【日本の常識は世界の非常識?】ヨーロッパとの比較で見えてきた日本企業の強みと課題

 近年、ヨーロッパでは日本のマネジメントを学びたいという声が増えてきている。

 在日年数12年、日本に住みながら、ヨーロッパを時節訪れては比較研究プロジェクトを遂行し、そのマネジメントの違いを経営者や識者の前でレクチャーする機会が多いという上智大学国際教養学部教授、パリッサ・ハギリアン氏によると、そういった傾向が強まったのは世界中で混乱が起きたリーマン・ショック以降という。

 日本のマネジメントにおいて、ヨーロッパのリーダーたちが最も関心を寄せているのが、チームワークとカスタマーサービスだ。チームが窮地に陥ったとき、「みなで乗り越えよう」という意識が働きやすい日本の団結力や、世界的にも評価の高いカスタマーサービスは羨望の的。その一方で、特に人事や改革の面で、ヨーロッパ人には到底、理解しがたい日本の特徴もあるという。

 「企業マネジメントにおいて、新たなアイデアの創出がより必要とされている時代です。企業改革を考える際、システムを一から創造することも可能ですが、文化や価値観の違う他国のやり方やシステムを学ぶことで、よりスピーディーに、よりよいヒントやインスピレーションを得ることができます」

 ヨーロッパと日本のマネジメントの違いについて、ハギリアン教授に聞いた。

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パリッサ・ハギリアン氏

上智大学国際教養大学教授。オーストリアのグラッツに生まれ、ウィーン大学日本学部卒業。ウィーン経済大学国際ビジネス学部にて博士号取得。2004年に来日し、九州産業大学で国際ビジネスを教え始める。2006年、上智大学で准教授として着任。現在、日本の経営学、クロスカルチャー、経営戦略などを教えている。2016年2月に日本のビジネスとマネジメントを欧米の管理職者向けに記した『Routiedge Handbook of Japanese Business and Management』を編集人として出版予定。

チームワーク

欧国:自己利益優先、多様性、競争、自己主張、個人主義、情報共有弱

日本:組織利益優先、協働、調和、我慢、集団主義、情報共有強

 ヨーロッパと日本のマネジメントにおいて、最も違いが見られるのがチームワークに対する考え方です。「調和を第一に、みなが協力しあっていかなければならない」というのが日本なら、「チームはより迅速に、より多く、自分に利益を与えるものでなくてはならない」というのがヨーロッパです。

 ヨーロッパの企業は、性格もスキルもまったく違う者同士をひとつのチームに在籍させ、融合させることを好みます。ゆえに、衝突も起きやすく、自分の要求が満たされなければ、即座にチームを去るという行為は普通のことと考えられています。

 優秀と呼ばれるチームのメンバーほど、ひとりひとりがまったく違うスキルを持ち、違う仕事を任されています。受けた教育も違えば、自分の信じるルールも価値観も違う。その多様性こそ、チームの強みだとヨーロッパの企業は考えています。

 ヨーロッパにおけるチームリーダーの仕事というのは、その一人一人の人格や考え方の違いをケアしながら、最終的には任務を遂行させることです。ヨーロッパでは個人の考えに重きを置くことをよしとされていますから、人々がチームに所属する理由も、自分に対して有益であるということが最優先されます。チームに居続けるためには、私はここで幸福でなければならないし、活躍の場がなければならないし、好きな仕事や興味のある仕事をしていなければならない。そういった条件がすべて揃って当然とヨーロッパ人は考えます。

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▲仙台箪笥、浮世絵、中国の焼物、イランの絵が飾られたハギリアン教授のお気に入りエリア。日本びいきのイラン系オーストリア人女性教授の趣味は「いろいろな国の美しいものを収集すること」

 そうしたヨーロッパ人の考え方は、日本人には自分本位で、否定的にうつるでしょう。日本では輪を重んずるがために、一歩下がって周囲に合わせることが常識とされているからです。チームワークにおいて、日本はヨーロッパとはまったく違う教育を受けおり、チームメンバーは個人の考えより、仲間意識をより重視します。

日本の企業の人事決定は、自分のチームにとって必要なスキルがあるかどうかより、現在在籍しているチームメンバーとうまくやれるかどうかに重きを置きがちです。日本でいうメンバーシップは、やりたくないことも我慢してやる、という意味が当然のように含まれ、多くの義務も発生します。日本のチームは破綻しづらく、コントロールしやすいため、ヨーロッパ人のリーダーがうらやましがる部分でもあります。

 また、日本で情報共有が行き届いている現状は、チームメンバー同士が信頼している証です。日本は有益な情報や必要な情報をみなで共有する意識が強く、それによって成長している国です。ヨーロッパの企業も情報共有に努めていますが、なかなかその部分の意識改革が難しいのが現状です。というのも、ヨーロッパ人にとって、情報は秘密にするものであり、それをオープンにした途端に、ライバルに先を越されて、自分の立場が危うくなるという競争意識が働くからです。

 あとは集団意識があるからこそのオープン・マインドも日本人の強みです。日本の飲食がこれだけバラエティに富んでいるのは、興味がないものや、好きではないものでも、「みんなが食べるなら、私も食べます」という日本人ならではの行動パターンによるところが大きいです。海外旅行を楽しんでいる日本人の団体客を見ていると、それまでまったく食べたことのないものでも、抵抗なく口に入れて、しかも、その新しい味覚を楽しんでいますよね。それが日本の飲食産業の発展にも大いに関係していると思います。これがヨーロッパ人だとそう簡単にはいきません。ヨーロッパ人は、個人で動くほうが自由の幅が広がると考えるため、実は行動の幅というのは広げにくい傾向があります。自分がそれを好きであるか。もしくはすでに知っているか。この2つの選択肢だけでヨーロッパ人は行動しがちです。

<チームワークにおける日本の課題>

 日本のチームワークに関する課題としては、「みんながみんな同じことをできなければならない」という強迫観念でしょう。特にその意識は、チームリーダーほど強い。たとえば、チームメンバーに同じことを学ばせるのに、全員が何時間も同じ講習を受けなくてはなりません。でも、実際は、学んだところで仕事に使わない人もいますよね。

 オフィシャルページをひとつ作るにも、「チームメンバーだから」とまったくやったことのない人にその仕事を任せるといったことが、日本の企業では起きがちです。確かにこれまでなら、教育にかける予算も時間もあったでしょう。しかし、今はそういう時代ではありません。ヨーロッパでは、ホームページが必要となれば、まずプロのデザイナーを雇用し、合理性を優先します。一時的にコストが上がったとしても、そのほうが確実に、スピーディーに、ミスなくそのプロジェクトを遂行することを知っているからです。仲間意識の強い日本は、外部の人間に新たなプロジェクトを任せることを懸念しがちですが、「専門家」を雇用することに対して、日本のチームはよりオープンになるべきです。

 日本のチームはとても優秀です。しかし、調和を重んじるばかりに、秀でた才能を生かさないし、生かせていない。中でも若い人材の強みや才能を信じ切ることができない傾向が強いのは、大きな問題です。日本のマネジメント層は、若い人材を抜擢することによって起きる社内での波紋や亀裂を先に心配してしまいます。たとえば新卒の雇用においても、ドイツ語が好きで一生懸命に勉強してきてペラペラに話せるようになった人材を、まったくドイツ語とは関係のない、アカウンティングの部署に配属させて、すぐに辞めさせてしまう。そういったことが起きやすいのです。人事において適材適所ができていないために、コストをたくさん無駄にしてしまっています。日本は一生懸命やって結果を出したら、ようやく意見が言えるという風習が強いですが、適性のない部署に配属された人材が、そこで結果を出せないのは、人事のミスです。日本の企業は、自分が雇用する人間が、何が好きか、何に才能があるかをよく見極めたうえで採用することをより心がけるべきでしょう。

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カスタマーサービス

欧国:トレーニング弱、 ルールは壊すもの、現場至上主義、意思決定早

日本:トレーニング強、ルールに従順、稟議絶対、意思決定遅

 日本企業のプロセスを重んじるカスタマーサービスは、世界の憧れです。特に戦後の日本企業が築き上げた、プロセスオリエンテーションは国際社会で勝ち抜いていく際にとても有益でした。どこにも負けないプロセスオリエンテーションとそのチェック機能があったからこそ、日本は「良いものを安く売る」ことを実現できたのです。そして、それに結果もついてきました。  

 たとえば、日本の牛丼チェーンやそば屋チェーン、定食チェーン。どこへ行っても、同じ味、同じサービスを受けられるのが日本国内では常ですが、ヨーロッパでは、日本のようなトレーニングを従業員全員に受けさせることができないため、それは実行することは不可能です。日本ほど、カスタマーサービスにおいて隅々までトレーニングが行き届いている国はありません。それが可能となっているのは、日本では些細なルールを変えるにも、チームリーダーに決定権がなく、その上の人々の稟議をいくつも通さなければならないということを誰もが知っているため、みながルールに従うという慣習があることも大きいでしょう。

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▲「日本のチェーン店のカスタマーサービスは世界屈指。「安くて、おいしくて、接客もすばらしい」

 これがヨーロッパ人だと、「今日はやる気はしない」、「この仕事は私向きではないと思います」「今日は用事があるため、そこまでは無理です」などとはっきりと主張します。たとえ初日の研修であっても、「こちらのほうがより良いと思います」「もっとやりやすい方法を考えつきました」と別のやり方を提案します。集団性よりも個人の主張を尊重するように教育され、決定権のあるヨーロッパ人の管理者は「君がそれでやりたくて、そちらのほうがやりやすいなら、それでやってみましょう」と答えるので、すべての店で同じクオリティーのサービスを受けられるということが、ほぼ難しいのです。

<カスタマーサービスにおける日本の課題>

 プロセスオリエンテーションが、日本経済の発展に多いに役立ってきたのは事実ですが、一方で「プロセスオリエンテーションにばかり労力や時間を費やして、変化を起こしにくい」というマイナス面があります。現場で早急に変えなくてはならないことでも、「上の立場の5人の稟議を下ろさなくてはならないから、決定は1週間後になります。それがルールです」といったことが起きやすいのです。場合によっては、その対応の遅れが、企業の致命傷となりかねません。日本のマネジメントはすべてにおいて、プロセスマネジメントがいき過ぎていて堅苦しい、などとヨーロッパ人から揶揄されるのはそのためです。

8,568通り、あなたはどのタイプ?

リーダーシップ

欧国:超人型、強制力、大変化、寿命短、ハイリスクハイリターン

日本:調和型、調整力、小変化、寿命長、ローリスクローリターン

 ヨーロッパ人は、個々の主張が強く、企業に対する期待も大きいため、リーダーはとても強くなければなりません。ヨーロッパのリーダーが、皮肉屋で嫌われ者であっても、堂々と自信に満ち溢れているように見えるのは、そうしないと抵抗勢力に勝てないからです。リーダーは、直接的にモノを言える人物で、時には強引とも思われる手法で人々をプッシュする能力が求められます。人々をやる気にさせ、よく世話もする代わりに、強制力も持っているのです。

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▲オーストリア名物のスプリッツアー(白ワインに炭酸水を混ぜたアルコール飲料)とアプフェルシュトゥルーデル(アップルパイ)。「普段はこんな組み合わせで食べません」。

 ヨーロッパ人のリーダーは、トップに立った瞬間からすぐに変化を起こさないと、解雇されてしまいます。リーダーの交代は、日本より早いスピードで決定されます。ゆえに、新しくリーダーとなった人は、自分の存在感をいち早く示して他者を圧倒し、自分がやっていることがいかに人々にとって有益であるかを広く、迅速に示さなければなりません。そのため、大胆な改革がヨーロッパの企業では起きやすいのです。ただし、時にそれが行き過ぎて、企業に大きな損失を与えることになりかねません。リーダーが間違った判断をしたら、一瞬にしてその生命が絶たれます。そうした敗者に対して、誰も話しかけもしなければ、見向きもしなくなります。ヨーロッパのリーダーは、それだけ大きなリスクを背負っているとも言えます。

 その点、日本のリーダーは、より温厚で穏やかな人が選ばれます。チームワークにおいて、「協力」や「仲間意識」を重んじるようにと教育を受けてきた日本のチームメンバーたちは、リーダーの指示をよく聞き、あまり逆らおうとしません。ゆえに、日本人のリーダーは、ヨーロッパ人のリーダーと比べると、抵抗が少なく、そこまで早急に変化させなくてはいけないという意識は低いケースが多いです。ヨーロッパのリーダーが羨ましがる点に、日本のリーダーの寿命の長さがあります。見方を変えるなら、それだけ日本のリーダーは、チームメンバー寄りの意思決定をしているとも言えます。日本人のリーダーもヨーロッパ人のリーダー同様に、大きな抵抗を覚悟しなければならない、大胆な意思決定をすることがありますが、ヨーロッパのリーダーに比べて、より平和的で、より多くの人の賛同を受ける決定をしていることが多いのが特徴です。

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▲広尾の洋風マンションから、築50年の日本家屋に引っ越してきて購入した屏風。「日本にいるときは、日本の文化に包まれながら生活するほうがリラックスできます。ヨーロッパと日本を行ったり来たりする今のライフスタイルが私には合っています」

<リーダーシップにおける日本の課題>

 波風を立てない人がリーダーに選ばれるということは、言い方を変えれば大改革が起きにくいとも言えます。企業を成長させ続け、緊急のクライシスに立ち向かうには、変化に柔軟でなければなりません。日本の企業が急成長しにくいと言われる要因のひとつには、「強い意思決定」の少なさがあげられることも理解しておきましょう。

取材・文・写真=山葵夕子 取材協力=パリッサ・ハギリアン/上智大学

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