-
涅マユリ「魔法少女?」 前編
涅マユリ「魔法少女?」 後編
349: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:22:32.80:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原中学校・屋上
ほむらが到着すると、マユリとネムが大きな荷車の傍らに佇んでいた
マユリ「ヤァ暁美ほむら、久しぶりだネ」ニヤリ
ほむら「相変わらずね、涅マユリ」ファサァ
ネム「…………」ペコリ
ほむらは布のかけられた二台に視線を向ける
マユリ「ああこれかネ?なに、すぐにわかるヨ――さて、暁美ほむら。いい知らせと悪い知らせがあるのだが、どちらから聞きたいかネ?」カクッ
ほむら「……悪い方から聞くわ」
マユリ「ホゥ、なんとも勇敢なことだネ。では、そちらから話すとしよう――」
マユリ「結論から言うヨ。ワルプルギスの夜との決戦に際して、護廷十三隊からの直接的な増援は見込めない」
ほむら「……なっ!?」
マユリ「従って、決戦にはキミたち魔法少女と、現地調査と称して我々二人だけが挑むことになるネ」
ほむら「――どういうことか説明して。魔女の脅威については散々あなたが報告をまとめたのでしょう?」キッ
マユリ「まぁ待ち給えヨ。順を追って説明しようじゃないか――」
【画像】主婦「マジで旦那ぶっ殺すぞおいこらクソオスが」
【速報】尾田っち、ワンピース最新話でやってしまうwwww
【東方】ルックス100点の文ちゃん
【日向坂46】ひなあい、大事件が勃発!?
韓国からポーランドに輸出されるはずだった戦車、軽戦闘機、自走砲などの「K防産」、すべて霧散して夢と終わる可能性も…
350: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:23:00.07:yUu6sik10
ーーーー
~回想~
元柳斎「……魔法少女か」
尸魂界・瀞霊廷一番隊舎
隊首会の席でマユリが一通りの報告を終えると、憮然とした表情のまま総隊長が呟いた
浮竹「魔法少女に魔女、インキュベーター……俄かには信じがたい報告ばかりだ」
日番谷「バカバカしい……と言いてぇとこだが――」チッ
京楽「――実際、こうして目の前に持ってこられちゃあねぇ……信じるしかないじゃないの」フゥ…
隊首室の中央には、拘束された魔女と無数の使い魔たち
未知の存在を目の当たりにして、隊長たちは程度の差はあれ驚きを隠しきれない
351: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:24:30.66:/1SaAlEnO
砕蜂「こんなモノ共が現世に……!先遣調査にあたった隠密機動はこいつらを見逃したというのか――!」ギリッ
狛村「それは致し方あるまい、砕蜂隊長
聞けば、こやつらの霊圧は非常に特異で、その結界とやらによほど接近せねば感知は困難だという」
京楽「しっかしこんなのが人を襲ってたってのに、今まで一度も目撃報告がなかったとはねぇ……」
マユリ「それにはおそらくインキュベーター共の工作もあったのだろう
ヤツらは遥か昔から現世にて暗躍し、魔法少女たちを生み出してきたのだからネ――」
浮竹「なるほど、魂魄を利用するインキュベーターたちにとって、護廷十三隊にその存在を知られることは避けたかったということか」
卯ノ花「そのために、魔法少女や魔女が死神と接触することがないよう、なんらかの手を打ってきたのですね――」
マユリ「ああ。おそらく魔女や魔法少女の霊圧波形が独特で感知しづらくなっているのも、ヤツらの仕業なのだろうネ
加えて、魔女の霊圧波形は虚のそれと非常に相性が悪い――」
日番谷「相性だと?」
352: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:24:48.14:yUu6sik10
マユリ「端的に言って、魔女の霊圧は虚からすれば非常に気分が悪いものなのだヨ
故に、ある程度知能がある虚ならば魔女の出現しやすい地域には近づかないし、獣並みの知能しか持たない虚も本能的に接触を避けようとするわけだ――」
白哉「……虚の出現頻度が低ければ、その地域専任の死神は任を解かれ、周辺地域の死神が担当範囲を兼任する
元来虚の出現率が低いため、兼任した死神は当然の如くその地域に対する警戒を緩める……という寸法か」
マユリ「ま、ヤツらがそこまで詳しく護廷十三隊のシステムを理解していたのかは知らんがネ」
剣八「ハッ!んなこたぁどうでもいいだろう
重要なのは、もうすぐ現世に現れるって話の大型魔女をどうするか――ってことだろうが」ニヤリ
狛村「うむ、もしその協力者――暁美といったか?その魔法少女からの情報が事実ならば、甚大な被害が現世にもたらされることになる」
浮竹「直ちに我々も迎撃準備を――!」
元柳斎「――待てい」
一同「…!」
元柳斎「…魔女の討伐を目的として、護廷十三隊から部隊を派遣することはできぬ――!」
354: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:26:25.29:yUu6sik10
ーーーー
ほむら「どうしてよ!?」
マユリ「フム、まずは我々護廷十三隊側が把握している魔女および魔法少女に関する情報がまだまだ少ないことが挙げられるネ」
マユリ「何せ、長い尸魂界の歴史の中で、初めて認知された事案だ
おまけに情報元はこれまた得体の知れない“自称情報通の魔法少女”一人、組織としては慎重に動かざるを得ないのだヨ」
ほむら「……私一人の証言では、ワルプルギスの夜の危険性が話半分に取られても仕方ない――ということ?」クッ…
マユリ「はっきり言えばそういうことだ。何しろキミが何故、魔女やインキュベーターについて詳細に熟知しているのかも、我々にはわからないのだからネ――」ニヤリ
ほむら「…っ!」
マユリ「果たしてキミがワルプルギスの夜についての情報をどこで知り得たのか――それすらもはっきりしないうちは、キミの情報に信憑性は宿らんのだヨ」
ほむら「…………」ギュッ…
マユリ「加えてもう一つ、こちらの方がより直接的な理由になるだろうが――」
ほむら「……なに」
マユリ「キミたち魔法少女は、魂魄を特殊な形に加工されたとはいえ、生者であることには違いない
そして同様に、異形の姿をした魔女でさえも、その実態は肉体を持つれっきとした生者なのだヨ――」
ほむら「……魔女が、生者?」
355: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:29:03.48:/1SaAlEnO
マユリ「ま、外見からは想像もつかないだろうがネ
とにかくだ、魔女が肉体を持つ物的領域の存在である以上、霊的領域を管理する我々死神の管轄外と考えざるをえないわけだヨ――」
ほむら「――っ!そんな……!甚大な被害をもたらすことがわかっているのよ――!?」
マユリ「地震や台風でだって被害はでるだろう?それと同じだことヨ」
ほむら「同じ――っ!?」
マユリ「戦争や災害でどれだけの死者が出ようと、我々尸魂界の関与すべきことではない
それはキミたち人間の管轄だ。徒に現世と尸魂界の役割分担を乱すことはできないということだ、わかるかネ?暁美ほむら――」
マユリ「――ワルプルギスの夜は一種の“災害”と判断されたのだヨ」
ほむら「――あなたたち二人は、大丈夫なの?現世の“災害”如きに出撃しても――」ギュッ…
マユリ「ああ。現時点では判断しかねるとはいえ、どの道今後は尸魂界側も魔女や魔法少女について無知ではいられないからネ――
さしあたっては、技術開発部門の統括者である我々二人が、最大級の魔女であるというワルプルギスの夜について、その能力調査を行うこととなったわけだヨ」カクッ
マユリ「尤も、本来ならこの手の本格的な調査は二番隊の管轄なんだがネ
魔女研究の為と言い張ってどうにかこちらの意見を通すのには骨が折れたヨ――」
ほむら「――そう、死神側の意向はよくわかったわ
それじゃ、いい知らせとやらを聞きましょうか」ファサァ
マユリ「ホゥ、内心では落胆しているだろうに随分と気丈なことだネ
いい知らせというのは外でもない、今話した死神側からの支援についてだ」
358: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:33:19.85:/1SaAlEnO
ほむら「…?なにを言っているの…死神からは増援は来ないとつい今しがたあなたが――」
マユリ「そう、増援は派遣しない
そのかわり、キミたちがワルプルギスの夜との戦闘に敗北した場合の事後処理が検討されているのだヨ――」
ほむら「事後処理……?」
マユリ「いやはや、実際ああは言ったものの、魔女をはっきりと生者に分類してもいいものか、異を唱える隊長格も少なくなくてネ
魔法少女についても、独特とはいえ霊圧を持つ存在である以上、死神から何らかの関与を考慮すべきではないかという意見も出ている――」
マユリ「キミは知らないだろうが、人間でありながら霊的戦闘力を持つ滅却師という種族が昔いてネ、それと死神とである種の同盟を締結していた時期もある
つまり場合によっては、今後魔女及び魔法少女に関わる事案も、一部死神の管轄領域に含まれるかもしれないということだ」
マユリ「従ってまだ検討段階ではあるが、キミらの敗北後、ワルプルギスの動きを尸魂界側で捕捉し討伐作戦を実行する可能性もある、ということだネ――」
ほむら「……それはつまり、私たち魔法少女がしくじった時の後始末ぐらいはしてくれる、ということだネ――」
ほむら「……それはつまり、私たち魔法少女がしくじった時の後始末ぐらいはしてくれる、ということ?」
マユリ「そういうことだネ。悪い話じゃないだろう?
これでキミたちは心置きなく、全力で決戦に臨むことができるのだからネ――」ニヤリ
ほむら「そう…確かに、そうね」
ほむら(もしそうなれば、私たちが死んでもまどかやこの街の人たちは助かる見込みがある――)
ほむら(死ぬ前にそれだけ確認できれば――もう巻き戻さなくていいかもしれないわね)
359: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:33:55.87:yUu6sik10
マユリ「それと些細なことではあるが、決戦にさしあたってなんとか空間凍結の許可が下りたヨ」
ほむら「空間凍結?」
ネム「死神が虚と戦闘を行う際、戦闘区域一帯の空間に凍結処理を施して、戦闘による建物や民間人への被害を軽減することです」
マユリ「本来であれば対虚戦において発動される対応だが、一応隊長格の死神が現世で戦闘するということで許可が下りたというワケだ
とはいえ、前述のようにワルプルギスの夜は霊的存在ではないのでネ、空間凍結をしても大した効果はないのだが――」
ほむら「被害が少しでも減るのなら、気休め程度だろうとあるに超したことはないわ」
マユリ「――ところで、いい知らせはもう一つあるのだが、聞くかネ?」カクッ
ほむら「…?ええ、聞くわ」
マユリ「決戦に備えて、キミたちにいいものを用意してきた――ネム!」
ネム「はい、マユリ様」スタスタ…
返事をしたネムは、荷車にかけられた布をつかむと――
バサァッ…
ほむら「――!?これは――」ハッ
361: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:36:42.44:/1SaAlEnO
マユリ「ンッフッフ……そう、グリーフシードだヨ」ニヤリ
ほむら「しかもこれ、人口じゃない本物のグリーフシードじゃない!一体どうやってこれだけの数を――!」
マユリ「なに、研究成果を確かめるためにすこしばかり“養殖”を試みてみたのだヨ――」
ほむら「養殖…!?」
マユリ「簡単な話だヨ。キミたちから回収した人口シードに溜められた“穢れ”――それを抽出して、捕獲した使い魔共に流し込んでみたのだヨ」
ほむら「使い魔に……まさか――!」
マユリ「そう、瞬間的に多量の穢れを注入された使い魔は、急激に魔力が上昇し魔女として覚醒するわけだ」
マユリ「しかし、本来ならば人を襲うことで徐々に魔力を蓄えていくハズの使い魔は、この方法で魔女になっても魔力が不安定なためすぐに自滅することが多い――」
マユリ「そうして生まれては自滅していく魔女共が残したグリーフシードを、このように回収してきたというわけだヨ。理解できたかネ?」カクッ
ほむら「――ええ、十分よ
それじゃ、今度は私から、あなたがいない間に他の魔法少女たちと練った作戦について――」
マユリ「ああ、必要ないヨ。もう知ってるからネ」
ほむら「……は?」
363: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:37:39.24:yUu6sik10
マユリ「私はとても慎重な性格でネ…一度戦った相手には、常に何らかの手を打っておくようにしているのだヨ――」
マユリ「――佐倉杏子には、無数の監視用の菌を感染させている」
ほむら「なっ……!?」
マユリ「故に、キミたちの作戦会議の様子や連携の完成度については、既にこちらも熟知しているということだ。重ねての説明は不要だヨ――」シレッ
ほむら「――すぐにその監視を解除しなさい」キッ
マユリ「ヤレヤレ、注文の多いヤツだネ。確かにこれ以上監視していてもヤツから目新しい情報は入らなそうだ。解除しておくとするヨ――」
ほむら「――やっぱりあなたとは親しくなれそうにないわね」
マユリ「親しくするつもりなど元よりなかったろうに、白々しい小娘だヨ全く――それよりもだ、ワルプルギスの夜について、キミはより詳しい戦闘力や攻撃方法などの情報を持っているんだろう?」
ほむら「――っ!」
マユリ「いまさら白を切るのは止め給え。キミの能力が単なる時間の停止だけではないことなどお見通しだヨ――」カクッ
ほむら「…………」
マユリ「本来魔法少女が知るはずのない事実の数々、これから交戦するはずのワルプルギスに対する妙に確信的な知識と態度
そして魔法攻撃を行わない、物理的な武器攻撃による戦闘スタイル――いい加減手の内を明かしてもいいのではないかネ?」
ほむら「――まさか、よりにもよって最初にこの能力を明かす相手があなたとはね……」ハァ…
369: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:41:39.42:/1SaAlEnO
ーーーー
マユリ「――面白い!実に面白いじゃないか!」
苦渋の決断の末、とうとう自らの真の能力を明らかにしたほむら
時間遡行という能力を知り、マユリは興奮を隠そうともせずほむらを追及する――
マユリ「これで合点がいったヨ!キミの並外れた戦闘技術や武器の取り扱い方は、繰り返される時間の中で洗練されてきたのだネ?」
ほむら「……ええ、そうよ。いくら魔力で身体能力を強化しているとはいえ、攻撃魔法の使えない私の戦闘力は他の魔法少女に比べ著しく低い――」
マユリ「いやはや大したものだ!
そうやって同じ一ヶ月間を繰り返し続けることで、自分にとって最もワルプルギスの夜と戦い易い状況を模索してきたというわけか!」
ほむら「…………」ギュッ…
マユリ「美樹さやかや鹿目まどかの契約を何としてでも阻止しようとしていたのもその為かネ?
ヤツらが魔法少女化することで、結果的にキミにとって不利な状況になる、と――?」カクッ
ほむら「――ご明察よ」
マユリ「フム――ところで、キミの話を聞いていて一つ気になったことがあるのだが?
キミが時間を巻き戻し、新しい時間軸に移行した場合、元いた時間軸上でのキミの存在はどう扱われるのかネ?」
ほむら「……?なにを言って――」
370: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:42:12.29:yUu6sik10
マユリ「たとえば今、この場でキミが時間を戻したとしよう
その場合、この時間軸でキミは始めから存在していなかったことになるのかネ?」
マユリ「それともキミが存在していたという事実は残り、突然行方不明にでもなったとして扱われるのか?
あるいは事故死したとでもいう風に、キミを知る者たちの記憶が都合よく改変されるのか――?」
ほむら「そ、そんなこと――!」
マユリ「ああ、時間逆行を発動すると同時に、私の目の前でキミから魔法少女の記憶と能力が失われ、ただの人間に戻る、という可能性もあるネ!
その場合他の連中の中でのキミの扱いはどういう――」
ほむら「そんなこと私が知るわけないでしょうっ!!」
マユリ「――フン、まぁいいだろう。それで?話をワルプルギスに戻すとしようか――」
直前まで自分が執着していたはずなのに、あっさり話題を変えてしまうマユリ
尤もほむらからすれば、これ以上自分の能力について根掘り葉掘り問い質されるよりずっとマシなのだが――
ほむら(そう――私にとって、まどかを救えなかった時間軸に意味はない)
ほむら(大事なのは今――今度こそ、まどかを救ってみせる!)
374: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:44:32.56:/1SaAlEnO
ーーーー
翌日―
見滝原市・コンサートホール
恭介の乗った車椅子を押すのはさやかである
普段は松葉杖を使って登下校している恭介だったが、今回は車椅子席で鑑賞した方が楽だと思い、車椅子に乗ってデートに臨むこととなった
恭介「――久しぶりだな、生でオーケストラを聴くの……」シミジミ
さやか「でしょー?えへへ、せっかくの初デートだし、どこ行こうかいろいろ悩んだんだけどさー……」
恭介「――ありがとう、さやか」ニコッ
さやか「へっ!?あ、あはは、やだなーもう急に改まっちゃってさー…////」ドキドキ
恭介「……正直ね、もう、こんな風にオーケストラのコンサートに足を運ぶことはないだろうなって、入院中は思ってたんだ
この腕が治らなくて、自分で演奏することができなくなったら、クラシックなんて聴きたくもなくなるはずだ……てね」
さやか「恭介……」
375: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:44:47.20:yUu6sik10
恭介「けど、さやかがいつも見舞いに来てくれて、僕を応援してくれて……
今思えば、さやかが心の支えになってくれてたんだって、告白された時に気付いたんだ」
恭介「だから、こうしてまた音楽に触れていけるのも、さやかのおかげだよ
――本当に、ありがとう、さやか」
さやか「……どういたしまして、恭介!」ニコッ
もう訪れることもないように思えた、恭介との幸せな時間
だが、さやかは気づかなかった
記念すべき初デートの舞台であるコンサートホールの裏手に根付いて、微かに脈打っているグリーフシードの存在に――
376: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:46:35.91:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・ほむホーム
マミ「――まぁ!ネムさんたち、現世に戻ってたの?」パァ!
ほむら「ええ、昨日こっちに来たみたい。今日は相変わらず調査とか言ってどこかへ行ってるらしいけど――」ファサァ
杏子「にしても、作るだけじゃ飽き足らずグリーフシードの養殖までしちまうなんてなー
やっぱあのおっさん変態だよ、うん」アキレガオ
マミ「とはいえ、決戦まで天然のシードは取っておいた方がいいわね
穢れの吸収容量は少ないけど、今の内はまだ人工シードを使っていきましょう」
杏子「だな。節約節約~♪」
ほむら「…………」
マミ「――暁美さん。ひょっとして、死神さんたちからの増援が来ないっていうことを気にしてるのかしら?」
杏子「なーんだ、そんなん関係ねーって!アタシら三人のコンビネーションならワルプルギスとも渡り合えるさ」
マミ「それに、グリーフシードの備蓄があるだけでも十分な支援よ
魔力の消費を気にせずに戦えるもの」
377: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:46:53.91:yUu6sik10
ほむら「――そうね、その通りだわ。ただ、このことは二人には黙っててほしいの――」
杏子「ん?あー、確かに、まどかとさやかが余計な心配すっかもしんねーしな」
マミ「わかったわ、鹿目さんと美樹さんにはこのことは伏せておきましょう」
ほむら「――感謝するわ」
マミ「ふふ、それにしても、久しぶりにネムさんとも色々お話ししたいわね!
こちらから連絡する方法があればいいんだけど……」
杏子「まー、適当に魔女狩りしてりゃ会えんじゃね?魔女のいるところにおっさんアリ、おっさんのいるところにお付きアリってな!」
ほむら「ええ、そうね。それじゃ、そろそろ行きましょうか――」
380: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:48:21.41:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・まどか宅
まどか「さやかちゃん、今日は待ちに待った上条君とのデートなんだよね!うまくいってるといいなー」ティヒヒ
まどか「ほむらちゃんたちも息ぴったりだし、これならワルプルギスの夜も倒せちゃうよね!」ウェヒヒ
まどか「そしたらみんなで旅行に行って、楽しい思い出をいっぱい作るんだ!」ニッコリ
まどか「…………」
まどか「……その、はずだよね?」
まどか「なのにほむらちゃん、どうして昨日あんなに思いつめた顔してたんだろ……」
381: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:48:38.50:yUu6sik10
ーーーー
魔女空間in公園
杏子「うおりゃぁぁぁーーーっ!!」ブンッ
魔女「アンテンッ!!」
杏子の放つ強烈な一撃が、《暗闇の魔女》の胴体を大きくえぐる
たまらず倒れこむ魔女の周囲には、いつしか無数の爆弾が設置されていた――
ほむら「今よ、巴マミ――!」
マミ「わかってるわ!
銃撃でダメージを与えると同時に暁美さんの爆弾を連鎖爆発させる、ふたりの力を合わせた協力技――!」
マミの合図と同時に、これまた無数のマスケット銃が出現し、起き上がろうとする魔女に照準を定める
マミ「――ティロ・シンクレティコ!!」
降り注ぐ銃弾の嵐に、起き上がりかけた魔女は再び体勢を崩す
続けてほむらの仕掛けた爆弾が次々誘爆していき、一気に魔女を包み込む――!
魔女「メノマエガマックラニナッタッッ!!!」
ドオォオォォォォーーーンッ!!
382: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:49:49.43:/1SaAlEnO
杏子「よっしゃ!」グッ
マミ「ふぅ……うん、上出来ね!」ニコッ
ほむら「――今の動きはよかったわ。このタイミングを忘れずにいきましょう」ファサァ
杏子「この調子であと2、3匹はいけそうだな!」ニィ
ほむら「そうね。他にも魔女がいないか探してみま――」
ゴゴゴゴゴ……!!
ほむら・マミ・杏子「――っ!!」
杏子「近ぇな――こりゃ、教会の方だ!」
ほむら「そのようね――」
マミ「それじゃ、もう一仕事済ませちゃいましょうか!」
383: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:50:28.25:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・コンサートホール
コンサートが終わり、会場から客たちが出てくる
恭介「すごかったね、さやか!」キラキラ
さやか「うん!やっぱ生のオーケストラは違うわー」
恭介「そうだろ?見ててよさやか、すぐに勘を取り戻して、僕もあんなホールで演奏できるように頑張るから!」
さやか「恭介……よしよし、がんばれよー?あたしが応援してるんだからねー!」
モワアアアァァァン…!!
さやか「え――?」
恭介「あれ?急に暗くなったね、天気予報じゃ晴れ――」
空を見上げた恭介は、そこでようやく異変に気付いた
いつの間にやら、彼らの周辺は異様な空間に包まれているではないか――!
同じように会場を出た人々も、一様に戸惑いと不安を露わにしている
恭介「これは、いったい――さやか?」
表情を強張らせるさやか
さやか「これって――魔女の結界?」
384: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:52:28.62:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・教会
入り口付近の壁に、結界の入り口を発見した魔法少女たちのもとに、念話で音声が聞こえてくる
ピッ カチャッ…
ネム『暁美さん、巴さん、佐倉さん――聞こえますか?』
マミ『…!ネムさんなの?
わぁ!久しぶりね!』パアァ
杏子『おう、アンタか。どうしたよ?』
ネム『はい…皆さんは今、どちらに?』
ほむら『市内の古びた教会よ。魔女を発見したから、これから退治するところ』
ネム『そうですか……実はたった今、こちらでも結界の出現反応を新たに探知しました
場所は見滝原市内、コンサートホール付近です』
マミ『コンサートホール……?』ハッ
杏子『……っ!!おい、それって――!?』
ほむら『…っ!!』
386: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:52:52.63:yUu6sik10
ネム『私は既にコンサートホールへ向かっていますので、どなたかに加勢をお願いしたいのですが――』
杏子『ちぃっ!わかった、アタシが行く!だからそれまで粘ってくれ――!』
ネム『了解しました――』ピッ
念話が切れると同時に駆け出そうとする杏子を、ほむらが呼び止めた
ほむら「待って。私が行くわ――」
杏子「はぁっ!?なんで――!」クワッ
ほむら「私なら時間を止めて移動すればより早く現場に着ける――」
杏子「けどお前、停止中に激しく動きすぎると魔力の消耗がひどくなってすぐ停止切れるだろっ!?
止めたり動かしたり繰り返してたら向こうに着く頃にゃ魔力が残ってねぇかも――」
ほむら「心配はいらないわ。その辺のバランスはうまくやるわよ――
それじゃ、こっちの魔女は二人に任せるわね――!」
そう言うや否や、二人の目の前からほむらの姿が消える
387: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:53:29.53:/1SaAlEnO
杏子「あっ――くそっ!」ダンッ!
マミ「佐倉さん…美樹さんが心配なのはわかるけど――」ヤンワリ
杏子「…わかってる。本人の言う通り、ここはほむらに任せるのが一番確実だよ
――さっ、アタシたちもさっさと蹴散らして、さやかたちの所に急ぐぞ!」ギュッ…
マミ「――ええ、そうね。ネムさんも先に向かってるって言うし、今は目の前の敵に集中しましょう!キリッ
そうして二人の魔法少女は、教会に現れた魔女の結界へと飛び込んで行くのだった――
390: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:54:53.82:yUu6sik10
ーーーー
魔女空間inコンサートホール
恭介「どうなってるだこれは……!さやか、大丈夫かい……?」
さやか「大丈夫だよ恭介…あたしはここにいるから……!」ギュウッ…
車椅子に座ったまま動揺する恭介を、後ろから抱きしめるさやか
辺りは色彩を失い、人も地面もまるで影絵のように黒く塗りつぶされている
《影の魔女》が作り出した結界に閉じ込められた人々は、さやかたちも含め全員がシルエットのみの姿で目に映っていた――
さやか(よりによって今日――この場所に魔女が出るなんてっ――!)
さやか(とにかく、みんなが助けに来るまで恭介と一緒に生き延びないと――!)
客A「ひっ…な、なんだあれはぁっ!?」ガクブル
さやか・恭介「!!」
閉じ込められた客の一人が悲鳴を上げた
崖のようになっている箇所の先端に、跪くような姿の魔女
その周囲から、動物の顔が付いた無数の触手が生え出てきて、一斉に人々へ襲いかかってきたのである――!
客B「うわぁぁぁーーーっ!!助け――」
触手型使い魔の一体が腰を抜かした客に食らいつこうとした瞬間――
「――破道の三十二『黄火閃』!!」
391: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:56:59.68:/1SaAlEnO
バァアァァァーーーンッ!!
さやか「っ!!」
眼も眩むような閃光と共に、使い魔が焼き払われる
ネム「ご無事ですか、美樹さやかさん」スタッ…
さやか「ネムさん!」
恭介「あれ…あの人……」(夢の中で会ったことがある、ような――)
ネム「じきに魔法少女の方々も来られるはずです
それまで私が食い止めますので、できるだけ魔女から離れた所へ――!」サッ
そう言うや否や、こちらに向かってくる無数の使い魔たちに飛び掛かっていくネム
さやか「そ、そうよ!早くどこかへ逃げないと……!!
――皆さんも!ここなんか危なそうだし早く逃げましょう!!」
そう叫ぶとさやかは車椅子の持ち手を強く握り、恭介を押しながら全力で駆け出した
突然の事態に呆然としていた客たちも、さやかの呼びかけが引き金となったのか一斉に逃げ惑い始める
392: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:57:14.11:yUu6sik10
恭介「さ、さやか…!さっきの人は……!?」
さやか「えっ!?あんたネムさんが見えるの――?」(ひょっとしてここが魔女の結界の中だから?)
さやか「えっと、その――ああもう!それより今は逃げるのが先っ!喋ってると舌噛むから静かにしててっ!!」
恭介「あっ!う、うんっ……!」
走りながら周囲を見回すさやかだったが、隠れる場所も出口らしきものも見つからなかった
時折窪みや小石に車輪を取られて、恭介の座る車椅子が揺れ安定を欠くため、逃げるスピードもそうは出せない
恭介「さやか……!僕のことはいいから、君だけでも逃げるんだ――!」
さやか「なっ――!バカなこと言わないでよっ!!恭介を置いてひとりで逃げろっていうのっ!?」
恭介「何が起きてるのかよくわからないけど――このままじゃ二人とも逃げ切れないのは確かだ。僕を押してるせいでさやかもスピードを出せてない。だから――!」
さやか「いい加減にしてっ!」
恭介「…!」ビクッ
さやか「せっかく…せっかく恭介の腕が治って、好きだって言えて、好きだって言ってもらえて――!」
さやか「これから色んな所に行ったり、一緒にご飯食べたり…!楽しいこといっぱいできるようになったのに――!」
恭介「さやか――!」
ネム「うぁ…ぐぅ……!!」ゲホッ
393: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:58:15.37:yUu6sik10
さやか・恭介「――っ!?」ハッ
喘ぐような悲鳴に二人が振り向く
見ると、《影の魔女》の周囲から生えた無数の枝が、取り囲むように全方位からネムを攻撃しているではないか――!
さやか「ネムさんっ!!」
ネム「が…はぁ…!に…げ……っ!!」グサグサグサグサッ!!
恭介「ひっ…う、うわぁぁぁ……!」
さやか「そんなっ…ネムさんがやられるなんて……!マミさんたち早く来てよ――!」
恭介「――っ!?さ、さやか、危ないっ――!!」
さやか「えっ――?」
次の瞬間、足元から飛び出した触手使い魔がさやかたちを襲った!!
さやか「きゃっ――!!」
恭介「うわぁっ――!!」
咄嗟に身をよじらせたさやかは辛うじて直撃を免れたが、使い魔の一匹が車輪に食らいついたせいで、バランスを崩した恭介が車椅子から転げ落ちる
恭介「うっ…痛っ……!」
さやか「恭介っ――!」
394: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:59:11.56:yUu6sik10
恭介に駆け寄るさやか
まだギプスの取れない足をおさえるようにして、恭介がさやかに語りかける
恭介「…さやか…早く逃げるんだ……!僕のことはいいから……!!」
さやか「バカっ!!そんなのダメだって言ってるでしょっ!?」(どうしよう――!)
恭介「僕だって…ほんとはさやかともっと一緒にいたいよ……!でもっ……!」
さやか「だったら諦めないのっ!ほら、肩貸すからつかまって――!」(このままじゃ、あたしたちみんなあの魔女に――!)
恭介「でも、僕だって……!さやかに何かあったら嫌なんだ…!僕が足手まといになるせいで、さやかの身を危険にさらしたくないんだ……!」
さやか「そんなのっ…!そんなの恭介のせいじゃないよっ……!!」(こんなところで死にたくない――恭介を死なせたくない――!!)
さやか「――――」
さやか「――キュゥべえ、いる?」ボソッ…
395:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/21(水) 22:59:24.74:hKUImrHL0
ーーーー
ほむら「ハァ…ハァ…くっ…!よりによって…教会から遠いコンサートホールに…ハァ…魔女が出現するなんて……!」ハァ…ハァ…
コンサートホールを目指して一心の駆けるほむら
時間を断続的に停止させてはいるものの、さすがに現場まで距離がありすぎた
元来身体の虚弱なほむらは、他の魔法少女よりも身体能力の向上に割く魔力が多いため、杏子の指摘した通り長時間停止を発動したまま全力疾走することはできないのだ
ほむら(けど慌ててはダメ……最良のペースを保った上で、できるだけ早くさやかを助けに行かないと……!!)
398: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:59:59.61:yUu6sik10
ーーーー
QB『いるよ。久しぶりだねさやか。キミがボクを呼ぶのはこれで二度目かな?』キュップイ
恭介「……えっ?こ、今度はなんだっ!?」ヒィッ!
突如目の前に出現したキュゥべえを見て、ますます混乱する恭介
そんな彼をよそに、決然とした表情のさやかがキュゥべえに問いかける
さやか「キュゥべえ。もし契約したら、今この場でいきなり魔法少女になれるんだよね?」
QB『ああ、勿論さ。契約した瞬間からキミは魔法少女だよ
それにしても意外だね。キミの願いは既に叶っているものかと思ったのだけど――』
車椅子に纏わりついていた使い魔が再びさやかたちを見る
それに呼応し、周辺の使い魔たちも次の標的をこちらへ定めたようだった
既に何人かの客たちは使い魔や魔女の枝攻撃による犠牲者となっていた
生き残っている者たちも、この閉じられた空間の中でいつまで逃げまわっていられるかはわからない
400: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:01:10.18:yUu6sik10
さやか「――私は今、力が欲しい。魔女と戦える力――この場から恭介を、みんなを助けられる力がっ!!」
QB『願いではなく生存本能――あるいは力そのものへの渇望が先行しているということかな?
いいのかい?せっかくの機会なんだし、叶える願い事だってもっとよく考えた方が――』
さやか「いいの」
QB『キミは知ってるのだろう?魔法少女になるということは、キミたちの言う“ゾンビ”とやらに成り果てるのと等しいって
魔法少女の末路が、今キミを襲っているような魔女であることも――』
さやか「いい加減にしてよっ!!私は魔法少女になるって決めたのっ!!
たとえ自分がゾンビみたいになったって、恭介を助けられるなら喜んで受け入れるっ!魔女たちと戦い抜いて見せるっ――!!」
ネム「ゲホッ…美樹……さやか…さん……ゲホッ!」
傷だらけの身をおして、起き上がろうとするネム
キュゥべえはそれを横目で流しつつ、変わらぬ口調でさやかに返答する
QB『――やれやれ、キミの決意は固いみたいだね
ボクはちゃんと忠告したよ?暁美ほむらにもキミからそう言っておいてくれ――』キュップイ
さやか「わかってる。これは紛れもない、あたし自身の決断だから」
恭介「――何を言ってるんだ」
403: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:02:49.50:/1SaAlEnO
さやか「……恭介」
恭介「さっきからいったい何を話してるんだよ!? 魔法少女?さやかがそれになるってどういう――!」
さやか「ねぇ、恭介――」
恭介「――っ!」
正面から恭介の目を見つめるさやか
周辺の使い魔たちは、動かない彼女たちを逃げる心配がない獲物と判断したのか、物色するようにじわじわと距離を詰めて来る
さやか「もしあたしが、普通の人間じゃなくなっちゃっても――恭介は私の傍にいてくれる?」
恭介「なっ――」
問い質したいことはたくさんあった
しかし、自分をまっすぐに見つめてくるさやかの眼を見ると、それらの言葉は引っ込んでしまう
決然としていてなお、不安を隠し切れていないさやかの瞳
自分の返事を聞くことに対して、恐れを抱いているのが容易に感じ取れた
ならば、彼の回答は一つしかない
恭介「――当たり前だろ」ボソッ
404: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:03:26.18:yUu6sik10
さやか「……恭介…!」
恭介「君が何をするつもりかはわからない……
正直、僕なんかのために君が危険を冒そうとしてるなら、なんとしても阻止したいところだよっ……けど!」フルフル
恭介「それでも君が、自分の意思を曲げないっていうなら――どんなことがあっても、僕は君の味方でいるよ、さやかっ!!」
さやか「――――」
さやか「――よかったぁ」ニッコリ
安心したように笑うさやか
その笑顔があまりに眩しくて、恭介は思わず息を飲む
さやかは恭介に背を向けると、再びキュゥべえと向かい合った
QB『さあ、美樹さやか――その魂を代価にして、君は何を願う?』
さやか「ここに閉じ込められた人たちを、無傷のまま全員結界の外に逃がしてほしいの
もし無理じゃなければ殺されちゃった人も――とにかく、ここにいるみんなを助けてっ――!!」
QB『契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した
――さあ、解き放ってごらん。その新しい力を! 』
406: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:05:45.97:/1SaAlEnO
《影の魔女》が異変に気付いた時にはもう、結界の中に捕えていたはずの人間たちは一人残らず消えていた
今まさに獲物に食らいつこうとしていた使い魔たちは標的を見失い、動揺したように周囲を見回す
すると、まだ残っている人影を二体、発見できた
ひとりは地に膝をつきながらも戦闘態勢を崩さない、涅ネム
そしてもうひとりは――
さやか「……さぁて、そんじゃ初仕事といきますかっ――!!」
バササァッ!
青を基調としたコスチュームに、純白のマント
それが翻ったと思った次の瞬間には、無数の剣が足元の地面に突き刺さっていた
魔法少女・美樹さやかの誕生である――!
使い魔「グワォォォーーーンッ!!」ゴォッ
一斉にさやかへ飛び掛かっていく使い魔たち
さやかは足元の剣を抜くと、次々敵へ向かって投げつけていった
さやか「せっかくのファーストデートが――あんたたちのせいでっ――!」ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!
彼女の投げる剣の一本一本が、的確に使い魔を貫いていく
道が開けると、さやかは一気に魔女本体へと駆け出した――!
さやか「――どう責任取ってくれんのよっ!!」ブンッ
407: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:06:02.83:yUu6sik10
怒りと共に振り下ろされた刃は、しかし魔女を貫くことができなかった
《影の魔女》を守るようにして出現した無数の枝が、さながら鎧のようにさやかの攻撃を弾いたのだ
さやか「くっ…硬いなぁっ――!」ギリッ
ネム「美樹…さん……」フラッ…
さやか「…っ!ネムさん――!」ハッ
ひとまず魔女から飛び退いたさやかに、傷だらけのネムが声をかける
ネム「あの枝のようなものが……魔女を守る盾ならば…魔女本体の守りは、おそらく…さほどでもないはず……」ゲホッ…
さやか「ネムさんは休んでて。ここはあたしが――」
ネム「ですから…私があの枝を一瞬でも排除しますので……そこをあなたが突いて下さい……」
さやか「!!…でも、その身体じゃ……」
ネム「大丈夫…です。私の身体は…マユリ様が創りあげたもの……この程度の損傷で、死にはしません……!!」
さやか「ネムさん……わかりました
あたしはまだ、魔法少女になったばかりで未熟だから、ネムさんの力を貸してくださいっ!!」
ネム「……了解しました」
410: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:07:43.44:/1SaAlEnO
そう答えるや否や、ネムは両足を張ってしっかりと立ち上がると、掌を重ね合わせ魔女の方へと向けた
それにいち早く気づいた魔女は、ネムが攻撃を放つより先にとどめを刺そうと、周囲にめぐらした枝を展開し高速でネムたちへと放つ!
しかし――
ネム「――縛道の二十一『赤煙遁』!」
ネムは合わせた掌を素早く地面へ向け、その場に煙幕を出現させた
彼女が放ったのは攻撃用の破道ではなく、敵の攻撃をかわすための術だったのだ
そのまま煙の中に突っ込まれる無数の鋭利な枝
しかし、獲物をとらえたという手ごたえはない
一拍遅れて、煙幕からネムが飛び出してきた
傷ついた身でありながら大したスピードで《影の魔女》の右手側に回り込むと、今度こそその拳に攻撃用の霊力を集める――!
ネム「破道の五十四『廃炎』!!」
ボォオオォォォーーー!!!
放たれた漆黒の炎は、しかし魔女の身体を焼くことができなかった
ネムが煙から飛び出した時点で、魔女はその動きを予測し、自身の右側に枝を凝縮して盾を作っていたのだ!
魔女「サァ…アナタモヤミノセカイニキュウサイノイノリヲッッッ!!!」
そのまま一つにまとめた枝の塊をネムに叩き込もうとした瞬間――
グサリ…
《影の魔女》の胸を、背後から貫く一本の刃
411: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:08:15.53:yUu6sik10
そう、ネムは煙幕から出る直前に、対象の姿を透明に隠す二十六番縛道『曲光』をさやかにかけていたのである
そしてネムがそのまま囮になり、魔女の注意を引きつけたところで、反対方向から忍び寄ったさやかが、がら空きの背中を突き刺したのだった――!
さやか「――これで、とどめだぁ!!」ズバァッ!
突き刺した剣をそのまま一気に斬り上げるさやか
裂けたチーズのように、《影の魔女》の上半身が真っ二つになる
魔女「アア…キュウサイノイノリハトドイタノネ……ッッッ!!!」シュウウゥゥゥーーーッ!!
消滅していく《影の魔女》
さやかはサッと手を一振りして剣を消すと、傷つきながらも見事囮役を演じきったネムの方へ駆け寄るのだった
さやか「ネムさーんっ!やりましたぁー!!」ノシ ブンブン
ネム「……お見事です、美樹さやかさん」ニコ…
412: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:09:28.24:/1SaAlEnO
ーーーー
コンサートホールの外では、さやかの祈りによって結界から助けられた客たちが続々と救急車で運ばれていた
魔女の口づけで呼び寄せられたのでない彼らは、結界内部での恐怖体験を記憶していたため、救急隊員が声をかけても一様に脅え震るばかり
しかしながら、彼らの身体に目立った外傷のないことや、口走る内容がとても現実的なものとは思えないことから、先日同様集団催眠状態による幻覚と判断されたのだった
また、何らかの強いショックを受けたためか意識を失ったまま搬送される者も多かった
上条恭介もその一人で、担架で救急車に運ばれる間に何度かうなされているように声を漏らしていたという
「さやか…」と、彼がうわごとのように何度も漏らした名前が誰なのか、勿論救急隊員たちには知る由もない
それを知るのは、その場にひとり
救急隊の様子を唇を噛みながら見ていたほむらは、ホール裏手から魔力の名残を感じ、そちらへと回っていった
413: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:09:57.98:yUu6sik10
ーーーー
さやか「すいません、あたしの力じゃ今はまだこのぐらいしか……マミさんだったらもっと治療が捗ると思うんですけど……」
ネム「……いえ、謝ることはありません、美樹さやかさん。これだけ治療して頂ければ十分ですので……」
ネムの傷を手当するさやか
そこへ、険しい顔をしたほむらが現れる
さやか「あ……ほむら…」キマズゲ…
ほむら「…………」フルフル
さやか「えーと、その……あはは、ごめん!あたし、契約しちゃった――」
ほむら「――ごめんなさい、さやかっ!!」バッ!
さやか「――ちょっ…ええっ!?」
開口一番にそう言って頭を下げるほむらに対し、さやかは目に見えて動揺する
見ればほむらは肩を震わせており、その目尻には涙を浮かべているではないか
さやか「ちょっ、落ち着いてよほむら!あんた涙目で謝るようなキャラじゃないでしょ!?いつものクールな美少女はどこへいったの!?」オロオロ
ほむら「――私がもっと早く助けに来ていればっ…あなたが契約することもなかったのにっ…!」ブワァッ…
さやか「…ほむら……」
415: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:12:35.17:/1SaAlEnO
ほむら「私に任せろなんてっ…言って…杏子にもっ…マミやまどかにも顔向けできないっ……!」グスッ
さやか「……ったぁく、なーに気負っちゃってんのかねーこの娘は」ナデナデ
ほむら「ウッ…さやかぁ……!」ウッ…ウッ…
さやか「確かに、これであたしも魔女の宿命とやらに仲間入りしちゃったわけだけどさ――
――あたし、後悔なんてしてないよ、ほむら」サスサス
ほむら「ウゥ…でも……ウッ…!」グスンッ
さやか「あそこで決断しなかったら、何もかも終わりだったから
恭介だって殺されちゃうし、あたしももう二度とみんなに会えなくなるところだったしね――」ギュッ
さやか「それにさっ!やっぱりあたし、なんだかんだ言ってもどこかで魔法少女に憧れてたんだと思う
初めてマミさんに助けてもらった時からずっと――正義の魔法少女にね!」ニコッ
さやか「みんなが協力するようになって、ほむらやマミさんや杏子が戦ってるのをまどかと側で見ててもさ
なんかこう、『あたしもあの中に加わって、みんなの力になりたい!』って、いっつも思ってたんだ」
ほむら「……さやか……」
さやか「だからぁ、あんたがそんな辛そうな顔しちゃダメってこと!
これは全部あたし自身が決めたこと、あたしの願いだったんだから――!!」ビシッ!
ほむら「……そう、そうなのね……よかった…」グスン
416: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:13:18.49:yUu6sik10
さやか「そういうこと!ほら、顔拭きなよ。せっかくの美人が台無しだぞ~?」つハンカチ
ほむら「ありがとう…ごめんなさいね、みっともない姿を見せてしまって……」ゴシゴシ
さやか「なーに、いいっていいって!むしろ、普段はクールなほむらちゃんの新たな一面を見られてラッキーってな感じですよ~!」ニヤニヤ
ほむら「か、からかわないでちょうだい美樹さやかっ……////」カアァー
さやか「……さやかでいいよ」
ほむら「え…?」
さやか「ほら、あんたさっきまどかたちのことも下の名前で呼んでたでしょ?
無理していちいちフルネームで呼ばなくてもさ、素直に名前で呼んでくれていいよ?多分みんなもその方が嬉しいだろうし――」
ほむら「……わかったわ、さやか」キハズカシイ…
さやか「よしよし、かわいいやつめ~」ダキッ
ほむら「ちょっ…離れなさい、さやか――」
恥ずかしそうに身をよじるほむら
そこへ、伏し目がちにネムが近づいていく
ネム「……申し訳ありませんでした、暁美ほむらさん。私がいながら、みすみす美樹さんに契約をさせることになってしまって――」ペコリ
421: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:15:48.79:/1SaAlEnO
さやか「もぉ~、ネムさんまで、そんなのいいって!」
ほむら「……頭をあげて。あなたの責任ではないわ」
ネム「ですが、インキュベーターの出現位置を捕捉していたにも関わらず、身柄の拘束を怠ったのは我々のミスです――」
ほむら「いいえ、ここ最近おとなしくしていたせいか、私も奴への注意を怠っていたわ」
さやか「それに今回はキュゥべえ、何度もあたしに念を押してたしね。ま、この件に関しちゃ、あいつもお咎めなし!ってことで!」
ほむら「……そうね。どの道奴はもう、この街での積極的な勧誘は諦めたようだし――」
そう呟くほむらだったが、しかしその胸の奥では、何か漠然とした不安が首をもたげていた
ここまで順調に進んできた物語が、この出来事をきっかけに少しずつ暗雲の中へと進んでいく――とでも言うような……
杏子「おぉーい!」
マミ「暁美さーん、美樹さーん、ネムさーん!無事ー!?」
まどか「さやかちゃーん!ほむらちゃーん!」
そこへ、教会の魔女を撃破した杏子とマミ、それにコンサートホールで集団催眠事件が起きたのをニュースで知ったまどかが駆け付けてきた
この後、さやかの魔法少女化について三人を宥め説得するのに、それこそ初の魔女退治以上の労力を費やすことになるさやかなのであった――
422: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:16:21.18:yUu6sik10
ーーーー
少女たちが去った後のコンサートホール――
その裏手に位置する壁面から浮かび上がってきたのが誰か、もはや説明も不要であろう
マユリ「フム…面白い。実に面白いことだヨ!」
十二番隊隊長・涅マユリはそう呟くと、懐から取り出した霊波測定機をしげしげと見返す
マユリ「いやはや、普通の人間が魔法少女になる瞬間をこの目で見ることができるとはネ!成程、霊力の変容や霊圧の上昇値はこうなっているのかネ、フムフム――」
QB『――やれやれ、とんだ同盟者だね、あなたは。魔女結界の内部に侵入していながら、姿と霊圧を隠して魔女と交戦せず、美樹さやかが契約するのを待っていたなんて――』キュップイ
マユリ「しかも巴マミ同様、治癒能力を有しているとはネ。それに攻撃力はさほどでもないが、スピードに関しては他の魔法少女共よりも上のようだヨ――」
QB『――どうやら今は研究データの分析でそれどころじゃなさそうだ。ひとまずボクはこれで失礼するよ、涅マユリ――』キュップイ
マユリ「――フム、百聞は一見に如かずとはよく言ったものだネ。やはり実際にこの目で観察して得たデータは最高だヨ――」ククク…
やがてマユリは測定機をしまうと、ニヤリと笑みを浮かべつつ呟くのだった
マユリ「さて、次はいよいよワルプルギスの夜とやらの研究データを取るとしようか――」
423: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:17:32.64:/1SaAlEnO
ーーーー
あれから一週間―
晴れて魔法少女の仲間入りをしたさやかは、三人の先輩たちから連日しごきにしごかれた
厳しさと優しさを併せ持つマミ教官
淡々と、それでいて的確に指南するほむら教官
つい口調を荒げがちになるも、最後には照れくさそうにそっぽを向いてアドバイスをくれる杏子教官
全くタイプの違う三人の指導が功を奏したのか、ほんの一週間でさやかは十分に魔女と渡り合えるようになっていた――
杏子「とうとう明日かぁ……」
見滝原市・ほむホーム
暁美ほむら、佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか、涅ネム、そして鹿目まどかは、決戦の前の最後の打ち合わせに集まっていた
ほむら「――というわけで、まどか。今夜遅くから風が強まってきて、明日の朝には避難勧告が出されると思うから
あなたは私たちがワルプルギスの夜を倒して帰ってくるのを、避難所で家族と一緒に待ってて――」
まどか「……うん」コクン
杏子「…なーに深刻な顔してんだよ」
まどか「え…う、ううん、そんなこと……!」アワアワ
杏子「バレバレだっての。ほら、食うかい?」つ ポッキー
まどか「あ、ありがと……」ポリポリ
424: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:18:05.28:yUu6sik10
さやか「だーいじょうぶだっての、まどか!
なんたってマミさん、ほむら、杏子の最強トリオに加えて、期待の超大物ルーキー・さやかちゃんを入れた無敵の四天王ッスよ~?」
杏子「さやかは四天王の中でも最弱……!」キリッ
さやか「ぶはぁっ!言ったなぁーこいつぅー!!」ムキー!
杏子「へっへっへー!だって事実だろ?」ニヤニヤ
まどか「あははっ……」
マミ「ふふふ…でも、美樹さんの言う通りよ、鹿目さん
グリーフシードの備蓄も十分あるし、私たちはみんなベストコンディションなんだからね」ウィンク!
まどか「……わかってます。みんなが力を合わせれば、きっと勝てるって
わかってるんですけど……それでも……!」
ほむら「……大丈夫だって気持ちに、なれない?」ソッ…
まどか「…っ!ほむらちゃん……!」ビクッ
不安な表情を隠し切れないまどかに手を伸ばして、その頭を優しく撫でるほむら
427: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:19:48.25:/1SaAlEnO
ほむら「絶対に大丈夫って――どんなに言葉を尽くしても、多分あなたは信じきれないのでしょうね」ナデナデ
まどか「……だって、すごく強い魔女なんでしょ?街全体に避難勧告が出るくらい、とんでもない凄さの……!」
ほむら「……ええ、そうね」ナデナデ
まどか「そんな凄い敵と戦って、みんな無事で戻ってこれるのかなって考えたら……どうしても不安になっちゃって……!」フルフル
ほむら「……うん。確かに、あなたがそう感じるのも無理はないわ」ナデナデ
まどか「それでね…!前にキュゥべえから言われたことを思い出したの――!」フルフル
まどか「『家族も友達も、キミの大切なもの全てを恐ろしい魔女から守り抜く力が、キミには眠っている』――!」
ほむら「――やっぱり、そういうことね」フッ…
まどか「え……?」
ほむら「私たちが大敵に挑むって聞いて、自分も何かの役に立ちたいって――そう思ったんでしょう?」
まどか「ほむらちゃん――」
ほむら「けれどね、まどか。もしあなたがワルプルギスと戦うために契約をしようと言うなら――私はあなたを許さないわ」ジッ…
428: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:20:15.74:yUu6sik10
まどか「……っ!」ハッ
ほむら「私たちは、これ以上インキュベーターたちの企みに乗せられて、悲しい因果の鎖へ囚われる少女を増やしたくない――」
ほむら「少女の弱みや純粋な願いにつけ込んで、戦いと絶望の宿命を背負わせるような奴らの、思い通りにはさせたくない――」
ほむら「そしてなによりも――大切な友達であるあなたを、魔法少女にしたくないの」
まどか「……みんな」
マミ「鹿目さん……」
さやか「まどか……」
杏子「まどか!」
ネム「…………」
まどか「――わかった」
ほむら「まどか――!」
まどか「……えへへ、みんながこんなに言ってくれてるんだもん!
私だってみんなのこと信じてあげなきゃいけないよね――!」
429: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:21:11.33:/1SaAlEnO
杏子「おうよ!だから最初っから言ってんじゃん!心配しないで待ってろってさ!」ニィッ!
さやか「まったくぅ、私の嫁はほんとに心配性なんだからぁ~!」ニコッ!
マミ「ふふふ…でも、その優しすぎるくらい健気なところが、鹿目さんの良いところでもあるのよね!」ニッコリ!
ネム「…………」コクリ
ほむら「――ありがとう、まどか。私を――私たちを信じてくれて」
まどか「ううん、いいよ!そのかわり、約束してね――?」
ほむら「ええ、約束するわ。私たち全員、必ず無事に帰ってくる――っ!!」
430: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:21:52.26:yUu6sik10
ーーーー
ネム「――それでは、鹿目さんをご自宅までお送りしてきます」
ほむホームの玄関口に立つネムとまどか
ほむらたちはこの後、明日の決戦に向けて最終打ち合わせに入る
まどかは一足早く、ネムに送られて自宅まで帰るところであった
マミ「それじゃあ鹿目さん、気を付けて帰ってね」ニッコリ
杏子「明日は避難所で寝泊まりだからなー、今日はしっかり寝とけよー!」ノシ フリフリ
さやか「じゃあね、まどか!あたしたちの活躍に期待しててよぉー?」ノシ
ほむら「――さようなら、まどか。また明日、全てが終わったら会いましょう」ファサァ
まどか「うん!それじゃ、みんな!明日は頑張ってね――!」ノシ バイバイ
そう笑顔で手を振って、まどかはほむホームを後にした
そんなまどかを見送ってから、おもむろにほむらが口を開く
ほむら「――決戦の前に一つ、あなたたちには話しておきたいことがあるの」
432: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:22:47.38:/1SaAlEnO
さやか「へ……?」
杏子「なんだよ、改まって――」
マミ「――それは、鹿目さんには聞かせられないことなのかしら?」
さやか・杏子「――!!」
ほむら「――ええ、そうね
あの娘には――いえ、本当は誰にも明かすべきではなかったのだけれど」
ほむら「私と一緒に、最大の敵と戦う仲間であるあなたたち三人には、知っておいてほしいことなの――」
ほむら「私の魔法の本当の力と――本当の目的について」
433: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:23:25.61:yUu6sik10
ーーーー
ほむホームからの帰り道―
まどか「すみませんネムさん…ネムさんだって作戦会議に出ないといけなかったんじゃ……?」
ネム「お気になさらないで下さい、鹿目まどかさん。既に暁美ほむらさんから大体の動きは伝えられていますので……」
まどか「そうですか……あ、あの――!」
ネム「?…なんでしょうか?」
まどか「前に、えっと…尸魂界や死神の役目について、少し話してくれましたよね?」
まどか「現世で死んじゃった人の魂は、尸魂界へ行った後、また新しい魂として現世に還ってくる――って」
ネム「はい。魂魄は皆、輪廻の過程の中にあります
虚等に襲われ消滅してしまう魂魄も少なからず存在しますが、その犠牲をできる限り出さないようにするのが、私たち死神の役目です」
まどか「――魔法少女や魔女の魂は、死んだらどうなるんですか?」
ネム「……申し訳ありません。それはまだ私たちにも……」
まどか「あはは……そうですよね…死神さんたちも最近になって魔法少女のこと知ったんですし……
……すいません、決戦の前日だっていうのに変なこと聞いちゃって……」
ネム「……ただ」
まどか「え…?」
434: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:24:43.50:/1SaAlEnO
ネム「今後、魔法少女に関する研究が進み、その魂であるソウルジェムの原理が明らかになれば――」
マユリ「――あるいは、魔法少女を元の人間に戻す方法も見つかるやもしれないネ」ニヤリ
まどか「わぁっ!えっ――!?」アタフタ
ネム「マユリ様――」ハッ
マユリ「ネム。いつまで油を売っているのかネ?お前にも決戦用の調整を施さねばならないんださっさと戻るんだヨこのグズがっ!」
ネム「……申し訳ありません、マユリ様」ペコリ
まどか「あ、あの!ネムさんは私を送ってくれてたんです!だから――!」アタフタ
マユリ「うるさい奴だネ」ジロリ
まどか「……っ!」ヒィッ!
マユリに睨まれ怯むまどかだったが、それでもなおマユリに食いついていく
まどか「そ、それと!さっき、魔法少女を元に戻せるかもって……!!」ヒッシ
435: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:25:07.73:yUu6sik10
マユリ「――フン、あくまで『希望的観測』にすぎんヨ。何せ、この事案に関してはまだまだ絶対的にデータが少ないからネ
ま、今後の調査研究の進み方次第、といったところかネ――」カクッ
そう答えるとマユリは、まどかに背を向けその場を立ち去ろうとする
相変わらずマイペース(?)なマユリの言動にあたふたしながらも、まどかはその背に呼びかけた
まどか「あ、待って……あのっ…!!
えっと……まだちゃんとお礼言ってなかったから、その……上条君の腕、治してくれてありがとうございましたっ…!!」オジギッ
マユリ「――――」スタスタ…
まどか「さやかちゃん、ずっと上条君のこと心配してたから……!
でもマユリさんのおかげで、さやかちゃんすごく喜んでて……!」アタフタ
マユリ「――――」スタスタ…
まどか「みんなも、マユリさんの技術力はすごいって言ってますし……だから、えと…!
――きっとマユリさんなら、研究を完成させられますよっ!私も、みんなも応援してますっ!!」
マユリ「――で?礼と言うなら、キミは私の研究に協力してくれるのかネ?」グルリ
まどか「えっ…?」
顔をあげるまどか
こちらを振り返り、首を傾けて不気味に笑うマユリと目が合う
436: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:26:29.43:/1SaAlEnO
まどか「ひゃっ…!」ゾオォッ…
思わず悲鳴を漏らすまどかだったが、しかし蛇に睨まれたカエルのように足が竦んで動けなかった
マユリ「どうなんだネ?私の研究を応援するというなら、キミやキミのトモダチ共も研究材料としてその身を提供してくれるのかネ?
研究の為キミに魔法少女になれと頼んだら、キミはインキュベーターと契約してくれるのかネ?ん?」
まどか「そ、そういうことじゃ――!」ブルブル
マユリ「――フン、まぁいいヨ。今ここでキミ相手にこんなやり取りをしていても不毛なだけだ」クルッ スタスタ…
言いたいだけ言って、再び歩み去っていくマユリ
動揺して言葉の出てこないまどかだったが、ここで今度はマユリの方から彼女へ呼びかけてきたのである
マユリ「――そうそう、一つ言い忘れていたヨ
明日はせいぜいインキュベーターに気を付けることだネ」スタッ…
まどか「えっ…キュゥべえに…?」
マユリ「どうやら我々がしばらく現世を離れていた隙に、ヤツの霊波パターンが変化したようでネ
現状、こちらではヤツの行動を捕捉できていないのだヨ――」
437: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:27:06.72:yUu6sik10
まどか「それじゃ、えっと…明日、私のところにキュゥべえが来るかもしれないってことですか?」
マユリ「いやはや、正直キミが契約してくれた方が私にとっても好都合なのだが、決戦の最中にそのことでゴタゴタされては敵わんしネ
何せ同盟の最低条件として、暁美ほむらから“鹿目まどかを魔法少女にさせないこと”を要求されているのでネ――」
まどか「……ほむらちゃんから?それって――!」
マユリ「ま、もしインキュベーターがキミのもとに出現したら生け捕りにでもしておいてくれ給えヨ」スタスタスタスタ…
ワルプルギスの夜を討伐し捕獲した後で、引き取りに行くとするヨ――
そう言い残すと、今度こそマユリはその場を後にした
ネムはまどかを一瞥し、伏し目がちに頭を下げてからマユリの後を追って行く
自宅は既に目と鼻の先だったが、まどかはしばしその場に立ちつくしているのであった
まどか「――同盟の条件が、私に契約させないこと……ほむらちゃん、どうしてそんなに私のこと……」
438: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:28:21.36:/1SaAlEnO
ーーーー
そして翌日――
見滝原市・古びた教会
椅子に腰掛けてリンゴを齧るひとりの少女―
「ムグムグ…アグッ…」シャリシャリ
魔法少女・佐倉杏子
「ゴックンッ…ふぅ~、いよいよだな――」
そう呟いて、杏子は深く椅子に背を預ける
早朝、決戦の前に寄りたい場所があると言って、世話になっているマミの家を出てきた彼女は、かつて家族と共に過ごした教会へと足を伸ばしていた
杏子「心に誓ったはずだったんだけどなぁ……もう二度と他人のために魔法を使ったりしない、この力は、全て自分のためだけに使い切る――って」
440: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:28:32.94:yUu6sik10
杏子「今のアタシは、誰のために戦ってるんだろうな――」
杏子「自分のため?仲間たちのため?この街の人たちのため?それとも――世界のためとか?」
杏子「はっ――ぶっちゃけ、このままどっか他所へ逃げちまうのが一番正しいんだろーな
自分のためだけに魔法を使うってんなら、こんな街どうなろーが知ったこっちゃねぇ。わざわざワルプルギスの夜なんかに挑むこたぁねーわけだしさ――」
杏子「『変わったといえばあなたも』――か
ハハッ!確かに、アタシはとんだお人好しのバカになっちまったみてぇだな――」ヨイショット!
ヨッ!と勢いよく椅子から立ち上がった杏子は、正面に位置するステンドグラスを見上げた
杏子「けど、案外悪くない気分だよ――
損得だとか利害だとか抜きにして、ただ自分のやりたいこと、信じてることをやってみるってのは――な、親父!」ニィッ
そう笑って、教会を後にする杏子
聖壇にはリンゴが三つ、残されていた
442: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:29:27.00:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・マミ宅
朝食を取った後、食後の紅茶を啜るひとりの少女―
「――うん、今日もバッチリ!」ニッコリ
魔法少女・巴マミ
「さてと、いよいよね――」
そう呟いて、マミはカップをソーサーに置いた
最近はずっと杏子が同居していたため、今朝は久々の静かなひとときが部屋に訪れている
マミ「不思議ね……これから最強の敵と戦うんだから、もっと恐怖を感じてもおかしくないはずなのに」
443: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:29:50.92:yUu6sik10
マミ「無理してカッコつけてるだけで、怖くても辛くても、誰にも相談できなくて、一人ぼっちで泣いてばかり……」
マミ「そんな私が、ワルプルギスとの決戦を目前にしても脅えて逃げ出さないのは、やっぱりみんながいてくれるから――なのかな?」
マミ「自分には考えてる余裕もなかった――なんて、時々いじけちゃうこともあったけど、今ならわかる
そんなの、私だけじゃないんだって――!」
マミ「私、一人ぼっちじゃないもの――もう何も怖くない」スタッ…
スゥーッと優雅な動きで立ち上がったマミは、テーブルの上に二つ並んだ写真立てを見た
マミ「さぁて、お友達との楽しい旅行の前に――ちょっと一仕事、片付けちゃうとしましょうか」フフッ
そう宣言して、家を後にするマミ
写真のひとつは両親と自分――もうひとつは、友達たちと自分であった
445: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:30:56.26:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・上条家前
吹きすさぶ突風を意にも介さず、その家を見上げるひとりの少女―
「――よかった、ちゃんと避難したんだね」フゥ…
魔法少女・美樹さやか
「さてと、いよいよかぁ――」
そう呟いて、さやかは天を仰ぐ
前日のうちに恭介へ避難勧告のことを伝えておいたさやかは、恭介がちゃんと避難してしるかどうか確かめに来たのだ
さやか「まったく、恭介ったら……これから街にやって来る大物魔女を、あたしが倒しに行くっていったら真っ青になって
『そんな危険な戦いに黙って君を行かせられない、僕も戦場までついていく』――なーんて、かっこいいことまで言っちゃってさ」
446: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:31:09.86:yUu6sik10
さやか「けど何だかんだ言って、最後にはあたしのこと信じて待っててくれるって言うんだから、やっぱいい男だよね、恭介は」
さやか「マユリ隊長にもお礼言わないとなー……記憶置換、だっけ?
『両親や友達にはあたしがちょうど親戚の家に行ってる最中だって思わせたいけど、恭介だけは記憶操作から外して!』なーんてめんどくさいこと頼んじゃったし」
さやか「……考えてみりゃ、あたしっていっつも誰かの世話になってばっかよねー……
思いつめて契約しそうになった時も、恭介の腕のことも、恋愛の後押しも、魔法少女になってからも――」
さやか「――まぁでも、慌てることないか。これから先、みんなと一緒にいられる時間はたっぷりあるんだし、ちょっとずつ進歩していってお返しすればいいや!
まだまだ未熟者で、色々ご迷惑をおかけしますが、今後ともなにとぞよろしくお願いいたしますぅ~――てね!」ニコッ
やがて上条家に背を向けたさやかは、終末のような薄曇りの空を見上げた
「大切な人がたくさんいるこの街――必ず守るよ!」キリッ
そう覚悟を決めて、集合場所へと向かっていくさやか
どんどんその濃さを増していく暗雲だったが、まだかすかにその切れ間から光が差していた
447: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:32:39.52:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・ほむホーム
散らばっている資料に眼もくれず、ただ物思いに耽るひとりの少女―
「……とうとうここまで来れた」ボソッ…
魔法少女・暁美ほむら
「さて……いよいよね――」
そう呟いて、ほむらは自分の左手に視線を移す
既に変身を済ませている彼女の腕には、砂時計を内蔵した魔法の盾が装着されていた
ほむら「主要な魔法少女が全員生きている……美樹さやかに関しても、魔女化する憂いがない――」
449: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:32:52.84:yUu6sik10
ーーーー
マミ『暁美さん、あなたは……何度も絶望を乗り越えて、ここまで来たのね――』
ーーーー
ほむら「グリーフシードの備蓄もあるし、イレギュラーな戦力も加わった――」
ーーーー
さやか『でもあんた――ほんとにいいの?このこと、まどかにこそ一番に話した方が――!』
ーーーー
ほむら「そして、まどかが私たちのことを信じて待っていてくれる
――それだけで、私はどんな強敵とも戦える」
ーーーー
杏子『ま、最終的にはアンタの決めることだからなー。アンタが絶対に話したくないってんなら、無理にとは言わねーけどさ――』
ーーーー
ほむら「まどかを救う、それが私の最初の気持ち。今となっては…たった一つだけ最後に残った、道しるべ
――そのはずだったのだけれど」
451: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:34:09.36:/1SaAlEnO
ーーーー
まどか『ううん、いいよ!そのかわり、約束してね――?』
ーーーー
ほむら「今は、少し違う――まどかだけじゃない、みんな一緒に救われたい
さやかも、マミも、杏子も……涅ネムも。それにちょっと気は引けるけど、一応涅マユリもね――」ホム!
微笑みながら立ち上がったほむらは、何かを振り払うように髪をかきあげた
ーーーー
ほむら『ええ、約束するわ。私たち全員、必ず無事に帰ってくる――っ!!』
ーーーー
ほむら「今度こそ……決着をつけてやる!!」ファサァ
そう決意を固めて、部屋を出ていくほむら
脳裏を、微笑むまどかの顔がよぎった
452: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:34:53.56:yUu6sik10
ーーーー
見滝原市・無人の市街地外れ
徐々にその勢いを増す強風の中、憮然とした表情で遠くの空を見ているひとりの死神―
「フム、成程大したものだネ――」
十二番隊隊長・涅マユリ
傍らには、グリーフシードの詰め込まれたボックスに何やら結界を施すネムの姿もある
マユリ「自らの作り出す結界に隠れることなく、直接現世の事象に被害を及ぼす厄災――ワルプルギスの夜、か
いやはや、ここからでも霊圧を感じ取ることができるヨ――」
そうひとりごちる彼に対して、呼びかける声が辺りに響き渡った
「おっはよーございまーっす、マユリ隊長――!」ノシ ブンブン
マユリ「――騒がしいヤツだネ。少し黙り給えヨ美樹さやか」
さやか「まだ挨拶しただけなのに!?」
ネム「――おはようございます、美樹さやかさん」
さやか「あ、ネムさーん!おはよーございまーす!」ノシ
455: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:36:31.82:/1SaAlEnO
さやか「いよいよですね……お二人とも、調子はどうですか?」
マユリ「フン、愚問だネ。最高の研究材料がやって来るんだ、準備に抜かりはないヨ――」
さやか「さっすが隊長!期待してますよ~?」
マユリ「うるさいと言っているのが聞こえなかったのかネ?その口を疋殺地蔵で斬ってやってもいいのだヨ?」ギロッ
さやか「怖っ!!い、いえ、遠慮しときますぅ……あはは……」アトズサリ
「――ったく、決戦の前だってのになぁに呑気なやりとりしてんだよアンタらは」ヤレヤレ
さやか「おっ、杏子ー!……ってか、今のやり取りは言うほど呑気でもなかったような……」
杏子「よっと……よう変態オヤジ、久しぶりだな!」ノシ
マユリ「――ああ、キミか。菌を通していたせいで、あまり久しぶりには感じられんがネ――」
杏子「菌?なんだそりゃ」
マユリ「馬鹿に私の技術を説明するつもりはないヨ。時間の無駄だ」
杏子「ワルプルギスより先に一発喰らわすぞおら」スチャ…
456: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:37:14.02:yUu6sik10
さやか「ちょっ、なに会って早々険悪な雰囲気になってんのよー!?」
杏子「アタシらは最初から大体こんな感じだったからなぁ。敵だろうと味方だろうと、憎たらしいおっさんだよ、こいつは」
マユリ「ヤレヤレ、口のきき方を知らん小娘だネ。私に斬られてみっともなく転げまわっていたのが嘘のようだヨ――」
杏子「さやかどけ、そいつ殺せない」スチャ…
さやか「だーかーらー!!」ヒッシ
「――あんまり私のお友達を苛めないでもらえるかしら?」
さやか「あっ、マミさんだー!おーいマミさーん!」ノシ フリフリ
杏子「おーマミ、朝っぱらからガサゴソして悪かったな」ノシ
マミ「ふふ、そんなの気にしないで。二人とも、元気はバッチリみたいね」ウィンク
さやか「はい!ワルプルギスだろうが何だろうがどんと来いですよー!」ガッツポーズ!
ネム「……巴さん、おはようございます」ペコリ
マミ「おはようネムさん、いよいよね!」ニコッ
458: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:39:03.96:/1SaAlEnO
マユリ「――ホゥ、巴マミか。直接こうして話をするのは初めてだネ」
マミ「ええ、そうですね、マユリさん。あれから、ネムさんとはいかがお過ごしかしら――?」ジッ…
マユリ「極めて良好――とでも言えば満足かネ?」カクッ
マミ「――いいわ、今はその言葉を信じましょう。それはさておき、今日はお願いよろしくします」ペコリ
マユリ「フン……」
さやか「おお……なに今のやりとり…」
杏子「マミのやつ、一歩も譲らねぇな。やるじゃん」ニィ
ネム「あとは暁美さんだけですね。様子を見てきましょうか――」
「――その必要はないわ」
460: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:39:29.36:yUu6sik10
ネム「!」
杏子「おっ」
マミ「あら」
さやか「来たー!」
マユリ「――この同盟の立役者ともあろう者が、随分と遅いご到着ではないかネ?」
ほむら「――遅くなってすまなかったわ。とにかく、これで全員揃ったわね」ファサァ
マミ「ええ、みんな準備は万端よね?」
さやか「もちろんです!」
杏子「当ったり前だろ!」
マユリ「待ち給えヨ」
さやか・杏子「がくぅっ!」ズコー
マミ「マユリさん?」
杏子「なんだよおっさん!ひとがせっかく気合い入れたところで――!」
マユリ「決戦の前に、しておかなければならないことがあるのだヨ――」
ほむら「――何かしら?」
462: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:41:08.90:/1SaAlEnO
ーーーー
見滝原市・避難所
続々と避難してくる人々の流れに目を遣りながら、心ここにあらずといった様子で佇む一人の少女―
「……みんな」
未だなんの力も持たない人間の少女・鹿目まどか
詢子「んー?どうしたまどか?」
まどか「え?……ううん、なんでもない
――外、すごいね」
知久「そうだねぇ。どんどん風が強くなっていってるし、こりゃ大荒れになりそうだ」ヨーシヨーシ
タツヤ「だぁー♪」キャッキャッ
詢子「ま、あんま心配すんなよ、まどか。今日明日中には通り過ぎるって言うしさ」
まどか「……うん」
詢子「まどか?」
何かを憂うように窓の外を見つめるまどか
空は、いよいよ暗さを増しつつある
463: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:41:38.01:yUu6sik10
ーーーー
アハハハハーーー……
遠くの方から、不気味な笑い声が聞こえてくる
再び見滝原市・市街地外れ
霧の向こうから姿を現しつつある巨大なシルエットを、真っ正面から迎える六つの影
杏子「でけぇ……!ほむらの話通りだな、確かにこりゃ最大の敵だぜ……!」ニィッ
さやか「うぅ…今までに戦ってきた魔女と次元が違うじゃない……!」ガクブル
マミ「ええ、そうね…さすがに私もちょっと怖くなってきちゃったかも……!」ゴクリ…
さやか「えっ!?マミさんが……?」
マミ「あら、意外だった?普段は平気なフリしてるけど、私だって魔女との戦いは怖いものなのよ?
ましてや、今度の相手はあのワルプルギスの夜なんだしね――」
杏子「おいお前ら!この期に及んでなぁに弱気なこと言ってんだ!?」
マミ「――でも、逃げたりしないわ」
さやか「マミさん……?」
マミ「だって今は、みんなが一緒に戦ってくれてるんだもの
あなたたちが一緒なら、最後まで戦い続けられる――!」キリッ
464: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:42:55.64:/1SaAlEnO
杏子「――へっ!マミは覚悟ができてるみてぇだな。
さやかはどうだ?なんなら逃げてもいいんだぜ?」ニヤニヤ
さやか「なっ――バカにしないでよねっ!あたしだって、みんながいるこの街を守るって決めたんだからっ!」クワッ
杏子「そいつは結構――だったらあとは、その覚悟を実戦でアタシらに見せつけてみなぁっ!
それが魔法少女訓練プログラムの最終試験だ、さやかっ――!」ニィッ
さやか「お、おぉ!やってやろうじゃないの!!」ガッツポーズ
マユリ「――ヤレヤレ、話には聞いていたがいささか大きすぎるネ
本来ならばこの類の相手には七番隊長あたりがうってつけなのだが――」
ほむら「――あら、討伐する自信がなくなった?」
マユリ「この期に及んで戯れ言を吐く余裕があるとはネ。さすがは経験者――とでも言っておこうか?」カクッ
ほむら「フ……あなたこそ、何が相手でもブレないわね」ホム
465: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:43:23.91:yUu6sik10
ネム「――霊波探知確認。ワルプルギスの夜、間もなく暁美さんの攻撃射程範囲内に到達します――」
ほむら「!……ええ、わかったわ
みんな、流れは昨日打ち合わせした通りよ。準備はいいわね――?」
杏子「おう!いつでもいいぜ!!」グッ
マミ「それじゃ、始めるとしましょうか――!」ウィンク
さやか「よーし、さやかちゃんの力を思い知らせてやるからねー!!」バササッ…
彼らの周囲を、象や小動物のようなモノたちがパレードの如く通り過ぎていく
そして辺りを覆っていた霧が晴れ、遂に敵がその姿をはっきりと現そうというその時――
ほむら「――さぁ、始めましょう、ワルプルギスの夜……!!」
カタッ…
――既に砂時計は発動していた
466: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:44:30.17:/1SaAlEnO
マミたちにとっては、一瞬でワルプルギスの夜が爆炎が包み込まれたかのように思えた
ほむらは時間停止と同時にストックしておいた全銃火器を発動し、こちらが敵の姿を完全に視認するより早く、先制の波状攻撃を仕掛けたのである!
さやか「うひゃぁっ!
――す、すごっ……!!」アゼン…
マミ「暁美さんがこの日のために準備してきた武器全てを、一気にワルプルギスへ叩き込んだのだから――さすがに壮観ね……!!」ゴクリ…
杏子「つーか今戦艦とか見えた気するけど気のせいだよな……どこで手に入れたんだよ、あんなもん……!!」ニヤリ…
467: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:44:50.38:yUu6sik10
ーーーー
決戦前夜、皆が真実を知った後の最終打ち合わせにて――
杏子『――最初にほむらが仕掛けるのか?』
ほむら『ええ。私の砂時計は、時間遡行から数えて1ヶ月で砂が落ち切ってしまう
そうなれば、私はもう時間停止を発動できない――』
さやか『ほむらが時間を戻してから1ヶ月って……えっ、まさか――!?』
ほむら『――そう、明日よ。さすがにワルプルギスの夜が襲来する前に砂が落ち切ることはないけれど
それでも戦闘が長引けば、途中で私は戦力としてほぼ使い物にならなくなる』
マミ『なるほどね――それで最初にまず、持てる武器を一気に使ってダメージを稼いでおきたいってわけね?』
ほむら『そういうことよ。私の武器はストックが尽きたらそれまでだけど、あなたたちは魔力が尽きない限り攻撃し続けられる
そして今回に限っては、魔力を完全に使い切る心配はないとみてひとまず問題ないはず――』
さやか『あんだけグリーフシードのストックがあればねー。ひとまずは安泰でしょ』
468: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:46:03.42:/1SaAlEnO
杏子『――そんで?先制攻撃をかました後、ほむらはどうすんだ?』
ほむら『タイムリミットが来るまで、適宜時間を止めてあなたたちのフォローに徹するわ
手持ちのシードが切れた人に追加を補給したり、拳銃や手榴弾で雑魚散らしをしたり――』
マミ『私たちがワルプルギスの夜に集中しやすいよう、サポートしてくれるのね。凄く助かるわ!』
杏子『おうよ!こんだけきっちり役割分担して攻めたてれば、ワルプルギスなんざ恐るるに足んねーな!』
さやか『ほむらが最初に叩き込んでやった傷口を、あたしたちが一気に抉ってやるからさっ!』
ほむら『――ええ、お願いね。頼りにしてるわ、みんな――』
469: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:46:41.03:yUu6sik10
ーーーー
ほむら「――気を緩めないで!ここからが本番よ――!!」サッ…
仲間のもとへ戻ってきたほむらが両手を広げる
魔法少女たちが各々ほむらの腕につかまり、最後にネムがほむらの肩に手を置いた
ネム「――来ます」
マユリ「フム――」
アハハハハーーー!!!
次の瞬間、未だ立ち消えない煙と炎を突き破って、無数の黒い触手が槍のようにこちらへ迫ってきた――!
カタッ…
さやかに掴まれた腕を動かして、砂時計を作動させるほむら
~停止~
杏子「おっし、そんじゃ各自自分の位置は覚えてんなー?」
さやか「もちろん!けど、さすがにこの人数がほむらに密着して最初の攻撃位置に移動していくのはめんどいわ……」
マミ「一番移動距離が少ないのは、ワルプルギスから見て遠距離に位置を取る私だったわね――」
ほむら「そうね、まずマミから行くわよ――」
ネム「はい――」コクン
470: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:47:34.23:yUu6sik10
少女たちは全員で密集して跳び上がった
停止している触手の横をすり抜けて、ワルプルギスを右斜め上から見下ろす位置までやって来る
ほむら「それじゃ、頼んだわよマミ――」
マミ「ええ、任せてちょうだい――!」ウィンク
ほむらから手を離し、停止するマミ
杏子「よーし、この調子でどんどん行くぜ――!」
さやか「次はあたしね!」
同じ流れで、ほむらはさやか、杏子、ネムを、次々と定位置へ配置していった
ネムを配置する際、ほむらは彼女に確認を取る
ほむら「けど、本当によかったのね?涅マユリを時間停止から外してきて――」
ネム「はい、ご心配には及びません。マユリ様は最初のうちに敵の観察と攻撃データの採取をされますので――」バッ…
ほむら「――そう、なら問題ないわね。どの道、あの攻撃をかわせないようなら、戦力としては役に立たないでしょうし――ね」ファサァ
ネムが離れると同時にほむらも動き、全員から見て攻撃の邪魔にならない場所へ移動を済ませる
ほむら「さて……じっくり味わいなさい、ワルプルギスの夜――!!」
カタッ…
~始動~
471: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:48:49.05:/1SaAlEnO
マミ「――ティロ・フィナーレ!!」
ドォオオォォォォーーーンッ!!
特大の銃から放たれた一撃が、ワルプルギスに炸裂する!
杏子「うおぉりゃぁぁぁーーーっ!!」ブンッ―
さやか「くらえぇぇぇーーーっ!!」ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ
間髪入れず二人が魔力を込めた槍と投剣で左右から畳み掛ける
魔力の温存など気にせずに、極限まで魔力を込めて威力を高められたそれらの武器は、表面を傷つける程度とはいえ確かにワルプルギスへダメージを与えていた――!
「アハハハハーーー!!!」
杏子「ちぃっ!かってぇなー……胴体ぶち抜くぐらいにはかましてやったはずなんだけどなぁ――!!」
その時、遠くで爆音が響いた
最初にワルプルギスの放った触手攻撃が、つい先ほどまで彼女たちのいた場所に直撃したのである
472: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:49:04.64:yUu6sik10
さやか「マユリ隊長――!」ハッ
杏子「よそ見すんなさやかっ!休まず攻撃し続けろっ――!」ブンッ―
マミ「――大丈夫、あの人はそう簡単に死にそうにないわ――!」バンッ バンッ バンッ バンッ
さやか「――っ!はいっ――!!」スチャッ…
魔女への攻撃の手を緩めない二人にならい、さやかも続けて剣を展開していく――
と、ここで彼女たちの遥か足元、すなわち逆さに動くワルプルギスの、その顔の真正面にて、強烈な閃光ほとばしった!
ネム「――破道の八十八『飛竜撃賊震天雷砲』!!」
ゴォオオオォォォーーーッ!!!
耳を劈く轟音と共に特大の雷撃が魔女の顔面を直撃する!
473: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:50:22.60:/1SaAlEnO
ーーーー
マユリ「ヤレヤレ、あの様子じゃほとんど効いてないようだネ――」
槍のように鋭く尖った触手をかわしてひとりごちるマユリ
すると触手から人型の黒い影が無数に分離し、手に手に武器らしきものを握って襲いかかってきた――!
マユリ「フム、知ってるヨ――キミたちが最強の魔女の使い魔なんだろう?」ニヤリ
ドッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
使い魔「ウソッ!?」グッ…
マユリから発せられる霊圧に一瞬気圧されながらも、即座に体勢を戻して攻撃を打ち込む使い魔たち
先頭の一体が振り下ろした槌を逆手に抜いた刀で受け止めたマユリは、そのまま瞬歩で背後にまわり後ろに向かって刀を突き出す
使い魔「キャァァッ!!」グサッ…
マユリ「成程、並みの使い魔よりはいい動きをするようだ――どうしたネ?遠慮せずどんどん攻撃してき給えヨ」カクッ
一撃で使い魔を葬ったマユリに対し、今度は一斉にとびかかる使い魔たち
マユリは首を傾けながら不気味に微笑んでいる
474: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:51:14.60:yUu6sik10
ーーーー
一方、ワルプルギス本体の周辺にも使い魔が現れ始めていた
チェーンを振り回して突っ込んでくる一体の使い魔に対し、杏子は無駄のない動きでその死角を取り、これまた的確な一撃で使い魔の頭部を潰した
杏子「チャラチャラ踊ってんじゃねぇよウスノロ!こっちの狙いは魔女本体のみ――邪魔すんな!」ブンッ―
さやか「けどすごい!あたしたち、こいつらの動きに余裕でついていけてるよ――!」ズバァッ!
左右から同時に襲いかかってきた使い魔たちをそれぞれ一刀のもとに切り捨てながら、さやかが感極まったとばかりに嬌声をあげる
杏子「バーカ、調子に乗んなよ!それもこれも、全部あのおっさんのおかげなんだしな――!」ブンッ―
マミ「体が軽い…こんなに余裕を持った状態で戦うなんて初めて――!」バンッ バンッ バンッ バンッ
今度はワルプルギス本体から放たれる炎の槍の連続を、それこそ踊るような身のこなしでかわしつつ、反撃していく魔法少女たち
残った銃火器で、前線のメンバーに迫る使い魔を始末し彼女たちが戦い易いようフォローしていたほむらは、その様子を見て感心したように呟いた――
ほむら「――本当にすごい効き目ね。この――超人薬、だったかしら?」
476: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:52:06.35:yUu6sik10
ーーーー
マユリ『この薬は超人薬と言ってネ――』
決戦直前、集合した魔法少女たちにみせつけるようにして、半透明な液体の入った小瓶を振って見せるマユリ
杏子『チョウジン?』
さやか『チョウジンって……あの超人のことですか?スーパーマンの?』
マユリ『達人同士の斬り合いで『剣が止まって見える』なんていう話があるだろう?
時間間隔の延長だ。極限まで神経が研ぎ澄まされると、稀にああした現象が起こる――』
さやか『あ、映画とかによくあるやつですね!目の前に迫るトラックがスローモーで見える、みたいな!』
マユリ『この超人薬は、その時間間隔の延長を強制的に発揮させる薬品なのだヨ
極端な話、これを投薬すれば赤子の目にも銃弾が止まって見えるというわけだネ――』
杏子『マジかよ!?それってすげぇ薬じゃん!!』
マミ『つまり、それを使えば暁美さんの話にあったワルプルギスや使い魔の猛攻にも対処しやすくなる――ということですね?』
マユリ『そういうことだヨ。暁美ほむらがこれまでワルプルギスの討伐を成功させることができなかった理由――
それは単純な戦力不足に加え、敵自体の攻撃性能の高さによる部分が大きいと、私は考えたわけだネ――』
477: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:53:12.40:/1SaAlEnO
ほむら『――確かに、向こうの攻撃はどれも一撃必殺級だから、一緒に戦っていたみんなもかわすのに必死だったわ
回避に徹すれば反撃の機会は当然減るし、使い魔が邪魔をしてこちらの攻撃の威力や精度が落ちることもあった――!』
マユリ『そこでだ、キミたちが魔力や体力の無駄な消費をしなくて済むように、この超人薬を用意してきたというワケだヨ
全員が同じ時間感覚を得れば、キミたち以外の周囲の動き――即ち、魔女や使い魔の攻撃のみが遅く感じるようになる』
マミ『必殺の攻撃も、目で見て反応できる速度に感じられるなら、こちらも回避は容易いわね』
ネム『とはいえ、あくまで敵の動きを遅く感じるだけであって、実際には普通の速度で攻撃は向かってきます
威力や衝撃が減るわけではありませんので、くれぐれも無理な反撃は控えるようにしてください――』
マユリ『原液を投与するのもそれはそれで面白いことになるのだが、今回はとりあえず適量である25万倍に希釈したものを持って来た
決戦の前に、これをキミたち全員に投薬しておきたいのだがネ――』カクッ
479: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:53:43.09:yUu6sik10
ーーーー
ほむら「正直、みんな恐る恐るって様子だったけれど、確かにこれはすごい効果だわ――」カタッ…
~停止~
さやかの斜め後方から大剣を振り上げて迫っていた使い魔の眼前に手榴弾を投げ、そのまま今度はマユリの方へと飛んでいくほむら
使い魔たちを斬り捨てているマユリの近くまで戻ったところで、魔力が減ってきたのを感じ停止を解く
~始動~
向こうで手榴弾の爆発する音が聞こえた
ほむらはそのままマユリの側をすり抜け、グリーフシード置き場に駆け寄る
防御結界で守られているボックスから無造作にシードを掴み取って盾にしまい、最後に一つを自分で使ってから、再び主戦場へ戻ろうと踵を返すほむら
マユリ「ああ、キミか――首尾はどうだネ?」ズバァッ!
使い魔「アシガ、アシガァァァーーー!!!」
ほむら「おかげ様でね――悪くないわ
あなたこそ、いつまで雑魚の相手をしているつもりかしら――?」
マユリ「フン――面倒な話だがネ、こちらには尸魂界への報告義務があるのだヨ
心配しなくとも、もう少しコイツらを狩ったら援護に向かうつもりだヨ――」
ほむら「そう。なるべく急いでもらえると嬉しいのだけれど――!」カタッ
~停止~
483: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:54:55.37:/1SaAlEnO
ほむら(それにしてもあの男――霊圧というのかしら?とにかく、気配の波が桁違いに増幅している――)ダッ
ほむら(『限定解除した状態の霊力は今まで現世で活動していた時の五倍』――半信半疑だったけれど、どうやら本当だったようね)ピューン…
ほむら(涅ネムも術の威力が上がっているようだし、この調子で攻め続ければ――!)
杏子の傍らまで来たところで、ほむらは砂時計を戻す
~始動~
ほむら「杏子、グリーフシードよ――!」つ::
杏子「うぉうっ、ほむらか!サンキュー、ちょうど減ってきたとこだったんだ――!」
ほむら「礼には及ばないわ――この調子で頼むわね」ピューン…
杏子「おっし、任せとけって!!」ブンッ―
「アハハハハーーー!!!」
484: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:56:02.09:/1SaAlEnO
さやか「ほむらー!こっちにもいくつかおねがーい!」ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ
ほむら「了解よ――調子はどう、さやか?」つ::
さやか「ありがとっ!うーん、いかんせんあたしの魔法って素の攻撃力は低いからさぁ……
あいつの身体でどっか脆い箇所がないか探りながら戦ってんだけど、どこもかしこもかったくて――!」
「アハハハハーーー!!!」
ほむら「――そう、けど焦ることはないわ。無茶な真似をしようとせず、このまま落ち着いて攻撃を続けて――」ピューン…
さやか「オッケーオッケー、わかってるって!!」バササァッ…
485: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:56:33.14:yUu6sik10
「アハハハハーーー!!!」
マミ「――ティロ・メトラジェッタ!!」
バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ
ほむら「――マミ、グリーフシードよ」つ::
マミ「あら暁美さん、助かるわ!」ニコッ
ほむら「――今の私にはこのぐらいの支援しかできないけど、あなたの魔法ならきっとワルプルギスにも痛手を与えられる
だから――」
マミ「――ふふ、大丈夫よ。最後まで、諦めたり絶望したりしないわ!」ウィンク
ほむら「――そうだったわね。余計な心配だったわ」ピューン…
マミ「――さーて、あんな風に言っちゃった手前、あんまり格好悪いところ見せられないものね――!」
使い魔「キャハハハッ!!」ブンッ―
マミ「――ふふふ、惜しかったわね!」
マミ「ティロ・ボレー――!!」
486: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:57:34.90:/1SaAlEnO
ネム「はぁっ!」ドンッ
使い魔「ウヒャアッ!?」
ほむら「気を付けて!上からもう一体来るわ――!」カチャッ バァン!
使い魔「ゲフゥッ!!」
ネム「――ありがとうございます、暁美さん」
ほむら「礼には及ばないわ。それじゃあ私は――」ファサァ
ネム「お待ちください、ひとつお頼みしたいことが――私に触れた状態で、時間を止めて頂けませんか?」
ほむら「え?――構わないわよ、腕を掴むわね?」カタッ…
~停止~
ネム「助かります。それでは、私が合図をしたら停止を解除してください――」
489: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:58:02.96:yUu6sik10
ネム「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる――」ブツブツ…
ほむら(術の詠唱?――そういえば、死神の使う鬼道は詠唱を省略すると威力が落ちるらしいって、以前マミから聞いたことが――)
ネム「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――!」チラッ
ほむら(なるほど、時間を止めている間に詠唱を済ませて、術の威力を高めるつもりね
――それにしても長い口上ね)カタッ…
~始動~
ネム「――破道の九十『黒棺』……!!」
次の瞬間、強大な波動を発する黒い匣がワルプルギスの頭部を包み込んだ――!
グシャァアァァァーーーンッ!!!
轟音と共に棺が砕け、無数の黒い破片が舞い散る
ほむら「…っ!すごい……!とてつもないエネルギーを感じる――!」
ネム「ハァ…ハァ…うっ――!」フラッ…
ほむら「――っ!」ガシッ
よろめいたネムの身体を咄嗟に支えるほむら
490: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 23:58:37.25:yUu6sik10
ネム「申し訳ありません……九十番台の鬼道は扱いが非常に難しく……完全詠唱をしても並みの使い手ではその威力を発揮することができないんです……
……もっと霊力の高い術者が使用すれば……さらに力を引き出すことができるのですが……」ハァ…ハァ…
ほむら「そうなの……?でも、十分よ。これだけの攻撃を頭部に受けたら、流石のワルプルギスでも――」
「アハハハハハハハハッッッッッ!!!!!」
一同「――っ!!?」
突如、一段と甲高い笑い声が一帯に響き渡ったかと思った瞬間、魔女の全身から一斉に灼熱の火炎で作られた槍状の攻撃が周囲に拡散した――!!
マユリ「――ホゥ?」カクッ
こちらへ飛んでくる火炎を回避しつつ、マユリは懐から念話通信装置を取り出す
そしてスイッチを入れると――
マユリ『――私だヨ。そろそろ鹿目まどかのもとへ行き給え――』
493: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:00:29.74:vLfxef5P0
ーーーー
見滝原市・避難所
まどか「……みんな」ボソッ…
QB『やぁまどか、久しぶりだね――』
まどか「っ!?」ガバッ
知久「うん?どうしたまどか?」
まどか「え…あ、ううん、なんでもない……ちょっとトイレ」スタッ…
QB『よく来てくれたねまどか。てっきりボクの呼びかけは黙殺されるかと思ってたけど』
まどか「……私になんの用?」
QB『そんなの決まってるじゃないか。ボクと契約して魔法少女になってよ――!』キュップイ
まどか「……だったら、私の答えだってわかってるでしょ。私はあなたとは契約しない――」
QB『本当にそうかな?』
まどか「……!」ドキッ
495: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:02:03.78:WrhrV5tUO
QB『ならどうして、ボクの呼びかけに対してノコノコ姿を現したんだい?ボクの声なんて全部無視しちゃえばいいことじゃないか』
まどか「それは……!」
QB『――知りたいんだろう?魔法少女たちの戦況を――』
まどか「……っ!そんなの、別にキュゥべえから聞かなくたっていいよ……!
みんな、約束してくれたもん……必ず全員で帰って来るって!」
QB『そうかい?その割には彼女たち、一向にワルプルギスの夜に対して決定打を与えられていないようだけど――』
まどか「えっ……?で、でも!死神さんたちの協力だってあるし――!」ヒッシ
QB『死神側の協力?何を言ってるんだいまどか、そんなものはないよ?』
まどか「っ!?うそ……!!」サァー…
QB『ボクは嘘を吐かないって、キミは暁美ほむらから聞いてるんじゃないかい?
この決戦、尸魂界側から送られてきた戦力は涅マユリと涅ネム――あの二人だけだよ』
まどか「そんな……!じゃあ、ほむらちゃんたちはたったの六人で――!?」
QB『――この嵐を巻き起こしている超大型魔女に挑んでいるんだ。ボクの目にはいささか無謀に映るけどね』
497: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:03:16.68:WrhrV5tUO
QB『涅マユリの支援でグリーフシードの備蓄はあるようだけど、それは直接ワルプルギスの夜に痛手を与える要素ではない
むしろ、持てる魔力を限界まで込めた武器でもかすり傷程度しか与えられないとなると、かえって彼女たちの心を折る結果になりかねないと思うよ――』
まどか「で、でも…マユリさんとネムさんは隊長や副隊長だし……!」ヒッシ
QB『ボクが見たところ、副隊長程度の魔力――じゃなかった、霊力じゃ、せいぜい使い魔を蹴散らすぐらいにしか役に立たないだろうね――』
QB『涅マユリにしたって、彼の斬魄刀は攻撃力に特化したタイプの能力じゃない
斬りつけようにもワルプルギスの硬い身体を貫くことができるかも定かじゃないし、よしんば傷をつけたところでちゃんと能力が発動する保障はない』
QB『何せ敵は歴史上最大の“厄災”だからね、既存の常識が通じる相手じゃないさ――』キュップイ
まどか「そんな……っ!!」
500: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:04:43.18:vLfxef5P0
ーーーー
見滝原市・市街地外れ
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
耳を覆いたくなるような笑い声の嵐の中、ワルプルギスの全身から四方八方に発射される灼熱の槍が決戦の地を蹂躙した
マミ「くっ――!」ヒラリッ…ヒラリッ…
杏子「ヤロウ……!急に攻撃が激しくなりやがったっ!」サッ
さやか「うわぁっと…!さすがにこりゃかわすので手一杯だよ――!」ササッ
ネム「……っ!」ヒュンッ
ほむら「一撃でもまともに喰らったら致命傷ね――みんな、落ち着いて回避に徹しましょう!」ピューン…
使い魔を巻き込むことも厭わず波状攻撃をしかけてくるワルプルギスの夜
さらには倒壊した建物の塊を浮遊させ、魔法少女たちに向かって投げつけてくる
ほむら「あの大きさ――位置的にさやかはかわしきれない――!!」カタッ…
~停止~
506: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:06:19.88:WrhrV5tUO
ほむらは時間を止め、動かなくなったさやかを掴んで安全な場所へ移動した
ついでに近くにいた使い魔数体にサブマシンガンを打ち込んでから魔法を解く
~始動~
さやか「えっ!?あ、ほむらかぁ…!ありがとっ、助かったよ!」ニコッ
使い魔「ブホァッ!!」ダダダダダッ!
ほむら「礼は後にして。ここからなら攻撃が通るはず――!」
さやか「マジかっ!よーしオッケー――!」ピューン…
杏子「アタシも加勢するよ!二人同時にブチ込むからな――!」ピューン…
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
さやか「うぇっ!?ちょっ――!」
杏子「もうこっちに気付きやがったか――!しょうがねぇ、いったん退くぞ――!」バッ
猛攻の合間を縫って反撃を加えようとする二人だったが、即座に槍状の触手が迎え撃ってくる
507: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:07:05.64:vLfxef5P0
マミ「参ったわね…かわすこと自体は難しくないけど、向こうの攻撃範囲が広すぎて反撃する隙がないわ――!」クッ…
ほむら(マズイわ――こちらの攻撃頻度が落ちてきている!)チラッ
ほむらは左腕の盾に目を向ける
ほむら(砂時計の残りが少ない……!じきに時間停止は使えなくなるのに、ここまできて――!)ギリッ
マミ「――暁美さん!後ろよっ!!」
ほむら「――っ!」ハッ
使い魔「シンジャエシンジャエシンジャエェェェ!!!」ゴォォォォー…!
マミ「ティロ――!」カチャッ
ほむら「問題ないわ――!」サッ
即座に使い魔の動きに反応して攻撃をかわすほむら
しかし――
杏子「――バカ野郎ほむらっ!!下からも来てるぞっ!!」
ほむら「っ!?」
彼女が回避したところは、既に放たれていた炎攻撃の直線状にあった――
511: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:08:43.79:WrhrV5tUO
ほむら「くっ――!!」カタッ…
ほむら「なっ――うそ、砂時計がもう――!!」ハッ
目前に迫る炎の槍――
――もはや、かわしきれない
さやか「――ネムさんっ!!」
ほむら「えっ――?」
ネム「――縛道の八十一『断空』」
ボォオオォォォーーーッッ!!!
ほむらの目の前に出現した光の壁が、業火の槍撃を受け止めた
ネムがギリギリのところでほむらと炎との間に割り込み、防御障壁を発動したのである
ほむら「涅ネム!助かっ――」
ネム「くぅっ……ダメです!離れ――」
ドォオオォォォーーーンッ!!!
しかし防壁は炎を止めきれず、その場で弾け飛んでしまう――!
爆風に吹っ飛ばされるほむらとネム
513: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:09:29.31:vLfxef5P0
マミ「暁美さん!ネムさん!」
杏子「待てマミっ!今はこっちに集中しねぇとよけきれねぇぞっ!!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
さやか「くっ――負けるもんかぁぁー!!」
ネム「くっ…ゲホッゲホッ!……申し訳ありません……!」フラッ…
ほむら「謝るのは私の方よ……痛っ!」サスサス
右腕をさすりつつほむらが立ち上がる
見れば他の魔法少女たちも敵の猛攻に悪戦苦闘し、当初想定していた動きが完全に崩れていた
悔しさを噛み殺すように表情を歪めるほむら
ほむら(ここまできて……!せっかく全員が揃って戦える時間軸に巡り合ったのに……!)ブワッ…
ほむら(私たちが束になってかかっても、奴には勝てないというの……?やっぱりまどかが魔法少女にならなければ、この魔女はっ……!!)ツー…ポタッ
ほむらの頬を、一筋の涙が零れ落ちる
その時――
マユリ「――どうやらここまでのようだネ」
516:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:11:07.21:JCfQPUPV0
ーーーー
QB『――おや、ワルプルギスの攻撃が激しさを増してきたようだね。みんな手が出せず逃げ惑っているよ』キュップイ
まどか「……っ!!」ハッ
QB『あーあ、中途半端に攻撃するから、逆にワルプルギスの夜を本気にさせちゃったみたいだね
彼女たちは一体どうする気かな?このままじゃ勝機が見えないどころか、生きて逃げ帰るのも難しそうだ――』
まどか「やめてっ!あなたが何と言おうと、私は契約なんてしないっ――!」
QB『ふーん。ま、ボクには契約を強要することはできないけどね――前にボクが言ったことを覚えてるかい?
「家族も友達も、キミの大切なもの全てを恐ろしい魔女から守り抜く力が、キミには眠っている」――それは今でも変わらないよ?』
まどか「それでも……!」
QB『ん?ちょっと待ってくれるかな――おや、暁美ほむらが攻撃を避け損ねたようだよ』
まどか「…っ!ほむらちゃんがっ……!?」
QB『涅ネムのおかげで即死は回避したようだけど――他の魔法少女たちもジリ貧状態だね
これじゃあいくらグリーフシードの備蓄があっても、それを使い切るまでもなく敵の波状攻撃を受けて終わりかな?』
まどか「そんなっ…そんなのってないよっ!だってみんな、あんなに一生懸命準備して、がんばって一緒に魔女を倒してっ……!!」ヒッシ
QB『それがどうしたって言うんだい?努力したからって、なんでも叶うわけじゃないだろう?
――それで、どうするんだい?正直、どうしても契約したくないって言うなら、ボクはさっさとこの街から出て行くつもりだけど――』
まどか「えっ…?」
521: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:13:52.43:vLfxef5P0
QB『キミはとても魅力的な魔法少女候補だけど、涅マユリの人工シードのせいで、キミが魔女化する可能性は著しく低い
既に死神からマークされているこの街でキミに固執するよりも、他所の地域で他の凡百の魔法少女候補たちを相手にした方がノルマ達成に効率がよさそうなんだよ』
まどか「キュゥべえ――!」アセアセ
QB『それじゃ鹿目まどか。ボクはそろそろ行くとするよ
たとえ一人でも、生き残りが戻ってきてくれるといいね――』キュップ…
まどか「――待って!キュゥべえ!!」
QB『――なんだいまどか?ボクに何か用かい?』クルッ
まどか「――みんなの所に、案内して」
QB『止めておいた方がいいと思うよ、あまりに危険だからね。みんな、キミを守る余裕なんてないだろうし――』
まどか「お願いキュゥべえ、私を連れてって!遠目にみんなの様子がわかるぐらいの場所でいいから……!」
QB『――やれやれ、参ったな。そこまで言うなら仕方がない――』
「お待ちください、鹿目まどかさん」
522: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:13:57.96:WrhrV5tUO
まどか「――え?」ハッ
QB『キミは――何故ここに?』
まどか「――ネムさん?」
QB『いや、違うようだね。その身体は“義骸”――そうか、キミは“義魂丸”というやつかな?』
義魂ネム「はい。決戦の際、インキュベーターがそれに乗じて鹿目まどかさんに接触するだろうと予期し、涅隊長は私をここへ向かわせたのです」
QB『まどかがボクと契約するのを阻止するつもりかい?
けどどうやら、まどかは戦場の様子が気になって仕方ないようだよ?それに、キミのご主人様たちがワルプルギス相手に為す術もないのは事実だ』
まどか「キュゥべえは嘘は吐かないって、ほむらちゃんが言ってました
みんなが負けそうっていうのは――本当なんでしょう?だったら、私――!」ヒッシ
義魂「いいえ、大丈夫です」
まどか「えっ…」
QB『やれやれ、キミこそ出鱈目はよしなよ。徒に希望をちらつかせたって、まどかの悲しみが膨れ上がるだけ――』
義魂「私の言葉が出鱈目かどうか、すぐにわかりますよ――」
523: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:14:46.89:vLfxef5P0
ほむら「――ここまでって、どういう意味よ?」
いつの間にやら傍らに来ていた涅マユリに、焦燥しきった声音でほむらが問いかけた
マユリ「なに、言葉通りの意味だヨ。どうやら数を集めて連携すればワルプルギスの夜に勝てるだろうというキミの目論見はハズレだったようだネ――」
ほむら「な、なにを――!」
マユリ「ネム、鬼道の無駄撃ちは止めるんだヨ。お前程度の霊力じゃ完全詠唱を加えたところで八十・九十番台の術は本来の威力を発揮できまい
どの道、この様子じゃ単発の鬼道など効き目はうすいだろうしネ――」
ネム「……はい、マユリ様」フラッ…
ほむら「ちょっと……待ちなさいよ、涅マユリ……!」
マユリ「うるさいヤツだネ全く。そもそもこの戦い、キミが考えている程度の勝算など初めからなかったのだヨ」
ほむら「なっ…!?
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
さやか「――うわっ!!」バァンッ!
杏子「さやかっ!!」 マミ「美樹さんっ!!」
ほむら「――っ!!」ハッ
524: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:16:42.71:WrhrV5tUO
マユリ「――ワルプルギス最大の脅威はその巨大さにある
並みの大きさの魔女ならば、四肢を潰すなり直接組み伏せるなりして動きを制限することができるところだが――」
さやか「えっへへ…ちょっとかすっちゃっただけだから、大丈夫だって!
あたし、傷の治り早いしさ……!」
マミ(みんなの動きが鈍くなってきてる――!)「そろそろ魔力を回復しないと――!」バンッ!
使い魔「キャハハハーーー!!!」
ほむら「私が取ってくる……!」ガタッ…
マユリ「あそこまで常識から外れた巨体と形態を持つ以上、所詮人間サイズの大きさしかない魔法少女がいくら束になろうと、その動きを封じ込めることができないのは自明の理だヨ――」
杏子「けどほむらお前、もう時間停止は使えねーんだろ!?」ブンッ―
使い魔「ウフフフ…シンジャッテクダサイナッ!!!」
ネム「……ハァッ!」ウィィィンッ!
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ほむら「くっ……これじゃあグリーフシードを取りに――!」
527: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:17:11.84:vLfxef5P0
マユリ「敵のペースに引きずられて戦うというのは、戦闘において非常に不利な条件だ
いくら攻撃をかわせたところで、またいくら攻撃を食らわせたところで、実際にはこれまでのキミのループとほとんど状況は変わっていなかったということだネ――」カクッ
ほむら「――うるさいっ!だったら…だったらなによっ!?
あなたは最初から、私たちじゃあいつには勝てないって知ってて――!!」ハッ
ほむら(まさか……この男……!!)
ほむら「――魔法少女が魔女になる瞬間を、見たかったということ?」フルフル…
マユリ「――――」チラッ
マミ「くっ――佐倉さん!私が時間を稼ぐから、その隙にグリーフシードを――!」バンッバンッバンッ!
杏子「ああっ!――くっそ、使い魔の数がどんどん増えてやがる――!」
ほむら「そのために、私たちに希望をちらつかせて決戦に臨ませたのね――?」フルフル…
使い魔「イッカセナイヨォォォーーー!!」
さやか「――あたしも加勢します、マミさんっ!」ズバァッ!
ほむら「全力で戦ってもまるで歯が立たないと思い知らせて、私たちが絶望するのを――ソウルジェムが濁りきるのを――!!」
マユリ「――キミは何を言ってるのかネ?」
530: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:18:29.83:vLfxef5P0
ほむら「……え?」
マユリ「そりゃ勿論、キミたちが魔女になる瞬間は是非とも見てみたいものだがネ
今はまずワルプルギスの夜を討伐することの方が遥かに大事なことだヨ――」
ほむら「――でも、じゃあどうやって……」
マユリ「なに、キミたちを戦わせている間に、ヤツの霊圧レベルから攻撃パターンまで、大方のデータは入手済みだ
これでもう、ヤツを好きに泳がせておく必要はなくなった――」ブンッ―
ほむら「泳がせて……ワルプルギスの動きを封じるつもり!?
馬鹿を言わないで、今さっきあなた自身が不可能だと――!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
マユリ「ヤレヤレ、飲み込みの悪いヤツだネ――敵が大きすぎて止められないなら、こちらも大きさで迎え撃てばいいだけのことじゃないか」バッ
マユリは刀を構えると、こちらへ向かってくる使い魔たちの軍勢に目線を遣りながら、一言だけ呟いた――
「 卍
解 」
531:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:18:56.13:oXuqsRgH0
ゾォオオォォォォーーー……!!
マミ・杏子・さやか「!?」ビクゥッ
杏子「なんだこの感じっ……あのおっさんの気配が急にっ……!!」
マミ「マユリさんの霊圧がさらに跳ね上がった――?」
さやか「――っ!!ちょっ、アレなにっ――!?」ビシッ
ほむら「これは……っ!?」
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
彼女たちが眼にしたもの
それは、芋虫のような胴体を持つ巨大な金色の“赤子”であった――
マユリ「――『金色疋殺地蔵』」
新たに出現した化け物はワルプルギスの夜へと方向を合わせ――
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
――頭から猛烈な勢いで突進を仕掛けていった!!
548: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:21:45.11:WrhrV5tUO
QB『これは――!』
まどか「えっ…なに?なにがあったの……!?」
QB『――涅マユリの霊圧がさらに上昇したと思ったら、一体なんなんだいこれは?
乳児のような顔をした芋虫状の巨大生物が出現したよ――』
まどか「きょだいせいぶつ……?」
QB『――どういうことか説明してもらえるかな?全く、ワケがわからないよ』キュップイ
義魂「――涅隊長が卍解を発動されたのです」
QB『――ばんかい?』
550: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:21:53.73:vLfxef5P0
ーーーー
ワルプルギスの夜は笑い声と共に無数の触手や炎の槍を放ってくる
それらを顔面や胴体に受けながら、しかし化け物は怯むことなく全力で魔女へと突っ込んで行き――
――ついに正面から激突した
ドォオオオォォォーーーンッッッ!!!
さやか「うわぁ――!」ゴォォォー!
杏子「すげぇ風圧だっ――!」ゴォォォー!
マミ「あの怪物は――味方なの?」ゴォォォー!
ほむら「くっ――これはいったいどういう――!」ゴォォォー!
ネム「――死神の斬魄刀には二段階の封印が施されています」ゴォォォー!
魔法少女たち「えっ――?」
ネム「第一の解放を“始解”と言い、これにより斬魄刀の持つ能力が発現します
マユリ様の疋殺地蔵はこの“始解”に相当するのです――」
マユリ「――そして第二の解放が“卍解”だヨ。これにより、斬魄刀は真の“姿”をこの世界に顕現する
それがあの『金色疋殺地蔵』というワケだネ――」カクッ
554: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:23:41.02:WrhrV5tUO
ほむら「真の…姿……!」
さやか「――ってことは、あのなんかグロいのがマユリ隊長の本当の力ってことですか!?」
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
さやか「ひぃぃっ!!ごめんなさいぃぃっ!!」
ネム「――護廷十三隊の隊長になるためには、基本的に卍解の習得が必須条件となります」
ネム「そして、卍解による使用者の霊圧上昇幅は――」
マユリ「――始解のおよそ五倍から十倍、といったところかネ」ニヤリ
ほむら「じゅう……!」ゴクリ…
杏子「お、おい…!なんか使い魔どもの様子が変だぞ…!」
見ると、化け物をワルプルギスから引き剥がそうと集まって来た使い魔たちが、次々に悶え消滅していくではないか――!
使い魔「ウゲェェェェェーーーッッッ!!」ブクブク…
使い魔「ク、クルシ…タ、ス、ケ…!!」ゲホッゲホッ
ワルプルギスから突き出された黒い触手は、化け物との接点でシュウシュウと煙をあげながら溶解している
触手から分離して出て来ようとする使い魔たちも、生まれては消滅を繰り返していった――
555: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:23:59.66:vLfxef5P0
マユリ「――この金色疋殺地蔵は、半径百間以内に致死性の猛毒を分散する
予想通りワルプルギス本体には効果が無いようだが、周りの雑魚を始末するには十分なようだ――」
杏子「おいちょっと待てぇぇっ!今『猛毒』って言わなかったかおいっ!?」
さやか「ちょっ、それってあたしたちもヤバいってことじゃ――!!」アワアワ
マユリ「うるさいヤツらだネ。心配せずとも、現状この毒はソウルジェムには作用しないヨ」
さやか「そ、そうですよね!?さっすがマユリ隊長――」アハハ…
マユリ「尤も手足の痺れや頭痛、吐き気ぐらいは併発するだろうが――」
杏子・さやか「ふざけんなぁぁぁーーー!!!」
ネム「――ご安心ください。皆さんには既に超人薬に毒の中和剤を含ませて接種してありますので」
杏子・さやか「脅かすなぁぁぁーーー!!!」
ほむら「――あなたの狙いはこれだったのね」ボソッ…
杏子「あ?」 さやか「え?」
マミ「――なるほどね、二人とも見て
ワルプルギスの夜が、押し負けている――!」
561: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:26:12.92:vLfxef5P0
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
赤子の泣き声と魔女の笑い声が交錯し地獄のようなハーモニーを奏でる中、化け物はグイグイと頭を押し付けてワルプルギスの夜を押し負かせていた
魔女は至近距離から炎弾や触手を次々撃ち込んでいくが、化け物はズタボロになってもなお突進の勢いを緩めない
しかも、化け物の傷口からドロドロとした毒液が滴り落ちては、鋼鉄のように硬い魔女の体表から煙があがっていく
杏子「すげぇ……あのワルプルギスが、パワーで押されてやがる……!」ニィッ
ネム「恐らくワルプルギスの夜はあの巨大さ故に、魔法少女と直接パワー勝負をしたことは一度もないはずです
戦場を好きに徘徊できるというアドバンテージを失ったのは、これが初めてでしょう――」
ほむら「――こんな奥の手、聞いてないわよ?」
マユリ「全ての戦力を明かせるほど、お互いに相手のことを信用できてはいなかったろう?」カクッ
ほむら「――やっぱりあなたとは親しくなれそうにないわね」
さやか「そんなことよりも!今が攻撃のチャンスなんじゃない!?」
マミ「敵はマユリさんの卍解を相手に手間取っている――攻めるなら今ね!」フフ…!
マユリ「――そこでだ、ヤツを仕留めるのには、キミたちの連携とやらが必要になってくるのだがネ?」
562: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:26:16.54:WrhrV5tUO
杏子「アタシたちの――?」
マユリ「そうだ――キミはワルプルギスの夜の弱点を探りながら攻撃してたネ?」カクッ
さやか「へっ!?あたしですかっ!?え、ええ、まぁ――けどあいつ、脆い部分なんて全然無くって」
マユリ「だろうネ。ならば、こちらで作ってしまえばいい――」
ほむら「作る――?」
マユリ「――ヤツに一点集中攻撃を仕掛けるのだヨ」
そう言って、マユリは懐から無造作に取り出したグリーフシードを、魔法少女たちに向かって放り投げたのだった
565: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:27:44.70:WrhrV5tUO
ーーーー
QB『これは驚いたな。まさか死神にそんな奥の手があったなんてね――』
まどか「つまり……マユリさんは本当の力を隠してた――ってことですか?」
義魂「はい、そして今、その能力は完全に解放されました
既に、ワルプルギスの夜の動きを抑え、反撃に転じています――」
まどか「それじゃあ――!」パァッ!
QB『――そううまくいくかな?』
まどか「え――?」
QB『その卍解とやら――確かに今はワルプルギスの動きを封じているようだけど、それも長くはもたないんじゃないかな?
単純な攻撃能力なら圧倒的に敵の方が上手だ。このまま至近距離からの抵抗を浴び続けたら、さしもの卍解も無事ではすまないはずだよ――』
QB『そもそも、彼女たちには決定的に“打点”が欠けている。槍も剣も爆弾も銃撃も、ワルプルギスに致命傷を与えることはできていない
結局、一時的に敵の猛攻を凌ぐことができているというだけで、状況は相変わらずジリ貧のままだしね――』
義魂「それは……」
567: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:28:49.30:WrhrV5tUO
QB『――ねぇまどか、聞いての通り、未だに戦況は予断を許さないんだ。涅マユリの奥の手も、結局は必殺の一撃にはなりえないものだしね』
まどか「……」
QB『それよりももっと簡単に、かつ確実に戦いを終わらせる方法が、キミには残されているだろう――?』
義魂「鹿目さん、耳を貸しては――」
QB『――だから僕と契約して、魔法少女になってよ!』キュップイ
まどか「――ううん」
QB『え?』
まどか「私は、契約しないよ――キュゥべえ」
570: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:29:24.39:vLfxef5P0
ーーーー
マミ「――それじゃあみんな、準備はいいわね?」
ほむら「ええ――」ファサァ
杏子「おうっ!――けど、ほんとにそううまくいくのか?」
マユリ「それはキミたち次第だヨ――誰か一人でもミスをすればそれまでだ」カクッ
さやか「うっ――だ、だいじょうぶ!絶対成功するって!」
ネム「…………」コクリ
ほむら「そうね――成功させましょう、私たちの手で!」キリッ
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ネム「マユリ様――!」
マユリ「わかっているヨ――そろそろ金色疋殺地蔵の被ダメージも無視できなくなってきたようだネ
それじゃ、始めるヨ――」
マユリ「――行けェェ!!金色――疋殺地蔵!!!」
573: 忍法帖【Lv=23,xxxPT】 :2011/09/22(木) 00:30:31.85:lI64/trj0
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」ズバズバズバズババァッ!!
ガキガキンガキガキガキンガキィィンッ!!!
一段と大きな泣き声をあげる化け物
同時に、金属と金属がぶつかり合うような音が連続して響き渡る――
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ついに、ワルプルギスの夜が後ろへ倒れこんだ!
見ると、化け物の首にかけられていた涎掛けが外れ、その首から毒液で濡れた大量の刃が剣山のように飛び出しているではないか!
化け物は、逆さまの体勢を取るワルプルギスの胴体部に頭を押し付けていた
必然、化け物の首から飛び出しナイフのように突き出た刀は、逆さになった魔女のこれまた首にあたる位置に炸裂していた――!
超密着状態からバネのような勢いで放たれた刺突の連撃
さしものワルプルギスも、無傷ではいられなかった
化け物はすかさず倒れこんだ魔女の胴体部に這い上がり、横向きにのしかかるようにして上から押さえつけた
倒れたワルプルギスの体からは触手と炎の槍が放たれ、覆いかぶさる化け物を振り落とそうとする
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
577: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:31:48.86:vLfxef5P0
杏子「――よし今だっ!!」バッ―
さやか「オッケー!!」バッ―
さやかと杏子が動いた
倒れたワルプルギスに向かって一直線に飛びながら、さやかは無数の剣を空中に出現させる
――とそこへ、魔女の力で浮遊するがれきの塊がさやかの方へと向かっていく!
ほむら「させない――!!」ピューン…
もはや停止魔法を使えなくなったほむらは、持てる魔力の全てを身体能力の増強に充て、高速でがれきに突っ込むと手榴弾でそれを爆破した
杏子「ナイスだほむらっ!――さやか、はずすなよ――?」ニィッ
さやか「当ったり前っしょ――!!」ブンッブンッブンッブンッ―!
さやかは出現した十本の剣を、間髪いれずにワルプルギスの頭部めがけて投げつけた――
――傷口から直接毒を流し込まれ、シューシューと煙を放ちながらわずかに溶け始めている首へ
グサグサグサグサグサグサグサッ!!
さやかの剣は、溶解し始めて脆くなった首筋へと的確に突き刺さった
581: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:33:16.01:WrhrV5tUO
ネム「――破道の十一『綴雷電』」ビリリリリ―!
そこへネムの指先から電撃が放たれ、突き刺さった剣の間を駆け巡る――!
毒々しい紫色の煙に加え、何かが焦げるような黒い煙が首筋から立ち上り始めた
ネム「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ――」ブツブツ
即座に新たな言霊の詠唱を始めるネム
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ワルプルギスは高笑いをあげながら、周囲のがれきを浮上させて魔法少女たちに投げつけていく
それを的確に察知し、残された爆弾で各個粉砕していくほむら
時間停止を失ったとはいえ、まだ超人薬の効果は切れていない
周囲に神経を張り巡らせてがれきの来る気配を察知すれば、強化したスピードでそれに近づき、仲間に被害が及ばぬ距離の内に破壊するのは容易い――
ほむら「やはりね――!」ニヤリッ!
ほむらは過去の戦いから、この最強の魔女は胴体部からしか触手や炎弾攻撃を放つことができないと見破っていたのである
それを事前に知らされていたマユリは、金色疋殺地蔵を縦ではではなく横向きにのしかからせ、なるべく魔女の胴体部全体を覆ってしまうようにしたのだ
584: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:34:11.21:vLfxef5P0
今もワルプルギスの夜はひっきりなしに攻撃を放ち化け物を振り落とそうとしているが、生憎炎の槍は化け物の分厚い胴を焼くだけで貫通するには至らない
辛うじて黒い触手は化け物を貫通しダメージを与えることができるようだ
が、しかしそれらは突き破った時点で順次溶けて消滅していくため、貫通したその勢いで魔法少女たちにまで触手を伸ばして攻撃することができない
おまけに貫通した傷口から化け物の毒液が血のように流れ落ちては、鉄壁を誇っていたワルプルギスの身体を徐々に徐々に蝕んでいくのだ
無論使い魔たちは今もなお、生まれては消滅するという不毛なサイクルを繰り返している
ネム「動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる――」ブツブツ
ネムが詠唱を続けるのをよそに、今度は杏子がさやかに続いて武器を展開する
さやか「――杏子、バトンタッチ!次、よろしくねっ――!!」ニィッ!
杏子「――へっ、任せときなっ!!」ニィッ!
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
間近に、狂ったような笑いをあげる口が迫ってくる
杏子「さぁて、いつまでそうして笑っていられんのか――」
そして両手で槍を握ると、全体重を乗せた渾身の一撃を、煙をあげる魔女の首筋に叩き込んだ――!
杏子「――なっ!!」ブンッ――
グゥワキィイイィィィィーーーンッッッ!!!
――槍は、ついに魔女の首を貫通した
585: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:36:34.48:WrhrV5tUO
「アーーーッハッハッハッハッハッハッハッハーーーーーッッッッッ!!!!!」
直後、一層けたたましい笑い声をあげながら、仰向けに倒れていた魔女が上体を起こそうと動き始める
杏子「うおっと――!コイツ、今までアタシらの攻撃じゃビクともしなかったのに――!」ニィッ!
ほむら「効いてる――!みんなの攻撃が、ワルプルギスの夜を苦しめている――!!」パァッ!
ネム「蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ――!」ブツブツ… バッ!
ほむら「――っ!!杏子っ!どいてっ――!!」
杏子「りょーかいっ!次の一撃、頼んだぞ――!!」サッ
行きがけの駄賃とばかりに、突き刺さった槍をテコのように持ち上げて、首の傷口をかすかにこじ開ける杏子
そして一気に離れたところで、開いた傷口に向かって手掌をかざしたネムが完全詠唱の鬼道を放つ――!
ネム「――破道の六十三『雷吼炮』!!」
586: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:37:46.62:WrhrV5tUO
ゴォオオオォォォーーーッッッ!!!
すさまじい轟音と共に、雷撃がワルプルギスの首に突き刺さる
さらに――
ネム「――破道の七十三『双蓮蒼火墜』!!」
間髪いれず、二対の蒼炎が雷撃に続いて炸裂した!
――『二重詠唱』
二つの言霊を並行して唱えることで、同時に二種類の鬼道を発動する高等技術である
威力を削ぐことなく強力な術を連続して放つことができる反面、詠唱に時間がかかり隙が大きくなるため、他の術で動きを封じたり仲間が時間稼ぎをすることで初めて功を奏す戦法であった――
「アーーーッハッハッハッハッハッハッハーーーーーッッッッッ!!!!!」
開いた傷口に雷撃と炎撃を連続して撃ち込まれたワルプルギスの夜は、全身を揺らすようにしてのしかかる化け物をはねのけようともがく
588: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:38:05.62:vLfxef5P0
おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」グラリッ…
その時、化け物の巨体が大きく揺れた
肉薄した状態からの度重なる攻撃を受けて、ついに限界が来たのである
あと一息でこの邪魔者を始末できると気付いたのか、一際甲高い笑い声をあげながら、ワルプルギスがゆっくりと上体を起こそうとする――
――《舞台装置の魔女》ワルプルギスの夜が、ついにその身体を“正常な位置”に戻そうとしたその時――!!
持ち上がりかけた魔女の頭部を真上から見下ろすように、武器の照準を合わせる魔法少女・巴マミ――
己の持つ魔力を限界まで込めた超特大の大砲を構えて、ジッと標的を見つめる――
マミ「――これで、おしまいっ!!」
上体をわずかに持ち上げたワルプルギス――即ちその頭部は、仰向けの体勢からほんの少しだけ、上空に位置するマミに向かって突き出されていた――!
マミ「――グラン・レイーナ・ティロッ!!!」
――極大の砲撃は、ワルプルギスの夜を――その首を、寸分違わず直撃した
596: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:40:38.64:WrhrV5tUO
ーーーー
まどか「私は、契約しないよ――キュゥべえ」
QB『――どういうことだいまどか?みんながどうなってもいいのかい?』
まどか「――私は、ダメな子だよ」
義魂「鹿目さん――?」
まどか「みんなにあれだけ何度も何度も念押しされたのに、やっぱりみんなのことが心配でたまらなくて、つい契約しちゃいそうになってばっかりで――」
QB『それの何がいけないことなんだいまどか?友達のことが心配で、友達の為に自分が犠牲になる――この星じゃそういうのを『友情』と呼ぶんじゃないのかい?』
まどか「私もそう思ってた……私が魔法少女になってワルプルギスの夜を倒せるなら、それが一番いいはずだって――」
QB『なら――』まどか「でも、そうじゃなかったの!」
義魂「!」
まどか「自分ひとりで全てを抱えて、自分だけが犠牲になって丸く収まるならそれが一番いいなんて――
――私のことを守ってくれてる、大切に想ってくれてる人たちに対して、すごく失礼なことなんだよ、キュゥべえ」
QB『――ワケがわからないよ。周りがなんと言おうと、キミがそう望むならそうしたらいいじゃないか』
600: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:41:34.43:vLfxef5P0
まどか「ううん、それじゃだめなんだよ
私はひとりの人間だけど、私ひとりだけの力で生きてるわけじゃないんだもん――」
まどか「何でもひとりで解決しようとするのって、結局周りの人たちを信じてないっていうことと同じなんだよ
私、上条君の腕の事で、さやかちゃんが誰にも相談せずに契約しようとした時、すごく悲しかった――それと同じ」
まどか「さやかちゃんが契約しなくても、マユリさんのおかげで上条君の腕を治すことができた――」
まどか「確かに、私が契約すればワルプルギスの夜を倒せるかもしれない――けどそれは、私が契約しなくてもみんなが成し遂げてくれるかもしれないでしょ?」
QB『だからその可能性は低いと――』
まどか「低くても、みんなは私に『待ってて』ってお願いしたんだよ。『信じて待っててね』――って
だったら私は、みんなが帰るのを最後まで待つよ」
QB『――それで、彼女たちが全員死んでもかい?』
まどか「――うん。みんなを助けるためなら自分が代わりに……なんて考えがいつまでもあるから、ほむらちゃんは私に隠してることを話してくれなかったのかもしれないし、ね」
まどか「――えへへ、それにね、マユリさんが奥の手を隠してたって聞いて、なんかちょっと安心しちゃったんだ、私
『ああ、私が心配してる程度の不安なんて、とっくに予期して対策を立ててたんだ』――って」
まどか「ほむらちゃんもマミさんも杏子ちゃんも、さやかちゃんもネムさんも、みんな私なんかよりずっと魔女との戦いには詳しいし
私がここであれこれ心配してることなんて、きっとみんなならどうにかしちゃえるよねって、なぜかそう思ったの。根拠もないのに、変だよね――」ティヒヒ
QB『――やれやれ、どうやらここまでのようだね』
605: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:43:18.93:WrhrV5tUO
まどか「――え?」
義魂「――勝敗が決したようです」フゥ…
まどか「!!」ハッ
QB『全く、この街を去る前に手土産としてキミと契約を結べるかと思ったんだけどね――』
まどか「それじゃあ……!!」パァァ!
義魂「――ワルプルギスの夜は撃破されました
皆さんの勝利です――」ニコ…
606:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:44:07.47:ybk+Mf+E0
ーーーー
見滝原市・決戦の地
頭部を失い、残った胴体も徐々に消滅しつつある《舞台装置の魔女》ワルプルギスの夜の亡骸――
その歯車のような胴体部分から、いくつもの破片をちぎり取っては、封印を施していく十二番隊副隊長・涅ネム
マユリ「――フム、その辺はもういいだろう。次は肩の辺りのパーツを集めてこい」
ネム「はい、マユリ様――」サッ
杏子「――にしても間近で見るとやっぱでけぇなー、コイツ」シミジミ
さやか「これをあたしたちが……うぅ、なんか感激……!」ウルウル
マミ「――そうだわ佐倉さん
『魔法少女訓練プログラムの最終試験』――結果はどうかしら?」ニコニコ
さやか「へっ!?あっ――!!」ハッ
杏子「んー?そうだなぁ――」ニヤニヤ
さやか「ちょっ、なにそのにやにや笑い――!」
615: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:46:01.15:WrhrV5tUO
ほむら「…………」
マユリ「何を呆けているのかネ?邪魔だヨ、そこを退き給え――」ツカツカ
ほむら「……まさか、本当に倒せるなんて」
マユリ「今更なんだネ?最初からそのつもりだったのだろう?」
ほむら「そうだけど……多分、何度も繰り返していくうちに、心のどこかでは諦めていたのかもしれないわね
……情けない話だけれど、こうして死体を目の前にしても、倒したっていう実感が湧かなくて……」ホムゥ…
マユリ「フン、感傷――というヤツなのかネ?
生憎キミの感傷などに興味はないヨ――おいネム、この辺りのがれきを掘り返せ」
ネム「はい、マユリ様――」サッ
ほむら「……あなたは本当にブレないわね。その図太さを見習いたいわ……人格的には御免だけど」ファサァ
マユリ「フン、口の減らない小娘だヨお前は
――我々はまだここにいるが、キミたちはいても邪魔なだけだ。さっさと鹿目まどかのもとへでも行ってやったらどうだネ――?」カクッ
ほむら「……まどか」
616:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:46:07.65:iM3SKJO/0
さやか「――ほーむらっ!」ダキッ
ほむら「っ!……暑苦しいわ、離れてちょうだい」
さやか「まーたこの娘は照れちゃって~。かわいいなぁ~」ウリウリ
さやか「――お疲れ様、ほむら」ソッ…
ほむら「!!」ハッ
杏子「よっ、ほむら!――これでようやく、お前も一区切りだな!」ニィッ
ほむら「一区切り……?」ホムゥ?
マミ「ええ、そうよ。あなたの――長きに渡るワルプルギスの夜との戦いは、これでおしまい
これからは今まで通り、この街に出現する魔女から人々を――鹿目さんを守っていくっていう仕事があるでしょう?」フフ…
ほむら「まどかを……でも、私はもう時間停止魔法を使えない
武器の調達だってできなくなるし、こんな私じゃとても戦力にならないわ……」
杏子「――なーに情けねーこと言ってんだよ」
ほむら「え?」
619: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:48:12.88:vLfxef5P0
マミ「ねぇ、暁美さん。魔法少女の力の源って、なんだと思う?
――私はね、『信じる心の強さ』だと思うの」
ほむら「信じる…心」
さやか「ほむらはさ、誰よりもまどかを守りたいっていう気持ちが強かったわけじゃん
何度失敗しても、簡単に絶望しちゃわないで、まどかを救い出せる時が来るのを信じてさ――」
杏子「だからさー、まどかの傍にいてやるのにはお前が一番ふさわしいってこと!」
ほむら「でも……私じゃまどかを守れ――」
さやか「そんなことないって!だってあんた、あの身のこなしは全部努力と経験でものにしてきたわけでしょ?
身体能力とか戦闘センスならどう見てもあたしたちの中で一番だよ!」
杏子「いっそ身体を鍛えるのに魔力を注ぎ込んで、“肉体武闘派魔法少女”を目指すとかどーよ?」ククク!
ほむら「に、肉体……!?あまりからかわないで……!」ホム!
マミ「それに、守ると言ってもあなたひとりに任せるつもりはないわ
ここにいるみんなで力を合わせて、これからも一緒にこの街の平和を守っていきましょう――!」ニッコリ
ほむら「…………」
ほむら「……ありがとう」ホム!
622: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:50:13.35:WrhrV5tUO
ーーーー
見滝原市・避難所
詢子「おーおー急に晴れてきやがったわねーこりゃ」
たつや「はれたー!」ワーワー
知久「おーい、どうもひとまず峠は越えたみたいだよー。……ふぅ、一時はどうなることかと思ったけど、無事に通り過ぎたみたいでよかったね」ドッコイショ
詢子「ふーん、案外すんなり行ったんだね。もっと長丁場になるかと思ってたけど――」
まどか「あっ、見てママ!雲の切れ間から光が差しこんでる――!」
詢子「ん?ほぉー、ありゃ天使の梯子だな」
まどか「天使の梯子?」
知久「ああいう風に、雲の隙間からわずかに光が差しこむ様子のことをそう呼ぶんだ。まるで天使が地上へ降ろした梯子みたいだろう?」
まどか「へぇー、そうなんだ――」
タツヤ「てんしー!てんしー!」キャッキャ
「えー、体育館に避難されている皆様ー、ただいま気象観測台から入ってきました報告によりますと、嵐は無事に見滝原を通過した模様ですー
これより市内の道路及び建築物等の被害状況を消防がパトロールして行く予定ですのでー、今しばらくこちらで待機していてくださいー」
まどか「――ねぇパパ、ママ。ちょっと廊下の窓から外の様子見てきてもいい?
ここからだと空の様子しか見えないし――」
624: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:51:21.61:vLfxef5P0
体育館廊下
窓から外の景色を眺め――いや違う、何かを必死に探すように、目を凝らして見ているまどか
そんな彼女へ、声をかける者がひとり
義魂「――皆さんが心配なんですね」
まどか「あっ、ネムさ……じゃなかった、えーと――」アタフタ
義魂「――ソウルキャンディー」
まどか「え……?」キョトン
義魂「私たちの“商品名”です。本来は義魂丸と言っていたのですが、『もっと可愛い名前がいい』という女性死神の皆さんからの要望で、そう呼ばれるようになりました」
まどか「そ、そうなんですか……ソウルキャンディーかぁ。確かにそっちの方が可愛らしいですね!」ティヒヒ!
義魂「一応ソウルキャンディーには、そのタイプごとに名前が設定されています。私には正式な名前は付けられておりませんが、一応機会がある時には『ミモザ』と名乗っています」
まどか「ソウルキャンディーのミモザさん、ですね。やっぱり可愛い名前だなぁ!」ニコッ
義魂「――ありがとうございます」ニコッ
まどか「ウェヒヒ!」
義魂「――心配はいりません、鹿目さん」
まどか「え?」
628: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:52:42.67:vLfxef5P0
義魂「――大丈夫ですよ、皆さんは無事です。今は涅隊長との通信が切れてしまっていますが、もうすぐこちらに戻ってこられるはずです」
まどか「そ、そうですよね!あーもう、私ったら、みんなが帰ってくると思うといてもたってもいられなくて――!」ウェヒヒ!
義魂「――そうですね、私も待ちきれません」フフ…
まどか「えっ?ミモザさんもですか?」
義魂「私は、涅隊長が涅副隊長のために特別に開発したソウルキャンディーなんです
量産されたものと違い、涅副隊長の性格をベースに若干修正を加えて作られております――」
まどか「それって、マユリさんがネムさんのために特別に作ったソウルキャンディー、っていうことですか?」
義魂「はい。とはいえ、涅副隊長自身にも義魂作製技術が関わっている以上、その気になれば全く同じ人格のものを作ることもできたはずです」
義魂「あえて私を副隊長の人格とやや異なるように調整したのは、やはり涅隊長にとって副隊長が特別な存在だから――なのでしょうね」
まどか「そうなんですか……なんだか、意外ですね。正直、マユリさんのこと今でもちょっと怖いなって思ってたんですけど――」
義魂「隊長は少々エキセントリックな方ですが、普通の方とはその表現の仕方が異なるだけで、副隊長にはそれなりの愛情を感じておられるようですよ」フフ…
まどか「ティヒヒ!やっぱり意外です!――あっ!!」ハッ
629: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:53:46.86:WrhrV5tUO
その時、窓の外に何かを見つけたまどかは、ネムの義魂丸が止める間もなく走り出した
体育館入口に向かって駆けていく姿を、義魂丸は微笑ましそうに見送る
自動扉は閉まっているため、その脇にある非常扉を重そうに押し開けるまどか
ギィィ……!
半分ほど開いたところで、待ちきれずにまどかはその隙間から外へ飛び出す
そして、こちらへ向かって歩いてくる四つの影に力いっぱい手を振ると――
まどか「みんなぁーーー!!おかえりぃーーー!!」
631: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:56:27.73:WrhrV5tUO
ーーーー
「――ワルプルギスの夜との決戦から一週間が経った」
「市街地から外れた場所を戦場に選んだことと早めの避難勧告が功を奏したのか、記録的な大災害だったにも関わらず犠牲者はほとんど出なかったそうよ」
「市街地への被害が少なかったこともあって、住民への避難勧告もその日の夕方には解除されてみんな自宅へと戻ることができたわ」
「――突然避難所に現れた私たちについても、涅マユリの“記憶置換装置”とやらのおかげで適当に理由づけがされてたから、面倒なことにはならなかったしね」
「そうそう、後日さやかは上条恭介からこっぴどく叱られたそうよ
『強力な魔女と戦うとは聞いてたけど、ここまでとんでもない嵐を起こすような奴だとは聞いてないよ!』――ってね。私には惚気に聞こえるけど」
632: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:57:34.88:WrhrV5tUO
「――私の、長きにわたるワルプルギスとの戦いは、これでようやく終わりを迎えた」
「まどかは最後まで契約をしなかった――私たちとの約束を信じて、待っててくれた」
「マミは、過去の時間軸で出会ってきたどのマミよりも、本当の意味で頼れる先輩になってくれた」
「さやかが魔法少女になった時にはどうなるかと思ったけれど、今回は全てがうまく進んでくれて本当によかったわ」
「杏子は相変わらずマイペースでぶっきらぼうだけど、今の私たちにはそれが威嚇や警戒でなく、彼女の素の気質なんだとわかる」
635: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:58:35.56:WrhrV5tUO
「――これでもう、心残りはひとつもない
全てが最高の状態で、ここまで来れたのだから――これ以上を願うのは、罰当たりな高望みだわ」
「――今までありがとう、みんな。この最後の時間軸で、あなたたちと一緒にいられて本当によかったわ――」
636: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:58:47.46:vLfxef5P0
ほむら「――それじゃ行きましょう、涅マユリ」ファサァ
マユリ「――ホゥ、潔いことだネ。魔法少女験体一号・暁美ほむら――」カクッ
637:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:59:02.88:/BYv3utl0
ーーーー
義魂『――それは……!いくらなんでもひどすぎます、涅隊長……!』
『――――』
義魂『いえ…ですが私にはそんなことっ……!』
ゴスッ!
義魂『うぐぅっ……!』ゲホッゲホッ
『――――!』
義魂『……わかり…ました…』
義魂『――ごめんなさい……!』
643: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:00:31.33:vLfxef5P0
ーーーー
早朝―
見滝原市・自然公園
広い公園の周りを囲うようにして結界を張り、その内側で穿界門のチェックをする十二番隊副隊長・涅ネム
暁美ほむらは、両手を後ろ手に拘束された状態で、ネムが計器類を操作しているのをぼんやりと眺めていた
ほむらの隣に立つ十二番隊隊長・涅マユリは、掌を握ったり開いたりしながら、何を考えているのか読めない表情で佇んでいる
またその傍らには、ネムの義骸に入った義魂丸が伏し目がちに控えていた
ほむら「――こんな拘束をしなくたって、今更逃げたりしないわよ」
マユリ「ん?ああ、悪く思わんでくれ給えヨ。時間停止能力を失ったとはいえ、キミにはまだ時間遡行能力が残されているからネ――」
ほむら「冗談じゃないわ。無事にワルプルギスの夜を倒せたというのに、わざわざ逆戻りをするわけないでしょう――!」
マユリ「わかっているヨ、そう声を荒げなくてもいいじゃないかネ?」
648: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:02:22.20:WrhrV5tUO
マユリ「本来ならば、キミのソウルジェムをこちらで握ってしまえば一番手っ取り早い拘束になるのだヨ
文字通り生殺与奪の権を握ることになるのだからネ――それをしないだけでも感謝してもらいたいものだがネ」フン
ほむら「――どの道、生殺与奪を握られていることには変わりないわ。何せこれから、私はあなたの“研究材料”に成り下がるのだから――」
マユリ「恨みがましい言い方はよし給えヨ。これは同盟における正当な対価だ――」
ネム「――穿界門、接続準備が整いました。これより、霊子変換装置を起動させます」
マユリ「よし、急げネム――どうだネ暁美ほむら?あるいは何の変哲もないこの公園が、キミにとって最後に見る現世の光景になるやもしれんヨ――?」
ほむら「――別に、特に感慨も浮かばないわね。どちらにせよ、最初から決戦を終えたら人知れずこの街を去るつもりだったのだし――」
義魂「……ですが、ご友人の皆さんに別れを告げなくて、本当によろしかったのですか?」
ほむら「いいのよ。知ったらみんな黙ってはいない――あなたたちと刺し違えることになってでも、私を取り戻そうとする
そういう娘たちばかりだから――」
「なーんだ、よくわかってんじゃねーか」
653: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:03:25.75:vLfxef5P0
ほむら「!?」
マユリ「――ホゥ?」カクッ
不意に聞こえてきた声の主は、彼女たちのよく知る魔法少女――
ほむら「杏子……!どうしてここに――!?」
杏子「アタシだけじゃないんだなーこれが」ヘヘッ!
「まったく――これは少しひどいんじゃないかしら?暁美さん」
「ほんとほんと。なんの断りもなしにあたしたちの前からいなくなろうなんて――許さないよ?」
ほむら「マミ…さやか……!あなたたちまで――」
マユリ「いや、それだけじゃないネ」
ほむら「――っ!」ハッ
マユリの呟きを受けて、即座に言わんとすることを理解したほむら
655: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:04:20.03:WrhrV5tUO
マユリ「これだけの顔ぶれが揃ったんだ。おそらくはあの小娘も――」
はずれであってほしい、その推測の言葉は――
「――ほむらちゃん!!」
――この場に最も来てほしくなかった少女の、呼びかける声にさえぎられた
ほむら「まどかっ……!」
661: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:05:20.83:vLfxef5P0
まどか「はぁ…はぁ…ほむらちゃんっ……!」ハァ…ハァ…
息を切らせながら公園に駆け込んできた彼女の姿を見て、ほむらは後ろ手に回された拳を握り締めながら表情を歪める
ほむら「そんな……どうしてみんなここが……!?」ギュウゥ
マミ「あら、舐められたものね。私たちは一緒に戦ってきた魔法少女のチームよ?チームメイトに何かあったら、何としてでも駆けつけるのは当然でしょう――」
ほむら「答えになってないわっ!いったいどうやって――!」
さやか「せっかくワルプルギスの夜を倒したってのに、あんたあれからずぅーっと元気なかったでしょ。持ち前のクールさを前面に押し出して誤魔化そうとしてたみたいだけど、ちゃーんと気づいてんのよ?」チッチッチッ
ほむら「なっ……!!」
杏子「ま、そんで気付かれないように、それとなーくみんなでほむらの周りを張ってたってわけだ。つってもお前、警戒心強すぎて全然近づけなかったけどな」
ほむら「そんなはず……!」
663: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:06:02.58:vLfxef5P0
そう、そんなはずはなかったはずだ
いくら気付かれないように注意して張り込んだところで、彼女たちの気配にほむらが気付かないわけがない
今日この時間にほむらたちが現世を去ろうとしている――そのことを知る人物が、彼女たちに告げたとしか考えられなかった
その時、ほむらはある人物が微かに視線をそむけたのに気付いた
涅ネム――いや、彼女と同じ姿をした義骸の方である
ほむら「まさか……!?」
ほむら(そういえば、まどかが言っていた気がする――)
ほむら(避難所で私たちの帰りを待っていた時、涅ネムの義魂丸に勇気づけてもらった――って)
ほむら(でもまさか、主である涅マユリに背いてまで、皆と私を引き合わせたかったというの――?)
マユリ「――ヤレヤレ、わざわざ見送りに来てくれるとは、いいトモダチとやらを持ったネ?暁美ほむら――」
ほむら「――っ!!」
マユリの言葉で、思考の海から現実に引き戻されるほむら
ほむら「――そうね。みんな、わざわざ見送りに」まどか「どういうことなのほむらちゃん?」
ほむらの言葉は、しかしまどかによってさえぎられた
665: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:07:15.35:WrhrV5tUO
ほむら「……」
まどか「私たちに黙って、どこへ行こうとしてたの?せっかくワルプルギスの夜を倒したのに、どうしてそんなに苦しそうな顔をしてるの――?」
ほむら「……まどか、私は」マユリ「彼女は私の研究材料に志願したのだヨ」
まどか「!!」
杏子「はっ!何を言い出すかと思えば、とんだ世迷言だな変態オヤジ!」
マユリ「言いがかりをつけないでくれ給えヨ。これは彼女の方から持ち出した提案だ――」
マミ「信用すると思って?」
ほむら「――彼の言うことは事実よ。これは私が言い出したこと
ワルプルギス討伐のために彼を手を組んだ――その報酬なの」
さやか「報酬……?」
マユリ「そうだヨ!人工シードを開発し、天然のシードを養殖し、超人薬を準備し記憶置換で尻拭いをし!
考えうる限り最小の被害でワルプルギスの夜討伐を成しえた、その成果に対する正当な報酬だ!!」
ほむら「死神サイドからの人的支援を得られなかったとはいえ、彼の尽力が無ければ全員が無事な状態で奴を倒せはしなかった
魔法少女や魔女に関する情報提供だけでは、彼に対する報酬にはならないもの――」
668: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:08:11.06:vLfxef5P0
さやか「だからって、何もほむらがっ…その、研究材料になることないじゃん!もっとこう、ほら、別のお礼じゃだめなんですか、マユリ隊長?魔法少女日替わりデート一週間分とか――!」ヒッシ
マユリ「相変わらずうるさいヤツだネ。少し黙り給えヨ」カクッ
さやか「うっ……」アトズサリ…
マミ「――冗談は抜きにして、他の方法ではだめなんですか?これからも、魔女に関する情報でしたらいくらでも協力――」
マユリ「生憎、ただの魔女や使い魔にはもう興味がないのだヨ
何せ断片とはいえ、史上最大の魔女の死体を入手することができたのだからネ。これ以上雑魚の験体は必要ない――」
杏子「――で、お次は魔法少女の解剖実験てか?変態っぷりもさすがに目に余るぜおっさん?」
ほむら「やめてちょうだい。これは私が決めたことよ――」
まどか「――ほむらちゃんは、最初からそのつもりだったの?」ボソッ…
ほむら「……当然でしょう、納得した上での申し出よ」
まどか「だからほむらちゃん、いつも寂しそうな顔してたの?」ボソッ…!
ほむら「…!」
670: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:09:19.96:vLfxef5P0
まどか「みんなで旅行に行こうって話してた時も、必ずワルプルギスの夜に勝てるって言ってくれた時も」フルフル…
まどか「ほむらちゃん、どこか思いつめたような顔してた……私にだって、それくらいわかるよ?ほむらちゃん」フルフル…
ほむら「……思い違いよ。そんなことはない」まどか「だからほむらちゃん、肝心なことは何も話してくれないのっ!?」
ほむら「!!まどか――」
まどか「――『信じて待ってて』って、約束してくれたから、私は契約せずにみんなを待ち続けることができたのに
ほむらちゃんは、心の底じゃ私たちのこと、信じてくれてなかったの――?」グスッ…
ほむら「…!ちがう、そんなことない――!」
まどか「じゃあどうしてっ……私たちに秘密で、こんなっ……!
……あんまりだよ、こんなのってないよっ……!!」ボタボタ…
ほむら「――わかってちょうだい、まどか。誰かがこうするしかなかったの」フルフル
ほむら「魔法少女について研究が進めば、ソウルジェムの分析も捗って――いつか、魔法少女を普通の人間に戻すことができるようになるかもしれないの」
まどか「――っ!!」ハッ
ーーーー
マユリ『――あるいは、魔法少女を元の人間に戻す方法も見つかるやもしれないネ』
ーーーー
673: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:10:42.02:vLfxef5P0
ほむら「――元々、死神と同盟を結ぼうと考えたのは私の独断だったし、あなたたちはただワルプルギスを倒すために協力してくれただけ
他の魔法少女にこんな役目をさせるわけにはいかないの――すべての責任は、同盟の立役者である私が負わなければいけない」キリッ
杏子「ふざけんじゃねーよ。わかってねえのはそっちだ、バカ」
ほむら「――!」
マミ「あなた一人にその“責任”っていうのを背負わせて、私たちが平気でいられると思う?もしそんなことになったら私、絶望して魔女になっちゃうわよ――」
まどか「私も……ほむらちゃんを助けるためなら、契約しちゃうかも」ボソッ…
ほむら「なっ…バカなことを言わないで!そんなことのために魔法少女になるなんて――!」まどか「そんなことなんかじゃないよっ!」
ほむら「まどか――!」
まどか「どうしてわかってくれないのっ……!?私たちみんなにとって、ほむらちゃんは大切な友達なんだよ?ほむらちゃんが私たちのこと大切に思ってくれてるのと、おんなじなんだよっ……!」
まどか「――みんなの代わりに自分が犠牲に……なんていう考え方は、私もうやめたの。だから、ほむらちゃんも――!」
マユリ「やれやれ、鬱陶しいことだネ全く」
マユリ「二言目にはやれトモダチだ仲間だとごちゃごちゃごちゃごちゃ――うるさいんだヨっ!!どいつもコイツもっ!!」
まどか「ひっ――!?」ビクゥッ!
ネム「マユリ様――」 義魂「涅隊長……!」
マユリ「――で?結局キミたちはどうして欲しいんだネ?暁美ほむらを研究材料にさせたくないというのなら、誰かが代わりになると?」カクッ
674: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:12:06.03:WrhrV5tUO
ほむら「ちょっ――待ちなさい涅マユリ!彼女たちは関係ないわ――!」
杏子「だぁーかぁーらぁっ!まずその“研究材料”って発想から離れてくんねーかなぁ!
薬の投与が何回だの実験が何時間だの、そういうレベルになってくるとさすがに協力しきれねーよ!」
マミ「もう少し、その――新薬のモニターテスト、ぐらいのお話しだったら、なんとかお付き合いできるのですけど……」
さやか「そうそう!たまーにネットとかで求人募集してるやつあるじゃないですか!
『開発した新薬のモニターさん募集!安全かつ高給です!』みたいな感じの!」
マユリ「フン、どうせソウルジェムがある限り死にはしないんだ
それならドロドロになるまで研究したって構わんだろう?」
杏子「いや構うよっ!いくら死なねーからって、誰が好き好んで手足バラバラにされるかよっ!?」クワッ
さやか「お願いしますよマユリ隊長!もうちょっと他の条件で勘弁してください!
なんたって隊長は天才科学者なんですから、そんな物騒な方法取らなくても魔法少女の研究ぐらい完成――」ヒッシ!
マユリ「そういえば――あの人間の小僧とはうまくいっているのかネ?」
679: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:13:40.86:WrhrV5tUO
マユリ「なに、せっかくこの私が処置を施してやったのだからネ。その後の経過を気にするのは当然だろう?」カクッ
さやか「そ、そりゃあ隊長のおかげで恭介の腕は無事に良くなりましたし、まぁその後もお陰様で順調に……////」テレテレ
マユリ「そうかネ、それは結構。私も一服盛った甲斐があったというものだヨ」
さやか「……は?」
682: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:15:19.24:vLfxef5P0
マユリ「それにしても、思った以上に効果があったようだネ。これは改良すればさらに効能が――」
さやか「え、いや、ちょっと…なんですか?え、『盛った』……?」
マユリ「ああ、そうだヨ。何の変哲もない人間の小僧を無償で治してやる義理などないだろう?
せっかくの機会だったのでネ、新たに開発したばかりの新薬の被験体になってもらったというわけだ――」
杏子「お、おい…?」 ほむら「いったい何を言って……?」
さやか「――新薬?被験体?何のことですか、ねぇ――?」
マユリ「飲み込みの悪いヤツだネ、媚薬に決まってるだろう?」
さやか「び、びやく――?」
マミ「――っ!」 ほむら「なっ――!」 杏子「ハァッ!?」 まどか「び、びやくって――!?」
マユリ「正確には催眠状態を誘発させ暗示をかけやすくする薬――と言ったところかネ
“魔女の口づけ”について調べていた過程で試しに開発してみたのだが――」
685: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:16:14.04:vLfxef5P0
マユリ「俗な言い方をすればそうなるネ
要は被験体の脳にある種の麻酔作用を発生させ、他者の態度や言葉に対する警戒心を緩めて好意を抱かせやすくする薬品だ」
杏子「お、おい待てっ―!」
マユリ「自白剤としては勿論、その気になれば武力的行使を介さずに敵対者を無力化することもできるだろう
尤も現段階ではまだそこまで完成されてはいないがネ――」
さやか「――恭介にその薬を、打ち込んだってこと……?
はは…うそですよね?やだなぁ、マユリ隊長ってば冗談にしちゃ笑えないですよぉ……!」フルフル
まどか「さやかちゃん――!」 マミ「美樹さん、待って――!」
マユリ「何か問題でもあったかネ?むしろ感謝してもらいたいぐらいだがネ――」
ほむら「っ!!そいつの言葉に耳を傾けてはダメっ――!!」
さやか「……ははは、え、うそ?うそだよね……?だってそれじゃ、恭介があたしのこと好きだって言って……!」ガタガタ…
ーーーー
『さやかが心の支えになってくれてたんだって、告白された時に気付いたんだ』
ーーーー
688: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:18:30.47:WrhrV5tUO
ゴゴゴゴゴ……!!
まどか「――っ!さやかちゃんのソウルジェムが――!?」
杏子「てめぇっ――!!」ブンッ…
マミ「くっ――!!」カチャッ…
瞬時に槍と銃を呼び出す二人
だが次の瞬間、二人の目の前にネムが立ちはだかる――
杏子「なっ――!!」
マミ「ネムさんっ――!?」
ネム「『六杖光牢』――」シュン―
ズバァン!!
マミ「きゃっ――!!」
六本の光がマミの身体に突き刺さり、動きを封じた!
691:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 01:19:20.39:ybk+Mf+E0
まどか「マミさん!!」 ほむら「そんなっ――!!」
杏子「てめぇ何を――!!」ブンッ―
ネム「――『蒼火墜』」
杏子「!!」バッ
咄嗟に飛び退いて攻撃をかわす杏子
それを執拗に追跡し、鬼道を放ち続けるネム
693: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:19:48.48:vLfxef5P0
マユリはそんな状況をまるで意に介していないかのように、淡々とさやかに語りかける――
マユリ「そう、あの小僧がキミに惚れたのは私の助力のおかげということだネ
考えてみれば当然のことだろう――?」
さやか「恭介……恭介はあたしのこと……あはは……!」ブルブル
ーーーー
『でも、僕だって……!さやかに何かあったら嫌なんだ…!』
ーーーー
マユリ「そうでもなければ、キミが魔法少女として生きることになったとわかった時点でキミから離れるに決まっているじゃないか
誰が好き好んで人外の小娘と添い遂げようなんて思うかネ――?」
さやか「人…外……そう、だよね……あはは……
魔法少女なんてわけわかんない生き物になっちゃった女の子となんて、まともな人ならそのまま付き合っていこうなんて思わないよね……!」ゾゾゾゾゾ…!
ーーーー
『どんなことがあっても、僕は君の味方でいるよ、さやかっ!!』
ーーーー
695:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 01:21:12.67:I2q+YhNh0
マミ「美樹さん聞いちゃダメっ!!お願いネムさん、やめさせてっ――!!」モゾモゾ…!
杏子「ちっくしょうっ!!邪魔すんなどけっ!!あのおっさんを早く黙らせねぇと――!!」
ネム「『撃』――『廃炎』――『鎖条鎖縛』――!」
ほむら「ダメよさやかっ!!耳を塞いでっ!!」
まどか「さやかちゃんっ――!!」
義魂「……っ!」ギュゥゥ…!
マユリ「キミと居ればいつまた魔女との戦いに巻き込まれるかもわからない。せっかく腕が完治したのに、さらに酷い怪我をする恐れもあるだろうに、ネ
大体、魔女のような人外の化け物相手に戦えるヤツなど、力を持たない一般人の目には同様に化け物と映って然るべきだろう――?」
さやか「――そっか。……あたしの味方でいてくれるって言ってくれたのも、一緒に戦場に残るって言ってくれたのも全部……」ガタガタ…
ゴゴゴゴゴ……!!
698: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:22:07.75:vLfxef5P0
さやか「あたしのこと、好きだって言ってくれたのも……全部うその気持ちだったんだ」ブルブル…
ゴゴゴゴゴ……!!
杏子「さやかっ!!」 マミ「美樹さんっ!!」 ほむら「やめなさい涅マユリっ……やめてっ……!!」 まどか「やめてぇっ――!!」
さやか「はは……仁美に悪いことしちゃったな、あたし……恭介は多分、仁美の告白を受け入れてくれてたはずだったのにね……
あははっ…何だろう…何であたし、魔法少女になったんだっけ……?ああ…なんていうかさぁ……」ドドドドド…!
マユリ「――それとも何かネ?人の形をした生ける屍風情が、まさか本気で人から愛してもらえるなどとでも思っていたのかネ?」カクッ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
さやか「――あたしって、ほんとバカ」
700:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 01:23:10.90:sFvI572z0
次の瞬間、すさまじいエネルギーの奔流がさやかを包み込んだ――!
杏子「うわっ――!」 まどか「きゃあっ――!」 マミ「こ、これはっ――!?」 ほむら「くぅっ――!」
ネム「――!」 義魂「うぁっ――!」 マユリ「ホゥ――」ニヤリ
みるみる内に、公園一帯を魔女の結界が覆っていく――!
劇場のような空間
指揮者と楽団が荘厳かつ激しい演奏を披露する
舞台中央の床が開くと、そこから巨大な鋼鉄の化身がせり上がって来た――
魔女空間in自然公園
《人魚の魔女》オクタヴィアがその姿を現す――!
杏子「――さやかぁぁっ!!」
まどか「嘘よ……嘘よね、ねぇ?」ペタリ…
マミ「こんな……こんなことって……!」ガクガク
マユリ「――素晴らしい!」
703: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:24:11.48:vLfxef5P0
ショックを受ける少女たちをよそに、感嘆の声をあげるマユリ
マユリ「ソウルジェムの濁りが限界に到達した瞬間から、ものの数秒で霊圧波形から霊力構成までもが魔女のそれへと変容しているネ!
しかも霊圧の振れ幅が魔法少女の時とは段違いだ!実に興味深い現象だヨ!!」
杏子「テメェは――何様のつもりだっ!?」バッ―
怒りを露わに杏子がマユリへ飛び掛かろうとしたその時――!
「やれやれ、少し落ち着きなよ杏子――」
杏子「――っ!!」ハッ
マミ・まどか「キュゥべえ!?」 ほむら「あいつ――!」
突如出現したキュゥべえの呼びかける声に、思わず杏子たちは気をとられた
その一瞬の隙を突いて、マユリが瞬歩で杏子に迫る
杏子「!しまっ――」
ズバァァァッ!!
いつの間にやら解放していた疋殺地蔵で杏子を斬り捨てるマユリ
707: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:25:28.51:WrhrV5tUO
杏子「痛っ――!!」バタッ
まどか「杏子ちゃんっ!」 マミ「佐倉さんっ!」 ほむら「杏子っ!」
マユリ「全く、いちいちうるさいヤツらだネ――」ブンッ
QB『あーあ、だから言わんこっちゃない
「隊長格は名前を呼ばずに斬魄刀を解放できるらしいから、まだ始解してないからって迂闊に近付くのは危険だよ」って忠告しようとしたのに』キュップイ
悪びれる様子もなくそう呟くキュゥべえ
まどか「キュゥべえっ……どうしてあなたがここにっ……!!」
ほむら「――そういうこと」ボソッ…
まどか「え…?」
腕を後ろ手に拘束されたままの状態で、ほむらはキッとマユリたちを睨みつけた
ほむら「やはり、これが目的だったのね、涅マユリ。そして――インキュベーター!」
QB『ご明察だよ暁美ほむら。キミが涅マユリと手を組んだように、ボクも彼と手を組んでいたんだ』
708:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 01:25:29.68:fvrcxfzX0
マミ「手を組んで――どういうことよ?
ねぇ、ネムさん!これはどういうことなの?早くこの術を解いて!美樹さんを助けないと――!!」モゾモゾ…!
必死に身体を動かし、六杖光牢を解こうとするマミ
しかしネムはマミに向かって掌を向けると――
ネム「――雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」
ギュイィィィーーーン!!
マミ「うっ――!!」
マミを拘束する光牢の締め付けがより強くなった!
マユリ「今のは後述詠唱と言ってネ。詠唱破棄した鬼道に後から詠唱を加えることで、術の効果を高める技術だ――」
まどか「マミさんっ……!」
ほむら「まどか!早くここから逃げるわよ――!」キッ―
まどか「えっ――?」ハッ
腕を封じられながらも、ほむらはまどかの傍に駆け寄りそう呼びかけた
ほむら「ヤツらの狙いはあなたを魔法少女にすること――
そのためにあなたたちをわざと呼び寄せ、さやかを絶望させ魔女にした――あなたが彼女を救うために契約するだろうと踏んでね……!」クッ…!
まどか「……!!そんなっ……それじゃあミモザさんは――!?」バッ!
まどかが振り返ると、義魂丸は唇を噛み締めて目をそむける
711: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:27:08.69:WrhrV5tUO
ーーーー
義魂『――それは……!いくらなんでもひどすぎます、涅隊長……!』
マユリ『何がひどいものかネ。時間停止を失った暁美ほむらなど、もはや研究材料として最良の個体とは言えんヨ
それに元々、魔女に比べて魔法少女の研究材料は圧倒的に不足しているしネ。最大の魔女を倒してやったんだ、他のヤツらも一緒に捕獲したって文句はあるまい?』
義魂『いえ…ですが私にはそんなことっ……!』
ゴスッ!
義魂『うぐぅっ……!』ゲホッゲホッ
マユリ『――口ごたえをするんじゃないヨたかが義魂丸の分際で
わかったらお前は他の連中をうまくおびき出すんだヨ。幸いお前は鹿目まどかから信頼されているようだしネ――!』
義魂『……わかり…ました…』
義魂『――ごめんなさい……!』
ーーーー
712: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:27:31.46:vLfxef5P0
ーーーー
さやか『――ほむらが!?』
義魂『はい…暁美ほむらさんは最初から犠牲になるおつもりだったんです……!』
杏子『あんのバカっ……!』
マミ『でも、そんなこと私たちに話してしまって大丈夫なの?もしマユリさんにバレたらあなたが――』
義魂『大丈夫、だと思います。この念話装置による通信は話し手にしか聞こえないですし、この後通信記録も消去しますので、すぐに涅隊長に発覚することはないかと……!』
まどか『ほむらちゃん……どうして……!!』
義魂『このままでは暁美さんは皆さんに何も言い残さないまま、尸魂界へ行ってしまいます
その前に、皆さんで涅隊長を説得し、暁美さんを連れて行くのを思いとどまらせて頂けないでしょうか……!』
まどか『――わかりました。ほむらちゃんたちの出発する場所を教えてください、ミモザさん――!』
ーーーー
713: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:28:19.39:vLfxef5P0
まどか「そうなのミモザさん……?私たちを騙すために、ほむらちゃんのことを教えてくれたのっ……!?」ヒッシ
嘘だと言ってほしい――縋るように義魂丸へ問いかけるまどか
義魂丸「……申し訳、ありませんっ……!」フルフル
まどか「…!ひどいよ…そんなのあんまりだよ……!!」ブワッ…
杏子「――ほんの少しでもてめぇのことを信用しちまってたのは、やっぱ間違いだったみてぇだな……変態オヤジっ!!」クワッ
マミ「ネムさんにまでこんなことをさせてっ……あなたって人はっ……!!」
マユリ「『こんなことをさせて』?妙な口ぶりだネ、それじゃまるでネムが嫌々私の命令に従っているみたいじゃないか――」カクッ
マミ「何をぬけぬけとっ……!!だってネムさんは私たちの大事なお友達――」
マユリ「後述詠唱を知ってたかネ?」
マミ「――え?」
715: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:29:49.90:WrhrV5tUO
マユリ「番号まで口にせずとも、術の名称だけでも鬼道が発動できることは?」
マユリ「卍解についてはどうだネ?二重詠唱は?
隊長格の死神が斬魄刀の名を呼ばずとも始解できることを、そいつから聞かされていたのかネ?ん?」
マミ「そ、それは……っ!」ウッ…
ネム「…………」メヲソラス
マユリ「キミが“トモダチ”とやらから教えてもらった尸魂界や死神の情報など、知ったところで意味もない表面的なものばかりだ
我々の戦力や能力に関する事項については一言も明かされてはいないハズだヨ――」
マミ「……っ!」サァー…
マユリ「おかしな話じゃないかネ?秘密主義を貫いてきた暁美ほむらでさえ、決戦の前にはキミたちに自身の真実を語ったというのに
キミの大事な“トモダチ”であるというネムは、キミに手の内の半分も打ち明けてはいないじゃないか――」ニヤリ
QB『やれやれ、マミは昔から寂しがり屋だからね。少し優しくされるとすぐに相手を信じ込んでしまう――友達だと思い込んでしまうんだよね』
マミ「そんな…じゃあ最初からネムさんは……私のことなんて……?」フルフル
ゴゴゴゴゴ……!
719: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:30:26.96:vLfxef5P0
杏子「ばっ…バカ野郎マミ!そいつらの言うことなんか――!」イツッ…!
ほむら「まどか!今は早くここから――!」
まどか「――ほむらちゃんの、真実?」
ほむら「っ!」ハッ
まどか「ねぇほむらちゃん……真実って――」
ゴォオオオォォォォーーー!!!
一同「――っ!?」
その時、すさまじい重圧が結界内を覆った
《人魚の魔女》オクタヴィアがマントを翻し、空中に大量の車輪のようなものを出現させたのだ!
まどか「っ!さやかちゃん――!」
ほむら「いけない……!早く逃げて――!」
ネム「――縛道の七十三『倒山晶』!」
次の瞬間、まどかたちに降り注いできた車輪が光の壁によって弾かれた
逆四角錐の防壁で周囲を覆う防御鬼道『倒山晶』を発動したのだ
722: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:31:36.15:WrhrV5tUO
ネム「ハァ…ハァ…」
マユリ「限定解除していない状態とはいえ、鬼道を乱発しすぎたぐらいで息が上がるとは、使えんヤツだネ――」
だが――
マミ「――っ!?きゃぁぁぁっ!!」
杏子「うぉっ――くっ、うぅぅ……!!」
まどか「あっ――!」 ほむら「っ!!」
防壁に守られたのはまどか・ほむら・ネム・義魂丸・マユリの五人だけで、疋殺地蔵に斬られた杏子と六杖光牢に締め付けられたマミは、身動きがとれないまま車輪の雨に曝される――!
まどか「マミさん、杏子ちゃんっ!――やめて!もうやめて!さやかちゃん!」
QB『無駄だよまどか。美樹さやかは魔女になってしまった、もうキミの声は届かないさ』
マユリ「ほらほら、いいのかネ?このままでは巴マミと佐倉杏子は二人とも魔女の餌食だヨ
早く契約して、美樹さやかを元の姿に戻してやらないと――」
723: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:32:14.46:vLfxef5P0
まどか「――どうしてなのキュゥべえ?だってあなたはもう、私を勧誘しても無駄だって――!」
QB『やれやれ、ボクが何故そう言ったのか覚えてるかい?
「涅マユリの人工シードのせいで、キミが魔女化する可能性は著しく低い」――こう言ったろう?』
まどか「……!!」
QB『それはつまり、彼がキミたちへの人口シードの提供を拒めば、その限りではないということだよ――さぁ、わかったらボクと契約を――』
ほむら「そんなこと、させない――!!」ダッ
マユリに向かって駆けだすほむら
マユリ「――ホゥ?」
ネム「マユリ様――!」ハァ…ハァ…
ほむら(――腕は封じられても、魔力で強化した脚はまだ使える!)
一気に距離を詰めると、その勢いを乗せたままマユリに強烈な蹴りを放つ――!
義魂「――止まってください、暁美ほむらさん!」
ほむら「――っ!?まどかっ!!」
まどか「わっ!……ミ、ミモザさん……!?」
見ると、義魂丸のネムがまどかの背後を取り、手首を掴んでほむらを牽制していた
724: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:32:39.77:vLfxef5P0
ほむら「――まどかを離しなさい。その娘を傷つけるのはあなたたちの本意じゃないはずよ」キッ…
マユリ「なに、何なら直接身体を痛めつけてやった方が、いっそ契約に踏ん切りがつくかもしれんだろう?」カクッ
QB『おいおい加減を誤って殺したりしないでくれよ?ボクは鹿目まどかを契約に追い込むのに手を貸すという条件であなたと手を組んだんだ
もし彼女が死にでもしたら――』
マユリ「フン、改造魂魄でもないただの義魂丸には人並みの戦闘力しかないヨ
うっかり首でも締めない限り、殺す心配は無用だ――」
ほむら「くっ……!」ギリッ…
まどか「お願い、ミモザさん。やめて……こんなのってないよ……!」ウゥ…
義魂丸「……ごめんなさい、鹿目さん…!」ギュウッ…
まどか「どうして…?だって、ワルプルギスとみんなが戦ってる時に、私がみんなの所へ行こうとしたのを、ミモザさんは止めてくれたでしょうっ……?」
マユリ「当たり前だヨ。契約もしない状態のまま決戦の最中に出てこられたら、金色疋殺地蔵の毒で二分と保たずにキミは死んでたからネ
まったく、インキュベーターが余計な真似をしたせいで危うく私の策が水の泡になるところだったヨ――」
729: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:34:38.40:WrhrV5tUO
QB『仕方ないだろう?マミじゃないけど、ボクだってあなたが卍解なんていう奥の手を隠し持っているなんて知らなかったんだ
面倒な手順なんて踏まずにさっさとまどかを魔法少女にしてワルプルギスの夜を倒してもらった方が効率的だと思ったんだよ――』
マユリ「馬鹿を言うんじゃないヨこの屑が。鹿目まどかに眠る才能については十分耳にしていたからネ
万一ワルプルギスを跡形もなく消し飛ばされでもしたら、せっかくの研究材料が手に入らないじゃないか――」フン
ほむら「…っ!ちょっと待って……!
お前たちが手を組んでいたと言うことは、さやかが契約した時にインキュベーターの動きを捕捉できなかったというのも――!」ハッ
マユリ「何だ、今頃気が付いたのかネ?」カクッ
マユリ「美樹さやかが訪れていたコンサートホールに『偶然』孵化しかけのグリーフシードが存在し
キミたちが『偶然』そこから遠く離れた場所に居た頃に、『偶然』そのシードが孵化する――」
マユリ「いくらなんでも偶然の一致で済ますのには重なり過ぎだとは思わないかネ?」ニヤリ
まどか「そ、それって……!」 ほむら「でも、そんなことが――!」
マユリ「キミたちが人口シードに溜め込んだ穢れを、使い魔に注入して強制的に魔女化させることができるんだ
グリーフシードに注入して孵化を促すことだってできるとは思い至らないかネ?」
ほむら「っ!!」
マユリ「ま、ちょうどいいタイミングで孵化するように穢れの量を調整するのは骨が折れたがネ」ヤレヤレ
730: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:36:00.05:vLfxef5P0
まどか「でもっ…どうしてさやかちゃんと上条君がコンサートホールに行くってことを知って……?」
ほむら「――監視用細菌。こいつは杏子のことを四六時中監視できたのよ、まどか――」
まどか「えっ!?」
ほむら「そして私たちはコンサートの前日、杏子の前でその話をしている……っ!待って、それじゃまさか――!」ハッ
マユリ「ンッフッフ……」ニヤリ
ほむら「――!さやか聞いてっ!こいつは嘘を吐いてる……上条恭介は薬なんか盛られてないわ――!」
まどか「ほむらちゃん!?それってどういう――」
ほむら「インキュベーターは嘘を吐かない。ヤツらが手を組んだのはさやかがデートに行く前日のはずよ
なら、上条恭介の腕を治した時点では、まださやかを魔女化させようという目論見はなかったはず――!」
まどか「あっ――!」ハッ
QB『おっと、これはボクが失言をしてしまったのかな?』
マユリ「――その通りだヨ暁美ほむら。あの時点ではまだ、キミに恩を売っておこうという程度の考えしか持っていなかった
そもそも、魔女の口付けに侵された状態の人間を捕獲できなかったしネ。さすがの私でもサンプルもなしにそんな薬は作れんヨ――」
まどか「そんな…!それじゃ、さやかちゃんはっ……!」
QB『おーいまどか、そろそろ決断してくれないかな?』キュップイ
733: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:37:42.18:WrhrV5tUO
ガンガンガンガンッ!!
《人魚の魔女》が放つ車輪はひっきりなしに防壁に当たり、荒い音を立てている
マミは立ったまま、杏子は倒れたままの状態で、魔女の猛攻に曝され続けていた
マユリ「このままじゃ、あの二人まで魔女になってしまいかねんヨ――?」カクッ
まどか「……っ!」ギュッ…!
ほむら「まどかっ――」(せめて両腕が使えれば――まどかだけでも逃がす時間が稼げるかもしれないのに!)
QB『ソウルジェムが砕けない限り死にはしないけど、ああして肉体にダメージを受け続けると、その傷を癒したり痛みを軽減するのにかかる魔力がどんどん嵩んでいくからね
特にマミなんかは涅ネムに裏切られたのがよほどショックだったのか、濁っていくスピードが心なしか早くなっているようだし――』
まどか「――ねぇ。ネムさんは本当に、マミさんのこと利用しようと思ってただけなの?」
ネム「…………」ハァ…ハァ…
無言のまま防壁を維持し続けるネム
こめかみを伝う汗は、疲労のためだろうか
まどか「ねぇ、ミモザさん?私を励ましてくれてたのも、全部罠にかけるため……?」
義魂「……申し訳、ありません……!」フルフル
まどかの腕を掴んだまま、顔をそむける義魂丸
その肩が震えているのは、魔女の攻撃の振動故か
まどか「――私、どうしたらいいんだろ」ボソッ…
734: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:38:14.32:vLfxef5P0
マユリ「フム――」ツカツカ
と、そこでマユリがおもむろにほむらの方へと近寄っていった
ほむら「っ!」バッ
注意深く身構えるほむら
しかしマユリは懐からリモコンのようなものを取り出したかと思うと、素早く何かのボタンを押した
ピッ カチャッ
ほむらの腕を拘束していた装置が外れる
ほむら「なっ!?」シロクロ QB『涅マユリ、何を――』
マユリ「――さて。これでキミには再びチャンスが与えられたわけだ、暁美ほむら
時間を戻して、また最初からやり直すチャンスがネ――」ニヤリ
ほむら「――っ!!」ハッ
まどか「時間を……戻す?」キョトン
ほむら「待ってまどか――!」
QB『――そういえば、キミはまだ彼女から真実を聞かされてないんだったね、まどか
暁美ほむらの魔法は時間停止なんかじゃない、時間の遡行なんだよ――』
ほむら「黙りなさいっ!!」ダッ―
735: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:38:43.74:vLfxef5P0
全速でキュゥべえを蹴りつけるほむらだったが、キュゥべえはちょこまかとそれをかわし、言葉を続ける――
QB『彼女はねぇ、まどか――キミを救うために魔法少女になったんだってさ』ヒョイッ ヒョイッ
ほむら「黙れっ――!!」ダッ―
まどか「救う……」
QB『彼女が元いた時間軸で、キミは魔法少女としてワルプルギスと戦い、命を落としたらしい
そこで彼女はボクと契約して、「ワルプルギスの夜との決戦より1ヶ月前に時間を戻す能力」を手に入れたんだ――』ヒョイヒョイ!
まどか「私が……!」
ほむら「どうしてっ!?まどかとのことはさやかたちにしか話して――!」ヒッシ
ほむら(――!!まさかあいつ、まだ杏子の監視を解いてなかったの――!?)ハッ
QB『以降、彼女はずっと戦い続けているんだ。キミを魔法少女――魔女にさせず、かつワルプルギスの夜を倒せる状況を模索しながらね』ヒョイ―
マユリ「いやはや、なんとも自己犠牲に溢れた話じゃないかネ?
この小娘はキミというひとりの人間の為だけに、何度も何度も同じ時間を繰り返し生きてきたのだヨ――」ニヤニヤ
737: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:39:49.85:WrhrV5tUO
まどか「……今の話は本当なの?ほむらちゃん」
ほむら「まどか……!」(どうしよう……よりによって最悪の形でまどかに真実を知られてしまった……!!)ギリッ…!
まどか「そうだよね…キュゥべえは隠し事はしても、嘘は吐かないんだもんね……
そっか……『同盟の条件が、私に契約させないこと』……そういうことだったんだね」フルフル
ほむら「待ってまどか……!勘違いしないで!
これは私が勝手な自己満足でやってること……今のあなたが気に病む必要はまるでないわ!」ヒッシ
QB『そうそう、彼女の言う通りだよ。それに、彼女の願いと行動の結果として、今のキミにそれほどの素質が芽生えることになったんだしね、鹿目まどか――』キュップイ
まどか・ほむら「――え?」
QB『かねがね疑問ではあったんだ――「何故、鹿目まどかが、魔法少女として、これほど破格の素質を備えているのか」
――その答えがキミだ、暁美ほむら。いや、正しくは君の魔法の副作用――と言うべきかな』
ほむら「な…なにを……!?」
738: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:40:21.13:vLfxef5P0
QB『魔法少女としての潜在力はね、背負い込んだ因果の量で決まってくる
君が繰り返してきた時間――その中で循環した因果の全てが、巡り巡って、鹿目まどかに繋がってしまったんだよ』
ほむら「うそ……何を言って……それじゃあまどかは私のせいでっ……!?」ガタガタ…
ゴゴゴゴゴ…!
マユリ「――フン、皮肉なものだネ
鹿目まどかを救おうと努力を繰り返す度に、鹿目まどかは魔女と魔法少女を巡る因果の中へと引きずり込まれていったのだヨ――」カクッ
ネム「マユリ様……ハァ…魔女の攻撃が激しさを増しています……!これ以上…ハァ…守りを維持するのは……!」ハァ…ハァ…
マユリ「ホゥ――おい、佐倉杏子と巴マミはどうなっているかネ?」
QB『ふたりともまだ魔女化はしていないようだね――あ、けどそろそろ限界かな?二人とも魔力が尽きかけているよ』
マユリ「フム……聞いたかネ?暁美ほむら。どうやら今回の時間軸でもキミの望む結末には至らないようだ
――どうしたネ?早く時間を戻し給えヨ――」
ほむら「だって……私が時間を戻す度に……!まどかは……!!」ブルブル…
QB『――この期に及んで暁美ほむらまで絶望させようというのかい?本当に強欲な男だねキミは――』キュップイ
マユリ「私としてはむしろ魔法を使ってもらった方が好都合なんだがネ
以前にも言った通り、時間遡行という能力には非常に興味がある。いったいどんな現象が起きるのか――」
740: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:41:16.64:WrhrV5tUO
周囲の声が遠くなっていく
眼を固く瞑り、その場に跪くほむら
ほむら(……ここで私が魔女になったら、この時間軸でも間違いなくまどかは助からない……)ドクンッ
ほむら(かといって時間を戻せば……次はさらにまどかの力が…強く……)ドクンッ
ほむら(繰り返せば…それだけまどかの因果が増える。私のやってきたこと、結局……)ドクンッ
不意に、閉じた視界が暗くなった
誰かが前に立っている――
「――もういい。もういいんだよ、ほむらちゃん」
741: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:41:41.30:vLfxef5P0
ほむら「まどか……?」ハッ…
見上げるとそこには、優しい微笑みをたたえたまどかが――
まどか「ごめんねほむらちゃん、今までありがとう――」
ほむら「待って…待ってよまどかぁ……そんな……!」ブワァッ…
義魂「鹿目、さん……」
義魂丸が呟いた
本来であれば、勝手にまどかの腕を離したとして激昂してもおかしくはないところだが、マユリは興味深そうに笑いながら黙ってまどかを見ている
まどか「ごめんね、本当にごめん。これまでずっとほむらちゃんが守ってきてくれてたから、今の私があるんだよね――」
ほむら「ダメ…やめてぇ……!」グスンッ
まどか「でもね、ほむらちゃん。やっぱり私だって、ほむらちゃんを守りたいよ
さやかちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも、私の最高のお友達たちを、助けてあげたい――」
ほむら「まどかぁ……!!」ヒック…エッグ…!
まどか「みんな、もう十分すぎるくらい戦ってきたよ。だからもう、いいの
これからは、私がみんなを守って戦う――!!」
そう言って、まどかはほむらに背を向けキュゥべえと向き合う
742: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:42:39.08:WrhrV5tUO
QB『よくぞ決心してくれたね、まどか
キミなら史上最強の魔法少女になれる――どんな敵からも、キミの大切な人たちを守り抜くことができるだろう』
QB『さあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は何を願う?』
まどか「――ここにいるみんなを、元の人間の女の子に戻して
今負ってる怪我とか痛みとか、そういうのも全部治して、完全に健康な普通の女の子に戻してあげてっ!!」
ほむら「っ!!まどかっ――!!」
QB『契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した
さあ、解き放ってごらん――その新しい力を!』
辺りを光が覆った――
743:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 01:42:48.28:1VBXn98h0
ーーーー
ほむら「――ここはっ!?」ハッ
気が付くと、ほむらたちは元の公園に戻っていた
魔女の結界は消えている
咄嗟に辺りを見回すと、魔女になったはずのさやかが元の姿で倒れていた
すぐ近くには、マミと杏子の姿も
そして彼女たちからは――いやほむら自身からも、魔力の片鱗が感じられなかった
ほむら「人間に……戻ってる……」ボーゼン…
「――素晴らしいッ!!」
興奮した声がほむらを現実に引き戻す
見ると、これまでに見せたこともないほどいきいきとした表情を浮かべたマユリが、ひとりの少女が相対していた―
748: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:44:24.55:WrhrV5tUO
ピンク色の髪に、同じくピンクを基調とした衣装
その手には、魔力で構成されたと見える弓が握られている――
ほむら「まどか……っ!?」ペタリ…
マユリ「これほどの霊圧を持つ魔法少女は初めてだッ!!そこに転がっている『元』魔法少女共がゴミのようだヨ――!!」
ネム「これは――!」
義魂「鹿目、さん……!」
ほむら(契約、させてしまった……!)ギュウゥ…!
ほむら(しかも私はもう……魔法少女じゃない)ツー… ポタッ
ほむら(もう時間を、戻せない……)グスンッ
QB『――すごいやまどか、ボクの予想以上だよ!まさかこれほどまでに強大な魔力を発現するとはね――!!』キュップイ!
ほむら(そうだ……かくなる上は、もう一度インキュベーターと契約して――!!)
まどか「大丈夫だよ、ほむらちゃん――」
ほむら「え――?」ハッ
751: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:45:06.15:vLfxef5P0
ほむらに背を向けたままの状態で、そう語りかけるまどか
その眼は、マユリをじっと見据えている
まどか「安心して、今度は私がみんなを守るから――」
ほむら「まどか……でも……!」
マミ「ううん……え?ここは――」パチッ
杏子「あっ!……っと、あれ、魔女の結界から出てる……?」ガバッ
さやか「んん~……はっ!?あれ?うそ、あたし、どうして――?」ガバッ
マミ「美樹さん!!」 杏子「さやか!!」 さやか「うへっ!?な、なに……!?」アタフタ
杏子「こいつはいったいどういう――あっ!まどかお前――!?」ハッ
まどか「――みんな、ごめんね。せっかくみんなが私を契約させまいと頑張って、ワルプルギスの夜も倒してくれたのに――」
マミ「……!!
――そう、この状況はそういうことなのね……っ!」フルフル
さやか「ちょ、ちょっと待ってよ!話が全く読めないんだけどっ――」
ほむら「……まどかは、私たちを――」 まどか「ごめん、説明は少し待ってもらってもいい?」
ほむら「まどか…?」
まどか「先に、済ませておきたいことがあるから――」キリッ―
752: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:45:38.30:vLfxef5P0
マユリ「最高だヨ鹿目まどか!キミほど素晴らしい魔法少女の個体はおそらく今後出現することはないだろうッ――!!
他の凡百の魔法少女共が霞む位に文句の付けようがない研究材料だヨッ!!」
まどか「――謝ってはくれませんか」
マユリ「ん?」
まどか「みんなを騙して、傷つけて、苦しめたこと。きちんと誠意を込めて、この場でみんなに謝ってください――!」
マユリ「そうすればおとなしく研究に協力してくれるのかネ?そういうことなら――」
まどか「――やっぱり、ダメですよね。あなたは、そういう人だもの――」ボソッ
マユリ「?」
まどか「人の心がわからない、人の痛みがわからない――人のことを、わかろうとすらしていない
だから、どんなにひどい嘘も裏切りも、自分の目的のためなら躊躇わない――!」フルフル…
マユリ「ホゥ――で?」カクッ
まどか「――ごめん、ネムさん、ミモザさん。私、この人だけはどうしても許せないよ――!」
ネム「……!」 義魂「……くっ!」
マユリ「フム、ならばどうするのかネ――と、訊くまでもなかったネ
どうせ素直には捕まらないと予想はしていたし、念の為空間凍結をこの公園に発動しておいて正解だったヨ――」ブンッ―
758: ハイパーフルボッコタイムです ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:48:21.94:WrhrV5tUO
疋殺地蔵をまどかに向けるマユリ
まどかもまた、マユリに向けて弓を構える
マユリ「ホゥ、弓矢が武器かネ。いやはや、どこぞの下等種を思い出したヨ――」ニヤリ
まどか「――行くよ、涅マユリさん」シュウゥゥゥ…!!
次の瞬間、まどかの手元に矢が生成され弓につがえられた――!
マユリ「――っ!?」バッ―!
咄嗟に飛び退こうと動き始めるマユリ――
――しかしまどかは、既にマユリの避けた地点へと狙いを合わせていた!
マユリ「なっ――!!」
バァアアアァァァーーーンッ!!!
まどかの放った矢の一撃は、轟音と共にマユリを吹き飛ばした
さやか・マミ・杏子・ほむら「――っ!!?」 ネム「マユリ様――!!」 義魂「涅隊長っ――!?」
761: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:49:00.30:vLfxef5P0
唖然とする一同
しかし、すぐにネムが反応しまどかを捕えようと動いた――!
ネム「――申し訳ありません、鹿目まどかさん……!!
縛道の七十九『九曜縛』――!!」シュルルルル…!
まどかの周囲に黒い数珠状の霊子が集まり、細く連なってその身体を縛り上げようとする!
しかし――
まどか「――無茶しないで、ネムさん」サッ…
ネム「…っ!?」ゾッ…!
――気が付くと、まどかはネムの背後に立ち、その背に矢を突き付けていた
まどか「魔女の結界の中で、ずっと私たちを守るための技を使ってたから、すごく疲れてるんでしょう?」
ネム「……っ!!」ジワッ…!
冷や汗をたらし、無言で両手を上げるネム
まどかの圧倒的な強さに言葉を失い、ほむらたちも息を飲んでそれを見守っている
杏子「すげぇ……動きがまったく見えなかった……!」
さやか「まどかっ……!?」
マミ「これが、鹿目さんの魔法少女としての力……本当に規格外ね……!」
ほむら「……っ!待ってまどか!まだよっ――!!」ハッ
762: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:50:28.70:WrhrV5tUO
土煙の向こうに、ふらりと立ち上がる人影が――
マユリ「――図に乗るなヨ小娘ェェェッ!!!」
一同「!!?」
まどか「……すごいですね。手加減はしたけど、そんなになってもまだ立ち上がれるなんて――」
見るとマユリは左肩を吹き飛ばされ、左の脇腹から腰にかけても大きく抉り取られていた
荒く息を吐きながら、激昂した様子で口を開く
マユリ「ハァ…ハァ…魔法少女風情が…ハァ…ふざけてくれるッ……!
――いいだろうッ!!ならばこちらも相応の力で相手してやろうじゃないかッ……!!」ギロリッ!
フハハハハハハッッ!!!
ふらつきながらも狂ったように高笑いをあげるマユリ
ほむらたちは怯えたように、ネムと義魂丸は焦燥した様子でマユリを見つめている
キュゥべえは興味深そうに、まどかは毅然とした表情のまま、マユリの次の動きに注目する――
マユリ「―― 卍 解 」
763: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:50:52.99:vLfxef5P0
ゾォオオォォォォーーー……!!
まどか「……!!」
さすがに驚きを隠せないのか、目を見開いて出現した『ソレ』を見上げるまどか
『ソレ』を見るのが二度目のほむらたちも、背筋に走る怖気は抑えられない
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
マユリ「――『金色疋殺地蔵』……ッ!!」ハァ…ハァ…!
QB『へぇ、これはすごいね。もはや刀剣としての常識を遥かに超えた――えっ!?』
感心した様子で金色の巨体を見上げていたキュゥべえの目の前に、赤子の巨大な掌が迫る――
QB『ちょっ、待っ、ボクがここに――』ブチィッ!
キュゥべえごと地面に手をついて、体勢を整える金色疋殺地蔵
その口元からは、毒々しい紫色の煙が濃霧のように漏れ出している――
マユリ「――これで、キミの命運は尽きたヨ?」ニヤリ
765: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:51:24.17:vLfxef5P0
杏子「…っ!やべぇ、早くこっから逃げねぇと――!!」バッ
さやか「ひいぃっ……!!」ガクガクブルブル
マミ「鹿目さんっ!あなたも早く――!」
ほむら「逃げてまどかっ!そいつは猛毒を――」
まどか「みんな、私の後ろにいて――」
マミ・杏子・さやか・ほむら「えっ……?」
まどか「言ったでしょ?みんな、私が守るって――」ニコッ!
次の瞬間、まどかの全身から桃色の淡い光が溢れ出し、ベールのようにほむらたちを包み込んだ!
ネム「なっ……!?」 義魂「あの光は……毒霧を弾いている!?」
さやか「なに…?この光……まどか?」
ほむら「まどかが私たちを、守ってくれてる――」
マユリ「ホゥッ!!そんなこともできるのかネッ?さすがは史上最強の魔法少女というだけのことはあるッ……!!」ハァ…ハァ…!
QB『きゅっぷい…まどかは『仲間を守りたい』という守護の願いを魔法に変えたからね
それにしてもひどいじゃないか、ボクまで巻き添えにキュブゴホォッ!!?』ゲホッ…バァンッ!
まどか「……!?」
767: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:52:06.76:vLfxef5P0
マユリ「生憎、毒の配合など一回ごとに変えるのは私にとって常識でネ
今回の致死毒は感染者自身を毒の塊に変えて爆散させる――原形を留めて死ねるなどと思わないことだヨ?」ハァ…ハァ…
QB『きゅっぷい…けど涅マユリ、魔法少女は毒では死ななキュブグヘェッ!!?』バァンッ!
マユリ「知ってるヨ――だが、そこにいる元魔法少女の屑共は今、鹿目まどかの力で守られている
鹿目まどかが魔力を維持できなくなれば、そいつらはひとたまりもないだろうネッ――!!」ハァ…ハァ…クフフ…!
QB『きゅっぷい…ちょっ…待ってくれ…!ここに張られた結界がまだ機能してるせいで、ボクまでここから外に出られキュブグガハァッ!!?』バァンッ!
ネム「ですがマユリ様……!鹿目まどかは五体満足のまま捕獲した方が……!」
マユリ「身体などただの肉塊にしてしまっても構わんッ!!
ソウルジェムさえ無事なら、後でいくらでも復元できるヨッ――!!」
まどか「――みんなは、私が守る
私の友達は、誰も死なせない。それに――私も死なない!」キリッ
マユリ「ヒャッハッ!!それは結構ッ!!ならばこれで終わりだァッ!!
――行けェェ!!金色――疋殺地蔵ッ!!!」
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」ズバズバズバズバァッ!!
768: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:53:19.68:WrhrV5tUO
よだれかけが外れ、毒液でぬらぬらとてかった大量の刃が化け物の首から飛び出した
そして狙いをまどかに定めると、大きく口を開けて頭からまどかたちに突っ込む――!!
さやか「うわぁっ!!」 マミ「きゃあっ!!」 杏子「うおっ!!」 ほむら「ひっ…まどかぁぁぁっ!!」
まどか「――これで、お終い」
まどかの手から、一本の矢が放たれた
ワルプルギスの攻撃を正面から受け止めた時と同じように、化け物から見ればあまりに小さ過ぎるその一撃を、自らの額で受け止めようとし――
――金色疋殺地蔵は、たった一本のその矢によって真っ二つに裂けたのだった
775: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:55:29.80:vLfxef5P0
ーーーー
ほむら「あ…あぁ……!」ポカーン
自分の見ている光景が信じられなくて一様に呆然とする少女たち
マユリ「がぁ…ハァッ……!クッ……!!」フラ…フラ…
涅マユリの腹部には、ぽっかりと大きな穴が空いていた
ネム「マユリ様……!!」 義魂「く、涅隊長……!?」
まどか「――これでもう、十分でしょう?だから、約束して
もう二度と、私の大切な人たちを傷つけないって――」キリッ
マユリ「クッ…ぐぅぅ……!この……魔法少女めがァァァッ!!」ブンッ―
今にも死にそうな状態でありながらなお、マユリは折れた刀を振り上げると――
――そのまま自らの喉を貫いた
マユリ「ゲホォッ!!」
まどか「わっ!?」
杏子「なっ…!?」
ブシャァァッ!!
次の瞬間、涅マユリの身体が液体となって飛び散った
776: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:56:07.09:vLfxef5P0
さやか「ひぇっ…!?」
マミ「な、なんなの……!?」
ほむら(斬りつけたものを液体に変える力……っ!?)
マユリ『やれやれ……全く無駄な時間を過ごしたヨ』
まどか「……逃げるんですか」
マユリ『フン、いい気になるんじゃないヨ……これでキミが隊長格をも圧倒する力を持つ危険因子だということが判明した
……どの道、護廷十三隊はキミを放ってはおかないだろうネ』
ほむら「なっ……まどかが死神側から敵として見做されるということ!?」
杏子「ちょっ…そんなのおかしいだろ!?だって元はと言えばてめぇが――!!」
マユリ『諦めることだネ……キミはインキュベーターの目論見通り魔法少女になった…ヤツらがこの星での勧誘を終えれば、もう魔女は増えない……
私の人口シードもない以上、最終的にキミを待つものは魔女化、そしてすべての破滅だヨ……!!』
マユリ『キミの大切なモノたちとやらを――キミ自身の手で破壊し尽くすがいいッ……!!』
そう言い捨てて、液体となったマユリは公園から完全に姿を消したのだった
ほむら「まどか……そんな……まどかが……あぁ……!!」フラリ…
まどか「!!ほむらちゃん――!」
緊張の糸が解けたのか、はたまた精神が限界に至ったのか、そこでほむらの意識は途絶えた――
780: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:56:42.37:vLfxef5P0
ーーーー
見滝原市・病院
白いベッドの上で、ほむらは目を覚ました
ほむら「――また、やり直し……っ!?」ガバッ!
小机の上に置いてあるデジタル時計
今日の日付は、意識を失った日の3日後となっていた――
朦朧としていた意識が一気に覚醒する
ほむら「違う……私はもう、魔法少女じゃない……!!」ガクガク
ほむら「どうしよう……!結局まどかは魔法少女になってしまった……!
しかも、私のせいでっ……私があの死神を信用したせいで、まどかはっ……!!」ブワァッ…
ほむら「ごめんっ……ごめんねまどかっ……!!」ウッ、ウッ…!
コン、コン
病室のドアをノックする音
ほむら「……まどか?」グスン…
782: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:57:17.12:vLfxef5P0
ほむら(それとも他のみんなかしら……でも、どちらにせよ、今はみんなに合わせる顔がないわ……)
コン、コン
ほむら(……もう少し、ひとりでいたい)
コンコンコン!
男の声1「――しましょ――まだ―意識―――出直しま――」
ほむら(……?知らない声ね……医者かしら?)
男の声2「いや――ですし―――早いとこお話を――」
ほむら(もう一人いるのね……どうしよう、やっぱり返事した方がいいのかしら……?)
コン、コン、コン!
ほむら「……どうぞ」
男1「あ、はいっ!失礼しますっ――」ガラガラガラガラ…
ほむら「…っ!?」ガタッ
784: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:58:08.24:vLfxef5P0
思わず身構えるほむら
入ってきたのは、背の低い青年だった――おどおどとした表情で、窺うようにほむらの方を見ている
白衣を着ていたが、しかし医者や看護師の類では断じてありえなかった
何故なら彼は、白衣の下に死覇装を着ていたのだから――
ほむら「し、しにがみ――!!」キッ!
男1「ひぃぃ!ご、ごめんなさいっ!」バッ
ほむら「……え?」キョトン
男1「あ、あ、あのっ……暁美ほむらさん、ですよね?えーっと、その……元・魔法少女の?」オドオド
ほむら(なに?こいつ、本当に死神…?)「――まず自分から素性を明かすべきじゃないかしら?」ファサァ
男1「あ、はいっ!すみませんでしたっ!
僕はえーと、技術開発局霊波計測研究所所属の、壷府リンと言います……」オズオズ
ほむら「技術開発……!やはり涅マユリの手の者ね……!!」ギロッ!
リン「ひえぇ…そ、そんなに睨まないでくださいぃ……!」ガクブル
ほむら(調子狂うわね…それとも油断させようとして?)「――で?要件はなに?」ツン
リン「あ、はい…えーと……!」アタフタ
785: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:58:38.67:vLfxef5P0
リン「……えー、この度の魔法少女に関する一連の案件につきまして……!
尸魂界の協力者として活動してくださいました暁美ほむらさんに対しての、えと、事後処理についての説明に、ま、参りましたっ……!」
ほむら「……ねぇ」
リン「は、はいっ!?」ビクゥッ!
ほむら「あなたの他に誰か来てないのかしら?さっき外でもう一人声がしてたけれど――」(こいつが相手じゃ埒が明かないわ……)
リン「えっ!?あ、はい…来ていただいていることはいるんですが……その……
……一応尸魂界に関する案件ですので、まずは僕の方から説明した方が……」オドオド
ほむら「……そう、だったらさっさと――」イライライライラ…
男2「まぁまぁ壷府サン、そちらサンもそう言ってくれてることですし、ここはアタシが……」
そう言って入って来たのは、しかし死神ではなさそうだった
緑と白の縞柄帽子を目深に被り、全身も緑を基調とした和風の出で立ちで固めている
足元は下駄、そして右手にはシンプルながら洒落たデザインの杖を携えている
ほむら「……あなたは?」ウサンクサゲ
男2「アッハッハ、こりゃ失礼しましたぁ!アタシの名前は浦原喜助、しがない駄菓子屋の店主ッス」
ほむら「駄菓子屋……?」
788: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:59:18.60:vLfxef5P0
リン「あ、えーとその、なんでも浦原さんは昔尸魂界で――」浦原「なぁに、ちょいとばかし死神サンたちと縁のある者ッスよ~」
ほむら「――死神ではないの?」
浦原「ええ、とりあえず今は――ね」フッ…
ほむら(得体の知れない男だわ――)「どうやらあなたの方が口が回りそうね。あなたから説明してもらえるかしら?」
リン「あ……はい、あの、それじゃ……!」
浦原「了解いたしました~。そんじゃアタシの方から、まずは暁美サンが意識を失ってから後の、尸魂界の決定事項についてお話しいたしましょうか――」
ほむら「……!」(まどかは、どう判断されたの――!?)
浦原「――結論から言いましょう。魔法少女に関しては、今後尸魂界では『協力体制を敷きこれを援助すること』――と決定されました」
ほむら「……協力?」ポカン
浦原「ハイ、そうッス。魔法少女は、尸魂界から正式にその存在を認められたんスよ――」
ほむら(うそ!?それじゃまどかは無事――いえ、まだ信用しきれないわ!)「――詳しく説明してちょうだい」
浦原「ハイハイ、順を追って説明していきます~
まず、本来であれば霊的領域の存在ではない魔法少女や魔女について、何故霊的秩序の番人である死神が受け持つのかという話なんですが――」
789: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:59:48.35:vLfxef5P0
浦原「どうも調査結果によると、魔女や魔法少女だけでなく魔女によって襲われた人間までもが、死んでも輪廻の過程に戻ることができないようなんス」
ほむら「……どういうこと?」ホム?
浦原「普通、現世で亡くなった人は、その死に方に関係なく皆霊体となって尸魂界に送られます
たまに未練があって現世に留まり続ける方もいますが、そういう魂魄は死神が魂葬しますしね」
浦原「例外は虚――魂魄を喰らう悪霊に殺された場合ぐらいでして、そういった場合の犠牲者は魂魄が“消滅”してしまうんス
これについても死神の管轄下にあるので問題なかったんですがね――」
ほむら「――実は虚だけでなく、魔女の犠牲者も魂を食われてしまうということ?」
浦原「ご名答ッス、暁美サン。直接魔女に襲われたり、あるいは魔女の力で自殺に追い込まれた人でさえも、その魂は消滅し輪廻に還ることがないんスよ
そうなってくると、『魂魄のバランスを保ち世界の安定を維持する』のが目的である死神側としても、重い腰を上げなきゃならないってワケッスね~」
浦原「けれど、魔女はあくまで物的領域の存在である上に死神は虚の相手だけで手一杯
そうそう魔女退治にまで人手を割く余裕はありません。そこで――」
ほむら「――魔女退治を、正式に魔法少女へ専属依頼したいということね」
浦原「さすが暁美サン、ウワサ通り呑み込みが早ッスね~。余計な説明が省けてありがたいッス」バッ パタパタ
おだてるようにそう言いながら扇子を開く浦原
その飄々とした雰囲気に調子を狂わされそうになりながらも、ほむらはクールな鉄の仮面を繕って先を促す
791: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:00:23.60:vLfxef5P0
ほむら「――けど、魔法少女だってみんながみんな正義感に燃えているとは限らないわ
使い魔をわざと放置して、魔女に成長するまで泳がせておくような輩だっているもの」
浦原「勿論承知してますよ~。そのための“援助”なんスからね
――使い魔を一匹仕留める度に、尸魂界から恩賞として人口シードを幾つかプレゼントするのはどうかって話が出てるみたいッスね」
ほむら「人工シードを……!?」
浦原「ハイ。使い魔を倒すことに見返りがないなら、見返りを用意してあげればいいんじゃないかって発想ッスね~」
ほむら「でも、どうやって使い魔を倒したと証明させるつもり?
自己申告制にしたら人工シード目当てに嘘を吐くかも――」
浦原「最初にその地区担当の死神がその街に住む魔法少女に魔女探知機を渡しておくんスよ
探知機には魔力の抽出機能をつけておいて、使い魔と接触したらその魔力データが接触記録として入力され、仕留めれば討伐記録が残る仕組みに現在調整中らしいッス」
ほむら「そうしたら今度は魔女を倒す魔法少女がいなくなるんじゃないかしら?
魔女は危険性が高いし、使い魔だけを倒して報酬が得られるならそれでいいって考えの輩が現れるかも……」
浦原「暁美サンもご存じのとおり、人工シードの濁り吸収量は本物のそれに比べてずっと少ないですからね~
あると安心な応急アイテムって感じの品ですし、それだけで魔法少女として生計が立てられるとは思えませんよ」パタパタ
ほむら「……よく考えられているのね」ホムゥ…
浦原「そりゃまあ、護廷十三隊も永いこと霊的領域の秩序を守ってきたベテラン組織ッスからね~
――ところで、あなたが一番知りたいであろう鹿目まどかサンについては聞かなくていいんスか?」パタッ!
ほむら「……!」ハッ
792: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:01:36.69:vLfxef5P0
浦原「まぁ恐らくあなたも心配していたでしょうが、案の定尸魂界でも鹿目サンのことを危険視する意見が出ましてね
何せ限定解除していなかったとはいえ、卍解を発動した隊長格を圧倒してしまったんスから、当然と言えば当然ッス――」
ほむら「でもっ……!」
浦原「けどご安心ください、最終的にその件は不問に付されましたから~」バッ
ほむら「!!」
浦原「鹿目サン自身に死神と交戦する意志がないことや、鹿目サンの類稀な魔力の才が今後の魔女根絶の為には得難い戦力であることが認められましてね~」
ほむら「――意外、だわ。護廷十三隊って、もっと厳格な組織かと思ってたけれど……」
浦原「いやはや、時期がよかったこともありますしね~」パタパタ
ほむら「時期?」
浦原「ハイ!実は尸魂界の方でもこの間まではちょっと大きなゴタゴタを抱えてたんですがね
それの解決に、やはり正規の死神でない方や特殊な人間の方々が尽力して下さいまして。おかげで尸魂界も少しずつ方針を変え始めてきたってワケッスよ」
ほむら「そう、なの……じゃあ、その“特殊な人間”にも感謝しないといけないのかしらね……」ファサァ
793: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:02:09.90:vLfxef5P0
浦原「あー、それと蛇足かもしれませんが一応ご報告をしときますね~
十二番隊隊長・涅マユリにつきましても、この度の騒動の責任と功績を秤にかけた結果、お咎めなしということになったようッス」
ほむら「……っ!?」ガタッ
リン「ひっ!」ビクッ
浦原「まぁ、あの人は知っての通りエキセントリックな方でして、皆さんにも色々とご迷惑をおかけしたと思いますが……
それでも現時点での魔女及び魔法少女研究の第一人者ですし、今後の魔法少女との協力体制においても重要な存在ですからね~」
ほむら「でもっ――!」
浦原「それにあの人は今、魔法少女を元の人間に戻す研究を始めたようですしね」
ほむら「っ!?」シロクロ
浦原「ははぁ、さては暁美サン、てっきり涅サンは魔法少女に非協力的な態度をとるだろうと思ってたんスね?
けど、これに関しては十三隊全体の意向であると同時に、涅サン自身の意思でもあるんスよ」
ほむら「うそ……だってあの男が、自分を圧倒したまどかのために何かするなんて……!」
浦原「彼は気分屋ですが曲がりなりにも組織の責任者ですから、上の決定に背いてまで意地を通したりはしませんよ」
リン「そ、それに……」オズオズ
ほむら「え?」
795: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:03:39.28:WrhrV5tUO
リン「ひぁっ!そ、その…局長はプライドの高い方ですが、それよりなにより実験と研究が大好きなんです
ですから、ご自分の理解できない現象や仕組みを見つけたら、解明するまでとことん力を注ぎ込んじゃいます!」
ほむら「……」
浦原「アッハッハ!流石は壷府サン、現役局員の意見は実感がこもってるッスね~!
けど、アタシも同意見ッスよ。恐らくあの人は、意地でも魔法少女を元に戻す方法を見つけるつもりでしょうね――」
浦原「知ってます?なんと涅サン、ご自分の身体と疋殺地蔵に僅かに付着していた残留霊子から、鹿目サンの霊波構成をほぼ炙り出したらしいッスよ」
ほむら「! そんなことが……!?」アゼン
浦原「ね?なんとも執念深い方でしょ。この執念深さが研究意欲の方に発揮されれば、今の尸魂界にあの人を超える科学者はいません」
ほむら「……妙に尸魂界に詳しいのね、しがない駄菓子屋の癖に」ジッ…
浦原「いやぁ、それほどでもないッスよ~。ネタを明かせば、アタシも在野の研究者だってだけの話ッスから」
ほむら「在野の研究者?尸魂界に関する事案の?」キョトン
浦原「ハイ、実は今も尸魂界から協力要請が来てましてね~
――現世にある私の研究室で、インキュベーターについて調べさせてもらってます」
ほむら「インキュベーターですって!?」ガタッ
798: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:04:38.99:vLfxef5P0
リン「うわっ!ちょっ、落ち着いてくださいぃ……!」アワアワ
浦原「涅サンが注目したのは、インキュベーターが契約の際に漏らす『エントロピーを凌駕した』というフレーズ……
実際、鹿目サンは契約の際に行われるなんらかのエネルギー変換法則に基づいて、皆さんを見事普通の人間に戻していますしね」
ほむら「つまりまどかを――魔法少女を元に戻す方法を見つける鍵は、インキュベーターにあるってことね?」
浦原「とはいえ、インキュベーターは霊子変換が出来ない為尸魂界に連れて行って調べることができません
なんで、チャチなものとはいえこっちに研究機器を多少持っているアタシに、現世においてインキュベーターを調査するよう依頼が来てるんスよ」
ほむら「……そう。なら、まどかが元の人間に戻れるかは、涅マユリとあなたの手にかかっている――ということね」ファサァ
浦原「ま、そういうことッス~。生憎アタシは涅サンから好かれてないみたいなんスけど、一応魔女に関する資料とかはこっちにも回してもらってますしね
他にも念話通信機ですとか、いらなくなった研究用の道具なんかも少し譲ってもらいましたよ。いや~、頭を下げてみるもんスね~」パタパタ
ほむら(この男……なんだかんだであの死神の扱いに慣れてるみたいだけど、本当にどういう関係なのかしら……)
浦原「あーそれと勿論、鹿目サンを魔女にしてしまっては元も子もありませんから、今後も人工シードの支給は勿論、改良にも力を入れていくみたいッス」
ほむら「――なるほどね。大体の話は把握したわ
とりあえず、差し当たってはまどかに対して不利な流れにはなっていないようね……」ホッ…
リン「はいっ!……あの、本当に大事な方なんですね、鹿目さんはあなたにとって……!
ご、ごめんなさいっ……僕が謝るのも変かもしれませんが、局長のせいで皆さんがひどい目に遭われたと……!」ペコリッ!
ほむら「……!」
799: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:06:08.66:WrhrV5tUO
リン「あっ!そ、それに副局長――涅副隊長からも、謝罪の意を伝えておくよう頼まれてました――!」
ほむら「……涅ネムから?」
リン「はい……他の皆さんには直接謝られたそうですが、意識を失っていた暁美さんにだけは隊務の都合もあって謝罪することができなかったと――!」
ほむら「……そう、他のみんなには謝ってたのね。よかったわ、特にマミはすごくショックを受けていたから――」
ほむら「――あなたも、上司があんな男じゃ色々大変でしょうね」フフ…
リン「いっ!?いえっ、そそそんなことは……!!」アタフタ
ほむら「ありがとう。あの男を許す気持ちには今はまだなれないけど、とりあえずあなたと涅ネムの謝罪は受け取っておくわ」ファサァ
リン「……!は、はいっ!」ペコリッ!
800: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:06:27.05:vLfxef5P0
浦原「――さて!うまい具合に和やかな雰囲気になったところで、アタシたちはそろそろお暇するとしましょうかね~」パタパタ
ほむら「あら、そうなの?」
浦原「ハイ、落ち着いてお話をする為に簡単な人除けの結界をこの病室に施してますんで、あんま長居出来ないんスよ
あーでも、アタシももうしばらくはこの街で魔女について色々調べてみますんで、もしなんかありましたらこちらの番号へおかけ下さい~」つ メモ
ほむら「わかったわ――多分これからも、まどかに関することで何か意見を仰ぐこともあると思うけれど、その時はよろしく頼むわね」
浦原「お任せください~!そんじゃ、アタシらはこれで失礼させて頂きます
まだ病み上がりですし、あんまし無理しないようにした方がいいッスよ~」パタパタ
リン「あ、それじゃあ暁美ほむらさんっ!僕も失礼しますっ!」ペコリッ!
そう言い添えて、病室を後にする浦原とリン
ほむら「……ふぅ」ホムゥ…
二人が出て行った後、ほむらは深く息を吐いた
長らく抱え続けてきた重荷が、ようやく少しだけ軽くなった気がする
ほむら「まどか……とりあえず、あなたを取り巻く状況は悪くないみたい……」
ほむら「……魔力を失った私は、またあなたにとって足手まといにしかならなくなってしまったけど、それでも――」
と、そこで人が来る気配がした
どうやら今度こそ医者のようだった
801: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:06:54.50:vLfxef5P0
ーーーー
翌日―
見滝原市・病院
昨日、目を覚ましたほむらは検査を受けた結果、単に疲れが溜まっていただけだろうと判断された
実際彼女はワルプルギスとの決戦までは勿論のこと、その後もマユリの研究素材になるという代償の件が気がかりで、精神的に休まる時がほとんどなかったのだ
まどかが魔法少女になりマユリを撃退したところで、ほむらの緊張の糸はぷつりと切れてしまったのであった
念の為昨日はもう一泊病院で過ごし、今日無事に退院に至ったほむら
看護師「それじゃあ暁美さん、お大事にしてくださいね」ニコッ!
ほむら「はい、お世話になりました」ペコリ
そう頭を下げて、ほむらは病院を後にする
「お、出てきた出てきた~」
病院を出たところで、ほむらのよく知る声が聞こえてきた
804: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:08:16.63:WrhrV5tUO
杏子「――ったく、散々ひとりで色々背負い込んで、結局最後にはバタンキューかよ。だらしねーやつ」ニィ
さやか「もぉ、心配したんだからねー?なんたってあんたはあたしの第二の嫁になるんだから!」ニヤニヤ
マミ「でも、大事に至らなくて本当によかったわ。これからは何でも抱え込まずに、ちゃんと友達に相談するのよ?」ニッコリ
ほむら「あなたたち……!」ハッ
まどか「――ほむらちゃん」
ほむら「まどか……!」
まどか「ごめんね、ほむらちゃん……私、契約しちゃった
ほむらちゃんが一生懸命、私を魔法少女にさせない為に頑張ってきてくれたのに……怒ってるよね?」ショボン…
ほむら「……!」
ほむら「……顔をあげて、まどか」
まどか「でもっ――」
ダキッ!
ほむら「謝らなければいけないのは私の方よ――あなたに、いえあなたたちみんなに」ギュウゥ…
805: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:08:50.34:vLfxef5P0
まどか「ほむらちゃん――」
ほむら「自分では、あなたたちを仲間だと――友達だと思って一緒に戦ってきた
けど私は結局、心の底ではあなたたちのことを頼り切ることができなかったんだわ――」ナデナデ
まどか「……うん」
ほむら「もしあなたたちの誰かが、今回みたいにひとりで何かを解決しようとしてたら、多分私も放ってはおかなかった
あなたたちがそうしてくれたように、手を差し伸べに行くだろうって、ようやく気付いた――」フルフル…
まどか「……うん、そうだね」ナデナデ
ほむら「だから、ごめんなさい!仲間だ友達だって言って、結局みんなに迷惑をかけることになってしまって……!
せっかくワルプルギスの夜を倒したのに、あなたを魔法少女にさせてしまってっ……!!」フルフル…!
まどか「……ほむらちゃん、私、魔法少女になったこと、後悔してないよ」ナデナデ
まどか「確かにちゃんとみんなに相談してほしかったけど、最終的にこうしてみんな無事でいられたんだし、そのことはもういいの」
まどか「だからねほむらちゃん、もう、悩んだり苦しんだりするのはおしまい」ポンッ!
まどか「ほむらちゃんがずっと探し続けてきたこれから先の時間を、みんなでいっぱい楽しもう!」ニコッ!
ほむら「……まどかぁ」ボロボロ
807: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:09:28.73:vLfxef5P0
さやか「あーあーまた泣いちゃって。クールなほむらちゃんの設定はすっかりなかったことになっちゃったのかしらね~?」ヨシヨシ
杏子「ほら、泣くのはもういいだろ?これからは楽しいことだけ考えて生きてけって!ほら、笑えよ!」コノコノ
ほむら「ちょ、杏子……口角を引っ張り上げるのはやめ……!」アタフタ
マミ「ふふふ、それじゃ、行きましょうか。暁美さんの退院祝いに、ケーキでも食べに行かない?
実はケーキのおいしい喫茶店を見つけたの――」ニコニコ
さやか「おっ、それいいですねー!」
杏子「よっしほむらの奢りなー」
ほむら「なっ…どうして私の退院祝いなのに……!?」ホムッ!?
さやか「あれあれ~?『結局みんなに迷惑をかけることになってしまって……!』っていう言葉に誠意はこもってなかったのかな~?」
ほむら「うっ…」ホムゥ…
まどか「もぉ、みんなダメだよ、ほむらちゃんをいじめたら!」
アハハハ…
812: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:11:37.13:WrhrV5tUO
ほむら(これですべてが解決したわけじゃない……)
ほむら(結局まどかは魔法少女になってしまったし、まどかを元に戻す方法もまだわからないまま……見つかるのかすら定かではないわ)
ほむら(けれど私はもう、足踏みなんてしない)
ほむら(もしかしたらもう一度キュゥべえと契約すれば、再び時間を戻せるかもしれないけれど……)
ほむら(……ううん、やっぱりそれはしないでおくわ)
ほむら(私はこれからみんなと……大切な友達たちと一緒に、過去ではなく未来を生きていく!)
杏子「おっ!なんだありゃ?」
ほむら「へ…!?」
杏子の声にほむらが顔を上げる
杏子が指さす先には、真新しいがこじんまりした店屋が建っていた
さやか「んーと…『駄菓子の浦原商店・見滝原支店』?」
814: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:12:02.36:vLfxef5P0
ほむら「浦原商店…!?」
杏子「へー駄菓子屋かぁ!珍しいなぁ今時!」
マミ「新しくできたみたいね。いわゆるレトロブームっていうやつかしら?」
まどか「私、駄菓子屋さん見るの初めてかも……」
杏子「おっしゃ!そんじゃ試しに入ってみようぜ!」
さやか「えー、ちょっとー!これからケーキ食べに行くってのにー?」
マミ「ふふ、まぁいいじゃない美樹さん?私もちょっと興味あるし、ね
暁美さんも入ってみない?」
ほむら「え?いや、ていうかあの店――」
「おやっ、いらっしゃ~い暁美サン」バッ パタパタ
ほむら「……やっぱり」ホムゥ…
さやか「えっ?なになに、ほむらの知り合い?」
815: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:12:32.64:vLfxef5P0
ほむら「……私というより死神の、ね
現世で魔法少女と魔女について研究してくれてる在野の科学者だそうよ――」
まどか「えっ!?そうなんですか!?」
浦原「えぇ、まぁ。尤も表の顔は少し影のある一介のハンサムエロ店主ッスけどね~」パタパタ
マミ「はぁ……?」コンワク
ほむら「――それより支店て、いったいどういうこと?」
浦原「いやね、なんせこの街は魔女にとっての重霊地――いわば魔女の吹き溜まりみたいな場所ですから」
さやか「ひどい言われようですね……」
浦原「アッハッハ、こりゃ失礼しました~。で、まぁそんなわけですし、すぐ近くに魔法少女のサポートセンターみたいなものを設置した方がいいかと思いましてね~」
マミ「サポートセンター……駄菓子屋さんが、ですか……?」
浦原「ですから~、これはあくまで“表向き”の商売ッスよ~
技術開発局やアタシの研究室の方で何か魔法少女向けの便利グッズを開発したら、こちらで取り扱わせてもらう予定ッス」パタパタ
まどか「本当ですか!?すごく助かります!」
816: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:13:03.30:vLfxef5P0
杏子「なぁおっちゃん!ほむらの退院祝いになんか奢ってくれよ!」ニィッ!
浦原「お、おっちゃんって……アタシそんなに老けて見えますかねぇ~……」アハハ…
さやか「そーだよ杏子!しかも図々しすぎ!」
杏子「いーじゃねーか駄菓子の一個や二個、サービス悪い店は長続きしねーぞ?」
まどか「きょ、杏子ちゃん……!」
浦原「いや~参りましたね~。そんじゃ、お好きな駄菓子を三つ選んで持ってってください」パタパタ
杏子「さっすが若店長、気前がいいねー!」
マミ「でも、申し訳ないです――」
浦原「気にしないでください~。皆サンは今後のお得意サンたちですし、開店記念サービスってことで」ヒラヒラ
ほむら「けど、あなたこの街に長居はしないのでしょう?支店て書いてあるし、店の管理は誰に任せるの?」
浦原「ご安心ください~。新装開店に合わせて、フレッシュな看板娘を雇うことにしましたんで――」
さやか「看板娘?」
817: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:13:55.93:vLfxef5P0
浦原が店の方へと視線を移すと、奥からひとりの女性――否、少女がおずおずと姿を現した
歳は高校生ぐらいで、セーラー服の上に『浦原商店』と書かれたエプロンを着ている
浦原「――暁美さんにはちらっと話しましたよね?『いらなくなった研究用の道具なんかも少し譲ってもらいました』って。その時一緒に引き取ったんス――」
ほむら「……引き取って?」
浦原「なんでも、『情に流されたり口答えしたりをしない、より高性能なものを創るんだヨ』とか仰って、廃棄しようとしてらしたんでね
そのまま廃棄されちゃうのも勿体無いんで、頭を下げてどうにか譲ってもらったんスよ」
さやか「……!それって――!?」
浦原「生憎ウチに余ってた義骸が一つしかなかったんで、あんな身体に入ってもらってますがね~
ちょうどこの支店を誰かに任せようと思ってましたし、どうせなら可愛らしいお嬢サンの方が店が華やぎますから――」バッ
まどか「……!!ひょっとして……っ!!」パァッ!
驚きと喜びが混ざり合ったような表情を浮かべて、恐る恐る言葉を発するまどか
少女は恥ずかしげに視線を逸らしていたが、やがてまどかたちの方を向くと、穏やかな、それでいてはっきりとした声で言った――
「――お久しぶりです、鹿目まどかさん」ニコッ―
まどか「――ミモザさんっ!!」ダッ―
はにかむように微笑む彼女に向かって、まどかは一目散に駆け寄った
819: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:14:20.35:vLfxef5P0
ーーーー
どこか遠くの街―
『助けて――!』
少女「だれ!?だれなの――!?」ハァ…ハァ…!
我等は姿無きが故にそれを畏れ――
少女「ハァ…ハァ……あっ!!」
QB『助けて、ボクはここに……!』グッタリ…
少女「ひどい怪我……!あなたが私を呼んだの……!?」
821: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:15:44.70:vLfxef5P0
無き故に敬う――
QB『はやく……ここからボクを連れて逃げ――!』
「いい加減鬼ごっこは止めにしないかネ――?」
QB『きゅっぷい!?』ビクゥッ!
少女「…っ!な、なにっ……!?」ヒィッ!
「ホゥ、もしやキミは魔法少女候補かネ?」カクッ
少女「なっ…魔法少女……!?」コンワク
「……マユリ様、魔法少女及び魔法少女候補に対しては」
「うるさいヨ、そんなことは百も承知だ。ただ、駄目元で一応の確認を取るぐらいは構わんだろう――?
822: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:15:58.62:vLfxef5P0
少女「……いったいなんなのよ!?あ、あなたいったい――」
マユリ「お前もうるさいヨ。今の我々の目的はこの地区のインキュベーターの捕獲だ
――とはいえ、ちょうどいい機会だネ。ひとつ、聞いておくとしよう――」
少女「な、なに……?」フアンゲ
かくて、刃は振り下ろされる――
マユリ「どうだネ小娘、私のもとで研究体として働く気はないかネ?」
BLEACH・SS『Magical Chemical Mayuri★Magica』 ~Fin~
826: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:16:26.22:vLfxef5P0
876: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:28:24.75:WrhrV5tUO
ーーーー
~回想~
元柳斎「……魔法少女か」
尸魂界・瀞霊廷一番隊舎
隊首会の席でマユリが一通りの報告を終えると、憮然とした表情のまま総隊長が呟いた
浮竹「魔法少女に魔女、インキュベーター……俄かには信じがたい報告ばかりだ」
日番谷「バカバカしい……と言いてぇとこだが――」チッ
京楽「――実際、こうして目の前に持ってこられちゃあねぇ……信じるしかないじゃないの」フゥ…
隊首室の中央には、拘束された魔女と無数の使い魔たち
未知の存在を目の当たりにして、隊長たちは程度の差はあれ驚きを隠しきれない
砕蜂「こんなモノ共が現世に……!先遣調査にあたった隠密機動はこいつらを見逃したというのか――!」ギリッ
狛村「それは致し方あるまい、砕蜂隊長
聞けば、こやつらの霊圧は非常に特異で、その結界とやらによほど接近せねば感知は困難だという」
京楽「しっかしこんなのが人を襲ってたってのに、今まで一度も目撃報告がなかったとはねぇ……」
マユリ「それにはおそらくインキュベーター共の工作もあったのだろう
ヤツらは遥か昔から現世にて暗躍し、魔法少女たちを生み出してきたのだからネ――」
浮竹「なるほど、魂魄を利用するインキュベーターたちにとって、護廷十三隊にその存在を知られることは避けたかったということか」
卯ノ花「そのために、魔法少女や魔女が死神と接触することがないよう、なんらかの手を打ってきたのですね――」
マユリ「ああ。おそらく魔女や魔法少女の霊圧波形が独特で感知しづらくなっているのも、ヤツらの仕業なのだろうネ
加えて、魔女の霊圧波形は虚のそれと非常に相性が悪い――」
日番谷「相性だと?」
マユリ「端的に言って、魔女の霊圧は虚からすれば非常に気分が悪いものなのだヨ
故に、ある程度知能がある虚ならば魔女の出現しやすい地域には近づかないし、獣並みの知能しか持たない虚も本能的に接触を避けようとするわけだ――」
白哉「……虚の出現頻度が低ければ、その地域専任の死神は任を解かれ、周辺地域の死神が担当範囲を兼任する
元来虚の出現率が低いため、兼任した死神は当然の如くその地域に対する警戒を緩める……という寸法か」
マユリ「ま、ヤツらがそこまで詳しく護廷十三隊のシステムを理解していたのかは知らんがネ」
剣八「ハッ!んなこたぁどうでもいいだろう
重要なのは、もうすぐ現世に現れるって話の大型魔女をどうするか――ってことだろうが」ニヤリ
狛村「うむ、もしその協力者――暁美といったか?その魔法少女からの情報が事実ならば、甚大な被害が現世にもたらされることになる」
浮竹「直ちに我々も迎撃準備を――!」
元柳斎「――待てい」
一同「…!」
元柳斎「…魔女の討伐を目的として、護廷十三隊から部隊を派遣することはできぬ――!」
ーーーー
ほむら「どうしてよ!?」
マユリ「フム、まずは我々護廷十三隊側が把握している魔女および魔法少女に関する情報がまだまだ少ないことが挙げられるネ」
マユリ「何せ、長い尸魂界の歴史の中で、初めて認知された事案だ
おまけに情報元はこれまた得体の知れない“自称情報通の魔法少女”一人、組織としては慎重に動かざるを得ないのだヨ」
ほむら「……私一人の証言では、ワルプルギスの夜の危険性が話半分に取られても仕方ない――ということ?」クッ…
マユリ「はっきり言えばそういうことだ。何しろキミが何故、魔女やインキュベーターについて詳細に熟知しているのかも、我々にはわからないのだからネ――」ニヤリ
ほむら「…っ!」
マユリ「果たしてキミがワルプルギスの夜についての情報をどこで知り得たのか――それすらもはっきりしないうちは、キミの情報に信憑性は宿らんのだヨ」
ほむら「…………」ギュッ…
マユリ「加えてもう一つ、こちらの方がより直接的な理由になるだろうが――」
ほむら「……なに」
マユリ「キミたち魔法少女は、魂魄を特殊な形に加工されたとはいえ、生者であることには違いない
そして同様に、異形の姿をした魔女でさえも、その実態は肉体を持つれっきとした生者なのだヨ――」
ほむら「……魔女が、生者?」
マユリ「ま、外見からは想像もつかないだろうがネ
とにかくだ、魔女が肉体を持つ物的領域の存在である以上、霊的領域を管理する我々死神の管轄外と考えざるをえないわけだヨ――」
ほむら「――っ!そんな……!甚大な被害をもたらすことがわかっているのよ――!?」
マユリ「地震や台風でだって被害はでるだろう?それと同じだことヨ」
ほむら「同じ――っ!?」
マユリ「戦争や災害でどれだけの死者が出ようと、我々尸魂界の関与すべきことではない
それはキミたち人間の管轄だ。徒に現世と尸魂界の役割分担を乱すことはできないということだ、わかるかネ?暁美ほむら――」
マユリ「――ワルプルギスの夜は一種の“災害”と判断されたのだヨ」
ほむら「――あなたたち二人は、大丈夫なの?現世の“災害”如きに出撃しても――」ギュッ…
マユリ「ああ。現時点では判断しかねるとはいえ、どの道今後は尸魂界側も魔女や魔法少女について無知ではいられないからネ――
さしあたっては、技術開発部門の統括者である我々二人が、最大級の魔女であるというワルプルギスの夜について、その能力調査を行うこととなったわけだヨ」カクッ
マユリ「尤も、本来ならこの手の本格的な調査は二番隊の管轄なんだがネ
魔女研究の為と言い張ってどうにかこちらの意見を通すのには骨が折れたヨ――」
ほむら「――そう、死神側の意向はよくわかったわ
それじゃ、いい知らせとやらを聞きましょうか」ファサァ
マユリ「ホゥ、内心では落胆しているだろうに随分と気丈なことだネ
いい知らせというのは外でもない、今話した死神側からの支援についてだ」
ほむら「…?なにを言っているの…死神からは増援は来ないとつい今しがたあなたが――」
マユリ「そう、増援は派遣しない
そのかわり、キミたちがワルプルギスの夜との戦闘に敗北した場合の事後処理が検討されているのだヨ――」
ほむら「事後処理……?」
マユリ「いやはや、実際ああは言ったものの、魔女をはっきりと生者に分類してもいいものか、異を唱える隊長格も少なくなくてネ
魔法少女についても、独特とはいえ霊圧を持つ存在である以上、死神から何らかの関与を考慮すべきではないかという意見も出ている――」
マユリ「キミは知らないだろうが、人間でありながら霊的戦闘力を持つ滅却師という種族が昔いてネ、それと死神とである種の同盟を締結していた時期もある
つまり場合によっては、今後魔女及び魔法少女に関わる事案も、一部死神の管轄領域に含まれるかもしれないということだ」
マユリ「従ってまだ検討段階ではあるが、キミらの敗北後、ワルプルギスの動きを尸魂界側で捕捉し討伐作戦を実行する可能性もある、ということだネ――」
ほむら「……それはつまり、私たち魔法少女がしくじった時の後始末ぐらいはしてくれる、ということだネ――」
ほむら「……それはつまり、私たち魔法少女がしくじった時の後始末ぐらいはしてくれる、ということ?」
マユリ「そういうことだネ。悪い話じゃないだろう?
これでキミたちは心置きなく、全力で決戦に臨むことができるのだからネ――」ニヤリ
ほむら「そう…確かに、そうね」
ほむら(もしそうなれば、私たちが死んでもまどかやこの街の人たちは助かる見込みがある――)
ほむら(死ぬ前にそれだけ確認できれば――もう巻き戻さなくていいかもしれないわね)
マユリ「それと些細なことではあるが、決戦にさしあたってなんとか空間凍結の許可が下りたヨ」
ほむら「空間凍結?」
ネム「死神が虚と戦闘を行う際、戦闘区域一帯の空間に凍結処理を施して、戦闘による建物や民間人への被害を軽減することです」
マユリ「本来であれば対虚戦において発動される対応だが、一応隊長格の死神が現世で戦闘するということで許可が下りたというワケだ
とはいえ、前述のようにワルプルギスの夜は霊的存在ではないのでネ、空間凍結をしても大した効果はないのだが――」
ほむら「被害が少しでも減るのなら、気休め程度だろうとあるに超したことはないわ」
マユリ「――ところで、いい知らせはもう一つあるのだが、聞くかネ?」カクッ
ほむら「…?ええ、聞くわ」
マユリ「決戦に備えて、キミたちにいいものを用意してきた――ネム!」
ネム「はい、マユリ様」スタスタ…
返事をしたネムは、荷車にかけられた布をつかむと――
バサァッ…
ほむら「――!?これは――」ハッ
マユリ「ンッフッフ……そう、グリーフシードだヨ」ニヤリ
ほむら「しかもこれ、人口じゃない本物のグリーフシードじゃない!一体どうやってこれだけの数を――!」
マユリ「なに、研究成果を確かめるためにすこしばかり“養殖”を試みてみたのだヨ――」
ほむら「養殖…!?」
マユリ「簡単な話だヨ。キミたちから回収した人口シードに溜められた“穢れ”――それを抽出して、捕獲した使い魔共に流し込んでみたのだヨ」
ほむら「使い魔に……まさか――!」
マユリ「そう、瞬間的に多量の穢れを注入された使い魔は、急激に魔力が上昇し魔女として覚醒するわけだ」
マユリ「しかし、本来ならば人を襲うことで徐々に魔力を蓄えていくハズの使い魔は、この方法で魔女になっても魔力が不安定なためすぐに自滅することが多い――」
マユリ「そうして生まれては自滅していく魔女共が残したグリーフシードを、このように回収してきたというわけだヨ。理解できたかネ?」カクッ
ほむら「――ええ、十分よ
それじゃ、今度は私から、あなたがいない間に他の魔法少女たちと練った作戦について――」
マユリ「ああ、必要ないヨ。もう知ってるからネ」
ほむら「……は?」
マユリ「私はとても慎重な性格でネ…一度戦った相手には、常に何らかの手を打っておくようにしているのだヨ――」
マユリ「――佐倉杏子には、無数の監視用の菌を感染させている」
ほむら「なっ……!?」
マユリ「故に、キミたちの作戦会議の様子や連携の完成度については、既にこちらも熟知しているということだ。重ねての説明は不要だヨ――」シレッ
ほむら「――すぐにその監視を解除しなさい」キッ
マユリ「ヤレヤレ、注文の多いヤツだネ。確かにこれ以上監視していてもヤツから目新しい情報は入らなそうだ。解除しておくとするヨ――」
ほむら「――やっぱりあなたとは親しくなれそうにないわね」
マユリ「親しくするつもりなど元よりなかったろうに、白々しい小娘だヨ全く――それよりもだ、ワルプルギスの夜について、キミはより詳しい戦闘力や攻撃方法などの情報を持っているんだろう?」
ほむら「――っ!」
マユリ「いまさら白を切るのは止め給え。キミの能力が単なる時間の停止だけではないことなどお見通しだヨ――」カクッ
ほむら「…………」
マユリ「本来魔法少女が知るはずのない事実の数々、これから交戦するはずのワルプルギスに対する妙に確信的な知識と態度
そして魔法攻撃を行わない、物理的な武器攻撃による戦闘スタイル――いい加減手の内を明かしてもいいのではないかネ?」
ほむら「――まさか、よりにもよって最初にこの能力を明かす相手があなたとはね……」ハァ…
ーーーー
マユリ「――面白い!実に面白いじゃないか!」
苦渋の決断の末、とうとう自らの真の能力を明らかにしたほむら
時間遡行という能力を知り、マユリは興奮を隠そうともせずほむらを追及する――
マユリ「これで合点がいったヨ!キミの並外れた戦闘技術や武器の取り扱い方は、繰り返される時間の中で洗練されてきたのだネ?」
ほむら「……ええ、そうよ。いくら魔力で身体能力を強化しているとはいえ、攻撃魔法の使えない私の戦闘力は他の魔法少女に比べ著しく低い――」
マユリ「いやはや大したものだ!
そうやって同じ一ヶ月間を繰り返し続けることで、自分にとって最もワルプルギスの夜と戦い易い状況を模索してきたというわけか!」
ほむら「…………」ギュッ…
マユリ「美樹さやかや鹿目まどかの契約を何としてでも阻止しようとしていたのもその為かネ?
ヤツらが魔法少女化することで、結果的にキミにとって不利な状況になる、と――?」カクッ
ほむら「――ご明察よ」
マユリ「フム――ところで、キミの話を聞いていて一つ気になったことがあるのだが?
キミが時間を巻き戻し、新しい時間軸に移行した場合、元いた時間軸上でのキミの存在はどう扱われるのかネ?」
ほむら「……?なにを言って――」
マユリ「たとえば今、この場でキミが時間を戻したとしよう
その場合、この時間軸でキミは始めから存在していなかったことになるのかネ?」
マユリ「それともキミが存在していたという事実は残り、突然行方不明にでもなったとして扱われるのか?
あるいは事故死したとでもいう風に、キミを知る者たちの記憶が都合よく改変されるのか――?」
ほむら「そ、そんなこと――!」
マユリ「ああ、時間逆行を発動すると同時に、私の目の前でキミから魔法少女の記憶と能力が失われ、ただの人間に戻る、という可能性もあるネ!
その場合他の連中の中でのキミの扱いはどういう――」
ほむら「そんなこと私が知るわけないでしょうっ!!」
マユリ「――フン、まぁいいだろう。それで?話をワルプルギスに戻すとしようか――」
直前まで自分が執着していたはずなのに、あっさり話題を変えてしまうマユリ
尤もほむらからすれば、これ以上自分の能力について根掘り葉掘り問い質されるよりずっとマシなのだが――
ほむら(そう――私にとって、まどかを救えなかった時間軸に意味はない)
ほむら(大事なのは今――今度こそ、まどかを救ってみせる!)
ーーーー
翌日―
見滝原市・コンサートホール
恭介の乗った車椅子を押すのはさやかである
普段は松葉杖を使って登下校している恭介だったが、今回は車椅子席で鑑賞した方が楽だと思い、車椅子に乗ってデートに臨むこととなった
恭介「――久しぶりだな、生でオーケストラを聴くの……」シミジミ
さやか「でしょー?えへへ、せっかくの初デートだし、どこ行こうかいろいろ悩んだんだけどさー……」
恭介「――ありがとう、さやか」ニコッ
さやか「へっ!?あ、あはは、やだなーもう急に改まっちゃってさー…////」ドキドキ
恭介「……正直ね、もう、こんな風にオーケストラのコンサートに足を運ぶことはないだろうなって、入院中は思ってたんだ
この腕が治らなくて、自分で演奏することができなくなったら、クラシックなんて聴きたくもなくなるはずだ……てね」
さやか「恭介……」
恭介「けど、さやかがいつも見舞いに来てくれて、僕を応援してくれて……
今思えば、さやかが心の支えになってくれてたんだって、告白された時に気付いたんだ」
恭介「だから、こうしてまた音楽に触れていけるのも、さやかのおかげだよ
――本当に、ありがとう、さやか」
さやか「……どういたしまして、恭介!」ニコッ
もう訪れることもないように思えた、恭介との幸せな時間
だが、さやかは気づかなかった
記念すべき初デートの舞台であるコンサートホールの裏手に根付いて、微かに脈打っているグリーフシードの存在に――
ーーーー
見滝原市・ほむホーム
マミ「――まぁ!ネムさんたち、現世に戻ってたの?」パァ!
ほむら「ええ、昨日こっちに来たみたい。今日は相変わらず調査とか言ってどこかへ行ってるらしいけど――」ファサァ
杏子「にしても、作るだけじゃ飽き足らずグリーフシードの養殖までしちまうなんてなー
やっぱあのおっさん変態だよ、うん」アキレガオ
マミ「とはいえ、決戦まで天然のシードは取っておいた方がいいわね
穢れの吸収容量は少ないけど、今の内はまだ人工シードを使っていきましょう」
杏子「だな。節約節約~♪」
ほむら「…………」
マミ「――暁美さん。ひょっとして、死神さんたちからの増援が来ないっていうことを気にしてるのかしら?」
杏子「なーんだ、そんなん関係ねーって!アタシら三人のコンビネーションならワルプルギスとも渡り合えるさ」
マミ「それに、グリーフシードの備蓄があるだけでも十分な支援よ
魔力の消費を気にせずに戦えるもの」
ほむら「――そうね、その通りだわ。ただ、このことは二人には黙っててほしいの――」
杏子「ん?あー、確かに、まどかとさやかが余計な心配すっかもしんねーしな」
マミ「わかったわ、鹿目さんと美樹さんにはこのことは伏せておきましょう」
ほむら「――感謝するわ」
マミ「ふふ、それにしても、久しぶりにネムさんとも色々お話ししたいわね!
こちらから連絡する方法があればいいんだけど……」
杏子「まー、適当に魔女狩りしてりゃ会えんじゃね?魔女のいるところにおっさんアリ、おっさんのいるところにお付きアリってな!」
ほむら「ええ、そうね。それじゃ、そろそろ行きましょうか――」
ーーーー
見滝原市・まどか宅
まどか「さやかちゃん、今日は待ちに待った上条君とのデートなんだよね!うまくいってるといいなー」ティヒヒ
まどか「ほむらちゃんたちも息ぴったりだし、これならワルプルギスの夜も倒せちゃうよね!」ウェヒヒ
まどか「そしたらみんなで旅行に行って、楽しい思い出をいっぱい作るんだ!」ニッコリ
まどか「…………」
まどか「……その、はずだよね?」
まどか「なのにほむらちゃん、どうして昨日あんなに思いつめた顔してたんだろ……」
ーーーー
魔女空間in公園
杏子「うおりゃぁぁぁーーーっ!!」ブンッ
魔女「アンテンッ!!」
杏子の放つ強烈な一撃が、《暗闇の魔女》の胴体を大きくえぐる
たまらず倒れこむ魔女の周囲には、いつしか無数の爆弾が設置されていた――
ほむら「今よ、巴マミ――!」
マミ「わかってるわ!
銃撃でダメージを与えると同時に暁美さんの爆弾を連鎖爆発させる、ふたりの力を合わせた協力技――!」
マミの合図と同時に、これまた無数のマスケット銃が出現し、起き上がろうとする魔女に照準を定める
マミ「――ティロ・シンクレティコ!!」
降り注ぐ銃弾の嵐に、起き上がりかけた魔女は再び体勢を崩す
続けてほむらの仕掛けた爆弾が次々誘爆していき、一気に魔女を包み込む――!
魔女「メノマエガマックラニナッタッッ!!!」
ドオォオォォォォーーーンッ!!
杏子「よっしゃ!」グッ
マミ「ふぅ……うん、上出来ね!」ニコッ
ほむら「――今の動きはよかったわ。このタイミングを忘れずにいきましょう」ファサァ
杏子「この調子であと2、3匹はいけそうだな!」ニィ
ほむら「そうね。他にも魔女がいないか探してみま――」
ゴゴゴゴゴ……!!
ほむら・マミ・杏子「――っ!!」
杏子「近ぇな――こりゃ、教会の方だ!」
ほむら「そのようね――」
マミ「それじゃ、もう一仕事済ませちゃいましょうか!」
ーーーー
見滝原市・コンサートホール
コンサートが終わり、会場から客たちが出てくる
恭介「すごかったね、さやか!」キラキラ
さやか「うん!やっぱ生のオーケストラは違うわー」
恭介「そうだろ?見ててよさやか、すぐに勘を取り戻して、僕もあんなホールで演奏できるように頑張るから!」
さやか「恭介……よしよし、がんばれよー?あたしが応援してるんだからねー!」
モワアアアァァァン…!!
さやか「え――?」
恭介「あれ?急に暗くなったね、天気予報じゃ晴れ――」
空を見上げた恭介は、そこでようやく異変に気付いた
いつの間にやら、彼らの周辺は異様な空間に包まれているではないか――!
同じように会場を出た人々も、一様に戸惑いと不安を露わにしている
恭介「これは、いったい――さやか?」
表情を強張らせるさやか
さやか「これって――魔女の結界?」
ーーーー
見滝原市・教会
入り口付近の壁に、結界の入り口を発見した魔法少女たちのもとに、念話で音声が聞こえてくる
ピッ カチャッ…
ネム『暁美さん、巴さん、佐倉さん――聞こえますか?』
マミ『…!ネムさんなの?
わぁ!久しぶりね!』パアァ
杏子『おう、アンタか。どうしたよ?』
ネム『はい…皆さんは今、どちらに?』
ほむら『市内の古びた教会よ。魔女を発見したから、これから退治するところ』
ネム『そうですか……実はたった今、こちらでも結界の出現反応を新たに探知しました
場所は見滝原市内、コンサートホール付近です』
マミ『コンサートホール……?』ハッ
杏子『……っ!!おい、それって――!?』
ほむら『…っ!!』
ネム『私は既にコンサートホールへ向かっていますので、どなたかに加勢をお願いしたいのですが――』
杏子『ちぃっ!わかった、アタシが行く!だからそれまで粘ってくれ――!』
ネム『了解しました――』ピッ
念話が切れると同時に駆け出そうとする杏子を、ほむらが呼び止めた
ほむら「待って。私が行くわ――」
杏子「はぁっ!?なんで――!」クワッ
ほむら「私なら時間を止めて移動すればより早く現場に着ける――」
杏子「けどお前、停止中に激しく動きすぎると魔力の消耗がひどくなってすぐ停止切れるだろっ!?
止めたり動かしたり繰り返してたら向こうに着く頃にゃ魔力が残ってねぇかも――」
ほむら「心配はいらないわ。その辺のバランスはうまくやるわよ――
それじゃ、こっちの魔女は二人に任せるわね――!」
そう言うや否や、二人の目の前からほむらの姿が消える
杏子「あっ――くそっ!」ダンッ!
マミ「佐倉さん…美樹さんが心配なのはわかるけど――」ヤンワリ
杏子「…わかってる。本人の言う通り、ここはほむらに任せるのが一番確実だよ
――さっ、アタシたちもさっさと蹴散らして、さやかたちの所に急ぐぞ!」ギュッ…
マミ「――ええ、そうね。ネムさんも先に向かってるって言うし、今は目の前の敵に集中しましょう!キリッ
そうして二人の魔法少女は、教会に現れた魔女の結界へと飛び込んで行くのだった――
ーーーー
魔女空間inコンサートホール
恭介「どうなってるだこれは……!さやか、大丈夫かい……?」
さやか「大丈夫だよ恭介…あたしはここにいるから……!」ギュウッ…
車椅子に座ったまま動揺する恭介を、後ろから抱きしめるさやか
辺りは色彩を失い、人も地面もまるで影絵のように黒く塗りつぶされている
《影の魔女》が作り出した結界に閉じ込められた人々は、さやかたちも含め全員がシルエットのみの姿で目に映っていた――
さやか(よりによって今日――この場所に魔女が出るなんてっ――!)
さやか(とにかく、みんなが助けに来るまで恭介と一緒に生き延びないと――!)
客A「ひっ…な、なんだあれはぁっ!?」ガクブル
さやか・恭介「!!」
閉じ込められた客の一人が悲鳴を上げた
崖のようになっている箇所の先端に、跪くような姿の魔女
その周囲から、動物の顔が付いた無数の触手が生え出てきて、一斉に人々へ襲いかかってきたのである――!
客B「うわぁぁぁーーーっ!!助け――」
触手型使い魔の一体が腰を抜かした客に食らいつこうとした瞬間――
「――破道の三十二『黄火閃』!!」
バァアァァァーーーンッ!!
さやか「っ!!」
眼も眩むような閃光と共に、使い魔が焼き払われる
ネム「ご無事ですか、美樹さやかさん」スタッ…
さやか「ネムさん!」
恭介「あれ…あの人……」(夢の中で会ったことがある、ような――)
ネム「じきに魔法少女の方々も来られるはずです
それまで私が食い止めますので、できるだけ魔女から離れた所へ――!」サッ
そう言うや否や、こちらに向かってくる無数の使い魔たちに飛び掛かっていくネム
さやか「そ、そうよ!早くどこかへ逃げないと……!!
――皆さんも!ここなんか危なそうだし早く逃げましょう!!」
そう叫ぶとさやかは車椅子の持ち手を強く握り、恭介を押しながら全力で駆け出した
突然の事態に呆然としていた客たちも、さやかの呼びかけが引き金となったのか一斉に逃げ惑い始める
恭介「さ、さやか…!さっきの人は……!?」
さやか「えっ!?あんたネムさんが見えるの――?」(ひょっとしてここが魔女の結界の中だから?)
さやか「えっと、その――ああもう!それより今は逃げるのが先っ!喋ってると舌噛むから静かにしててっ!!」
恭介「あっ!う、うんっ……!」
走りながら周囲を見回すさやかだったが、隠れる場所も出口らしきものも見つからなかった
時折窪みや小石に車輪を取られて、恭介の座る車椅子が揺れ安定を欠くため、逃げるスピードもそうは出せない
恭介「さやか……!僕のことはいいから、君だけでも逃げるんだ――!」
さやか「なっ――!バカなこと言わないでよっ!!恭介を置いてひとりで逃げろっていうのっ!?」
恭介「何が起きてるのかよくわからないけど――このままじゃ二人とも逃げ切れないのは確かだ。僕を押してるせいでさやかもスピードを出せてない。だから――!」
さやか「いい加減にしてっ!」
恭介「…!」ビクッ
さやか「せっかく…せっかく恭介の腕が治って、好きだって言えて、好きだって言ってもらえて――!」
さやか「これから色んな所に行ったり、一緒にご飯食べたり…!楽しいこといっぱいできるようになったのに――!」
恭介「さやか――!」
ネム「うぁ…ぐぅ……!!」ゲホッ
さやか・恭介「――っ!?」ハッ
喘ぐような悲鳴に二人が振り向く
見ると、《影の魔女》の周囲から生えた無数の枝が、取り囲むように全方位からネムを攻撃しているではないか――!
さやか「ネムさんっ!!」
ネム「が…はぁ…!に…げ……っ!!」グサグサグサグサッ!!
恭介「ひっ…う、うわぁぁぁ……!」
さやか「そんなっ…ネムさんがやられるなんて……!マミさんたち早く来てよ――!」
恭介「――っ!?さ、さやか、危ないっ――!!」
さやか「えっ――?」
次の瞬間、足元から飛び出した触手使い魔がさやかたちを襲った!!
さやか「きゃっ――!!」
恭介「うわぁっ――!!」
咄嗟に身をよじらせたさやかは辛うじて直撃を免れたが、使い魔の一匹が車輪に食らいついたせいで、バランスを崩した恭介が車椅子から転げ落ちる
恭介「うっ…痛っ……!」
さやか「恭介っ――!」
恭介に駆け寄るさやか
まだギプスの取れない足をおさえるようにして、恭介がさやかに語りかける
恭介「…さやか…早く逃げるんだ……!僕のことはいいから……!!」
さやか「バカっ!!そんなのダメだって言ってるでしょっ!?」(どうしよう――!)
恭介「僕だって…ほんとはさやかともっと一緒にいたいよ……!でもっ……!」
さやか「だったら諦めないのっ!ほら、肩貸すからつかまって――!」(このままじゃ、あたしたちみんなあの魔女に――!)
恭介「でも、僕だって……!さやかに何かあったら嫌なんだ…!僕が足手まといになるせいで、さやかの身を危険にさらしたくないんだ……!」
さやか「そんなのっ…!そんなの恭介のせいじゃないよっ……!!」(こんなところで死にたくない――恭介を死なせたくない――!!)
さやか「――――」
さやか「――キュゥべえ、いる?」ボソッ…
あああああー
396: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/21(水) 22:59:29.81:/1SaAlEnOーーーー
ほむら「ハァ…ハァ…くっ…!よりによって…教会から遠いコンサートホールに…ハァ…魔女が出現するなんて……!」ハァ…ハァ…
コンサートホールを目指して一心の駆けるほむら
時間を断続的に停止させてはいるものの、さすがに現場まで距離がありすぎた
元来身体の虚弱なほむらは、他の魔法少女よりも身体能力の向上に割く魔力が多いため、杏子の指摘した通り長時間停止を発動したまま全力疾走することはできないのだ
ほむら(けど慌ててはダメ……最良のペースを保った上で、できるだけ早くさやかを助けに行かないと……!!)
ーーーー
QB『いるよ。久しぶりだねさやか。キミがボクを呼ぶのはこれで二度目かな?』キュップイ
恭介「……えっ?こ、今度はなんだっ!?」ヒィッ!
突如目の前に出現したキュゥべえを見て、ますます混乱する恭介
そんな彼をよそに、決然とした表情のさやかがキュゥべえに問いかける
さやか「キュゥべえ。もし契約したら、今この場でいきなり魔法少女になれるんだよね?」
QB『ああ、勿論さ。契約した瞬間からキミは魔法少女だよ
それにしても意外だね。キミの願いは既に叶っているものかと思ったのだけど――』
車椅子に纏わりついていた使い魔が再びさやかたちを見る
それに呼応し、周辺の使い魔たちも次の標的をこちらへ定めたようだった
既に何人かの客たちは使い魔や魔女の枝攻撃による犠牲者となっていた
生き残っている者たちも、この閉じられた空間の中でいつまで逃げまわっていられるかはわからない
さやか「――私は今、力が欲しい。魔女と戦える力――この場から恭介を、みんなを助けられる力がっ!!」
QB『願いではなく生存本能――あるいは力そのものへの渇望が先行しているということかな?
いいのかい?せっかくの機会なんだし、叶える願い事だってもっとよく考えた方が――』
さやか「いいの」
QB『キミは知ってるのだろう?魔法少女になるということは、キミたちの言う“ゾンビ”とやらに成り果てるのと等しいって
魔法少女の末路が、今キミを襲っているような魔女であることも――』
さやか「いい加減にしてよっ!!私は魔法少女になるって決めたのっ!!
たとえ自分がゾンビみたいになったって、恭介を助けられるなら喜んで受け入れるっ!魔女たちと戦い抜いて見せるっ――!!」
ネム「ゲホッ…美樹……さやか…さん……ゲホッ!」
傷だらけの身をおして、起き上がろうとするネム
キュゥべえはそれを横目で流しつつ、変わらぬ口調でさやかに返答する
QB『――やれやれ、キミの決意は固いみたいだね
ボクはちゃんと忠告したよ?暁美ほむらにもキミからそう言っておいてくれ――』キュップイ
さやか「わかってる。これは紛れもない、あたし自身の決断だから」
恭介「――何を言ってるんだ」
さやか「……恭介」
恭介「さっきからいったい何を話してるんだよ!? 魔法少女?さやかがそれになるってどういう――!」
さやか「ねぇ、恭介――」
恭介「――っ!」
正面から恭介の目を見つめるさやか
周辺の使い魔たちは、動かない彼女たちを逃げる心配がない獲物と判断したのか、物色するようにじわじわと距離を詰めて来る
さやか「もしあたしが、普通の人間じゃなくなっちゃっても――恭介は私の傍にいてくれる?」
恭介「なっ――」
問い質したいことはたくさんあった
しかし、自分をまっすぐに見つめてくるさやかの眼を見ると、それらの言葉は引っ込んでしまう
決然としていてなお、不安を隠し切れていないさやかの瞳
自分の返事を聞くことに対して、恐れを抱いているのが容易に感じ取れた
ならば、彼の回答は一つしかない
恭介「――当たり前だろ」ボソッ
さやか「……恭介…!」
恭介「君が何をするつもりかはわからない……
正直、僕なんかのために君が危険を冒そうとしてるなら、なんとしても阻止したいところだよっ……けど!」フルフル
恭介「それでも君が、自分の意思を曲げないっていうなら――どんなことがあっても、僕は君の味方でいるよ、さやかっ!!」
さやか「――――」
さやか「――よかったぁ」ニッコリ
安心したように笑うさやか
その笑顔があまりに眩しくて、恭介は思わず息を飲む
さやかは恭介に背を向けると、再びキュゥべえと向かい合った
QB『さあ、美樹さやか――その魂を代価にして、君は何を願う?』
さやか「ここに閉じ込められた人たちを、無傷のまま全員結界の外に逃がしてほしいの
もし無理じゃなければ殺されちゃった人も――とにかく、ここにいるみんなを助けてっ――!!」
QB『契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した
――さあ、解き放ってごらん。その新しい力を! 』
《影の魔女》が異変に気付いた時にはもう、結界の中に捕えていたはずの人間たちは一人残らず消えていた
今まさに獲物に食らいつこうとしていた使い魔たちは標的を見失い、動揺したように周囲を見回す
すると、まだ残っている人影を二体、発見できた
ひとりは地に膝をつきながらも戦闘態勢を崩さない、涅ネム
そしてもうひとりは――
さやか「……さぁて、そんじゃ初仕事といきますかっ――!!」
バササァッ!
青を基調としたコスチュームに、純白のマント
それが翻ったと思った次の瞬間には、無数の剣が足元の地面に突き刺さっていた
魔法少女・美樹さやかの誕生である――!
使い魔「グワォォォーーーンッ!!」ゴォッ
一斉にさやかへ飛び掛かっていく使い魔たち
さやかは足元の剣を抜くと、次々敵へ向かって投げつけていった
さやか「せっかくのファーストデートが――あんたたちのせいでっ――!」ヒュンヒュンヒュンヒュンッ!
彼女の投げる剣の一本一本が、的確に使い魔を貫いていく
道が開けると、さやかは一気に魔女本体へと駆け出した――!
さやか「――どう責任取ってくれんのよっ!!」ブンッ
怒りと共に振り下ろされた刃は、しかし魔女を貫くことができなかった
《影の魔女》を守るようにして出現した無数の枝が、さながら鎧のようにさやかの攻撃を弾いたのだ
さやか「くっ…硬いなぁっ――!」ギリッ
ネム「美樹…さん……」フラッ…
さやか「…っ!ネムさん――!」ハッ
ひとまず魔女から飛び退いたさやかに、傷だらけのネムが声をかける
ネム「あの枝のようなものが……魔女を守る盾ならば…魔女本体の守りは、おそらく…さほどでもないはず……」ゲホッ…
さやか「ネムさんは休んでて。ここはあたしが――」
ネム「ですから…私があの枝を一瞬でも排除しますので……そこをあなたが突いて下さい……」
さやか「!!…でも、その身体じゃ……」
ネム「大丈夫…です。私の身体は…マユリ様が創りあげたもの……この程度の損傷で、死にはしません……!!」
さやか「ネムさん……わかりました
あたしはまだ、魔法少女になったばかりで未熟だから、ネムさんの力を貸してくださいっ!!」
ネム「……了解しました」
そう答えるや否や、ネムは両足を張ってしっかりと立ち上がると、掌を重ね合わせ魔女の方へと向けた
それにいち早く気づいた魔女は、ネムが攻撃を放つより先にとどめを刺そうと、周囲にめぐらした枝を展開し高速でネムたちへと放つ!
しかし――
ネム「――縛道の二十一『赤煙遁』!」
ネムは合わせた掌を素早く地面へ向け、その場に煙幕を出現させた
彼女が放ったのは攻撃用の破道ではなく、敵の攻撃をかわすための術だったのだ
そのまま煙の中に突っ込まれる無数の鋭利な枝
しかし、獲物をとらえたという手ごたえはない
一拍遅れて、煙幕からネムが飛び出してきた
傷ついた身でありながら大したスピードで《影の魔女》の右手側に回り込むと、今度こそその拳に攻撃用の霊力を集める――!
ネム「破道の五十四『廃炎』!!」
ボォオオォォォーーー!!!
放たれた漆黒の炎は、しかし魔女の身体を焼くことができなかった
ネムが煙から飛び出した時点で、魔女はその動きを予測し、自身の右側に枝を凝縮して盾を作っていたのだ!
魔女「サァ…アナタモヤミノセカイニキュウサイノイノリヲッッッ!!!」
そのまま一つにまとめた枝の塊をネムに叩き込もうとした瞬間――
グサリ…
《影の魔女》の胸を、背後から貫く一本の刃
そう、ネムは煙幕から出る直前に、対象の姿を透明に隠す二十六番縛道『曲光』をさやかにかけていたのである
そしてネムがそのまま囮になり、魔女の注意を引きつけたところで、反対方向から忍び寄ったさやかが、がら空きの背中を突き刺したのだった――!
さやか「――これで、とどめだぁ!!」ズバァッ!
突き刺した剣をそのまま一気に斬り上げるさやか
裂けたチーズのように、《影の魔女》の上半身が真っ二つになる
魔女「アア…キュウサイノイノリハトドイタノネ……ッッッ!!!」シュウウゥゥゥーーーッ!!
消滅していく《影の魔女》
さやかはサッと手を一振りして剣を消すと、傷つきながらも見事囮役を演じきったネムの方へ駆け寄るのだった
さやか「ネムさーんっ!やりましたぁー!!」ノシ ブンブン
ネム「……お見事です、美樹さやかさん」ニコ…
ーーーー
コンサートホールの外では、さやかの祈りによって結界から助けられた客たちが続々と救急車で運ばれていた
魔女の口づけで呼び寄せられたのでない彼らは、結界内部での恐怖体験を記憶していたため、救急隊員が声をかけても一様に脅え震るばかり
しかしながら、彼らの身体に目立った外傷のないことや、口走る内容がとても現実的なものとは思えないことから、先日同様集団催眠状態による幻覚と判断されたのだった
また、何らかの強いショックを受けたためか意識を失ったまま搬送される者も多かった
上条恭介もその一人で、担架で救急車に運ばれる間に何度かうなされているように声を漏らしていたという
「さやか…」と、彼がうわごとのように何度も漏らした名前が誰なのか、勿論救急隊員たちには知る由もない
それを知るのは、その場にひとり
救急隊の様子を唇を噛みながら見ていたほむらは、ホール裏手から魔力の名残を感じ、そちらへと回っていった
ーーーー
さやか「すいません、あたしの力じゃ今はまだこのぐらいしか……マミさんだったらもっと治療が捗ると思うんですけど……」
ネム「……いえ、謝ることはありません、美樹さやかさん。これだけ治療して頂ければ十分ですので……」
ネムの傷を手当するさやか
そこへ、険しい顔をしたほむらが現れる
さやか「あ……ほむら…」キマズゲ…
ほむら「…………」フルフル
さやか「えーと、その……あはは、ごめん!あたし、契約しちゃった――」
ほむら「――ごめんなさい、さやかっ!!」バッ!
さやか「――ちょっ…ええっ!?」
開口一番にそう言って頭を下げるほむらに対し、さやかは目に見えて動揺する
見ればほむらは肩を震わせており、その目尻には涙を浮かべているではないか
さやか「ちょっ、落ち着いてよほむら!あんた涙目で謝るようなキャラじゃないでしょ!?いつものクールな美少女はどこへいったの!?」オロオロ
ほむら「――私がもっと早く助けに来ていればっ…あなたが契約することもなかったのにっ…!」ブワァッ…
さやか「…ほむら……」
ほむら「私に任せろなんてっ…言って…杏子にもっ…マミやまどかにも顔向けできないっ……!」グスッ
さやか「……ったぁく、なーに気負っちゃってんのかねーこの娘は」ナデナデ
ほむら「ウッ…さやかぁ……!」ウッ…ウッ…
さやか「確かに、これであたしも魔女の宿命とやらに仲間入りしちゃったわけだけどさ――
――あたし、後悔なんてしてないよ、ほむら」サスサス
ほむら「ウゥ…でも……ウッ…!」グスンッ
さやか「あそこで決断しなかったら、何もかも終わりだったから
恭介だって殺されちゃうし、あたしももう二度とみんなに会えなくなるところだったしね――」ギュッ
さやか「それにさっ!やっぱりあたし、なんだかんだ言ってもどこかで魔法少女に憧れてたんだと思う
初めてマミさんに助けてもらった時からずっと――正義の魔法少女にね!」ニコッ
さやか「みんなが協力するようになって、ほむらやマミさんや杏子が戦ってるのをまどかと側で見ててもさ
なんかこう、『あたしもあの中に加わって、みんなの力になりたい!』って、いっつも思ってたんだ」
ほむら「……さやか……」
さやか「だからぁ、あんたがそんな辛そうな顔しちゃダメってこと!
これは全部あたし自身が決めたこと、あたしの願いだったんだから――!!」ビシッ!
ほむら「……そう、そうなのね……よかった…」グスン
さやか「そういうこと!ほら、顔拭きなよ。せっかくの美人が台無しだぞ~?」つハンカチ
ほむら「ありがとう…ごめんなさいね、みっともない姿を見せてしまって……」ゴシゴシ
さやか「なーに、いいっていいって!むしろ、普段はクールなほむらちゃんの新たな一面を見られてラッキーってな感じですよ~!」ニヤニヤ
ほむら「か、からかわないでちょうだい美樹さやかっ……////」カアァー
さやか「……さやかでいいよ」
ほむら「え…?」
さやか「ほら、あんたさっきまどかたちのことも下の名前で呼んでたでしょ?
無理していちいちフルネームで呼ばなくてもさ、素直に名前で呼んでくれていいよ?多分みんなもその方が嬉しいだろうし――」
ほむら「……わかったわ、さやか」キハズカシイ…
さやか「よしよし、かわいいやつめ~」ダキッ
ほむら「ちょっ…離れなさい、さやか――」
恥ずかしそうに身をよじるほむら
そこへ、伏し目がちにネムが近づいていく
ネム「……申し訳ありませんでした、暁美ほむらさん。私がいながら、みすみす美樹さんに契約をさせることになってしまって――」ペコリ
さやか「もぉ~、ネムさんまで、そんなのいいって!」
ほむら「……頭をあげて。あなたの責任ではないわ」
ネム「ですが、インキュベーターの出現位置を捕捉していたにも関わらず、身柄の拘束を怠ったのは我々のミスです――」
ほむら「いいえ、ここ最近おとなしくしていたせいか、私も奴への注意を怠っていたわ」
さやか「それに今回はキュゥべえ、何度もあたしに念を押してたしね。ま、この件に関しちゃ、あいつもお咎めなし!ってことで!」
ほむら「……そうね。どの道奴はもう、この街での積極的な勧誘は諦めたようだし――」
そう呟くほむらだったが、しかしその胸の奥では、何か漠然とした不安が首をもたげていた
ここまで順調に進んできた物語が、この出来事をきっかけに少しずつ暗雲の中へと進んでいく――とでも言うような……
杏子「おぉーい!」
マミ「暁美さーん、美樹さーん、ネムさーん!無事ー!?」
まどか「さやかちゃーん!ほむらちゃーん!」
そこへ、教会の魔女を撃破した杏子とマミ、それにコンサートホールで集団催眠事件が起きたのをニュースで知ったまどかが駆け付けてきた
この後、さやかの魔法少女化について三人を宥め説得するのに、それこそ初の魔女退治以上の労力を費やすことになるさやかなのであった――
ーーーー
少女たちが去った後のコンサートホール――
その裏手に位置する壁面から浮かび上がってきたのが誰か、もはや説明も不要であろう
マユリ「フム…面白い。実に面白いことだヨ!」
十二番隊隊長・涅マユリはそう呟くと、懐から取り出した霊波測定機をしげしげと見返す
マユリ「いやはや、普通の人間が魔法少女になる瞬間をこの目で見ることができるとはネ!成程、霊力の変容や霊圧の上昇値はこうなっているのかネ、フムフム――」
QB『――やれやれ、とんだ同盟者だね、あなたは。魔女結界の内部に侵入していながら、姿と霊圧を隠して魔女と交戦せず、美樹さやかが契約するのを待っていたなんて――』キュップイ
マユリ「しかも巴マミ同様、治癒能力を有しているとはネ。それに攻撃力はさほどでもないが、スピードに関しては他の魔法少女共よりも上のようだヨ――」
QB『――どうやら今は研究データの分析でそれどころじゃなさそうだ。ひとまずボクはこれで失礼するよ、涅マユリ――』キュップイ
マユリ「――フム、百聞は一見に如かずとはよく言ったものだネ。やはり実際にこの目で観察して得たデータは最高だヨ――」ククク…
やがてマユリは測定機をしまうと、ニヤリと笑みを浮かべつつ呟くのだった
マユリ「さて、次はいよいよワルプルギスの夜とやらの研究データを取るとしようか――」
ーーーー
あれから一週間―
晴れて魔法少女の仲間入りをしたさやかは、三人の先輩たちから連日しごきにしごかれた
厳しさと優しさを併せ持つマミ教官
淡々と、それでいて的確に指南するほむら教官
つい口調を荒げがちになるも、最後には照れくさそうにそっぽを向いてアドバイスをくれる杏子教官
全くタイプの違う三人の指導が功を奏したのか、ほんの一週間でさやかは十分に魔女と渡り合えるようになっていた――
杏子「とうとう明日かぁ……」
見滝原市・ほむホーム
暁美ほむら、佐倉杏子、巴マミ、美樹さやか、涅ネム、そして鹿目まどかは、決戦の前の最後の打ち合わせに集まっていた
ほむら「――というわけで、まどか。今夜遅くから風が強まってきて、明日の朝には避難勧告が出されると思うから
あなたは私たちがワルプルギスの夜を倒して帰ってくるのを、避難所で家族と一緒に待ってて――」
まどか「……うん」コクン
杏子「…なーに深刻な顔してんだよ」
まどか「え…う、ううん、そんなこと……!」アワアワ
杏子「バレバレだっての。ほら、食うかい?」つ ポッキー
まどか「あ、ありがと……」ポリポリ
さやか「だーいじょうぶだっての、まどか!
なんたってマミさん、ほむら、杏子の最強トリオに加えて、期待の超大物ルーキー・さやかちゃんを入れた無敵の四天王ッスよ~?」
杏子「さやかは四天王の中でも最弱……!」キリッ
さやか「ぶはぁっ!言ったなぁーこいつぅー!!」ムキー!
杏子「へっへっへー!だって事実だろ?」ニヤニヤ
まどか「あははっ……」
マミ「ふふふ…でも、美樹さんの言う通りよ、鹿目さん
グリーフシードの備蓄も十分あるし、私たちはみんなベストコンディションなんだからね」ウィンク!
まどか「……わかってます。みんなが力を合わせれば、きっと勝てるって
わかってるんですけど……それでも……!」
ほむら「……大丈夫だって気持ちに、なれない?」ソッ…
まどか「…っ!ほむらちゃん……!」ビクッ
不安な表情を隠し切れないまどかに手を伸ばして、その頭を優しく撫でるほむら
ほむら「絶対に大丈夫って――どんなに言葉を尽くしても、多分あなたは信じきれないのでしょうね」ナデナデ
まどか「……だって、すごく強い魔女なんでしょ?街全体に避難勧告が出るくらい、とんでもない凄さの……!」
ほむら「……ええ、そうね」ナデナデ
まどか「そんな凄い敵と戦って、みんな無事で戻ってこれるのかなって考えたら……どうしても不安になっちゃって……!」フルフル
ほむら「……うん。確かに、あなたがそう感じるのも無理はないわ」ナデナデ
まどか「それでね…!前にキュゥべえから言われたことを思い出したの――!」フルフル
まどか「『家族も友達も、キミの大切なもの全てを恐ろしい魔女から守り抜く力が、キミには眠っている』――!」
ほむら「――やっぱり、そういうことね」フッ…
まどか「え……?」
ほむら「私たちが大敵に挑むって聞いて、自分も何かの役に立ちたいって――そう思ったんでしょう?」
まどか「ほむらちゃん――」
ほむら「けれどね、まどか。もしあなたがワルプルギスと戦うために契約をしようと言うなら――私はあなたを許さないわ」ジッ…
まどか「……っ!」ハッ
ほむら「私たちは、これ以上インキュベーターたちの企みに乗せられて、悲しい因果の鎖へ囚われる少女を増やしたくない――」
ほむら「少女の弱みや純粋な願いにつけ込んで、戦いと絶望の宿命を背負わせるような奴らの、思い通りにはさせたくない――」
ほむら「そしてなによりも――大切な友達であるあなたを、魔法少女にしたくないの」
まどか「……みんな」
マミ「鹿目さん……」
さやか「まどか……」
杏子「まどか!」
ネム「…………」
まどか「――わかった」
ほむら「まどか――!」
まどか「……えへへ、みんながこんなに言ってくれてるんだもん!
私だってみんなのこと信じてあげなきゃいけないよね――!」
杏子「おうよ!だから最初っから言ってんじゃん!心配しないで待ってろってさ!」ニィッ!
さやか「まったくぅ、私の嫁はほんとに心配性なんだからぁ~!」ニコッ!
マミ「ふふふ…でも、その優しすぎるくらい健気なところが、鹿目さんの良いところでもあるのよね!」ニッコリ!
ネム「…………」コクリ
ほむら「――ありがとう、まどか。私を――私たちを信じてくれて」
まどか「ううん、いいよ!そのかわり、約束してね――?」
ほむら「ええ、約束するわ。私たち全員、必ず無事に帰ってくる――っ!!」
ーーーー
ネム「――それでは、鹿目さんをご自宅までお送りしてきます」
ほむホームの玄関口に立つネムとまどか
ほむらたちはこの後、明日の決戦に向けて最終打ち合わせに入る
まどかは一足早く、ネムに送られて自宅まで帰るところであった
マミ「それじゃあ鹿目さん、気を付けて帰ってね」ニッコリ
杏子「明日は避難所で寝泊まりだからなー、今日はしっかり寝とけよー!」ノシ フリフリ
さやか「じゃあね、まどか!あたしたちの活躍に期待しててよぉー?」ノシ
ほむら「――さようなら、まどか。また明日、全てが終わったら会いましょう」ファサァ
まどか「うん!それじゃ、みんな!明日は頑張ってね――!」ノシ バイバイ
そう笑顔で手を振って、まどかはほむホームを後にした
そんなまどかを見送ってから、おもむろにほむらが口を開く
ほむら「――決戦の前に一つ、あなたたちには話しておきたいことがあるの」
さやか「へ……?」
杏子「なんだよ、改まって――」
マミ「――それは、鹿目さんには聞かせられないことなのかしら?」
さやか・杏子「――!!」
ほむら「――ええ、そうね
あの娘には――いえ、本当は誰にも明かすべきではなかったのだけれど」
ほむら「私と一緒に、最大の敵と戦う仲間であるあなたたち三人には、知っておいてほしいことなの――」
ほむら「私の魔法の本当の力と――本当の目的について」
ーーーー
ほむホームからの帰り道―
まどか「すみませんネムさん…ネムさんだって作戦会議に出ないといけなかったんじゃ……?」
ネム「お気になさらないで下さい、鹿目まどかさん。既に暁美ほむらさんから大体の動きは伝えられていますので……」
まどか「そうですか……あ、あの――!」
ネム「?…なんでしょうか?」
まどか「前に、えっと…尸魂界や死神の役目について、少し話してくれましたよね?」
まどか「現世で死んじゃった人の魂は、尸魂界へ行った後、また新しい魂として現世に還ってくる――って」
ネム「はい。魂魄は皆、輪廻の過程の中にあります
虚等に襲われ消滅してしまう魂魄も少なからず存在しますが、その犠牲をできる限り出さないようにするのが、私たち死神の役目です」
まどか「――魔法少女や魔女の魂は、死んだらどうなるんですか?」
ネム「……申し訳ありません。それはまだ私たちにも……」
まどか「あはは……そうですよね…死神さんたちも最近になって魔法少女のこと知ったんですし……
……すいません、決戦の前日だっていうのに変なこと聞いちゃって……」
ネム「……ただ」
まどか「え…?」
ネム「今後、魔法少女に関する研究が進み、その魂であるソウルジェムの原理が明らかになれば――」
マユリ「――あるいは、魔法少女を元の人間に戻す方法も見つかるやもしれないネ」ニヤリ
まどか「わぁっ!えっ――!?」アタフタ
ネム「マユリ様――」ハッ
マユリ「ネム。いつまで油を売っているのかネ?お前にも決戦用の調整を施さねばならないんださっさと戻るんだヨこのグズがっ!」
ネム「……申し訳ありません、マユリ様」ペコリ
まどか「あ、あの!ネムさんは私を送ってくれてたんです!だから――!」アタフタ
マユリ「うるさい奴だネ」ジロリ
まどか「……っ!」ヒィッ!
マユリに睨まれ怯むまどかだったが、それでもなおマユリに食いついていく
まどか「そ、それと!さっき、魔法少女を元に戻せるかもって……!!」ヒッシ
マユリ「――フン、あくまで『希望的観測』にすぎんヨ。何せ、この事案に関してはまだまだ絶対的にデータが少ないからネ
ま、今後の調査研究の進み方次第、といったところかネ――」カクッ
そう答えるとマユリは、まどかに背を向けその場を立ち去ろうとする
相変わらずマイペース(?)なマユリの言動にあたふたしながらも、まどかはその背に呼びかけた
まどか「あ、待って……あのっ…!!
えっと……まだちゃんとお礼言ってなかったから、その……上条君の腕、治してくれてありがとうございましたっ…!!」オジギッ
マユリ「――――」スタスタ…
まどか「さやかちゃん、ずっと上条君のこと心配してたから……!
でもマユリさんのおかげで、さやかちゃんすごく喜んでて……!」アタフタ
マユリ「――――」スタスタ…
まどか「みんなも、マユリさんの技術力はすごいって言ってますし……だから、えと…!
――きっとマユリさんなら、研究を完成させられますよっ!私も、みんなも応援してますっ!!」
マユリ「――で?礼と言うなら、キミは私の研究に協力してくれるのかネ?」グルリ
まどか「えっ…?」
顔をあげるまどか
こちらを振り返り、首を傾けて不気味に笑うマユリと目が合う
まどか「ひゃっ…!」ゾオォッ…
思わず悲鳴を漏らすまどかだったが、しかし蛇に睨まれたカエルのように足が竦んで動けなかった
マユリ「どうなんだネ?私の研究を応援するというなら、キミやキミのトモダチ共も研究材料としてその身を提供してくれるのかネ?
研究の為キミに魔法少女になれと頼んだら、キミはインキュベーターと契約してくれるのかネ?ん?」
まどか「そ、そういうことじゃ――!」ブルブル
マユリ「――フン、まぁいいヨ。今ここでキミ相手にこんなやり取りをしていても不毛なだけだ」クルッ スタスタ…
言いたいだけ言って、再び歩み去っていくマユリ
動揺して言葉の出てこないまどかだったが、ここで今度はマユリの方から彼女へ呼びかけてきたのである
マユリ「――そうそう、一つ言い忘れていたヨ
明日はせいぜいインキュベーターに気を付けることだネ」スタッ…
まどか「えっ…キュゥべえに…?」
マユリ「どうやら我々がしばらく現世を離れていた隙に、ヤツの霊波パターンが変化したようでネ
現状、こちらではヤツの行動を捕捉できていないのだヨ――」
まどか「それじゃ、えっと…明日、私のところにキュゥべえが来るかもしれないってことですか?」
マユリ「いやはや、正直キミが契約してくれた方が私にとっても好都合なのだが、決戦の最中にそのことでゴタゴタされては敵わんしネ
何せ同盟の最低条件として、暁美ほむらから“鹿目まどかを魔法少女にさせないこと”を要求されているのでネ――」
まどか「……ほむらちゃんから?それって――!」
マユリ「ま、もしインキュベーターがキミのもとに出現したら生け捕りにでもしておいてくれ給えヨ」スタスタスタスタ…
ワルプルギスの夜を討伐し捕獲した後で、引き取りに行くとするヨ――
そう言い残すと、今度こそマユリはその場を後にした
ネムはまどかを一瞥し、伏し目がちに頭を下げてからマユリの後を追って行く
自宅は既に目と鼻の先だったが、まどかはしばしその場に立ちつくしているのであった
まどか「――同盟の条件が、私に契約させないこと……ほむらちゃん、どうしてそんなに私のこと……」
ーーーー
そして翌日――
見滝原市・古びた教会
椅子に腰掛けてリンゴを齧るひとりの少女―
「ムグムグ…アグッ…」シャリシャリ
魔法少女・佐倉杏子
「ゴックンッ…ふぅ~、いよいよだな――」
そう呟いて、杏子は深く椅子に背を預ける
早朝、決戦の前に寄りたい場所があると言って、世話になっているマミの家を出てきた彼女は、かつて家族と共に過ごした教会へと足を伸ばしていた
杏子「心に誓ったはずだったんだけどなぁ……もう二度と他人のために魔法を使ったりしない、この力は、全て自分のためだけに使い切る――って」
杏子「今のアタシは、誰のために戦ってるんだろうな――」
杏子「自分のため?仲間たちのため?この街の人たちのため?それとも――世界のためとか?」
杏子「はっ――ぶっちゃけ、このままどっか他所へ逃げちまうのが一番正しいんだろーな
自分のためだけに魔法を使うってんなら、こんな街どうなろーが知ったこっちゃねぇ。わざわざワルプルギスの夜なんかに挑むこたぁねーわけだしさ――」
杏子「『変わったといえばあなたも』――か
ハハッ!確かに、アタシはとんだお人好しのバカになっちまったみてぇだな――」ヨイショット!
ヨッ!と勢いよく椅子から立ち上がった杏子は、正面に位置するステンドグラスを見上げた
杏子「けど、案外悪くない気分だよ――
損得だとか利害だとか抜きにして、ただ自分のやりたいこと、信じてることをやってみるってのは――な、親父!」ニィッ
そう笑って、教会を後にする杏子
聖壇にはリンゴが三つ、残されていた
ーーーー
見滝原市・マミ宅
朝食を取った後、食後の紅茶を啜るひとりの少女―
「――うん、今日もバッチリ!」ニッコリ
魔法少女・巴マミ
「さてと、いよいよね――」
そう呟いて、マミはカップをソーサーに置いた
最近はずっと杏子が同居していたため、今朝は久々の静かなひとときが部屋に訪れている
マミ「不思議ね……これから最強の敵と戦うんだから、もっと恐怖を感じてもおかしくないはずなのに」
マミ「無理してカッコつけてるだけで、怖くても辛くても、誰にも相談できなくて、一人ぼっちで泣いてばかり……」
マミ「そんな私が、ワルプルギスとの決戦を目前にしても脅えて逃げ出さないのは、やっぱりみんながいてくれるから――なのかな?」
マミ「自分には考えてる余裕もなかった――なんて、時々いじけちゃうこともあったけど、今ならわかる
そんなの、私だけじゃないんだって――!」
マミ「私、一人ぼっちじゃないもの――もう何も怖くない」スタッ…
スゥーッと優雅な動きで立ち上がったマミは、テーブルの上に二つ並んだ写真立てを見た
マミ「さぁて、お友達との楽しい旅行の前に――ちょっと一仕事、片付けちゃうとしましょうか」フフッ
そう宣言して、家を後にするマミ
写真のひとつは両親と自分――もうひとつは、友達たちと自分であった
ーーーー
見滝原市・上条家前
吹きすさぶ突風を意にも介さず、その家を見上げるひとりの少女―
「――よかった、ちゃんと避難したんだね」フゥ…
魔法少女・美樹さやか
「さてと、いよいよかぁ――」
そう呟いて、さやかは天を仰ぐ
前日のうちに恭介へ避難勧告のことを伝えておいたさやかは、恭介がちゃんと避難してしるかどうか確かめに来たのだ
さやか「まったく、恭介ったら……これから街にやって来る大物魔女を、あたしが倒しに行くっていったら真っ青になって
『そんな危険な戦いに黙って君を行かせられない、僕も戦場までついていく』――なーんて、かっこいいことまで言っちゃってさ」
さやか「けど何だかんだ言って、最後にはあたしのこと信じて待っててくれるって言うんだから、やっぱいい男だよね、恭介は」
さやか「マユリ隊長にもお礼言わないとなー……記憶置換、だっけ?
『両親や友達にはあたしがちょうど親戚の家に行ってる最中だって思わせたいけど、恭介だけは記憶操作から外して!』なーんてめんどくさいこと頼んじゃったし」
さやか「……考えてみりゃ、あたしっていっつも誰かの世話になってばっかよねー……
思いつめて契約しそうになった時も、恭介の腕のことも、恋愛の後押しも、魔法少女になってからも――」
さやか「――まぁでも、慌てることないか。これから先、みんなと一緒にいられる時間はたっぷりあるんだし、ちょっとずつ進歩していってお返しすればいいや!
まだまだ未熟者で、色々ご迷惑をおかけしますが、今後ともなにとぞよろしくお願いいたしますぅ~――てね!」ニコッ
やがて上条家に背を向けたさやかは、終末のような薄曇りの空を見上げた
「大切な人がたくさんいるこの街――必ず守るよ!」キリッ
そう覚悟を決めて、集合場所へと向かっていくさやか
どんどんその濃さを増していく暗雲だったが、まだかすかにその切れ間から光が差していた
ーーーー
見滝原市・ほむホーム
散らばっている資料に眼もくれず、ただ物思いに耽るひとりの少女―
「……とうとうここまで来れた」ボソッ…
魔法少女・暁美ほむら
「さて……いよいよね――」
そう呟いて、ほむらは自分の左手に視線を移す
既に変身を済ませている彼女の腕には、砂時計を内蔵した魔法の盾が装着されていた
ほむら「主要な魔法少女が全員生きている……美樹さやかに関しても、魔女化する憂いがない――」
ーーーー
マミ『暁美さん、あなたは……何度も絶望を乗り越えて、ここまで来たのね――』
ーーーー
ほむら「グリーフシードの備蓄もあるし、イレギュラーな戦力も加わった――」
ーーーー
さやか『でもあんた――ほんとにいいの?このこと、まどかにこそ一番に話した方が――!』
ーーーー
ほむら「そして、まどかが私たちのことを信じて待っていてくれる
――それだけで、私はどんな強敵とも戦える」
ーーーー
杏子『ま、最終的にはアンタの決めることだからなー。アンタが絶対に話したくないってんなら、無理にとは言わねーけどさ――』
ーーーー
ほむら「まどかを救う、それが私の最初の気持ち。今となっては…たった一つだけ最後に残った、道しるべ
――そのはずだったのだけれど」
ーーーー
まどか『ううん、いいよ!そのかわり、約束してね――?』
ーーーー
ほむら「今は、少し違う――まどかだけじゃない、みんな一緒に救われたい
さやかも、マミも、杏子も……涅ネムも。それにちょっと気は引けるけど、一応涅マユリもね――」ホム!
微笑みながら立ち上がったほむらは、何かを振り払うように髪をかきあげた
ーーーー
ほむら『ええ、約束するわ。私たち全員、必ず無事に帰ってくる――っ!!』
ーーーー
ほむら「今度こそ……決着をつけてやる!!」ファサァ
そう決意を固めて、部屋を出ていくほむら
脳裏を、微笑むまどかの顔がよぎった
ーーーー
見滝原市・無人の市街地外れ
徐々にその勢いを増す強風の中、憮然とした表情で遠くの空を見ているひとりの死神―
「フム、成程大したものだネ――」
十二番隊隊長・涅マユリ
傍らには、グリーフシードの詰め込まれたボックスに何やら結界を施すネムの姿もある
マユリ「自らの作り出す結界に隠れることなく、直接現世の事象に被害を及ぼす厄災――ワルプルギスの夜、か
いやはや、ここからでも霊圧を感じ取ることができるヨ――」
そうひとりごちる彼に対して、呼びかける声が辺りに響き渡った
「おっはよーございまーっす、マユリ隊長――!」ノシ ブンブン
マユリ「――騒がしいヤツだネ。少し黙り給えヨ美樹さやか」
さやか「まだ挨拶しただけなのに!?」
ネム「――おはようございます、美樹さやかさん」
さやか「あ、ネムさーん!おはよーございまーす!」ノシ
さやか「いよいよですね……お二人とも、調子はどうですか?」
マユリ「フン、愚問だネ。最高の研究材料がやって来るんだ、準備に抜かりはないヨ――」
さやか「さっすが隊長!期待してますよ~?」
マユリ「うるさいと言っているのが聞こえなかったのかネ?その口を疋殺地蔵で斬ってやってもいいのだヨ?」ギロッ
さやか「怖っ!!い、いえ、遠慮しときますぅ……あはは……」アトズサリ
「――ったく、決戦の前だってのになぁに呑気なやりとりしてんだよアンタらは」ヤレヤレ
さやか「おっ、杏子ー!……ってか、今のやり取りは言うほど呑気でもなかったような……」
杏子「よっと……よう変態オヤジ、久しぶりだな!」ノシ
マユリ「――ああ、キミか。菌を通していたせいで、あまり久しぶりには感じられんがネ――」
杏子「菌?なんだそりゃ」
マユリ「馬鹿に私の技術を説明するつもりはないヨ。時間の無駄だ」
杏子「ワルプルギスより先に一発喰らわすぞおら」スチャ…
さやか「ちょっ、なに会って早々険悪な雰囲気になってんのよー!?」
杏子「アタシらは最初から大体こんな感じだったからなぁ。敵だろうと味方だろうと、憎たらしいおっさんだよ、こいつは」
マユリ「ヤレヤレ、口のきき方を知らん小娘だネ。私に斬られてみっともなく転げまわっていたのが嘘のようだヨ――」
杏子「さやかどけ、そいつ殺せない」スチャ…
さやか「だーかーらー!!」ヒッシ
「――あんまり私のお友達を苛めないでもらえるかしら?」
さやか「あっ、マミさんだー!おーいマミさーん!」ノシ フリフリ
杏子「おーマミ、朝っぱらからガサゴソして悪かったな」ノシ
マミ「ふふ、そんなの気にしないで。二人とも、元気はバッチリみたいね」ウィンク
さやか「はい!ワルプルギスだろうが何だろうがどんと来いですよー!」ガッツポーズ!
ネム「……巴さん、おはようございます」ペコリ
マミ「おはようネムさん、いよいよね!」ニコッ
マユリ「――ホゥ、巴マミか。直接こうして話をするのは初めてだネ」
マミ「ええ、そうですね、マユリさん。あれから、ネムさんとはいかがお過ごしかしら――?」ジッ…
マユリ「極めて良好――とでも言えば満足かネ?」カクッ
マミ「――いいわ、今はその言葉を信じましょう。それはさておき、今日はお願いよろしくします」ペコリ
マユリ「フン……」
さやか「おお……なに今のやりとり…」
杏子「マミのやつ、一歩も譲らねぇな。やるじゃん」ニィ
ネム「あとは暁美さんだけですね。様子を見てきましょうか――」
「――その必要はないわ」
ネム「!」
杏子「おっ」
マミ「あら」
さやか「来たー!」
マユリ「――この同盟の立役者ともあろう者が、随分と遅いご到着ではないかネ?」
ほむら「――遅くなってすまなかったわ。とにかく、これで全員揃ったわね」ファサァ
マミ「ええ、みんな準備は万端よね?」
さやか「もちろんです!」
杏子「当ったり前だろ!」
マユリ「待ち給えヨ」
さやか・杏子「がくぅっ!」ズコー
マミ「マユリさん?」
杏子「なんだよおっさん!ひとがせっかく気合い入れたところで――!」
マユリ「決戦の前に、しておかなければならないことがあるのだヨ――」
ほむら「――何かしら?」
ーーーー
見滝原市・避難所
続々と避難してくる人々の流れに目を遣りながら、心ここにあらずといった様子で佇む一人の少女―
「……みんな」
未だなんの力も持たない人間の少女・鹿目まどか
詢子「んー?どうしたまどか?」
まどか「え?……ううん、なんでもない
――外、すごいね」
知久「そうだねぇ。どんどん風が強くなっていってるし、こりゃ大荒れになりそうだ」ヨーシヨーシ
タツヤ「だぁー♪」キャッキャッ
詢子「ま、あんま心配すんなよ、まどか。今日明日中には通り過ぎるって言うしさ」
まどか「……うん」
詢子「まどか?」
何かを憂うように窓の外を見つめるまどか
空は、いよいよ暗さを増しつつある
ーーーー
アハハハハーーー……
遠くの方から、不気味な笑い声が聞こえてくる
再び見滝原市・市街地外れ
霧の向こうから姿を現しつつある巨大なシルエットを、真っ正面から迎える六つの影
杏子「でけぇ……!ほむらの話通りだな、確かにこりゃ最大の敵だぜ……!」ニィッ
さやか「うぅ…今までに戦ってきた魔女と次元が違うじゃない……!」ガクブル
マミ「ええ、そうね…さすがに私もちょっと怖くなってきちゃったかも……!」ゴクリ…
さやか「えっ!?マミさんが……?」
マミ「あら、意外だった?普段は平気なフリしてるけど、私だって魔女との戦いは怖いものなのよ?
ましてや、今度の相手はあのワルプルギスの夜なんだしね――」
杏子「おいお前ら!この期に及んでなぁに弱気なこと言ってんだ!?」
マミ「――でも、逃げたりしないわ」
さやか「マミさん……?」
マミ「だって今は、みんなが一緒に戦ってくれてるんだもの
あなたたちが一緒なら、最後まで戦い続けられる――!」キリッ
杏子「――へっ!マミは覚悟ができてるみてぇだな。
さやかはどうだ?なんなら逃げてもいいんだぜ?」ニヤニヤ
さやか「なっ――バカにしないでよねっ!あたしだって、みんながいるこの街を守るって決めたんだからっ!」クワッ
杏子「そいつは結構――だったらあとは、その覚悟を実戦でアタシらに見せつけてみなぁっ!
それが魔法少女訓練プログラムの最終試験だ、さやかっ――!」ニィッ
さやか「お、おぉ!やってやろうじゃないの!!」ガッツポーズ
マユリ「――ヤレヤレ、話には聞いていたがいささか大きすぎるネ
本来ならばこの類の相手には七番隊長あたりがうってつけなのだが――」
ほむら「――あら、討伐する自信がなくなった?」
マユリ「この期に及んで戯れ言を吐く余裕があるとはネ。さすがは経験者――とでも言っておこうか?」カクッ
ほむら「フ……あなたこそ、何が相手でもブレないわね」ホム
ネム「――霊波探知確認。ワルプルギスの夜、間もなく暁美さんの攻撃射程範囲内に到達します――」
ほむら「!……ええ、わかったわ
みんな、流れは昨日打ち合わせした通りよ。準備はいいわね――?」
杏子「おう!いつでもいいぜ!!」グッ
マミ「それじゃ、始めるとしましょうか――!」ウィンク
さやか「よーし、さやかちゃんの力を思い知らせてやるからねー!!」バササッ…
彼らの周囲を、象や小動物のようなモノたちがパレードの如く通り過ぎていく
そして辺りを覆っていた霧が晴れ、遂に敵がその姿をはっきりと現そうというその時――
ほむら「――さぁ、始めましょう、ワルプルギスの夜……!!」
カタッ…
――既に砂時計は発動していた
マミたちにとっては、一瞬でワルプルギスの夜が爆炎が包み込まれたかのように思えた
ほむらは時間停止と同時にストックしておいた全銃火器を発動し、こちらが敵の姿を完全に視認するより早く、先制の波状攻撃を仕掛けたのである!
さやか「うひゃぁっ!
――す、すごっ……!!」アゼン…
マミ「暁美さんがこの日のために準備してきた武器全てを、一気にワルプルギスへ叩き込んだのだから――さすがに壮観ね……!!」ゴクリ…
杏子「つーか今戦艦とか見えた気するけど気のせいだよな……どこで手に入れたんだよ、あんなもん……!!」ニヤリ…
ーーーー
決戦前夜、皆が真実を知った後の最終打ち合わせにて――
杏子『――最初にほむらが仕掛けるのか?』
ほむら『ええ。私の砂時計は、時間遡行から数えて1ヶ月で砂が落ち切ってしまう
そうなれば、私はもう時間停止を発動できない――』
さやか『ほむらが時間を戻してから1ヶ月って……えっ、まさか――!?』
ほむら『――そう、明日よ。さすがにワルプルギスの夜が襲来する前に砂が落ち切ることはないけれど
それでも戦闘が長引けば、途中で私は戦力としてほぼ使い物にならなくなる』
マミ『なるほどね――それで最初にまず、持てる武器を一気に使ってダメージを稼いでおきたいってわけね?』
ほむら『そういうことよ。私の武器はストックが尽きたらそれまでだけど、あなたたちは魔力が尽きない限り攻撃し続けられる
そして今回に限っては、魔力を完全に使い切る心配はないとみてひとまず問題ないはず――』
さやか『あんだけグリーフシードのストックがあればねー。ひとまずは安泰でしょ』
杏子『――そんで?先制攻撃をかました後、ほむらはどうすんだ?』
ほむら『タイムリミットが来るまで、適宜時間を止めてあなたたちのフォローに徹するわ
手持ちのシードが切れた人に追加を補給したり、拳銃や手榴弾で雑魚散らしをしたり――』
マミ『私たちがワルプルギスの夜に集中しやすいよう、サポートしてくれるのね。凄く助かるわ!』
杏子『おうよ!こんだけきっちり役割分担して攻めたてれば、ワルプルギスなんざ恐るるに足んねーな!』
さやか『ほむらが最初に叩き込んでやった傷口を、あたしたちが一気に抉ってやるからさっ!』
ほむら『――ええ、お願いね。頼りにしてるわ、みんな――』
ーーーー
ほむら「――気を緩めないで!ここからが本番よ――!!」サッ…
仲間のもとへ戻ってきたほむらが両手を広げる
魔法少女たちが各々ほむらの腕につかまり、最後にネムがほむらの肩に手を置いた
ネム「――来ます」
マユリ「フム――」
アハハハハーーー!!!
次の瞬間、未だ立ち消えない煙と炎を突き破って、無数の黒い触手が槍のようにこちらへ迫ってきた――!
カタッ…
さやかに掴まれた腕を動かして、砂時計を作動させるほむら
~停止~
杏子「おっし、そんじゃ各自自分の位置は覚えてんなー?」
さやか「もちろん!けど、さすがにこの人数がほむらに密着して最初の攻撃位置に移動していくのはめんどいわ……」
マミ「一番移動距離が少ないのは、ワルプルギスから見て遠距離に位置を取る私だったわね――」
ほむら「そうね、まずマミから行くわよ――」
ネム「はい――」コクン
少女たちは全員で密集して跳び上がった
停止している触手の横をすり抜けて、ワルプルギスを右斜め上から見下ろす位置までやって来る
ほむら「それじゃ、頼んだわよマミ――」
マミ「ええ、任せてちょうだい――!」ウィンク
ほむらから手を離し、停止するマミ
杏子「よーし、この調子でどんどん行くぜ――!」
さやか「次はあたしね!」
同じ流れで、ほむらはさやか、杏子、ネムを、次々と定位置へ配置していった
ネムを配置する際、ほむらは彼女に確認を取る
ほむら「けど、本当によかったのね?涅マユリを時間停止から外してきて――」
ネム「はい、ご心配には及びません。マユリ様は最初のうちに敵の観察と攻撃データの採取をされますので――」バッ…
ほむら「――そう、なら問題ないわね。どの道、あの攻撃をかわせないようなら、戦力としては役に立たないでしょうし――ね」ファサァ
ネムが離れると同時にほむらも動き、全員から見て攻撃の邪魔にならない場所へ移動を済ませる
ほむら「さて……じっくり味わいなさい、ワルプルギスの夜――!!」
カタッ…
~始動~
マミ「――ティロ・フィナーレ!!」
ドォオオォォォォーーーンッ!!
特大の銃から放たれた一撃が、ワルプルギスに炸裂する!
杏子「うおぉりゃぁぁぁーーーっ!!」ブンッ―
さやか「くらえぇぇぇーーーっ!!」ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ
間髪入れず二人が魔力を込めた槍と投剣で左右から畳み掛ける
魔力の温存など気にせずに、極限まで魔力を込めて威力を高められたそれらの武器は、表面を傷つける程度とはいえ確かにワルプルギスへダメージを与えていた――!
「アハハハハーーー!!!」
杏子「ちぃっ!かってぇなー……胴体ぶち抜くぐらいにはかましてやったはずなんだけどなぁ――!!」
その時、遠くで爆音が響いた
最初にワルプルギスの放った触手攻撃が、つい先ほどまで彼女たちのいた場所に直撃したのである
さやか「マユリ隊長――!」ハッ
杏子「よそ見すんなさやかっ!休まず攻撃し続けろっ――!」ブンッ―
マミ「――大丈夫、あの人はそう簡単に死にそうにないわ――!」バンッ バンッ バンッ バンッ
さやか「――っ!はいっ――!!」スチャッ…
魔女への攻撃の手を緩めない二人にならい、さやかも続けて剣を展開していく――
と、ここで彼女たちの遥か足元、すなわち逆さに動くワルプルギスの、その顔の真正面にて、強烈な閃光ほとばしった!
ネム「――破道の八十八『飛竜撃賊震天雷砲』!!」
ゴォオオオォォォーーーッ!!!
耳を劈く轟音と共に特大の雷撃が魔女の顔面を直撃する!
ーーーー
マユリ「ヤレヤレ、あの様子じゃほとんど効いてないようだネ――」
槍のように鋭く尖った触手をかわしてひとりごちるマユリ
すると触手から人型の黒い影が無数に分離し、手に手に武器らしきものを握って襲いかかってきた――!
マユリ「フム、知ってるヨ――キミたちが最強の魔女の使い魔なんだろう?」ニヤリ
ドッ ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
使い魔「ウソッ!?」グッ…
マユリから発せられる霊圧に一瞬気圧されながらも、即座に体勢を戻して攻撃を打ち込む使い魔たち
先頭の一体が振り下ろした槌を逆手に抜いた刀で受け止めたマユリは、そのまま瞬歩で背後にまわり後ろに向かって刀を突き出す
使い魔「キャァァッ!!」グサッ…
マユリ「成程、並みの使い魔よりはいい動きをするようだ――どうしたネ?遠慮せずどんどん攻撃してき給えヨ」カクッ
一撃で使い魔を葬ったマユリに対し、今度は一斉にとびかかる使い魔たち
マユリは首を傾けながら不気味に微笑んでいる
ーーーー
一方、ワルプルギス本体の周辺にも使い魔が現れ始めていた
チェーンを振り回して突っ込んでくる一体の使い魔に対し、杏子は無駄のない動きでその死角を取り、これまた的確な一撃で使い魔の頭部を潰した
杏子「チャラチャラ踊ってんじゃねぇよウスノロ!こっちの狙いは魔女本体のみ――邪魔すんな!」ブンッ―
さやか「けどすごい!あたしたち、こいつらの動きに余裕でついていけてるよ――!」ズバァッ!
左右から同時に襲いかかってきた使い魔たちをそれぞれ一刀のもとに切り捨てながら、さやかが感極まったとばかりに嬌声をあげる
杏子「バーカ、調子に乗んなよ!それもこれも、全部あのおっさんのおかげなんだしな――!」ブンッ―
マミ「体が軽い…こんなに余裕を持った状態で戦うなんて初めて――!」バンッ バンッ バンッ バンッ
今度はワルプルギス本体から放たれる炎の槍の連続を、それこそ踊るような身のこなしでかわしつつ、反撃していく魔法少女たち
残った銃火器で、前線のメンバーに迫る使い魔を始末し彼女たちが戦い易いようフォローしていたほむらは、その様子を見て感心したように呟いた――
ほむら「――本当にすごい効き目ね。この――超人薬、だったかしら?」
ーーーー
マユリ『この薬は超人薬と言ってネ――』
決戦直前、集合した魔法少女たちにみせつけるようにして、半透明な液体の入った小瓶を振って見せるマユリ
杏子『チョウジン?』
さやか『チョウジンって……あの超人のことですか?スーパーマンの?』
マユリ『達人同士の斬り合いで『剣が止まって見える』なんていう話があるだろう?
時間間隔の延長だ。極限まで神経が研ぎ澄まされると、稀にああした現象が起こる――』
さやか『あ、映画とかによくあるやつですね!目の前に迫るトラックがスローモーで見える、みたいな!』
マユリ『この超人薬は、その時間間隔の延長を強制的に発揮させる薬品なのだヨ
極端な話、これを投薬すれば赤子の目にも銃弾が止まって見えるというわけだネ――』
杏子『マジかよ!?それってすげぇ薬じゃん!!』
マミ『つまり、それを使えば暁美さんの話にあったワルプルギスや使い魔の猛攻にも対処しやすくなる――ということですね?』
マユリ『そういうことだヨ。暁美ほむらがこれまでワルプルギスの討伐を成功させることができなかった理由――
それは単純な戦力不足に加え、敵自体の攻撃性能の高さによる部分が大きいと、私は考えたわけだネ――』
ほむら『――確かに、向こうの攻撃はどれも一撃必殺級だから、一緒に戦っていたみんなもかわすのに必死だったわ
回避に徹すれば反撃の機会は当然減るし、使い魔が邪魔をしてこちらの攻撃の威力や精度が落ちることもあった――!』
マユリ『そこでだ、キミたちが魔力や体力の無駄な消費をしなくて済むように、この超人薬を用意してきたというワケだヨ
全員が同じ時間感覚を得れば、キミたち以外の周囲の動き――即ち、魔女や使い魔の攻撃のみが遅く感じるようになる』
マミ『必殺の攻撃も、目で見て反応できる速度に感じられるなら、こちらも回避は容易いわね』
ネム『とはいえ、あくまで敵の動きを遅く感じるだけであって、実際には普通の速度で攻撃は向かってきます
威力や衝撃が減るわけではありませんので、くれぐれも無理な反撃は控えるようにしてください――』
マユリ『原液を投与するのもそれはそれで面白いことになるのだが、今回はとりあえず適量である25万倍に希釈したものを持って来た
決戦の前に、これをキミたち全員に投薬しておきたいのだがネ――』カクッ
ーーーー
ほむら「正直、みんな恐る恐るって様子だったけれど、確かにこれはすごい効果だわ――」カタッ…
~停止~
さやかの斜め後方から大剣を振り上げて迫っていた使い魔の眼前に手榴弾を投げ、そのまま今度はマユリの方へと飛んでいくほむら
使い魔たちを斬り捨てているマユリの近くまで戻ったところで、魔力が減ってきたのを感じ停止を解く
~始動~
向こうで手榴弾の爆発する音が聞こえた
ほむらはそのままマユリの側をすり抜け、グリーフシード置き場に駆け寄る
防御結界で守られているボックスから無造作にシードを掴み取って盾にしまい、最後に一つを自分で使ってから、再び主戦場へ戻ろうと踵を返すほむら
マユリ「ああ、キミか――首尾はどうだネ?」ズバァッ!
使い魔「アシガ、アシガァァァーーー!!!」
ほむら「おかげ様でね――悪くないわ
あなたこそ、いつまで雑魚の相手をしているつもりかしら――?」
マユリ「フン――面倒な話だがネ、こちらには尸魂界への報告義務があるのだヨ
心配しなくとも、もう少しコイツらを狩ったら援護に向かうつもりだヨ――」
ほむら「そう。なるべく急いでもらえると嬉しいのだけれど――!」カタッ
~停止~
ほむら(それにしてもあの男――霊圧というのかしら?とにかく、気配の波が桁違いに増幅している――)ダッ
ほむら(『限定解除した状態の霊力は今まで現世で活動していた時の五倍』――半信半疑だったけれど、どうやら本当だったようね)ピューン…
ほむら(涅ネムも術の威力が上がっているようだし、この調子で攻め続ければ――!)
杏子の傍らまで来たところで、ほむらは砂時計を戻す
~始動~
ほむら「杏子、グリーフシードよ――!」つ::
杏子「うぉうっ、ほむらか!サンキュー、ちょうど減ってきたとこだったんだ――!」
ほむら「礼には及ばないわ――この調子で頼むわね」ピューン…
杏子「おっし、任せとけって!!」ブンッ―
「アハハハハーーー!!!」
さやか「ほむらー!こっちにもいくつかおねがーい!」ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ
ほむら「了解よ――調子はどう、さやか?」つ::
さやか「ありがとっ!うーん、いかんせんあたしの魔法って素の攻撃力は低いからさぁ……
あいつの身体でどっか脆い箇所がないか探りながら戦ってんだけど、どこもかしこもかったくて――!」
「アハハハハーーー!!!」
ほむら「――そう、けど焦ることはないわ。無茶な真似をしようとせず、このまま落ち着いて攻撃を続けて――」ピューン…
さやか「オッケーオッケー、わかってるって!!」バササァッ…
「アハハハハーーー!!!」
マミ「――ティロ・メトラジェッタ!!」
バンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッバンッ
ほむら「――マミ、グリーフシードよ」つ::
マミ「あら暁美さん、助かるわ!」ニコッ
ほむら「――今の私にはこのぐらいの支援しかできないけど、あなたの魔法ならきっとワルプルギスにも痛手を与えられる
だから――」
マミ「――ふふ、大丈夫よ。最後まで、諦めたり絶望したりしないわ!」ウィンク
ほむら「――そうだったわね。余計な心配だったわ」ピューン…
マミ「――さーて、あんな風に言っちゃった手前、あんまり格好悪いところ見せられないものね――!」
使い魔「キャハハハッ!!」ブンッ―
マミ「――ふふふ、惜しかったわね!」
マミ「ティロ・ボレー――!!」
ネム「はぁっ!」ドンッ
使い魔「ウヒャアッ!?」
ほむら「気を付けて!上からもう一体来るわ――!」カチャッ バァン!
使い魔「ゲフゥッ!!」
ネム「――ありがとうございます、暁美さん」
ほむら「礼には及ばないわ。それじゃあ私は――」ファサァ
ネム「お待ちください、ひとつお頼みしたいことが――私に触れた状態で、時間を止めて頂けませんか?」
ほむら「え?――構わないわよ、腕を掴むわね?」カタッ…
~停止~
ネム「助かります。それでは、私が合図をしたら停止を解除してください――」
ネム「滲み出す混濁の紋章 不遜なる狂気の器 湧きあがり・否定し 痺れ・瞬き 眠りを妨げる――」ブツブツ…
ほむら(術の詠唱?――そういえば、死神の使う鬼道は詠唱を省略すると威力が落ちるらしいって、以前マミから聞いたことが――)
ネム「爬行する鉄の王女 絶えず自壊する泥の人形 結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ――!」チラッ
ほむら(なるほど、時間を止めている間に詠唱を済ませて、術の威力を高めるつもりね
――それにしても長い口上ね)カタッ…
~始動~
ネム「――破道の九十『黒棺』……!!」
次の瞬間、強大な波動を発する黒い匣がワルプルギスの頭部を包み込んだ――!
グシャァアァァァーーーンッ!!!
轟音と共に棺が砕け、無数の黒い破片が舞い散る
ほむら「…っ!すごい……!とてつもないエネルギーを感じる――!」
ネム「ハァ…ハァ…うっ――!」フラッ…
ほむら「――っ!」ガシッ
よろめいたネムの身体を咄嗟に支えるほむら
ネム「申し訳ありません……九十番台の鬼道は扱いが非常に難しく……完全詠唱をしても並みの使い手ではその威力を発揮することができないんです……
……もっと霊力の高い術者が使用すれば……さらに力を引き出すことができるのですが……」ハァ…ハァ…
ほむら「そうなの……?でも、十分よ。これだけの攻撃を頭部に受けたら、流石のワルプルギスでも――」
「アハハハハハハハハッッッッッ!!!!!」
一同「――っ!!?」
突如、一段と甲高い笑い声が一帯に響き渡ったかと思った瞬間、魔女の全身から一斉に灼熱の火炎で作られた槍状の攻撃が周囲に拡散した――!!
マユリ「――ホゥ?」カクッ
こちらへ飛んでくる火炎を回避しつつ、マユリは懐から念話通信装置を取り出す
そしてスイッチを入れると――
マユリ『――私だヨ。そろそろ鹿目まどかのもとへ行き給え――』
ーーーー
見滝原市・避難所
まどか「……みんな」ボソッ…
QB『やぁまどか、久しぶりだね――』
まどか「っ!?」ガバッ
知久「うん?どうしたまどか?」
まどか「え…あ、ううん、なんでもない……ちょっとトイレ」スタッ…
QB『よく来てくれたねまどか。てっきりボクの呼びかけは黙殺されるかと思ってたけど』
まどか「……私になんの用?」
QB『そんなの決まってるじゃないか。ボクと契約して魔法少女になってよ――!』キュップイ
まどか「……だったら、私の答えだってわかってるでしょ。私はあなたとは契約しない――」
QB『本当にそうかな?』
まどか「……!」ドキッ
QB『ならどうして、ボクの呼びかけに対してノコノコ姿を現したんだい?ボクの声なんて全部無視しちゃえばいいことじゃないか』
まどか「それは……!」
QB『――知りたいんだろう?魔法少女たちの戦況を――』
まどか「……っ!そんなの、別にキュゥべえから聞かなくたっていいよ……!
みんな、約束してくれたもん……必ず全員で帰って来るって!」
QB『そうかい?その割には彼女たち、一向にワルプルギスの夜に対して決定打を与えられていないようだけど――』
まどか「えっ……?で、でも!死神さんたちの協力だってあるし――!」ヒッシ
QB『死神側の協力?何を言ってるんだいまどか、そんなものはないよ?』
まどか「っ!?うそ……!!」サァー…
QB『ボクは嘘を吐かないって、キミは暁美ほむらから聞いてるんじゃないかい?
この決戦、尸魂界側から送られてきた戦力は涅マユリと涅ネム――あの二人だけだよ』
まどか「そんな……!じゃあ、ほむらちゃんたちはたったの六人で――!?」
QB『――この嵐を巻き起こしている超大型魔女に挑んでいるんだ。ボクの目にはいささか無謀に映るけどね』
QB『涅マユリの支援でグリーフシードの備蓄はあるようだけど、それは直接ワルプルギスの夜に痛手を与える要素ではない
むしろ、持てる魔力を限界まで込めた武器でもかすり傷程度しか与えられないとなると、かえって彼女たちの心を折る結果になりかねないと思うよ――』
まどか「で、でも…マユリさんとネムさんは隊長や副隊長だし……!」ヒッシ
QB『ボクが見たところ、副隊長程度の魔力――じゃなかった、霊力じゃ、せいぜい使い魔を蹴散らすぐらいにしか役に立たないだろうね――』
QB『涅マユリにしたって、彼の斬魄刀は攻撃力に特化したタイプの能力じゃない
斬りつけようにもワルプルギスの硬い身体を貫くことができるかも定かじゃないし、よしんば傷をつけたところでちゃんと能力が発動する保障はない』
QB『何せ敵は歴史上最大の“厄災”だからね、既存の常識が通じる相手じゃないさ――』キュップイ
まどか「そんな……っ!!」
ーーーー
見滝原市・市街地外れ
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
耳を覆いたくなるような笑い声の嵐の中、ワルプルギスの全身から四方八方に発射される灼熱の槍が決戦の地を蹂躙した
マミ「くっ――!」ヒラリッ…ヒラリッ…
杏子「ヤロウ……!急に攻撃が激しくなりやがったっ!」サッ
さやか「うわぁっと…!さすがにこりゃかわすので手一杯だよ――!」ササッ
ネム「……っ!」ヒュンッ
ほむら「一撃でもまともに喰らったら致命傷ね――みんな、落ち着いて回避に徹しましょう!」ピューン…
使い魔を巻き込むことも厭わず波状攻撃をしかけてくるワルプルギスの夜
さらには倒壊した建物の塊を浮遊させ、魔法少女たちに向かって投げつけてくる
ほむら「あの大きさ――位置的にさやかはかわしきれない――!!」カタッ…
~停止~
ほむらは時間を止め、動かなくなったさやかを掴んで安全な場所へ移動した
ついでに近くにいた使い魔数体にサブマシンガンを打ち込んでから魔法を解く
~始動~
さやか「えっ!?あ、ほむらかぁ…!ありがとっ、助かったよ!」ニコッ
使い魔「ブホァッ!!」ダダダダダッ!
ほむら「礼は後にして。ここからなら攻撃が通るはず――!」
さやか「マジかっ!よーしオッケー――!」ピューン…
杏子「アタシも加勢するよ!二人同時にブチ込むからな――!」ピューン…
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
さやか「うぇっ!?ちょっ――!」
杏子「もうこっちに気付きやがったか――!しょうがねぇ、いったん退くぞ――!」バッ
猛攻の合間を縫って反撃を加えようとする二人だったが、即座に槍状の触手が迎え撃ってくる
マミ「参ったわね…かわすこと自体は難しくないけど、向こうの攻撃範囲が広すぎて反撃する隙がないわ――!」クッ…
ほむら(マズイわ――こちらの攻撃頻度が落ちてきている!)チラッ
ほむらは左腕の盾に目を向ける
ほむら(砂時計の残りが少ない……!じきに時間停止は使えなくなるのに、ここまできて――!)ギリッ
マミ「――暁美さん!後ろよっ!!」
ほむら「――っ!」ハッ
使い魔「シンジャエシンジャエシンジャエェェェ!!!」ゴォォォォー…!
マミ「ティロ――!」カチャッ
ほむら「問題ないわ――!」サッ
即座に使い魔の動きに反応して攻撃をかわすほむら
しかし――
杏子「――バカ野郎ほむらっ!!下からも来てるぞっ!!」
ほむら「っ!?」
彼女が回避したところは、既に放たれていた炎攻撃の直線状にあった――
ほむら「くっ――!!」カタッ…
ほむら「なっ――うそ、砂時計がもう――!!」ハッ
目前に迫る炎の槍――
――もはや、かわしきれない
さやか「――ネムさんっ!!」
ほむら「えっ――?」
ネム「――縛道の八十一『断空』」
ボォオオォォォーーーッッ!!!
ほむらの目の前に出現した光の壁が、業火の槍撃を受け止めた
ネムがギリギリのところでほむらと炎との間に割り込み、防御障壁を発動したのである
ほむら「涅ネム!助かっ――」
ネム「くぅっ……ダメです!離れ――」
ドォオオォォォーーーンッ!!!
しかし防壁は炎を止めきれず、その場で弾け飛んでしまう――!
爆風に吹っ飛ばされるほむらとネム
マミ「暁美さん!ネムさん!」
杏子「待てマミっ!今はこっちに集中しねぇとよけきれねぇぞっ!!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
さやか「くっ――負けるもんかぁぁー!!」
ネム「くっ…ゲホッゲホッ!……申し訳ありません……!」フラッ…
ほむら「謝るのは私の方よ……痛っ!」サスサス
右腕をさすりつつほむらが立ち上がる
見れば他の魔法少女たちも敵の猛攻に悪戦苦闘し、当初想定していた動きが完全に崩れていた
悔しさを噛み殺すように表情を歪めるほむら
ほむら(ここまできて……!せっかく全員が揃って戦える時間軸に巡り合ったのに……!)ブワッ…
ほむら(私たちが束になってかかっても、奴には勝てないというの……?やっぱりまどかが魔法少女にならなければ、この魔女はっ……!!)ツー…ポタッ
ほむらの頬を、一筋の涙が零れ落ちる
その時――
マユリ「――どうやらここまでのようだネ」
マユリ様きたあああ!
517: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:11:23.00:WrhrV5tUOーーーー
QB『――おや、ワルプルギスの攻撃が激しさを増してきたようだね。みんな手が出せず逃げ惑っているよ』キュップイ
まどか「……っ!!」ハッ
QB『あーあ、中途半端に攻撃するから、逆にワルプルギスの夜を本気にさせちゃったみたいだね
彼女たちは一体どうする気かな?このままじゃ勝機が見えないどころか、生きて逃げ帰るのも難しそうだ――』
まどか「やめてっ!あなたが何と言おうと、私は契約なんてしないっ――!」
QB『ふーん。ま、ボクには契約を強要することはできないけどね――前にボクが言ったことを覚えてるかい?
「家族も友達も、キミの大切なもの全てを恐ろしい魔女から守り抜く力が、キミには眠っている」――それは今でも変わらないよ?』
まどか「それでも……!」
QB『ん?ちょっと待ってくれるかな――おや、暁美ほむらが攻撃を避け損ねたようだよ』
まどか「…っ!ほむらちゃんがっ……!?」
QB『涅ネムのおかげで即死は回避したようだけど――他の魔法少女たちもジリ貧状態だね
これじゃあいくらグリーフシードの備蓄があっても、それを使い切るまでもなく敵の波状攻撃を受けて終わりかな?』
まどか「そんなっ…そんなのってないよっ!だってみんな、あんなに一生懸命準備して、がんばって一緒に魔女を倒してっ……!!」ヒッシ
QB『それがどうしたって言うんだい?努力したからって、なんでも叶うわけじゃないだろう?
――それで、どうするんだい?正直、どうしても契約したくないって言うなら、ボクはさっさとこの街から出て行くつもりだけど――』
まどか「えっ…?」
QB『キミはとても魅力的な魔法少女候補だけど、涅マユリの人工シードのせいで、キミが魔女化する可能性は著しく低い
既に死神からマークされているこの街でキミに固執するよりも、他所の地域で他の凡百の魔法少女候補たちを相手にした方がノルマ達成に効率がよさそうなんだよ』
まどか「キュゥべえ――!」アセアセ
QB『それじゃ鹿目まどか。ボクはそろそろ行くとするよ
たとえ一人でも、生き残りが戻ってきてくれるといいね――』キュップ…
まどか「――待って!キュゥべえ!!」
QB『――なんだいまどか?ボクに何か用かい?』クルッ
まどか「――みんなの所に、案内して」
QB『止めておいた方がいいと思うよ、あまりに危険だからね。みんな、キミを守る余裕なんてないだろうし――』
まどか「お願いキュゥべえ、私を連れてって!遠目にみんなの様子がわかるぐらいの場所でいいから……!」
QB『――やれやれ、参ったな。そこまで言うなら仕方がない――』
「お待ちください、鹿目まどかさん」
まどか「――え?」ハッ
QB『キミは――何故ここに?』
まどか「――ネムさん?」
QB『いや、違うようだね。その身体は“義骸”――そうか、キミは“義魂丸”というやつかな?』
義魂ネム「はい。決戦の際、インキュベーターがそれに乗じて鹿目まどかさんに接触するだろうと予期し、涅隊長は私をここへ向かわせたのです」
QB『まどかがボクと契約するのを阻止するつもりかい?
けどどうやら、まどかは戦場の様子が気になって仕方ないようだよ?それに、キミのご主人様たちがワルプルギス相手に為す術もないのは事実だ』
まどか「キュゥべえは嘘は吐かないって、ほむらちゃんが言ってました
みんなが負けそうっていうのは――本当なんでしょう?だったら、私――!」ヒッシ
義魂「いいえ、大丈夫です」
まどか「えっ…」
QB『やれやれ、キミこそ出鱈目はよしなよ。徒に希望をちらつかせたって、まどかの悲しみが膨れ上がるだけ――』
義魂「私の言葉が出鱈目かどうか、すぐにわかりますよ――」
ほむら「――ここまでって、どういう意味よ?」
いつの間にやら傍らに来ていた涅マユリに、焦燥しきった声音でほむらが問いかけた
マユリ「なに、言葉通りの意味だヨ。どうやら数を集めて連携すればワルプルギスの夜に勝てるだろうというキミの目論見はハズレだったようだネ――」
ほむら「な、なにを――!」
マユリ「ネム、鬼道の無駄撃ちは止めるんだヨ。お前程度の霊力じゃ完全詠唱を加えたところで八十・九十番台の術は本来の威力を発揮できまい
どの道、この様子じゃ単発の鬼道など効き目はうすいだろうしネ――」
ネム「……はい、マユリ様」フラッ…
ほむら「ちょっと……待ちなさいよ、涅マユリ……!」
マユリ「うるさいヤツだネ全く。そもそもこの戦い、キミが考えている程度の勝算など初めからなかったのだヨ」
ほむら「なっ…!?
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
さやか「――うわっ!!」バァンッ!
杏子「さやかっ!!」 マミ「美樹さんっ!!」
ほむら「――っ!!」ハッ
マユリ「――ワルプルギス最大の脅威はその巨大さにある
並みの大きさの魔女ならば、四肢を潰すなり直接組み伏せるなりして動きを制限することができるところだが――」
さやか「えっへへ…ちょっとかすっちゃっただけだから、大丈夫だって!
あたし、傷の治り早いしさ……!」
マミ(みんなの動きが鈍くなってきてる――!)「そろそろ魔力を回復しないと――!」バンッ!
使い魔「キャハハハーーー!!!」
ほむら「私が取ってくる……!」ガタッ…
マユリ「あそこまで常識から外れた巨体と形態を持つ以上、所詮人間サイズの大きさしかない魔法少女がいくら束になろうと、その動きを封じ込めることができないのは自明の理だヨ――」
杏子「けどほむらお前、もう時間停止は使えねーんだろ!?」ブンッ―
使い魔「ウフフフ…シンジャッテクダサイナッ!!!」
ネム「……ハァッ!」ウィィィンッ!
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ほむら「くっ……これじゃあグリーフシードを取りに――!」
マユリ「敵のペースに引きずられて戦うというのは、戦闘において非常に不利な条件だ
いくら攻撃をかわせたところで、またいくら攻撃を食らわせたところで、実際にはこれまでのキミのループとほとんど状況は変わっていなかったということだネ――」カクッ
ほむら「――うるさいっ!だったら…だったらなによっ!?
あなたは最初から、私たちじゃあいつには勝てないって知ってて――!!」ハッ
ほむら(まさか……この男……!!)
ほむら「――魔法少女が魔女になる瞬間を、見たかったということ?」フルフル…
マユリ「――――」チラッ
マミ「くっ――佐倉さん!私が時間を稼ぐから、その隙にグリーフシードを――!」バンッバンッバンッ!
杏子「ああっ!――くっそ、使い魔の数がどんどん増えてやがる――!」
ほむら「そのために、私たちに希望をちらつかせて決戦に臨ませたのね――?」フルフル…
使い魔「イッカセナイヨォォォーーー!!」
さやか「――あたしも加勢します、マミさんっ!」ズバァッ!
ほむら「全力で戦ってもまるで歯が立たないと思い知らせて、私たちが絶望するのを――ソウルジェムが濁りきるのを――!!」
マユリ「――キミは何を言ってるのかネ?」
ほむら「……え?」
マユリ「そりゃ勿論、キミたちが魔女になる瞬間は是非とも見てみたいものだがネ
今はまずワルプルギスの夜を討伐することの方が遥かに大事なことだヨ――」
ほむら「――でも、じゃあどうやって……」
マユリ「なに、キミたちを戦わせている間に、ヤツの霊圧レベルから攻撃パターンまで、大方のデータは入手済みだ
これでもう、ヤツを好きに泳がせておく必要はなくなった――」ブンッ―
ほむら「泳がせて……ワルプルギスの動きを封じるつもり!?
馬鹿を言わないで、今さっきあなた自身が不可能だと――!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
マユリ「ヤレヤレ、飲み込みの悪いヤツだネ――敵が大きすぎて止められないなら、こちらも大きさで迎え撃てばいいだけのことじゃないか」バッ
マユリは刀を構えると、こちらへ向かってくる使い魔たちの軍勢に目線を遣りながら、一言だけ呟いた――
「 卍
解 」
卍解キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━!!!!!
533:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:19:13.98:48rdDTtg0
キタアアアアア
534:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:19:24.12:mpnfqgF30
きたきたきた
537:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:19:42.73:vBrJ3z9b0
うおおおおおおおおおおおおおおおおおお
542: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:20:25.05:WrhrV5tUOゾォオオォォォォーーー……!!
マミ・杏子・さやか「!?」ビクゥッ
杏子「なんだこの感じっ……あのおっさんの気配が急にっ……!!」
マミ「マユリさんの霊圧がさらに跳ね上がった――?」
さやか「――っ!!ちょっ、アレなにっ――!?」ビシッ
ほむら「これは……っ!?」
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
彼女たちが眼にしたもの
それは、芋虫のような胴体を持つ巨大な金色の“赤子”であった――
マユリ「――『金色疋殺地蔵』」
新たに出現した化け物はワルプルギスの夜へと方向を合わせ――
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
――頭から猛烈な勢いで突進を仕掛けていった!!
QB『これは――!』
まどか「えっ…なに?なにがあったの……!?」
QB『――涅マユリの霊圧がさらに上昇したと思ったら、一体なんなんだいこれは?
乳児のような顔をした芋虫状の巨大生物が出現したよ――』
まどか「きょだいせいぶつ……?」
QB『――どういうことか説明してもらえるかな?全く、ワケがわからないよ』キュップイ
義魂「――涅隊長が卍解を発動されたのです」
QB『――ばんかい?』
ーーーー
ワルプルギスの夜は笑い声と共に無数の触手や炎の槍を放ってくる
それらを顔面や胴体に受けながら、しかし化け物は怯むことなく全力で魔女へと突っ込んで行き――
――ついに正面から激突した
ドォオオオォォォーーーンッッッ!!!
さやか「うわぁ――!」ゴォォォー!
杏子「すげぇ風圧だっ――!」ゴォォォー!
マミ「あの怪物は――味方なの?」ゴォォォー!
ほむら「くっ――これはいったいどういう――!」ゴォォォー!
ネム「――死神の斬魄刀には二段階の封印が施されています」ゴォォォー!
魔法少女たち「えっ――?」
ネム「第一の解放を“始解”と言い、これにより斬魄刀の持つ能力が発現します
マユリ様の疋殺地蔵はこの“始解”に相当するのです――」
マユリ「――そして第二の解放が“卍解”だヨ。これにより、斬魄刀は真の“姿”をこの世界に顕現する
それがあの『金色疋殺地蔵』というワケだネ――」カクッ
ほむら「真の…姿……!」
さやか「――ってことは、あのなんかグロいのがマユリ隊長の本当の力ってことですか!?」
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
さやか「ひぃぃっ!!ごめんなさいぃぃっ!!」
ネム「――護廷十三隊の隊長になるためには、基本的に卍解の習得が必須条件となります」
ネム「そして、卍解による使用者の霊圧上昇幅は――」
マユリ「――始解のおよそ五倍から十倍、といったところかネ」ニヤリ
ほむら「じゅう……!」ゴクリ…
杏子「お、おい…!なんか使い魔どもの様子が変だぞ…!」
見ると、化け物をワルプルギスから引き剥がそうと集まって来た使い魔たちが、次々に悶え消滅していくではないか――!
使い魔「ウゲェェェェェーーーッッッ!!」ブクブク…
使い魔「ク、クルシ…タ、ス、ケ…!!」ゲホッゲホッ
ワルプルギスから突き出された黒い触手は、化け物との接点でシュウシュウと煙をあげながら溶解している
触手から分離して出て来ようとする使い魔たちも、生まれては消滅を繰り返していった――
マユリ「――この金色疋殺地蔵は、半径百間以内に致死性の猛毒を分散する
予想通りワルプルギス本体には効果が無いようだが、周りの雑魚を始末するには十分なようだ――」
杏子「おいちょっと待てぇぇっ!今『猛毒』って言わなかったかおいっ!?」
さやか「ちょっ、それってあたしたちもヤバいってことじゃ――!!」アワアワ
マユリ「うるさいヤツらだネ。心配せずとも、現状この毒はソウルジェムには作用しないヨ」
さやか「そ、そうですよね!?さっすがマユリ隊長――」アハハ…
マユリ「尤も手足の痺れや頭痛、吐き気ぐらいは併発するだろうが――」
杏子・さやか「ふざけんなぁぁぁーーー!!!」
ネム「――ご安心ください。皆さんには既に超人薬に毒の中和剤を含ませて接種してありますので」
杏子・さやか「脅かすなぁぁぁーーー!!!」
ほむら「――あなたの狙いはこれだったのね」ボソッ…
杏子「あ?」 さやか「え?」
マミ「――なるほどね、二人とも見て
ワルプルギスの夜が、押し負けている――!」
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
赤子の泣き声と魔女の笑い声が交錯し地獄のようなハーモニーを奏でる中、化け物はグイグイと頭を押し付けてワルプルギスの夜を押し負かせていた
魔女は至近距離から炎弾や触手を次々撃ち込んでいくが、化け物はズタボロになってもなお突進の勢いを緩めない
しかも、化け物の傷口からドロドロとした毒液が滴り落ちては、鋼鉄のように硬い魔女の体表から煙があがっていく
杏子「すげぇ……あのワルプルギスが、パワーで押されてやがる……!」ニィッ
ネム「恐らくワルプルギスの夜はあの巨大さ故に、魔法少女と直接パワー勝負をしたことは一度もないはずです
戦場を好きに徘徊できるというアドバンテージを失ったのは、これが初めてでしょう――」
ほむら「――こんな奥の手、聞いてないわよ?」
マユリ「全ての戦力を明かせるほど、お互いに相手のことを信用できてはいなかったろう?」カクッ
ほむら「――やっぱりあなたとは親しくなれそうにないわね」
さやか「そんなことよりも!今が攻撃のチャンスなんじゃない!?」
マミ「敵はマユリさんの卍解を相手に手間取っている――攻めるなら今ね!」フフ…!
マユリ「――そこでだ、ヤツを仕留めるのには、キミたちの連携とやらが必要になってくるのだがネ?」
杏子「アタシたちの――?」
マユリ「そうだ――キミはワルプルギスの夜の弱点を探りながら攻撃してたネ?」カクッ
さやか「へっ!?あたしですかっ!?え、ええ、まぁ――けどあいつ、脆い部分なんて全然無くって」
マユリ「だろうネ。ならば、こちらで作ってしまえばいい――」
ほむら「作る――?」
マユリ「――ヤツに一点集中攻撃を仕掛けるのだヨ」
そう言って、マユリは懐から無造作に取り出したグリーフシードを、魔法少女たちに向かって放り投げたのだった
ーーーー
QB『これは驚いたな。まさか死神にそんな奥の手があったなんてね――』
まどか「つまり……マユリさんは本当の力を隠してた――ってことですか?」
義魂「はい、そして今、その能力は完全に解放されました
既に、ワルプルギスの夜の動きを抑え、反撃に転じています――」
まどか「それじゃあ――!」パァッ!
QB『――そううまくいくかな?』
まどか「え――?」
QB『その卍解とやら――確かに今はワルプルギスの動きを封じているようだけど、それも長くはもたないんじゃないかな?
単純な攻撃能力なら圧倒的に敵の方が上手だ。このまま至近距離からの抵抗を浴び続けたら、さしもの卍解も無事ではすまないはずだよ――』
QB『そもそも、彼女たちには決定的に“打点”が欠けている。槍も剣も爆弾も銃撃も、ワルプルギスに致命傷を与えることはできていない
結局、一時的に敵の猛攻を凌ぐことができているというだけで、状況は相変わらずジリ貧のままだしね――』
義魂「それは……」
QB『――ねぇまどか、聞いての通り、未だに戦況は予断を許さないんだ。涅マユリの奥の手も、結局は必殺の一撃にはなりえないものだしね』
まどか「……」
QB『それよりももっと簡単に、かつ確実に戦いを終わらせる方法が、キミには残されているだろう――?』
義魂「鹿目さん、耳を貸しては――」
QB『――だから僕と契約して、魔法少女になってよ!』キュップイ
まどか「――ううん」
QB『え?』
まどか「私は、契約しないよ――キュゥべえ」
ーーーー
マミ「――それじゃあみんな、準備はいいわね?」
ほむら「ええ――」ファサァ
杏子「おうっ!――けど、ほんとにそううまくいくのか?」
マユリ「それはキミたち次第だヨ――誰か一人でもミスをすればそれまでだ」カクッ
さやか「うっ――だ、だいじょうぶ!絶対成功するって!」
ネム「…………」コクリ
ほむら「そうね――成功させましょう、私たちの手で!」キリッ
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ネム「マユリ様――!」
マユリ「わかっているヨ――そろそろ金色疋殺地蔵の被ダメージも無視できなくなってきたようだネ
それじゃ、始めるヨ――」
マユリ「――行けェェ!!金色――疋殺地蔵!!!」
叫んだwww
575: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:30:45.03:WrhrV5tUO「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」ズバズバズバズババァッ!!
ガキガキンガキガキガキンガキィィンッ!!!
一段と大きな泣き声をあげる化け物
同時に、金属と金属がぶつかり合うような音が連続して響き渡る――
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ついに、ワルプルギスの夜が後ろへ倒れこんだ!
見ると、化け物の首にかけられていた涎掛けが外れ、その首から毒液で濡れた大量の刃が剣山のように飛び出しているではないか!
化け物は、逆さまの体勢を取るワルプルギスの胴体部に頭を押し付けていた
必然、化け物の首から飛び出しナイフのように突き出た刀は、逆さになった魔女のこれまた首にあたる位置に炸裂していた――!
超密着状態からバネのような勢いで放たれた刺突の連撃
さしものワルプルギスも、無傷ではいられなかった
化け物はすかさず倒れこんだ魔女の胴体部に這い上がり、横向きにのしかかるようにして上から押さえつけた
倒れたワルプルギスの体からは触手と炎の槍が放たれ、覆いかぶさる化け物を振り落とそうとする
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
杏子「――よし今だっ!!」バッ―
さやか「オッケー!!」バッ―
さやかと杏子が動いた
倒れたワルプルギスに向かって一直線に飛びながら、さやかは無数の剣を空中に出現させる
――とそこへ、魔女の力で浮遊するがれきの塊がさやかの方へと向かっていく!
ほむら「させない――!!」ピューン…
もはや停止魔法を使えなくなったほむらは、持てる魔力の全てを身体能力の増強に充て、高速でがれきに突っ込むと手榴弾でそれを爆破した
杏子「ナイスだほむらっ!――さやか、はずすなよ――?」ニィッ
さやか「当ったり前っしょ――!!」ブンッブンッブンッブンッ―!
さやかは出現した十本の剣を、間髪いれずにワルプルギスの頭部めがけて投げつけた――
――傷口から直接毒を流し込まれ、シューシューと煙を放ちながらわずかに溶け始めている首へ
グサグサグサグサグサグサグサッ!!
さやかの剣は、溶解し始めて脆くなった首筋へと的確に突き刺さった
ネム「――破道の十一『綴雷電』」ビリリリリ―!
そこへネムの指先から電撃が放たれ、突き刺さった剣の間を駆け巡る――!
毒々しい紫色の煙に加え、何かが焦げるような黒い煙が首筋から立ち上り始めた
ネム「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ――」ブツブツ
即座に新たな言霊の詠唱を始めるネム
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
ワルプルギスは高笑いをあげながら、周囲のがれきを浮上させて魔法少女たちに投げつけていく
それを的確に察知し、残された爆弾で各個粉砕していくほむら
時間停止を失ったとはいえ、まだ超人薬の効果は切れていない
周囲に神経を張り巡らせてがれきの来る気配を察知すれば、強化したスピードでそれに近づき、仲間に被害が及ばぬ距離の内に破壊するのは容易い――
ほむら「やはりね――!」ニヤリッ!
ほむらは過去の戦いから、この最強の魔女は胴体部からしか触手や炎弾攻撃を放つことができないと見破っていたのである
それを事前に知らされていたマユリは、金色疋殺地蔵を縦ではではなく横向きにのしかからせ、なるべく魔女の胴体部全体を覆ってしまうようにしたのだ
今もワルプルギスの夜はひっきりなしに攻撃を放ち化け物を振り落とそうとしているが、生憎炎の槍は化け物の分厚い胴を焼くだけで貫通するには至らない
辛うじて黒い触手は化け物を貫通しダメージを与えることができるようだ
が、しかしそれらは突き破った時点で順次溶けて消滅していくため、貫通したその勢いで魔法少女たちにまで触手を伸ばして攻撃することができない
おまけに貫通した傷口から化け物の毒液が血のように流れ落ちては、鉄壁を誇っていたワルプルギスの身体を徐々に徐々に蝕んでいくのだ
無論使い魔たちは今もなお、生まれては消滅するという不毛なサイクルを繰り返している
ネム「動けば風 止まれば空 槍打つ音色が虚城に満ちる――」ブツブツ
ネムが詠唱を続けるのをよそに、今度は杏子がさやかに続いて武器を展開する
さやか「――杏子、バトンタッチ!次、よろしくねっ――!!」ニィッ!
杏子「――へっ、任せときなっ!!」ニィッ!
「アハハハハハハハハーーーーーッッッッッ!!!!!」
間近に、狂ったような笑いをあげる口が迫ってくる
杏子「さぁて、いつまでそうして笑っていられんのか――」
そして両手で槍を握ると、全体重を乗せた渾身の一撃を、煙をあげる魔女の首筋に叩き込んだ――!
杏子「――なっ!!」ブンッ――
グゥワキィイイィィィィーーーンッッッ!!!
――槍は、ついに魔女の首を貫通した
「アーーーッハッハッハッハッハッハッハッハーーーーーッッッッッ!!!!!」
直後、一層けたたましい笑い声をあげながら、仰向けに倒れていた魔女が上体を起こそうと動き始める
杏子「うおっと――!コイツ、今までアタシらの攻撃じゃビクともしなかったのに――!」ニィッ!
ほむら「効いてる――!みんなの攻撃が、ワルプルギスの夜を苦しめている――!!」パァッ!
ネム「蒼火の壁に双蓮を刻む 大火の淵を遠天にて待つ――!」ブツブツ… バッ!
ほむら「――っ!!杏子っ!どいてっ――!!」
杏子「りょーかいっ!次の一撃、頼んだぞ――!!」サッ
行きがけの駄賃とばかりに、突き刺さった槍をテコのように持ち上げて、首の傷口をかすかにこじ開ける杏子
そして一気に離れたところで、開いた傷口に向かって手掌をかざしたネムが完全詠唱の鬼道を放つ――!
ネム「――破道の六十三『雷吼炮』!!」
ゴォオオオォォォーーーッッッ!!!
すさまじい轟音と共に、雷撃がワルプルギスの首に突き刺さる
さらに――
ネム「――破道の七十三『双蓮蒼火墜』!!」
間髪いれず、二対の蒼炎が雷撃に続いて炸裂した!
――『二重詠唱』
二つの言霊を並行して唱えることで、同時に二種類の鬼道を発動する高等技術である
威力を削ぐことなく強力な術を連続して放つことができる反面、詠唱に時間がかかり隙が大きくなるため、他の術で動きを封じたり仲間が時間稼ぎをすることで初めて功を奏す戦法であった――
「アーーーッハッハッハッハッハッハッハーーーーーッッッッッ!!!!!」
開いた傷口に雷撃と炎撃を連続して撃ち込まれたワルプルギスの夜は、全身を揺らすようにしてのしかかる化け物をはねのけようともがく
おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」グラリッ…
その時、化け物の巨体が大きく揺れた
肉薄した状態からの度重なる攻撃を受けて、ついに限界が来たのである
あと一息でこの邪魔者を始末できると気付いたのか、一際甲高い笑い声をあげながら、ワルプルギスがゆっくりと上体を起こそうとする――
――《舞台装置の魔女》ワルプルギスの夜が、ついにその身体を“正常な位置”に戻そうとしたその時――!!
持ち上がりかけた魔女の頭部を真上から見下ろすように、武器の照準を合わせる魔法少女・巴マミ――
己の持つ魔力を限界まで込めた超特大の大砲を構えて、ジッと標的を見つめる――
マミ「――これで、おしまいっ!!」
上体をわずかに持ち上げたワルプルギス――即ちその頭部は、仰向けの体勢からほんの少しだけ、上空に位置するマミに向かって突き出されていた――!
マミ「――グラン・レイーナ・ティロッ!!!」
――極大の砲撃は、ワルプルギスの夜を――その首を、寸分違わず直撃した
ーーーー
まどか「私は、契約しないよ――キュゥべえ」
QB『――どういうことだいまどか?みんながどうなってもいいのかい?』
まどか「――私は、ダメな子だよ」
義魂「鹿目さん――?」
まどか「みんなにあれだけ何度も何度も念押しされたのに、やっぱりみんなのことが心配でたまらなくて、つい契約しちゃいそうになってばっかりで――」
QB『それの何がいけないことなんだいまどか?友達のことが心配で、友達の為に自分が犠牲になる――この星じゃそういうのを『友情』と呼ぶんじゃないのかい?』
まどか「私もそう思ってた……私が魔法少女になってワルプルギスの夜を倒せるなら、それが一番いいはずだって――」
QB『なら――』まどか「でも、そうじゃなかったの!」
義魂「!」
まどか「自分ひとりで全てを抱えて、自分だけが犠牲になって丸く収まるならそれが一番いいなんて――
――私のことを守ってくれてる、大切に想ってくれてる人たちに対して、すごく失礼なことなんだよ、キュゥべえ」
QB『――ワケがわからないよ。周りがなんと言おうと、キミがそう望むならそうしたらいいじゃないか』
まどか「ううん、それじゃだめなんだよ
私はひとりの人間だけど、私ひとりだけの力で生きてるわけじゃないんだもん――」
まどか「何でもひとりで解決しようとするのって、結局周りの人たちを信じてないっていうことと同じなんだよ
私、上条君の腕の事で、さやかちゃんが誰にも相談せずに契約しようとした時、すごく悲しかった――それと同じ」
まどか「さやかちゃんが契約しなくても、マユリさんのおかげで上条君の腕を治すことができた――」
まどか「確かに、私が契約すればワルプルギスの夜を倒せるかもしれない――けどそれは、私が契約しなくてもみんなが成し遂げてくれるかもしれないでしょ?」
QB『だからその可能性は低いと――』
まどか「低くても、みんなは私に『待ってて』ってお願いしたんだよ。『信じて待っててね』――って
だったら私は、みんなが帰るのを最後まで待つよ」
QB『――それで、彼女たちが全員死んでもかい?』
まどか「――うん。みんなを助けるためなら自分が代わりに……なんて考えがいつまでもあるから、ほむらちゃんは私に隠してることを話してくれなかったのかもしれないし、ね」
まどか「――えへへ、それにね、マユリさんが奥の手を隠してたって聞いて、なんかちょっと安心しちゃったんだ、私
『ああ、私が心配してる程度の不安なんて、とっくに予期して対策を立ててたんだ』――って」
まどか「ほむらちゃんもマミさんも杏子ちゃんも、さやかちゃんもネムさんも、みんな私なんかよりずっと魔女との戦いには詳しいし
私がここであれこれ心配してることなんて、きっとみんなならどうにかしちゃえるよねって、なぜかそう思ったの。根拠もないのに、変だよね――」ティヒヒ
QB『――やれやれ、どうやらここまでのようだね』
まどか「――え?」
義魂「――勝敗が決したようです」フゥ…
まどか「!!」ハッ
QB『全く、この街を去る前に手土産としてキミと契約を結べるかと思ったんだけどね――』
まどか「それじゃあ……!!」パァァ!
義魂「――ワルプルギスの夜は撃破されました
皆さんの勝利です――」ニコ…
やったね!
609:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:44:40.86:JCfQPUPV0
おおおお!
610: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:44:51.15:vLfxef5P0ーーーー
見滝原市・決戦の地
頭部を失い、残った胴体も徐々に消滅しつつある《舞台装置の魔女》ワルプルギスの夜の亡骸――
その歯車のような胴体部分から、いくつもの破片をちぎり取っては、封印を施していく十二番隊副隊長・涅ネム
マユリ「――フム、その辺はもういいだろう。次は肩の辺りのパーツを集めてこい」
ネム「はい、マユリ様――」サッ
杏子「――にしても間近で見るとやっぱでけぇなー、コイツ」シミジミ
さやか「これをあたしたちが……うぅ、なんか感激……!」ウルウル
マミ「――そうだわ佐倉さん
『魔法少女訓練プログラムの最終試験』――結果はどうかしら?」ニコニコ
さやか「へっ!?あっ――!!」ハッ
杏子「んー?そうだなぁ――」ニヤニヤ
さやか「ちょっ、なにそのにやにや笑い――!」
ほむら「…………」
マユリ「何を呆けているのかネ?邪魔だヨ、そこを退き給え――」ツカツカ
ほむら「……まさか、本当に倒せるなんて」
マユリ「今更なんだネ?最初からそのつもりだったのだろう?」
ほむら「そうだけど……多分、何度も繰り返していくうちに、心のどこかでは諦めていたのかもしれないわね
……情けない話だけれど、こうして死体を目の前にしても、倒したっていう実感が湧かなくて……」ホムゥ…
マユリ「フン、感傷――というヤツなのかネ?
生憎キミの感傷などに興味はないヨ――おいネム、この辺りのがれきを掘り返せ」
ネム「はい、マユリ様――」サッ
ほむら「……あなたは本当にブレないわね。その図太さを見習いたいわ……人格的には御免だけど」ファサァ
マユリ「フン、口の減らない小娘だヨお前は
――我々はまだここにいるが、キミたちはいても邪魔なだけだ。さっさと鹿目まどかのもとへでも行ってやったらどうだネ――?」カクッ
ほむら「……まどか」
モンハンかよ
617: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:47:06.54:vLfxef5P0さやか「――ほーむらっ!」ダキッ
ほむら「っ!……暑苦しいわ、離れてちょうだい」
さやか「まーたこの娘は照れちゃって~。かわいいなぁ~」ウリウリ
さやか「――お疲れ様、ほむら」ソッ…
ほむら「!!」ハッ
杏子「よっ、ほむら!――これでようやく、お前も一区切りだな!」ニィッ
ほむら「一区切り……?」ホムゥ?
マミ「ええ、そうよ。あなたの――長きに渡るワルプルギスの夜との戦いは、これでおしまい
これからは今まで通り、この街に出現する魔女から人々を――鹿目さんを守っていくっていう仕事があるでしょう?」フフ…
ほむら「まどかを……でも、私はもう時間停止魔法を使えない
武器の調達だってできなくなるし、こんな私じゃとても戦力にならないわ……」
杏子「――なーに情けねーこと言ってんだよ」
ほむら「え?」
マミ「ねぇ、暁美さん。魔法少女の力の源って、なんだと思う?
――私はね、『信じる心の強さ』だと思うの」
ほむら「信じる…心」
さやか「ほむらはさ、誰よりもまどかを守りたいっていう気持ちが強かったわけじゃん
何度失敗しても、簡単に絶望しちゃわないで、まどかを救い出せる時が来るのを信じてさ――」
杏子「だからさー、まどかの傍にいてやるのにはお前が一番ふさわしいってこと!」
ほむら「でも……私じゃまどかを守れ――」
さやか「そんなことないって!だってあんた、あの身のこなしは全部努力と経験でものにしてきたわけでしょ?
身体能力とか戦闘センスならどう見てもあたしたちの中で一番だよ!」
杏子「いっそ身体を鍛えるのに魔力を注ぎ込んで、“肉体武闘派魔法少女”を目指すとかどーよ?」ククク!
ほむら「に、肉体……!?あまりからかわないで……!」ホム!
マミ「それに、守ると言ってもあなたひとりに任せるつもりはないわ
ここにいるみんなで力を合わせて、これからも一緒にこの街の平和を守っていきましょう――!」ニッコリ
ほむら「…………」
ほむら「……ありがとう」ホム!
ーーーー
見滝原市・避難所
詢子「おーおー急に晴れてきやがったわねーこりゃ」
たつや「はれたー!」ワーワー
知久「おーい、どうもひとまず峠は越えたみたいだよー。……ふぅ、一時はどうなることかと思ったけど、無事に通り過ぎたみたいでよかったね」ドッコイショ
詢子「ふーん、案外すんなり行ったんだね。もっと長丁場になるかと思ってたけど――」
まどか「あっ、見てママ!雲の切れ間から光が差しこんでる――!」
詢子「ん?ほぉー、ありゃ天使の梯子だな」
まどか「天使の梯子?」
知久「ああいう風に、雲の隙間からわずかに光が差しこむ様子のことをそう呼ぶんだ。まるで天使が地上へ降ろした梯子みたいだろう?」
まどか「へぇー、そうなんだ――」
タツヤ「てんしー!てんしー!」キャッキャ
「えー、体育館に避難されている皆様ー、ただいま気象観測台から入ってきました報告によりますと、嵐は無事に見滝原を通過した模様ですー
これより市内の道路及び建築物等の被害状況を消防がパトロールして行く予定ですのでー、今しばらくこちらで待機していてくださいー」
まどか「――ねぇパパ、ママ。ちょっと廊下の窓から外の様子見てきてもいい?
ここからだと空の様子しか見えないし――」
体育館廊下
窓から外の景色を眺め――いや違う、何かを必死に探すように、目を凝らして見ているまどか
そんな彼女へ、声をかける者がひとり
義魂「――皆さんが心配なんですね」
まどか「あっ、ネムさ……じゃなかった、えーと――」アタフタ
義魂「――ソウルキャンディー」
まどか「え……?」キョトン
義魂「私たちの“商品名”です。本来は義魂丸と言っていたのですが、『もっと可愛い名前がいい』という女性死神の皆さんからの要望で、そう呼ばれるようになりました」
まどか「そ、そうなんですか……ソウルキャンディーかぁ。確かにそっちの方が可愛らしいですね!」ティヒヒ!
義魂「一応ソウルキャンディーには、そのタイプごとに名前が設定されています。私には正式な名前は付けられておりませんが、一応機会がある時には『ミモザ』と名乗っています」
まどか「ソウルキャンディーのミモザさん、ですね。やっぱり可愛い名前だなぁ!」ニコッ
義魂「――ありがとうございます」ニコッ
まどか「ウェヒヒ!」
義魂「――心配はいりません、鹿目さん」
まどか「え?」
義魂「――大丈夫ですよ、皆さんは無事です。今は涅隊長との通信が切れてしまっていますが、もうすぐこちらに戻ってこられるはずです」
まどか「そ、そうですよね!あーもう、私ったら、みんなが帰ってくると思うといてもたってもいられなくて――!」ウェヒヒ!
義魂「――そうですね、私も待ちきれません」フフ…
まどか「えっ?ミモザさんもですか?」
義魂「私は、涅隊長が涅副隊長のために特別に開発したソウルキャンディーなんです
量産されたものと違い、涅副隊長の性格をベースに若干修正を加えて作られております――」
まどか「それって、マユリさんがネムさんのために特別に作ったソウルキャンディー、っていうことですか?」
義魂「はい。とはいえ、涅副隊長自身にも義魂作製技術が関わっている以上、その気になれば全く同じ人格のものを作ることもできたはずです」
義魂「あえて私を副隊長の人格とやや異なるように調整したのは、やはり涅隊長にとって副隊長が特別な存在だから――なのでしょうね」
まどか「そうなんですか……なんだか、意外ですね。正直、マユリさんのこと今でもちょっと怖いなって思ってたんですけど――」
義魂「隊長は少々エキセントリックな方ですが、普通の方とはその表現の仕方が異なるだけで、副隊長にはそれなりの愛情を感じておられるようですよ」フフ…
まどか「ティヒヒ!やっぱり意外です!――あっ!!」ハッ
その時、窓の外に何かを見つけたまどかは、ネムの義魂丸が止める間もなく走り出した
体育館入口に向かって駆けていく姿を、義魂丸は微笑ましそうに見送る
自動扉は閉まっているため、その脇にある非常扉を重そうに押し開けるまどか
ギィィ……!
半分ほど開いたところで、待ちきれずにまどかはその隙間から外へ飛び出す
そして、こちらへ向かって歩いてくる四つの影に力いっぱい手を振ると――
まどか「みんなぁーーー!!おかえりぃーーー!!」
ーーーー
「――ワルプルギスの夜との決戦から一週間が経った」
「市街地から外れた場所を戦場に選んだことと早めの避難勧告が功を奏したのか、記録的な大災害だったにも関わらず犠牲者はほとんど出なかったそうよ」
「市街地への被害が少なかったこともあって、住民への避難勧告もその日の夕方には解除されてみんな自宅へと戻ることができたわ」
「――突然避難所に現れた私たちについても、涅マユリの“記憶置換装置”とやらのおかげで適当に理由づけがされてたから、面倒なことにはならなかったしね」
「そうそう、後日さやかは上条恭介からこっぴどく叱られたそうよ
『強力な魔女と戦うとは聞いてたけど、ここまでとんでもない嵐を起こすような奴だとは聞いてないよ!』――ってね。私には惚気に聞こえるけど」
「――私の、長きにわたるワルプルギスとの戦いは、これでようやく終わりを迎えた」
「まどかは最後まで契約をしなかった――私たちとの約束を信じて、待っててくれた」
「マミは、過去の時間軸で出会ってきたどのマミよりも、本当の意味で頼れる先輩になってくれた」
「さやかが魔法少女になった時にはどうなるかと思ったけれど、今回は全てがうまく進んでくれて本当によかったわ」
「杏子は相変わらずマイペースでぶっきらぼうだけど、今の私たちにはそれが威嚇や警戒でなく、彼女の素の気質なんだとわかる」
「――これでもう、心残りはひとつもない
全てが最高の状態で、ここまで来れたのだから――これ以上を願うのは、罰当たりな高望みだわ」
「――今までありがとう、みんな。この最後の時間軸で、あなたたちと一緒にいられて本当によかったわ――」
ほむら「――それじゃ行きましょう、涅マユリ」ファサァ
マユリ「――ホゥ、潔いことだネ。魔法少女験体一号・暁美ほむら――」カクッ
なんだとwwww
638:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:59:25.29:48rdDTtg0
な!?
639:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:59:39.67:10e7agQt0
ってうわあああああ
640:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 00:59:52.92:hXS5P/JF0
なん…だと…!?
641:これで連載が終了するといつから錯覚していた? ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 00:59:56.85:vLfxef5P0ーーーー
義魂『――それは……!いくらなんでもひどすぎます、涅隊長……!』
『――――』
義魂『いえ…ですが私にはそんなことっ……!』
ゴスッ!
義魂『うぐぅっ……!』ゲホッゲホッ
『――――!』
義魂『……わかり…ました…』
義魂『――ごめんなさい……!』
ーーーー
早朝―
見滝原市・自然公園
広い公園の周りを囲うようにして結界を張り、その内側で穿界門のチェックをする十二番隊副隊長・涅ネム
暁美ほむらは、両手を後ろ手に拘束された状態で、ネムが計器類を操作しているのをぼんやりと眺めていた
ほむらの隣に立つ十二番隊隊長・涅マユリは、掌を握ったり開いたりしながら、何を考えているのか読めない表情で佇んでいる
またその傍らには、ネムの義骸に入った義魂丸が伏し目がちに控えていた
ほむら「――こんな拘束をしなくたって、今更逃げたりしないわよ」
マユリ「ん?ああ、悪く思わんでくれ給えヨ。時間停止能力を失ったとはいえ、キミにはまだ時間遡行能力が残されているからネ――」
ほむら「冗談じゃないわ。無事にワルプルギスの夜を倒せたというのに、わざわざ逆戻りをするわけないでしょう――!」
マユリ「わかっているヨ、そう声を荒げなくてもいいじゃないかネ?」
マユリ「本来ならば、キミのソウルジェムをこちらで握ってしまえば一番手っ取り早い拘束になるのだヨ
文字通り生殺与奪の権を握ることになるのだからネ――それをしないだけでも感謝してもらいたいものだがネ」フン
ほむら「――どの道、生殺与奪を握られていることには変わりないわ。何せこれから、私はあなたの“研究材料”に成り下がるのだから――」
マユリ「恨みがましい言い方はよし給えヨ。これは同盟における正当な対価だ――」
ネム「――穿界門、接続準備が整いました。これより、霊子変換装置を起動させます」
マユリ「よし、急げネム――どうだネ暁美ほむら?あるいは何の変哲もないこの公園が、キミにとって最後に見る現世の光景になるやもしれんヨ――?」
ほむら「――別に、特に感慨も浮かばないわね。どちらにせよ、最初から決戦を終えたら人知れずこの街を去るつもりだったのだし――」
義魂「……ですが、ご友人の皆さんに別れを告げなくて、本当によろしかったのですか?」
ほむら「いいのよ。知ったらみんな黙ってはいない――あなたたちと刺し違えることになってでも、私を取り戻そうとする
そういう娘たちばかりだから――」
「なーんだ、よくわかってんじゃねーか」
ほむら「!?」
マユリ「――ホゥ?」カクッ
不意に聞こえてきた声の主は、彼女たちのよく知る魔法少女――
ほむら「杏子……!どうしてここに――!?」
杏子「アタシだけじゃないんだなーこれが」ヘヘッ!
「まったく――これは少しひどいんじゃないかしら?暁美さん」
「ほんとほんと。なんの断りもなしにあたしたちの前からいなくなろうなんて――許さないよ?」
ほむら「マミ…さやか……!あなたたちまで――」
マユリ「いや、それだけじゃないネ」
ほむら「――っ!」ハッ
マユリの呟きを受けて、即座に言わんとすることを理解したほむら
マユリ「これだけの顔ぶれが揃ったんだ。おそらくはあの小娘も――」
はずれであってほしい、その推測の言葉は――
「――ほむらちゃん!!」
――この場に最も来てほしくなかった少女の、呼びかける声にさえぎられた
ほむら「まどかっ……!」
まどか「はぁ…はぁ…ほむらちゃんっ……!」ハァ…ハァ…
息を切らせながら公園に駆け込んできた彼女の姿を見て、ほむらは後ろ手に回された拳を握り締めながら表情を歪める
ほむら「そんな……どうしてみんなここが……!?」ギュウゥ
マミ「あら、舐められたものね。私たちは一緒に戦ってきた魔法少女のチームよ?チームメイトに何かあったら、何としてでも駆けつけるのは当然でしょう――」
ほむら「答えになってないわっ!いったいどうやって――!」
さやか「せっかくワルプルギスの夜を倒したってのに、あんたあれからずぅーっと元気なかったでしょ。持ち前のクールさを前面に押し出して誤魔化そうとしてたみたいだけど、ちゃーんと気づいてんのよ?」チッチッチッ
ほむら「なっ……!!」
杏子「ま、そんで気付かれないように、それとなーくみんなでほむらの周りを張ってたってわけだ。つってもお前、警戒心強すぎて全然近づけなかったけどな」
ほむら「そんなはず……!」
そう、そんなはずはなかったはずだ
いくら気付かれないように注意して張り込んだところで、彼女たちの気配にほむらが気付かないわけがない
今日この時間にほむらたちが現世を去ろうとしている――そのことを知る人物が、彼女たちに告げたとしか考えられなかった
その時、ほむらはある人物が微かに視線をそむけたのに気付いた
涅ネム――いや、彼女と同じ姿をした義骸の方である
ほむら「まさか……!?」
ほむら(そういえば、まどかが言っていた気がする――)
ほむら(避難所で私たちの帰りを待っていた時、涅ネムの義魂丸に勇気づけてもらった――って)
ほむら(でもまさか、主である涅マユリに背いてまで、皆と私を引き合わせたかったというの――?)
マユリ「――ヤレヤレ、わざわざ見送りに来てくれるとは、いいトモダチとやらを持ったネ?暁美ほむら――」
ほむら「――っ!!」
マユリの言葉で、思考の海から現実に引き戻されるほむら
ほむら「――そうね。みんな、わざわざ見送りに」まどか「どういうことなのほむらちゃん?」
ほむらの言葉は、しかしまどかによってさえぎられた
ほむら「……」
まどか「私たちに黙って、どこへ行こうとしてたの?せっかくワルプルギスの夜を倒したのに、どうしてそんなに苦しそうな顔をしてるの――?」
ほむら「……まどか、私は」マユリ「彼女は私の研究材料に志願したのだヨ」
まどか「!!」
杏子「はっ!何を言い出すかと思えば、とんだ世迷言だな変態オヤジ!」
マユリ「言いがかりをつけないでくれ給えヨ。これは彼女の方から持ち出した提案だ――」
マミ「信用すると思って?」
ほむら「――彼の言うことは事実よ。これは私が言い出したこと
ワルプルギス討伐のために彼を手を組んだ――その報酬なの」
さやか「報酬……?」
マユリ「そうだヨ!人工シードを開発し、天然のシードを養殖し、超人薬を準備し記憶置換で尻拭いをし!
考えうる限り最小の被害でワルプルギスの夜討伐を成しえた、その成果に対する正当な報酬だ!!」
ほむら「死神サイドからの人的支援を得られなかったとはいえ、彼の尽力が無ければ全員が無事な状態で奴を倒せはしなかった
魔法少女や魔女に関する情報提供だけでは、彼に対する報酬にはならないもの――」
さやか「だからって、何もほむらがっ…その、研究材料になることないじゃん!もっとこう、ほら、別のお礼じゃだめなんですか、マユリ隊長?魔法少女日替わりデート一週間分とか――!」ヒッシ
マユリ「相変わらずうるさいヤツだネ。少し黙り給えヨ」カクッ
さやか「うっ……」アトズサリ…
マミ「――冗談は抜きにして、他の方法ではだめなんですか?これからも、魔女に関する情報でしたらいくらでも協力――」
マユリ「生憎、ただの魔女や使い魔にはもう興味がないのだヨ
何せ断片とはいえ、史上最大の魔女の死体を入手することができたのだからネ。これ以上雑魚の験体は必要ない――」
杏子「――で、お次は魔法少女の解剖実験てか?変態っぷりもさすがに目に余るぜおっさん?」
ほむら「やめてちょうだい。これは私が決めたことよ――」
まどか「――ほむらちゃんは、最初からそのつもりだったの?」ボソッ…
ほむら「……当然でしょう、納得した上での申し出よ」
まどか「だからほむらちゃん、いつも寂しそうな顔してたの?」ボソッ…!
ほむら「…!」
まどか「みんなで旅行に行こうって話してた時も、必ずワルプルギスの夜に勝てるって言ってくれた時も」フルフル…
まどか「ほむらちゃん、どこか思いつめたような顔してた……私にだって、それくらいわかるよ?ほむらちゃん」フルフル…
ほむら「……思い違いよ。そんなことはない」まどか「だからほむらちゃん、肝心なことは何も話してくれないのっ!?」
ほむら「!!まどか――」
まどか「――『信じて待ってて』って、約束してくれたから、私は契約せずにみんなを待ち続けることができたのに
ほむらちゃんは、心の底じゃ私たちのこと、信じてくれてなかったの――?」グスッ…
ほむら「…!ちがう、そんなことない――!」
まどか「じゃあどうしてっ……私たちに秘密で、こんなっ……!
……あんまりだよ、こんなのってないよっ……!!」ボタボタ…
ほむら「――わかってちょうだい、まどか。誰かがこうするしかなかったの」フルフル
ほむら「魔法少女について研究が進めば、ソウルジェムの分析も捗って――いつか、魔法少女を普通の人間に戻すことができるようになるかもしれないの」
まどか「――っ!!」ハッ
ーーーー
マユリ『――あるいは、魔法少女を元の人間に戻す方法も見つかるやもしれないネ』
ーーーー
ほむら「――元々、死神と同盟を結ぼうと考えたのは私の独断だったし、あなたたちはただワルプルギスを倒すために協力してくれただけ
他の魔法少女にこんな役目をさせるわけにはいかないの――すべての責任は、同盟の立役者である私が負わなければいけない」キリッ
杏子「ふざけんじゃねーよ。わかってねえのはそっちだ、バカ」
ほむら「――!」
マミ「あなた一人にその“責任”っていうのを背負わせて、私たちが平気でいられると思う?もしそんなことになったら私、絶望して魔女になっちゃうわよ――」
まどか「私も……ほむらちゃんを助けるためなら、契約しちゃうかも」ボソッ…
ほむら「なっ…バカなことを言わないで!そんなことのために魔法少女になるなんて――!」まどか「そんなことなんかじゃないよっ!」
ほむら「まどか――!」
まどか「どうしてわかってくれないのっ……!?私たちみんなにとって、ほむらちゃんは大切な友達なんだよ?ほむらちゃんが私たちのこと大切に思ってくれてるのと、おんなじなんだよっ……!」
まどか「――みんなの代わりに自分が犠牲に……なんていう考え方は、私もうやめたの。だから、ほむらちゃんも――!」
マユリ「やれやれ、鬱陶しいことだネ全く」
マユリ「二言目にはやれトモダチだ仲間だとごちゃごちゃごちゃごちゃ――うるさいんだヨっ!!どいつもコイツもっ!!」
まどか「ひっ――!?」ビクゥッ!
ネム「マユリ様――」 義魂「涅隊長……!」
マユリ「――で?結局キミたちはどうして欲しいんだネ?暁美ほむらを研究材料にさせたくないというのなら、誰かが代わりになると?」カクッ
ほむら「ちょっ――待ちなさい涅マユリ!彼女たちは関係ないわ――!」
杏子「だぁーかぁーらぁっ!まずその“研究材料”って発想から離れてくんねーかなぁ!
薬の投与が何回だの実験が何時間だの、そういうレベルになってくるとさすがに協力しきれねーよ!」
マミ「もう少し、その――新薬のモニターテスト、ぐらいのお話しだったら、なんとかお付き合いできるのですけど……」
さやか「そうそう!たまーにネットとかで求人募集してるやつあるじゃないですか!
『開発した新薬のモニターさん募集!安全かつ高給です!』みたいな感じの!」
マユリ「フン、どうせソウルジェムがある限り死にはしないんだ
それならドロドロになるまで研究したって構わんだろう?」
杏子「いや構うよっ!いくら死なねーからって、誰が好き好んで手足バラバラにされるかよっ!?」クワッ
さやか「お願いしますよマユリ隊長!もうちょっと他の条件で勘弁してください!
なんたって隊長は天才科学者なんですから、そんな物騒な方法取らなくても魔法少女の研究ぐらい完成――」ヒッシ!
マユリ「そういえば――あの人間の小僧とはうまくいっているのかネ?」
マユリ「なに、せっかくこの私が処置を施してやったのだからネ。その後の経過を気にするのは当然だろう?」カクッ
さやか「そ、そりゃあ隊長のおかげで恭介の腕は無事に良くなりましたし、まぁその後もお陰様で順調に……////」テレテレ
マユリ「そうかネ、それは結構。私も一服盛った甲斐があったというものだヨ」
さやか「……は?」
マユリ「それにしても、思った以上に効果があったようだネ。これは改良すればさらに効能が――」
さやか「え、いや、ちょっと…なんですか?え、『盛った』……?」
マユリ「ああ、そうだヨ。何の変哲もない人間の小僧を無償で治してやる義理などないだろう?
せっかくの機会だったのでネ、新たに開発したばかりの新薬の被験体になってもらったというわけだ――」
杏子「お、おい…?」 ほむら「いったい何を言って……?」
さやか「――新薬?被験体?何のことですか、ねぇ――?」
マユリ「飲み込みの悪いヤツだネ、媚薬に決まってるだろう?」
さやか「び、びやく――?」
マミ「――っ!」 ほむら「なっ――!」 杏子「ハァッ!?」 まどか「び、びやくって――!?」
マユリ「正確には催眠状態を誘発させ暗示をかけやすくする薬――と言ったところかネ
“魔女の口づけ”について調べていた過程で試しに開発してみたのだが――」
マユリ「俗な言い方をすればそうなるネ
要は被験体の脳にある種の麻酔作用を発生させ、他者の態度や言葉に対する警戒心を緩めて好意を抱かせやすくする薬品だ」
杏子「お、おい待てっ―!」
マユリ「自白剤としては勿論、その気になれば武力的行使を介さずに敵対者を無力化することもできるだろう
尤も現段階ではまだそこまで完成されてはいないがネ――」
さやか「――恭介にその薬を、打ち込んだってこと……?
はは…うそですよね?やだなぁ、マユリ隊長ってば冗談にしちゃ笑えないですよぉ……!」フルフル
まどか「さやかちゃん――!」 マミ「美樹さん、待って――!」
マユリ「何か問題でもあったかネ?むしろ感謝してもらいたいぐらいだがネ――」
ほむら「っ!!そいつの言葉に耳を傾けてはダメっ――!!」
さやか「……ははは、え、うそ?うそだよね……?だってそれじゃ、恭介があたしのこと好きだって言って……!」ガタガタ…
ーーーー
『さやかが心の支えになってくれてたんだって、告白された時に気付いたんだ』
ーーーー
ゴゴゴゴゴ……!!
まどか「――っ!さやかちゃんのソウルジェムが――!?」
杏子「てめぇっ――!!」ブンッ…
マミ「くっ――!!」カチャッ…
瞬時に槍と銃を呼び出す二人
だが次の瞬間、二人の目の前にネムが立ちはだかる――
杏子「なっ――!!」
マミ「ネムさんっ――!?」
ネム「『六杖光牢』――」シュン―
ズバァン!!
マミ「きゃっ――!!」
六本の光がマミの身体に突き刺さり、動きを封じた!
マユリ様安定の鬼畜や
692: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:19:35.34:WrhrV5tUOまどか「マミさん!!」 ほむら「そんなっ――!!」
杏子「てめぇ何を――!!」ブンッ―
ネム「――『蒼火墜』」
杏子「!!」バッ
咄嗟に飛び退いて攻撃をかわす杏子
それを執拗に追跡し、鬼道を放ち続けるネム
マユリはそんな状況をまるで意に介していないかのように、淡々とさやかに語りかける――
マユリ「そう、あの小僧がキミに惚れたのは私の助力のおかげということだネ
考えてみれば当然のことだろう――?」
さやか「恭介……恭介はあたしのこと……あはは……!」ブルブル
ーーーー
『でも、僕だって……!さやかに何かあったら嫌なんだ…!』
ーーーー
マユリ「そうでもなければ、キミが魔法少女として生きることになったとわかった時点でキミから離れるに決まっているじゃないか
誰が好き好んで人外の小娘と添い遂げようなんて思うかネ――?」
さやか「人…外……そう、だよね……あはは……
魔法少女なんてわけわかんない生き物になっちゃった女の子となんて、まともな人ならそのまま付き合っていこうなんて思わないよね……!」ゾゾゾゾゾ…!
ーーーー
『どんなことがあっても、僕は君の味方でいるよ、さやかっ!!』
ーーーー
いつものマユリ様がお戻りになられたか
697: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:21:35.97:WrhrV5tUOマミ「美樹さん聞いちゃダメっ!!お願いネムさん、やめさせてっ――!!」モゾモゾ…!
杏子「ちっくしょうっ!!邪魔すんなどけっ!!あのおっさんを早く黙らせねぇと――!!」
ネム「『撃』――『廃炎』――『鎖条鎖縛』――!」
ほむら「ダメよさやかっ!!耳を塞いでっ!!」
まどか「さやかちゃんっ――!!」
義魂「……っ!」ギュゥゥ…!
マユリ「キミと居ればいつまた魔女との戦いに巻き込まれるかもわからない。せっかく腕が完治したのに、さらに酷い怪我をする恐れもあるだろうに、ネ
大体、魔女のような人外の化け物相手に戦えるヤツなど、力を持たない一般人の目には同様に化け物と映って然るべきだろう――?」
さやか「――そっか。……あたしの味方でいてくれるって言ってくれたのも、一緒に戦場に残るって言ってくれたのも全部……」ガタガタ…
ゴゴゴゴゴ……!!
さやか「あたしのこと、好きだって言ってくれたのも……全部うその気持ちだったんだ」ブルブル…
ゴゴゴゴゴ……!!
杏子「さやかっ!!」 マミ「美樹さんっ!!」 ほむら「やめなさい涅マユリっ……やめてっ……!!」 まどか「やめてぇっ――!!」
さやか「はは……仁美に悪いことしちゃったな、あたし……恭介は多分、仁美の告白を受け入れてくれてたはずだったのにね……
あははっ…何だろう…何であたし、魔法少女になったんだっけ……?ああ…なんていうかさぁ……」ドドドドド…!
マユリ「――それとも何かネ?人の形をした生ける屍風情が、まさか本気で人から愛してもらえるなどとでも思っていたのかネ?」カクッ
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!!
さやか「――あたしって、ほんとバカ」
うわあああああ
701: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:23:42.96:WrhrV5tUO次の瞬間、すさまじいエネルギーの奔流がさやかを包み込んだ――!
杏子「うわっ――!」 まどか「きゃあっ――!」 マミ「こ、これはっ――!?」 ほむら「くぅっ――!」
ネム「――!」 義魂「うぁっ――!」 マユリ「ホゥ――」ニヤリ
みるみる内に、公園一帯を魔女の結界が覆っていく――!
劇場のような空間
指揮者と楽団が荘厳かつ激しい演奏を披露する
舞台中央の床が開くと、そこから巨大な鋼鉄の化身がせり上がって来た――
魔女空間in自然公園
《人魚の魔女》オクタヴィアがその姿を現す――!
杏子「――さやかぁぁっ!!」
まどか「嘘よ……嘘よね、ねぇ?」ペタリ…
マミ「こんな……こんなことって……!」ガクガク
マユリ「――素晴らしい!」
ショックを受ける少女たちをよそに、感嘆の声をあげるマユリ
マユリ「ソウルジェムの濁りが限界に到達した瞬間から、ものの数秒で霊圧波形から霊力構成までもが魔女のそれへと変容しているネ!
しかも霊圧の振れ幅が魔法少女の時とは段違いだ!実に興味深い現象だヨ!!」
杏子「テメェは――何様のつもりだっ!?」バッ―
怒りを露わに杏子がマユリへ飛び掛かろうとしたその時――!
「やれやれ、少し落ち着きなよ杏子――」
杏子「――っ!!」ハッ
マミ・まどか「キュゥべえ!?」 ほむら「あいつ――!」
突如出現したキュゥべえの呼びかける声に、思わず杏子たちは気をとられた
その一瞬の隙を突いて、マユリが瞬歩で杏子に迫る
杏子「!しまっ――」
ズバァァァッ!!
いつの間にやら解放していた疋殺地蔵で杏子を斬り捨てるマユリ
杏子「痛っ――!!」バタッ
まどか「杏子ちゃんっ!」 マミ「佐倉さんっ!」 ほむら「杏子っ!」
マユリ「全く、いちいちうるさいヤツらだネ――」ブンッ
QB『あーあ、だから言わんこっちゃない
「隊長格は名前を呼ばずに斬魄刀を解放できるらしいから、まだ始解してないからって迂闊に近付くのは危険だよ」って忠告しようとしたのに』キュップイ
悪びれる様子もなくそう呟くキュゥべえ
まどか「キュゥべえっ……どうしてあなたがここにっ……!!」
ほむら「――そういうこと」ボソッ…
まどか「え…?」
腕を後ろ手に拘束されたままの状態で、ほむらはキッとマユリたちを睨みつけた
ほむら「やはり、これが目的だったのね、涅マユリ。そして――インキュベーター!」
QB『ご明察だよ暁美ほむら。キミが涅マユリと手を組んだように、ボクも彼と手を組んでいたんだ』
感動のクライマックスかと思ったら何だこの展開wwww
710: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:26:08.67:vLfxef5P0マミ「手を組んで――どういうことよ?
ねぇ、ネムさん!これはどういうことなの?早くこの術を解いて!美樹さんを助けないと――!!」モゾモゾ…!
必死に身体を動かし、六杖光牢を解こうとするマミ
しかしネムはマミに向かって掌を向けると――
ネム「――雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此を六に別つ」
ギュイィィィーーーン!!
マミ「うっ――!!」
マミを拘束する光牢の締め付けがより強くなった!
マユリ「今のは後述詠唱と言ってネ。詠唱破棄した鬼道に後から詠唱を加えることで、術の効果を高める技術だ――」
まどか「マミさんっ……!」
ほむら「まどか!早くここから逃げるわよ――!」キッ―
まどか「えっ――?」ハッ
腕を封じられながらも、ほむらはまどかの傍に駆け寄りそう呼びかけた
ほむら「ヤツらの狙いはあなたを魔法少女にすること――
そのためにあなたたちをわざと呼び寄せ、さやかを絶望させ魔女にした――あなたが彼女を救うために契約するだろうと踏んでね……!」クッ…!
まどか「……!!そんなっ……それじゃあミモザさんは――!?」バッ!
まどかが振り返ると、義魂丸は唇を噛み締めて目をそむける
ーーーー
義魂『――それは……!いくらなんでもひどすぎます、涅隊長……!』
マユリ『何がひどいものかネ。時間停止を失った暁美ほむらなど、もはや研究材料として最良の個体とは言えんヨ
それに元々、魔女に比べて魔法少女の研究材料は圧倒的に不足しているしネ。最大の魔女を倒してやったんだ、他のヤツらも一緒に捕獲したって文句はあるまい?』
義魂『いえ…ですが私にはそんなことっ……!』
ゴスッ!
義魂『うぐぅっ……!』ゲホッゲホッ
マユリ『――口ごたえをするんじゃないヨたかが義魂丸の分際で
わかったらお前は他の連中をうまくおびき出すんだヨ。幸いお前は鹿目まどかから信頼されているようだしネ――!』
義魂『……わかり…ました…』
義魂『――ごめんなさい……!』
ーーーー
ーーーー
さやか『――ほむらが!?』
義魂『はい…暁美ほむらさんは最初から犠牲になるおつもりだったんです……!』
杏子『あんのバカっ……!』
マミ『でも、そんなこと私たちに話してしまって大丈夫なの?もしマユリさんにバレたらあなたが――』
義魂『大丈夫、だと思います。この念話装置による通信は話し手にしか聞こえないですし、この後通信記録も消去しますので、すぐに涅隊長に発覚することはないかと……!』
まどか『ほむらちゃん……どうして……!!』
義魂『このままでは暁美さんは皆さんに何も言い残さないまま、尸魂界へ行ってしまいます
その前に、皆さんで涅隊長を説得し、暁美さんを連れて行くのを思いとどまらせて頂けないでしょうか……!』
まどか『――わかりました。ほむらちゃんたちの出発する場所を教えてください、ミモザさん――!』
ーーーー
まどか「そうなのミモザさん……?私たちを騙すために、ほむらちゃんのことを教えてくれたのっ……!?」ヒッシ
嘘だと言ってほしい――縋るように義魂丸へ問いかけるまどか
義魂丸「……申し訳、ありませんっ……!」フルフル
まどか「…!ひどいよ…そんなのあんまりだよ……!!」ブワッ…
杏子「――ほんの少しでもてめぇのことを信用しちまってたのは、やっぱ間違いだったみてぇだな……変態オヤジっ!!」クワッ
マミ「ネムさんにまでこんなことをさせてっ……あなたって人はっ……!!」
マユリ「『こんなことをさせて』?妙な口ぶりだネ、それじゃまるでネムが嫌々私の命令に従っているみたいじゃないか――」カクッ
マミ「何をぬけぬけとっ……!!だってネムさんは私たちの大事なお友達――」
マユリ「後述詠唱を知ってたかネ?」
マミ「――え?」
マユリ「番号まで口にせずとも、術の名称だけでも鬼道が発動できることは?」
マユリ「卍解についてはどうだネ?二重詠唱は?
隊長格の死神が斬魄刀の名を呼ばずとも始解できることを、そいつから聞かされていたのかネ?ん?」
マミ「そ、それは……っ!」ウッ…
ネム「…………」メヲソラス
マユリ「キミが“トモダチ”とやらから教えてもらった尸魂界や死神の情報など、知ったところで意味もない表面的なものばかりだ
我々の戦力や能力に関する事項については一言も明かされてはいないハズだヨ――」
マミ「……っ!」サァー…
マユリ「おかしな話じゃないかネ?秘密主義を貫いてきた暁美ほむらでさえ、決戦の前にはキミたちに自身の真実を語ったというのに
キミの大事な“トモダチ”であるというネムは、キミに手の内の半分も打ち明けてはいないじゃないか――」ニヤリ
QB『やれやれ、マミは昔から寂しがり屋だからね。少し優しくされるとすぐに相手を信じ込んでしまう――友達だと思い込んでしまうんだよね』
マミ「そんな…じゃあ最初からネムさんは……私のことなんて……?」フルフル
ゴゴゴゴゴ……!
杏子「ばっ…バカ野郎マミ!そいつらの言うことなんか――!」イツッ…!
ほむら「まどか!今は早くここから――!」
まどか「――ほむらちゃんの、真実?」
ほむら「っ!」ハッ
まどか「ねぇほむらちゃん……真実って――」
ゴォオオオォォォォーーー!!!
一同「――っ!?」
その時、すさまじい重圧が結界内を覆った
《人魚の魔女》オクタヴィアがマントを翻し、空中に大量の車輪のようなものを出現させたのだ!
まどか「っ!さやかちゃん――!」
ほむら「いけない……!早く逃げて――!」
ネム「――縛道の七十三『倒山晶』!」
次の瞬間、まどかたちに降り注いできた車輪が光の壁によって弾かれた
逆四角錐の防壁で周囲を覆う防御鬼道『倒山晶』を発動したのだ
ネム「ハァ…ハァ…」
マユリ「限定解除していない状態とはいえ、鬼道を乱発しすぎたぐらいで息が上がるとは、使えんヤツだネ――」
だが――
マミ「――っ!?きゃぁぁぁっ!!」
杏子「うぉっ――くっ、うぅぅ……!!」
まどか「あっ――!」 ほむら「っ!!」
防壁に守られたのはまどか・ほむら・ネム・義魂丸・マユリの五人だけで、疋殺地蔵に斬られた杏子と六杖光牢に締め付けられたマミは、身動きがとれないまま車輪の雨に曝される――!
まどか「マミさん、杏子ちゃんっ!――やめて!もうやめて!さやかちゃん!」
QB『無駄だよまどか。美樹さやかは魔女になってしまった、もうキミの声は届かないさ』
マユリ「ほらほら、いいのかネ?このままでは巴マミと佐倉杏子は二人とも魔女の餌食だヨ
早く契約して、美樹さやかを元の姿に戻してやらないと――」
まどか「――どうしてなのキュゥべえ?だってあなたはもう、私を勧誘しても無駄だって――!」
QB『やれやれ、ボクが何故そう言ったのか覚えてるかい?
「涅マユリの人工シードのせいで、キミが魔女化する可能性は著しく低い」――こう言ったろう?』
まどか「……!!」
QB『それはつまり、彼がキミたちへの人口シードの提供を拒めば、その限りではないということだよ――さぁ、わかったらボクと契約を――』
ほむら「そんなこと、させない――!!」ダッ
マユリに向かって駆けだすほむら
マユリ「――ホゥ?」
ネム「マユリ様――!」ハァ…ハァ…
ほむら(――腕は封じられても、魔力で強化した脚はまだ使える!)
一気に距離を詰めると、その勢いを乗せたままマユリに強烈な蹴りを放つ――!
義魂「――止まってください、暁美ほむらさん!」
ほむら「――っ!?まどかっ!!」
まどか「わっ!……ミ、ミモザさん……!?」
見ると、義魂丸のネムがまどかの背後を取り、手首を掴んでほむらを牽制していた
ほむら「――まどかを離しなさい。その娘を傷つけるのはあなたたちの本意じゃないはずよ」キッ…
マユリ「なに、何なら直接身体を痛めつけてやった方が、いっそ契約に踏ん切りがつくかもしれんだろう?」カクッ
QB『おいおい加減を誤って殺したりしないでくれよ?ボクは鹿目まどかを契約に追い込むのに手を貸すという条件であなたと手を組んだんだ
もし彼女が死にでもしたら――』
マユリ「フン、改造魂魄でもないただの義魂丸には人並みの戦闘力しかないヨ
うっかり首でも締めない限り、殺す心配は無用だ――」
ほむら「くっ……!」ギリッ…
まどか「お願い、ミモザさん。やめて……こんなのってないよ……!」ウゥ…
義魂丸「……ごめんなさい、鹿目さん…!」ギュウッ…
まどか「どうして…?だって、ワルプルギスとみんなが戦ってる時に、私がみんなの所へ行こうとしたのを、ミモザさんは止めてくれたでしょうっ……?」
マユリ「当たり前だヨ。契約もしない状態のまま決戦の最中に出てこられたら、金色疋殺地蔵の毒で二分と保たずにキミは死んでたからネ
まったく、インキュベーターが余計な真似をしたせいで危うく私の策が水の泡になるところだったヨ――」
QB『仕方ないだろう?マミじゃないけど、ボクだってあなたが卍解なんていう奥の手を隠し持っているなんて知らなかったんだ
面倒な手順なんて踏まずにさっさとまどかを魔法少女にしてワルプルギスの夜を倒してもらった方が効率的だと思ったんだよ――』
マユリ「馬鹿を言うんじゃないヨこの屑が。鹿目まどかに眠る才能については十分耳にしていたからネ
万一ワルプルギスを跡形もなく消し飛ばされでもしたら、せっかくの研究材料が手に入らないじゃないか――」フン
ほむら「…っ!ちょっと待って……!
お前たちが手を組んでいたと言うことは、さやかが契約した時にインキュベーターの動きを捕捉できなかったというのも――!」ハッ
マユリ「何だ、今頃気が付いたのかネ?」カクッ
マユリ「美樹さやかが訪れていたコンサートホールに『偶然』孵化しかけのグリーフシードが存在し
キミたちが『偶然』そこから遠く離れた場所に居た頃に、『偶然』そのシードが孵化する――」
マユリ「いくらなんでも偶然の一致で済ますのには重なり過ぎだとは思わないかネ?」ニヤリ
まどか「そ、それって……!」 ほむら「でも、そんなことが――!」
マユリ「キミたちが人口シードに溜め込んだ穢れを、使い魔に注入して強制的に魔女化させることができるんだ
グリーフシードに注入して孵化を促すことだってできるとは思い至らないかネ?」
ほむら「っ!!」
マユリ「ま、ちょうどいいタイミングで孵化するように穢れの量を調整するのは骨が折れたがネ」ヤレヤレ
まどか「でもっ…どうしてさやかちゃんと上条君がコンサートホールに行くってことを知って……?」
ほむら「――監視用細菌。こいつは杏子のことを四六時中監視できたのよ、まどか――」
まどか「えっ!?」
ほむら「そして私たちはコンサートの前日、杏子の前でその話をしている……っ!待って、それじゃまさか――!」ハッ
マユリ「ンッフッフ……」ニヤリ
ほむら「――!さやか聞いてっ!こいつは嘘を吐いてる……上条恭介は薬なんか盛られてないわ――!」
まどか「ほむらちゃん!?それってどういう――」
ほむら「インキュベーターは嘘を吐かない。ヤツらが手を組んだのはさやかがデートに行く前日のはずよ
なら、上条恭介の腕を治した時点では、まださやかを魔女化させようという目論見はなかったはず――!」
まどか「あっ――!」ハッ
QB『おっと、これはボクが失言をしてしまったのかな?』
マユリ「――その通りだヨ暁美ほむら。あの時点ではまだ、キミに恩を売っておこうという程度の考えしか持っていなかった
そもそも、魔女の口付けに侵された状態の人間を捕獲できなかったしネ。さすがの私でもサンプルもなしにそんな薬は作れんヨ――」
まどか「そんな…!それじゃ、さやかちゃんはっ……!」
QB『おーいまどか、そろそろ決断してくれないかな?』キュップイ
ガンガンガンガンッ!!
《人魚の魔女》が放つ車輪はひっきりなしに防壁に当たり、荒い音を立てている
マミは立ったまま、杏子は倒れたままの状態で、魔女の猛攻に曝され続けていた
マユリ「このままじゃ、あの二人まで魔女になってしまいかねんヨ――?」カクッ
まどか「……っ!」ギュッ…!
ほむら「まどかっ――」(せめて両腕が使えれば――まどかだけでも逃がす時間が稼げるかもしれないのに!)
QB『ソウルジェムが砕けない限り死にはしないけど、ああして肉体にダメージを受け続けると、その傷を癒したり痛みを軽減するのにかかる魔力がどんどん嵩んでいくからね
特にマミなんかは涅ネムに裏切られたのがよほどショックだったのか、濁っていくスピードが心なしか早くなっているようだし――』
まどか「――ねぇ。ネムさんは本当に、マミさんのこと利用しようと思ってただけなの?」
ネム「…………」ハァ…ハァ…
無言のまま防壁を維持し続けるネム
こめかみを伝う汗は、疲労のためだろうか
まどか「ねぇ、ミモザさん?私を励ましてくれてたのも、全部罠にかけるため……?」
義魂「……申し訳、ありません……!」フルフル
まどかの腕を掴んだまま、顔をそむける義魂丸
その肩が震えているのは、魔女の攻撃の振動故か
まどか「――私、どうしたらいいんだろ」ボソッ…
マユリ「フム――」ツカツカ
と、そこでマユリがおもむろにほむらの方へと近寄っていった
ほむら「っ!」バッ
注意深く身構えるほむら
しかしマユリは懐からリモコンのようなものを取り出したかと思うと、素早く何かのボタンを押した
ピッ カチャッ
ほむらの腕を拘束していた装置が外れる
ほむら「なっ!?」シロクロ QB『涅マユリ、何を――』
マユリ「――さて。これでキミには再びチャンスが与えられたわけだ、暁美ほむら
時間を戻して、また最初からやり直すチャンスがネ――」ニヤリ
ほむら「――っ!!」ハッ
まどか「時間を……戻す?」キョトン
ほむら「待ってまどか――!」
QB『――そういえば、キミはまだ彼女から真実を聞かされてないんだったね、まどか
暁美ほむらの魔法は時間停止なんかじゃない、時間の遡行なんだよ――』
ほむら「黙りなさいっ!!」ダッ―
全速でキュゥべえを蹴りつけるほむらだったが、キュゥべえはちょこまかとそれをかわし、言葉を続ける――
QB『彼女はねぇ、まどか――キミを救うために魔法少女になったんだってさ』ヒョイッ ヒョイッ
ほむら「黙れっ――!!」ダッ―
まどか「救う……」
QB『彼女が元いた時間軸で、キミは魔法少女としてワルプルギスと戦い、命を落としたらしい
そこで彼女はボクと契約して、「ワルプルギスの夜との決戦より1ヶ月前に時間を戻す能力」を手に入れたんだ――』ヒョイヒョイ!
まどか「私が……!」
ほむら「どうしてっ!?まどかとのことはさやかたちにしか話して――!」ヒッシ
ほむら(――!!まさかあいつ、まだ杏子の監視を解いてなかったの――!?)ハッ
QB『以降、彼女はずっと戦い続けているんだ。キミを魔法少女――魔女にさせず、かつワルプルギスの夜を倒せる状況を模索しながらね』ヒョイ―
マユリ「いやはや、なんとも自己犠牲に溢れた話じゃないかネ?
この小娘はキミというひとりの人間の為だけに、何度も何度も同じ時間を繰り返し生きてきたのだヨ――」ニヤニヤ
まどか「……今の話は本当なの?ほむらちゃん」
ほむら「まどか……!」(どうしよう……よりによって最悪の形でまどかに真実を知られてしまった……!!)ギリッ…!
まどか「そうだよね…キュゥべえは隠し事はしても、嘘は吐かないんだもんね……
そっか……『同盟の条件が、私に契約させないこと』……そういうことだったんだね」フルフル
ほむら「待ってまどか……!勘違いしないで!
これは私が勝手な自己満足でやってること……今のあなたが気に病む必要はまるでないわ!」ヒッシ
QB『そうそう、彼女の言う通りだよ。それに、彼女の願いと行動の結果として、今のキミにそれほどの素質が芽生えることになったんだしね、鹿目まどか――』キュップイ
まどか・ほむら「――え?」
QB『かねがね疑問ではあったんだ――「何故、鹿目まどかが、魔法少女として、これほど破格の素質を備えているのか」
――その答えがキミだ、暁美ほむら。いや、正しくは君の魔法の副作用――と言うべきかな』
ほむら「な…なにを……!?」
QB『魔法少女としての潜在力はね、背負い込んだ因果の量で決まってくる
君が繰り返してきた時間――その中で循環した因果の全てが、巡り巡って、鹿目まどかに繋がってしまったんだよ』
ほむら「うそ……何を言って……それじゃあまどかは私のせいでっ……!?」ガタガタ…
ゴゴゴゴゴ…!
マユリ「――フン、皮肉なものだネ
鹿目まどかを救おうと努力を繰り返す度に、鹿目まどかは魔女と魔法少女を巡る因果の中へと引きずり込まれていったのだヨ――」カクッ
ネム「マユリ様……ハァ…魔女の攻撃が激しさを増しています……!これ以上…ハァ…守りを維持するのは……!」ハァ…ハァ…
マユリ「ホゥ――おい、佐倉杏子と巴マミはどうなっているかネ?」
QB『ふたりともまだ魔女化はしていないようだね――あ、けどそろそろ限界かな?二人とも魔力が尽きかけているよ』
マユリ「フム……聞いたかネ?暁美ほむら。どうやら今回の時間軸でもキミの望む結末には至らないようだ
――どうしたネ?早く時間を戻し給えヨ――」
ほむら「だって……私が時間を戻す度に……!まどかは……!!」ブルブル…
QB『――この期に及んで暁美ほむらまで絶望させようというのかい?本当に強欲な男だねキミは――』キュップイ
マユリ「私としてはむしろ魔法を使ってもらった方が好都合なんだがネ
以前にも言った通り、時間遡行という能力には非常に興味がある。いったいどんな現象が起きるのか――」
周囲の声が遠くなっていく
眼を固く瞑り、その場に跪くほむら
ほむら(……ここで私が魔女になったら、この時間軸でも間違いなくまどかは助からない……)ドクンッ
ほむら(かといって時間を戻せば……次はさらにまどかの力が…強く……)ドクンッ
ほむら(繰り返せば…それだけまどかの因果が増える。私のやってきたこと、結局……)ドクンッ
不意に、閉じた視界が暗くなった
誰かが前に立っている――
「――もういい。もういいんだよ、ほむらちゃん」
ほむら「まどか……?」ハッ…
見上げるとそこには、優しい微笑みをたたえたまどかが――
まどか「ごめんねほむらちゃん、今までありがとう――」
ほむら「待って…待ってよまどかぁ……そんな……!」ブワァッ…
義魂「鹿目、さん……」
義魂丸が呟いた
本来であれば、勝手にまどかの腕を離したとして激昂してもおかしくはないところだが、マユリは興味深そうに笑いながら黙ってまどかを見ている
まどか「ごめんね、本当にごめん。これまでずっとほむらちゃんが守ってきてくれてたから、今の私があるんだよね――」
ほむら「ダメ…やめてぇ……!」グスンッ
まどか「でもね、ほむらちゃん。やっぱり私だって、ほむらちゃんを守りたいよ
さやかちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも、私の最高のお友達たちを、助けてあげたい――」
ほむら「まどかぁ……!!」ヒック…エッグ…!
まどか「みんな、もう十分すぎるくらい戦ってきたよ。だからもう、いいの
これからは、私がみんなを守って戦う――!!」
そう言って、まどかはほむらに背を向けキュゥべえと向き合う
QB『よくぞ決心してくれたね、まどか
キミなら史上最強の魔法少女になれる――どんな敵からも、キミの大切な人たちを守り抜くことができるだろう』
QB『さあ、鹿目まどか――その魂を代価にして、君は何を願う?』
まどか「――ここにいるみんなを、元の人間の女の子に戻して
今負ってる怪我とか痛みとか、そういうのも全部治して、完全に健康な普通の女の子に戻してあげてっ!!」
ほむら「っ!!まどかっ――!!」
QB『契約は成立だ。君の祈りは、エントロピーを凌駕した
さあ、解き放ってごらん――その新しい力を!』
辺りを光が覆った――
おおおお・・・
744: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 01:43:01.64:vLfxef5P0ーーーー
ほむら「――ここはっ!?」ハッ
気が付くと、ほむらたちは元の公園に戻っていた
魔女の結界は消えている
咄嗟に辺りを見回すと、魔女になったはずのさやかが元の姿で倒れていた
すぐ近くには、マミと杏子の姿も
そして彼女たちからは――いやほむら自身からも、魔力の片鱗が感じられなかった
ほむら「人間に……戻ってる……」ボーゼン…
「――素晴らしいッ!!」
興奮した声がほむらを現実に引き戻す
見ると、これまでに見せたこともないほどいきいきとした表情を浮かべたマユリが、ひとりの少女が相対していた―
ピンク色の髪に、同じくピンクを基調とした衣装
その手には、魔力で構成されたと見える弓が握られている――
ほむら「まどか……っ!?」ペタリ…
マユリ「これほどの霊圧を持つ魔法少女は初めてだッ!!そこに転がっている『元』魔法少女共がゴミのようだヨ――!!」
ネム「これは――!」
義魂「鹿目、さん……!」
ほむら(契約、させてしまった……!)ギュウゥ…!
ほむら(しかも私はもう……魔法少女じゃない)ツー… ポタッ
ほむら(もう時間を、戻せない……)グスンッ
QB『――すごいやまどか、ボクの予想以上だよ!まさかこれほどまでに強大な魔力を発現するとはね――!!』キュップイ!
ほむら(そうだ……かくなる上は、もう一度インキュベーターと契約して――!!)
まどか「大丈夫だよ、ほむらちゃん――」
ほむら「え――?」ハッ
ほむらに背を向けたままの状態で、そう語りかけるまどか
その眼は、マユリをじっと見据えている
まどか「安心して、今度は私がみんなを守るから――」
ほむら「まどか……でも……!」
マミ「ううん……え?ここは――」パチッ
杏子「あっ!……っと、あれ、魔女の結界から出てる……?」ガバッ
さやか「んん~……はっ!?あれ?うそ、あたし、どうして――?」ガバッ
マミ「美樹さん!!」 杏子「さやか!!」 さやか「うへっ!?な、なに……!?」アタフタ
杏子「こいつはいったいどういう――あっ!まどかお前――!?」ハッ
まどか「――みんな、ごめんね。せっかくみんなが私を契約させまいと頑張って、ワルプルギスの夜も倒してくれたのに――」
マミ「……!!
――そう、この状況はそういうことなのね……っ!」フルフル
さやか「ちょ、ちょっと待ってよ!話が全く読めないんだけどっ――」
ほむら「……まどかは、私たちを――」 まどか「ごめん、説明は少し待ってもらってもいい?」
ほむら「まどか…?」
まどか「先に、済ませておきたいことがあるから――」キリッ―
マユリ「最高だヨ鹿目まどか!キミほど素晴らしい魔法少女の個体はおそらく今後出現することはないだろうッ――!!
他の凡百の魔法少女共が霞む位に文句の付けようがない研究材料だヨッ!!」
まどか「――謝ってはくれませんか」
マユリ「ん?」
まどか「みんなを騙して、傷つけて、苦しめたこと。きちんと誠意を込めて、この場でみんなに謝ってください――!」
マユリ「そうすればおとなしく研究に協力してくれるのかネ?そういうことなら――」
まどか「――やっぱり、ダメですよね。あなたは、そういう人だもの――」ボソッ
マユリ「?」
まどか「人の心がわからない、人の痛みがわからない――人のことを、わかろうとすらしていない
だから、どんなにひどい嘘も裏切りも、自分の目的のためなら躊躇わない――!」フルフル…
マユリ「ホゥ――で?」カクッ
まどか「――ごめん、ネムさん、ミモザさん。私、この人だけはどうしても許せないよ――!」
ネム「……!」 義魂「……くっ!」
マユリ「フム、ならばどうするのかネ――と、訊くまでもなかったネ
どうせ素直には捕まらないと予想はしていたし、念の為空間凍結をこの公園に発動しておいて正解だったヨ――」ブンッ―
疋殺地蔵をまどかに向けるマユリ
まどかもまた、マユリに向けて弓を構える
マユリ「ホゥ、弓矢が武器かネ。いやはや、どこぞの下等種を思い出したヨ――」ニヤリ
まどか「――行くよ、涅マユリさん」シュウゥゥゥ…!!
次の瞬間、まどかの手元に矢が生成され弓につがえられた――!
マユリ「――っ!?」バッ―!
咄嗟に飛び退こうと動き始めるマユリ――
――しかしまどかは、既にマユリの避けた地点へと狙いを合わせていた!
マユリ「なっ――!!」
バァアアアァァァーーーンッ!!!
まどかの放った矢の一撃は、轟音と共にマユリを吹き飛ばした
さやか・マミ・杏子・ほむら「――っ!!?」 ネム「マユリ様――!!」 義魂「涅隊長っ――!?」
唖然とする一同
しかし、すぐにネムが反応しまどかを捕えようと動いた――!
ネム「――申し訳ありません、鹿目まどかさん……!!
縛道の七十九『九曜縛』――!!」シュルルルル…!
まどかの周囲に黒い数珠状の霊子が集まり、細く連なってその身体を縛り上げようとする!
しかし――
まどか「――無茶しないで、ネムさん」サッ…
ネム「…っ!?」ゾッ…!
――気が付くと、まどかはネムの背後に立ち、その背に矢を突き付けていた
まどか「魔女の結界の中で、ずっと私たちを守るための技を使ってたから、すごく疲れてるんでしょう?」
ネム「……っ!!」ジワッ…!
冷や汗をたらし、無言で両手を上げるネム
まどかの圧倒的な強さに言葉を失い、ほむらたちも息を飲んでそれを見守っている
杏子「すげぇ……動きがまったく見えなかった……!」
さやか「まどかっ……!?」
マミ「これが、鹿目さんの魔法少女としての力……本当に規格外ね……!」
ほむら「……っ!待ってまどか!まだよっ――!!」ハッ
土煙の向こうに、ふらりと立ち上がる人影が――
マユリ「――図に乗るなヨ小娘ェェェッ!!!」
一同「!!?」
まどか「……すごいですね。手加減はしたけど、そんなになってもまだ立ち上がれるなんて――」
見るとマユリは左肩を吹き飛ばされ、左の脇腹から腰にかけても大きく抉り取られていた
荒く息を吐きながら、激昂した様子で口を開く
マユリ「ハァ…ハァ…魔法少女風情が…ハァ…ふざけてくれるッ……!
――いいだろうッ!!ならばこちらも相応の力で相手してやろうじゃないかッ……!!」ギロリッ!
フハハハハハハッッ!!!
ふらつきながらも狂ったように高笑いをあげるマユリ
ほむらたちは怯えたように、ネムと義魂丸は焦燥した様子でマユリを見つめている
キュゥべえは興味深そうに、まどかは毅然とした表情のまま、マユリの次の動きに注目する――
マユリ「―― 卍 解 」
ゾォオオォォォォーーー……!!
まどか「……!!」
さすがに驚きを隠せないのか、目を見開いて出現した『ソレ』を見上げるまどか
『ソレ』を見るのが二度目のほむらたちも、背筋に走る怖気は抑えられない
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」
マユリ「――『金色疋殺地蔵』……ッ!!」ハァ…ハァ…!
QB『へぇ、これはすごいね。もはや刀剣としての常識を遥かに超えた――えっ!?』
感心した様子で金色の巨体を見上げていたキュゥべえの目の前に、赤子の巨大な掌が迫る――
QB『ちょっ、待っ、ボクがここに――』ブチィッ!
キュゥべえごと地面に手をついて、体勢を整える金色疋殺地蔵
その口元からは、毒々しい紫色の煙が濃霧のように漏れ出している――
マユリ「――これで、キミの命運は尽きたヨ?」ニヤリ
杏子「…っ!やべぇ、早くこっから逃げねぇと――!!」バッ
さやか「ひいぃっ……!!」ガクガクブルブル
マミ「鹿目さんっ!あなたも早く――!」
ほむら「逃げてまどかっ!そいつは猛毒を――」
まどか「みんな、私の後ろにいて――」
マミ・杏子・さやか・ほむら「えっ……?」
まどか「言ったでしょ?みんな、私が守るって――」ニコッ!
次の瞬間、まどかの全身から桃色の淡い光が溢れ出し、ベールのようにほむらたちを包み込んだ!
ネム「なっ……!?」 義魂「あの光は……毒霧を弾いている!?」
さやか「なに…?この光……まどか?」
ほむら「まどかが私たちを、守ってくれてる――」
マユリ「ホゥッ!!そんなこともできるのかネッ?さすがは史上最強の魔法少女というだけのことはあるッ……!!」ハァ…ハァ…!
QB『きゅっぷい…まどかは『仲間を守りたい』という守護の願いを魔法に変えたからね
それにしてもひどいじゃないか、ボクまで巻き添えにキュブゴホォッ!!?』ゲホッ…バァンッ!
まどか「……!?」
マユリ「生憎、毒の配合など一回ごとに変えるのは私にとって常識でネ
今回の致死毒は感染者自身を毒の塊に変えて爆散させる――原形を留めて死ねるなどと思わないことだヨ?」ハァ…ハァ…
QB『きゅっぷい…けど涅マユリ、魔法少女は毒では死ななキュブグヘェッ!!?』バァンッ!
マユリ「知ってるヨ――だが、そこにいる元魔法少女の屑共は今、鹿目まどかの力で守られている
鹿目まどかが魔力を維持できなくなれば、そいつらはひとたまりもないだろうネッ――!!」ハァ…ハァ…クフフ…!
QB『きゅっぷい…ちょっ…待ってくれ…!ここに張られた結界がまだ機能してるせいで、ボクまでここから外に出られキュブグガハァッ!!?』バァンッ!
ネム「ですがマユリ様……!鹿目まどかは五体満足のまま捕獲した方が……!」
マユリ「身体などただの肉塊にしてしまっても構わんッ!!
ソウルジェムさえ無事なら、後でいくらでも復元できるヨッ――!!」
まどか「――みんなは、私が守る
私の友達は、誰も死なせない。それに――私も死なない!」キリッ
マユリ「ヒャッハッ!!それは結構ッ!!ならばこれで終わりだァッ!!
――行けェェ!!金色――疋殺地蔵ッ!!!」
「おぎゃぁああぁぁぁーーーーーっっっっっ!!!!!」ズバズバズバズバァッ!!
よだれかけが外れ、毒液でぬらぬらとてかった大量の刃が化け物の首から飛び出した
そして狙いをまどかに定めると、大きく口を開けて頭からまどかたちに突っ込む――!!
さやか「うわぁっ!!」 マミ「きゃあっ!!」 杏子「うおっ!!」 ほむら「ひっ…まどかぁぁぁっ!!」
まどか「――これで、お終い」
まどかの手から、一本の矢が放たれた
ワルプルギスの攻撃を正面から受け止めた時と同じように、化け物から見ればあまりに小さ過ぎるその一撃を、自らの額で受け止めようとし――
――金色疋殺地蔵は、たった一本のその矢によって真っ二つに裂けたのだった
ーーーー
ほむら「あ…あぁ……!」ポカーン
自分の見ている光景が信じられなくて一様に呆然とする少女たち
マユリ「がぁ…ハァッ……!クッ……!!」フラ…フラ…
涅マユリの腹部には、ぽっかりと大きな穴が空いていた
ネム「マユリ様……!!」 義魂「く、涅隊長……!?」
まどか「――これでもう、十分でしょう?だから、約束して
もう二度と、私の大切な人たちを傷つけないって――」キリッ
マユリ「クッ…ぐぅぅ……!この……魔法少女めがァァァッ!!」ブンッ―
今にも死にそうな状態でありながらなお、マユリは折れた刀を振り上げると――
――そのまま自らの喉を貫いた
マユリ「ゲホォッ!!」
まどか「わっ!?」
杏子「なっ…!?」
ブシャァァッ!!
次の瞬間、涅マユリの身体が液体となって飛び散った
さやか「ひぇっ…!?」
マミ「な、なんなの……!?」
ほむら(斬りつけたものを液体に変える力……っ!?)
マユリ『やれやれ……全く無駄な時間を過ごしたヨ』
まどか「……逃げるんですか」
マユリ『フン、いい気になるんじゃないヨ……これでキミが隊長格をも圧倒する力を持つ危険因子だということが判明した
……どの道、護廷十三隊はキミを放ってはおかないだろうネ』
ほむら「なっ……まどかが死神側から敵として見做されるということ!?」
杏子「ちょっ…そんなのおかしいだろ!?だって元はと言えばてめぇが――!!」
マユリ『諦めることだネ……キミはインキュベーターの目論見通り魔法少女になった…ヤツらがこの星での勧誘を終えれば、もう魔女は増えない……
私の人口シードもない以上、最終的にキミを待つものは魔女化、そしてすべての破滅だヨ……!!』
マユリ『キミの大切なモノたちとやらを――キミ自身の手で破壊し尽くすがいいッ……!!』
そう言い捨てて、液体となったマユリは公園から完全に姿を消したのだった
ほむら「まどか……そんな……まどかが……あぁ……!!」フラリ…
まどか「!!ほむらちゃん――!」
緊張の糸が解けたのか、はたまた精神が限界に至ったのか、そこでほむらの意識は途絶えた――
ーーーー
見滝原市・病院
白いベッドの上で、ほむらは目を覚ました
ほむら「――また、やり直し……っ!?」ガバッ!
小机の上に置いてあるデジタル時計
今日の日付は、意識を失った日の3日後となっていた――
朦朧としていた意識が一気に覚醒する
ほむら「違う……私はもう、魔法少女じゃない……!!」ガクガク
ほむら「どうしよう……!結局まどかは魔法少女になってしまった……!
しかも、私のせいでっ……私があの死神を信用したせいで、まどかはっ……!!」ブワァッ…
ほむら「ごめんっ……ごめんねまどかっ……!!」ウッ、ウッ…!
コン、コン
病室のドアをノックする音
ほむら「……まどか?」グスン…
ほむら(それとも他のみんなかしら……でも、どちらにせよ、今はみんなに合わせる顔がないわ……)
コン、コン
ほむら(……もう少し、ひとりでいたい)
コンコンコン!
男の声1「――しましょ――まだ―意識―――出直しま――」
ほむら(……?知らない声ね……医者かしら?)
男の声2「いや――ですし―――早いとこお話を――」
ほむら(もう一人いるのね……どうしよう、やっぱり返事した方がいいのかしら……?)
コン、コン、コン!
ほむら「……どうぞ」
男1「あ、はいっ!失礼しますっ――」ガラガラガラガラ…
ほむら「…っ!?」ガタッ
思わず身構えるほむら
入ってきたのは、背の低い青年だった――おどおどとした表情で、窺うようにほむらの方を見ている
白衣を着ていたが、しかし医者や看護師の類では断じてありえなかった
何故なら彼は、白衣の下に死覇装を着ていたのだから――
ほむら「し、しにがみ――!!」キッ!
男1「ひぃぃ!ご、ごめんなさいっ!」バッ
ほむら「……え?」キョトン
男1「あ、あ、あのっ……暁美ほむらさん、ですよね?えーっと、その……元・魔法少女の?」オドオド
ほむら(なに?こいつ、本当に死神…?)「――まず自分から素性を明かすべきじゃないかしら?」ファサァ
男1「あ、はいっ!すみませんでしたっ!
僕はえーと、技術開発局霊波計測研究所所属の、壷府リンと言います……」オズオズ
ほむら「技術開発……!やはり涅マユリの手の者ね……!!」ギロッ!
リン「ひえぇ…そ、そんなに睨まないでくださいぃ……!」ガクブル
ほむら(調子狂うわね…それとも油断させようとして?)「――で?要件はなに?」ツン
リン「あ、はい…えーと……!」アタフタ
リン「……えー、この度の魔法少女に関する一連の案件につきまして……!
尸魂界の協力者として活動してくださいました暁美ほむらさんに対しての、えと、事後処理についての説明に、ま、参りましたっ……!」
ほむら「……ねぇ」
リン「は、はいっ!?」ビクゥッ!
ほむら「あなたの他に誰か来てないのかしら?さっき外でもう一人声がしてたけれど――」(こいつが相手じゃ埒が明かないわ……)
リン「えっ!?あ、はい…来ていただいていることはいるんですが……その……
……一応尸魂界に関する案件ですので、まずは僕の方から説明した方が……」オドオド
ほむら「……そう、だったらさっさと――」イライライライラ…
男2「まぁまぁ壷府サン、そちらサンもそう言ってくれてることですし、ここはアタシが……」
そう言って入って来たのは、しかし死神ではなさそうだった
緑と白の縞柄帽子を目深に被り、全身も緑を基調とした和風の出で立ちで固めている
足元は下駄、そして右手にはシンプルながら洒落たデザインの杖を携えている
ほむら「……あなたは?」ウサンクサゲ
男2「アッハッハ、こりゃ失礼しましたぁ!アタシの名前は浦原喜助、しがない駄菓子屋の店主ッス」
ほむら「駄菓子屋……?」
リン「あ、えーとその、なんでも浦原さんは昔尸魂界で――」浦原「なぁに、ちょいとばかし死神サンたちと縁のある者ッスよ~」
ほむら「――死神ではないの?」
浦原「ええ、とりあえず今は――ね」フッ…
ほむら(得体の知れない男だわ――)「どうやらあなたの方が口が回りそうね。あなたから説明してもらえるかしら?」
リン「あ……はい、あの、それじゃ……!」
浦原「了解いたしました~。そんじゃアタシの方から、まずは暁美サンが意識を失ってから後の、尸魂界の決定事項についてお話しいたしましょうか――」
ほむら「……!」(まどかは、どう判断されたの――!?)
浦原「――結論から言いましょう。魔法少女に関しては、今後尸魂界では『協力体制を敷きこれを援助すること』――と決定されました」
ほむら「……協力?」ポカン
浦原「ハイ、そうッス。魔法少女は、尸魂界から正式にその存在を認められたんスよ――」
ほむら(うそ!?それじゃまどかは無事――いえ、まだ信用しきれないわ!)「――詳しく説明してちょうだい」
浦原「ハイハイ、順を追って説明していきます~
まず、本来であれば霊的領域の存在ではない魔法少女や魔女について、何故霊的秩序の番人である死神が受け持つのかという話なんですが――」
浦原「どうも調査結果によると、魔女や魔法少女だけでなく魔女によって襲われた人間までもが、死んでも輪廻の過程に戻ることができないようなんス」
ほむら「……どういうこと?」ホム?
浦原「普通、現世で亡くなった人は、その死に方に関係なく皆霊体となって尸魂界に送られます
たまに未練があって現世に留まり続ける方もいますが、そういう魂魄は死神が魂葬しますしね」
浦原「例外は虚――魂魄を喰らう悪霊に殺された場合ぐらいでして、そういった場合の犠牲者は魂魄が“消滅”してしまうんス
これについても死神の管轄下にあるので問題なかったんですがね――」
ほむら「――実は虚だけでなく、魔女の犠牲者も魂を食われてしまうということ?」
浦原「ご名答ッス、暁美サン。直接魔女に襲われたり、あるいは魔女の力で自殺に追い込まれた人でさえも、その魂は消滅し輪廻に還ることがないんスよ
そうなってくると、『魂魄のバランスを保ち世界の安定を維持する』のが目的である死神側としても、重い腰を上げなきゃならないってワケッスね~」
浦原「けれど、魔女はあくまで物的領域の存在である上に死神は虚の相手だけで手一杯
そうそう魔女退治にまで人手を割く余裕はありません。そこで――」
ほむら「――魔女退治を、正式に魔法少女へ専属依頼したいということね」
浦原「さすが暁美サン、ウワサ通り呑み込みが早ッスね~。余計な説明が省けてありがたいッス」バッ パタパタ
おだてるようにそう言いながら扇子を開く浦原
その飄々とした雰囲気に調子を狂わされそうになりながらも、ほむらはクールな鉄の仮面を繕って先を促す
ほむら「――けど、魔法少女だってみんながみんな正義感に燃えているとは限らないわ
使い魔をわざと放置して、魔女に成長するまで泳がせておくような輩だっているもの」
浦原「勿論承知してますよ~。そのための“援助”なんスからね
――使い魔を一匹仕留める度に、尸魂界から恩賞として人口シードを幾つかプレゼントするのはどうかって話が出てるみたいッスね」
ほむら「人工シードを……!?」
浦原「ハイ。使い魔を倒すことに見返りがないなら、見返りを用意してあげればいいんじゃないかって発想ッスね~」
ほむら「でも、どうやって使い魔を倒したと証明させるつもり?
自己申告制にしたら人工シード目当てに嘘を吐くかも――」
浦原「最初にその地区担当の死神がその街に住む魔法少女に魔女探知機を渡しておくんスよ
探知機には魔力の抽出機能をつけておいて、使い魔と接触したらその魔力データが接触記録として入力され、仕留めれば討伐記録が残る仕組みに現在調整中らしいッス」
ほむら「そうしたら今度は魔女を倒す魔法少女がいなくなるんじゃないかしら?
魔女は危険性が高いし、使い魔だけを倒して報酬が得られるならそれでいいって考えの輩が現れるかも……」
浦原「暁美サンもご存じのとおり、人工シードの濁り吸収量は本物のそれに比べてずっと少ないですからね~
あると安心な応急アイテムって感じの品ですし、それだけで魔法少女として生計が立てられるとは思えませんよ」パタパタ
ほむら「……よく考えられているのね」ホムゥ…
浦原「そりゃまあ、護廷十三隊も永いこと霊的領域の秩序を守ってきたベテラン組織ッスからね~
――ところで、あなたが一番知りたいであろう鹿目まどかサンについては聞かなくていいんスか?」パタッ!
ほむら「……!」ハッ
浦原「まぁ恐らくあなたも心配していたでしょうが、案の定尸魂界でも鹿目サンのことを危険視する意見が出ましてね
何せ限定解除していなかったとはいえ、卍解を発動した隊長格を圧倒してしまったんスから、当然と言えば当然ッス――」
ほむら「でもっ……!」
浦原「けどご安心ください、最終的にその件は不問に付されましたから~」バッ
ほむら「!!」
浦原「鹿目サン自身に死神と交戦する意志がないことや、鹿目サンの類稀な魔力の才が今後の魔女根絶の為には得難い戦力であることが認められましてね~」
ほむら「――意外、だわ。護廷十三隊って、もっと厳格な組織かと思ってたけれど……」
浦原「いやはや、時期がよかったこともありますしね~」パタパタ
ほむら「時期?」
浦原「ハイ!実は尸魂界の方でもこの間まではちょっと大きなゴタゴタを抱えてたんですがね
それの解決に、やはり正規の死神でない方や特殊な人間の方々が尽力して下さいまして。おかげで尸魂界も少しずつ方針を変え始めてきたってワケッスよ」
ほむら「そう、なの……じゃあ、その“特殊な人間”にも感謝しないといけないのかしらね……」ファサァ
浦原「あー、それと蛇足かもしれませんが一応ご報告をしときますね~
十二番隊隊長・涅マユリにつきましても、この度の騒動の責任と功績を秤にかけた結果、お咎めなしということになったようッス」
ほむら「……っ!?」ガタッ
リン「ひっ!」ビクッ
浦原「まぁ、あの人は知っての通りエキセントリックな方でして、皆さんにも色々とご迷惑をおかけしたと思いますが……
それでも現時点での魔女及び魔法少女研究の第一人者ですし、今後の魔法少女との協力体制においても重要な存在ですからね~」
ほむら「でもっ――!」
浦原「それにあの人は今、魔法少女を元の人間に戻す研究を始めたようですしね」
ほむら「っ!?」シロクロ
浦原「ははぁ、さては暁美サン、てっきり涅サンは魔法少女に非協力的な態度をとるだろうと思ってたんスね?
けど、これに関しては十三隊全体の意向であると同時に、涅サン自身の意思でもあるんスよ」
ほむら「うそ……だってあの男が、自分を圧倒したまどかのために何かするなんて……!」
浦原「彼は気分屋ですが曲がりなりにも組織の責任者ですから、上の決定に背いてまで意地を通したりはしませんよ」
リン「そ、それに……」オズオズ
ほむら「え?」
リン「ひぁっ!そ、その…局長はプライドの高い方ですが、それよりなにより実験と研究が大好きなんです
ですから、ご自分の理解できない現象や仕組みを見つけたら、解明するまでとことん力を注ぎ込んじゃいます!」
ほむら「……」
浦原「アッハッハ!流石は壷府サン、現役局員の意見は実感がこもってるッスね~!
けど、アタシも同意見ッスよ。恐らくあの人は、意地でも魔法少女を元に戻す方法を見つけるつもりでしょうね――」
浦原「知ってます?なんと涅サン、ご自分の身体と疋殺地蔵に僅かに付着していた残留霊子から、鹿目サンの霊波構成をほぼ炙り出したらしいッスよ」
ほむら「! そんなことが……!?」アゼン
浦原「ね?なんとも執念深い方でしょ。この執念深さが研究意欲の方に発揮されれば、今の尸魂界にあの人を超える科学者はいません」
ほむら「……妙に尸魂界に詳しいのね、しがない駄菓子屋の癖に」ジッ…
浦原「いやぁ、それほどでもないッスよ~。ネタを明かせば、アタシも在野の研究者だってだけの話ッスから」
ほむら「在野の研究者?尸魂界に関する事案の?」キョトン
浦原「ハイ、実は今も尸魂界から協力要請が来てましてね~
――現世にある私の研究室で、インキュベーターについて調べさせてもらってます」
ほむら「インキュベーターですって!?」ガタッ
リン「うわっ!ちょっ、落ち着いてくださいぃ……!」アワアワ
浦原「涅サンが注目したのは、インキュベーターが契約の際に漏らす『エントロピーを凌駕した』というフレーズ……
実際、鹿目サンは契約の際に行われるなんらかのエネルギー変換法則に基づいて、皆さんを見事普通の人間に戻していますしね」
ほむら「つまりまどかを――魔法少女を元に戻す方法を見つける鍵は、インキュベーターにあるってことね?」
浦原「とはいえ、インキュベーターは霊子変換が出来ない為尸魂界に連れて行って調べることができません
なんで、チャチなものとはいえこっちに研究機器を多少持っているアタシに、現世においてインキュベーターを調査するよう依頼が来てるんスよ」
ほむら「……そう。なら、まどかが元の人間に戻れるかは、涅マユリとあなたの手にかかっている――ということね」ファサァ
浦原「ま、そういうことッス~。生憎アタシは涅サンから好かれてないみたいなんスけど、一応魔女に関する資料とかはこっちにも回してもらってますしね
他にも念話通信機ですとか、いらなくなった研究用の道具なんかも少し譲ってもらいましたよ。いや~、頭を下げてみるもんスね~」パタパタ
ほむら(この男……なんだかんだであの死神の扱いに慣れてるみたいだけど、本当にどういう関係なのかしら……)
浦原「あーそれと勿論、鹿目サンを魔女にしてしまっては元も子もありませんから、今後も人工シードの支給は勿論、改良にも力を入れていくみたいッス」
ほむら「――なるほどね。大体の話は把握したわ
とりあえず、差し当たってはまどかに対して不利な流れにはなっていないようね……」ホッ…
リン「はいっ!……あの、本当に大事な方なんですね、鹿目さんはあなたにとって……!
ご、ごめんなさいっ……僕が謝るのも変かもしれませんが、局長のせいで皆さんがひどい目に遭われたと……!」ペコリッ!
ほむら「……!」
リン「あっ!そ、それに副局長――涅副隊長からも、謝罪の意を伝えておくよう頼まれてました――!」
ほむら「……涅ネムから?」
リン「はい……他の皆さんには直接謝られたそうですが、意識を失っていた暁美さんにだけは隊務の都合もあって謝罪することができなかったと――!」
ほむら「……そう、他のみんなには謝ってたのね。よかったわ、特にマミはすごくショックを受けていたから――」
ほむら「――あなたも、上司があんな男じゃ色々大変でしょうね」フフ…
リン「いっ!?いえっ、そそそんなことは……!!」アタフタ
ほむら「ありがとう。あの男を許す気持ちには今はまだなれないけど、とりあえずあなたと涅ネムの謝罪は受け取っておくわ」ファサァ
リン「……!は、はいっ!」ペコリッ!
浦原「――さて!うまい具合に和やかな雰囲気になったところで、アタシたちはそろそろお暇するとしましょうかね~」パタパタ
ほむら「あら、そうなの?」
浦原「ハイ、落ち着いてお話をする為に簡単な人除けの結界をこの病室に施してますんで、あんま長居出来ないんスよ
あーでも、アタシももうしばらくはこの街で魔女について色々調べてみますんで、もしなんかありましたらこちらの番号へおかけ下さい~」つ メモ
ほむら「わかったわ――多分これからも、まどかに関することで何か意見を仰ぐこともあると思うけれど、その時はよろしく頼むわね」
浦原「お任せください~!そんじゃ、アタシらはこれで失礼させて頂きます
まだ病み上がりですし、あんまし無理しないようにした方がいいッスよ~」パタパタ
リン「あ、それじゃあ暁美ほむらさんっ!僕も失礼しますっ!」ペコリッ!
そう言い添えて、病室を後にする浦原とリン
ほむら「……ふぅ」ホムゥ…
二人が出て行った後、ほむらは深く息を吐いた
長らく抱え続けてきた重荷が、ようやく少しだけ軽くなった気がする
ほむら「まどか……とりあえず、あなたを取り巻く状況は悪くないみたい……」
ほむら「……魔力を失った私は、またあなたにとって足手まといにしかならなくなってしまったけど、それでも――」
と、そこで人が来る気配がした
どうやら今度こそ医者のようだった
ーーーー
翌日―
見滝原市・病院
昨日、目を覚ましたほむらは検査を受けた結果、単に疲れが溜まっていただけだろうと判断された
実際彼女はワルプルギスとの決戦までは勿論のこと、その後もマユリの研究素材になるという代償の件が気がかりで、精神的に休まる時がほとんどなかったのだ
まどかが魔法少女になりマユリを撃退したところで、ほむらの緊張の糸はぷつりと切れてしまったのであった
念の為昨日はもう一泊病院で過ごし、今日無事に退院に至ったほむら
看護師「それじゃあ暁美さん、お大事にしてくださいね」ニコッ!
ほむら「はい、お世話になりました」ペコリ
そう頭を下げて、ほむらは病院を後にする
「お、出てきた出てきた~」
病院を出たところで、ほむらのよく知る声が聞こえてきた
杏子「――ったく、散々ひとりで色々背負い込んで、結局最後にはバタンキューかよ。だらしねーやつ」ニィ
さやか「もぉ、心配したんだからねー?なんたってあんたはあたしの第二の嫁になるんだから!」ニヤニヤ
マミ「でも、大事に至らなくて本当によかったわ。これからは何でも抱え込まずに、ちゃんと友達に相談するのよ?」ニッコリ
ほむら「あなたたち……!」ハッ
まどか「――ほむらちゃん」
ほむら「まどか……!」
まどか「ごめんね、ほむらちゃん……私、契約しちゃった
ほむらちゃんが一生懸命、私を魔法少女にさせない為に頑張ってきてくれたのに……怒ってるよね?」ショボン…
ほむら「……!」
ほむら「……顔をあげて、まどか」
まどか「でもっ――」
ダキッ!
ほむら「謝らなければいけないのは私の方よ――あなたに、いえあなたたちみんなに」ギュウゥ…
まどか「ほむらちゃん――」
ほむら「自分では、あなたたちを仲間だと――友達だと思って一緒に戦ってきた
けど私は結局、心の底ではあなたたちのことを頼り切ることができなかったんだわ――」ナデナデ
まどか「……うん」
ほむら「もしあなたたちの誰かが、今回みたいにひとりで何かを解決しようとしてたら、多分私も放ってはおかなかった
あなたたちがそうしてくれたように、手を差し伸べに行くだろうって、ようやく気付いた――」フルフル…
まどか「……うん、そうだね」ナデナデ
ほむら「だから、ごめんなさい!仲間だ友達だって言って、結局みんなに迷惑をかけることになってしまって……!
せっかくワルプルギスの夜を倒したのに、あなたを魔法少女にさせてしまってっ……!!」フルフル…!
まどか「……ほむらちゃん、私、魔法少女になったこと、後悔してないよ」ナデナデ
まどか「確かにちゃんとみんなに相談してほしかったけど、最終的にこうしてみんな無事でいられたんだし、そのことはもういいの」
まどか「だからねほむらちゃん、もう、悩んだり苦しんだりするのはおしまい」ポンッ!
まどか「ほむらちゃんがずっと探し続けてきたこれから先の時間を、みんなでいっぱい楽しもう!」ニコッ!
ほむら「……まどかぁ」ボロボロ
さやか「あーあーまた泣いちゃって。クールなほむらちゃんの設定はすっかりなかったことになっちゃったのかしらね~?」ヨシヨシ
杏子「ほら、泣くのはもういいだろ?これからは楽しいことだけ考えて生きてけって!ほら、笑えよ!」コノコノ
ほむら「ちょ、杏子……口角を引っ張り上げるのはやめ……!」アタフタ
マミ「ふふふ、それじゃ、行きましょうか。暁美さんの退院祝いに、ケーキでも食べに行かない?
実はケーキのおいしい喫茶店を見つけたの――」ニコニコ
さやか「おっ、それいいですねー!」
杏子「よっしほむらの奢りなー」
ほむら「なっ…どうして私の退院祝いなのに……!?」ホムッ!?
さやか「あれあれ~?『結局みんなに迷惑をかけることになってしまって……!』っていう言葉に誠意はこもってなかったのかな~?」
ほむら「うっ…」ホムゥ…
まどか「もぉ、みんなダメだよ、ほむらちゃんをいじめたら!」
アハハハ…
ほむら(これですべてが解決したわけじゃない……)
ほむら(結局まどかは魔法少女になってしまったし、まどかを元に戻す方法もまだわからないまま……見つかるのかすら定かではないわ)
ほむら(けれど私はもう、足踏みなんてしない)
ほむら(もしかしたらもう一度キュゥべえと契約すれば、再び時間を戻せるかもしれないけれど……)
ほむら(……ううん、やっぱりそれはしないでおくわ)
ほむら(私はこれからみんなと……大切な友達たちと一緒に、過去ではなく未来を生きていく!)
杏子「おっ!なんだありゃ?」
ほむら「へ…!?」
杏子の声にほむらが顔を上げる
杏子が指さす先には、真新しいがこじんまりした店屋が建っていた
さやか「んーと…『駄菓子の浦原商店・見滝原支店』?」
ほむら「浦原商店…!?」
杏子「へー駄菓子屋かぁ!珍しいなぁ今時!」
マミ「新しくできたみたいね。いわゆるレトロブームっていうやつかしら?」
まどか「私、駄菓子屋さん見るの初めてかも……」
杏子「おっしゃ!そんじゃ試しに入ってみようぜ!」
さやか「えー、ちょっとー!これからケーキ食べに行くってのにー?」
マミ「ふふ、まぁいいじゃない美樹さん?私もちょっと興味あるし、ね
暁美さんも入ってみない?」
ほむら「え?いや、ていうかあの店――」
「おやっ、いらっしゃ~い暁美サン」バッ パタパタ
ほむら「……やっぱり」ホムゥ…
さやか「えっ?なになに、ほむらの知り合い?」
ほむら「……私というより死神の、ね
現世で魔法少女と魔女について研究してくれてる在野の科学者だそうよ――」
まどか「えっ!?そうなんですか!?」
浦原「えぇ、まぁ。尤も表の顔は少し影のある一介のハンサムエロ店主ッスけどね~」パタパタ
マミ「はぁ……?」コンワク
ほむら「――それより支店て、いったいどういうこと?」
浦原「いやね、なんせこの街は魔女にとっての重霊地――いわば魔女の吹き溜まりみたいな場所ですから」
さやか「ひどい言われようですね……」
浦原「アッハッハ、こりゃ失礼しました~。で、まぁそんなわけですし、すぐ近くに魔法少女のサポートセンターみたいなものを設置した方がいいかと思いましてね~」
マミ「サポートセンター……駄菓子屋さんが、ですか……?」
浦原「ですから~、これはあくまで“表向き”の商売ッスよ~
技術開発局やアタシの研究室の方で何か魔法少女向けの便利グッズを開発したら、こちらで取り扱わせてもらう予定ッス」パタパタ
まどか「本当ですか!?すごく助かります!」
杏子「なぁおっちゃん!ほむらの退院祝いになんか奢ってくれよ!」ニィッ!
浦原「お、おっちゃんって……アタシそんなに老けて見えますかねぇ~……」アハハ…
さやか「そーだよ杏子!しかも図々しすぎ!」
杏子「いーじゃねーか駄菓子の一個や二個、サービス悪い店は長続きしねーぞ?」
まどか「きょ、杏子ちゃん……!」
浦原「いや~参りましたね~。そんじゃ、お好きな駄菓子を三つ選んで持ってってください」パタパタ
杏子「さっすが若店長、気前がいいねー!」
マミ「でも、申し訳ないです――」
浦原「気にしないでください~。皆サンは今後のお得意サンたちですし、開店記念サービスってことで」ヒラヒラ
ほむら「けど、あなたこの街に長居はしないのでしょう?支店て書いてあるし、店の管理は誰に任せるの?」
浦原「ご安心ください~。新装開店に合わせて、フレッシュな看板娘を雇うことにしましたんで――」
さやか「看板娘?」
浦原が店の方へと視線を移すと、奥からひとりの女性――否、少女がおずおずと姿を現した
歳は高校生ぐらいで、セーラー服の上に『浦原商店』と書かれたエプロンを着ている
浦原「――暁美さんにはちらっと話しましたよね?『いらなくなった研究用の道具なんかも少し譲ってもらいました』って。その時一緒に引き取ったんス――」
ほむら「……引き取って?」
浦原「なんでも、『情に流されたり口答えしたりをしない、より高性能なものを創るんだヨ』とか仰って、廃棄しようとしてらしたんでね
そのまま廃棄されちゃうのも勿体無いんで、頭を下げてどうにか譲ってもらったんスよ」
さやか「……!それって――!?」
浦原「生憎ウチに余ってた義骸が一つしかなかったんで、あんな身体に入ってもらってますがね~
ちょうどこの支店を誰かに任せようと思ってましたし、どうせなら可愛らしいお嬢サンの方が店が華やぎますから――」バッ
まどか「……!!ひょっとして……っ!!」パァッ!
驚きと喜びが混ざり合ったような表情を浮かべて、恐る恐る言葉を発するまどか
少女は恥ずかしげに視線を逸らしていたが、やがてまどかたちの方を向くと、穏やかな、それでいてはっきりとした声で言った――
「――お久しぶりです、鹿目まどかさん」ニコッ―
まどか「――ミモザさんっ!!」ダッ―
はにかむように微笑む彼女に向かって、まどかは一目散に駆け寄った
ーーーー
どこか遠くの街―
『助けて――!』
少女「だれ!?だれなの――!?」ハァ…ハァ…!
我等は姿無きが故にそれを畏れ――
少女「ハァ…ハァ……あっ!!」
QB『助けて、ボクはここに……!』グッタリ…
少女「ひどい怪我……!あなたが私を呼んだの……!?」
無き故に敬う――
QB『はやく……ここからボクを連れて逃げ――!』
「いい加減鬼ごっこは止めにしないかネ――?」
QB『きゅっぷい!?』ビクゥッ!
少女「…っ!な、なにっ……!?」ヒィッ!
「ホゥ、もしやキミは魔法少女候補かネ?」カクッ
少女「なっ…魔法少女……!?」コンワク
「……マユリ様、魔法少女及び魔法少女候補に対しては」
「うるさいヨ、そんなことは百も承知だ。ただ、駄目元で一応の確認を取るぐらいは構わんだろう――?
少女「……いったいなんなのよ!?あ、あなたいったい――」
マユリ「お前もうるさいヨ。今の我々の目的はこの地区のインキュベーターの捕獲だ
――とはいえ、ちょうどいい機会だネ。ひとつ、聞いておくとしよう――」
少女「な、なに……?」フアンゲ
かくて、刃は振り下ろされる――
マユリ「どうだネ小娘、私のもとで研究体として働く気はないかネ?」
BLEACH・SS『Magical Chemical Mayuri★Magica』 ~Fin~
長らくお付き合いありがとうございました!これにて連載終了です!
828:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:17:02.39:uyTCaQts0
超乙!!!!
834:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:17:27.54:wvFQvlfPO
寝れないくらい面白かった!乙!
837:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:17:57.31:ybk+Mf+E0
すごかった!ようやく寝れる。これからもがんばって!
838:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:18:01.45:EBPblNLE0
おつかれさまでした!
849:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:19:09.94:04Q/SMGY0
乙!!
面白かった!
855: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:20:16.80:WrhrV5tUO面白かった!
こんなに好意的に受け取っていただけるとは…感無量です!
まどかキャラがいたぶられたり、マユリ様がいたぶられたりと不快な思いをしたか方もいるでしょうが、何卒ご容赦ください…
864:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:23:09.99:QfwGQBlh0まどかキャラがいたぶられたり、マユリ様がいたぶられたりと不快な思いをしたか方もいるでしょうが、何卒ご容赦ください…
乙
ブリーチ読み返すかなー
865:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:23:16.62:fvrcxfzX0ブリーチ読み返すかなー
なぜマユリ様とまどかでクロスしようと思ったのか聞いてみたいとこだな
871: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:25:23.86:WrhrV5tUO876: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:28:24.75:WrhrV5tUO
BLEACHでも特にマユリ様が大好きなんで、クロス物で違和感なく動かせる自信があるのはやっぱこの人だけかと思い主役にしました
結果的に十二番隊関係者以外の人はちょい役にしか使えませんでした、他隊のファンの方すみません
877: 忍法帖【Lv=33,xxxPT】 :2011/09/22(木) 02:29:13.02:xYdwL14U0結果的に十二番隊関係者以外の人はちょい役にしか使えませんでした、他隊のファンの方すみません
激しく乙
883:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:31:26.96:IwJoyXxp0
ブレないマユリ様のロクデナシぶりに作者の愛を感じた
885:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:32:00.83:kvxUUViH0
>>883
ろくでなしじゃなくて外道
902:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:39:36.11:48rdDTtg0ろくでなしじゃなくて外道
ヨン様がキュウベエと組んでも面白い気がする。
4「いつからわたしとまどかを錯覚していた?」
ほむら「そんな…うああああああ!」
906: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:44:59.04:WrhrV5tUO4「いつからわたしとまどかを錯覚していた?」
ほむら「そんな…うああああああ!」
>>902
ぶっちゃけ藍染一味とまどかキャラの絡みにもちょっと興味はある
あと完全に余談だけどギャグみたいなBAD ENDも一瞬考えてた
すぐ捨てたけど
909:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:48:23.05:BxBrljTG0ぶっちゃけ藍染一味とまどかキャラの絡みにもちょっと興味はある
あと完全に余談だけどギャグみたいなBAD ENDも一瞬考えてた
すぐ捨てたけど
>>906
いますぐ打ち込むんだ
もうひとつの結末を!
917: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 03:01:33.33:WrhrV5tUOいますぐ打ち込むんだ
もうひとつの結末を!
>>909
プロット段階で捨てちゃったからなぁ
まどかが契約する直前に時間遡行を発動したほむらが、また繰り返すことを嘆きながらも病室のベッドで目覚めると、目の前にザエルアポロが立ってたってギャグBAD END
こん時はまだ時系列を藍染撃破後って決めてなかったら一瞬思いついた
ザエルさん書いててあんま面白くなさそうだから止めたけど
911:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 02:50:23.89:1VBXn98h0プロット段階で捨てちゃったからなぁ
まどかが契約する直前に時間遡行を発動したほむらが、また繰り返すことを嘆きながらも病室のベッドで目覚めると、目の前にザエルアポロが立ってたってギャグBAD END
こん時はまだ時系列を藍染撃破後って決めてなかったら一瞬思いついた
ザエルさん書いててあんま面白くなさそうだから止めたけど
>>906
いつでも次回作に期待してるわ
また出会えたらいいな
901: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 02:39:14.29:WrhrV5tUOいつでも次回作に期待してるわ
また出会えたらいいな
実は当初の予定だとワルプルギス無事に倒して終わりだったんだけど、それじゃマユリ様主役なのに勿体無いと杏子vsマユリ二戦目を書いてて思った
なんでさやかのデートパートは途中で考えました
腕を治すイベントは初めから入れるつもりだったんでそこにうまく噛ませました
921: ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 03:12:01.90:WrhrV5tUOなんでさやかのデートパートは途中で考えました
腕を治すイベントは初めから入れるつもりだったんでそこにうまく噛ませました
ここらでよく>>2とか>>3に貼られる『長くなりましたがこのSSは終了です』みたいなコピペを誰かが貼ってくれると綺麗に締まるんだが…
922: 仕方ねぇから自分で貼る ◆fRP8xo8mkY :2011/09/22(木) 03:17:06.47:WrhrV5tUO
長くなりましたがこのSSはこれで終わりです。
ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいま した!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです (正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、 これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じていま す。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸 れたのか、それは人それぞれだと思います。 少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちに なってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にあり がとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお 願いします! ではこれにて。
923:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 03:18:21.12:jnSjKMyT0ここまで支援、保守をしてくれた方々本当にありがとうごさいま した!
パート化に至らずこのスレで完結できたのは皆さんのおかげです (正直ぎりぎりでした(汗)
今読み返すと、中盤での伏線引きやエロシーンにおける表現等、 これまでの自分の作品の中では一番の出来だったと感じていま す。
皆さんがこのSSを読み何を思い、何を考え、どのような感情に浸 れたのか、それは人それぞれだと思います。 少しでもこのSSを読んで「自分もがんばろう!」という気持ちに なってくれた方がいれば嬉しいです。
長編となりましたが、ここまでお付き合い頂き本当に本当にあり がとうございました。
またいつかスレを立てることがあれば、その時はまたよろしくお 願いします! ではこれにて。
明日朝早いのに寝不足になったらどうしてくれる
>>1こそ真の外道だわ
927:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 03:40:53.34:I0skb9PHP>>1こそ真の外道だわ
久しぶりに面白いssを読ませてもらった
ありがとう
930:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 04:29:35.07:fF8UzdyO0ありがとう
最高だった!ありがとう!
948:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 09:09:08.07:nCBxvVOy0
違和感なく読めるってのは相当原作を読み込んでるんだろうな・・・
恐ろしい完成度だ
951:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2011/09/22(木) 09:58:11.46:YojDqmw70恐ろしい完成度だ
おいついた
久々に名作だったわ
久々に名作だったわ
コメント 13
コメント一覧 (13)
うまく両作品共立ててあった
さやかが恭介と幸せになって嬉しいですす
マユリ様はやられている姿だろうと彼らしくさえあれば・・・あったから魅力的だったよ
チートな存在が入ったにも関わらず、まどマギの世界観は崩れていないし
そうこうして二転三転、仲良くやって希望があるのも、覆されるのも、読み応えあった!
最初にいい感じに話の中心にいたネムが最後には影が薄くなって
彼女を使って行われそうなドラマが義魂と分け合ってあっさりになったのだけ気になったかな
でも作者乙!
今回はキレイなマユリ様かと安心したらやっぱり外道で吹いたww
ちゃんと両者の設定にのっとってておもしろかった。
すごい綺麗にクロスしてて面白かった