シロクマの屑籠

p_shirokuma(熊代亨)のブログです。原稿に追われてブログ記事はちょっと少なめです

俺の大好きな酸っぱいワインを推薦してみる

 
 身も蓋も無い1,000円台のワインの選び方 - プログラマになりたい
 私が旨いと思う、普段飲みの1,000円台のワイン - プログラマになりたい
 
 ネット上に書き込まれた個人的なワイン選び方や“オススメのワイン”を読んでいると、俺はワクワクする。特に素晴らしいのは、『安ワイン道場』や『ワインに手を出した』のような、プロではない愛好家が自分のワインとの付き合いを書き綴り続けたワインサイト・ワインブログの類だ。その人のワインとの出会い、お付き合い、好み――そういったものが文章から浮かび上がってくる。
 
 これが、雑誌に載っているワイン推薦記事あたりだと、プロが手がけているせいか、色々な大人の事情のためか、もっと無難で偏りがない。もちろん、不特定多数に読まれる雑誌にはそういう記事こそ必要なんだろうけど、無難なオススメ記事からはワインを選んだ人自身の選好の痕跡、ワインを呑み進めていった個人的文脈はあまり匂い立ってこない。「ワインはそこにある。けれども呑む人の姿が見えない」――そういう記事は、読んでもあまりワクワクしない。
 
 その点、上記リンク先のワイン関連のエントリ群からも、「ワインがあって、それを呑む人の姿」が透けてみえるような気がして、俺は読んでぞくぞくした。単に、無難な選択肢として新世界のワインを薦めているだけではない。記事の書き方、飲み方、購入場所……そういったところから、ワインとのお付きあいしている姿を推定しつつ、自分は自分でワインをごくごく呑む。きっと、リンク先の人は、国際品種重視型で、濃くてしっかりした、バニラっぽい香りの豊かなワインを愛好する方とお見受けした。
 
 「振り返って、俺自身のワインの好みはどうなのか?」
 
 自分が美味いと思ったワイン、凄いと思ったワインはたくさんあるし、冒頭リンク先の方のオススメワインのなかにも自分が美味いと感じたワインを見かけて嬉しかった。その一方で、俺自身が「好みだ!」と感じるワインとは方向性が違うとも感じた。ああ、嗜好の違いが存在している!!疲れている日、仕事が立て込んでいる日に俺が呑みたがるワインはリンク先のブログ主の路線とは多分違う。旅先のワインショップでフラっと衝動買いしてしまうワインも、たぶん、ああいう方向性ではない。
 
 「――そうか、俺は酸っぱいワインが好きだったんだ!」
 
 俺にとって、嬉しい日の食事にも、哀しい日の食事にも寄り添わせたくなるワインはどういうタイプなのか。それは酸っぱいワインだった。蜂蜜の香り豊かな白ワインも、重量感や甘みや果実味で押す赤ワインも、もちろん美味いし感動させられることも多かった。さりとて、じゃああなたの好みですかかと問われると、たぶん違うと答える。他人のワインの嗜好を眺めているうちに、俺は、自分が酸味の強いワインや軽い飲み口のワインが好きでしようがないことを再発見した。
 
 人がワインに求めるものは様々なんだろう。しっかりとした口当たりを求める人、複雑なフレーバーの変化を鑑賞する人、溌剌とした果実味を求める人。甘口をワインに期待する人は今でも多いし、単なる投機対象としてワインを買い求める人もいる。だから、「その人にとって最適のワイン」ってやつは人の数だけ存在する筈で、時とともに移ろいゆくものでもある。ワインの個人サイト/ブログは、そうした「その人にとって最適のワイン」を拾い読みし、時とともに変化していくさまを見てとるには良いものだと思うし、そのあたりが一番読み応えのあるところじゃないかと思う*1。
 
 ところが日本国内には、個人ワインサイト、ワインブログはあまり存在しない。無いことは無いけれど、長続きしていて、個人的なワインの体験や感想をしっかり書き綴りたがっているワインサイト/ブログとなると決して多くはない。杓子定規な説明なら書籍や雑誌やワインショップのサイトでじゅうぶん間に合っているんだから、書き手個人の好みが浮き上がってくるような、そういうarticleがもっと出てきてくれたらなぁ……と俺は思う*2。
 
 

俺が大好きな酸っぱいワインを挙げてみる

 
 ワイン大好き野郎のオススメワインを見せつけられた俺は、自分のオススメワインも開陳して返歌にしたいと思い立った。個人ブログなんだから、個人ブログ同士のトラックバックコミュニケーションをやったって誰も文句はいうまい。リンク先のid:dkfjさん宛てに、「俺はこんなワインが好きなワインきちがいだぜ!!」というメッセージを送ってみる。
 
 念押し的に断っておく。これは「万人に勧められるワイン5選」ではない。「俺が好きで好きでしようがない、気張らない酸っぱワイン5選」だ。疲れた日・軽めの食事・哀しい気分の時に俺が手に取るワインはこういうやつです、ということであって、酸味が苦手な人、ワインに大柄なボリュームを期待する人には向かない可能性大なので、そのつもりで。
 
 
 1.ブルゴーニュの平格赤
 
ブルゴーニュ・ルージュ[2012]フェヴレ
 
 ブルゴーニュの大手メーカーのベーシックな赤ワインは、俺はわりとどこでも好きで、美味いと感じます。酸味がしっかりしていて、ピノ・ノワールの軽やかな方面の品が多いので、よほどだらしないやつに出くわさない限り、酸っぱワイン好きにはたまりません。ヴィンテージがイマイチくさい年、例えば2007年や2008年の平格赤は、果実味が痩せ、文字どおり“酸っぱい”ことが多いですが、それがまた癖になってたまらないのですよ!!(蓼食う虫も好き好き)。
 
 平格のブルゴーニュ赤は樽の香りが弱く、土地特有のフレーバーってやつもよくわかんないですが、スレンダーで酸っぱい赤ワインを呑もうと思ったら低め安定で、しかも疲れている日でも飲み飽きにくいように感じます。高いドメーヌは選ばず、普通っぽいところの平格のやつが、酸っぱい党としては普段呑みに一番安心で、当たり年も、駄目な年も、ニヤニヤできるのですよ。
 
 
 2.ブルゴーニュの平格白
 
ルイ・ラトゥール ブルゴーニュ・キュヴェ・ラトゥール・ブラン
 
 ブルゴーニュの白ワインの平格も、エレガントに酸っぱいやつが多くて最高です。ブルゴーニュ特級畑〜一級畑の白が素晴らしいのは当然ですが、平格の白、あれはあれで酸っぱおいしくて、単なるネームバリューだけで割高とも思えません。果実味や樽の香りでは、同価格帯のオーストラリアやアメリカのシャルドネに大抵負けますが、そのぶん、酸味を堪能する際の集中力みたいなやつはブルゴーニュ平格のほうが上で、やっぱり飲み飽きません。
 
 そのくせ、運がいいと樽っぽいフレーバーが微妙に利いてくることがあって、最初は酸っぱい酸っぱいと言っていたのが、気づいたら蜂蜜やメロンを思わせる香りに囲まれていたりするので、そのあたりの加減もちょうどいいように感じられます。4人ぐらいであっという間に呑んでしまう場合は「うわっ痩せた酸っぱいワインだなー」で終わってしまいがちですが、一人でダラダラ、軽食と一緒に二日ぐらいかけて呑むぶんには、こういう酸っぱい旧世界白ワインも捨てたものじゃないように思います。
 
 
 3.新世界のシャルドネ以外の白
 
コノスル リースリング ヴァラエタル 2014
 
 ブルゴーニュよりも安価に、酸っぱおいしい系白ワインを呑みたい人は、まずシャルドネを避けるのが鉄板のような気がします。新世界のシャルドネはわりと高確率に「樽のフレーバーがかなり強めのことが多くて」「果実味が酸味よりもずっと豊か」だからです。ただし、この傾向はシャルドネ以外にはあまり当てはまらないっぽく、リースリングやソーヴィニオンブランあたりにはズバッと酸味の強いワインが豊富なので、割と幸せな酸っぱさを堪能しています。ブルゴーニュ白に比べて果実味や香りが強いやつが多いので、誰かと一緒に酸っぱいワインを呑む時には、こちらのほうが見栄えが良いかもしれません*3。個人的には、スーパーやデパ地下で買うチラシ寿司や、自家製の手巻き寿司に安く白ワインを合わせる際にも、800円〜1500円ぐらいの新世界のシャルドネ以外の白ワインを合わせるのが一番幸せのように思います。
 
 
 4.1500円以上のイタリア白ワイン
 
ストッコ フリウラーノ
 
 イタリアには、赤ワインでも白ワインでも「このクソ野郎!」と言いたくなるようなペラペラなワインが充満していますが、フランスや新世界とは明らかに違った不思議なワインがたくさんあって、酸っぱ旨いワインも豊富です。イタリアで一番威張っているバローロとバルバレスコもかなり酸っぱ渋い品種でつくられてますし、南部の白ワインにも酸味の強烈なやつが揃っています。じゃあ、どうやって酸っぱ旨いイタリアワインに出くわすか?――赤ワインの地雷回避はさておいて、白ワインについては割と手堅く酸っぱ旨いイタリアワインを選べるように思います。そのための条件は、
 
 ・1000円以上の白ワインを選ぶこと(イタリア白で1000円以下は何の取り柄もないワインの宝庫です)
 ・リグーリア州、フリウリ=ヴェネチア・ジューリア州、トレンティーノ・アルトアディジェ州、カンパーニャ州をなるべく選ぶ
 ・イタリア中部*4の白ワインは地雷回避が難しいのでなるべく避ける
 
 です。これらを守る限り、旨酸っぱい白ワインに出会う確率は跳ね上がり、家庭で食べるような適当な魚料理やパスタをだいたいカヴァーしてくれ、一人でダラダラ飲む時に中途で飽きてしまうリスクも低くなるでしょう。「イタリアは地雷原」なのはまごうことなき事実ですが、酸のきいた、適当な食事にフィットするワインのおいしさを教えてくれるのもまたイタリアじゃないかと思っとります。
 
 
 5.アルザスのワイン
 
トリンバック アルザス・コキヤージュ
 
 アルザスって、ごつくて派手な赤ワインこそ目につかないいけれども、キュートで軽々とした甘酸っぱいピノ・ノワール、酸味のしっかり利いた白ワインがごろごろしています。しかも、たいていは1000〜2000円台。デパートで買うぶんにはハズレも滅多に引かず、ボトルの形が独特で売り場で発見しやすく。鶏肉やシーフードと合わせるぶんには安全確実、酸味がそんなに顕著じゃないピノ・グリあたりも潤いが抜群で大好きです。飲み飽きにくく、ものによっては安価でも変化に富んだ顔をみせてくれるので、安定穴場なんじゃないかと思っています。あと、アルザスじゃないけれど、例えば、↓
 
ガスコーニュ・ブラン/アラン・ブリュモン
 
 このアラン・ブリュモンのガスコーニュ・ブランみたく、身体の疲れを取ってくれる酸っぱいワインがフランス各地にはまだまだ眠っているっぽいので、探し続けています。果実味や香りの強さという点では、この手の酸っぱい旧世界ワイン達は滅多に新世界のワインに勝てませんが、酸を楽しむ点では、むしろ旧世界の安ワイン達のほうがわかりやすく、賞味しやすい品が多いような気がします。
 
 

「ワインは酸だよ、兄貴」

 
 「ワインは酸だよ、兄貴」なんて実際には誰も言ってませんが、酸は、ワインの味覚を決める要素のたぶん大事な一つに数え上げられる筈で、そこに魅了されてしまった俺は、酸っぱいワイン、酸味を鑑賞するのに適したワインを選びたくなってしまうのでした。
 
 さっき書いたように、ワインのどこにどういう魅力を感じるのかは人それぞれ。私みたく、酸っぱいワインに魅了され、ブルゴーニュの“ハズレヴィンテージ”を掴んでウメエウメエ言ってるやつもきっと一定数いる筈です。そして、ワインを飲み始めたばかりの人のなかにも「タンニンのしっかりしたワインは駄目でも、酸味の利いたワインなら大丈夫」って人がいるんじゃないでしょうか。というか私がそうだったので*5、酸っぱさを基準にした、白ワインに軸足を置いた酸っぱワイン選びって、どこかにニーズがあるんじゃなかろうか、とか思ったりします。
 
 それと、酸っぱいワインって、普段食べる料理にもあわせやすいじゃないですか。国際品種のしっかり系ワインより、酸っぱい連中のほうがうちの食卓で仲良くやってくれるように感じられます。スーパーやデパ地下で買ってきた総菜なんかと一緒にモソモソやりたい時には、酸っぱいワインのほうが友達になりやすいのでは、とも思っている次第です。
 
 それにしても不特定多数にオススメするんじゃなく、とにかく自分が好きな酸っぱいワインを列挙するってブログ的で楽しいですね。やっぱりブログの快楽は「自分のために書く」なんだと振り返るうえでも良い機会でした。今晩は何を呑もうかな。
 

*1:たぶん、日本酒やウイスキーについても同じことが言える

*2:現実には、SNSで感想を垂れ流して気が済んでしまう人が増えているような気がするけれども、日記のように長く書き綴って通覧可能な状態にしておくのと、短く書き捨てて忘れてしまうのでは、個人の体験の質感、経験の組織化という点で雲泥の差だと思う。だから、お酒が好きな人は、オンライン上にアップロードするかどうかはさておいて、自分の体験をどんどん記録を書き溜めておくといいんじゃないか。ワインや日本酒のラベルは、そうした体験を思い出す際の大切なアンカーになる

*3:尤も、手頃で見栄えの良い白ワインが必要な時こそ、新世界のシャルドネを選ぶのが一番無難かもしれませんが……

*4:トスカーナ州、ウンブリア州、ラツィオ州。なかには良い白ワインもあるけれど、値段に見合わない白ワインが多すぎる

*5:だからでしょうか、私はドイツ→シャンパーニュ→イタリア→ブルゴーニュの順にはまりました。