今年1月5日に報道機関などに送りつけられたメールを合同捜査本部(警視庁と神奈川、三重、大阪各府県警)が調べたところ、神奈川県藤沢市江の島にいる猫の首輪から遠隔操作ウイルスのプログラムなどが入った記憶媒体のマイクロSDカードが見つかりました。
警視庁は猫がいた場所の近くの防犯カメラを調べたところ、猫のそばで不審な行動をとる男の姿が映っていたことが分かり、この映像やウイルスと記録媒体のコードが一致したこと、あわせて容疑者が江の島からの帰りに使った車両の通行記録などをもとに捜査を進めた結果、都内に住む30歳の男が記憶媒体を取り付けた疑いが強まったということです。
警視庁はこの男が一連の遠隔操作事件に関わったとみて威力業務妨害の疑いで東京都江東区の容疑者の男(30)を逮捕し、自宅を家宅捜索しました。
逮捕につながる証拠の一つとなった江ノ島の監視カメラ
捜査関係者によると容疑者は昨年8月9日、ウイルス感染した愛知県内の男性のパソコンを遠隔操作し、ネット掲示板「2ちゃんねる」上に「コミケ(コミックマーケット)で大量殺人する」などと書き込み、運営者側の業務を妨害した疑いがもたれています。
また今回の事件では、去年6月から9月までの間に、インターネットの掲示板に「伊勢神宮を爆破する」という書き込みや「小学校を襲撃する」という予告メールの送信がされ、全国で計4人の男性が誤認逮捕されました。
容疑者は、誤認逮捕された男性らのパソコンに遠隔操作ウイルスを感染させるなどし、この男性らが脅迫メールを送ったように見せかけたとみられています。
ただ、容疑者は「まったく事実ではありません」と容疑を否認しており、誤認逮捕の起きた事件であるが故に、防犯カメラやウイルスのコードが容疑者と一致し証拠となりうるのか、慎重な事情聴取や捜査が求められます。
「容疑者」の過去の供述と「真犯人」のメールのメッセージ
□「容疑者」の過去の供述
今回逮捕された容疑者は、過去にも逮捕歴があり、その当時逮捕された際には「捕まるはずがない」「掲示板が盛り上がるのが見たかった」「自分の書き込みで掲示板が盛り上がり、『祭』になるのを見たかった」と語っていたそうです。
□「真犯人」のメールのメッセージ
遠隔操作ウイルス事件の「真犯人」のメールには 「無実の事件で人生を狂わされた」「警察・検察をはめてやりたかった、醜態をさらさせたかった」と書かれていたといいます。
ところで、監視カメラが証拠として逮捕される事件が増えています。
最近ですと『千葉県浦安看護師殺害』では容疑者が監視カメラに写っていたのが逮捕の決め手となっています。また、ワタミの介護施設では監視カメラに写っていた介護士の様子により嘘が発覚しています。『リンゼイ・アン・ホーカーさん殺害事件』においても、容疑者が被害者と一緒に写っていたことが証拠の一つになっています。
ただ、京都で起きた『舞鶴高1殺害事件』では、地裁で凶器や指紋といった直接的な証拠が無いものの目撃者の証言や防犯カメラの映像から無期懲役になった被告が、大阪高裁で「現場近くで被告が被害者と一緒に歩いているのを見たという目撃者の証言はあいまいで、その人物が被告とは断定できない。また1審は、被告が被害者の衣服や持ち物の特徴を供述していることを有罪の根拠にしているが、すでに報道されていた内容も含まれていて、あてずっぽうで供述したとしても不自然ではない」と指摘し「被告が犯人であるとするには合理的な疑いを差し挟む余地がある」と結論付け、1審の無期懲役を破棄し、一転して無罪判決が出ています。
今回の遠隔操作ウイルス事件においても、他人のパソコンを乗っ取って遠隔操作して犯罪予告をしたことの直接的な証拠はなく、警察は最初に全く関係ない人を誤認逮捕するという失態をしています。
また、この事件の「真犯人」が報道関係者にメールを送らなければ誤認逮捕も判明しなかった上に、今回の容疑者逮捕にも至らなかったのではないかという状況を警察やメディアは頭においておかねば、同じ過ちを起こしかねません。
メディアにおいても逮捕の2時間前に異例の報道をしており、住所氏名や顔写真などを公開していますが、今回の事件はどの程度の罪になるのかを考えると、報道の反応が加熱し過ぎているのではと心配したりします。
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