かなしいうそ
きのうの朝からずーっと職場に詰めている。
久しぶりにNHKの雪の女王を見た。
どういういきさつだか分からないが、主人公のゲルダちゃんは魔法使いのお家にいて、そこの子になっていた。
どうやらさびしい魔法使いが、自分の子どもにするためにゲルダをかどわかしてきたらしい。
魔法で記憶を消され、魔法使いの子どもであることを疑わないゲルダ。
しかし世界中の花があるというお花畑にたった一ヶ所だけ花が抜かれたらしい場所があって、そのことがきっかけでゲルダは失っていた記憶を取り戻し・・・と言うお話。
今回、魔法使いに仕えるブリキの衛兵の言葉が印象に残った。
衛兵は、ゲルダとの生活に有頂天になっている魔法使いを見てこう言う。
「しあわせは長くは続かない。特にウソやいつわりがある場合には」
そう。
しあわせは長くは続かない。
ウソやいつわりで塗り固めた生活は、とてももろく、はがれやすい。
前の結婚の時、ぼくと妻のあいだには常にアルコール問題が深く暗い暗渠のように横たわっていた。
ぼくはたびたび仕事を休み、自分で職場に電話をかけることさえしなかった。
ひどいときには土曜の夜から連続飲酒が始まり、気がついたら月曜の昼間になっていることさえあった。
そんなときには現実から目をそらすため震える手で急いで酒瓶を口に持っていき、ブラックアウトするためにウォッカを胃に流し込んだものだ。
たいがいはひどい吐き気でマトモに胃におさまらなかったけれど。
どういうわけかその間、妻が何をしていたのかまったく憶えていない。専業主婦だったから、ずっとアパートにいたはずなんだが。
憶えているのはいつも疑心暗鬼と不安と、そして言いようのない悲しさを感じていたことだ。
飲んでいないとき、ぼくと妻の間でアルコールの話はタブーだった。
その話をすればぼくは怒り、出口の見えないケンカに発展するのは必至だったから。
ぼくは極力酒の話を避け、妻もぼくを刺激しないようにそのことは言わなかった。
でもぼくと彼女は、常にアルコールのことが頭にあった。
ドライブに出かけようと映画を観ようと食事をしようと、つねにアルコールの話題はのど元までせり上がってきていた。
通奏低音のように。
ウソといつわりで塗り固められた生活は、3年も持たなかった。
アルコール依存症者には、酒を飲み続けるためのウソがどうしても必要だ。
飲み続けるためにウソをつき続ける。自分のウソをつき通すために、新しいウソで塗り固められる。職場にウソをつき通すために、家族を、たいせつなひとを、ウソの共犯者に仕立て上げる。
ぼくは妻に何度、職場への体調不良の電話をかけさせただろう?
ぼくは飲みながら仕事をしていた4年間、数えきれないほどのウソをついてきた。
同僚に、上司に、実家の両親に、妻に、そして自分自身に。
ウソをつくたびに、人間関係はすこしずつ枯れていった。
ウソをつくたびに、たいせつななにかが壊れていった。
ウソが増えるたびに妻は具合が悪くなり、家事をまったくせずに一日中、ただ泣いて過ごすことが多くなった。
ウソと魔法でゲルダを自分の子にしようとした魔法使いには、結局はさびしさしか残らなかった。
魔法で作った御殿も衛兵もお花畑もごちそうもケーキも、彼女のこころを満たすことはできなかった。
魔法使いはきっと、誰かの愛情が欲しかったのだろう。
でも結局はウソといつわりのために、たいせつなものを失ってしまった。
まるでアルコール依存症者のように。
ぼくはもう、誰にもウソをつきたくない。
言うわけにいかないことを問われたときには、知らないふりをすることもある。
でもぼくはもう、ウソを自分の暮らしの中に入れたくない。
虚勢を張ったり、ひとをだましたり、いつわったりするのはやめるんだ。
認めたくないことでも自分に不都合なことでも。
しかしこの「雪の女王」、なんか琴線に触れるんだよね。
ビデオに撮り溜めていた分、帰ったら見てみようっと。
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