go! go! vanillas 「My Favorite Things」 @日本武道館 9/30
- 2022/10/01
- 19:29
昨年は横浜アリーナ、2年前にもこの日本武道館でワンマンを行っている、go! go! vanillas。もはや完全にアリーナクラスのバンドになったということであるが、こうして武道館で再びワンマンをやるというのはキャパを半分にせざるを得ない前回のリベンジであるとともに、ロックンロールバンドとしてこの武道館のステージに立つことで自分たちが今のシーンに示すことができることがあるということもわかっているはずである。
今回は単発ではなくて、前週に大阪城ホールでもワンマンを行ってからの東京。それでもスタンド席最上段までビッシリ埋まっているというあたりは2年前よりもここに連れてくることができる人が増えたということである。
ステージには普段とは違う、オシャレな部屋の中を模したセットも作られているのが気になる中、開演時間の18時30分を少し過ぎると場内が暗転して満員の観客たちが一斉に立ち上がる。するとステージ背面のスクリーンにはメンバーそれぞれを模したであろうクレイアニメが映し出され、その映像がこのライブタイトルの「My Favorite Things」という文字を映し出すとメンバーがステージに登場するのであるが、明らかに人数が多い。
そのメンバーがステージに並ぶと、近年のライブではおなじみのSE曲「RUN RUN RUN」を演奏するのであるが、そこでこの日は井上惇志(キーボード)、ファンファン(トランペット)、手島宏夢(フィドル)というゲストメンバーを加えた7人編成であることがわかるのであるが、そのメンバーたちは「LIFE IS BEAUTIFUL」のレコーディングに参加したメンバーでもあるだけに、そのシングルに収録された「RUN RUN RUN」のアイリッシュトラッド的なサウンドが全て生の音で生命の輝きを放つようにして鳴らされている。この時点でこのライブが特別なものでしかないということが実によくわかる。
「RUN RUN RUN」ではアコギを弾きながらブルースハープを吹いていた牧達弥(ボーカル&ギター)は厳かさすら感じるようなジャケットを着用して
「行こうぜ兄弟ー!」
と叫ぶと革ジャンにサングラスといういつも通りのロックンロールスタイルのジェットセイヤは早くも立ち上がってドラムを打ち鳴らしまくる「Hey My Bro.」へ。この曲のアイリッシュパンク的なサウンドもまたこの日の3人のゲストメンバーがいるからこそ完全体と言っていい形で演奏されているのだが、この日も爽やかな長身っぷりを見せる柳沢進太郎(ギター&ボーカル)は間奏でフィドルを弾く手島の方に行って向かい合うようにしてギターを弾いている。それはゲストメンバーでありながらも、この7人でのバンドのメンバーとして同等に相対しているという意識を感じさせる。かつてはくるりのメンバーとしてその高らかなトランペットのサウンドをこの武道館でも響かせてきたファンファンの演奏を見れるのも実に嬉しいことである。
するとここでゲストメンバーはいったんステージを去っており、ライブ全編で演奏に参加するわけではないということがわかるのであるが、そうしてメンバー4人だけで演奏されるのが「カウンターアクション」というあたりは納得というか、4人だけのロックンロールサウンドをしっかりこの武道館で響かせる曲と、ゲストの華やかな音を加えるべき曲の見極め方が抜群なのはさすが世界中のあらゆる音楽を掘りまくり、それを自分たちのロックンロールに融合させてきたバニラズだからこそである。この曲の前には柳沢のコール&手拍子も近年のおなじみとなっていたが、それも今回はなく、代わりにステージ左右に伸びる花道を進んで行って、一階スタンドの端の席の目の前でギターを弾く。少しでも来てくれた人の近くで音を鳴らしたいという思いがその姿からはしっかり伝わってくる。
この日はステージ背面だけではなく、ステージサイドにも大きなスクリーンが設置されているので遠くからでもメンバーの演奏する姿がしっかり見れるようになっているのだが、そうしたステージの作りからもバニラズチームのこの規模の会場での経験値が増してきていることを感じる中、長谷川プリティ敬祐(ベース)がおなじみの悪戯っぽい言い方ではなくて、ただただ熱く叫ぶかのようにタイトルコールをした「クライベイビー」では柳沢もメインボーカルを務めるのであるが、サビ直前の
「きっとまた会える予感」
のフレーズを
「また会えたな武道館ー!」
と変えて叫ぶことで観客を沸き上がらせる。誰もがここにまた立つことを心から望んでいたことが本当によくわかるし、バニラズはそれをクールにではなくて本当に心から熱く表現するバンドだ。というか音楽的には実に器用だけれど、そうした感情表現はそうするしかできないくらいに不器用で、だからこそその人間臭さがそのまま音楽になっているバンドだとも言える。
その「クライベイビー」は昨年リリースの最新アルバム「PANDORA」収録曲にして今やもうフェスなどでもおなじみの曲になっているが、そんな「PANDORA」収録曲のもう一つが「お子さまプレート」であるのだが、この日は会場の至る場所からレーザー光線が放たれ、その光がステージや天井を照らすことによって、子供が歓喜するようなテーマパークのような光景を作り上げてしまう。間奏での牧、柳沢、プリティによるステップも本当に楽しいし、客席の間隔が狭い武道館であっても我々を踊らせてくれるのであるが、そうしたパフォーマンス、牧の歌唱、演奏と見せ方だけではなく演出面も曲の力をより最大限に引き出すものへと進化しているのがよくわかる。ただアリーナクラスの会場でライブをやるのではなくて、そこにふさわしいものを見せることができるバンドになっているというか。
そうして序盤から曲を連発すると、牧がギターを置くのだが、完全に武道館という舞台に立っていることによって落ち着いていないことがわかるようにステージ上をハンドマイクを持って忙しなく左右に動きながら、
「2年前にここでワンマンをやった。その時はセンターステージで360°を客席にしてライブをやったんだけど、声も出せないし、客席も一席空けで。その時に
「次にここでやる時は満員の状態でやります!」
って言った夢が叶いました!本当にありがとう!」
と、やはりこの日が2年前の夢の続きであることを口にし、一つのバンドとしての到達点となったことを感じさせると、この日のライブタイトルである「My Favorite Things」が
「自分たちの好きな人と好きな場所で好きなことをする」
というコンセプトであることを語る。
そのコンセプトをいきなり曲中で見せてくれるのは、牧がハンドマイクでステージ上を歩き回り、ソファの上に寝転がったりする姿までをステージ上でカメラマンが映し、その姿がスクリーンに映し出されることによってリアルタイムな一発撮りのMVを見ているかのような「サイシンサイコウ」であるのだが、牧はテーブルから花束を出したり、戸棚から漫画を取り出すとその漫画のページが飛び出してスクリーンに映ったり(「僕のヒーローアカデミア」風で「牧が見てる!」というセリフとともに終わる)、懐かしのスーパーファミコンに「サイシンサイコウ」とタイトルが印刷されたソフトを挿すと「魔界村」的なアクションゲームがスクリーンに映し出されたり、銀色の宇宙人の人形を抱き抱えてソファに座ったり…。メンバーのパーソナルな部分を知るファンならニヤリとするようなMy Favorite Thingsが次々に繰り出されていく。これを曲の尺に合わせて完璧に操れる牧はそのビジュアルも含めて俳優としてもやっていけそうな気がする。
そんなステージセットは展開によって速やかに袖に引っ込むことによって、あっという間に武道館がいつものバニラズのライブのステージと化すと、スクリーンには歌詞にも出てくる赤い糸によって歌詞が編まれていくという、タイトル通りの青さを感じさせる演出が実に見事な「青いの。」で、そこに音によって青さを増幅させるようなバンドの演奏と牧の歌唱も、もうベテランと言っていいキャリアに差し掛かってきているとは思えないくらいに瑞々しい。そこにはバンドに、ロックに対する衝動が今も確かに宿っていて、武道館というロックンロールの聖地がそれをより強く感じさせてくれるからだ。
すると牧とともに柳沢とプリティがゴスペル的なコーラスを曲始まりで重ねるのは最新シングル曲の「ペンペン」であるが、スクリーンにはタイトルになっているペンギンのクレイアニメ(やはりメンバー4人を模しているように見える)のMVが映し出されると、セイヤは飛べない鳥であるペンギンが空を羽ばたこうとしているかのように両腕を広げる姿が実に微笑ましい。この飛べない鳥を自分たちに見立てているあたりがバニラズが自分たちがどういう人間であるかをわかっていると言えるが、この曲の美しいメロディとコーラスは完全にこの武道館を羽ばたいていた。
「ここに集まってくれた皆さんに幸運の光を!」
と牧が言って演奏された「ラッキースター」ではいつの間にか牧がジャージに着替えたラフな姿でステージを歩き回りながら歌うのであるが、観客はこの曲を演奏中は動画・写真撮影がOKと言われたことによってその牧の姿やバンドの姿をしっかり記録として納めようとする。横浜アリーナもそうだったが、これはバニラズなりのファンサービスと言えるだろう。
アメリカのポップミュージックの影響も感じさせる曲であるだけに井上のキーボードが生で鳴らされることによって曲に躍動感を与えているし、そうして生き生きとする牧はステージから伸びる花道を歩いてスタンド席最前列の観客と握手しそうなくらいに近くまで行き、さらには花道のスロープ部分に座り込んだりするという自由っぷり。それも全てここでこうしてライブができているのが楽しくて仕方ないからだろう。
するとここで柳沢が作曲したという、この日のライブタイトルになっている新曲「My Favorite Thing」がいきなり披露されると、ここまでは鮮やかかつ派手な演出の連発だったのが、一転してメンバーそれぞれの演奏する姿が左右のスクリーンに対称に、かつセピア色に加工されて映し出されるというシンプルなものに。それはタイトルとここまでの内容からさぞやカラフルなアレンジが施された曲になるのかと思いきや、柳沢のハイトーンかつ繊細だけど熱いボーカルを中心に据えたサウンドに実に良く似合うものである。
渋谷の宇田川町や道玄坂を想起させるような猥雑な街の風景をアニメーションにした映像(店の看板はバニラズのこれまでの曲タイトルなどになっている)が映し出されるのはこの武道館で聴けるのが実に意外だった「雑食」であるが、それはこの日のここまでの曲だけでもわかるバニラズの音楽性の幅広さをそのまま示している曲でありタイトルだとも言えるかもしれない。そんな街のアニメーションがサビでは万華鏡を覗いているかのようなものになり、心地良いサウンドと相まって抜群の陶酔感を与えてくれる。
するとステージが暗くなり、柳沢とプリティの姿が見えなくなる代わりにステージに現れた井上がキーボードを鳴らすと、牧はその音色に合わせて「アダムとイヴ」「バイリンガール」「ロールプレイ」を1サビずつだけ歌うのであるが、そのキーボードはずっと一定のリズムで演奏されているだけにこの3曲を1曲に融合させたかのようなメドレーになっている。
そのメドレーはセイヤもリズムで加わっての「Do You Wanna」へと繋がると、柳沢とプリティもステージに戻ってきて、そのまま「Do You Wanna」のイントロからちゃんと1曲演奏されるという間違いなく今回のライブならではのアレンジになっており、スクリーンにはアメコミ的な映像も映し出される。このアレンジで「アダムとイヴ」「ロールプレイ」をまるまる1曲聴きたかったという人もたくさんいただろうけれど、それはまた次のお楽しみというところだろうか。
すると牧は革ジャンを着るという、時間を全く使わずに様々な衣装に着替えるというロックスターっぷりを見せて演奏されたのは、イギリスの薄曇りの空などの映像が映し出される、バンドの憧憬とも言える曲である「倫敦」。牧はやはりステージ左右の花道を歩き回りながら歌うのであるが、顔色一つ変わることはないがその運動量はかなりのものになっている。ミュージシャンもアスリートみたいなもんだよなとその姿を見ていると思う。
せっかくの武道館ということでメンバーそれぞれのMCも行われるのだが、「サイシンサイコウ」の時のメンバーのフェイバリットなものの種明かしも兼ねており、プリティの漫画、柳沢のゲーム、牧の花束、そしてセイヤの宇宙人というそれぞれの愛するものを語るパートでもあるのだが、セイヤの宇宙人は長崎に住んでいる宇宙人のような人から送られてきて、18歳の時からずっと一緒に住んでいるというエピソードはもはやホラーじみていると言ってもいいくらいのものである。
そんなエピソードの後に演奏された、暴発ロックンロール「one shot kill」ではステージ上の照明が下に降りてきて至近距離でメンバーを照らし、ステージ前からは火柱も噴き上がる。何よりもこの曲のサビ前ではまさに銃声のような爆発音が鳴るのだが、それは鳴るとわかっていても毎回驚いてしまう。セイヤの疾走するツービートも、牧とともに思いっきり声を張り上げる柳沢とプリティのコーラスもこのバンドのロックンロールさをこれでもかというくらいに示している。曲終わりではめちゃくちゃ火薬の匂いがしてきたけれども。
再びゲストメンバーたちがステージに集結すると、牧は改めてそのメンバーたちを紹介しながら、「LIFE IS BEAUTIFUL」のレコーディングで一緒になったこのメンバーたちのことが大好きであり、その大好きなメンバーと大好きな音を鳴らすということがそのまま「My Favorite Things」であるということを語る。そこからは自分たちのやりたい音をこうして実際にライブの場で具現化することができるようになった喜びが溢れていたし、この編成を「バニラズセブン」と称したように、そもそもがキャリアのあるメンバーたちであるだけに牧もリスペクトしてきたメンバーたちと一緒にできている喜びもあるんだろうと思う。
そんなメンバーも加わって、プリティが腕で「EMA」の文字を作るのをレクチャーしてから演奏されたのはもちろん「エマ」であるのだが、柳沢のイントロの軽やかなギターリフにファンファンのトランペットと手島のフィドルが重なることによってこの曲がファンファーレであるかのようにすら響く。その足し引き具合というか、アレンジを加える曲とそうしなかった曲のチョイスが絶妙であると思うし、このアレンジが加わってもバンド感が削がれることはないというか、むしろそこが増強されている感すらある。サビで武道館中が腕を交互に上げ下げするおなじみの振り付けをしているのは本当に圧巻である。
そのアレンジは「平成ペイン」のイントロでもトランペットとフィドルが吹き荒れるという形になって続くのであるが、満員の観客が飛び跳ねまくっている光景をスタンドから見ているとやはり感動してしまう。牧も
「一歩ずつちゃんと進んできたから、こうして2年前とは違う景色が見れるようになった」
と言っていたが、声を出したり一緒に歌ったりは出来ないけれど、また満員の武道館の景色を見れるようになったんだな…と感慨深くなる。それは2年前までを経てきているからよりそう思うのだ。それをバンド側もわかっているように、この曲の演奏中には正面のスクリーンに客席の映像がリアルタイムで映し出される。みんな本当に楽しそうに腕を上げ、飛び跳ね、サビではMVのポーズを踊っている。それがより一層感動させてくれるし、バニラズのロックが今やこんなにたくさんの人の光になっているんだなと感じさせてくれる。
そんな光を感じさせてくれるような音楽を鳴らしながらも牧は、
「道で会ってもわからないかもしれないけれど、俺たちもみんなが日々の仕事とか学校で作ったものやサービスによって生かされている。それを少しでもこうやって返すことができたらと思ってる」
と口にした。貰っているのはこちらの方なのに、そうして我々に光や力をくれる牧がそんなことを言ってくれるからこそ、少しだけ自分の仕事に誇りを持てるような、来週からの仕事に前向きになれるような。音楽でも言葉でもそう感じさせてくれるというあたり、本当にステージ上でその人間性をそのまま発しているのがバニラズのライブである。
そんな言葉に続いて牧が
「東京の未来に賭けてみよう」
「ここにいるみんなの未来に賭けてみよう」
と歌詞を変えてから歌い始めたのはもちろん「アメイジングレース」。この7人でのサウンドをフルに発揮した演奏はもちろん、その演奏している姿から発せられるオーラまでも含めてこの曲はここにいる全ての人への祝福の歌だった。
そんなクライマックスを締め括るのは、牧が観客への感謝を口にしようとしている中でセイヤがスクリーンに映り込もうとするのがシリアスなことを言っているのに笑ってしまいそうになる「マジック」。4つのスクリーンには4人それぞれの演奏する姿が映し出され、金テープも射出される中、曲中でのプリティによる手拍子のカウントもこれだけたくさんの人がここに存在しているということを示すように完璧に決まり、この日ロックンロールの聖地である武道館はその力をこのバンドによって最大限以上に引き出されていた。それこそがこのバンドの持つロックンロールのマジックの何よりの証明だった。
アンコールで再びメンバーが登場すると、ゲストメンバーは手島のみという、バンド+フィドルという編成で演奏されたのは新曲「ハイヤー」。赤やオレンジの照明が夕暮れ時を思わせるような演出はこの曲が醸し出している切なさを抱えながらも踊るという感覚を視覚的に体現していると言えるのだが、すっかり秋らしい気候になったこの時期にはピッタリと言える、また新しいタイプのバニラズの曲だ。ほとんどの人が初めて聴いたであろうけれど、たくさんの腕が上がったりしていたのはすでに新たなアルバムも完成したことによってレコーディングを経て演奏が練り上げられているからだろう。
するとここで牧はサプライズ的な発表が2つあることを告げる。大阪ではアルバム発売が発表されたが、この日はそのアルバムのリリースツアー(まだand moreとなっているあたり全てではない)が発表されて観客が歓喜すると、さらなるサプライズとしてこの日は友達が来てくれていることを告げ、ステージに招かれたのはなんとHump Backの林萌々子。普段のHump Backのライブとは全く違う、ワンピースにGジャン、ハットという出で立ちだったが故に最初は出てきてもわからなかったという姿もまたレアであるが、
「去年ウチらも武道館でやったけど、まさか2回目がバニラズのライブになるとは(笑)」
と言いながら2人がハンドマイクで並んでステージ前の花道の前を歩きながら歌うのは新曲「Two of Us」。このロックンローラー2人がデュエットする曲でこんなにR&Bテイストを含んだポップス的な曲になるとは、ということも驚きであるが、そうしたサウンドだからこそ2人の、特に林の歌唱力と声量の素晴らしさがよくわかる。林はバンドでも実に伸びやかなボーカルを聴かせてくれるボーカリストであるが、バンドのボーカルではなくてシンガーとしてこうしたサウンドの曲を歌うとこうなるのかという。それは弾き語りでのものともまた違うものなのだが、最後にはセイヤのドラムが一気にツービートになって演奏そのものも激しくなるというあたりはやはり隠し切れない両者(特にバニラズ)のロックンロールさと言えるだろう。
そんなシンガーとしての魅力をしっかりと見せてくれた林がステージを去ると、牧は前回の武道館で口にした夢がこの日叶ったからこそ、また新たな夢として、
「次にここでやる時は2daysで!」
と口にする。もっと大きな会場で、と言うんではなくてこの会場で1日でも多くライブをすることを新たな夢に設定するというあたりに、バニラズが本当にこの武道館という場所と、その場所が持つ力を信じているんだなと思う。それは自分たちのライブ以外にも様々なライブをきっとこの場所で見てきたからだろう。ここでまさかの柳沢が
「さっきの1人ずつ喋るとこで謎に俺だけ飛ばされたんですけど(笑)」
と明かしたのは飛ばされた柳沢には申し訳ないけどめちゃくちゃ面白かった。その後にしっかり
「フジロックに俺だけ出れなくて悔しい思いをしたけれど」
と自分の言葉でしっかりここに立てている感謝を告げていたが、牧も言っていたように去年の横浜アリーナではステージからいなくなる場面もあっただけにこうして武道館を完遂できた喜びはひとしおだろう。
そんなバニラズ2度目の武道館で最後に演奏されたのは、まだ2年前は生まれていなかった、この日のバニラズセブンで作られた曲「LIFE IS BEAUTIFUL」。横浜アリーナでも「この曲はこの日のための曲だな」と思ったけれど、その思いをこの日はるかに更新したのはやはりこの7人でこの曲を演奏することができたからだ。誰もがみんな常に楽しいと思えるような人生を送れているわけではないだろうし、こうしてライブを見ている時以外は絶望ばかりしているような日々を送ったりしている人もいると思う。それでもこうしてこの曲を聴けている瞬間は、人生は美しいと思うことができる。大量の紙吹雪も舞う中、このメンバーによるアイリッシュサウンドはそんなここにいた全ての人の人生を祝福してくれるようだった。
「また辛いこととかあったら俺たちのライブに来てくれよ!」
と牧は言ったが、それはこうした瞬間にしか満たされることがない人がいることをわかっているからだ。
演奏が終わると牧はゲストメンバーも含めて全員をステージ前に呼ぶと、フィドルの手島がこれから海外に行ってしまうことにより、この7人でライブができるのは最後かもしれないと感極まって涙を流してしまう。それくらいにこの人たちのことを、その音を本当に愛しているのだし、いくらでもクールにもスタイリッシュにもなれるような見た目を持っているのにそうはなれないのはこうして感情がそのまま出てしまうような熱い人間だからだ。でもそこが本当に愛しい。そんな姿を見てしまったからには、次の夢が実現する瞬間にもちゃんと居合わせていたいと思う。
去り際には本編では
「もはやファミリーだ!」
と言っていたセイヤが
「ツアーに友達とかも連れてきてね!ファミリーが増えればもっと大きくなるから!」
と口にした。もう見た目から生き方から全てがロックンローラーなセイヤが我々を「ファミリー」と言ってくれるのが本当に嬉しかった。それはこれからもずっと一緒だということだから。
初めてバニラズのライブを見たのはスペシャ列伝ツアーだからもう8年前。その時はこの規模でライブをやるようなバンドになるなんて全く思ってなかった。でも様々な音楽を愛してきて、様々な人と出会ってきたことによるこのバンドだけの変化や進化を経た今ではロックンロールの最前線バンドとしてこの聖地武道館を守るバンドになった。それくらいに逞しく、頼もしい存在になってもロック少年らしさが変わることはない。
そんなロックンロールの初期衝動とこの編成だからこその祝祭感の両方を与えてくれた、最高の武道館ワンマンだった。これからも、このバンドの未来に賭けてみよう。
1.RUN RUN RUN
2.Hey My Bro.
3.カウンターアクション
4.クライベイビー
5.お子さまプレート
6.サイシンサイコウ
7.青いの。
8.ペンペン
9.ラッキースター
10.My Favorite Things
11.雑食
12.Do You Wanna
13.倫敦
14.one shot kill
15.エマ
16.平成ペイン
17.アメイジングレース
18.マジック
encore
19.ハイヤー
20.Two of Us w/ 林萌々子 (Hump Back)
21.LIFE IS BEAUTIFUL
今回は単発ではなくて、前週に大阪城ホールでもワンマンを行ってからの東京。それでもスタンド席最上段までビッシリ埋まっているというあたりは2年前よりもここに連れてくることができる人が増えたということである。
ステージには普段とは違う、オシャレな部屋の中を模したセットも作られているのが気になる中、開演時間の18時30分を少し過ぎると場内が暗転して満員の観客たちが一斉に立ち上がる。するとステージ背面のスクリーンにはメンバーそれぞれを模したであろうクレイアニメが映し出され、その映像がこのライブタイトルの「My Favorite Things」という文字を映し出すとメンバーがステージに登場するのであるが、明らかに人数が多い。
そのメンバーがステージに並ぶと、近年のライブではおなじみのSE曲「RUN RUN RUN」を演奏するのであるが、そこでこの日は井上惇志(キーボード)、ファンファン(トランペット)、手島宏夢(フィドル)というゲストメンバーを加えた7人編成であることがわかるのであるが、そのメンバーたちは「LIFE IS BEAUTIFUL」のレコーディングに参加したメンバーでもあるだけに、そのシングルに収録された「RUN RUN RUN」のアイリッシュトラッド的なサウンドが全て生の音で生命の輝きを放つようにして鳴らされている。この時点でこのライブが特別なものでしかないということが実によくわかる。
「RUN RUN RUN」ではアコギを弾きながらブルースハープを吹いていた牧達弥(ボーカル&ギター)は厳かさすら感じるようなジャケットを着用して
「行こうぜ兄弟ー!」
と叫ぶと革ジャンにサングラスといういつも通りのロックンロールスタイルのジェットセイヤは早くも立ち上がってドラムを打ち鳴らしまくる「Hey My Bro.」へ。この曲のアイリッシュパンク的なサウンドもまたこの日の3人のゲストメンバーがいるからこそ完全体と言っていい形で演奏されているのだが、この日も爽やかな長身っぷりを見せる柳沢進太郎(ギター&ボーカル)は間奏でフィドルを弾く手島の方に行って向かい合うようにしてギターを弾いている。それはゲストメンバーでありながらも、この7人でのバンドのメンバーとして同等に相対しているという意識を感じさせる。かつてはくるりのメンバーとしてその高らかなトランペットのサウンドをこの武道館でも響かせてきたファンファンの演奏を見れるのも実に嬉しいことである。
するとここでゲストメンバーはいったんステージを去っており、ライブ全編で演奏に参加するわけではないということがわかるのであるが、そうしてメンバー4人だけで演奏されるのが「カウンターアクション」というあたりは納得というか、4人だけのロックンロールサウンドをしっかりこの武道館で響かせる曲と、ゲストの華やかな音を加えるべき曲の見極め方が抜群なのはさすが世界中のあらゆる音楽を掘りまくり、それを自分たちのロックンロールに融合させてきたバニラズだからこそである。この曲の前には柳沢のコール&手拍子も近年のおなじみとなっていたが、それも今回はなく、代わりにステージ左右に伸びる花道を進んで行って、一階スタンドの端の席の目の前でギターを弾く。少しでも来てくれた人の近くで音を鳴らしたいという思いがその姿からはしっかり伝わってくる。
この日はステージ背面だけではなく、ステージサイドにも大きなスクリーンが設置されているので遠くからでもメンバーの演奏する姿がしっかり見れるようになっているのだが、そうしたステージの作りからもバニラズチームのこの規模の会場での経験値が増してきていることを感じる中、長谷川プリティ敬祐(ベース)がおなじみの悪戯っぽい言い方ではなくて、ただただ熱く叫ぶかのようにタイトルコールをした「クライベイビー」では柳沢もメインボーカルを務めるのであるが、サビ直前の
「きっとまた会える予感」
のフレーズを
「また会えたな武道館ー!」
と変えて叫ぶことで観客を沸き上がらせる。誰もがここにまた立つことを心から望んでいたことが本当によくわかるし、バニラズはそれをクールにではなくて本当に心から熱く表現するバンドだ。というか音楽的には実に器用だけれど、そうした感情表現はそうするしかできないくらいに不器用で、だからこそその人間臭さがそのまま音楽になっているバンドだとも言える。
その「クライベイビー」は昨年リリースの最新アルバム「PANDORA」収録曲にして今やもうフェスなどでもおなじみの曲になっているが、そんな「PANDORA」収録曲のもう一つが「お子さまプレート」であるのだが、この日は会場の至る場所からレーザー光線が放たれ、その光がステージや天井を照らすことによって、子供が歓喜するようなテーマパークのような光景を作り上げてしまう。間奏での牧、柳沢、プリティによるステップも本当に楽しいし、客席の間隔が狭い武道館であっても我々を踊らせてくれるのであるが、そうしたパフォーマンス、牧の歌唱、演奏と見せ方だけではなく演出面も曲の力をより最大限に引き出すものへと進化しているのがよくわかる。ただアリーナクラスの会場でライブをやるのではなくて、そこにふさわしいものを見せることができるバンドになっているというか。
そうして序盤から曲を連発すると、牧がギターを置くのだが、完全に武道館という舞台に立っていることによって落ち着いていないことがわかるようにステージ上をハンドマイクを持って忙しなく左右に動きながら、
「2年前にここでワンマンをやった。その時はセンターステージで360°を客席にしてライブをやったんだけど、声も出せないし、客席も一席空けで。その時に
「次にここでやる時は満員の状態でやります!」
って言った夢が叶いました!本当にありがとう!」
と、やはりこの日が2年前の夢の続きであることを口にし、一つのバンドとしての到達点となったことを感じさせると、この日のライブタイトルである「My Favorite Things」が
「自分たちの好きな人と好きな場所で好きなことをする」
というコンセプトであることを語る。
そのコンセプトをいきなり曲中で見せてくれるのは、牧がハンドマイクでステージ上を歩き回り、ソファの上に寝転がったりする姿までをステージ上でカメラマンが映し、その姿がスクリーンに映し出されることによってリアルタイムな一発撮りのMVを見ているかのような「サイシンサイコウ」であるのだが、牧はテーブルから花束を出したり、戸棚から漫画を取り出すとその漫画のページが飛び出してスクリーンに映ったり(「僕のヒーローアカデミア」風で「牧が見てる!」というセリフとともに終わる)、懐かしのスーパーファミコンに「サイシンサイコウ」とタイトルが印刷されたソフトを挿すと「魔界村」的なアクションゲームがスクリーンに映し出されたり、銀色の宇宙人の人形を抱き抱えてソファに座ったり…。メンバーのパーソナルな部分を知るファンならニヤリとするようなMy Favorite Thingsが次々に繰り出されていく。これを曲の尺に合わせて完璧に操れる牧はそのビジュアルも含めて俳優としてもやっていけそうな気がする。
そんなステージセットは展開によって速やかに袖に引っ込むことによって、あっという間に武道館がいつものバニラズのライブのステージと化すと、スクリーンには歌詞にも出てくる赤い糸によって歌詞が編まれていくという、タイトル通りの青さを感じさせる演出が実に見事な「青いの。」で、そこに音によって青さを増幅させるようなバンドの演奏と牧の歌唱も、もうベテランと言っていいキャリアに差し掛かってきているとは思えないくらいに瑞々しい。そこにはバンドに、ロックに対する衝動が今も確かに宿っていて、武道館というロックンロールの聖地がそれをより強く感じさせてくれるからだ。
すると牧とともに柳沢とプリティがゴスペル的なコーラスを曲始まりで重ねるのは最新シングル曲の「ペンペン」であるが、スクリーンにはタイトルになっているペンギンのクレイアニメ(やはりメンバー4人を模しているように見える)のMVが映し出されると、セイヤは飛べない鳥であるペンギンが空を羽ばたこうとしているかのように両腕を広げる姿が実に微笑ましい。この飛べない鳥を自分たちに見立てているあたりがバニラズが自分たちがどういう人間であるかをわかっていると言えるが、この曲の美しいメロディとコーラスは完全にこの武道館を羽ばたいていた。
「ここに集まってくれた皆さんに幸運の光を!」
と牧が言って演奏された「ラッキースター」ではいつの間にか牧がジャージに着替えたラフな姿でステージを歩き回りながら歌うのであるが、観客はこの曲を演奏中は動画・写真撮影がOKと言われたことによってその牧の姿やバンドの姿をしっかり記録として納めようとする。横浜アリーナもそうだったが、これはバニラズなりのファンサービスと言えるだろう。
アメリカのポップミュージックの影響も感じさせる曲であるだけに井上のキーボードが生で鳴らされることによって曲に躍動感を与えているし、そうして生き生きとする牧はステージから伸びる花道を歩いてスタンド席最前列の観客と握手しそうなくらいに近くまで行き、さらには花道のスロープ部分に座り込んだりするという自由っぷり。それも全てここでこうしてライブができているのが楽しくて仕方ないからだろう。
するとここで柳沢が作曲したという、この日のライブタイトルになっている新曲「My Favorite Thing」がいきなり披露されると、ここまでは鮮やかかつ派手な演出の連発だったのが、一転してメンバーそれぞれの演奏する姿が左右のスクリーンに対称に、かつセピア色に加工されて映し出されるというシンプルなものに。それはタイトルとここまでの内容からさぞやカラフルなアレンジが施された曲になるのかと思いきや、柳沢のハイトーンかつ繊細だけど熱いボーカルを中心に据えたサウンドに実に良く似合うものである。
渋谷の宇田川町や道玄坂を想起させるような猥雑な街の風景をアニメーションにした映像(店の看板はバニラズのこれまでの曲タイトルなどになっている)が映し出されるのはこの武道館で聴けるのが実に意外だった「雑食」であるが、それはこの日のここまでの曲だけでもわかるバニラズの音楽性の幅広さをそのまま示している曲でありタイトルだとも言えるかもしれない。そんな街のアニメーションがサビでは万華鏡を覗いているかのようなものになり、心地良いサウンドと相まって抜群の陶酔感を与えてくれる。
するとステージが暗くなり、柳沢とプリティの姿が見えなくなる代わりにステージに現れた井上がキーボードを鳴らすと、牧はその音色に合わせて「アダムとイヴ」「バイリンガール」「ロールプレイ」を1サビずつだけ歌うのであるが、そのキーボードはずっと一定のリズムで演奏されているだけにこの3曲を1曲に融合させたかのようなメドレーになっている。
そのメドレーはセイヤもリズムで加わっての「Do You Wanna」へと繋がると、柳沢とプリティもステージに戻ってきて、そのまま「Do You Wanna」のイントロからちゃんと1曲演奏されるという間違いなく今回のライブならではのアレンジになっており、スクリーンにはアメコミ的な映像も映し出される。このアレンジで「アダムとイヴ」「ロールプレイ」をまるまる1曲聴きたかったという人もたくさんいただろうけれど、それはまた次のお楽しみというところだろうか。
すると牧は革ジャンを着るという、時間を全く使わずに様々な衣装に着替えるというロックスターっぷりを見せて演奏されたのは、イギリスの薄曇りの空などの映像が映し出される、バンドの憧憬とも言える曲である「倫敦」。牧はやはりステージ左右の花道を歩き回りながら歌うのであるが、顔色一つ変わることはないがその運動量はかなりのものになっている。ミュージシャンもアスリートみたいなもんだよなとその姿を見ていると思う。
せっかくの武道館ということでメンバーそれぞれのMCも行われるのだが、「サイシンサイコウ」の時のメンバーのフェイバリットなものの種明かしも兼ねており、プリティの漫画、柳沢のゲーム、牧の花束、そしてセイヤの宇宙人というそれぞれの愛するものを語るパートでもあるのだが、セイヤの宇宙人は長崎に住んでいる宇宙人のような人から送られてきて、18歳の時からずっと一緒に住んでいるというエピソードはもはやホラーじみていると言ってもいいくらいのものである。
そんなエピソードの後に演奏された、暴発ロックンロール「one shot kill」ではステージ上の照明が下に降りてきて至近距離でメンバーを照らし、ステージ前からは火柱も噴き上がる。何よりもこの曲のサビ前ではまさに銃声のような爆発音が鳴るのだが、それは鳴るとわかっていても毎回驚いてしまう。セイヤの疾走するツービートも、牧とともに思いっきり声を張り上げる柳沢とプリティのコーラスもこのバンドのロックンロールさをこれでもかというくらいに示している。曲終わりではめちゃくちゃ火薬の匂いがしてきたけれども。
再びゲストメンバーたちがステージに集結すると、牧は改めてそのメンバーたちを紹介しながら、「LIFE IS BEAUTIFUL」のレコーディングで一緒になったこのメンバーたちのことが大好きであり、その大好きなメンバーと大好きな音を鳴らすということがそのまま「My Favorite Things」であるということを語る。そこからは自分たちのやりたい音をこうして実際にライブの場で具現化することができるようになった喜びが溢れていたし、この編成を「バニラズセブン」と称したように、そもそもがキャリアのあるメンバーたちであるだけに牧もリスペクトしてきたメンバーたちと一緒にできている喜びもあるんだろうと思う。
そんなメンバーも加わって、プリティが腕で「EMA」の文字を作るのをレクチャーしてから演奏されたのはもちろん「エマ」であるのだが、柳沢のイントロの軽やかなギターリフにファンファンのトランペットと手島のフィドルが重なることによってこの曲がファンファーレであるかのようにすら響く。その足し引き具合というか、アレンジを加える曲とそうしなかった曲のチョイスが絶妙であると思うし、このアレンジが加わってもバンド感が削がれることはないというか、むしろそこが増強されている感すらある。サビで武道館中が腕を交互に上げ下げするおなじみの振り付けをしているのは本当に圧巻である。
そのアレンジは「平成ペイン」のイントロでもトランペットとフィドルが吹き荒れるという形になって続くのであるが、満員の観客が飛び跳ねまくっている光景をスタンドから見ているとやはり感動してしまう。牧も
「一歩ずつちゃんと進んできたから、こうして2年前とは違う景色が見れるようになった」
と言っていたが、声を出したり一緒に歌ったりは出来ないけれど、また満員の武道館の景色を見れるようになったんだな…と感慨深くなる。それは2年前までを経てきているからよりそう思うのだ。それをバンド側もわかっているように、この曲の演奏中には正面のスクリーンに客席の映像がリアルタイムで映し出される。みんな本当に楽しそうに腕を上げ、飛び跳ね、サビではMVのポーズを踊っている。それがより一層感動させてくれるし、バニラズのロックが今やこんなにたくさんの人の光になっているんだなと感じさせてくれる。
そんな光を感じさせてくれるような音楽を鳴らしながらも牧は、
「道で会ってもわからないかもしれないけれど、俺たちもみんなが日々の仕事とか学校で作ったものやサービスによって生かされている。それを少しでもこうやって返すことができたらと思ってる」
と口にした。貰っているのはこちらの方なのに、そうして我々に光や力をくれる牧がそんなことを言ってくれるからこそ、少しだけ自分の仕事に誇りを持てるような、来週からの仕事に前向きになれるような。音楽でも言葉でもそう感じさせてくれるというあたり、本当にステージ上でその人間性をそのまま発しているのがバニラズのライブである。
そんな言葉に続いて牧が
「東京の未来に賭けてみよう」
「ここにいるみんなの未来に賭けてみよう」
と歌詞を変えてから歌い始めたのはもちろん「アメイジングレース」。この7人でのサウンドをフルに発揮した演奏はもちろん、その演奏している姿から発せられるオーラまでも含めてこの曲はここにいる全ての人への祝福の歌だった。
そんなクライマックスを締め括るのは、牧が観客への感謝を口にしようとしている中でセイヤがスクリーンに映り込もうとするのがシリアスなことを言っているのに笑ってしまいそうになる「マジック」。4つのスクリーンには4人それぞれの演奏する姿が映し出され、金テープも射出される中、曲中でのプリティによる手拍子のカウントもこれだけたくさんの人がここに存在しているということを示すように完璧に決まり、この日ロックンロールの聖地である武道館はその力をこのバンドによって最大限以上に引き出されていた。それこそがこのバンドの持つロックンロールのマジックの何よりの証明だった。
アンコールで再びメンバーが登場すると、ゲストメンバーは手島のみという、バンド+フィドルという編成で演奏されたのは新曲「ハイヤー」。赤やオレンジの照明が夕暮れ時を思わせるような演出はこの曲が醸し出している切なさを抱えながらも踊るという感覚を視覚的に体現していると言えるのだが、すっかり秋らしい気候になったこの時期にはピッタリと言える、また新しいタイプのバニラズの曲だ。ほとんどの人が初めて聴いたであろうけれど、たくさんの腕が上がったりしていたのはすでに新たなアルバムも完成したことによってレコーディングを経て演奏が練り上げられているからだろう。
するとここで牧はサプライズ的な発表が2つあることを告げる。大阪ではアルバム発売が発表されたが、この日はそのアルバムのリリースツアー(まだand moreとなっているあたり全てではない)が発表されて観客が歓喜すると、さらなるサプライズとしてこの日は友達が来てくれていることを告げ、ステージに招かれたのはなんとHump Backの林萌々子。普段のHump Backのライブとは全く違う、ワンピースにGジャン、ハットという出で立ちだったが故に最初は出てきてもわからなかったという姿もまたレアであるが、
「去年ウチらも武道館でやったけど、まさか2回目がバニラズのライブになるとは(笑)」
と言いながら2人がハンドマイクで並んでステージ前の花道の前を歩きながら歌うのは新曲「Two of Us」。このロックンローラー2人がデュエットする曲でこんなにR&Bテイストを含んだポップス的な曲になるとは、ということも驚きであるが、そうしたサウンドだからこそ2人の、特に林の歌唱力と声量の素晴らしさがよくわかる。林はバンドでも実に伸びやかなボーカルを聴かせてくれるボーカリストであるが、バンドのボーカルではなくてシンガーとしてこうしたサウンドの曲を歌うとこうなるのかという。それは弾き語りでのものともまた違うものなのだが、最後にはセイヤのドラムが一気にツービートになって演奏そのものも激しくなるというあたりはやはり隠し切れない両者(特にバニラズ)のロックンロールさと言えるだろう。
そんなシンガーとしての魅力をしっかりと見せてくれた林がステージを去ると、牧は前回の武道館で口にした夢がこの日叶ったからこそ、また新たな夢として、
「次にここでやる時は2daysで!」
と口にする。もっと大きな会場で、と言うんではなくてこの会場で1日でも多くライブをすることを新たな夢に設定するというあたりに、バニラズが本当にこの武道館という場所と、その場所が持つ力を信じているんだなと思う。それは自分たちのライブ以外にも様々なライブをきっとこの場所で見てきたからだろう。ここでまさかの柳沢が
「さっきの1人ずつ喋るとこで謎に俺だけ飛ばされたんですけど(笑)」
と明かしたのは飛ばされた柳沢には申し訳ないけどめちゃくちゃ面白かった。その後にしっかり
「フジロックに俺だけ出れなくて悔しい思いをしたけれど」
と自分の言葉でしっかりここに立てている感謝を告げていたが、牧も言っていたように去年の横浜アリーナではステージからいなくなる場面もあっただけにこうして武道館を完遂できた喜びはひとしおだろう。
そんなバニラズ2度目の武道館で最後に演奏されたのは、まだ2年前は生まれていなかった、この日のバニラズセブンで作られた曲「LIFE IS BEAUTIFUL」。横浜アリーナでも「この曲はこの日のための曲だな」と思ったけれど、その思いをこの日はるかに更新したのはやはりこの7人でこの曲を演奏することができたからだ。誰もがみんな常に楽しいと思えるような人生を送れているわけではないだろうし、こうしてライブを見ている時以外は絶望ばかりしているような日々を送ったりしている人もいると思う。それでもこうしてこの曲を聴けている瞬間は、人生は美しいと思うことができる。大量の紙吹雪も舞う中、このメンバーによるアイリッシュサウンドはそんなここにいた全ての人の人生を祝福してくれるようだった。
「また辛いこととかあったら俺たちのライブに来てくれよ!」
と牧は言ったが、それはこうした瞬間にしか満たされることがない人がいることをわかっているからだ。
演奏が終わると牧はゲストメンバーも含めて全員をステージ前に呼ぶと、フィドルの手島がこれから海外に行ってしまうことにより、この7人でライブができるのは最後かもしれないと感極まって涙を流してしまう。それくらいにこの人たちのことを、その音を本当に愛しているのだし、いくらでもクールにもスタイリッシュにもなれるような見た目を持っているのにそうはなれないのはこうして感情がそのまま出てしまうような熱い人間だからだ。でもそこが本当に愛しい。そんな姿を見てしまったからには、次の夢が実現する瞬間にもちゃんと居合わせていたいと思う。
去り際には本編では
「もはやファミリーだ!」
と言っていたセイヤが
「ツアーに友達とかも連れてきてね!ファミリーが増えればもっと大きくなるから!」
と口にした。もう見た目から生き方から全てがロックンローラーなセイヤが我々を「ファミリー」と言ってくれるのが本当に嬉しかった。それはこれからもずっと一緒だということだから。
初めてバニラズのライブを見たのはスペシャ列伝ツアーだからもう8年前。その時はこの規模でライブをやるようなバンドになるなんて全く思ってなかった。でも様々な音楽を愛してきて、様々な人と出会ってきたことによるこのバンドだけの変化や進化を経た今ではロックンロールの最前線バンドとしてこの聖地武道館を守るバンドになった。それくらいに逞しく、頼もしい存在になってもロック少年らしさが変わることはない。
そんなロックンロールの初期衝動とこの編成だからこその祝祭感の両方を与えてくれた、最高の武道館ワンマンだった。これからも、このバンドの未来に賭けてみよう。
1.RUN RUN RUN
2.Hey My Bro.
3.カウンターアクション
4.クライベイビー
5.お子さまプレート
6.サイシンサイコウ
7.青いの。
8.ペンペン
9.ラッキースター
10.My Favorite Things
11.雑食
12.Do You Wanna
13.倫敦
14.one shot kill
15.エマ
16.平成ペイン
17.アメイジングレース
18.マジック
encore
19.ハイヤー
20.Two of Us w/ 林萌々子 (Hump Back)
21.LIFE IS BEAUTIFUL
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