不動産関係の仕事をしているNさん(60)は2人兄弟の次男だ。父は典型的な亭主関白タイプで、Nさんが幼いころから、兄弟は長男が第一、次男はおまけ扱いだった。Nさんは父を避けるようにして育ち、社会人となって家を出てからは、親子関係も疎遠になっていた。
兄弟は「長男が優先」
その父が亡くなった。Nさんの脳裏には、かつての父の姿がよみがえってきた。
父は家でいつも威張っており、ストレスがたまると家族に当たり散らしていた。時には手を挙げることもあり、母の泣く姿をよく目にしたものだ。気に入らなければ「ちゃぶ台をひっくり返す」ような昭和の父親像だった。
たった2人の兄弟だというのに、何につけても「跡継ぎ」となる長男の兄が優先だった。兄の進学の際には、父は学校選びにあれこれ口を出し、晴れて合格すると大変な喜びようだった。だが、Nさんの受験となると、父は全く関心を示さなかった。
Nさんは自然と父の目を避けるようになり、早く家を出ることばかりを考えて育った。家のことは、長男の兄にすべて任せたつもりだった。
父の相続手続きについても、きっと兄がなんとかするのだろうと思っていたが、しばらくして兄から連絡があった。「相続財産の評価や税務についてはさっぱりわからない。お前は詳しいようだから、協力してくれないか」という。
確かにNさんは仕事柄、財産評価などについては専門知識がある。相続手続きは初めての経験だが、快く引き受けることにした。
予想と異なる遺言書の中身
父の相続財産は、自宅の土地・建物に加えて、預貯金や有価証券などがある程度ありそうだったが、母に聞いても皆目わからなかった。母は、父から月々の…
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