トレインチャンネルが少し変わりましたね
JR東日本の山手線、京浜東北線、中央線などの車内で放映されているデジタルサイネージ放送に、「トレインチャンネル」というものがあります。東京でJRを使って通勤・通学している人は見たことがあるのではないでしょうか。デジタルサイネージと言えば、スーパーや薬局なんかで小さな液晶モニターで情報やテレビCMを流したり、大小含めて様々な取り組みがありますが、この「トレインチャンネル」は、代表的な成功例のひとつではないでしょうか。
現在は、車内の扉上に左右2つの液晶画面があって、一方は放送コンテンツが映し出され、もう一方は、行き先情報や運休情報が流されています。新型車両が導入される前は、今より小さな画面ひとつだけで、放送コンテンツと情報が交互に流される仕組みでした。この「トレインチャンネル」の人気が出たのは、2画面になってからだそうです(参照)。以前、1画面の頃に、この媒体で流す映像広告を作ったことがありますが、その当時は、今ほどの人気はなかったような感じでした。それが今や、数ヶ月先までほぼ満稿。あそこで継続的に広告を出稿したい企業も多いようです。とりわけ、B to B企業やビジネス関連企業に人気があります。新幹線車内広告と傾向はよく似ています。
この2画面体制後に人気が出たという現象は、広告というものの本質をよく表しているような気がします。つまり、広告は本質的にサブコンテンツであるということ。電車の乗客目線で言えば、車内の液晶画面のメインコンテンツは、基本的に、電車に乗っている人に、電車に関する情報をよりよく提供することであって、広告を流すことではないということです。広告を流すために液晶があるというのは、あくまで媒体側の理屈であって、その理屈を押し出しても、乗客にとってはノイズが増えるだけで、そのノイズは、無視という行為によって無化されてしまいます。
そのことは「トレインチャンネル」の放送コンテンツにも言えることであって、その放送コンテンツが広告だらけだったとしたら、やはり、乗客は広告そのものを無視するようになってしまいます。あの「トレインチャンネル」には、人気マンガ「ダーリンは外国人」やニュースをはじめ、さまざまなコンテンツがあり、そのコンテンツと広告の配分が絶妙だったような気がします。
広告は、もちろんテレビCMに字幕をつけたものもありますが、中には広告自体がミニ番組になっているものもありました。昨年のサッポロビールイメージキャラクターである江頭ひなたさんが料理のつくり方を案内する料理番組は、私のまわりでは人気がありましたし、私は「ダーリンは外国人」を毎週楽しみにしていました。その中で流れる広告は、テレビCMよりも記憶に残るような気がして、「いやはや、この媒体すごいもんだよなあ」なんて思ったりもしました。
今月あたりから「ダーリンは外国人」が流れなくなりました。きっと、どこかの週で最終回だったんでしょうね。サッポロビールのコンテンツも、料理のつくり方を教える番組から、都内の居酒屋さんや料理屋さんの一押しメニューを紹介する番組に変わってしまいました。まあ、番組コンテンツをグルメ紹介にして、提携居酒屋さん、料理屋さん支援をしようというのはわからなくもないし、私のような業界関係者はちょっと斜めに見るところがあるから何とも言えませんが、なんとなく気づいたときには、以前ほどあの液晶画面を見なくなってしまっていたんですよね。
そうなると、もう現金なもので、あの中で流れている広告にもあまり注目しなくなっていて、元コンテンツに興味がなくなると、なんとなく広告が多いなあ、ちょっとうっとうしいなあと思えてきたり、ほんと、人間の心理は勝手なもんだなあとあらためて思いました。これは、どんなメディアでも改編期に起こりがちな心理ですから、またキラーコンテンツを生み出して、やっぱりトレインチャンネルってすごいよなあ、となるかもしれませんけどね。
テレビでも新聞でも雑誌でもウェブサイトでも同じですが、コンテンツと広告のバランス関係というのは、難しいものだなあと。じつは、このへんの話、私は広告の基本だったりすると思うんですが、今はちょっとそれがないがしろにされている感じもなきにしもあらずで、そのバランスを崩す一方の勢力が、広告を出す側の広告会社や広告主だったりもして、コンテンツの広告収益はどこかで均衡するはずなんですが、今はあくなき上昇信仰がありますし、でも、どれだけ優良なコンテンツでも、それが際限なく広告収入を生み出しつづけるわけないですから、そのへんのセーブの仕方がこれからは問われてくるような気もします。
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コメント
広告人さん、いつも貴重な気づきをありがとうございます。トレインチャネル、2画面になってから人気というのは、知りませんでした。広告とコンテンツのバランスの話、全く、その通りと思います。先日、みるとくチャネルという、スーパー店頭のサイネージにテスト出稿したのですが、時間の関係でTVCFをそのまま使用したところ、結果はさんざんでした。自分で店頭で1時間くらい眺めてみて、これじゃぁイカンと思いました。「広告だ」と思った瞬間、人間は無意識にスルーしてしまう。だから、その場(メディアを流す場)に合わせたコンテンツを作成しないと、出向者側の自己満足の無駄打ちに終わってしまうと。このあたりのことを感覚的にわかる人とそうでない人とで、今後、広告効果が大きく変わっていくでしょうね。
投稿: マルセリーニョ | 2009年5月 4日 (月) 08:05
マルセリーニョさん、こんにちは。
このへんのコンテンツと広告のバランスは難しいですよね。GyaOがなかなかうまくいかないのも、もしかするとそのへんの関係かなと思ったりします。
きっとコンテンツをユーザが自発的に見ようとするものだと、こういうテレビ放送のような受動性コンテンツの広告モデルは成り立たないような気がします。
なんとなく、広告はコンテンツのスポンサーに見えないと、なかなか受け入れられないかもな、とも思います。あのトレインチャンネルの広告は、うまいかたちであのコンテンツのスポンサー的な見え方をしていたのかな、と。このへんまだまとまっていないですが。
投稿: mb101bold | 2009年5月 4日 (月) 11:30