マンガLOG収蔵庫

時折マンガの話をします。

日本初のエロアニメを知っていますか

タイトルから推察できるように、今日の話はエロ寄りです。
先を読み進める際はご注意ください。


殆どあらゆる文化活動において、「エロ」は少なからぬ領域を占めています。書店へ行けば官能小説は大量に刊行されていますし、絵画でも春画というものがあります。音楽でも「猥歌」というものがありますね。やはり人間の根源的な欲求故でしょうか。
アニメについても同様です。18禁のOVAとかは大量に存在しますし、TV放映されている作品でも「これは大丈夫なのかな?」と思わせるような内容のものが多々ありますね。(^ω^)


さてそういうエロアニメというのは、いつ頃からあるのか。
世界初とされるポルノアニメが制作されたのは1928年です。



(閲覧注意!)


この作品はザイーガさんでも紹介されたことがあるので、知っている方も多いかもしれませんね。かなり突き抜けた内容になっているのは、さすがはアメリカだなと思わせます。


では現在のアニメ大国・日本において、エロアニメが最初に制作されたのはいつ頃でしょうか?
いきなり答えを言ってしまうと、1932(昭和7)年です。
タイトルは『すゞみ舟』。


残念ながらこの作品、現存するかどうかも定かではありません。(ノД`)
そして『すゞみ舟』については、長谷川卓也『いとしのブルーフィルム』で言及されています。



本の題名から判るように、『すゞみ舟』はブルーフィルムです。
ブルーフィルムというのは、簡単に説明すると無許可で撮影されたポルノ映画です。
秘密裡に撮影され、秘密裡に公開される。見つかると御用、更にはフィルム押収。
マンガだと、『こち亀』で一度ブルーフィルムの話がありましたね。内容が判らないまま映写を始めて、それを見ていた中川が「おばさんがセーラー服着てますよ・・・」と言っているのを記憶している方もおられるのでは、と。『こち亀』以外だと、『まんだら屋の良太』で時折ブルーフィルムの話がありましたね。


以下、『いとしのブルーフィルム』を引用しつつ、『すゞみ舟』の話をしようかと思います。


この作品がどのような内容かと言いますと、

江戸時代の隅田川、その川開きの夜を背景に主従二組の"大股開き"を描いたもの。

(95ページ)


とのことです。数あるブルーフィルムでも非常に高い評価を得ている作品らしく、100万円出しても欲しいという人までいるそうです。著者の長谷川卓也氏も、

純日本情緒を漂わせ、ほのかなユーモアをまじえた作者の浮世絵タッチの構想は、みごとであった。

(96ページ)


と評しています。またこれは非常に眉唾ものではありますが、ウォルト・ディズニーが来日した際に密かに『すゞみ舟』を観て絶賛した、という噂まであるそうです。これは都市伝説の類だとは思うのですが、この作品の完成度の高さを示唆するエピソードだと思います。


因みにこの作品、作者は未だに確定していません。*1
『いとしのブルーフィルム』では、「ある画家」とのみ表記されています。その方が自分で描き溜めた原画をもとに35ミリフィルムに1コマずつ撮影していったらしい。上映時間は約10分、原画枚数は15000枚を超えたであろうと推測されています。*2完成には3年という時間を要したそうです。


3年もの期間をかけ、たった一人で完成させた、日本初のエロアニメ。
そして完成直後にそれが発覚、御用となってしまったそうです。
原版も押収。しかし16ミリに縮写したプリントが辛くも当局の手を逃れヤミに流出、そのコピーも数本出回ったようです。


このエピソードを読むとき考えてしまうのが、作者の心境はどのようなものだったのかということです。
治安維持法というものが制定され、国家に都合の良くないものは次々と弾圧されていった、きな臭い時代です。
戦争に向けてまっしぐらに進んでいたその時期に、誰の手も借りずこつこつとエロアニメを制作し続けていた訳ですよね。見つかったら即御用であることも充分承知していた筈です。
それでも作らずにはいられなかった、ということなのだろうかと考えたりすると、複雑な思いに囚われます。


現在も規制がどうこうと不穏な空気が流れていますが、当時はエロを作るのも観るのも命懸けだった訳ですよね。
今は恵まれているのかもしれませんね。今後どういう方向に向かうかは判りませんけど。


それにしても、『すゞみ舟』観てみたいなぁ。
YouTube なりニコニコ動画なりにアップされないかな。歴史的にも非常に貴重な資料だと思うのですよね。


『アニメ「評論家」宣言』等の著書もある、藤津亮太さんのブログ記事です。
僕の駄文とは異なり、『すゞみ舟』作者についての詳細な論考も展開されています。興味のある方は必読。


アニメ「評論家」宣言

アニメ「評論家」宣言

*1:木村白山という方が有力らしいです。先行記事参照。

*2:単純計算で1秒24コマだとすると、24×600で14400枚となります。当然この時期にリミテッドアニメーションという発想がある訳もなく・・・。