石破茂首相は11月29日の所信表明演説で「103万円の壁」について「令和7年度税制改正の中で議論し引き上げます」と明言した。合意できる政策をどう作るかを考える。
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政策過程の劣化
まずは長期政権の影響に触れなければならない。第2次安倍晋三政権は、歴代最長の8年弱に及ぶ首相の連続在職日数を記録した。正副官房長官や首相秘書官らに党や霞が関をコントロールできる者を登用し、政府中枢のガバナンスを強化した。その結果、官邸主導の政策過程を構築し、迅速に意思決定を行った。農協改革など反対勢力を抑え成功した事例もあるが、一方で政策過程は劣化した。
第一に、政策の方向が議論する前にほぼ決まっていて、科学的な分析や検討が従来以上に乏しかった。たとえば、新型コロナウイルス感染症対策だ。小中学校の一斉休校、マスクの全国民への配布などは、専門家を交えた議論や関係省庁との事前協議がなく、官邸の一部で場当たり的に決定された結果、混乱が起きた。
第二に、官邸主導によるトップダウンで政策が決定されたことから、合意形成がおろそかになった。これまでは与党内でも多様な意見があったが、それも乏しくなった。あらかじめ決まっていたために、審議会や会議は政策を追認する場となり、多様な意見を聞いて議論するものではなかった。国政選挙で勝ち続けたために、野党の意見などは考慮せず、国会での法案審議も形骸化した。
バラマキ丸のみは国民へのツケ
石破首相自身、野党との合意形成が重要と述べている。その姿勢は評価するが、政府予算案を国会で成立させるために、合理性の乏しい政策やバラマキを丸のみするとか、大幅に譲歩するのであれば、話は違う。
来年夏には…
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