「われわれのとりうるもっとも正当な態度は、理解しうるべきものを理解し、理解しうべからざる事実に対しては、ただ敬虔の念をもって対することである」
――ゲーテ『若きウェルテルの悩み』 (竹山道雄訳、岩波文庫)P.270
「助かりましたよ。サインバルタは肝代謝だから、てっきり透析でも大丈夫だと思っていました! まさか禁忌だったとは」
ケンシロウが頭をかきながら感謝の言葉を繰り返している。糖尿病から透析導入となった患者Sさん。下肢切断後の幻視痛に対し、サインバルタ(一般名デュロキセチン塩酸塩)が処方され、ケンシロウがスルーしたところを僕が最終鑑査で引っ掛けたのだ。
「やっぱり肝消失型※だ。サインバルタのインタビューフォームには、『これらの代謝物はヒトにおける薬効に寄与していないと考えられた』って書いてあるんです。それなのに、高度の腎障害のある患者に禁忌だなんて。この系統の薬で、腎で禁忌って、今までなかったですよね? どうしてですかね?」
※肝消失型……脂溶性薬物が肝で代謝され、胆汁・糞便中に排泄される場合を肝消失型という。代謝とは極性化反応のことであり、肝で代謝されても、代謝産物である水溶性物質が活性を持つ場合、それは腎排泄型と考えるべきである。