこそ、より感動してしまったのだ。青木は去り際にめちゃくちゃバテバテだったけれど、自分が想像していたよりもアシュラシンドロームというバンドは良いバンドだった。きっとこれからまたこのフェスをはじめとしたいろんなライブで会える機会があるはずだ。
20:30〜 四星球
このフェスの主催者が愛するバンドである、四星球。2日前には忘れらんねえよの対バンに出演し、前日はまさやん(ギター)が新宿で弾き語り、そしてこの日と常にどこかでライブをやりまくっているバンドである。
本番前にはライブの最後に時々やることがある、モリス(ドラム)が発狂してステージを走り去っていくという締め方の予行練習をするというネタバレ的なリハをすると、本番でおなじみの法被を着た北島康雄(ボーカル)が
「皆さん、いろんなバンドが感謝を口にしていた、このフェスの主催者のジュンさんがステージに出てきます!」
と言うと、ステージに現れたのはペ・ヨンジュンのコスプレをしたまさやん。(しかもやたらと似ている)
ヨンジュンの「ジュン」だけの被りによってジュンさんとして韓国語で観客に挨拶をするのだが、初っ端の「クラーク博士と僕」の演奏中にその衣装やカツラを全て吹っ飛ばしておなじみの褌姿になると(ちなみにU太とモリスはこの日は扮装なしの法被姿)、北島はステージ前にいた男性カメラマンをステージに上げたかと思いきや、もう一人の女性カメラマンまでをもステージに上げ、
「互いに撮り合え!」
とカメラマンがカメラマンを撮影するという何の意味もない構図を作り上げ、さらにヨン様は男性カメラマンに自身が脱いだコートをかけてあげ、北島は女性カメラマンのカメラを奪うと、ステージ袖にいたオメでたい頭でなによりの赤飯にカメラを渡して撮影してもらうという、CHAOS STAGE以上にカオスな光景が広がる。もうこの時点でわけがわからなくなる。
そんなカオスさから一転してこのバンドのパンクさを感じさせる「薬草」でメンバーも観客も飛び跳ねまくると、北島はのっけから飛ばし過ぎたことによって疲れてしまい、ステージ上に寝転ぶと、その姿を見たまさやんは
「産まれたての仔馬じゃない!?」
と言って最近おなじみの「UMA WITH A MISSION」を演奏して振り付けを踊るのだが、後ろの方にいる人が見えるようにと客席の前の方にいる人から順番に座っていくという、信じられないくらいに優しい世界が広がっていく。これもこのフェスの空気や集まる人によって生まれる展開だというのは、他のフェスではこうならないから。マジで四星球が世界生中継でライブをやったら戦争とか紛争なんて無くなるんじゃないのかとすら思えてきてしまう。
そんな「UMA WITH〜」では2回ほど北島が立ち上がろうとして倒れるという茶番が繰り返されるのであるが、まさやんがギターを演奏すると立ち上がるということもわかってくる。この日はまさやんはライブパワーのスタッフにまで立ち上がるのを応援させようとして、そのスタッフもちゃんと腕を挙げて応援していたのがよりこのフェスの平和な空気感によく似合っていたのだが、北島が立ち上がると座っていた観客も立ち上がるというのは実によくできている。
そんな北島は主催者がフジテレビ「LOVE MUSIC」の制作者であることから、
「いつか森高千里さんに許可を貰うためにこの曲をLOVE MUSICに歌いにいきたい」
と、森高千里「私がオバさんになっても」のアンサーソング「君はオバさんにならない」でそのどこか切ないメロディを響かせ、「妖怪泣き笑い」で再び観客を座らせると、
「今日、このフェスに初めて出るっていうバンドが「こんな広いステージに立つの初めて」って言ってるのを見て初々しいなと思いながら、自分たちが初めてクラブチッタに立った時のことを思い出していた。あれはSET YOU FREEだったか、STANCE PUNKSのロックの日だったか。
それと同じように今日出た全部の出演者が主催のジュンさんに感謝するMCしてたでしょ?フジテレビで仕事して終わってすぐライブハウスにライブ観に行くっていうことしてるから、あの人は。でもそれってあなたたちも同じでしょ?仕事してライブハウス行ってっていうのは。つまり今日の出演者が感謝を告げていたのはジュンさんであり、あなたなんですよ!」
と口にする。その言葉が、我々が一緒にこのフェスを作っているというように聞こえて本当に嬉しかったし、こんなに凄いバンドがそう言ってくれるんだから、平日に仕事が終わった後に急いでライブハウスに行く生活はやめられないなと思う。
そしてかつてフジテレビでやっていた音楽番組への想いを込めた「HEY!HEY!HEY!に出たかった」でロックバンド・コミックバンドとしての衝動を叩きつけると、持ち時間がオーバーしそうということで急遽セトリを変えて演奏した「レッツ・エンターテイメント」の締めのドラムロールでリハ通りにモリスが発狂してステージから出て行った…と思ったら戻ってきたのはなんと法被を着た、バックドロップシンデレラのでんでけあゆみというリハを裏切るまさかのオチ。やっぱり四星球はいつも我々の何手も先を行っている。その上でユーモアと優しさを忘れることなく、ロックバンドとしての熱さも持ち合わせている。このフェスの空気を最も体現しているのはやっぱりこのバンドだ。
リハ.ギンヤンマ
リハ.Teen
リハ.リンネリンネ
1.クラーク博士と僕
2.薬草
3.UMA WITH A MISSION
4.君はオバさんにならない
5.妖怪泣き笑い
6.HEY!HEY!HEY!に出たかった
7.レッツ・エンターテイメント
21:25〜 オメでたい頭でなにより
そしていよいよ長丁場だった(しかも濃いメンツばかりだから疲労感も濃い)この日のトリ。すでに忘れらんねえよにも四星球にも赤飯(ボーカル)が出演している、オメでたい頭でなにより。リハで最近バンドがハマっているというレッチリのようなファンキーな演奏から、赤飯が原曲キーで大塚愛「さくらんぼ」カバーを歌うなど、すでにトリへの期待は充分である。
メンバーが登場すると赤飯は
「このSEで出てくるのも久しぶり。っていうことはどういうことか?羽ばたけJUNE ROCKっていうことだ!」
と「鯛獲る」からスタートし、ラウドを軸にしたバンドサウンドだからこそのバンドの演奏力の高さを見せつけるのだが、その演奏にも赤飯のボーカルにもトリとしての気合いが漲りまくっているのがよくわかる。そりゃあこのメンツの中でのトリを任されているのだからそれはそうであろう。
バンドはニューアルバムをリリースしたばかりということで、明らかにタイトルからしても俗に言う「主語デカくなりすぎ」という言葉に対しての皮肉を込めたと思われる「超クソデカマックスビッグ主語」で、シンセなどの同期というカッコいいものはなんでも取り入れまくるというハイパーなサウンドを鳴らすのであるが、mao(ベース)のスラップ、ミト充(ドラム)のラウドさを支えるビートなど、聴いていて体が動かざるを得ない迫力だ。
赤飯とぽにきんぐだむ(ギター&ボーカル)が交互にこうしてこの日のトリを務めることができている喜びを語ると、早くも演奏された、アニソンやアイドルソングの要素までも取り入れ、客席ではサイリウムも光り輝く「推しどこメモリアル」ではメンバーも振り付けを踊りまくると昨年同様に主催者の三浦ジュン氏をステージに招き、ビニール製のギターでエアギターさせると、四星球、アシュラシンドローム、バックドロップシンデレラというこのフェスおなじみのバンドのギタリストたちが次々にステージに現れ、さらには思いっきり缶ビールを飲んでいる忘れらんねえよの柴田と富田までもが出てきてみんなで踊りまくる。これだけでももう「これライブの最後にやるやつじゃない?」という大団円感なのだが、ビニール製ギターが客席に投下されると、
「ジュンさんはいつも客席からライブ見るのが好きだから!」
と言って観客に通路を作らせて三浦ジュン氏をステージから客席に突入させ、そのまま三浦ジュン氏を崇めるようにして全員が座ってから一斉に立ち上がって踊りまくる。こんな、フェスの主催者が客席で踊るのを見ているなんてフェスは間違いなく他にないし、オメでたのメンバーから本当に愛されてるということがよくわかる。
そんな大団円感もありながらもまだまだライブは終わらず、ニューアルバムからEDMサウンドを取り入れた「HAKUNA MATATA」、ぽにきんぐだむのラップが炸裂するというヒップホップを取り入れた「あれこれそれどれ」と、元からラウドと言い切るには他のラウドバンドから叩かれそうなくらいにあらゆる音楽を飲み込んで進化してきたこのバンドが、さらに幅広い音楽性を手に入れたことがわかる。それはそうしたあらゆる音楽をメンバーが聴きまくっているからだということがわかるし、タッピングまでをも軽々とこなす324(ギター)も、曲やフレーズによって声色を変える赤飯もメンバーそれぞれの特異的と言っていいくらいの技術があるからこそできるものだ。
そしてまさにフロアを沸騰させるように熱気が増していく「スーパー銭湯 〜オメの湯〜」から、ラストの「オメでたい頭でなにより」では赤飯が
「ルールは破らずに俺たちは少しずつライブハウスを元の形に戻していきたい。ルールは絶対守るから、そっち行って歌っていいやろ?この距離が空いてれば大丈夫だから、みんな道開けてくれ。前までは俺にグワーってみんながぶつかってきたりしたけど、今日はそういうのはやめよう。みんなその場で楽しんでくれ」
と言うと、赤飯が客席の中へ入って歌う。それはもしかしたらルールなんか知ったこっちゃないというバンドのライブではコロナ前と変わらずに行われているのかもしれない。でもルールを守るバンドのライブを見続けてきた自分としてはコロナ禍になってから初めて見る光景だったし、赤飯が
「お邪魔します!…じゃないな。みんな、お帰り」
と言った瞬間に涙が溢れそうになってしまった。その後に25%の声量で合唱を起こしたことも。そうしたモッシュやダイブや合唱がなくてもライブが見れるだけで楽しいと思っていたけれど、やっぱり自分がライブハウスの何が好きだったかって言ったら、こんな普段生活していて絶対見れないような光景が音楽を通して見ることができるのが好きだったのだ。それをこの日のオメでたのライブはルールを守りながら確かに思い出させてくれた。それはこのバンドがトリだからこそ見ることができたものだし、
「オメでたい頭でなによりです
守りたい場所があるのならば
オメでたい頭でなによりです
続けいつまでも」
というこの曲のフレーズはこの瞬間のためにあったかのようなものだった。
アンコールを求める手拍子に求めて出てきた赤飯は演奏はしなかったものの、
「あんたたち。よくやったよ!」
と観客に言ったが、それはこのバンドに対して我々が送りたい言葉だった。
1.鯛獲る
2.超クソデカマックスビッグ主語
3.推しどこメモリアル w/ JUNE ROCK オールスターズ
4.HAKUNA MATATA
5.あれこれそれどれ
6.スーパー銭湯 〜オメの湯〜
7.オメでたい頭でなにより
主催者の三浦ジュン氏は本当に不思議な人である。これだけたくさんの出演者に感謝を告げられていると本当に凄い人なんだなと思うけれど、普段話してたりしていると全然そんな感じがしない。それは会うのがライブ会場の関係者席とかじゃなくて、いつも我々がいる客席だからだ。我々と同じ目線でいつもライブを見ているから、偉い人・凄い人というよりもただただひたすらに音楽が、ライブが好きな人として接することができるし、このフェスがこんなにも楽しいのはそうした我々と同じように普段からライブを見ている人が作っているからだ。そんな誰よりも信用できる人が作るこのフェスが、これからも毎年続きますように。
12:30〜 サバシスター (Opening Act)
本編開始前にオープニングアクトとして登場するのは、今年SUMMER SONICにも出演した女性3人組バンド、サバシスター。オープニングアクトとはいえ大抜擢のクラブチッタのステージである。
バンド名に合わせるようにビッケブランカ「Cava?」のSEでメンバーが登場すると、やはりというかなんというか、サポートベースのサトウコウヘイ以外のメンバーの見た目が若いというかもはや幼いと言っていいくらいに感じるのだが、なち(ボーカル&ギター)がギターを弾きながら「ジャージ」を歌い始めた瞬間に「うわっ!」と思った。それくらいに歌と鳴らしている音に特別な力が宿っているバンドであるということが1音鳴らしただけですぐにわかる。
「スケボー泥棒」というなんだそりゃと思うような視点の歌詞を曲に落とし込むことができるセンスも素晴らしいが、ドラムのごうけの家族であるプレーリードッグのぬいぐるみの「しげちゃん」(ちゃんとギターアンプの上にいる)のことを歌った曲を説明する際の喋りがまだたどたどしさを感じさせるからこそ、より歌の逞しさに驚いてしまう。やはり歌う時にはスイッチが入るようなタイプだったりするのだろうか。
音源にも収録されている「アイリー」を聴いていても、こうしたバンドは曲もライブも良いけど演奏力はさておき…みたいな感じになりがちなのだが、すでに今の時点で演奏も実にしっかりしているというのもまた驚きである。特別難しいことや新しいことをやっているわけではないけれど、ライブが良いと思える理由がその音からしっかり感じられる。
「主催のジュンさんとはよく下北沢のライブで会うんですけど、友達っていうわけじゃないから挨拶するくらいの感じで…(笑)」
という関係性も実に正直なものであるが、スーパーのタイムセールが終わったことを人生に例える「タイムセール終わってくれ」というあたりの曲は早く音源としても聴きたくなるくらいに期待が高まってしまう。まだまだいろんな曲を持っているんじゃないかと思ってしまうから。
そして最後に演奏された、まさにタイトルそのままにこれからも突き進んでいく覚悟を歌うかのような「サバシスター's THEME」ではなちとともにるみなす(ギター)も前に出てきて並んでギターを弾きまくるのだが、その姿から感じるオーラと鳴らしている音にゾクッとした。きっとこれからこのバンドをもっと大きなステージで見ることになる。いろんな人がそう言うと思うが、チャットモンチーやHump Backを初めて見た時のことを思い出さざるを得ない。そのバンドたちの系譜を引き継ぐ、楽器を思いっきり鳴らして歌うだけのロックバンドに宿る魔法のようなものをこのバンドは体現しているし、まだ原石のようでいてこの原石はすでに光り輝いている。それはこれからさらにいろんなライブを経て研ぎ澄まされていく。あまりにもこの先が楽しみなバンドとの初遭遇。もうこの時点で今年のJUNE ROCK FESTIVALは忘れることができないものになった。
1.ジャージ
2.スケボー泥棒
3.しげちゃん
4.アイリー
5.タイムセール逃してくれ
6.サバシスター's THEME
13:10〜 ビレッジマンズストア
主催者挨拶の最中にメンバーがセッティングを初めてそのままリハを演奏し始めた、ビレッジマンズストア。なんとこの日はこのライブと名古屋でのライブというとんでもないダブルヘッダーのスケジュールである。
本番でおなじみの赤いスーツを着たメンバー5人がステージに現れると、その中で一際目立つ白い羽飾りを首にかけた水野ギイ(ボーカル)が「夢の中ではない」を歌い始めるのであるが、その歌声が耳が痛くなるくらいに大きい。もちろん荒金祐太朗と岩原洋平のギターコンビの鳴らす音も爆音であるのだが、ボーカルでそう感じさせる歌を聴かせられる人はそうそういない。その声量、肺活量、響かせ方は本当にこの男がロックンロールスターであることをその見た目や立ち振る舞いだけではない音楽的な部分で感じさせてくれる。
「日本一昼に会いたくないバンド、ビレッジマンズストアだ!
長いイベントだからちょっとずつちょっとずつ上げていって最後に最高になっていく…なんて考えは今すぐ捨ててください!今この瞬間が最高なんだ!」
と言って、Jack(ベース)と髪がかなり伸びたことで振り乱すようにしてドラムを叩く坂野充のリズム隊も曲入りのタイトルコーラスを重ねる「TV MUSIC SHOW」はこのフェスの主催者がフジテレビで音楽番組を制作している人物だからこその選曲かと思ってしまうのは考えすぎかもしれないが、今年配信リリースしたばかりのこの曲がすでにライブにおけるキラーチューンに育っているし、サビのメロディの力が本当に強い。コロナ禍でも戦い続けてきたライブハウスのロックンロールバンドが手にした新しい武器だ。
さらにおなじみの「逃げてくあの娘にゃ聴こえない」ではイントロでメンバーに合わせて前方の観客から一斉にヘドバンをするのであるが、水野はそれを見て一度演奏を止め、
「戸惑ってる君が正解だ。いきなり周りの人がこんな頭振り始めたらそりゃあビックリするだろう(笑)
でも君がそれをやってくれないと、この時間に俺とめちゃくちゃ目が合ってしまうからな!」
と言って、ただヘドバンしろ!と言うんじゃない方法で客席一面にヘドバンを巻き起こすのは実に見事であるが、コロナ禍前にはギター2人が客席に突入していたこの曲の間奏部分ではその荒金と岩原がギターを弾きながらとは思えないスピードと激しさでステージを駆け回りまくる。それを見ていると客席に突入できないのはむしろバンドの進化に繋がったんじゃないかと思うくらいにステージ上の見せ方が圧倒的に凄まじくなっている。
そんなバンドの進化はかつては観客が全員で大合唱していた「サーチライト」をメンバーだけの合唱で成立させるという、演奏だけではない歌唱の強化からも伺わせるのであるが、サビでサーチライトに照らされるように腕を伸ばしていた観客たちはきっとみんな心の中で歌っていたはずだ。
しかしこのバンドは今大きな転機を迎えている。そのダンディズムを含めたベースでバンドを支え続けてきたJackが今月でバンドを脱退してしまうのだ。そのことを水野は
「俺たちは去年は呼ばれなかった。俺はそれを死ぬまで言い続けるだろう。2021年のJUNE ROCK FESTIVALに呼ばれなかったって。でもこのフェスにはカッコいいバンドだけが出ていて欲しい。ダサいバンドが出れないようなフェスであって欲しい。俺たちは今月でJackが居なくなってしまうけれど、1年かけて今の俺たちよりカッコよくなってまたこのフェスに戻ってくる!」
とあくまで前向きなものとして捉えて宣言した。だからこそ「LOVE SONGS」の
「サヨナラだベイベー」
というフレーズは決して別れの寂しさを歌ったものではなくて、サヨナラすることによって新しい自分たちに出会うために鳴らされていたようにも感じられた。もちろん、右腕を掲げながらこの曲を鳴らしているJackの姿を見ていると涙が出そうになってしまうけれど。
そんなこの5人でのこのフェスで最後に鳴らされたのは「眠れぬ夜は自分のせい」で、飛び切りスイートなロックンロールが鳴らされる。ギタリスト2人はステージ前に出てきて思いっきりギターを掻き鳴らしているその姿は、今のこの5人でのビレッジがやはり最強であるということを示しているかのようだった。
でもこの5人は最初からこの5人だったわけじゃない。かつてもここからというタイミングでギタリストが脱退することになるというリセットがあった。でもそこで加入したのが荒金だった。つまりリセットがあったことでより強くなったのをファンはみんな見てきたのだ。だからJackが抜けてもまた新たにとんでもないメンバーを加えて、今を超える最強のビレッジになるんだろうなと思えるのだ。それでも、やっぱりもっとこの5人でのライブを見ておけば良かったと思ってしまうけれど。
リハ.黙らせないで
1.夢の中ではない
2.TV MUSIC SHOW
3.逃げてくあの娘にゃ聴こえない
4.サーチライト
5.LOVE SONGS
6.眠れぬ夜は自分のせい
14:05〜 プッシュプルポット
昨年にこのフェスの主催者の三浦ジュン氏が主催するイベント「若者のすべて」に出演している、金沢の4人組バンド、プッシュプルポット。その時にもサブステージながら抜群のインパクトを残しただけに、ついにこのフェスのクラブチッタのステージに登場である。
4人がステージに現れると、金髪の明神竜太郎(ドラム)が笑顔であらゆる方向の観客に手を振ると、山口大貴(ボーカル&ギター)が
「金沢のロックバンド、プッシュプルポットです!ライブハウスの歌!」
と自己紹介して「Unity」からスタートするのであるが、もうこのスタートからあまりに熱い。熱すぎる。サウンド的には青春パンクと言っていいくらいにシンプルなものであるし、歌詞も難しい単語や言い回しは一切使ってないくらいのストレートなものなのだが、だからこそメンバーの持つ真っ直ぐさがそのまま伝わってくるし、轟音を鳴らしまくる桑原拓也(ギター)、時に大きくジャンプしながらリズムを刻む、髪色が金と黒が半々の堀内一憲(ベース)の演奏が明らかに以前見た時よりもレベルアップしまくっているのがわかるし、それはそのままバンドの進化へと繋がっている。続く「ともに」もそうであるが、より腕を上げざるを得ないくらいのエモーションが放出されまくっているのである。
山口はその「若者のすべて」のサブステージに出演した際に
「次はデカいステージで!」
と言っていたのだが、こうして今までのバンド人生の中で1番大きなステージに立てたことを、主催者がその時の言葉を叶えてくれたと感謝を語ると、ただ爆音かつ激しくて勢いがあるだけではなくて、キャッチーな部分も持ち合わせているということを感じさせてくれるのが、メンバー全員の声が重なる「愛していけるように」から、山口のファルセットを絡めたボーカルと、メンバーのハイトーンなコーラスが青さとロマンチックさを感じさせてくれる「ダイナマイトラブソング」という流れであり、こうした曲たちの存在と、それを鳴らすためのバンドの技術がこれからのさらなる可能性を感じさせてくれる。
そう、このバンドはサウンドこそ青春パンク的であり、それは演奏が上手くなくても成立する音楽でもあるのだけれど、このバンドの鳴らしている音がこんなにも響くのはその演奏が上手くて、しかもそこに抱えている感情を乗せることができるからだ。それは東日本大震災で被災した当時の心境を
「突然すべて失ったこと あなたはありますか?」
と歌う「13歳の夜」から強く感じられるものだ。曲中には山口は
「あの時、俺ラジオ聴いてたんですよ。TV映らなくなったから。その時にSCHOOL OF LOCK!っていう番組を聴いて。俺はそれで音楽をやろうと思って、ギターを始めてバンドを組んだんだ」
とその時のリアルな体験を語る。その時のSCHOOL OF LOCK!の講師は誰で、どんな曲が流れたんだろうか。きっと山口はそれを覚えているだろうけれど、その時に流れた音楽が山口を救ってくれたように、この真っ直ぐ過ぎるくらいに真っ直ぐな音楽がきっと誰かを救うことになるということをきっと山口もメンバーもわかっているはずだ。
そんな感動してなのか、とにかく涙が出てきそうになってしまうようなエモーションを放出しながらも山口は
「泣いてもらうためにバンドやってるわけじゃない!」
と言って、
「ねえ笑って欲しいのです」
と「笑って」を歌い始める。その巻き舌っぽい歌唱を含めたボーカルの圧倒されるくらいの上手さ。それが明神のぶっ叩きまくる鬼神の如きドラムのビートに乗ることによって、このバンドの音楽になっていく。誰か1人でも欠けたり、サポートになったりしたら間違いなく成立しない、メンバーの真っ直ぐな人間がそのまま鳴ってるロックバンド。だから最後に駆け抜けるように演奏された「こんな日々を終わらせて」を一瞬のうちに演奏して、桑原と堀内が向かい合ってジャンプし、明神がスティックを高く放り投げるようにして鳴らし切ると、そこにはわずか30分間の出来事とは思えないくらいに様々な感情が湧き上がってくる。
まだまだ新人と言っていい立ち位置だけれど、そのライブが百戦錬磨のライブバンドたちと比べても全く遜色ないということは見た人ならすぐにわかる。これからフォーリミの対バンツアーに出演するなど、このバンドが発見される土壌は整いつつある。来年にはこのクラブチッタのキャパを飛び越えるようなステージに立っていてもおかしくないくらいに、これからたくさんの人とロックシーンを救うことになる超新星。そう言ってもいいくらいに、これから数え切れなくなるくらいにライブが観たいと思うバンドだ。
1.Unity
2.ともに
3.愛していけるように
4.ダイナマイトラブソング
5.13歳の夜
6.笑って
7.こんな日々を終わらせて
14:40〜 ずみを [CHAOS STAGE]
クラブチッタの階段を上がったり降りたりして辿り着く、久しぶりに来ると「こここんなに小さかったっけ?」と思うくらいにこじんまりとした、手作り感あふれる装飾のCHAOS STAGEは今年は弾き語りアーティストたちが出演するのであるが、そのトップバッターは女性シンガーソングライターの、ずみを。こうしてライブを観るのも、曲を聴くのも完全にはじめましての存在である。
カホン、ウインドチャイム、シンバルなどのパーカッション類を叩く井上ゆかり(tokyo lil boy)が加わってリズムがあるだけに通常のアコギのみの弾き語りとは違った彩りが曲に与えられているのであるが、物凄く率直に見たままを言うと、ブレイク前のあいみょんをさらに田舎っぽい感じにした見た目のずみをは「ご飯が炊ける音」「冷蔵庫の余り物」などの日常生活のふとした情景を用いて自身のラブソングにするという、ここまでが爆音のロックバンドばかりだったからこそ、まるで別のイベントに来たかのような穏やかさと温もりを感じさせてくれるのであるが、その歌声もそうした歌詞の曲を歌うために持ち得たかのようなものになっている。自分の声に合った表現をすでに見極めているのか、あるいはたまたまそうした声を持った自身の中から出てくるのがそうした歌詞なのかはわからないが、見た目も含めてそこに一切のギャップはない。
そのずみをは
「私は生命力がない(笑)」
と言っていたが、歌っている限りはそんなことは全くないと思うのは、その歌詞は自身の生活を生きているからこそ目に映ったものを活写しているからであるし、だからこそ熱くはないけれど確かな体温を感じることができる。驚くくらいにアットホームな雰囲気を醸し出すこのアーティストには似つかわしくないステージ名であるが、こうして2022年のJUNE ROCK FESTIVALの CHAOS STAGEは幕を開けたのだった。
15:00〜 南無阿部陀仏
デビュー時に名前を見た時は、筋肉少女帯や人間椅子みたいな仏教観念を感じる出で立ちのバンドかと思って聴いてみたら、驚くほどに爽やかなロックバンドで、当時まだ高校生であるということを知って合点がいき、バンド名がリーダーの阿部(ベース)の名前を取り入れたものであることを知った、南無阿部陀仏。そうして曲は聴いていたが、ようやくこうして初めてライブを見れることに。
CHAOS STAGEのライブが終わってから急いでステージに辿り着くと、すでにメンバー4人は柄と色違いのアロハシャツを着てステージに登場しているのであるが、真ん中に全員で固まるようにしてマイクを通したり通さなかったりという形で「若者よ、耳を貸せ」を大合唱するという、ここだけ見たらコーラスグループかと思ってしまうようなスタートであるが、サビをひとしきり歌うとそれぞれが楽器を手にして演奏を始め、髪が鮮やかな赤色のまえす(ボーカル)はステージを歩き回り、時には飛び跳ねながら歌うのであるが、その姿がもうこうしてライブハウスでライブをやれるのが楽しくて仕方がないと言わんばかりにキラキラ輝いた表情をしている。
それは若者特有の、若者でなくてもロックバンド特有のものであるということを、どストレートなタイトルの「青春」が感じさせてくれる。まさに今も青春の真っ只中を謳歌して然るべき年齢のバンドなだけに、こうしてその青春の際たる期間がコロナ禍にぶち当たってしまったのは本当にもったいなく、大人として申し訳なくも思ってしまう。きっとコロナ禍にならなければすでにいろんなフェスに出てもっとたくさんの人にライブを見てもらっている存在になっていただろうから。
その青春は冒険そのものだということを感じさせてくれるような「アドベンチャークルージングパーティー」ではリーダー阿部が丸型サングラスを直したりしながら、こちらも鮮やかだが緑の髪色をしたアントニー大輝(ドラム)のシンバルをスティックを持って叩くと、まえすも同じようにスティックを持ってシンバルを叩きまくるのであるが、その後に吹き荒れるブルースハープのサウンドの迫力はザ・クロマニヨンズのライブをも彷彿とさせる。何ならブルーハーツから脈々と続いてきたシンプルかつストレートなロックバンドの系譜の最先端に今このバンドがいるということを示すかのように。
そんな中でまえすはこの日に楽屋に置いてあった三浦ジュン氏からの手紙に
「南無阿部陀仏はいつも通りのライブをやってくれたらそれが1番カッコいいから」
と書いてあったことを本当に嬉しく思っていたようだ。それは普段から三浦ジュン氏が小さいライブハウスに自分たちのライブを見にきてくれているからこそ、そうした場所でのライブを認めてもらってここに立っているという自覚があったのだろう。
そんなこのバンドのどストレートなラブソングである「(かわいいかわいい)君の顔」ではそれまではノイジーなサウンドをぶっ放していたそーやのギターも歌に寄り添うようなものに変化し、それはまえすもギターを弾きながら歌う「5時のチャイム」でもそうなのであるが、若さによる勢いで突っ走っているように見えるけれど、演奏がしっかりしているからこそこうした聴かせるタイプのずっしりとした曲で観客の意識を引き込むことができるのだし、そこには歌唱力などの技術を超えたまえすのロックボーカリスト、フロントマンとしてのオーラ、カリスマ性を感じさせるからこそでもある。
そしてラストの「ミサンガ」では冒頭同様に全員が思いっきり歌声を重ねるようにしてからバンドでの演奏に突入していくのであるが、まだ20歳という年齢であることを考えると、こんなにも会場にいる全員で大合唱するために書かれたかのようなこの曲たちも、もしかしたらメンバーたちは自分たち以外の人が合唱する場面をまだ目にしたことがないのかもしれないと思った。
もしそうして観客全員がこの曲を歌うような光景を見たら、メンバーはどう思うのだろうか。もう心配になるくらいに良い子過ぎるのがライブを見ていても伝わってくるバンドだからこそ、その光景を見せてやりたいし、自分たちの音楽にはそういう力があるということを教えてあげたい。それはきっとこれからの活動や楽曲に反映されてくるはずだから。何なら、メンバーが客席に降りてきてみんなで肩を組んで歌うことができるような日が来たら。そんな明るい未来を想起させてくれるような、南無阿部陀仏との初邂逅だった。
1.若者よ、耳を貸せ
2.青春
3.アドベンチャークルージングパーティー
4.(かわいいかわいい)君の顔
5.5時のチャイム
6.ミサンガ
15:35〜 メガマサヒデ [CHAOS STAGE]
初めてライブを観る若手バンドがいる一方で、実に18年前にこのクラブチッタで開催された「SET YOU FREE」というイベントでライブを見て以来になる、メガマサヒデ。当時はよく銀杏BOYZやガガガSPなんかと一緒にライブをやっていたものである。
でも見た目は当時からほとんど変わらないように見えるというか、山崎邦正らしさが少し増したような感じで、アコギを弾きながら歌うその独特のダミ声もあの頃によく聴いてライブを見ていたメガマサヒデのまんまである。だから全く久しぶりに感じないというか、一気に時間が埋まっていくような感覚になる。
しかしメガマサヒデはこの飾り付けも含めたCHAOS STAGEを、
「エリザベス女王が死んだ教会みたいなステージ」
とわかりづら過ぎる例えで口にすると、
「このフェスの主催者の人はフジテレビの人なんですけど、昔やってた「登龍門」っていう番組に呼んでもらって、中野美奈子アナとのトークで
「メガさんって凄く素敵な人なんですね」
って言ってもらえたのに、何故かそこだけ丸々カットされていた(笑)」
という思い出話で爆笑を巻き起こす。もう中野美奈子アナウンサーも若い人からしたら知らない存在だろうけど、リアルタイムでその番組を観ていただけに「メガマサヒデが中野美奈子と絡んでいるとは…」と衝撃的な瞬間だったことを思い出してしまう。そんな中野美奈子に送る曲が「テレパシー」という曲であるのも実にメガマサヒデらしいのであるが。
そんなメガマサヒデはこうして弾き語りライブをやっているだけあって、今でも精力的に音楽活動を続けているということを示すように最新リリース楽曲の「白昼夢のストレンジャー」を披露するのであるが、どこか身近な存在のアーティストの曲を彷彿とさせるのもまたメガマサヒデらしさと言っていいのだろうか。
「まだセックスマシーン!!に行かないでくれ〜!」
と、観客を繋ぎ止めるように歌いはじめたのはメガマサヒデ最大の代表曲と言ってもいい、フォークソング的な歌唱の「一人ぼっちの世界」であるのだが、それでもまだ時間が余ったということで、
「セックスマシーン!!には間に合うようにするから!」
と言いながら、まるで自身の不死鳥の如きしぶとさをそのまま曲にしたかのような「火の鳥」を弾き語り、実はちゃんと良い曲を歌うシンガーソングライターなんだよなぁということを改めて示しながら、やっぱりこの人は面白い存在の人だよなぁとも思わせてくれた。
ライブ後に三浦ジュン氏から「別にこの人のライブは観なくていいのに(笑)」と言われたけれど、あの当時にライブを観ていた人たちは今はもう活動していないような人も多い。そんな中でまさかメガマサヒデがこうして生き残っているなんて全く想像していなかったが、そんなあの頃一緒にライブをやっていた人たちのことを、メガマサヒデの曲を聴くことによって思い出したりすることができる。もうきっとこの規模のイベントにはこのフェスくらいしか声がかからないだろうから、来年ももし捻じ込める枠があるのならばこの人を呼んで欲しいと思う。どんなに他の人から需要がなくても自分はちゃんとライブを観るから。
1.扉ヲ開ケテ
2.テレパシー
3.白昼夢のストレンジャー
4.一人ぼっちの世界
5.火の鳥
15:55〜 セックスマシーン!!
メガマサヒデからのセックスマシーン!!という流れはこの時間帯だけSET YOU FREEが復活したかのようだ。おそらくこのバンドを観るのもそれくらいぶりとなるセックスマシーン!!である。
メインステージに戻るとすでに
「おーれーおまーえーすきーすきー、おーれーおまーえーすきー」
というバカらしすぎる歌詞の「サルでもわかるラブソング」を絶賛演奏中で、ボロボロのジーンズを履いて首にスカーフを巻いている、やられまくってもなお立ち上がるヒーローかのような出で立ちの森田剛史(ボーカル)はかつてよりも年齢を感じざるを得ない見た目になっているが、その暑苦しいくらいの熱さは全く変わることはない。この曲はやはりこんなに誰でもすぐにわかる歌詞であるだけに初めてライブを観たり、全く曲を知らない人でも大合唱できる曲でもあるのだが、今はそれを手拍子で行うというのはこの状況の中でもライブハウスで生きてきたという生き様を感じさせる。
そんなライブシーンが徐々に冬から春へと向かいつつあることを歌ったというテーマだからこそ、先ほどまでのバカらしさから一転してシリアスな空気になる「春への扉」では金髪にメガネというメンバー随一の若々しい見た目である日野亮(ベース)がキーボードを弾いたり、あるいは森田もキーボードを弾いたりするのだが、緒方賢太のドラムも、近藤潔のギターも、今こうしてライブを観ると実に演奏がしっかりしているバンドだということがわかる。その実力があるからこうして今でもライブハウスの最前線で戦い続けているというのがよくわかる。
「全く別々の道を歩いていても、地球は丸いからお互い一周すればまた会うことができるんですよ!」
と説得力があるのかないのかわからない森田のMCから、そのMCをそのまま歌詞にしながらも、歌詞を聴いていると円周率をかなり下の桁まで覚えてしまうという副次的効果を持った「頭の良くなるラブソング」と、実はめちゃくちゃ頭がいい人たちが思いっきりバカなことをやっている(森田は塾講師としても生活している)ということも今見るとよくわかる。
そんな森田は
「このフェス初めて出させてもらったんですけど、あまりにも最高すぎるんで、俺の中で早くも来年の出演が決定しました!」
と勝手に翌年の出演を決定させ、
「これが第一弾発表だ。すでに来年出ることが決まってる先輩の身として言わせてもらうけど(笑)、来年はきっとライブ中のレギュレーションも変わってるだろうから。今よりは歌えるようになってると思うぞ」
と、MCもバカバカしいようでいて、心からライブハウス、ライブシーンのことを考えていることがよくわかるのだが、日野が
「えー、来月も結構東京に来るので…」
とライブ予定を告知するも、森田に
「そんなんで来る奴がいるかー!本気で来てもらいたい感じで言え!」
とツッコミを入れられ、
「来月も!東京に!たくさん来るので!見に来てください!」
と全力で告知。しかしスキンヘッドの近藤は全力ではない言い方だったのだが、森田は自分より年上であるだけにあまり強く言えないというバンド内年齢差があらわになる。
そんな爆笑MCで一気に会場を引き込みながら、観客の幸せを願って演奏された「夕暮れの歌」、コロナ禍での日々をそのまま歌詞にしながら、それでも光を求めて進んでいくという最新のバンドの曲である「何にもない日々」と、冒頭のバカバカしいインパクトからのギャップが凄まじい真面目な曲が連発され、このバンドがただバカなだけのバンドではない、コミカルだけど熱さを持った、この日の他のバンドたちと通じるものを持ったバンドだということをしっかり示していた。
このバンドには「いい人どまり」という名曲があって、10代の頃によく聴いていただけにまたライブで聴けたらなとも思うのであるが、それが聴けなくても、というかそうした過去の曲ばかりではなかったからこそ、このバンドが今も前に進み続けているということがよくわかる。メガマサヒデもそうだけど、出会った頃はこんなに息が長いアーティストになるなんて思ってなかったが、そんなバンドが今でも面白くて、カッコよくあり続けていることが本当に嬉しくて頼もしい。
1.サルでもわかるラブソング
2.春への扉
3.頭の良くなるラブソング
4.夕暮れの歌
5.何にもない日々
16:50〜 忘れらんねえよ
CHAOS STAGEでカザマタカフミの弾き語りを少しだけ見てからメインステージへ。前日に15周年2daysをやり切ったばかりの忘れらんねえよが早くも次なるライブとして毎年おなじみのこのフェスに出演である。
サウンドチェックで
「ジュンさんからの手紙に
「来年はスマホライトだけじゃなくて大合唱も聞かせてください」
って書いてあったんだけど、今日スマホライト使う「忘れらんねえよ」はセトリに入ってないから、今やります」
と言ってサウンドチェックで「忘れらんねえよ」を演奏し、早くも客席ではスマホライトが光るという、本番前にしてクライマックスのような状況に。この日は爆弾ジョニーのスケジュールの影響か、ギターはLEGO BIG MORLのタナカヒロキ、ドラムはTHEラブ人間の富田貴之。ベースは前日と変わらずヒトリエのイガラシである。両サイドだけを見たらイケメンバンド。
本番ではメンバーとともにハイテンションな柴田がステージに登場すると、前日のライブでは演奏していなかった「踊れひきこもり」をハンドマイクを持ってステージを動き回りながら歌う。普段からサポートしているのが一人だけだからか、髪を後ろで結いていることによってイケメンというか美人になっているイガラシがメインとなってコーラスをしているのも新鮮であるのだが、普段はタイチが歌っているパートも柴田が歌うと間奏では
「ここからJ-POPっぽくなって今まではみんなで合唱してたんだけど、今はできないからどうしようかと思ってたら、今日はオメでたい頭でなによりがいるから、赤飯ちゃんいるじゃん!」
と、去年同様に赤飯が西野カナ的な女性ボーカルパートをその変幻自在の歌声で見事に歌い分ける形で柴田とデュエット。もはやこのフェスにおいてのおなじみのコラボと言ってもいいだろう。
そんなコラボの後には柴田がギターを持ち「俺よ届け」を演奏するのだが、バンドメンバーの熱量の高さたるや、前日の自分たちの主催ライブを越えようかというくらいにタナカは長い髪を振り乱しながらギターを弾き、イガラシはステージ上を激しく動き回りながら高速ダウンピッキングを続け、間奏ではその2人が向かい合うようにして演奏している。爆弾ジョニーのメンバーもそうであるが、いろんなバンドのメンバーたちがこんなにも忘れらんねえよのメンバーとして全身全霊で音を鳴らしてくれている。これもひとえに柴田の人徳と忘れらんねえよの音楽の素晴らしさによるものもあるだろう。
そんな柴田は
「もう5年連続でこのフェスに出ているが、一つだけ物申したいことがある。フェスっていうと今はVaundyやマカロニえんぴつやSaucy Dogあたりが毎回出ているが、このフェスにはどれも出ていない。爽やかさのカケラもない!ライブハウスを巡って珍獣たちを集めてきたかのような濃すぎるラインナップ!(笑)」
とこの日のラインナップに言及するのだが、Vaundy「しわあわせ」のモノマネ歌唱は全くウケずに
「もう2度とやらない(笑)」
とのこと。個人的には結構面白いしクオリティ高いと思うのだが。
前日のライブでもどうしようもない男サイドの忘れらんねえよの代表曲と言っていい「中年かまってちゃん」が演奏されるのであるが、この曲すらもこのメンバーによるエモーションが迸る熱い演奏となっており、実はこのメンバーたちは相性が良いメンバーたちなんじゃないだろうかと思うし、それは全員が忘れらんねえよの音楽を心から愛してくれているからであろう。
さらに「北極星」でもマイクを通さずともタナカも富田も歌詞を口ずさみながら演奏しているのがよくわかるのが微笑ましい(歌詞が歌詞なだけに)のだが、間奏では柴田が照明スタッフに
「打ち合わせ通りに照明落としてくださいー!」
と言って客席だけではなくてステージまでも真っ暗になると、
「くっそー、まさかここで停電が起きてしまうなんて。でもみんなの力があれば奇跡が起きてまた照明がつくはずだ!みんな、ハミングでこの曲の歌詞を合唱してくれー!」
と、飛沫が飛ばないハミングで合唱を巻き起こし、そんなこのフェスの力によって停電が復活するという小芝居によってさらなる一体感を生み出し、「Cから始まるABC」で客席はルールを守りながらも思いっきり暴れ、踊りまくる。
「残された俺たちはJUNE ROCKで踊りました」
という歌詞も、それが何よりも最高だと思わせてくれるのである。
そして柴田はそんな濃いメンツを集めたこのフェスと、ずっと呼んでくれる主催者への感謝を「おっさんがおっさんに愛を伝えるのはみんなからしたら不快でしかないから(笑)」という理由で、その思いを込めて
「アイラブ言う ジュンさんが好きだと言うのさ」
と歌うと、客席にいた三浦ジュン氏を称えるように周りにいた観客たちが一斉にその場にしゃがむという、この人が愛されていないと絶対にこんなことは起きないという光景に。そこからは観客がそれぞれのバンドを観たいと思っているのはもちろんだが、この人が集めたアーティストたちのフェスなら最高になるに違いないという思いによってこうして観客が集まっているのがよくわかるし、「アイラブ言う」はそうしたこのフェスを愛するここにいた全ての人に向けて鳴らされていたようだった。
前日までの2daysで全て出し切っていてもおかしくないのに、それでもその翌日にこんなにも素晴らしいライブを見せてくれる。それは忘れらんねえよの、柴田の自分たちを愛してくれている人の思いに応えたいという感情がそのまま音になっていたかのようだった。そんな人間臭すぎるバンドだから忘れらんねえよが、そのバンドが愛するこのフェスが大好きだと思えるのだ。
リハ.バンドやろうぜ
リハ.忘れらんねえよ
1.踊れひきこもり w/ 赤飯
2.俺よ届け
3.中年かまってちゃん
4.北極星
5.Cから始まるABC
6.アイラブ言う
17:25〜 あの [CHAOS STAGE]
近年はバンド、I'sとしても活動しながら、ソロとしてテレビにも出演するようになってきた、あの。この日は弾き語りとしてCHAOS STAGEに出演である。
しかしながらこのライブの数日前に右手を骨折してしまったことによって、弾き語りではなくてI'sの相棒のナカヤマをギターに迎えての編成。包帯をぐるぐる巻にした右手は痛々しくもあるが、この人がやるとどこかそれもファッションであるかのように見えてくる。
そんな形であるだけに歌唱に専念しているということもあるだろうし、今年忘れらんねえよの対バンツアーの千葉LOOKで見たI'sのライブの爆音と真逆の削ぎ落とされた編成というのもあるだろうが、あののボーカルが圧倒的に力強さを増している。舌足らずというかロリっぽい声質は変わることはないのだが、その歌声をしっかりと端から端まで届けられる歌い方を会得しているというか。それはバンドとしてライブハウスを巡ってきたという経験から得たものなのかもしれないし、この日最もこのステージが混雑して、3階のバルコニーまで人で埋まるくらいに超満員になっていたのは話題性だけではないということだ。
自ら骨折してしまったことを説明しながら、クリープハイプの尾崎世界観が手がけた新曲「普変」を歌うと、そのフレーズ、歌詞に応じて声をガラッと変えるようにして歌うという表現力を見せつけ、それについつい慄いてしまう。自分はアイドルグループ時代のこの人のことをちゃんと観たことがないのだけれど、もしその頃からこうした表現力を持っていたのだとしたら、こうしてソロ、あるいはバンドとして自分の表現を音にしようと思ったのはビジュアル面だけではなくて表現者としても真っ当なものだったんだなと思える。すでにVaundyが担当して話題沸騰している「チェンソーマン」の週替わりエンディングテーマに起用されることが決定している「ちゅ、多様性。」も実に楽しみだ。
17:45〜 メメタァ
このフェスには初出演であるが、すでにそのバンド名のインパクトの強さもあってライブハウスシーンではよく知られる存在である4人組バンド、メメタァ。初出演にして後半と言っていい時間帯である。
メンバーがステージに揃って、こうしてロックバンドとしてライブハウスで音を鳴らしている喜びを曲として爆発させるような「デイドリーマー」からスタートすると、音源でのストレートなギターロックバンドというイメージよりも圧倒的に熱い。それは西沢成悟(ボーカル&ギター)の張り上げるようにというか、もはや叫ぶようにして歌う姿、そこに挟まれる言葉からも感じられることなのであるが、そんな西沢の見た目だからこそ歌える「僕がメガネをとったら」という曲もそうであるが、鳴らしている音は熱いのであるが、メンバーの見た目は工藤快斗(ギター)も、カワギシタカユキ(ベース)も、名前だけはド派手なサンライズ太陽(ドラム)も、実に素朴だ。体格の良いサンライズは叩きながらの笑顔も含めて目を引くが、出で立ちもプレイスタイルも決して派手さがあるようなバンドじゃない。
そんなバンドだからこそ、自分が「その他大勢」であることを歌った「その他」という曲にもリアリティが宿るというか、そこから逆転するためのロックバンドのヒーロー劇のようにも感じられるバンドだと思える。それはこのバンドが掲げるテーマである
「君がッ泣くまで歌うのをやめないッ!」
をそのまま曲にした「ハイライト」に最も顕著だ。そのテーマはやはりこのバンドの持つロックバンドの熱さがあるからこそであるし、それこそがこのバンドがこの日の面々の中に割って入ってこれる理由でもある。
このバンドにとってもこのクラブチッタのステージはバンド史上最大規模であり、主催者が普段から小さいライブハウスに自分たちのライブを観に来てくれていたからこそこのライブに繋がっているということをやはり熱苦しいほどに熱く、なんならもう熱すぎてちゃんと言葉を聞き取れないくらいに熱く西沢が語ると、さらにその思いを加速させるような「ロスタイム」では工藤が広いステージを最大限に使いながらギターを弾きまくり、そして弱い自分を輝かせるように音が鳴らされる「光の向こうに」を最後に演奏したのだが、それは普段自分たちが音を鳴らしている下北沢などの小さいライブハウスを光の方へ導こうとしているかのようだった。
この得意なバンド名の由来は「ジョジョの奇妙な冒険」の断末魔的なセリフから取られているという。その由来だけ見たらどんな飛び道具的なバンドかと思うけれど、この日の他の出演者たちがそうしたバンドたちばかりであるために、このバンドは名前とは裏腹に正統派に熱いバンドだった。
1.デイドリーマー
2.僕がメガネをとったら
3.その他
4.ハイライト
5.ロスタイム
6.光の向こうに
18:20〜 ナギサワカリン [CHAOS STAGE]
先ほどのこのCHAOS STAGEに登場した、あのは黒髪ショートという出で立ちだったが、次にステージに現れたこのナギサワカリンは長い髪を上で結いた派手な金髪という髪型で、アコギを手にして
「大分県出身のシンガーソングライター、ナギサワカリンでーす!」
と大きな声で挨拶するあたり、キャラクターも全く異なるというあたりが実にCHAOS STAGEという名前に見合っている。
歌い始めるとその声量の大きさをフルに発揮するような、情念が思いっきりこもった弾き語りというのは同郷の先輩である阿部真央がデビュー当時に弾き語りをしていた頃のことを思い出させるのだが、声量が大きいだけでなく歌唱力自体も抜群であることが聴いているとすぐにわかる。天真爛漫なキャラクターのように見えるが、きっとここに至るまでに歌い続けて自分の力を磨いてきたというのがわかるような。ずっと歌だけで戦い続けてきたというか。
その自らの歌の力で来年以降にこのフェスのメインステージに出ることを予告すると、最後にはマイクから離れてアカペラで思いっきり声を張って歌い上げるのであるが、それでも客席だけではなくてバルコニーまでも聞こえていたであろう素晴らしい歌唱力。正直言って、この日見るまで全く知らなかった存在だったのだが、これからいろんな場所で歌う姿を見ることになるのかもしれないと思った。
18:40〜 バックドロップシンデレラ
昨年のこのフェスのトリにして、今年は全国各地の様々なフェスに出演してはウンザウンザさせまくってきた、バックドロップシンデレラ。紛れもなくこのフェスを象徴するバンドの一つである。
「ライブハウスの珍獣」という忘れらんねえよ柴田の言葉がこんなに似合うメンバーたちによるバンドもそうそういないだろうなと思うような4人がステージに現れると、でんでけあゆみ(ボーカル)は襟足のあたりを緑色に染めており、おなじみの「台湾フォーチュン」からその身軽すぎる機動力で、観客以上に誰よりも踊りまくっている。
もうこの曲歌う必要ないくらいに毎週のようにどこかのフェスに出まくってるじゃん、とも思うのであるが、それでも豊島"ペリー来航"渉(ギター)が刻むスカのリズムのギターで観客が踊りまくると、曲中には鬼ヶ島一徳(ドラム)が
「俺はジュンさんが好きだー」
と言いながらドラムを叩くと、アサヒキャナコ(ベース)もそこにコーラスを乗せ、観客も拳を振り上げるようにしてその空気が広がっていくのを豊島が制し、
「なんか昼間に着いてニュース見てたら、ライブハウスのガイドラインが変わって、25%まで声を出していいみたいになったらしいんだけど、まだちゃんと見てなくてよくわかってないから、今はまだ25%の歌声じゃなくて、100%のハミングを響かせてもらってもいいでしょうか!」
と、コロナ禍における発明とも言える、飛沫が飛ばないハミングでの合唱を促すと、
「120%!」「200%!」「300%!」「1000%!」
とどんどん観客のボリュームを上げていき、観客もそれに応えるだけについつい笑えてきてしまう。でもそんなこのバンドが編み出した、コロナ禍だからこその発明のコミカルな大合唱もそろそろ終わりを迎えようとしていると思うと少し寂しくも思えてくる。
そんなバンドはタイトル通りに世界中のあらゆる理不尽な状況に中指を立てるという、実はコミカルなだけではなく強いメッセージを持ったバンドであるということを示すような新曲「HATEです」をリリースしたばかりであり、早くもライブでもこうして演奏しているのだが、それはコロナ禍も含めて今この状況をそのまま歌にしたものであり、このバンドの根底には確かに「怒り」という感情があるということがわかる。
それに連なるようにコロナ禍になったばかりの2年前のリアルな心境を綴った「2020年はロックを聴かない」が続くことによって2年間でのバンドの歌うべきことの変化を感じさせるのだが、豊島は
「VのJが去っていけば、Aが戻ってくる…。わかりづらいか(笑)
ずっとライブハウスで一緒にやってきた、ビレッジマンズストアのJackが辞めるっていうことで。今日が最後の対バンか…と思ってたら、俺たちが会場に着いた時にはビレッジはもう居なくなってた(笑)
でも「どうしようもないくらいの音楽性の違い」によって活動してなかった、アシュラシンドロームが今日は戻ってきます!」
とずっと一緒に戦い続けてきた盟友たちへの思いを口にすると、そうして戻ってくることを選んだアシュラシンドロームを祝うようにして「祝え!朝が来るまで」を演奏するのであるが、この曲はまたオールナイトでこのフェスが開催できるようになった時により祝祭感を増して響くことになるはずだ。
そしてでんでけの驚異的な跳躍力が遺憾なく発揮される「月あかりウンザウンザを踊る」では、まさに踊る奴がこのフェスでは1番偉いということを示すように、鬼ヶ島が叩き出す祭囃子に乗せて観客が踊りまくると、ラストの「さらば青春のパンク」ではでんでけが
「今日、君がつけているリストバンドは去年もそうだったけど、出演者がフェスタイトルとサインを書いてるんよ。そこに当たり外れなんてないから。今日自分のリストバンドにサイン書いてくれたバンドをこういうきっかけで好きになってもいいんじゃないかと思うよ」
と、この手作り感が至る所に溢れるフェスだからこその愛を込めた言葉(去年はこのバンドがサインを書きまくったらしい)を語りかけ、それを自身の大ジャンプに込めるようにして飛んでからステージ上を踊りまくる。それがより我々をも踊らせてくれる。ライブハウスに生息する珍獣はあらゆるフェスに出るようになっても、このフェスへの深い愛を確かに持ち続けている。
1.台湾フォーチュン
2.フェスだして
3.HATEです
4.2020年はロックを聴かない
5.祝え!朝が来るまで
6.月あかりウンザウンザを踊る
7.さらば青春のパンク
19:15〜 後藤まりこ アコースティックviolence POP [CHAOS STAGE]
このCHAOS STAGEという名前の最大の要因はこの後藤まりこが出演するからということなんじゃないかと思う。今年復活したこのステージのトリとして、後藤まりこが降臨。
オレンジ色のパーカーを着てボブカットの後藤まりこが椅子に座ってアコギを持つと、自己紹介をしてからそのガーリーな、バンド時代とは全く違う包容力すら感じさせるような歌声を響かせる。ミドリ時代から客席に突入しまくるというパフォーマンスを繰り広げていただけに、こうしてコロナ禍になったことによってどんな形でのライブをするようになっているんだろうかと少し心配すらあったのだが(なんならCOUNTDOWN JAPANに出演した際も「ダイブ禁止って言われたけど、人の上を歩くなとは言われてないねん」と言って客席に突入してその上を歩き回っていた)、主催者挨拶でも言っていたように、今はそんなパフォーマンスをせずにひたすらに歌で勝負するようになっているというのは、この時勢をちゃんと把握、理解しているとともに、自分が今求められている理由もちゃんとわかっているのだろう。
だからこそ決して驚くほどの声量があるわけでもないし、叫ぶようにして歌うわけでもないのだが、それでもやっぱり他の人とは全く違う、この人が歌うからこそ生まれる独特な空気というものが確かにあるのだということを確かめさせてくれるのであるが、急に
「めちゃくちゃな恋がしたくてTinderに登録しました。明日25歳のバーテンダーと飲みに行く(笑)」
と、ライブは今の時勢に合わせたものになっているけれど、私生活での破天荒っぷりは全く変わっていないことを感じさせてくれる。つまりは後藤まりこらしさは今も全く変わっていないということであり、きっとライブシーンがコロナ禍から解放された時(この人はルールやガイドラインがあるうちは来てくれる人を不安にさせるようなことはしないはず)にはまたあのはちゃめちゃな後藤まりこのライブを見ることができるようになるはずだと思った。
19:35〜 アシュラシンドローム
小さい規模のサーキットなんかで名前はよく見ていたが、ちゃんと追っていないので申し訳ないけれど、実に1年ぶりのライブであるらしい。バックドロップシンデレラの豊島に「どうしようもないくらいの音楽性の違い」という理由で休止していたというアシュラシンドローム、なんとこのフェスをきっかけにして活動再開である。
黒シャツにネクタイの青木亞一人(ボーカル)、金髪に白TシャツのNAGA(ギター)、筋肉質でタンクトップのNAOKIX(ベース)と、確かに見た目からしてメンバーはバラッバラなのだが、そんなメンバーの鳴らす重めというか濃い目のロックサウンドを引き締めるのが2ステージ連続での出演となる、サポートドラマーのバックドロップシンデレラの鬼ヶ島一徳で、スカなどの軽快なダンスサウンドのバックドロップシンデレラとは対照的と言えるようなこのバンドの演奏を段違いの現役感でまとめ上げているのを見ると、鬼ヶ島は本当に凄いドラマーであることがよくわかる。打首獄門同好会のサポート時はまだ近しいサウンドだったのだが、こうして全く違うサウンドのバンドを叩くとそれがよくわかる。
しかしながらやはり1年ぶりのライブということで青木は歌うごとに汗を流しまくり、かなり疲れを見せているのだが、たくさんの観客がこのバンドの帰還を待ち望んでいたということが「山の男は夢を見た」での山の形を腕で作る振り付けが溢れることによってよくわかるのだが、そんなバンドはこうして活動再開をしたことによって、4月にはワンマンライブを開催することも発表。その時にはきっとこの日よりもライブの体力を取り戻しているはずだ。
そんなこのバンドもバックドロップシンデレラ同様に25%の歓声を出していいというニュースを目にしたようで「Over the Sun」のコーラス部分で観客の25%くらいの合唱を求めるのであるが、その遠慮しがちな微かな合唱が実に感動的に聴こえた。それは自分がコロナ禍になってからライブハウスで聴いた初めての合唱だった。その合唱がこのバンドが帰ってくるのを信じて待っていた人たちによるものだったからこそ、より感動してしまったのだ。青木は去り際にめちゃくちゃバテバテだったけれど、自分が想像していたよりもアシュラシンドロームというバンドは良いバンドだった。きっとこれからまたこのフェスをはじめとしたいろんなライブで会える機会があるはずだ。
20:30〜 四星球
このフェスの主催者が愛するバンドである、四星球。2日前には忘れらんねえよの対バンに出演し、前日はまさやん(ギター)が新宿で弾き語り、そしてこの日と常にどこかでライブをやりまくっているバンドである。
本番前にはライブの最後に時々やることがある、モリス(ドラム)が発狂してステージを走り去っていくという締め方の予行練習をするというネタバレ的なリハをすると、本番でおなじみの法被を着た北島康雄(ボーカル)が
「皆さん、いろんなバンドが感謝を口にしていた、このフェスの主催者のジュンさんがステージに出てきます!」
と言うと、ステージに現れたのはペ・ヨンジュンのコスプレをしたまさやん。(しかもやたらと似ている)
ヨンジュンの「ジュン」だけの被りによってジュンさんとして韓国語で観客に挨拶をするのだが、初っ端の「クラーク博士と僕」の演奏中にその衣装やカツラを全て吹っ飛ばしておなじみの褌姿になると(ちなみにU太とモリスはこの日は扮装なしの法被姿)、北島はステージ前にいた男性カメラマンをステージに上げたかと思いきや、もう一人の女性カメラマンまでをもステージに上げ、
「互いに撮り合え!」
とカメラマンがカメラマンを撮影するという何の意味もない構図を作り上げ、さらにヨン様は男性カメラマンに自身が脱いだコートをかけてあげ、北島は女性カメラマンのカメラを奪うと、ステージ袖にいたオメでたい頭でなによりの赤飯にカメラを渡して撮影してもらうという、CHAOS STAGE以上にカオスな光景が広がる。もうこの時点でわけがわからなくなる。
そんなカオスさから一転してこのバンドのパンクさを感じさせる「薬草」でメンバーも観客も飛び跳ねまくると、北島はのっけから飛ばし過ぎたことによって疲れてしまい、ステージ上に寝転ぶと、その姿を見たまさやんは
「産まれたての仔馬じゃない!?」
と言って最近おなじみの「UMA WITH A MISSION」を演奏して振り付けを踊るのだが、後ろの方にいる人が見えるようにと客席の前の方にいる人から順番に座っていくという、信じられないくらいに優しい世界が広がっていく。これもこのフェスの空気や集まる人によって生まれる展開だというのは、他のフェスではこうならないから。マジで四星球が世界生中継でライブをやったら戦争とか紛争なんて無くなるんじゃないのかとすら思えてきてしまう。
そんな「UMA WITH〜」では2回ほど北島が立ち上がろうとして倒れるという茶番が繰り返されるのであるが、まさやんがギターを演奏すると立ち上がるということもわかってくる。この日はまさやんはライブパワーのスタッフにまで立ち上がるのを応援させようとして、そのスタッフもちゃんと腕を挙げて応援していたのがよりこのフェスの平和な空気感によく似合っていたのだが、北島が立ち上がると座っていた観客も立ち上がるというのは実によくできている。
そんな北島は主催者がフジテレビ「LOVE MUSIC」の制作者であることから、
「いつか森高千里さんに許可を貰うためにこの曲をLOVE MUSICに歌いにいきたい」
と、森高千里「私がオバさんになっても」のアンサーソング「君はオバさんにならない」でそのどこか切ないメロディを響かせ、「妖怪泣き笑い」で再び観客を座らせると、
「今日、このフェスに初めて出るっていうバンドが「こんな広いステージに立つの初めて」って言ってるのを見て初々しいなと思いながら、自分たちが初めてクラブチッタに立った時のことを思い出していた。あれはSET YOU FREEだったか、STANCE PUNKSのロックの日だったか。
それと同じように今日出た全部の出演者が主催のジュンさんに感謝するMCしてたでしょ?フジテレビで仕事して終わってすぐライブハウスにライブ観に行くっていうことしてるから、あの人は。でもそれってあなたたちも同じでしょ?仕事してライブハウス行ってっていうのは。つまり今日の出演者が感謝を告げていたのはジュンさんであり、あなたなんですよ!」
と口にする。その言葉が、我々が一緒にこのフェスを作っているというように聞こえて本当に嬉しかったし、こんなに凄いバンドがそう言ってくれるんだから、平日に仕事が終わった後に急いでライブハウスに行く生活はやめられないなと思う。
そしてかつてフジテレビでやっていた音楽番組への想いを込めた「HEY!HEY!HEY!に出たかった」でロックバンド・コミックバンドとしての衝動を叩きつけると、持ち時間がオーバーしそうということで急遽セトリを変えて演奏した「レッツ・エンターテイメント」の締めのドラムロールでリハ通りにモリスが発狂してステージから出て行った…と思ったら戻ってきたのはなんと法被を着た、バックドロップシンデレラのでんでけあゆみというリハを裏切るまさかのオチ。やっぱり四星球はいつも我々の何手も先を行っている。その上でユーモアと優しさを忘れることなく、ロックバンドとしての熱さも持ち合わせている。このフェスの空気を最も体現しているのはやっぱりこのバンドだ。
リハ.ギンヤンマ
リハ.Teen
リハ.リンネリンネ
1.クラーク博士と僕
2.薬草
3.UMA WITH A MISSION
4.君はオバさんにならない
5.妖怪泣き笑い
6.HEY!HEY!HEY!に出たかった
7.レッツ・エンターテイメント
21:25〜 オメでたい頭でなにより
そしていよいよ長丁場だった(しかも濃いメンツばかりだから疲労感も濃い)この日のトリ。すでに忘れらんねえよにも四星球にも赤飯(ボーカル)が出演している、オメでたい頭でなにより。リハで最近バンドがハマっているというレッチリのようなファンキーな演奏から、赤飯が原曲キーで大塚愛「さくらんぼ」カバーを歌うなど、すでにトリへの期待は充分である。
メンバーが登場すると赤飯は
「このSEで出てくるのも久しぶり。っていうことはどういうことか?羽ばたけJUNE ROCKっていうことだ!」
と「鯛獲る」からスタートし、ラウドを軸にしたバンドサウンドだからこそのバンドの演奏力の高さを見せつけるのだが、その演奏にも赤飯のボーカルにもトリとしての気合いが漲りまくっているのがよくわかる。そりゃあこのメンツの中でのトリを任されているのだからそれはそうであろう。
バンドはニューアルバムをリリースしたばかりということで、明らかにタイトルからしても俗に言う「主語デカくなりすぎ」という言葉に対しての皮肉を込めたと思われる「超クソデカマックスビッグ主語」で、シンセなどの同期というカッコいいものはなんでも取り入れまくるというハイパーなサウンドを鳴らすのであるが、mao(ベース)のスラップ、ミト充(ドラム)のラウドさを支えるビートなど、聴いていて体が動かざるを得ない迫力だ。
赤飯とぽにきんぐだむ(ギター&ボーカル)が交互にこうしてこの日のトリを務めることができている喜びを語ると、早くも演奏された、アニソンやアイドルソングの要素までも取り入れ、客席ではサイリウムも光り輝く「推しどこメモリアル」ではメンバーも振り付けを踊りまくると昨年同様に主催者の三浦ジュン氏をステージに招き、ビニール製のギターでエアギターさせると、四星球、アシュラシンドローム、バックドロップシンデレラというこのフェスおなじみのバンドのギタリストたちが次々にステージに現れ、さらには思いっきり缶ビールを飲んでいる忘れらんねえよの柴田と富田までもが出てきてみんなで踊りまくる。これだけでももう「これライブの最後にやるやつじゃない?」という大団円感なのだが、ビニール製ギターが客席に投下されると、
「ジュンさんはいつも客席からライブ見るのが好きだから!」
と言って観客に通路を作らせて三浦ジュン氏をステージから客席に突入させ、そのまま三浦ジュン氏を崇めるようにして全員が座ってから一斉に立ち上がって踊りまくる。こんな、フェスの主催者が客席で踊るのを見ているなんてフェスは間違いなく他にないし、オメでたのメンバーから本当に愛されてるということがよくわかる。
そんな大団円感もありながらもまだまだライブは終わらず、ニューアルバムからEDMサウンドを取り入れた「HAKUNA MATATA」、ぽにきんぐだむのラップが炸裂するというヒップホップを取り入れた「あれこれそれどれ」と、元からラウドと言い切るには他のラウドバンドから叩かれそうなくらいにあらゆる音楽を飲み込んで進化してきたこのバンドが、さらに幅広い音楽性を手に入れたことがわかる。それはそうしたあらゆる音楽をメンバーが聴きまくっているからだということがわかるし、タッピングまでをも軽々とこなす324(ギター)も、曲やフレーズによって声色を変える赤飯もメンバーそれぞれの特異的と言っていいくらいの技術があるからこそできるものだ。
そしてまさにフロアを沸騰させるように熱気が増していく「スーパー銭湯 〜オメの湯〜」から、ラストの「オメでたい頭でなにより」では赤飯が
「ルールは破らずに俺たちは少しずつライブハウスを元の形に戻していきたい。ルールは絶対守るから、そっち行って歌っていいやろ?この距離が空いてれば大丈夫だから、みんな道開けてくれ。前までは俺にグワーってみんながぶつかってきたりしたけど、今日はそういうのはやめよう。みんなその場で楽しんでくれ」
と言うと、赤飯が客席の中へ入って歌う。それはもしかしたらルールなんか知ったこっちゃないというバンドのライブではコロナ前と変わらずに行われているのかもしれない。でもルールを守るバンドのライブを見続けてきた自分としてはコロナ禍になってから初めて見る光景だったし、赤飯が
「お邪魔します!…じゃないな。みんな、お帰り」
と言った瞬間に涙が溢れそうになってしまった。その後に25%の声量で合唱を起こしたことも。そうしたモッシュやダイブや合唱がなくてもライブが見れるだけで楽しいと思っていたけれど、やっぱり自分がライブハウスの何が好きだったかって言ったら、こんな普段生活していて絶対見れないような光景が音楽を通して見ることができるのが好きだったのだ。それをこの日のオメでたのライブはルールを守りながら確かに思い出させてくれた。それはこのバンドがトリだからこそ見ることができたものだし、
「オメでたい頭でなによりです
守りたい場所があるのならば
オメでたい頭でなによりです
続けいつまでも」
というこの曲のフレーズはこの瞬間のためにあったかのようなものだった。
アンコールを求める手拍子に求めて出てきた赤飯は演奏はしなかったものの、
「あんたたち。よくやったよ!」
と観客に言ったが、それはこのバンドに対して我々が送りたい言葉だった。
1.鯛獲る
2.超クソデカマックスビッグ主語
3.推しどこメモリアル w/ JUNE ROCK オールスターズ
4.HAKUNA MATATA
5.あれこれそれどれ
6.スーパー銭湯 〜オメの湯〜
7.オメでたい頭でなにより
主催者の三浦ジュン氏は本当に不思議な人である。これだけたくさんの出演者に感謝を告げられていると本当に凄い人なんだなと思うけれど、普段話してたりしていると全然そんな感じがしない。それは会うのがライブ会場の関係者席とかじゃなくて、いつも我々がいる客席だからだ。我々と同じ目線でいつもライブを見ているから、偉い人・凄い人というよりもただただひたすらに音楽が、ライブが好きな人として接することができるし、このフェスがこんなにも楽しいのはそうした我々と同じように普段からライブを見ている人が作っているからだ。そんな誰よりも信用できる人が作るこのフェスが、これからも毎年続きますように。
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