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2011年3月 2日 (水)

パーセプション・チェンジはコンテキスト・チェンジである

 広告コミュニケーションの領域で「パーセプション・チェンジ」という言葉が使われていましたが、最近はあまり聞かなくなってきました。パーセプションというのは、日本語で言えば意識とか認識。つまり、パーセプション・チェンジとは、意識や認識を変える、ということ。

 こうして日本語にしてしまえば簡単なことで、要するに、「あっ、こんな商品がある」と人の意識に刻み込むこと。で、その手法はいろいろ。例えば、CMで商品名を連呼したり、とにかく露出を高めたり、人気タレントを起用したりしても、パーセプション・チェンジはできますし、ネットでいえば、バナーやリスティングの集中出稿でもできます。消極的な意味では、すべての広告はパーセプション・チェンジができます、ということなんですが、積極的な意味では、パーセプション・チェンジは、意識や認知の劇的な転換みたいなニュアンスを持った用語です。

 ではなぜ、最近、パーセプション・チェンジという言葉が使われなくなってきたか。それは、きっと、マス広告が以前ほどの力を持たなくなってきたからでもあるんでしょうね。その一方で、TwitterやFacebookなどのソーシャルメディアが力を持ってきて、広告コミュニケーションの領域でも注目を集め、ソーシャルメディアをどう活用するかに話題の重心が移ってきたからでもあるのでしょう。

 なぜソーシャルメディアに話題の重心が移ると、パーセプション・チェンジという言葉が語られなくなってくるのか。それはもうわかりきった話で、ソーシャルメディアは、パーセプションができた段階ではじめて活用されるべきコミュニケーションの場だからです。ブランドの認識がなければ、人がソーシャルメディア上で能動的に参加するはずもなく、つまりは、ブランド認知ありきの、その先にどうしていくか、というところでの話をしているわけだから、そりゃ、パーセプションの話はでてきませよね。

 でも、そもそもブランド認知がなければ、いくらソーシャルメディアを使ったところで、その先はどうにもならないのは当たり前です。だって、0になにかけても0なんですし。笑い話ではなく「フェイスブックのことを告知する広告」が必要になってしまうんですよね。ソーシャルメディアを活用する、ということは、つまり、パーセプションが前提になっているわけです。そのあたりの見きわめは、こんな時代だからこそ、ほんと大事だと思うんですよね。(このあたりについては「ソーシャルメディアとの距離の取り方」にも書きました。)

 これで話が終わってしまうと、ソーシャルメディアもいいけど、パーセプションをつくることも大事ですよ、それでは、それでは、というつまらない話になってしまいますが、本題はここから。こんな時代の「パーセプション・チェンジ」について書きます。というか、もともと書きたかったのは、こっちのほうです。

 パーセプション・チェンジというからには、チェンジ、つまり変化です。こんな時代、つまり、いろんな場所でいろいろ語られたりして、その多くがネットで可視化され、増幅される世の中だからこそ、変化のあり方が問われるのではないかな、と思うんですね。

 それはつまり、この先、どう語られたいか、が大事ということ。

 コンテキスト、文脈です。どういうコンテキストでそのブランドを認知されるのがよいかを考える、ということです。ただの認知では、もう駄目だと思うんです。これは、言い切っていいと思います。これまで、最初に書いたような、連呼やタレントによる、比較的単純な認知による認知の変化も、パーセプション・チェンジとして語られました。けれども、本当にパーセプションを獲得し、ブランドがきちんと世の中に存在し、この先も、きちんと成長していくためには、単純認知に加えて、適切なコンテキストというものが絶対に必要です。

 コンテキストがなければ、単純認知だけに、認知のドライバーになってる広告が終わればすぐに忘却されます。それは、認知がタレントやブランド名にしか結びついていないので自然な過程です。また、たとえコンテキストがあったとしても、それが適切でなければ、むしろ、そのパーセプション・チェンジは、負のパーセプションとして働いてしまいます。つまり、ブランドにとって不適切に語られ、ブランドの健全な成長を阻害してしまうんですね。

 コンテキストは、ブランドの成長過程によっても変わっていきます。ブランドが次のステップに行こうとするとき、その成長にあわせて新しいコンテキストが必要になってきます。思えば、その新しいコンテキストの獲得に失敗して、あるいは、かつてのコンテキストに縛られて、一過性のブームで終わってしまったり、かつての勢いを失ってしまったブランドを、これまでたくさん見てきました。これからの時代、ソーシャルメディアの興隆に象徴されるように、ブームとして消費されてしまう速度も速くなってきて、終わる速度も、そのぶん速くなっていくでしょうし。

 パーセプションを本当に変えるものは、コンテキストだと思います。英語だから、そのあたりあいまいになっていましたが、これまでにも、あえて、パーセプション・チェンジという言葉を使うとき、その頭の中には、本当はコンテキスト・チェンジがあったんだと思うんですね。Appleも、NIKEも、UNIQLOも、これまでのコンテキストを変えたから、強力なパーセプションができあがったのだろうと思います。そして、これらのブランドは、ソーシャルでも強い。

 また、このコンテキストは、広告だけでなく、広報をはじめとする、あらゆるブランドの活動の根幹をなすものだとも思います。コンテキストがひとつでもぶれると、全体がぶれる。これを逆に言えば、コンテキストさえぶれなければ、そのひとつひとつのコミュニケーションは、コミュニケーションの場によって、その場を支配するモードによって、適切に変わってもいいし、むしろ、変わることが求められる。そんなふうに思います。

 私はスタートがCIなので、ビジュアルやトーンの統一性をかなり意識しつつ仕事をすすめてきたつもりですが、でも、その原則が、じつは現実において最適解ではない、という感覚が私にはずっとありました。その理由が、こういう時代になり、そこにパーセプション、コンテキストという補助線を引くことで、はじめて、明快に理解できたような気がします。

 コミュニケーションは、私たちが頭で思っているよりも、本質的にはもっともっと柔軟で、だからこそ、その柔軟さに耐えられるだけのコンテキストが求められる。きっと、こういうことなんでしょうね。

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コメント

アップルは「シンクディファレント」で変わり続けているイメージ(コンテキスト?)があるのに対し、ユニクロは「安い」というただの形容(コンテキスト?)に思ってます、わたしは。

パーセプションをつくることも大事ですよ、それでは、それでは・・・のとこだけでも十分読み応えがありました。w

投稿: 三茶 | 2011年3月 2日 (水) 13:47

でもまあ、ユニクロが全国展開したとき、衝撃はありましたけどね。ガラッとイメージが変わって、すごいなあ、と思いました。なんか安さにコンテキストがあるというか。

投稿: mb101bold | 2011年3月 2日 (水) 22:08

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