栽松院の境内には、あるお屋敷に侵入してニワトリを食べたため鉄砲で射殺された隣家の猫、と文久3年(1863)以前から伝わる石碑「猫塚」があります。
現在に、江戸時代の猫の姿を伝えています。
文久3年に寺で話を聞いた好事家と、その著書を読んだ大正時代の人は、石碑が建てられた背景に猫の祟り(と信じるようなこと)があったのでは?と推測しています。
建造当時は彩色として、猫の目に金箔、猫の首輪に赤の彩色などが施された、とても豪華な碑だったようです。
近代デジタルライブラリー - 滅び行く伝説口碑を索ねて. 第1輯富田広重 著、大正15年(1926)
以下、内容を読みやすくしてみました
栽松院の猫塚
古文書に載っているか、何かの記録のなかにちょっとでも記されてあるということの分かっているものはわけもないことだが、風雨にさらされてまったく碑面の磨滅しているような古碑や、何々塚とか何の墓とかその名称だけがわずかに残っているだけでそれに関するなんらの記録もないものの由来を調べる苦心は手前味噌のようだが実際やってみない人には想像だも及ぶまいと思われるほどの苦心がいる。
仙台市界隈にある動物の墓としては前に記した茂ケ崎根岸宗禅寺の鶏の墓、元追廻しの原にあったのを移した仙台市片平町二丁目横町にある午頭ヶ墓、同じく古城から東北一丁ばかりのところにある白蛇権現址の蛇塚などが世に知られている、これらの動物の墓以外に、維新前めずらしい塚としてかなり世間に知られていた猫塚が八つ塚(現新寺小路)栽松院の境内にある。今日ではこれを知っている人は少ないようだ。
山門を入って左脇の松の木の下にかなり大きな木の葉型の碑のあるのがそれである。
碑面の上部に猫塚の二字を刻み、その下に首輪をかけた猫の像が刻まれている。
猫の像の右脇に清女(せいにょ)の二字をきざみつけてあるが之はたぶんこの像の主である猫の名であろうと思われる。
いつごろ建てられたものか、はっきりわからないが、文久三年に仙台のある好事家(ものずき)が当時見聞した珍しい事柄を何というわけなしに書き記しておいた書き本の中にこの猫塚の事をしるしてあるのを見つけたから、文久三年前に建てられたものだということだけは明白である。
その記録によると、その人はよほどのものずきだったと見えて、猫塚を調べるため栽松院をおとずれ住持に由来をたずねたのである。
その記事の中に碑面を図解し、「猫の眼に金箔を置いたものらしい」と記し、「猫の首輪は赤色に彩ってある」と書き添えてあるから、その染料の残っていた点から考えると、文久三年からあまり遠くないときに建てたものだということが推察される。
和尚がその好事家に物語ったところによると、
「この猫は追廻(おいまわ)し川前(かわまえ)九軒丁に住んでいた御馬乗(おうまのり)、草刈昌之丞(くさかり まさのじょう)という人に飼われていたものだが、隣屋敷の殿様(※殿様とだけ書いてその上の姓名を墨で塗り消してある)の飼育していた鶏をとり食らった。それがため隣屋敷の殿様の怒りをかって、とうとう日向ぼっこをしているところを鉄砲で射殺された。鉄砲で射殺される前に隣屋敷の若生たちが棒切れでさんざんこの猫を懲らしたのだが性懲りなしに二度も隣屋敷の鶏をとり食らったので、ついに射殺されたものだ」と書いてある。
「飼い主昌之丞は非常にこの猫を寵愛していたものだが、なにぶんにも相手が殿様なので文句も言いえず、泣き寝入りになってしまった」らしい。
ものずきの訪問に栽松院の和尚は非常に迷惑を感じた様子で、最初は言葉を左右に託して容易に物語らなかった当時の光景が面白く書かれてある。
根掘り葉掘りたずねたので和尚も仕様事なしに声を低くし、「決して他言なさるなよ」と念を押したうえで、これだけのことを語り聞かせてくれたと記してある。
よほどその殿様なる人に対して事柄を世人に告げ知らせることを遠慮した様子が歴々と見ゆるように書かれているところから推察すると、射殺された怨みで猫クンはその殿様の屋敷に祟りをなしたものらしい。好事家の書いた文中に「猫を射殺したばかりに大芝居が始まった」と記されてあるので、ただ事ではすまなかったということだけは推察される。
2015-12-15 追廻(おいまわし)川前(かわまえ)九軒丁の屋敷は他のサイトで片倉家と書かれていたりしますが、記述を見る限りそうであると断言はできません。この記事タイトルの「片倉家」は削除しておきます。
旧:【猫遺跡】江戸時代のペットトラブル?片倉家の鶏を食べた猫の石碑「栽松院の猫塚」(仙台市)
新:【猫遺跡】江戸時代のペットトラブル?隣家の鶏を食べた猫の石碑「栽松院の猫塚」(仙台市)
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