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86歳父が余命2カ月「バタバタ相続対策」撤回の理由

広田龍介・税理士
 
 

 東京都内に住むAさん(58)の父親(86)が最近、がんで余命2カ月の診断を受けた。Aさんは突然のことに驚いた。

相続対策本で「やるべきこと」を整理

 中小企業経営者だった父親は10年前に胃がんの手術を受けた。その後の経過は良好だったが、最近になり精密検査を受けたところ、脾臓(ひぞう)への転移がわかった。医師からは余命2カ月と告げられた。

 Aさんは長男で父の会社を引き継いでいる。きょうだいは妹(54)だけで、母親(82)は認知症で施設に入居している。

 父親はこれまで相続対策を手つかずにしてきた。Aさんは妹と相談し、今からできる相続対策を考えることにした。

 兄妹は相続対策の書籍を購入し、相続知識ややるべきことを整理してみた。

 まず、父親の相続財産明細を作り、相続税額を試算し、納税資金の捻出方法を確認する。

 税制では相続人の税負担に配慮した特例や控除がある。その適用を受けるには、遺産分割の方法を考える必要がある。

 よく使われるのが小規模宅地等の特例だ。亡くなった人が住んでいたり、事業をしていたり、貸し付けていたりする土地について、一定要件を満たす人が相続すると相続税評価額を最大8割減にできる。

 相続税の配偶者控除もある。配偶者が相続した財産が1億6000万円までか、配偶者の法定相続分までは、相続税はかからない。

 さらに贈与税の配偶者控除がある。婚姻期間20年以上の夫婦間で、マイホームやその購入資金の贈与があった場合、最高2000万円までは贈与税がかからない。

 余剰資金があるのなら、不動産を購入したり、相続人以外の孫らへの生前贈与をしたりして、相続税評価額を減らす手法もある。

相続…

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税理士

1952年、福島県いわき市生まれ。85年税理士登録。東京・赤坂で広田龍介税理士事務所を開設。法人・個人の確定申告、相続税申告、不動産の有効活用などを中心に幅広くコンサルティング活動を続けている。相続税に関する講演やセミナーも開催している。