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2008年9月 6日 (土)

ネーミングこわい

 広告実務のひとつにネーミングがあります。でも、このネーミング作業、見た目よりたいへんです。広告制作者にとっては、ネーミングは寿命の長い成果物でもあるので、やりがいもあるにはありますが、その分、待ち構えている作業工程は多岐に渡るし、そのネーミング如何でそのブランドの運命が決まる感じもあるので、発注を受けたときの気分は、ちょっと重いものがあるのも事実なんですね。

 ネーミングのテクニックは、慣れるとけっこう簡単だったりします。ネットを見てみると、ここがよくまとまっているのでご紹介。わかりやすいですね。そこに出ていた分類は、こんな感じです。

1)プラス造語法(A+B=AB)
2)減量造語法(A+B=ab)
3)変形造語法(A=a)
4)頭文字造語法(アクロニム造語法)
5)並び替え(アナグラム)造語法
6)語呂合わせ造語法
7)その他

 では演習。ある広告人がブログをはじめようとしている。そのブログ名をネーミングする。さて、どうしましょう。プラス造語法でやると、こんな感じ。

アド+ダイアリー=アドダイアリー

 減量造語法では、こんな感じ。

アド+ブログ=アドブロ

 変形造語法では、こうなります。

アドバタイジング=アドジン

 アクロニムでは。

ADVERTIGING+DIARY=ADIA(エイディア)

 アナグラムでは。

アドバタイジング=バドア

 語呂合わせでは。

売ります=ウリマス

 最後のは、ちょっと無理がありますが、語呂合わせは例えば、書く立場になって言えば「カキマス」なんてネーミングをつけがちかもしれませんね。で、そのネーミングがマスコミとかの意味付けをして、とかなんたらかんたら。

 で、ネーミング案ができあがったら、競合調査です。実務では、ここからがたいへん。たいがいはすでに登録されています。弁理士とかに調べてもらったり、専門のデータベースで検索したりして、そのネーミングがブランドの商品類の中で登録されていたら、その時点でアウト。近い商品類でも、実際に有名なネーミングになっていたら避けるのが吉、という感じです。あと、買い取りという手段も考えます。この過程でつまずくとほんとにつらい。もう、投げ出そうかな、という感じになってきます。

 もうひとつの関門もあります。この演習を見て、なんだプロのくせして、しょうもないネーミングだなあ、なんて思いませんでしたか(まあ、演習なので、このネーミングは、実際にあまりクオリティは高くないですが。)

 ここもしんどい。社内の営業とか、お得意の担当者とかがなかなか納得してくれません。揉めます。制作者はバカ扱いになります。こんなネーミングしか出せないのは問題だ、とか、いろいろね。でも、ここがくせもの。ネーミングは、基本的には、この世界ではじめて生み出されるコトバなんですよね。だから、初見では違和感ありあり。逆に違和感のないネーミングは、すでに世の中に存在する、もしくは似た世界観があるネーミングなので違和感がないということで、オリジナリティという意味では劣るんですよね。

 かのNTTドコモ。最初は違和感がすごくありました。Do Communication with a Mobile phoneの頭文字2文字を合わせた、アクロニム手法だということですが、今は慣れてしまいましたが、そもそも「ドコモ」ですよ。あの頃、最後に「モ」が付くネーミングは珍しく、すごくへんな感じがありました。今でこそ、「パスモ」とか最後に「モ」のネーミングはメジャーになっていますが。ドコモは公式には言っていませんが、ドコモの場合は、発想の根幹は「どこもかしこも」のドコモなんでしょうね。で、英語の意味は後付けなんでしょうね。

 私は、根が広告屋だからということもあるのでしょうが、ネーミングは、最初は違和感があるほうが、後々は成長してくれるような気がします。スイカというJR東日本のカードもいい例です。Suitable Cardの略だった気がしますが(追記:Super Urban Intelligent Cardの略とのこと 、思い切って、一見意味がわからないスイカというへんてこな名前をつけるほうがいいような気がします。西日本のICOCA(イコカ)みたいに、「どっかにいこか」みたいな意味がわかるネーミングは、なかなかネーミングとしての記号化が難しいような気がします。ネーミングに、いつまでたっても意味が付着してしまって、純然たる記号として立ち上がってこないんですよね。

 このへん、一頃流行したバルトとかが言っていた「神話作用」だとか「表徴」だとかの受け売りではありますが、なるだけ意味から離脱したネーミングのほうが、長い目で見ればお得なんだ、という気はしています。言葉は、追いつめて行くと、どんどん意味から離れていって、単なる音の組み合わせになっていきますので、言葉の根源的な力を生かすためには、意味から離れるほうがよいというのが持論です。

 海原とか海燕とか海水とかよりも、海という言葉のほうが、根源的な力は強いはずです。「う」という音と「み」という音を連続で発生して、いわゆる海を表すというのは、そこまでいけば、そういう決まりであるというしかなくなってきます。そういう強さというのは、意味の構築ではつくれない強さだと思います。そこには、いつも「わけわからん」ということと背中合わせではあるのですが。

 最近、朝日新聞社の「論座」という月刊誌が終わるというニュースがありましたが、同じ朝日新聞社の週刊誌「AERA」が元気なのと比べると、ネーミングの影響もあるのかもな、と思ったりもします。アエラという音も、一見意味がわからない感じがいいんだろうなという気もします。一方のロンザは、音から意味がわかります。もちろん、これはちょっと暴論気味ですが。ちなみに、「AERA」は、ラテン語で地球の意味だそうです。

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 ネーミング関係の書籍をご紹介しておきます。ネーミングの実務で必携なのは、ネーミング辞典。便利です。英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、ラテン語などの単語が併記されていて、この手の辞典ではいちばん使いやすいと思います。サイズもちいさくて(コンサイスサイズ)おすすめ。続いて、岩永さんはネーミングの第一人者。日立の「からまん棒」とか、今はありませんが「新宿マイシティ」などなど。あと、バルト。なんか懐かしいです。バルトは日本が好きだったんですよね。

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