「年収の壁」政策に必要なものとは 税・保険料の一体改革

田中秀明・明治大学公共政策大学院教授
衆院予算委員会で答弁する石破茂首相=国会内で2024年12月11日、平田明浩撮影
衆院予算委員会で答弁する石破茂首相=国会内で2024年12月11日、平田明浩撮影

 先の衆院選で自民党は大敗し、少数与党になった。政府の予算案や法案を成立させるためには野党の協力が不可欠で、自公と国民民主党は政策協議を始めている。焦点の一つが「年収の壁」だ。石破茂首相は、11月29日の所信表明演説で、「103万円の壁については、令和7年度税制改正の中で議論し引き上げます」とした。必要な政策はなにかを考える。

「103万円」は壁なのか

 「年収の壁」にはいくつかあるが、国民民主党が特に主張しているのが所得税の103万円(年収)の壁で、178万円に引き上げることを求めている。

 103万円(基礎控除の48万円と給与所得控除の55万円の合計)を超えると所得税を負担することになる。しかし、たとえば、所得が1万円増えたとしても、所得税率は5%なので新たに負担する所得税は500円に過ぎない(復興特別所得税2.1%の負担もある)。ただし、学生がアルバイトをして103万円を超えて収入を得ると、親の所得税に関して特定扶養控除が適用できなくなるため、親の手取りは減る。

 この課税最低限の水準は、これまでデフレであったことから見直されてこなかったが、最近インフレに転じたことから、負担感が高まっている。この所得控除を物価上昇に応じて引き上げる(10%程度)ことは妥当としても、国民民主党が主張する1995年からの賃金上昇率1.73倍にあわせて引き上げることには合理性はない。

 問題は、こうした所得控除は高所得者ほど、減税の恩恵を受けることだ(所得控除に税率をかけた金額が控除されるため、税率が高いと、金額も大きくなる)。

 また、…

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明治大学公共政策大学院教授

 1960年生まれ。85年大蔵省(現財務省)入省。オーストラリア国立大学客員研究員、一橋大学経済研究所准教授、内閣府参事官などを経て、2012年より現職。専門は財政・ガバナンス論。著書に「官僚たちの冬 霞が関復活の処方箋」など。