【27歳の新卒5年目を取締役に抜擢】若手社員がメキメキ主体化するサイバーエージェントの人事

 人事制度に定評のあるサイバーエージェント社。設立時は20名だった従業員数も、現在では約6000名と300倍に増加。平均年齢29歳と若手社員が多数を占める中、離職率は7~8%に落ち着いている。
 同社人事本部長の曽山哲人氏は「40歳以下の世代は、バブルがはじけ、会社が潰れるニュースばかりを聞きながら育ちました。それによりサバイバル意識が高く、キャリアに対する焦りを持っている傾向が強い」と指摘。同社では、そんな若手社員のニーズに応えるため、研修ではなく、現場での「決断経験値」を増やす人事育成制度を進めている。

 若手社員が主体的に動く人事システムとは、どのようなものなのか。東京・六本木で開催された、株式会社ワークスアプリケーションズ主催の『COMPANY Forum 2014』の壇上で、曽山氏は「個人を伸ばし、チームを活かす人事」について語った。

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1.2年に1回、8人のうち2人が入れ替わる取締役

 取締役もみずから新陳代謝し、変化の模範になるよう、同社では内閣改造型・役員交代制度として「CA8」と呼ばれる制度を取り入れている。2年に1度、取締役が入れ替わる制度であり、経営経験者の層を厚くするのが狙いだ。取締役は「キャリアパスのひとつに過ぎない」と位置付け、退任後は新規事業などで活躍する。直近の人事では、入社5年目、27歳の取締役が誕生。取締役会が次世代リーダー育成の現場となっている、他企業と比べても稀なケースだ。

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2.3000人の前で表彰する社員総会

 連帯感を持たせる最もよい方法は「褒めること」。協力関係が希薄な組織は、社員同士で褒め合うことが不足している。そんな状況を回避するため、同社では半年に1 度、活躍した社員を表彰のための社員総会を実施。現場、事業部長、人事の声を総合的に集めたうえで、新人賞やベストマネージャー賞など10賞を役員会が選出し、表彰する。しかし、過去には人望のない社員を表彰してしまい、逆に社員をシラケさせてしまったケースも。表彰は経営メッセージであり、「私もあの人みたいになりたい」と周りから羨望される、人格あるメンバーを選ぶ必要がある。

3.ORの抑圧をはねのけ、ANDで考える戦略人事

 今はリーダーがけん引する「独裁力」と、社員の声を聞く「ボトム主義」の両方が必要とされる時代。かつては「独裁力」のみの経営も成立したが、現代はインターネットで企業の悪い噂はたちまち広まってしまうため、「現場の声」をいち早く拾い上げることは経営そのものに深く関わってくる。以前、新卒採用者、中途採用者の両者から「向こうばかりを優遇している。どちらを取るのか」という声があがったとき、抜擢の絶対数を増やしたところ、両者からのクレームは減った。ORの抑圧をはねのけ、ANDで考える戦略人事を同社は大切にしている。

4.挑戦と安心を、セットで考える人事制度設計

 退職率が高かった時期にアンケートを取ったところ、退職理由は主に2通りに分かれた。「チャレンジできそうだったから入社したのに、チャレンジできなかったから辞めます」という声と、「ここにいても将来のキャリアが見えず、長く働くイメージがつきません。不安だから辞めます」という声だ。そこで同社は、人それぞれ注力したいライフイベントが違うことや、挑戦したいタイミングと安心したいタイミングが違うことを尊重する方針を固め、「挑戦と安心はセットで考える」と新たな人事制度設計のポリシーを全社員に通知。社員からの反応は概ね好評だった。

5.アイデアを経営に提案できる挑戦の人事制度「ジギョつく」

 経営陣に直接事業を提案できる「ジギョつく」を開催。優勝すると100万円の賞金を獲得でき、開始当初は年2回の開催だったが、現在では毎週の応募が可能で、さらに書類だけで審査が進むことから、年間1000件の応募がある。このジギョつくは、2009年に転機を迎えた。それまで担当だった曽山氏に代わり、新卒3年目の社員が全社員一人ひとりに直接声をかけたことで、それまで80件前後だった応募数が、162件に急増。以来、「社員に動いてほしければ、まずは直接一人ひとりに声をかけること」を心がけている。

6.経営陣も自ら新規事業を創る挑戦のしかけ「あした会議」

 応募数が増えたものの、「ジギョつく」は成功事例がひとつもないという問題を抱えていた。そんな折、「審査をしている方たちって、よほどいいアイデアを持っているんですよね」と、ある社員が発言したことをきっかけに、役員対抗の新規事業バトル「あした会議」がスタート。順位はブログなどを通して社内外に公表される仕組みだ。結果、過去に12社設立し、そのうちの6社が利益貢献中。「あした会議」が成功した一番の要因は、「結果が社内外に公表されるため、ビリになるとかっこ悪い。ビリにだけはなりたくない」という役員の自尊心をうまく刺激した点。かつ、1役員につき4名の社員がチームに参加するシステムで、役員は自分の担当部署以外の人材を抜擢することがルールとなっている。そのため同会議近くになると、優秀な人材をリサーチすべく、役員が他部署を巡回したり、社員を飲みに誘う機会が急激に増える。こうして思わぬ人材が発掘されたり、縦と横のよい交流が生まれるのだ。

7.妊活支援・育児支援「マカロンパッケージ」

 メディアなどでも頻繁に取り上げられ、社内外から大好評の制度が、妊活や育児支援を軸にした「マカロンパッケージ」だ。

同社は、5人に1人が子を持つ親であり、かつ約96%の既婚女性が産後に復職している。そういった「パパ・ママ社員」を全面的に支援しようと生まれたのが同制度だ。マカロンパッケージの内容は下記の5つ。

・エフ休(Femaleの休暇)
生理や妊活など、女性特有の体調不良の際に月1回取得できる特別休暇。女性の人事担当者に詳細を伝える代わりに、男性上司には「エフ休」だけの報告で済ませることができる。
・妊活休暇
不妊治療中の社員の通院のために月1回まで取得可能な特別休暇。
・妊活コンシェルジュ
婦人科系の専門医に月1回30分の個別カウンセリングで相談できる制度。制度スタートと同時に人気の制度となり、9月だけで15人が利用。
・キッズ在宅
子どもの看護時に在宅勤務できる制度。
・キッズ休暇
子どもの学校行事や記念日に半休を取得できる特別休暇で、特に「妻からも子どもからも褒められる」とパパ社員からの評価が高い。

8.タレントマネジメントのしかけ

 社内にヘッドハンティング部門を新設し、タレントマネジメントデータベースをオンライン化。月1回、月次目標に対する達成具合を天気形式で各社員が入力。本人の主観でつける月報が、ずっと雨模様の場合にヒアリングを行い、異動を検討。部門新設1年で、150名が異動し、新たな職場でやりがいを見出している。

 「何ができればOKなのか?」「経営と現場に一貫性はあるか?」「企画2割、運用8割で考えたか?」を常に自問自答しながら、成果を上げる人事を目指しているという曽山氏。「人事は、会社のコミュニケーションエンジンとして機能しなければならない」と締めくくった。

文・撮影 山葵夕子

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