その時、芸人たちは何を語ったか。

震災以後、テレビは各局地震情報などの報道特番が流れる中、いち早く芸人たちの声を届けけたメディアはやはりラジオでした。
芸人でなくても、こんな時にマイクの前に立つということは、大きな覚悟と勇気が必要です。
自分たちの一言一言が思わぬ人を傷つけてしまう可能性もあることを誰よりも自覚せざるを負えない立場にいます。
そして「不謹慎」という強大な見えない敵と戦わなければなりません。
ラジオに出演した芸人たちは、言葉をひとつひとつ丁寧に言葉を選びつつも、確かに笑いを届けてくれました。それは「不謹慎」という同調圧力に決して屈しない大きな笑いの力でした。それに僕らは確かに救われたのです。だから、彼らが何を語り、どう振舞ったのかを記憶にとどめておくために記録に残しておきたいと思います。

サンドウィッチマン

震災当時、気仙沼で被災したサンドウィッチマンは今回の震災後、芸人の中において大きな役割を果すことに。
いち早くTV出演を果たし、「被害状況の報道よりも避難所を写して!」「報道されていない所で(茨城北部等)孤立している場所はまだまだある」「テレビの力を救助に使って」「自衛隊や消防など世界中から助けに来てくれた皆さんありがとうございます」「マスコミのヘリもついでに何か物資を運ぶなどしてください」などと呼びかけ、以後の硬直化した報道の流れを少し変えることに。


そして3月18日。
急遽、『オールナイトニッポン』のパーソナリティに抜擢される。
『ANN』出演は著書『敗者復活』でも富澤の夢の一つだと語られている番組で、皮肉にもこんな形で夢が実現することになった。
OPからショートコントで始まるサンドウィッチマンらしい構成。
富澤が適度に小ボケを入れて「少しでも被災地の皆さんが前向きになるような放送に」と流れた一曲目は50TA(狩野英孝)。
「濡れタオルで口を塞いでレインコートで避難して下さい、っていう専門家がいたんだよ。水がねえのにどうやって濡らすんだよ!何も分かってねえんだよ」などと真面目な話をしたかと思えば、富澤が「二人で同じ経験をして、あれだけお前が喋ったら喋ることない。二ヶ国語放送のようなことは二度としたくない」などと笑いを挟むバランス感覚は絶妙。
リスナーの「元々この日のパーソナリティだったAKB48は?」いじりや「ショートコントやって」の繰り返し、最後、エンディングもまた50TA。「ノコギリガール」をバックにラストはとんねるず風味に。

富澤: 俺たちは強いぞ!大丈夫!
二人: 寝ろ!

伊集院光

TBSラジオ「JUNK」勢は3月14日からの一週間はお休み。その代わりに各パーソナリティが冒頭の数分だけメッセージを寄せるというスタイルに。


その口火を切ったのは月曜日の伊集院(おそらくこの時間を貰えるように交渉したのも伊集院だと思われる)。
伊集院は被災者へのお見舞いの言葉を送った後、「個人的にしゃべることを仕事にしている者として葛藤もあります」とその心境を真摯に語る。「こんな時こそ馬鹿な話を聴きたいという声に心が……揺さぶられました」

考えて考えて真っ黒いことしか浮かばなくなったときは、くだらないことを考えてください。ビックリするくらいくだらないことを(略)。そういうくだらないことで笑える時が来ることを祈ってます。


そして3月21日。
「まー難しいよね」と始まった通常放送。

くだらない話を欲してる人がいると思ってやってるので。
少しでも被害に遭われた人に笑顔が戻れば、って言うけど、俺は少し違っててね、そう信じてなきゃ、俺、やってらんねえんだよねってところに。
笑いを与えるなんて思ってない、でも、しゃべらせて欲しい。くだらないことを言わせて欲しい。で、この俺のくだらない話を必要だって思ってくれる人がいると信じないと、その無力感でどうしようもなくなっちゃうんで。なので、くだらないことを言うラジオです。

という宣言通りのくだらない内容と、ピエール瀧や宇多丸、山里亮太らのリクエスト曲をかけるという内容。

爆笑問題

お久しブリーフ、岡本夏生です。

といつもの太田光で始まったメッセージ。
「一段落したらねぇ、私がみんなに奢りますんで」と太田。

ただね、みんな悩むだろうけどね、僕は何もできないって無力感を感じる人いるけど、そのことをずーっと1人で、あー、なんにも出来ねぇなって考えてることも、またそれはそれでその時できることなんじゃないかなって、俺は思ったりして、こういう事があると人間の営みとか、人間のいいとこも、あるいは愚かだなって思うとこも、地球は怖いなって思ったり、地球は優しいなって思ったり、色んなこと考えるじゃないですか。そういうことへの恐れというかね、畏怖っていう部分を感じつつまた営みを続けてくってことが……、俺はそれしかできねぇんじゃねぇかって思うんだよね、人間って。

と、太田らしい独白で締める。

山里亮太

普段は下ネタばかり書いてくるリスナーの真面目なメッセージを「こんなちゃんとしっかりした文書けるんですね」と紹介し、こんな時だからこそ笑える放送が必要だというリスナーの意見に「ホントにそう思います」と。

でも、恥ずかしい話、あのぉ……、凄いですね、、、え〜、ビビってます、ええ。もうオドオドしちゃってます。
     (略)
すいませんが教えて頂きたいですっ!
教えて下さい! どんな話をしたらいいか。リスナーに助けられっぱなしのパーソナリティーですけど、来週までに面白い話を一杯出来るように考えてきます。頑張ります。頑張ってください!

山ちゃんらしい愚直なまでの涙の訴え。


そして通常放送では、ビビりすぎて泣いてしまっていたことを反省。先輩の伊集院や太田のアドバイスに従って品川の「悪口(笑)」を展開。沖縄のリスナーとのエピソードなどを語っていた。

おぎやはぎ

矢作: 僕たちはねぇ、楽観的な人間ですから。

「僕から言わせてもらえば、絶対に大丈夫です」と「根拠はない」と言いつつ、何故か説得力のある矢作理論で語るおぎやはぎ。「最終的にはいい感じになる」と。

矢作: そろそろ面白いのが欲しい人、まだ要らない人、いると思いますが、僕のタイミングで行きます。
小木: 矢作が決めたときはね、それがちょうどいい時なんでしょうねえ。
矢作: 小木がそう言ってくれるんだったら心強いよ(笑)。今みたいのを真似して欲しいですね。
小木: こういうときこそ「おぎやはぎ精神」ですよ。

どこまでもおぎやはぎらしいマイペースなメッセージ。力は抜けているけど、ものすごく力強いメッセージ。

バナナマン

他のパーソナリティ同様、現状を説明、被災地に思いを馳せた後、設楽のリクエストという形で曲をかける。
THE BLUE HEARTSの『君のため』。

設楽: TBSではですね、この後、まあ地震とかね、この災害の情報を流しますけども、裏でサンドウィッチマンがラジオやってるそうなんで。それ聴きたい人はそっち聴いて下さい!

と、裏の『オールナイトニッポン』の告知で締める設楽。熱いっ!
ちなみに、それを生放送中にリスナーのメールで知ったサンドウィッチマン。富澤は「これはちょっとやばい……」と言葉をつまらせる。伊達は一瞬の沈黙の後「マン一族ね! ……バナナマン、サンドウィッチマン、冷蔵庫マン!」

ナインティナイン

「ガンバ!」というどなりでスタートした『オールナイトニッポン』。

岡村: 皆で話し合いまして普通にやろうや、と。我々みたいなチンピラコメディアンには何も出来ることはないんですけど、少しでも笑顔になれるように。

という言葉通りの内容に。
1曲目はこういう大変なときに必ず流れる渡辺美里「マイレボリューション」。
ハガキもいつも通り消化し、いつものように「スタッフに買い占め犯が二人いる」とスタッフいじりを始める。それが冤罪だと分かると、響で謝罪する岡村。
そしてエンディング。

岡村: え〜ほんとに我々、一応お笑いのプロとしてですね、皆さんにまた、笑って頂けるように頑張りたいと思いますけども。え〜、これ以上面白くなることは残念ながらありません!
矢部: はっはっは!
岡村: 我々に関して、特にナインテナインに関して言いますと、これ以上面白くなることはもうないでしょう! 残念なお知らせですけども。
矢部: これもうびっくりする程、面白くならないですよ! 変わらないですよ。
岡村: こんな事を言わなくて良かったですけども、言うてしまいましたけどもー。
矢部: いや言わなくていいですよぉ、そんな弱点、致命傷ですよ! 我々お笑いのプロでって言うといて。
岡村: そうなんですよ、お笑いのプロなんですけど、これ以上伸びない!
矢部: これ以上期待するなってことでしょ?(笑)
岡村: そうです、これ以上、期待するな! もちろん嘘みたいにスベる時もあります。それがナインティナインだ、しょうがない!
矢部: まあまあまあまあ、、、
岡村: ナインティナインのテレビを見て、ラジオを聴いて呆気にとられる事もあるだろう!
矢部: はっはっはっは! すげーカミングアウトやなぁ、そんなん言ったお笑いさんいないでしょうね(笑)。
岡村: 我々は、これ以上、面白くなることは、皆無です!

そして、バックに流れるのは特別なときしか流れないホブルディーズ「月夜の星空」。

オードリー

番組冒頭、新作の漫才を披露するオードリー。
「オードリーを好きな人に向けて」放送すると決めたら、漫才から始めるというふうに決めたという若林。
漫才のネタ合わせのために若林宅に集まった話や、Twitter上で話題になった「春日作戦」に触れたりと、本当にいつもの仲良し馬鹿話。

春日: 春日は笑いを取ることしか出来ない。不器用で嫌になる。

番組中には、若林のあの歌声で収録されたウルフルズの「ええねん!」や春日ノリノリの「CHA-LA HEAD-CHA-LA」が流れる。
そして、エンディング。
若林は「立ってりゃなんとかなる。ここにいりゃなんとかなる」という春日の言葉を紹介し、「お前一番カッコいいカード切ってるぞ!」と笑いあう二人。

若林: 絶対大丈夫です、頑張りましょう、オードリー若林でしたぁ!
春日: この後また、夢で“かならず”お会い致しましょう。また来週、アディオス!

マキタスポーツ

マキタスポーツは大根仁の『Dig』や水道橋博士の『キラ☆キラ』に出演して歌ネタを披露。
特にマキタ自身の息子たちが歌う「学童賛歌3.11ver.」と大根仁リクエストで披露された奥田民生のカバー「CUSTOM」震災バージョン(最後の歌詞を主な被災地に変えたもの)は、涙を流さずにはいられない強さを持っていた。
Twitter上でもマキタスポーツ自身が「現地に届かせたい。まだまだ拡散希望」とリンクしてるのでこちらでも紹介。

ラジオ以外でも

他にも数多くの芸人さんたちが、マイクの前に立ち、懸命に自分たちのできることをされていました。僕が聴き逃した物、まだ録音したままで聴いてないものもあります。(後で追記するかもしれません。)
もちろん、ラジオやテレビに出演しなくても彼ららしい大きな役割を果たした芸人もたくさんいます。


例えば、江頭2:50は風評被害で支援物資が届きにくいいわき市に自らトラックに乗り、ノーカメラでそれを届けたといいます。しかも

「本人はとても恥ずかしがり屋だからコメントを出す予定はない」

ってカッコ良すぎる! 
他にも今田耕司がチャリティーイベントを主催したり、ロンブー淳がチャリティーで集めた物資を自ら被災地に届けたりなどなど、多くの芸人さんたちがボランティアに参加していました。


あるいは、ダチョウ倶楽部は本人の知らぬ間に「どうぞ、どうぞ」のウエシマ作戦が広まり、本人たちは何もしてないのに大きな貢献をするという実に「らしい」感じに。

「どうぞどうぞ」のネタも寺門とリーダーがいて、3人でやるから出来るネタです。こういう時こそ皆で協力して、譲り合う事が大切ですよね。

と殊勝のコメントを発表。有吉などの「オメーはなんにもやってないだろっ!」というツッコミが聞こえてきそうです。


また、レイザーラモンRGは、その地震発生の日行うはずだった「あるあるオールナイト」を彷彿とさせる「あるある」ツイートを深夜になると連日発表。そのしょうもなさとくだらなさのクオリティと圧倒的な量は、芸人界広しといえども類を見ないもの。
その中でも珠玉のひとつ「『限界』あるある」を紹介してこの頁を綴じたいと思います。

自分で限界決めがちだが限界はもっと先にありがち♪