ホカホカでない海苔弁当が最高の味だった、という話

飲食店ではテイクアウトを楽しめるお店が今では数多くありますが、そこで買えるテイクアウトのお弁当は焼き立て&炊きたてのホカホカなもの。また、職場にも電子レンジがあったりしますが、本来お弁当って冷めていて温かくないけど美味しい!っていうクラシカルなものが普通だったんじゃないか…?というのが海苔弁を掘り上げたこちらの記事になります。どうせ食べるなら最高級の海苔弁を…ということで今回は海苔弁当に特化したお店、「刷毛じょうゆ 海苔弁 山登り 築地直売所」で2種類のお弁当を買い、海と海苔を感じられる場所に向かいました。(築地のグルメ・和食)

ホカホカでない海苔弁当が最高の味だった、という話

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海苔がそこまで好きでなかったライター、ココロ社です。

 

4月以降、多くの店がテイクアウトに対応して、わたしもいろいろな店の料理を持ち帰って楽しんだ。たとえば焼き鳥屋でも、焼き鳥単体ではなく、お弁当の形で提供しているが、テイクアウトを始めたお店が供してくれるのは、当然ながらできたての温かいお弁当。焼きたて&炊きたてでおいしいなぁ……と思いつつ、家でいただいていただくことも多かったのだが、食べるにつけ、脳裏にぼんやり、クラシカルなお弁当の姿が浮かんできたのだった。

 

【目次】

 

「温かくないお弁当が食べたい」という気持ちになる

そういえば、お弁当って、もともとは温かくないものだけど、温かくないのにおいしかった。モダンな温かいお弁当も大好きだが、「みっしり中身の詰まったお弁当をリュックに詰めて、好きな場所で適当に腰掛けて食べたい」という贅沢な願望が募ってきたのだった。

 

そして、そのときにいただくお弁当は、ステーキ弁当ではない。日の丸弁当は行きすぎとしても、昔ながらのスタイルの、冷めていることが前提のお弁当がいい。たとえば海苔弁当などはどうだろう。

 

「海苔=食べられる黒い紙」という偏見を超えて

なかなか本題に入らなくて申し訳ない。さらに海苔についてお話しさせていただきたい。

つい最近まで、わたしにとって海苔とは、「食べられる黒い紙」だった。なので、おむすびはよいとして、ラーメンに海苔が入っているのを見て、何がしたいねんと思っていたのだ。何かをホールドするために生まれてきた海苔が、何の仕事もせず、丼にそのまま突っこんであると思ったのだ。

しかし、どこかで、家系ラーメンの海苔は、スープにつけて、箸休めとしていただくとちょうどいい、という記述を見つけて、実行してみたら、すばらしい味だったのである。海苔のパリパリした食感が好きではなかったのだが、スープと混ざってトロトロになった海苔は、わたしの知る黒い紙とはまったく異なるごちそうだったのである。

 

お弁当と海苔をめぐる認識のコペルニクス的転回を体験したわたしの中で、「海苔弁当の可能性を探求したい」という気持ちが爆発してしまったことはもはや必然だろう。

 

海苔弁当に特化したお店、「刷毛じょうゆ 海苔弁 山登り」

向かったのは、築地の「刷毛じょうゆ 海苔弁 山登り」。お店の名前に「海苔弁」とあるのだから間違いないはずである。

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メインのお弁当は「海」「山」「畑」の3種類があって、それぞれ税込み1,080円。「海」は、焼鮭とゆかいな仲間たち、「山」は、鶏の照焼きとゆかいな仲間たち、「畑」は、れんこん餅とゆかいな仲間たち……とざっくり理解した。

それぞれのおかずが大集合したタイプもあり、海苔弁当のお店でありながらも、おかずにも絶大な自信があることが伺い知れるメニューたちである。

 

お店自体は11時にオープンであるが、わたしは寝坊してしまって出遅れてしまい、13時に到着。先客がいて、しかもパリッとした(海苔だけに)出で立ちで、たくさんお弁当を注文なさる。カウンターの上の残り少ないお弁当が袋に納められていく……どうかお慈悲を……と後ろから念を送ったのだが、それが通じたのか、最後のひとつの「海」を手にすることができた。そして、おなかがすいていたので、「山」もお願いした。

 

そして、このお弁当をどこで食べようかと思った。ホカホカのお弁当なら、なるべく近くの公園などが望ましいが、わたしが手にしているのは、何を隠そう、「ホカホカでなくてもおいしい(と推測される)海苔弁当」なのであるからして、時間がかかってもロケーション重視でいきたい。そもそも、お弁当の大きなメリットが好きな場所で食べられることなのだから。

 

お弁当を買ってから海へ向かう……これこそお弁当の醍醐味である

今年のはじめごろ、平和島の、海苔の博物館のようなところに行ったことを思い出した。海苔弁当をいただく前に海苔のすばらしさについて学べば、さらにおいしくなるはずだから行ってみよう。

 

築地からだとおよそ30分で平和島駅に着く。駅から東に10分ほど歩くと、「大森 海苔のふるさと館」が見えてくる。

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いまの街並みからは想像がつかないが、昭和30年代ごろまで、この近辺ではのりの養殖が行われていて、その様子を偲ぶことができるのが、この博物館なのである。海苔だけでこんな立派な博物館を作ってしまうなんて大田区はすばらしい……。

 

全部紹介するとキリがないので、ハイライトを紹介させていただこう。

 

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昔、海苔の養殖は、枝が多い低木や竹を加工して海中に差し、海苔を付着させていた。収穫するのが大変だったろう……海苔のありがたみを実感できる。

今は網を用いているが、それでも重労働であることに変わりはない。

 

作業中の姿も実物大で展示している。この作業は「海苔つけ」といって、刻んだ海苔を木枠に流しこんで、板状の乾海苔に加工する作業。

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やはり製造工程は紙のそれに似ている。刻んだ海苔を木枠に流しこんでシート状にするのは高い技術と忍耐力が必要なのである。

 

1階には、海苔を採るための船が展示してある。

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案外大きい。設定は現代で、おじいちゃんが孫に、自分が若いころの海苔養殖について語っているという設定。

 

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これは海苔を運搬するための箱。もっと適当に麻袋などに入れて運んでいるものだと思っていたが、海苔は湿気に弱いので、密閉できるように作られ、中はブリキが貼られている。すばらしい待遇である。

 

海苔原理主義者に変身したあとは海へ行こう

一連の展示を見て、「海のおいしさを凝縮したものが海苔である」という結論を得て、海苔弁当への気持ちが最高潮に達したので、そのまま海へ。

 

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この海岸、春~秋は人が多いのだが、冬には子どもたちの学習用に海苔を育てることもある。

 

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これは冬に行ったときの海の様子だが、さきほど展示されていたのと同じ方法である。

いまは地元の産業として本格的な栽培はされていないにせよ、おそらく東京で海苔弁当を食べるにあたってもっとも適した場所だと思う。向こう岸が工業地帯というのも海苔の栽培に向いているかどうかは別として、東京らしくて大好きだ。

 

この香りは海の香り?いえ、お弁当の香りです

お弁当のパッケージは海苔をイメージしていて、期待が高まる。

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やはり海に来たので「海」をいただこう。

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箱を開けると焼鮭がお弁当を縦断していておどろいた。

そして、海苔を主役にしたレイアウトにうっとりする。この海苔弁当では、海苔は空間を埋めるための脇役ではなく、主役なのである。

 

そして、いい磯の香りがして、海からくるものかと思ったが、このお弁当からだった。味も濃くてびっくりしたが、よく見ると二段重ねになっていた。

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ぜいたくな作りである。結局おかずを食べないまま、海苔ごはんをかなり食べてしまって、ごはんの量と比べておかずがたくさんになってしまった、

 

この海苔は当然ながら大森の海苔ではなく、有明海の希少な一番海苔を使っている。普通に暮らしていて、この水準の海苔を口にする機会なんてそうそうないだろう。さきほどの展示で得た「海のおいしさを凝縮したものが海苔である」という認識を新たにできる海苔の味だった。

 

鮭は脂がのっていて、海苔弁当のおかずであることを弁えてか、ふつうの焼鮭弁当などにあるものより塩分控えめ。磯辺揚げは冷めていても油っこい感じはなく、魚のすり身の味が濃い。ごはんがすすむのだが、海苔ごはん自体が勝手に進むので、見た目の豪華さ以上に豪華で戸惑ってしまうほどである。

 

ほどなくして食べ終わったのだが、ぎっしり詰まっていたおかげか、ひとつで満腹になった。

 

過酷な持ち帰りでもおいしい、驚きのお弁当

いっしょに買った「山」は、あえて乱暴に縦にしてリュックに詰めこんで、家で食べることにした。しかも、傷むとよくないと思ってしばらく冷蔵庫に入れたりもしてしまった。

 

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われながらお弁当いじめがひどい……と思ったりもしたのだが、開けてみたら、密度が高いのであまり寄っていない。

 

そして、鶏の照り焼きは、香ばしい中にも高級中華料理店の蒸し鶏をいただいたときのようなジューシーな味わいで、常温ならではのおいしさが感じられた。そして柔らかい。塩麹でつけてあるらしい。

海苔弁当の王道に近いのは「海」かもしれないが、ホカホカでないお弁当の魅力を味わうには「山」がいいのかもしれない。

 

次行ったときも両方買うと思うのだが、次はどこで食べようか、あれこれ想像してしまうすてきなお弁当だった。

 

紹介したお店

刷毛じょうゆ 海苔弁 山登り 築地直売所
住所:東京都中央区築地2–8–8
営業時間:11:30~17:00 (商品がなくなり次第終了)
定休日:日曜日・祝日

取材協力

大森 海苔のふるさと館
住所:東京都大田区平和の森公園2-2
TEL:03-5471-0333
大森 海苔のふるさと館 - Oomori Nori Museum

 

著者プロフィール

著者 ココロ社
ライター。主著は『マイナス思考法講座』『忍耐力養成ドリル』『モテる小説』。ブログ「ココロ社」も運営中。 

ブログ:ココロ社
Twitter:ココロ社 (@kokorosha) | Twitter

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