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元サッカー少年。今はしがない化学屋です。

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遺伝子組換え作物の問題を解決するには,何が必要なのか
昨日の毎日新聞朝刊の一面(トップではありませんでしたが)に,気になる見出しの記事がありました。

遺伝子組み換えトウモロコシ:大手5社、清涼飲料の原料に(毎日新聞)



見出しを見て「なんのこっちゃ」と思った方が多いかと思いますが,要するに「清涼飲料水の甘味料として、遺伝子組み換えしたものが混ざった「不分別」トウモロコシが原料の「異性化糖」」を「ソーダ類などで「ブドウ糖果糖液糖」などと商品に表示」するだけで使っている,と言うある種の告発的な記事です。

事実を淡々と述べているように見えますが,「異性化糖は遺伝子組み換えの表示義務がなく、消費者の抵抗感もあるため、積極的には公表されていない。」などと書いたり,最後の締めを「日本では、遺伝子組み換え作物への不安感が根強く、「安全性にも不安があり、食べたくない人が選択できるようにしてほしい」(生活クラブ生協千葉)などと表示対象の拡充を求める声が多い。」と言うコメントでまとめるなど,全体として批判的な内容です。

もちろん

現行制度では豆腐、納豆、コーンスナックなどは表示義務があるが、異性化糖、大豆油などは製造過程で組み換え遺伝子などが分解・除去されるため、表示義務はない。


と,いう現在の科学的な認識についての説明もありますが,返す刀で「表示制度がない米国、すべて表示している欧州連合(EU)などと各国で対応が分かれている。」などと,あたかも日米では企業論理に迎合する形で対応が遅れているかのような印象操作をしているようにも見えます。

もちろん,この記事だけでそこまで悪印象を持つのはちょっと邪推が過ぎるかもしれませんが,本文中でも誘導されている解説コラムの内容を見れば,そういった方向に読者を誘導したがっているのがわかりすぎるほどにわかります。

解説:飲料に遺伝子組み換え作物 消費者に積極表示を

清涼飲料と遺伝子組み換え(GM)作物の関係はGM作物が食品に広く使われていることの一端に過ぎない。大量輸入している穀物の半分が安全性が確認されたGM作物と推計され、加工品が各家庭の食卓にのぼっている。納豆、豆腐、スナック菓子などはGM作物が使われていないが、GM作物を原料にした食用油、GM飼料を食べた牛肉、鶏卵などは市場に出回っている。
 日本では消費者の反発を恐れ、多くの食品メーカーがGM作物の表示に消極的だ。また、異性化糖や食用油などはGM遺伝子が残らず、表示義務もないため、消費者がGM情報を得る手だてはない。
 飲料各社には制度上の落ち度はないし、安全性は国が認めているが、消費者にとっては選択の機会を奪われているのは事実だ。大手スーパーのイオンや生協は原料に使ったら自主表示しているが、それは一部に過ぎない。
 GM作物に傾斜するのは主要輸入先の米国で、組み換えトウモロコシの栽培割合が8割に達し、非組み換えを調達しにくくなっている背景もある。コスト面を含めた現状を消費者と共有するためにも飲料に限らず食品メーカーは積極的にGM情報を表示する時期に来ている。【遠藤和行】



このような部分にまでGM表示を求める辺り,記者が「遺伝子組換え作物」がどういうものなのかをまるで理解していないことが良くわかります

遺伝子組換え作物に関する誤解については,以前のエントリでも書きました(ふたたびコメントへのお返事(遺伝子組換え作物について))が,まだまだ世の中には誤解が満ちあふれている状況です。

このような状況では,いくら無責任なだけの低レベルな煽りであるとは言え,天下の毎日新聞が書いたということであれば,当然消費者は不安に駆られます。不安に駆られれば「選択の余地を」などという声も高まるでしょうし,そのような声に押され対応してくる企業も出てくるでしょう。しかし,それはすなわち企業や消費者が全く無意味なコストを支払わうことを強制されていることであることに,どうして気がつかないのでしょう。

GM作物から得られようが,非GM作物から得られようが,デンプンはデンプンです。同じ化学構造を持った同一の化合物です。さらに極端なことを言えば,これらのように天然物から抽出されてきたものであろうが,石油などを原料として完全に人口化学合成により作られようが,CO2固定化技術によって作られたメタノールを原料として作られようが,デンプンの構造を持っていれば全て同じデンプンです。何を原料としているかなどと言う氏素性は全く関係ありません。

そして,さらに今回飲料水に入っている「ブドウ糖果糖液糖」は,そのデンプンを分解して作られたものですので,さらにもう一段手が入っているわけです。こんなもののどこに「遺伝子組換え作物由来」であることを明記する必要があるのでしょうか。

もちろん,このような表記を求める声があるのは事実です。しかし,なぜ求められるようになってきたのか。それは「遺伝子組換え作物がなんたるかをまるで理解していないマスコミや消費者団体などが,消費者の不安を煽り続けてきたため」でしかありません。

マスコミや消費者団体が本来する必要のない不安を煽ることで小金を稼ぎ,その不安に煽られた人たちの圧力で企業が不必要なコストをかけざるを得なくなり,そのような不必要なコストがかけられて値段が上がったり,他の部分の品質が落とされてしまった商品を消費者が購入する。

これが現在の構図です。一番得をするのは誰ですか?する必要もない不安を解消することが出来た消費者でしょうか? それとも本来存在するはずの無かった種類の安心感を自分たちの商品に与えることができた企業でしょうか?

どうも,毎日新聞は今後この問題をテーマにして,シリーズものを連載するつもりのようです。今朝の朝刊には,その第一弾として「食卓どこへ:遺伝子組み換え/1 生協「不使用」から転換」という記事が掲載されています。

記事中では,あたかも生協が時代の波に流されている被害者のような書かれ方をしていますが,このあたりにも,マスコミというか毎日新聞の悪辣さを感じます。

これまで生協は「どちらの飼料も安全性や品質に差はない。手ごろな値段で安定供給することが大事」というごく当たり前のことを隠し続け,それどころか遺伝子組換え作物に関して根拠のない憶測を元にした誹謗・中傷を垂れ流して消費者の不安を煽り,自らの商品を差別化してきたわけです。このような経緯を考えれば,現在彼らが感じているジレンマは,単なる自業自得であり自縄自縛の典型的なものにしか見えません

最初から,遺伝子組換え作物は十分に安全なものであると言う事をきちんと組合員に説明してきていれば,無駄なコストをかける必要も,こんなくだらないジレンマに悩むこともなく,安全で安心な製品を手ごろな価格で提供し続けることが出来たのです。まったくばかばかしい話です。もっとも一番被害を受けていたのは,無駄なコストを支払わされ続けてきた消費者ですけどね。

とは言え,このような活動の最右翼であった生協が,ようやく現実に目を向けて態度を変換しようとしていることは,日本の消費者にとって非常に有益なことだと思いますので,私は歓迎したいと思います。

しかし,どうやら毎日新聞はその様な流れが非常に面白くないようです。

もし,毎日新聞が社としてこのような流れに反対していこうというのであれば,このような三流以下の煽り文章などではなく,正々堂々とした科学的な議論を行うべきでしょう。それが出来ないのであれば,素直に自らの非を認め,態度を転換すべきです。

遺伝子組換え作物に関する様々な問題を解決する唯一で最適な方法。

それは,「消費者に対する科学教育の徹底」以外に他なりません。

本来であれば,このような役割こそマスコミの方々に担って欲しい部分であり,科学者はそのマスコミをサポートする裏方こそがふさわしいはずなのです。しかし,残念ながら,正しい科学認識を広めるための最大の敵がマスコミであるというのが,現在の状況です。

一日も早く,まともに科学を語れるマスコミが登場してくれることを願ってやみません。

テーマ:科学・医療・心理 - ジャンル:学問・文化・芸術

気になる化学リスク | 13:14:05 | Trackback(0) | Comments(0)
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