源氏物語〔15帖 蓬生 1〕
源氏物語〔15帖 蓬生 1〕「Dog photography and Essay」では、「愛犬もも」と「源氏物語15帖 蓬生(よもぎう) の研鑽」を公開してます。須磨・明石の段階における光源氏の周囲の人々の様子と、その影響を受けた女性たちの苦境を描写している。源氏が京を離れ、須磨や明石に漂泊していた時期、都では多くの人々が悲しみに暮れていた。その中でも、しっかりとした立場を持つ者、たとえば二条の夫人などは、源氏の消息を比較的詳しく知ることができ、頻繁に手紙を交わすこともできた。また、源氏の無官の立場を思いやり、季節に応じて衣装を送るなど、心を寄せる手段もあった。一方で、真に悲しい状況に置かれたのは、源氏が京を離れる際に無視され、置き去りにされた女性たちである。常陸宮の末摘花は、父を失い保護者のいない孤独な境遇にあった。源氏との関係によって物質的な支援を受け、しばらくは生活を保つことができた。しかし、源氏が須磨へ行ってしまうとその関係は途絶え、遠方から手紙を送ることもなくなった。源氏からの支援は一時的なものであり、それが途絶えたことで、末摘花の生活は再び底知れぬ貧困に陥った。かつて源氏の庇護を受けたことがあるために、その後の苦痛は以前よりも一層激しく感じられた。かつての女房たちは、源氏の保護を「神や仏のような奇跡」と感じ、感謝していたが、それが崩れ去ったことに深い悲しみを抱いていた。屋敷の荒廃も進み、かつては多くいた召使いも老衰や死によって減り、邸内はまるで狐の巣のように荒れ果てた。梟の声が響き、木精のような怪しいものが現れるなど、不気味な雰囲気が漂うようになった。人々の数が減ったことで、こうした怪異も目立つようになり、かつての栄華とはほど遠い、荒涼とした現実が広がっていた。末摘花の邸には、まだわずかに女房たちが残っていた。その中の一人が、次のように語りかける。「もうどうしようもありませんね。近頃は地方官たちが立派な邸を自慢げに建てていますが、ここの庭の木を買い取りたいと言ってくる者もいます。そういう申し出を受け入れて、この恐ろしい場所を捨てて、他へ移り住んではいかがでしょうか。私たちも、ここに残り続けるのは耐えられませんから」しかし、女主人である末摘花は、そうした提案をすぐに退ける。