後藤弘茂のWeekly海外ニュース
AMD「Ryzen 7」の半導体チップの姿
2017年3月3日 11:28
200平方mm前後まで縮小した高性能CPUのダイサイズ
AMDが発売した「Ryzen 7」は、8個のCPUコアを統合するハイエンドCPUだ。CPUコアは新設計の「ZEN」マイクロアーキテクチャベース。IntelのハイエンドデスクトップCPU「Core i7-6900/6800系(Broadwell-E)」に対抗する。
Ryzen 7のダイは「Summit Ridge」。Summit Ridgeはダイサイズが212.97平方mmで、8個のCPUコアを統合したCPUとしてはコンパクトだ。
従来のAMD APUはダイサイズが250平方mm前後だった。ダイが小さいことは、それだけ製造コストが低いことを意味する。現在はプロセスが微細化するにつれて、ウェハのプロセス工程が複雑になり、プロセス済みウェハコストが上昇している。そのため、ダイサイズが大きいと製造コストが従来プロセスより上がってしまうため、ダイが小さいことはコスト面で有利となる。
AMDはSummit Ridgeに使う8コアのダイをサーバーにも使うと見られるが、サーバー向けCPUとしてはダイが小さい。前世代のAMDハイエンドCPUでは、4 CPUモジュールを統合したBulldozer系CPUが、32nmプロセスで300平方mm台のサイズだった。
Bulldozerは4モジュールで整数演算は8コア、8スレッドの並列実行。Summit Ridgeは、8コアでSMTにより16スレッド並列実行で、ダイは3分の2のサイズとなる。AMDは28nmプロセスではCPUコアだけのCPU製品を作らなかったので、1プロセス世代がスキップされる。
GLOBALFOUNDRIESの14LPP
Summit Ridgeは、GLOBALFOUNDRIESの14nmプロセス「14LPP」で製造されている。通常の14LPPプロセスに、配線レイヤはCPUに最適化し、配線層に埋め込むキャパシタ「MIMCap」のオプションを付けたプロセスだ。
14LPPはGLOBALFOUNDRIESがSamsungからライセンスを受けた2世代目の14nmプロセスだ。Intelの「14+」プロセス同様に、初代の14nmプロセスより性能が強化されている。具体的には、FinFETのフィンの高さが高くなり、トランジスタの性能がアップしている。
Summit Ridgeのダイを、ライバルとなるIntelのBroadwell-Eと比較しても、Summit Ridgeの方がダイが小さい。Broadwell-Eは246平方mmのダイサイズで、212平方mmのSummit Ridgeより二回りほど大きい。
もっとも、Broadwell-Eダイは搭載するCPUコアが10個で、キャッシュ量も多く、さらにダイ上に使われていない部分がある。それらを差し引くと互角程度だが、プロセス技術で優れるIntel CPUに対して同程度のダイ効率に収めていることは優秀だ。
Intelの方がプロセス技術に優れるがコアはAMDの方が小さい
Summit Ridgeのダイが相対的に小さいのは、CPUコアのクラスタである「CCX(Core Compulex)」が小さいからだ。ZENアーキテクチャでは、CCXは4個のZen CPUコアと8MBの共有L3キャッシュを統合している。各CPUコアに512KBのL2が付随しているためL2/L3キャッシュ合計で10MBとなる。ZENは、このCCXを基本モジュールとして構成されている。
CCXはタイトに連結されており、L3キャッシュアクセスも最低レイテンシになるようにレイアウトされている。14nmプロセスでのCCXのサイズは44平方mmだ。この面積に、14億トランジスタが詰め込まれている。ちなみに、Summit Ridgeでは2個のCCXが、新しいオンチップファブリックにより結合されている。
AMDのZEN CCXを、IntelのCPUコアクラスタと比較すると、そのサイズの違いがよく分かる。
Intelの14nmプロセス世代のSkylake/Kaby Lakeは、1個のCPUコアに2MBのLL(Last Level)キャッシュスライスとリングバスストップが付属している。4個のSkylake/Kaby Lake CPUコアは下のような構成となる。同じ4コア8スレッド、8MB LLキャッシュのクラスタで、ダイエリアは49平方mm。AMDのクラスタより10%弱大きい。
Summit RidgeとSkylake/Kaby Lakeは、どちらも14nmプロセスで製造されている。Summit RidgeがGLOBALFOUNDRIESの14LPP、SkylakeがIntelの14nm、Kaby Lakeが14+nmだ。しかし、同じ“14nm”でも、両者のプロセスには大きな違いがある。
“14”というノード数字は同じでも、プロセスの各部のサイズで比較するとIntelの方が小さい。具体的には、ゲートの間隔のCPP(Contacted Poly Pitch)では89%、配線間隔を示す1x Metal Pitchでは81%と小さい。つまり、Intelの方が、プロセス技術的には密度が高く、同じ面積により多くのトランジスタと配線を詰め込むことができる。SRAMセルサイズでもIntelの方が72%と小さい。
にも関わらず、CPUクラスタのサイズはAMDの方が小さくなっている。これは、CPUアーキテクチャや回路技術の違いによる。特に、効率の高いマイクロアーキテクチャが効果を発揮していると見られる。
低電力コアのサイズに近付くZENコアのサイズ
ZENとSkylake/Kaby LakeのCPUコアコンプレックスを比較すると、CPUコア自体のサイズが、AMDの方が小さいことが分かる。ZENのCPUコア+512KB L2キャッシュのサイズは、ISSCCでの発表では7平方mm。それに対して、IntelのSkylake CPUコア+256KB L2キャッシュは8平方mm以上。
Intelの方が命令デコード帯域が広く、浮動小数点演算ユニット(FPU)の規模は倍という違いがある。しかし、それを差し引いてもZENコアはコンパクトにできている。
歴代のAMD CPUコアと比較しても、ZEN CPUコアはコンパクトだ。下は14nmのZEN、28nmのBulldozer拡張CPU「Excavator」、32nmのBulldozerの各コアを比較した図だ。
ZENはシングルCPUコアで2スレッドSMT、ExcavatorとBulldozerは、どちらも1モジュールで2整数コアの2スレッド並列実行となっている。同じ2スレッド実行という目で見ると、ZENコアが極めて小さいことが分かる。
もちろん、ZENは14nm、Excavatorは28nm、Bulldozerは32nmとプロセス技術の違いがある。しかし、ExcavatorはGPU型の配線オプションで面積を特に小さくしたコアで、対するZENは、より高性能CPU的な配線オプションのコアだ。
ZENのCPUコアは、L2キャッシュ関連の部分を除くと6平方mm以下となる。このサイズは、AMDの初代の省電力&低コストコア「Bobcat(ボブキャット)」の4.9平方mmに近い。AMDは大きな高性能CPUコアと、小さな低電力CPUコアを平行して開発製造していた。
しかし、ZENコアはサイズ的には低コストコアのサイズに近付いている。AMDは、ZENでCPUコアを統合し、今後は低電力コアは開発しないことを明らかにしている。ZENのCPUコアサイズを見ると、その理由がよく分かる。
ちなみに、現在のゲーム機、PlayStation 4とXbox Oneは、どちらもAMDの低電力CPUコア「Jaguar」系を使っている。もし彼らが次の世代のゲーム機をAMDアーキテクチャで作る場合は、低コストなCPUコアとしてZENを採用する可能性がある。逆を言えば、AMDアーキテクチャを継続するなら、CPUコアの選択肢はZEN系統だけになりそうだ。
その場合、Jaguarは製造ファウンダリを選ばないシンセサイザブルコアだが、ZENは物理設計の最適化を考えるとファウンダリを移すことは比較的難しい。
例えば、PlayStation 5がZENベースになるなら、製造ファウンダリもGLOBALFOUNDRIESに移す可能性が高い。GLOBALFOUNDRIESは、14nmの次は10nmをスキップして7nmプロセスへ移行することを計画している。
ZENベースになるなら、両社の次世代ゲーム機は、7nmプロセスになる可能性がある。